法 花 ・ 維 摩 経 義 疏 に 見 ゆ る ﹁ 乞 食 ﹂ の 二 字 に つ い て ( 渡 部 ) 一 九 二
法
花
・
維
摩
経
義
疏
に
見
ゆ
る
﹁乞食﹂の二宇について
渡
部
孝
順
こ こ に い う ﹁ 乞 食 ﹂ の 二 字 と は 、 法 華 、 維 摩 経 義 疏 の 別 序 繹 に 見 ゆ る も の で あ る 。 別 序 を 注 繹 す る に 當 つ て 、 そ の 義 家 に 状 り 、 夫 々 、 注 繹 す る 態 度 が 相 違 す る 課 で あ る が 、 中 で も 、 南 北 朝 時 代 と 、 階 唐 時 代 と で は 、 そ の 差 が 大 き い よ う で あ る 。 例 え ば 、 梁 の 法 雲 法 師 の 法 華 義 記 を 披 い て 見 る と 、 第 一 に 浬 盤 経 、 第 二 に 勝 髭 経 、 第 三 に 維 摩 経 、 第 四 に 法 華 経 と 四 種 の 別 序 を 代 表 せ し め 、 謂 わ ば 、 實 例 を 學 げ て の 繹 で あ る 、 こ れ に 封 し 、 階 唐 時 代 に な る と 、 實 例 を 墨 げ る こ と は 第 二 義 に な つ て 、 別 序 そ の も の の 説 明 が 主 に な つ て い る の で あ る 。 慧 遠 の 大 般 浬 葉 経 義 記 を 見 る と 、 實 例 を 引 用 す る こ と が な く 、 別 序 を 緋 ず る に 略 し て 五 門 あ り と し 、 こ の 五 門 の 立 場 か ら 、 別 序 の 説 明 を 加 え て い る 。 吉 藏 の 勝 髪 寳 窟 で は 、 ﹁ 放 光 動 地 を 以 て 所 説 の 相 を 表 は す ﹂ と 、 浬 繋 経 の 別 序 一 例 の み を 學 げ 、 通 序 別 序 の 名 不 同 な る 所 以 を ﹁ 凡 そ 四 封 有 り ﹂ と し て 、 四 つ の 立 場 か ら の 注 繹 で あ る 。 次 き に 、 湛 然 の 大 般 浬 契 経 疏 を 披 い て 見 て も 、 矢 張 り 、 實 例 を 引 用 し て お ら ず 、 智 頻 の 妙 法 蓮 華 経 文 句 も 同 様 で あ る 。 こ こ に い う 、 法 華 、 維 摩 経 義 疏 の 別 序 繹 は 、 階 唐 時 代 の 影 螢 と い う も の は 全 然 見 當 ら な い 、 む し ろ 、 法 雲 の 法 華 義 記 の 別 序 繹 を 見 脅 つ た も の で あ る こ と だ け は 確 實 で あ る 。 吹 ぎ に 注 意 し た い こ と は 、 智 顕 や 吉 藏 に し て も 、 實 例 を 引 用 し た 注 繹 書 が な い 課 で も な い が 、 そ の 實 例 引 用 に 就 い て も 、 時 代 の 相 違 が 見 ら れ る 。 法 華 義 記 一 、 浬 葉 経 二 、 勝 髭 経 三 、 維 摩 経 四 、 法 華 経 智 頻 金 剛 経 一 、 法 華 経 二 、 維 摩 経 吉 藏 金 剛 経 一 、 勝 髭 経 二 、 維 摩 経 三 、 法 華 経 四 、 金 剛 経 湛 然 略 疏 一 、 大 品 経 二 、 般 若 経 三 、 法 華 経 四 、 維 摩 経 右 の 表 を 見 て も 分 る よ う に 、 法 雲 の 時 代 は 浬 桀 経 を 重 視 し て お つ た の で あ る が 、 階 唐 時 代 に 入 る と い う と 法 華 経 が 中 心 に な つ て い る 。 