インドネシア経済の現状と見通し
アイザワ証券 市場情報部 アジア情報課
北野ちぐさ
力強さに欠けるものの景気は緩やかに回復
インドネシアの2018年実質GDP成長率は、底堅い内 需が景気を牽引し、前年比+5.17%と3年連続で加速。 ジョコ大統領就任以来、最も高い伸びとなったもの の、ジョコ大統領が公約として掲げている+7%や、 政府目標の+5.4%には及ばず、緩やかな回復にとど まった。 2019年の政府目標は+5.3%となっており、引き続き 緩やかながらも回復基調を維持する見通し。 2018年 3.6 3.3 (↓ 0.2) 3.6 (→ 0.0) 2.2 1.8 (↓ 0.2) 1.7 (→ 0.0) 米国 2.9 2.3 (↓ 0.2) 1.9 (↑ 0.1) 日本 0.8 1.0 (↓ 0.1) 0.5 (→ 0.0) ユーロ圏 1.8 1.3 (↓ 0.3) 1.5 (↓ 0.2) 4.5 4.4 (↓ 0.1) 4.8 (↓ 0.1) 6.4 6.3 (→ 0.0) 6.3 (↓ 0.1) 中国 6.6 6.3 (↑ 0.1) 6.1 (↓ 0.1) インド 7.1 7.3 (↓ 0.2) 7.5 (↓ 0.2) ASEAN5 5.2 5.1 (→ 0.0) 5.2 (→ 0.0) マレーシア 4.7 4.7 (→ 0.0) 4.8 (↑ 0.2) タイ 4.1 3.5 (↓ 1.1) 3.5 (↓ 0.4) インドネシア 5.2 5.2 (↑ 0.1) 5.2 (↑ 0.1) フィリピン 6.2 6.5 (→ 0.0) 6.6 (→ 0.0) ベトナム 7.1 6.5 (↓ 0.1) 6.5 (→ 0.0) ※カッコ内は2019年1月時点の見通しからの変化幅、ただしASEAN各国は2019年1月 時点の見通しが公表されていないため、2018年10月時点からの変化幅 [出所:IMF、アイザワ証券作成] 世界全体 先進国 新興国 アジア新興国 ※前年比、単位:% ※2019~2020年はIMF予想値 IMFの世界経済成長率見通し(2019年4月) 2019年 2020年 IMFは直近、2019年の世界経済の成長率見通しを、 リーマンショック以来の低水準に引き下げた。一方 で、米国の利上げ打ち止めや、中国の景気刺激策、 米中貿易交渉の進展などを追い風に、年後半にも成 長が上向き、2020年は+3.6%まで回復すると予想。 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 ※前年比 [出所:ブルームバーグ、アイザワ証券作成] (%)インドネシア実質GDP成長率(年次)
-150 -125 -100 -75 -50 -25 0 25 50 75 100 125 150 175 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 金融収支(その他投資) 金融収支(証券投資) 金融収支(直接投資) 経常収支 総合収支 [出所:インドネシア中央銀行、アイザワ証券作成]
インドネシア国際収支(四半期)
(億米ドル) 80 100 120 140 160 180 200 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 貿易収支(左軸) 輸出(右軸) 輸入(右軸) [出所:ブルームバーグ、アイザワ証券作成] インドネシア貿易収支(通関ベース、月次) (億米ドル) (億米ドル)経常赤字は2014年の水準まで拡大
2018年は、原油価格が年初の1バレル60米ドルから 10月に76米ドルまで上昇したことが響き、原油の純 輸入国であるインドネシアの貿易収支は悪化した。 2018年10月以降、原油価格は反落したものの、世界 経済の停滞から輸出が鈍化したことに加えて、イン ドネシアの景気回復を追い風に中国からの輸入が増 加し、貿易赤字が続いた。 2018年通年では、2014年以来4年ぶりの貿易赤字転 落となり、赤字額は過去最大となった。 2018年は貿易収支の悪化が響き、経常赤字が2014 年の水準まで膨らんだ。 米国の利上げ打ち止めによる金利先高感の後退で、 投資家のリスク選好度が回復し、高金利国のひとつ であるインドネシアにも資本流入が加速。2018年 10~12月期に総合収支は黒字に転換した。商品価格は再び低迷し、輸出の重石に
