概要
近年,温暖化や酸性雨などの環境問題の解決が人類にとって大きな課題となっている. これらの問題は大気の汚染が大きな原因のひとつであり,世界各国で二酸化炭素や二酸化 硫黄,窒素酸化物等の大気汚染物質の削減に取り組んでいる.その際,現状を科学的に把 握するための分析技術が非常に重要になってくる. X 線吸収分光法は,物質の電子状態に関する情報を得る手法として,物質科学における 様々な分野で利用されている.特に軟 X 線スペクトルには,表面付近の構造や電子状態など 他では得られない構造の情報を得ることができる. 本研究は環境中の様々な試料に対して,X 線吸収微細構造(XAFS)の手法を用いること によって,表面,バルクと異なった深さの分析を同時に行い,環境中に硫黄がどのような 元素分布や化学状態で存在するかを明らかにし,硫黄酸化物の分析に関する新たな側面か らの知見を得ることを目的としている. 得られたデータを分析することによって,複雑な試料の処理を行うことなく硫黄の化学 状態を分析することが可能であることを示し,深さ別分析を同時に行うことによって環境 中硫黄の反応プロセスについての有意なデータを得ることができた.目次
第 1 章 緒言 ...4 1.1 背景 ... 4 1.2 大気エアロゾル... 4 1.3 硫黄酸化物... 5 1.4 ディーゼル車排気ガス ... 6 1.5 黄砂 ... 7 1.6 土壌 ... 7 1.7 目的 ... 8 第 2 章 X 線吸収微細構造(XAFS) ...9 2.1 X 線吸収微細構造(XAFS)... 9 2.2 シンクロトロン放射光 ... 10 2.3 XAFS の測定法... 11 2.4 硫黄の吸収 X 線スペクトル測定... 12 2.5 深さ方向状態分析 ... 13 2.6 ケミカルシフト... 13第 3 章 実験 ... 17 3.1 実験装置・方法 ... 17 3.2 試料 ... 26 第 4 章 結果及び考察 ... 29 4.1 ディーゼル車排気ガス粒子 ... 29 4.2 黄砂 ... 33 4.3 土壌 ... 44 4.4 その他の環境試料 ... 54 第 5 章 結論 ... 59 謝辞 参考文献
第 1 章 緒言
1.1 背景 人口が指数関数的に増大し,人類の活動が活発に行われるようになった現在,無限であ ると思われてきた地球の自己浄化作用が有限であるということに気づき始め,地球環境の 悪化がいたるところで叫ばれている.現在,地球温暖化,オゾン層の破壊,酸性雨,熱帯 林の減少,砂漠化,開発途上国の公害問題,野生生物種の減少,海洋汚染,有害廃棄物の 越境移動が主たる地球環境問題として取り上げられている.これらの問題に適切に対応す るためには環境保全の観点からのモニタリング,測定を行う環境計測・分析技術が重要と なっている. 1.2 大気エアロゾル 大気中には,火山や土壌,海洋などの自然発生源や,工場や自動車などの人為発生源か ら,様々な粒子状物質やガス状物質が放出される.放出された粒子状物質やガス状物質は 太陽光などの影響により大気中で変質し,輸送され,乾性・湿性沈着などにより大気中か ら除去される.その発生から除去までの過程において,地域的な環境問題から,酸性雨, 地球温暖化,そしてオゾン層破壊のような地球規模の環境問題に影響を及ぼすことになる. よって,これら問題を解決するためには,大気中に放出される粒子状物質やガス状物質の 挙動や性状を把握する必要がある.1.3 硫黄酸化物1) 大気汚染物質としての硫黄酸化物として二酸化硫黄と硫酸があげられる.硫酸は二酸化 硫黄が大気中の OH 基などによって酸化されて生成するもので,大気中にはエアロゾルと して存在し,酸性雨の原因物質のひとつである.二酸化硫黄は硫黄酸化物の中で最も多く 存在するもので,酸性雨の原因となることに加えて呼吸器系障害の原因になることが知ら れており,汚染物質の中でも重要な物質のひとつである.この発生源としては,自然発生 的なものと人為的なものとに分けられる. 自然界では,火山の噴火などに伴って発生する噴気ガス中に多く含まれる.一方,海洋 や土壌の中の植物や微生物から,かなりの量の含硫黄物質が放出されている.これらは, ほとんどがジメチルスルフィド(DMS)と硫化水素であり二酸化硫黄は含まれていない.し かし,これらの物質は大気中を循環している間に光化学反応により,二酸化硫黄や硫酸に 酸化され,硫黄酸化物の供給源となっている. 人為的なものとしては,そのほとんどが,石炭・石油などの化石燃料中に含まれる硫黄 分の燃焼によって生じる二酸化硫黄である.近年の二酸化硫黄の大気中濃度の上昇は急激 な化石燃料の消費によって生じている.この発生量は現在,硫黄に換算して年間 7 ~ 8 × 107 t と推定されており,自然界から発生する硫黄を含めて最も大きい値である. 日本では工業地帯での発生が野放し状態であったため,「四日市喘息」をはじめとする昭
