香川大学農学部学術報告 寛29巻貨61号135∼140,1977 135
ハマチ養殖における窒素負荷について
井 上 裕 雄,原 田 政 隆
ONTHENITROGENLOADCAUSED BYTHE YELLOWTAILCULTURE
HirooINOUE and Masataka HARADA
Itisthe purpose ofthis paper to assess the nitrogenloadcaused by yellowtailculture to
the environment・The nitrogenload could be estimated on the basisof nitrogen budget,
uslngthe data concernlnggrOWth rate,food supplyrate and kind of food.
The fundamentalequation of nitrogen budget maybe represented as follows:
ダ∬=エ∬一十ん, ん=G.Ⅳ十P∬+ぴガ
,Where Fistherate of food supply,Lthe rate of foodlossin the time of supply,Zthe
rate offoodintake,Gthe rate of storein body,P the rate of fecalpellet excretion,and U
the rate ofurine etal.excretion. Suffix Nindicates nitrogen.
Totalnitrogenload,tO Whichthe urine etal.contributedlargely,WaShighestin Septem−
ber andlowestinJanuary,Showing a fair・ylarge seasonalvariation.0−year−01d andl−year−
01d ye1lowtailwere assessed togive the totalnitrogenloads of O.28andl.5g/day・kg,
respectively,in September,and O.15and o.29g/day・kg,reSpeCtively,inJanuary.
養殖技術・管理などが比較的良好な養殖場を対象に.して,成長速度,餌料給与速度,餌料の種類,水温に関する現場 資料を使用し,窒素収支法により,ハマチ養殖に.おける窒素負荷速度を推興した. 総窒素負荷速度ほ季節,場所によってかなり変る.単位体盈当りでは,0才魚でもっとも大きいのは6月で平均2.8 gノday・kg,小さいのは1月で平均0.15gノday・kgであった.同様紅,1才魚でもっとも大きいのは.7(一9月で平均 1..5g/day・kg,小さいのは1月で平均0.29g/day・kgであった. 給窒素負荷速度に対サーる尿などによる窒素負荷速度の割合がもっとも大きく(0才魚:64∼89%,1才魚:86∼88%), 次いで給与時の逸散による窒素負荷速度の割合(0才魚:8∼30%,1才魚:7∼8%),糞による窒素負荷速度の割合 はもっとも小さかった(0才魚:4∼7%,1才魚:5∼6%). Ⅰま え が き ハマチ儀殖は給餌養殖で,それにともなう残餌,排泄物などが環境汚染をひきおこし,いわゆる漁場老化の−・因とな っている.汚染負荷の評価はこのような自家汚染機構の解明の算」・歩として不可欠である.今回,ハマチ養殖に.よる汚 染負荷を窒素を指標として推算した. ⅠⅠ方法と資料 (ⅠⅠ−・1)窒素負荷の推算法 ハマチ儀殖に.おける給餌に.ともなう窒菜の流れは次のように.書ける. ダⅣ=エ.Ⅳ十J.Ⅳ J.\=G\+P\十(7\・