石炭
(豪ニューキャッスル港積一般炭の先物価格)パーム油
(マレーシア証券取引所の先物価格)天然ゴム
(シンガポール商品取引所の先物価格) [出所:ブルームバーグによる] [出所:ブルームバーグによる] [出所:ブルームバーグによる] 鉱物性燃料 23.1% 動植物性油脂 13.7% 電気機器・部品 5.1% ゴム・ゴム製品 4.6% 輸送機器 (鉄道除く) 4.1% 一般機器・原子炉・ ボイラー 3.5% 貴石・貴金属 3.4% 履物 2.9% 編み物除く 既製服 2.5% 木材・木製品 2.4% その他 34.7% インドネシア輸出品目構成(通関ベース、2017年) [出所:ジェトロ、アイザワ証券作成]1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 5500 6000 6500 7000 7500 -40 -20 0 20 40 60 80 100 120 140 外国人投資家動向(2010年1月からの累計)(左軸) ジャカルタ総合指数(月足、右軸) [出所:ブルームバーグ、アイザワ証券作成] (億米ドル)
ジャカルタ総合指数と外国人投資家動向
18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 外国人保有残高(左軸) 外国人保有比率(右軸) [出所:ブルームバーグ、アイザワ証券作成]外国人のルピア建て国債投資(月次)
(兆ルピア) (%) インドネシア経済に対する成長期待や、相対的な高 金利を背景に、2012年以降、資本流入が加速。ルピ ア建て国債の外国人保有比率は、2010年1月の19% から2018年1月には41%まで上昇した。 2018年は新興国からの資本流出により、外国人保有 率も低下したものの、11月以降持ち直している。 株式市場においては、経常赤字の拡大などが嫌気さ れ、2017年半ばより海外資本の流出が目立っていた ものの、2018年11月以降底入れしている。 ジャカルタ総合指数は、2018年2月に史上最高値の 6693ポイントをつけた後、一時17%調整したものの、 11月に反発。セクター別では、銀行、消費関連、イ ンフラ投資関連を中心に物色されている。海外資金は流出から流入へと潮目が変わる
6000 7000 8000 9000 10000 11000 12000 13000 14000 15000 16000 17000 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 外貨準備高(月次) 米ドル/ルピア(逆メモリ、月足) [出所:ブルームバーグ、アイザワ証券作成] インドネシア外貨準備高とルピア相場 (億米ドル) (ルピア) 大規模インフラ投資の実施などを背景に、近年財政 赤字は拡大傾向となっている。ただ対GDP比では、 政府が定める3%の上限を超えたことがなく、財政 規律は保たれていると言える。 中央銀行によると、2019年の財政赤字は、対GDP比 で2012年以来の2%割れとなる見通し。
財政赤字は厳格に管理
-4.0 -3.5 -3.0 -2.5 -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 -400 -350 -300 -250 -200 -150 -100 -50 0 財政収支(左軸) 対GDP比(右軸) ※2019年以降はIMF予想 [出所:IMF、インドネシア中央銀行、アイザワ証券作成]インドネシア財政収支