れ以降,様々な規制がなされた.それにより,低硫黄分の原油の輸入,原油からの脱硫技 術の開発,排煙からの脱硫装置の設置などの改善策がなされてきた.この結果,最悪時の 60ppb から最近では 8ppb までに減少してきた.しかし,自然発生による二酸化硫黄の濃度 が 0.045ppb ~ 0.34ppb であることを考えると,なお一桁以上大きい数値である.さらに,北 京などの発展途上国の大都市では,上記のような改善策は今のところなされていないのが 現状であり,日本よりも高い濃度であることが推測される.大気汚染は発生源のみならず, 大気の大循環により長距離輸送が起こり,遠く離れたところまでに及ぶ.このような国の 工業地帯で発生した二酸化硫黄が偏西風や貿易風に乗って広がる可能性があり,抜本的な 対策が必要である. 1.4 ディーゼル車排気ガス ディーゼルエンジンは主に大型自動車や,鉄道車両,建設機械,農業用機械,船舶,内 燃力発電などに利用される.日本では,ディーゼル燃料(軽油や重油)がガソリンに比べ て安価であることから,経済性を優先する商業用の自動車に多く使われる.平成 15 年 3 月末現在,ディーゼル車(トラック・バス)の約 3 割は,粒子状物質の排出規制基準が無 い時期に製造された車両であるため,大気汚染の原因となっている.今回,粒子状物質の 排出規制前後に製造された同メーカー,同車種のディーゼルエンジンにおいて,興味深い データが得られたので報告する.
1.5 黄砂 黄砂とは,中国内陸部の乾燥地帯の砂が強風により巻き上げられたもの(土壌起源性エ アロゾル)が原料になっていると考えられており,粒径が数十 µm と比較的大きなものも 多い.例年,黄砂は春季に内陸部から吹きつける偏西風に運ばれ,日本を含む東アジア地 域に様々な影響を及ぼす.中国の各都市では,黄砂時のエアロゾル濃度が平常時の濃度に 比べ,数倍から十数倍程度になることが報告されている 2).また日本でもその時期,屋外 に干した洗濯物が黄ばんだり,車に汚れがついたりと被害が多く発生する. 黄砂エアロゾルは,その飛来プロセスにおける大気中での気体分子や他のエアロゾルと の反応が報告されている.中でも SO2ガスとの反応は顕著で,その環境や人体に与える影 響が懸念される.国立環境研究所などの調べで黄砂の主成分の 1 つである Ca が SO2ガス と非常に反応しやすいことも報告されている.近年の中国各都市部の工業化による大気汚 染問題はかなり深刻であり,その上空を飛来してくる黄砂と,都市部から大量排出される SO2ガスとの反応は大きな問題である. 1.6 土壌1) 土壌は,人類の生活の場であるばかりでなく,農業・林業などの様々な資源の基盤であ る.また,河川や地下水などの水資源も土壌が基盤となっている.したがって,土壌の汚 染は我々の生活や食料・水などの汚染と直接結びつく重要な問題であり,自然環境におい
土壌汚染の原因は,汚染された大気や水から生じる二次的汚染と,廃棄物などの投棄に よる直接的なものとがある.二次的汚染の中には汚染された浮遊粉塵が雨などとともに降 下する場合や,大気中に含まれる硫黄酸化物から生じた酸性雨によるものがある. 1.7 目的 1.2 で述べたように日本では昨今,環境中の硫黄濃度は減少してきているが,発展途上国 の状況も含めて現状の把握,分析法の確立はなお重要な課題である. 本研究では環境中の様々な試料に対して,表面,バルクと異なった深さの分析を同時に 行うことによって環境中に硫黄がどのような元素分布や化学状態で存在するかを明らかに し,硫黄酸化物の分析に関する新たな側面からの知見を得ることが本研究の目的である. なお,本研究では大気エアロゾルの発生源,もしくは大気エアロゾルによって汚染され ることが考えられるディーゼル車排気ガス粒子,黄砂粒子,土壌について分析を行ったが, これらの試料を選んだ理由は,比較的試料の採取が容易である上に我々の生活に密接に関 わっているというものである.