即 ち 、 浬 葉 経 、の 別 序 の 引 用 は 法 雲 に 限 ら れ て お つ て 、 そ の 他 は 浬 葉 経 を 忘 れ て 了 つ て い る 。 右 の 表 で 今 一 つ 氣 付 く こ と は 、 法 雲 が 引 用 し な か つ た 般 若 経 の こ と で あ る が 、 湛 然 は 、 大 品 小 品 の 般 若 経 を 引 用 し て い る と い う 事 實 で あ る 。 即 ち 、 階 唐 に 入 つ て か ら は 、 維 摩 経 よ り も 、 般 若 経 に 重 み が か か つ て 來 た と い う こ と で あ る 。 こ こ に い う 、 法 華 、 維 摩 経 義 疏 は 、 そ の 内 容 に 於 い て 、 維 摩 経 よ り も 、 般 若 経 に 重 み を 置 い た と い う こ と は 出 來 な い に し て も 、 維 摩 経 と 般 若 経 と は 同 一 内 容 を 持 つ て お つ た と 見 徴 す べ き も の が あ り 、 こ の 事 は 印 度 學 佛 教 學 研 究 誌 第 二 巻 第 二 號 の 聖 徳 太 子 の 教 剣 に 於 い て 少 し く 燭 れ て お い た 積 り で あ る か ら 参 照 し て 頂 く こ と に し ま す が 、 他 日 、 詳 し く 述 べ る 機 會 も あ ろ う と 存 じ ま す 。 法 華 、 維 摩 経 義 疏 は 、 全 く 、 梁 の 法 雲 法 師 の 流 れ を 汲 ん だ も の で あ る が 、 階 唐 時 代 の 雰 團 氣 に も 燭 れ た も の で あ る と い う こ と が 出 來 る よ う で あ る 。-570-右 の 事 實 を 頭 に 入 れ て 、 法 雲 の 義 記 と 、 法 華 、 維 摩 経 義 疏 の 別 序 繹 を 比 較 し て 見 よ う 。 法 雲 の 義 記 一 、 浬 葉 経 二 、 勝 蜜 経 三 、 維 摩 経 四 、 法 華 経 法 華 義 疏 一 、 浬 葉 経 二 、 維 摩 経 三 、 金 剛 経 四 、 勝 髭 経 五 、 法 華 経 維 摩 経 義 疏 一 、 浬 漿 経 二 、 勝 髪 経 三 、 金 剛 経 四 、 維 摩 経 法 華 、 維 摩 経 義 疏 は 法 雲 の 流 れ を 汲 ん だ も の で あ る に 關 わ ら ず 、 唯 一 つ 、 相 違 す る も の が あ る 。 そ れ は 、 金 剛 般 若 経 の 別 序 で あ る ﹁ 乞 食 ﹂ の 二 字 が 、 法 華 、 維 摩 経 義 疏 に 引 用 さ れ て い る と い う こ と で あ る 。 注 繹 書 に も 、 い ろ い ろ あ る 繹 で あ る が 、 別 序 繹 に 、 金 剛 経 の ﹁ 乞 食 ﹂ の 別 序 を 引 用 し た 注 繹 書 は 全 く 見 ら れ な い の で あ つ て 、 智 顎 の 金 剛 般 若 経 疏 に す ら 、 そ の 二 字 が 見 當 ら な い 。 唯 、 吉 藏 の 金 剛 般 若 経 疏 の み が 引 用 し て い る に す き な い 。 こ こ に い う 、 法 華 、 維 摩 経 義 疏 が 、 金 剛 般 若 経 の ﹁ 乞 食 ﹂ の 二 字 を 引 用 し て お つ た と い う こ と は 、 實 に 、 異 例 の 事 で あ る 。 