井 上 裕 雄,原 田 政 隆 香川大学農学部学術報曽 136 ダ:給与速度,エ:給与時における扱失速度(残餌,懸濁態,溶存態として損失する部分にわけられる),J:板取速 度,G:魚体内への貯留速度,P:糞としての排泄速度,ぴ:尿と鯉・体表などからの排泄速度,α:摂取率(=イ/ダ), d:糞としての排泄率(=タ/∫),¢:消化率(=1−d).なお,添字Ⅳは窒素に.関することを示している. 給与された窒素(ダ.Ⅳ)はハマチに.貯留された窒素(GⅣ)として取り上げられる以外ほ海域への負荷となる.この海 域への負荷はムⅣ′,P〃,ぴ∼よりなる. さて,摂取率α∬・(=∫ルソダ∬)は飼料の大きさ,種類,鮮度などの餌料要因,養殖魚の大きさ,健康度などの生理的 状態(水質環境によって影響をうけることが多い)といった養殖魚要因,収容・給餌方式などの技術要因など拡大いに. 依存する. 現場紅おけるα几の決定は困難である.和歌山県,高知県の雨水産試験場が1.0∼1.5mさ水槽でノ、マチへの給餌に.とも なう窒素収支実験を試みている.この場合,1日1回給餌で,給餌に.は十分注意がはらわれた.これらの資料から,1日 当りに補正換算して再整理したものを表1紅まとめた.きわめて摂餌状況の惑かったW−−3,W−4のテストを除外し 衷1 ハマチ給餌水槽実験における窒素収支(単位:g/day・kg);1.0∼1.5mさ永槽,1日1回給餌 (和歌山県,高知県水産試験場資料(5)(9)から再整理)
窒素貯 留速度
餌 料 ミンチ餌 切 り 餅 切 り 餅 切 り 餌 丸 餌 丸 餌 イカナ・ゴ イカナゴ サ ンマ イ ワ シ イカナゴ イカナゴ で考えなければならないであろう.魚体遥20∼30gではα〝箋0.74∼0.91(平均0.83)とみなせる.現場では業者はハ マチの摂餌状況を見ながら注意深く給与していること,および魚体蔓が小さい時期紅は餌料をミ.ソチ,砕片に.して給与 するため逸散が大きいことなどを考慮しなければならない・0才魚では以上の検討せ経て,αⅣ紅ついてほ6月上旬 0.79,12月下旬0.93としてその間は適宜按分し,1月以後および1才魚では0.93と推定した. 消化率¢Ⅳに関してはいくつかの研究がある.ハマチは強いタンパク消化酵素を有し,生肉を餌とした時の消化率は 高いが,魚粉のような乾燥タンパクの消化率ほ着じるしく低いといわれ,また,餌料中のタンパク含有率のわずかな減 少により,タンパク消化率は急激に低下するようである. 能勢がまとめたデータによると,ノ、マチのタンパク消化率はイカナ・ゴ,生ア汐でそれぞれ0.98,0.91という結果が示 されている(7).他方,表1に.示す水槽実験の結果に.よれば,摂取速度に.対する発としての排泄速度の比dⅣ(=1一 軒)ほ,摂餌状況の悪かったW−3,W−4を除けば,0.04∼d.06に凝固している. これらの知見を基礎に,養殖場では,通常,生餌または冷凍飴を給与していることを考慮して,血=0.05と見積っ た. ぴ.Ⅴほ尿と紙・体表を通しての排泄物の合計で,′.Ⅴ,P.Ⅴ,G。Ⅴが決まれば求まる. (ⅠⅠ−2)資 料 前述したように,給与速度,成長速度,および飼料とハマチの窒素含有率を知ればハマチ養殖による窒素負荷速度を 推算し得る. 養殖技術・管理などが比餃的良好で,しかも成長速度,餌料給与速度,餌料の藤類,水温紅関して十分信顔のおけ る現場資料が存在する養殖場を対象とした.和歌山県白浜近畿大学養殖場(1),香川県女木島養殖場,長崎県若松養殖 場(8),の3養殖場である. 白浜養殖場の資料はいずれも古賀浦湾内に密かれた一・辺3.6m,深さ2.4mの四角形禍生層で養殖されたものである.欝却巻第61号(1977) ハマチ養殖における窒素負荷 137 は面横約12・6×104m2,平均水深約4m,コンクリ−・トパイルを支柱とする禍仕切式潮流々通塾養殖場である.収容 数は0才魚約20万尾である・若松養殖場の資料は6月中旬から7月下旬まで牲劇辺3.2m,探さ3.2mの四角形桐生質 で,8月上旬以後は一週4・5mの八角形鋼生梵で養殖されたものである.0才魚収容数は6月中旬から7月下旬までは 約0.3∼0.5万尾,8月上旬以後は約0.3万尾であった. 魚体蛋の測定は10′叫・■15日間隔でおこ.なわれていたので,この間隔での平均値として,成長速度,餌料給与速度,およ び水温を整理した. 表2紅女木島,若松両養殖場における餌料の樺類と使用期間を示す.南蛮殖場においては,餌料の種類がかなり変 表2 飼料の種類と使用時期