第 2 章 X 線吸収微細構造(XAFS)
2.1 X 線吸収微細構造(XAFS) 十分な大きさのエネルギーを持つ X 線が物質に照射されると,物質中の電子による散乱 のみならず,電子の励起にともなうエネルギーの吸収が起こる.物質を透過してきた X 線 の強度損失を調べることで,X 線がどれだけ散乱を受けたか,あるいは,物質中の電子励 起に使われたかを知ることができる.散乱の程度は入射 X 線のエネルギーに大きく影響さ れないと考えられるので,入射 X 線のエネルギー(波長)を変化させていくときに得られ る吸収 X 線スペクトルはおおむね内殻電子が励起される確率の変化に対応する. Fig.2-1 に典型的な吸収 X 線スペクトル例を示す.スペクトル中に見られる不連続点は吸 収端と呼ばれるもので,それぞれの殻(K,LⅠ,LⅡ,LⅢ殻)に位置する電子を励起す るために必要な最小のエネルギーに対応している.Fig.2-2 は,K 吸収端近傍を拡大した図 である.吸収端付近の大きく立ち上がった部分と,高エネルギー側のなだらかな波型構造の 2 つに分類することができ,前者を X 線吸収端構造(X-ray Absorption Near Edge
Structure,XANES ) , 後者 を 広 域 X 線 吸 収 微 細 構 造 (Extended X-ray Absorption Fine
Structure,EXAFS)とよぶ.両者をまとめた総称が X 線吸収微細構造(X-ray Absorption
Fine Structure,XAFS)である.EXAFS の波型構造は,X 線の吸収によって飛び出す電子
2.2 シンクロトロン放射光 陰極(フィラメント)から引き出された電子が電位差(数十 kV)によって高速に加速さ れ,金属陽極(ターゲット)への衝突により急激に減速される.この減速時に電子は,エ ネルギーを X 線という形で放出する.これが連続 X 線の発生原理の概要である.連続 X 線とは,様々な波長の X 線で構成される X 線のことを指す.連続 X 線を分光することで 必要なエネルギー(波長)の X 線を取り出し,様々な X 線分析に用いる. 1970 年ごろには XAFS によって物質の電子状態や構造についての情報が得られることが 明らかになっていた.ところが,X 線管など実験室規模の X 線発生装置は,十分な強度の X 線が得られないため,XAFS の測定を行うにあたり実用的ではなかった.X 線の強度が 低く,データの蓄積にかなりの長い時間が必要であったからである.その問題を解消した のがシンクロトロン放射光である.放射光というのは,高速の荷電粒子を磁場で曲げるこ とによって発生する電磁波のことであり,1947 年アメリカの Elder らによって始めて観測 された 3).シンクロトロン放射光は非常に高輝度(高強度)であるだけでなく,波長の連 続性や高い指向性も持ち合わせており,XAFS の測定に適している. シンクロトロンは,加速された荷電粒子を円形軌道に乗せるための偏向電磁石と荷電粒 子を加速するための電極に当たる高周波加速空洞から成り立っている.まず,荷電粒子源 からビームとして取り出された荷電粒子は線形加速器で加速され円形軌道に打ち込まれる.
高周波加速空洞による加速と円軌道への修正を幾度も経て最高エネルギーに達したとき, ビームとして取り出される.最終的に荷電粒子は光速に近い速度にまで加速されている. 放射光の光源には,荷電粒子の速度方向を変えることで放射光を発生させる偏向電磁石 のみではなく,より輝度の高い輝度を求めて開発されたアンジュレーターなどがある.ア ンジュレーターとは,永久磁石の組をいくつも並べ,荷電粒子をその間において蛇行させ ることで放射光の干渉を起こし,指向性と輝度を大幅に向上させる挿入光源である4). このような高輝度の放射光が得られる大型シンクロトロン放射光施設は,現在は世界中 に建設されており,そこでは頻繁に XAFS 実験が行われている. 2.3 XAFS の測定法 実際に物質に X 線を照射した場合,以下のような現象が起こる.まず内殻電子による X 線エネルギーの吸収が起こり,エネルギーを持った電子は励起されて殻を飛び出す.飛び 出した電子を光電子と呼ぶ.また,空いた軌道に外殻から電子が落ち込む際,エネルギー の放出が起こる.エネルギー放出の形態が X 線の場合,これを蛍光 X 線とよび,電子の場 合,これを Auger 電子とよぶ.原子番号が 31 番の Ga より小さな物質の場合, 蛍光 X 線よ り Auger 電子が発生することが多い.また,エネルギー吸収を受けた後,試料を透過して くる X 線を透過 X 線とよぶ.