(兆ルピア) (%) 資本流出への抵抗力を高めるため、中央銀行は外貨 準備を増強。2019年5月時点で1203億米ドルと、直 近10年間で2.3倍増加している。 国家中期計画の下、大規模インフラ整備が始動。主な建設プ ロジェクトは次の通り。 電力:総容量35GWの発電所、新規ダム49基、水力発電所33ヵ所 港湾:新規港湾24港、フェリー用港湾60ヵ所 道路:新規道路2650km、高速道路1000km、道路補修46770km 住宅:賃貸集合住宅5257棟、自助住宅550万世帯 その他:ジャワ島以外で工業団地15ヵ所、経済特区11ヵ所など 4月の大統領選挙で現職のジョコ・ウィドド氏が再選された。 大統領の3選が禁じられているため、2024年までの2期目が集 大成となる。今後、1期目の政策の柱であり道半ばのインフ ラ整備や、規制緩和などの加速が期待される。 電力 18% 港湾・海運 16% 道路 15% 住宅 10% 石油・ガス 9% 上下水道 9% 水資源 7% 鉄道 5% 情報通信 5% 航空 3% 都市交通 2% 陸運・ フェリー 1% インドネシア大規模インフラ整備計画 分野別内訳 [出所:日本・内閣官房内閣広報室、アイザワ証券作成] 国家中期計画における 政府目標(2019年) 実質GDP成長率8% 1人あたりGDP6000米ドル (2014年3531米ドル) 目標達成のために 2015~2019年に 総額5519兆ルピア(約50兆円) を投じてインフラ整備を 実施する計画
ジョコ大統領の再選確定、1期目の政策を振り返る
発表日 貿易などに関連する重複規制の廃止 インフラ投資促進に向けた土地収用の許認可手続き簡素化 低所得者向け住宅建設の促進 投資許認可の迅速化 船舶、鉄道、航空機等の輸入関税引き下げ 産業向け電気・ガス料金値下げ 中小零細企業向け融資の金利引き下げ 最低賃金の算出方法を公式化 中小輸出企業向けに1社あたり最大500億ルピア融資 企業の資産評価における源泉所得税率の引き下げ 不動産投資信託の二重課税廃止 イスラム金融の規制緩和 経済特区での法人税優遇措置 水道事業の法的確実性の強化 医薬品原材料の輸入手続きの迅速化 労働集約型産業の所得税減税 投資優遇措置の対象地域を全国へ拡大 航空部品産業における輸入関税を撤廃 石油精製所への優遇策 電力インフラ事業の加速 物流産業での規制緩和 物価抑制を目的とした肉牛の輸入枠拡大 2016/2 第10弾 外資による投資規制分野の規制緩和 不動産投資信託(REIT)に対する減税 医薬品・健康機器産業等の成長促進 港湾の輸入貨物滞留日数の短縮 建設許可、土地登記、貿易取引など10項目の規制緩和 中小企業の最低資本金規制の撤廃 オンラインシステム導入による納税簡素化 2016/8 第13弾 低所得者向け住宅建設認可の手続き簡素化 2016/11 第14弾 電子商取引の振興 2017/6 第15弾 物流規制の緩和 2017/8 第16弾 事業許認可に関する規制の簡素化と統合 第16弾 外資による投資規制分野の規制緩和 追加版 法人税一時免税措置(タックスホリデー)の適用範囲拡大 2018/11 インドネシアの景気対策(2015~18年) [出所:各種情報、アイザワ証券作成] 主な内容 2015/10 第4弾 2015/10 第5弾 2015/11 第6弾 第1弾 2015/9 2015/9 第2弾 第12弾 2016/4 2016/3 第11弾 2016/1 第9弾 2015/10 第3弾 2015/12 第7弾 2015/12 第8弾ジャカルタのMRTが開通①
ジャカルタMRT
南北線第1期工事
地下路線5.9km(6駅) ブンダランHI~スナヤン 高架路線9.8km(7駅) アセアン~レバック・ブルス スナヤン駅(地下路線最後の駅) スナヤン~アセアン間の地下から地上に出 る地点 [出所:ジャカルタMRT、アイザワ証券作成] インドネシア初のMRT(地下鉄)は、日本の円借款プロジェクトとし て2013年に着工。南北線第1期(15.7km)の総事業費は1570億円に上 り(推定)、基本設計、建設工事、車両、信号、改札などのシステム に至るまで、全面的に日本の技術が導入された。建設当時の様子(2016年)