養殖場名l種類】
6 月l7 月】8 月】9 月】10 月lll月】12 月
a:イカナゴ b:カタクチイワシ C:サンマ d:ア汐 e:サバ り,イカナゴ,カタクチイワシ,ア汐,サバ,サンマなどを単独また混合して給与していたが,その混合割合は明確で なかった・そこで,餌料の窒素含有率としては,各飼料魚の平均値をもちいることにした.白浜養殖場ではマアジの単 独給与であった.いずれの場合も冬期の1日1回給餌以外は1日2回給餌であった. 餌料魚およびハマチの窒素含有率に関する既存資料を表3に・まとめた・これらの平均値を使用すること忙した. 表3 ハマチ・および餌料魚の窒素含有率(単位:10−2g/g wet) ハマチ イカナ■ゴ サバ ア ジイワシ サンマ l 備 考
3.42 2.66 2.88 2.85 2.72 3.20 −・ 2.56−3.00(2.72) − 2.40−3.12(2.81) − 文献(8)* 文献(2)* 文献(5)** 文献(9)** 4.49,4.78 3.51,3.64 2.64 2.57 *タンパク含有率より換静, **窒素含有率を直接測定,()平均値 なお,ハマチや餌料魚のタンパク含有率は時期,場所によって変るが,今回はそれを考慮しなかった ⅠⅠⅠ結果と考察 ノ、マテ0才魚養殖における窒素負荷速度の年変化を図1(若松・女木島両養殖場),図2(白浜養殖場)に.,また, 1才魚養殖匿ついては図3(白浜養殖場)に示した. 0才魚,1才魚とも水温が高く,魚体重も大きくなる9月紅おいて1尾当りの総窒素負荷速度(ムⅣ十P入+仇)がも っとも大きい・8月では水温は高いが魚体重が小さく,10月では魚体重は大きいが水温の低下で代謝速度が低下するか らである・ノ、マチ・0才魚,1才魚紅ついて,月平均絵窒素負荷速度としてまとめたのが表4,表5である.香川大学戯学部学術報薯 〉く王02 井 上 裕 雄,原 田 政 隆 138 ︵UO︶粥 翼 ︵.≧PU三宅\望堪瑠掟亜漱朗l ∵∵U O O O O O 0 8 6 4 2 0 4 2 0 ■
﹁﹂弓一∃﹁∃ ﹁﹂∃]∃−﹁T﹁.∃∃
nU ▲・− 2 00 0 芯︶糊塗亜 へM︶酬牽亜 ′.1 0 0 ▲‖U し0 ︵Uし蛸 宅 へ.≧苫” 6 2 00 ■−■ ︵‖U >名瑚︶廻慢性亜樵調 9 !O ll 12 6 7 月 区= 若松養殖場(Ⅰ:1961年)と女木島養殖場(ⅠⅠ:1962年)における窒素負荷速度の変化(0才魚)・ (1)仇,(2)拓+・エⅣ,(3)ひⅣ+エーⅣ・+P加 ︵.>壱⊆.訂p\u︶堪埋檻亜麻朋7 8 9 川 】】‘l12 1 2 3
A 5 6 月 図2 白浜養殖場(1958∼1995年)における窒素負荷速度の変化(0才魚)ハマチ・養殖紅おける窒素負荷 第29巻第61号(1977) 139 4 5 6 了 8 9 10 】l 12 」 2 3 月 図3 白浜轟殖場(Ⅰ:1958∼1959年,ⅠI1959∼1960年)における窒素負荷速度の変化(1才魚) (1),(2),(3)ほ図1参照 衷4 0才魚の月平均総窒素負荷速度
水 温魚体麓 r