吸収 X 線スペクトルの測定には,これらを利用したいくつかの測定法が存在する.以下, 3 つの測定法について説明する.我々は,測定対象となる物質の種類や形状などによって それらを使い分ける必要がある. 透過法は,入射 X 線強度に対する透過 X 線強度の比率の変化から吸収 X 線スペクトル を得る方法であり,原理に最も忠実な測定法である.ただし,透過 X 線から吸収 X 線スペ クトルを正確に測定するためには,厚さの均一な試料を準備する必要がある. 入射 X 線のエネルギーを連続的に変化させながら発生する蛍光 X 線の強度を計測し,そ の強度変化から X 線の吸収スペクトルを測定する方法が蛍光法である.蛍光 X 線の脱出深 さは大きい(数 µm 程度)ため,表面のみならずバルクの化学状態も分析できる. 試料表面から飛び出した光電子・Auger 電子・二次電子を収集することで X 線の吸収を 調べる方法が電子収量法である.ここで言う二次電子とは,光電子・Auger 電子による他 の電子の散乱が大きく,その散乱によってはじき出される電子のことを指す.このように 電子は散乱を受けやすいため,脱出距離が短い(数Å程度).そのため測定によって得ら れる情報は試料表面のものが主になる. 2.4 硫黄の吸収 X 線スペクトル測定 硫黄は原子番号 16 番に位置する軽元素で,K 吸収端が 2480 eV前後にあるため,吸収 X 線スペクトルの測定は軟 X 線領域(X 線のエネルギーが約 3.5 keV 以下)で行うことにな
• 物質中での吸収が大きく透過距離が極端に短くなる.軟 X 線領域の場合,透過 X 線を 計測するための適切な試料の厚みはμm オーダー以下になる. • ビームラインと試料室を仕切る窓材や空気による散乱・吸収が大きくなる. などの問題点が出てくる.後の実験方法のところで詳しく述べるが,軟 X 線領域での測定 を行う場合,これらの点に関して対策を講じる必要がある. 今回のように粒径の大きな粒状試料を測定対象とする場合,厚さが均一で薄い試料を作 製するのは非常に困難である.このような理由から,本実験の吸収 X 線スペクトル測定に は透過法を用いるのは有効ではない.よって,本研究では蛍光法と電子収量法により吸収 X 線スペクトルの測定を行うことにした. 2.5 深さ方向状態分析 前述のように蛍光 X 線と光電子・Auger 電子・二次電子では試料内部からの脱出深さが 大きく異なる.この違いを利用することで,試料の化学状態を,表面からの深さ方向の距 離別に分析することができる.本研究では試料の表面とバルクにおける硫黄の化学状態の 違いについて調べるため,この 2 つの測定法を同時に行った. 2.6 ケミカルシフト 化学結合などによる物質の電子状態の変化にともない,XAFS 実験において測定される 吸収 X 線スペクトルが変化することがある.特に低原子番号に位置する物質においてこの
ペクトルでは Fig.2-3 で示すように,酸化数によってケミカルシフトを起こすことが
Fig.2-1 吸収 X 線スペクトル模式図5)
第 3 章 実験
3.1 実験装置・方法 全スペクトル測定は,茨城県筑波市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)放射光 実験施設(Photon Factory)のビームライン BL-11B において,2004 年 11 月 18 日から 20 日 までの 48 時間と,2005 年 2 月 22 日から 24 日までの 48 時間に行った.実験施設の概略図 を Fig. 3-1-1 に示す7). BL-11B を使用した理由として,通常のビームラインでは困難な低エネルギー領域のスペ クトル測定が可能なことが挙げられる.BL-11B は,偏向電磁石を光源とし,集光鏡と高真 空二結晶分光器を用いて軟 X 線領域の単色光を供給し,また窓材による X 線の吸収を抑え るため,光源リングとの間に Be 窓が存在しない設計になっているのが特徴である.BL-11B では,軟 X 線領域における測定が主になるので,二結晶分光器に用いる分光結晶には 比較的面間隔の大きな結晶を用いることが多い.今回の測定では Ge(111) (面間隔 d = 3.266Å)を使用した. 実験装置の概略図は Fig.3-1-2 に示す.後述する試料は全て粉末状で,それぞれ耳掻き1 杯程度の量をカーボン両面テープ(5×15mm2程度)で縦に並べてサンプルホルダーに付 着させた後,サンプルホルダーごと真空チャンバー(10-6 Torr 程度)内に固定した.入射 X 線はスリットを用いて 2×2 mm2程度に絞り,試料に照射した.また入射 X 線の吸収を避けるため,ビームラインの超高真空と試料室の低真空を仕切る窓材には厚さ 1µm のポリ イミド膜を用いた. 次に各 X 線や電子の検出方法について説明する. 本研究では,入射 X 線強度の測定法として,入射光路に Ni メッシュを置き,X 線照射 によって放出される電子の収量を計測する方法を採用した.厳密に言えば,汚れによる誤 差を回避する意味で金属は真空チャンバー中その場で蒸着するのが望ましいのだが,本研 究では定性的な測定が主目的であるため,特に誤差を気にすることなく計測を行った. 蛍光 X 線の検出器にはガス比例計数管を用いた.また,試料から飛び出す Auger 電子・ 光電子・二次電子量の測定は,飛び出した電子の持つ電荷を補うためにアースから流れ込 む電流(試料電流)の大きさを電流計で測定する方法を用いて行った.この方法では表面 から飛び出した電荷をすべて測定対象とするため,エネルギーを選別して収集する方法に 比べて電子の検出感度が高い.