法 華 、 維 摩 経 義 疏 に は 、 屡 々 ﹁ 維 摩 般 若 ﹂ な る 文 字 が 見 え て い る の で 、 こ の 場 合 の ﹁ 般 若 ﹂ と は 、 法 雲 の 義 記 や 湛 然 の 略 疏 が い う ﹄ 大 品 ﹂ や ﹁ 小 品 ﹂ を 指 し た も の で は な く 、 金 剛 般 若 経 を 指 し た も の で あ る か も 分 ら な い 。 こ の 事 は 、 他 日 燭 れ る 機 會 も あ ろ う 。 唯 、 こ こ で 想 像 を 逞 し う す る な ら ば 、 梁 の 武 帝 の 皇 太 子 で あ る 昭 明 太 子 が 、 こ の 金 剛 経 を 深 く 研 究 し 、 金 剛 経 を 三 十 二 章 に 分 類 し た と い う 事 實 で あ る 。 法 華 、 維 摩 経 義 疏 の 作 者 は 、 梁 の 時 代 の も の を 、 ま と も に 承 け た の で あ る か ら 、 梁 の 武 帝 の 話 、 あ る い は 、 昭 明 太 子 の 話 を 聞 い て お つ た ろ う と 想 像 さ れ る 。 そ う し た 關 係 か ら 、 法 華 、 維 摩 経 義 疏 の 作 者 は 、 殊 更 に 、 金 剛 般 若 経 に 注 意 を 彿 つ た も の で は な か ろ う か 。 昭 明 太 子 が 、 金 剛 般 若 経 を 分 類 さ れ た 三 十 二 章 の う ち の 第 九 章 に ﹁ 一 相 無 相 分 ﹂ な る 一 章 が あ る 、 ﹁ 無 相 ﹂ な る 言 葉 は 金 剛 経 の 中 心 を な す も の で あ る が 、 こ れ と 同 様 に 、 維 摩 経 義 疏 も ﹁ 無 相 ﹂ が 維 摩 経 の 中 心 を な す も の と し て い る 。 そ れ か ら ﹁ 一 相 ﹂ な る 言 葉 は 、 金 剛 経 に 全 然 見 つ か ら な い の で あ る 、 二 相 ﹂ な る 言 葉 は 、 法 華 経 や 維 摩 経 に 見 ら れ る も の で あ る 、 特 に ﹁ 一 相 無 相 ﹂ な る 言 葉 は 維 摩 経 に 見 ら れ 、 そ し て 、 維 摩 経 義 疏 に も 見 ら れ る 、 昭 明 太 子 が ﹁ 一 相 無 相 分 ﹂ な る 字 句 を 使 用 し た の は 維 摩 経 か ら 教 え ら れ た も の と 察 せ ら れ る が 、 こ こ に も 、 金 剛 経 と 維 摩 経 と の 繋 が り が 見 ら れ 、 昭 明 太 子 と 維 摩 経 義 疏 の 作 者 と が 、 目 に 見 え な い 關 係 が 窺 わ れ る 。 維 摩 経 中 の 名 所 と 云 わ れ る ﹃ 一 音 ﹄ の 繹 に 、 維 摩 経 義 疏 は 、 法 室 法 師 の 繹 を 引 用 し 、 そ れ に 批 到 の 筆 を 運 ば れ て い る が 、 法 室 法 師 と は 、 新 羅 王 の 法 興 王 の こ と で は な か ろ う か と 考 え ら れ る 節 が あ る し 、 特 に 、 維 摩 経 義 疏 の 作 者 は 、 法 興 王 や 昭 明 太 子 に 關 心 を た が め ら れ て お つ た 人 で あ ろ う と 考 え ら れ て 來 る も の が あ る 。 と に 角 、 法 華 、 維 摩 経 義 疏 の 作 者 は 、 金 剛 般 若 経 に 特 別 の 關 心 を 持 た れ た こ と だ け は 孚 わ れ な い よ う で あ る 。 法 花 ・ 維 摩 経 義 疏 に 見 ゆ る ﹁ 乞 食 ﹂ の 二 字 に つ い て ( 渡 部 ) 一 九 三