[写真出所:アイザワ証券撮影] 概要 4月1日より営業運転を開始。運賃は10kmあたり1 万ルピア、10分間隔で運行し(ラッシュアワーは5 分間隔)。始発から終点までを30分で走行し、運 賃は1万4000ルピア(約108円)。1日平均の乗客数 は7万8000人。 効果・影響 インドネシア、特にジャカルタ首都圏は人口の増 加が顕著で、同首都圏での交通渋滞は世界最悪ク ラスの状況となっているため、交通渋滞の緩和は ジョコ政権にとって喫緊の課題となっていた。 物流の滞り、大気汚染に対する影響深刻化などの 問題点が回避できる、という点で経済効果は大き いと思われる。 ジョコ大統領に対しては、特に任期後半、政策の 実行力の面で疑問視する声が強まっていた。目玉 の大規模インフラプロジェクトも、ジャカルタ~ バンドンの高速鉄道をはじめ遅れが目立っていた。 そのような中で、概ね予定通りに開業したジャカ ルタのMRT事業は大統領選挙での再選に弾みをつ けたと見られる。 今後、現在の路線を北へ7.8km延伸する第2期工事 も着工予定。第1期と同様円借款プロジェクトで、 2024年の開業を目指す。
MRTの様子
ジャカルタのMRTが開通②
[写真出所:MRTジャカルタによる]4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 131行の平均ルピア預金金利(12ヵ月) JIBOR12ヵ月 [出所:ブルームバーグ、アイザワ証券作成]
インドネシア銀行間金利と市中金利(月足)
(%) 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 消費者物価指数(前年同月比、左軸) 政策金利(右軸) [出所:ブルームバーグ、アイザワ証券作成] (%)インドネシア消費者物価指数と政策金利
(%) ※2016年8月、 政策金利の指標 レートをBIレー トから7日物リ バースレポ金利 に変更金利動向
2019年5月の消費者物価指数は前年同月比+3.32% と、インフレターゲットの3~5%の下限にとどまる など、物価は落ち着いている。 中央銀行はルピア防衛のため、2018年5月から11月 にかけて、6回に亘り、累計1.75ポイントの利上げ を実施した。 足元の政策金利は、4回連続で6.0%に据え置かれて いる。2019年2月の政策会合では、緩和的な政策へ の転換を示唆しており、年内に利下げの可能性も? 2019年3月29日時点で、インドネシア銀行間金利 (JIBOR)12ヵ月物は7.63%、131行の平均ルピア 建て12ヵ月預金金利は6.13%で推移。 近年、預金獲得や与信供与のための金利競争が激化 しており、当局が規制を強めている。 インドネシアの経済規模と総人口は、ともにアセア ン全体の約4割を占めている。 インドネシアの平均年齢は29歳と若く、労働力人口 は2040年ごろまで増加する見通し。今後所得の向上 に伴い、中間層の増加が見込まれ、内需を押し上げ ることが期待される。
長期的な支援材料 経済規模でアセアンをリード
37% 17% 12% 11% 11% 8% 4% インドネシア タイ シンガポール マレーシア フィリピン ベトナム その他4ヵ国 [出所:IMF] アセアン名目GDPの国別内訳(2017年) 1兆154億米ドル 4554億米ドル 3136億米ドル 3124億米ドル 2204億米ドル 1185億米ドル 3239億米ドル 41% 16% 15% 11% 8% 9% インドネシア フィリピン ベトナム タイ ミャンマー その他5ヵ国 [出所:国際連合] アセアン総人口の内訳(2017年) 2億6399万人 1億492万人 9554万人 6904万人 5337万人 6063万人 インドネシアの人口ピラミッド(2018年推計値) 男性 女性 (百万人) [出所:米国勢調査局による] (百万人)AAA/Aaa 米国 オーストラリア カナダ カナダ オーストラリア 米国 カナダ オーストラリア 米国 英国 韓国 韓国 英国 AA/Aa 韓国 日本 中国 中国 日本 中国 マレーシア 英国 日本 A マレーシア メキシコ メキシコ タイ スペイン マレーシア スペイン スペイン タイ タイ インドネシア フィリピン インド インドネシア フィリピン イタリア ロシア インドネシア フィリピン イタリア メキシコ BBB/Baa イタリア 南アフリカ ロシア インド ロシア インド 南アフリカ 南アフリカ トルコ ブラジル ベトナム ベトナム BB/Ba トルコ ベトナム ブラジル トルコ ギリシャ ブラジル ギリシャ ギリシャ B ※6月13日時点 [出所:ブルームバーグ、アイザワ証券作成] ムーディーズ S&P フィッチ