バルクの情報を与える蛍光 X 線を XFY(X-ray Fluorescent Yield)と呼び,表面の情報を
与える試料電流を TEY(Total Electron Yield)と呼ぶ.
入射 X 線のエネルギーを基本的に 2450 eV から 2550 eV まで 0.2 eV 刻みで変化させつつ
測定した.1 ステップ(1 刻み)当り 1∼10 秒で測定し,1 つの試料の測定にかかった時間
2.6 で述べたように,XAFS 実験においては化学結合などによる物質の電子状態の変化に ともないケミカルシフトが生じる.硫黄の価数によってシフトするピークエネルギーの違 いによって硫黄の科学状態を分析するわけだが,BL-11B においては,エネルギーを決定す るモノクロメーターの角度やスリットの位置などの要因から厳密にエネルギーの値を決定 することができない.従って実験を行うごとに標準試料を用いて各価数のピークエネルギ ーを決定し,それらと比較することで試料中の硫黄の価数を知るという方法を取る必要が ある.標準試料には 2 回の実験とも CuS (S 2-) ,Na2S2O3 (S , S6+) ,Na2SO3 (S 4+ ) ,Na2SO4 (S6+) をそれぞれ用い,11 月の実験においては測定スペクトルに出現するピークのうち, 2471 eV のピークは S2-の K 吸収端,2478 eV のピークは S4+の K 吸収端,2482 eV のピーク は S6+の K 吸収端とそれぞれ対応させ(Fig.3-1-3,Fig.3-1-4),2 月の実験においては 2492 eV のピークは S2-の K 吸収端,2499 eV のピークは S4+の K 吸収端,2503 eV のピークは S6+ の K 吸収端とそれぞれ対応させて(Fig.3-1-5,Fig.3-1-6)硫黄の化学状態を解析した.
Fig.3-1-1 高エネルギー加速器研究機構(KEK)
2460
2480
2500
2520
Intensity / a.u.
Energy / eV
CuS
Na
2S
2O
3Na
2SO
3Na
2SO
4 Fig.3-1-3 11 月測定時の標準試料に対する蛍光 X 線スペクトル2460
2480
2500
2520
CuS
Na
2S
2O
3Na
2SO
3Na
2SO
4Intensity / a.u.
Energy / eV
Fig.3-1-4 11 月測定時の標準試料に対する試料電流スペクトル2480
2500
2520
CuS
Na
2S
2O
3Na
2SO
3Na
2SO
4Intensity / a.u.
Energy / eV
Fig.3-1-5 2 月測定時の標準試料に対する蛍光 X 線スペクトル2480
2500
2520
CuS
Na
2S
2O
3Na
2SO
3Na
2SO
4Intensity / a.u.
Energy / eV
Fig.3-1-6 2 月測定時の標準試料に対する試料電流スペクトル3.2 試料 試料は,以下のようなもので,合計 29 種類を用意した(標準試料 4 種類を含む). Ⅰ.ディーゼル車排気ガス粒子 同メーカーが製造した,年式の違う 3 種類のディーゼル車の排気口から直接採取した粒 子を篩いにかけることで数十から数百µm にしたものである. • 1996 年式・・・2800cc ディーゼルエンジン.主に小型トラック,商業用バンに使用さ れているエンジンである.商業用小型トラックから採取した. • 1990 年式・・・2800cc ディーゼルエンジン.1996 年式と同形式のエンジンである.自 家用貨物バンから採取した. • 1991 年式・・・2200cc ディーゼルターボエンジン.主にミニバンなどの乗用車に使用 されているエンジンである.乗用ミニバンから採取した. Ⅱ.国立環境研究所調製の黄砂標準試料2) 8) 以下の 2 つの試料は国立環境研究所が調製を試みた,世界初の黄砂エアロゾルおよび黄 土に関する標準物質試料である. • 黄土標準試料(CJ-1,China Loess)・・・中国内陸部甘粛省会寧の深さ約 2 m にある 黄土を原料とした.外気との接触は少なく汚染の程度はかなり小さいと思われる.