月平均絵窒素負荷速度 絶壁素負荷速度の内容 月 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 残鱒他】 琴 尿 他 % OC kg j g/day・indiv 塵 30 26 15 11 11 9 8 7 9 0.04−0.、13 0.12−0.55 0.65−1.2 1.2 【2.0 1.1肌1り7 0.60−1.1 0.59−0.86 0.17 0.43 0∩81 14.6−21.6 22.0−28.0 25.4−28.5 25.1−28.4 21.0−23.4 19.2−20.5 17.1−18.9 13.5−13.8 14.3−14.4 15.7 0.016−0.043 0.092−0.15 0.26 −0.44 0.49 −0.75 0.75∼1.02 0.93−1.01 0.99−1.15 1.20 1.21 1.33 6 7 6 5 5 6 5 4 6 0.60 1 8 6井 上 裕 雄,原 田 政 隆 表5 1才魚の月平均絶望采負荷速度 香川大学農学部学術報蕾 140 0才魚の場合,1尾当りもっとも大きいものは9月で,1.2′−2.Ogノday・indiv.,小さいのは1月で0.17gノday・ indiv.である.同様に1才魚でもっとも大きいのは9月で2.9∼3.7g/day・indiv.,少ないのは1月で0.73∼1.2g/ day・indiv.であるり 0才魚の場合,単位体重当りもっとも大きいのほ6月で2.8g/day・kg,′トさいのは1月で0.15gノday・kgである. 同様に1才魚でもっとも大きいのほ7∼9月で1.5g/day・kg,小さいのは1月で0.29gノday・kgである. 0才魚と1才魚の単位体重あたりの総窒素負荷速度を比較すると,6∼9月の高水温期において0才魚の方が大きい が,1月の低水温期鳩おいては1才魚の方が大きい.たぶん,ハマチほ高年魚ほど低水温紅おける代謝活動が相対的に 高いからであろう. 総窒素負荷速度に対するび入「,1Ⅳ,およびPⅣの割合ほ,0才魚ではそれぞれ64∼89%,8{ノ30%,4∼7%,1 才魚ではそれぞれ86}88%,7∼8、%,5∼6%であった.1日1回給餌の水槽実験結果である表1によれば,20∼30 gハマチにおいて総窒素負荷速度紅対するひⅣ,エ.Ⅳ,P.Ⅴの割合は,それぞれ43へノ66%,26∼49%,6∼10%である. 同程度の傾向がみられる. 尿などの溶存態でもっとも多く窒素が負荷されることほ注目されるペきことである.一・般に,魚類の尿排泄物の大部 分はアンモニア態窒素であるが,これによる魚類へ・の影響ほ魚種によってこは0・3ppmであらわれるとされている.桶 高(4)は揚島ハマチ養殖場(香川県)において0.2ppmのアンモニア態窒素濃度を観測し,小潮期では0.4ppmに.適す ると予測した.したがって,ハマチ儀殖場における海水交流は溶存酸素の補給のみでなく,排泄物の希釈・除去という 点からも注目されるぺきであろう.ハマチ養殖場の水質悪化がおこるのほ8月下旬から9月上旬である.従来,この時 期を対象忙して,益殖場の収容尾数は容存酸素収支の観点からのみ決められてきた1−ハマチ自身の窒素負荷の面からも 付加的検討がなされなけれはならない・ 文 献 場海産魚養成事業報告,67−102(1964)㊥ (7)能勢健嗣:各栄養素の消化率;橋本芳郎編,養魚 餌科学,37−47,東京,憤屋社厚生閣(1973). (8)代田昭彦:水産餌料生物学,pp514,東京,恒星 社厚生閣(1973). (9)和歌山県水産試験場:魚類養殖環境自家汚染防除 技術開発試験,昭和49年,50年皮報告書(パンフ レッり,1−30,1−46,(1975,1976). (1)原田輝雄:近大水研報,1,1−256(1966)・ (2)古川厚他:内水研C碍,4,77−85(1965)・ (3)井上裕雄:水産増殖,臨4,66−77(1965)・ (4)橘高二郎:日水試,28,230−−238(1960)・ (5)高知県水産試験場:魚類養殖環境自家汚染防除技 術開発試験,昭和49年,50年皮報告番(パンフレ ット),1−22,1−38(1975,1976)・ (6)小味山太一他:ハマチ魔成試験,長崎県水産試験