Ⅲ.中国各地,京都で採取された黄砂関連試料 以下の試料は,本研究室の研究協力者によって採取された試料である. • タクラマカン砂漠の表土試料・・・中国内陸部のタクラマカン砂漠近辺の表層砂. • シンヨウにおいて採取された乾性降下エアロゾル試料・・・試料はシンヨウ市内のビ ルの 3 階と 4 階で乾性降下したエアロゾルを採取したものである.シンヨウは中国東 北部遼東省の省都で市内の人口は約 500 万人,重工業を中心とした工業都市である. • 京都において採取された乾性降下エアロゾル試料・・・京都市内の 8 階建てのビルの 屋上と 1 階で乾性降下したエアロゾルを採取したものである. Ⅳ.産業技術総合研究所作製の岩石標準試料(GSJ)9) 産業技術総合研究所(旧地質調査所)が作製した岩石標準試料のうち,土壌に関するも のを試料とした. • コールフライアッシュ(JCF-1)・・・1995 年に神奈川県横浜市磯子火力発電所で採取 されたものをもとにした標準試料である. • 土壌(JSO-1)・・・1997 年に東京都町田市南大谷で採取されたものをもとにした標準 試料である. • 汚染土壌(JSO-2)・・・1998 年に茨城県つくば市で採取されたものをもとにした標準 試料である.
• リョウブ標準試料(NIES No.1)・・・リョウブ葉から調製された標準試料である. • 地底質標準試料(NIES No.2)・・・東京大学三四郎池の底質から調製された標準試料 である. • 自動車排出粒子標準試料(NIES No.8)・・・高速道路トンネル内の静電集塵機に捕集 された物質から調製された標準試料である. Ⅵ.京都市内で採取された土壌試料 京都市内の 3 地点において,表面と 10cm の深さからそれぞれ採取された試料である. • 国道一号線(五条通)沿いの土壌試料・・・京都で最も交通量の多い通りの一つであ る五条通沿いの土壌試料である. • 二条付近鴨川河川敷の東側の土壌試料・・・鴨川の河川敷のうち,交通量の多い川端 通に面した場所で採取した土壌試料である. • 二条付近鴨川河川敷の西側の土壌試料・・・鴨川の河川敷のうち,周りに道路の無い 西側で採取した土壌試料である.
第 4 章 結果及び考察
4.1 ディーゼル車排気ガス粒子 同メーカーの製造年の違う 3 種類のディーゼルエンジンの排気ガス粒子の測定を行った. 測定は 2004 年 11 月に行ったので,2471 eV のピークは S2-の K 吸収端,2478 eV のピーク は S4+の K 吸収端,2482 eV のピークは S6+の K 吸収端とにそれぞれ対応する.試料の詳細 は 3.2 の通りであるが,ここでディーゼル排気ガスの規制について触れておく. 規制開始年 CO (g/kWh) HC (g/kWh) NOx (g/kWh) PM (g/kWh) 元年規制 平成元年 790(ppm) 510(ppm) 400(ppm) 規制なし 短期規制 平成 6 年 7.4 2.9 6.0 0.7 長期規制 平成 10 年 7.4 2.9 4.5 0.25 新短期規制 平成 15 年 2.22 0.87 3.38 0.18 新長期規制 平成 17 年 2.22 0.17 2.0 0.023 Table.4-1-1 大気汚染防止法に基づく,新車に対する排出ガス規制11) 規制の対象である 4 つの物質の中でも,燃料中の硫黄分が燃焼して生成される硫黄化合 物を含む PM の規制が始まったのは平成 6 年(1994 年)の短期規制からである. Fig.4-1-1 と Fig.4-1-2 に測定結果を示す.バルクの情報が得られる蛍光 X 線スペクトルにネルギーの位置に違いが見られる.採取した粒子はエンジン内部,もしくは排気管からで た粒子であることが考えられ,その表面に排気ガスが付着したものであると考えることが できる.つまり,粒子そのものには硫黄の化学状態に違いは無いが,排気ガスに含まれる 硫黄の化学状態には違いがあるということがわかる.+6 価単独で存在している時は安定 であるが,−2 価と共存することによって酸化,還元が起こり,そのプロセスにおいて有 害な物質になることが考えられる. 上で述べたように PM の規制が始まったのは 1994 年であり,今回−2 価の硫黄が検出さ れた 2 台のディーゼル車はともに 1994 年以前に生産されたものである.この相関性は明ら かではないが,触媒の進歩などの影響があるのではないかと考えられる.
2440
2460
2480
2500
2520
Intensity / a.u.
Energy / eV
1996年式
1990年式
1991年式
Fig.4-1-1 年式別ディーゼル車排気ガス粒子に対する蛍光 X 線スペクトル2440
2460
2480
2500
2520
Intensity / a.u.
Energy / eV
1996年式
1990年式
1991年式
Fig.4-1-2 年式別ディーゼル車排気ガス粒子に対する試料電流スペクトル4.2 黄砂 2 種類の国立環境研究所の黄砂標準試料,3 種類の中国各地で採取された黄砂関連試料, 4 種類の京都で採取された黄砂関連試料の測定を行った.測定は 2004 年 11 月に行ったの で,2471 eV のピークは S2-の K 吸収端,2478 eV のピークは S4+の K 吸収端,2482 eV のピ ークは S6+の K 吸収端とそれぞれ対応する.Fig.4-2-1 から Fig.4-2-9 に測定結果を示す.同 じ試料を複数回測定したものについては同じグラフに並べて示すこととする. Fig.4-2-1 の CJ-1 においてはいずれの価数の硫黄も検出されていないが,Fig.4-2-2 の CJ-2 においては+6 価の硫黄を検出することができている.これはそれぞれの標準試料につい て予想されたことであり,確実に測定が行われていることを裏付けている. Fig.4-2-3 において,バルクの情報を示す XFY にはピークが見られないが,表面の情報を 示す TEY には+6 価のエネルギーでピークが見られる.それに対して Fig.4-2-4 においては, XFY・TEY ともに+6 価のエネルギーでピークが見られる.これによって,黄砂がタクラ マカン砂漠からシンヨウに飛来する過程で表面に付着した硫黄との化学反応がバルクにま で進行している可能性が考えられる. 京都市内で採取された試料については,Fig.4-2-6,Fig.4-2-7,Fig.4-2-8 の 1 階で採取され たもの全てにおいて−2 価と+6 価の硫黄が検出されている.また,3 つ共に見られること ではあるが,特に Fig.4-2-8 では−2 価のピークと別のピークがすぐ右に見られ,+4 価と
Fig.4-2-8 とほぼ同時期に採取されたサンプルでり,同じビルの 8 階と 1 階という違いしか
ないにもかかわらず,+6 価の硫黄しか検出されていない.特に,表面の情報を示す TEY
2460
2480
2500
2520
2540
Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
2460
2480
2500
2520
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
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2460
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-2-3 タクラマカン砂漠の表土試料に対する測定結果2440
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-2-4 シンヨウ市内のビルの 3 階において採取された乾性降下エアロゾル試料2440
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-2-5 シンヨウ市内のビルの 4 階において採取された乾性降下エアロゾル試料2440
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-2-6 2004 年 2 月 13 日に京都市内のビルの 1 階で採取された乾性降下エアロゾル試料2440
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-2-7 2004 年 2 月 25 日に京都市内のビルの 1 階で採取された乾性降下エアロゾル試料2440
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-2-8 2004 年 3 月 14 日に京都市内のビルの 1 階で採取された乾性降下エアロゾル試料2440
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-2-9 2004 年 3 月 17 日に京都市内のビルの 8 階で採取された乾性降下エアロゾル試料4.3 土壌 2 種類の産業技術総合研究所の岩石標準試料,6 種類の京都市内で採取された土壌試料の 測定を行った.測定は岩石標準試料については 2004 年 11 月に行ったので,2471 eV のピ ークは S2-の K 吸収端,2478 eV のピークは S4+の K 吸収端,2482 eV のピークは S6+の K吸 収端とそれぞれ対応し,京都市内の土壌試料については 2005 年 2 月に行ったので,2492 eV のピークは S2-の K 吸収端,2499 eV のピークは S4+の K 吸収端,2503 eV のピークは S6+ の K 吸収端とそれぞれ対応させる.Fig.4-3-1 から Fig.4-3-8 に測定結果を示す.同じ試料を 複数回測定したものについては同じグラフに並べて示すこととする. 産業技術総合研究所の土壌試料については,ともに+6 価の硫黄を検出することができ た(Fig.4-3-1,Fig.4-3-2).ただし,Fig.4-3-2 の 2527eV 付近のピークについては明らかに なっていない. 五条通沿いで採取された試料については(Fig.4-3-3,Fig.4-3-4),表面,深さ 10cn とも にスペクトルに大きな違いは見られず,両方から+6 価の硫黄が検出されている.2495eV 付近にピークが見られるが,これは+4 価によるものではないかと考えられる. 二条付近鴨川東側では表面で採取されたスペクトルのうち(Fig.4-3-5,Fig.4-3-6),一 つのスペクトルからは−2 価と+6 価の硫黄が検出されたが,他の二つのスペクトルからは それらを検出することはできていない.これは全ての粒子に硫黄が含まれているのではな
く,入射 X 線が照射される粒子によってスペクトルに違いが出るのではないかと思われる.
一方,10cm の深さで採取された試料からは硫黄は検出されていない.
二条付近鴨川西側で採取された試料については,表面,深さ 10cm ともに+6 価の硫黄が
検出されている(Fig.4-3-7,Fig.4-3-8).しかし表面で採取された試料については,表面
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Intensity / a.u.
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XFY
TEY
Fig.4-3-1 産業技術総合研究所土壌標準試料(JSO-1)に対する測定結果2460
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Intensity / a.u.
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XFY
TEY
Fig.4-3-2 産業技術総合研究所汚染土壌標準試料(JSO-2)に対する測定結果2480
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-3-3 五条通沿い表面で採取された土壌試料に対する測定結果2480
2500
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-3-4 五条通沿い深さ 10cm で採取された土壌試料に対する測定結果2480
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-3-5 二条付近鴨川東側の表面で採取された土壌試料に対する測定結果2480
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-3-6 二条付近鴨川東側の深さ 10cm で採取された土壌試料に対する測定結果2480
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-3-7 二条付近鴨川西側の表面で採取された土壌試料に対する測定結果2480
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
TEY
Fig.4-3-8 二条付近鴨川西側の深さ 10cm で採取された土壌試料に対する測定結果4.4 その他の環境試料 産業技術総合研究所のコールフライアッシュ標準試料,3 種類の国立環境研究所調製の 環境標準試料の測定を行った.測定は 2004 年 11 月に行ったので,2471 eV のピークは S 2-の K 吸収端,2478 eV 2-のピークは S4+の K 吸収端,2482 eVのピークは S6+の K 吸収端とそ れぞれ対応する.Fig.4-4-1 から Fig.4-4-4 に測定結果を示す.同じ試料を複数回測定したも のについては同じグラフに並べて示すこととする. 技術総合研究所コールフライアッシュ標準試料(JCF-1)からは,表面,バルク両方から +6 価の硫黄が検出されている.
国立環境研究所リョウブ標準試料(NIES No.1)では,バルクの情報を示す XFY におい
て 3 つのピークが見られる.2472eV 付近が−2 価,2477eV付近が+4 価,2482eV付近が+
6 価にそれぞれ対応すると思われるが,表面の情報を示す TEY にはピークを見ることがで きない.これはカウント数が極端に少ないせいだと思われる. 国立環境研究所地底質標準試料(NIES No.2)では+6 価の位置に明らかなピークを見る ことができる.それに加えて−2 価の位置にもかすかなピークを認めることができる. 国立環境研究所自動車排出粒子標準試料(NIES No.8)では+6 価の位置にはっきりとし たピークを見ることができ,加えて−2 価の位置にも明らかなピークを見ることができる.
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Fig.4-4-1 産業技術総合研究所コールフライアッシュ標準試料(JCF-1)に対する測定結果2440
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Intensity / a.u.
Energy / eV
XFY
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第 5 章 結論
蛍光 X 線強度 XFY と試料電流強度 TEY を同時に測定することによって,試料のバルク に関する情報と表面に関する情報を同じ条件下で分析することが可能であった.バルクと 表面を同時に比較することで,硫黄による汚染が粒子の内部まで進んでいるのかどうか, 粒子そのものが汚染されているわけではなく表面に付着しているものが汚染されている, などの考察を行うことが可能である. 本研究で得られた成果は次の通りである. • 放射光利用の拡大とともに,化学状態に関する情報を得ることが可能であるとして注 目され,バルクと表面を同時に測定することが可能であるという特徴を持つ XAFS の 測定を,ディーゼル車排気ガス,黄砂エアロゾル,土壌の化学状態を解明するために 応用することにより,粒子に含まれる硫黄の化学状態に関する有意な情報を得ること ができた. • ディーゼル排気ガス粒子そのものに含まれる硫黄の化学状態はディーゼルエンジンの 年式によって大きな違いは無いが,粒子の表面に含まれる硫黄の化学状態は−2 価に関 して年式によって明らかに異なる. • タクラマカン砂漠で採取された黄砂試料は,表面にしか硫黄が検出されなかったが, 工業都市シンヨウで採取された黄砂試料からは表面・バルク両方から検出されている.空において反応が内部にまで進行しているということが言える.さらに京都市内で採
取された試料からは−2 価と+6 価の硫黄が表面・バルク両方から検出されている.
以上,本研究において環境中の一部についてではあるが,硫黄の化学状態について興味
深いデータが得られた.今後,さらに試料の種類,採取領域などを広げていくことによっ
謝辞
本研究を進めるにあたり,様々な助言を頂き自由な研究を促して下さった河合教授に感 謝します.また,河合教授には本研究に関する発表の場を用意して頂き,ご迷惑をおかけ することもありましたが,お陰で貴重な経験を積むことができました. 環境試料の準備,KEK における実験においては田邊助教授に大変お世話になりました. 厚く御礼申し上げます. 石井助手には,実験その他において御指導,御教示,御助言を頂きましたことに心から から感謝いたします. 林技官には,事務的な手続きなどに大変お世話になりました.心から感謝いたします. 最後に,日常の研究生活,学内外での発表などで苦労を共にした同学年の武田君,三ツ 谷君をはじめとして,いろいろな面で支えとなって下さった河合研究室の皆さんに感謝し ます.参考文献
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