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e-モビリティ
ボッシュの戦略とビジョン
Dr. Rolf Bulander(ロルフ・ブランダー)
ガソリンシステム事業部長
ロバート・ボッシュ
GmbH
第
60 回オートモーティブ・プレス・ブリーフィング
2011 年 6 月、ボクスベルク
本稿は、実際の講演内容と異なる場合があります。
2 / 9 ページ ご来場の皆さま、 2 年前に開かれたオートモーティブ・プレス・ブリーフィングで、私たちは皆さ まと共にe-モビリティについて議論しました。当時、私たちはこの将来有望 な市場に対して、自動車部品サプライヤーであるボッシュがどのようなビジョ ンを抱いているか、どのような技術を開発し、どのようなマイルストーンを今 後達成する必要があるかを紹介しました。そして、私たちがなぜこの将来的 な分野に集中的に投資しているのか、その理由を説明しました。e-モビリ ティ普及の原動力となっているものは今も変わりません。現在でもなお、原 油価格の高騰、ならびにヨーロッパ連合(EU)や中国における自動車の CO2排出量の削減目標や、米国の企業別平均燃費基準(CAFE)などの法 規制が焦点となっています。同時に、社会の考え方も変わってきました。持 続可能性、低燃費、環境への配慮といった点が、自動車の購入を決断する 際に前面に押し出されるようになり、ディーゼル車やガソリン車の代替となる 自動車の重要性が高まっています。特に電気自動車の導入促進を狙った 各国の奨励プログラムもあります。そして、技術的には内燃機関および電動 化システムがともに飛躍的な進歩を遂げています。革新力のある自動車部 品サプライヤーとしての伝統を有するボッシュには、e-モビリティの未来を切 り拓くために大きな役割を果たす使命があります。 ボッシュは駆動システムの電動化を実現するための 「フルラインサプライヤー」 これは、私たちが遵守しなければならない義務です。現在までに、電動化シ ステムに必要な技術、コンポーネント、システムの開発のみならず、その産 業化にも着手しました。ヒルデスハイム工場では、ハイブリッド車向けの効 率的な電気モーターが生産されています。ヨーロッパでは合弁事業の枠組 みの中、ダイムラーAG と共同で電気自動車用電気モーターの開発と製造 を行います。2012 年以降、メルセデス・ベンツとスマートの各ブランドの電気
3 / 9 ページ 自動車に、このモーターが搭載されます。将来的には、他のカーメーカー向 けにも販売する計画です。合弁会社の拠点はヒルデスハイムに置かれてい ます。ロイトリンゲンでは、パワーエレクトロニクスシステムの量産を開始し ました。このシステムは、ハイブリッド車および電気自動車のモーターの出 力を制御するものです。また、サムスンSDI との合弁会社である SB リモー ティブ(SB LiMotive)が、2010 年から韓国のウルサン(蔚山)で自動車のリ チウムイオン電池用セルを生産しています。プラグイン・ハイブリッド車と電 気自動車向けに、迅速でかつダメージを与えないバッテリーへの充電が可 能なバッテリーチャージャーの開発が進められています。 e-モビリティは、ボッシュの従来のコンポーネント事業に加えて、私たちが展 開する新たな事業分野に可能性をもたらします。たとえば、充電インフラの 構築が挙げられます。Bosch Software Innovations GmbH は、電気自動 車の充電のソフトウェアプラットフォーム開発だけでなく、充電ステーションの 予約、電気料金の支払い計算のためのソフトウェア開発をしています。これ には、たとえば、さまざまなサービスプロバイダーとのインターフェース構築 なども含まれます。さらに、Bosch Software Innovations の充電ステーショ ンは、電力会社の電力網とエンドユーザーのインターフェースとなります。こ のソフトウェアと充電ステーションは、2011 年 5 月にシンガポールのパイ ロットプロジェクトで初めて導入されます。ボッシュ・サービスワークショップと オートモーティブアフターマーケット事業部もまた、将来的な市場に向けて準 備を進めています。ボッシュは、整備工場にハイブリッド車用の診断システ ムと実地トレーニングを提供しています。e-モビリティが真価を発揮するのは、 再生可能資源から得たエネルギーを使用する場合です。そこで、ボッシュで はエネルギー生成にも力を入れています。ボッシュの関連技術会社では、 風力発電設備用のギアユニットを開発・生産しており、また潮力発電所のプ ロジェクトをサポートしています。特にBosch Solar Energy は、太陽光発電 システムのセルとモジュールを提供する世界最大手のメーカーとして活躍し ています。
4 / 9 ページ ボッシュほど、e-モビリティの分野で幅広いコンポーネント、システム、サービ スを提供できるサプライヤーはありません。この製品ポートフォリオにより、 ボッシュはあらゆる製品を取り揃えている自動車産業界の「フルラインサプ ライヤー」の地位をすでに確立しています。自動車駆動システムの電動化に 毎年約4 億ユーロが投じられ、世界中で 800 人のボッシュ従業員がこの未 来の分野に取り組んでいます。とはいえ、ボッシュでは個々のコンポーネン トを開発し、大量生産することだけを目指しているわけではありません。各コ ンポーネントを統合して完璧に機能するシステムを構築することも私たちの 目標です。 成功要因としてのボッシュのシステム開発能力 ハイブリッド技術のトポロジーは多様で、システムは複雑です。ボッシュは現 在、電気のみで短距離の走行が可能な2 つのフルハイブリッドコンセプトに 焦点を合わせています。それは、パラレルフルハイブリッドとアクスルスプ リットハイブリッドです。両システムともブースト機能を使用して、特定の走行 条件で内燃機関をサポートします。これにより、将来的にガソリンエンジンや ディーゼルエンジンを小型化することが可能になります。たとえば、現在の 標準的なガソリンエンジンを例にすると、エンジンを大幅に改造することなく、 燃費向上と25~30%の CO2排出量削減を実現します。 パラレルフルハイブリッドの場合、電気モーターは内燃エンジンとトランスミッ ションの間のパワートレインに組み込まれます。取り付けスペースが狭いた め、これには技術的な問題がありましたが、逆にメリットにもなりました。この システムにより、オートマチック、CVT、またはダブルクラッチトランスミッショ ンもサポートできるのです。アクスルスプリットハイブリッドは、フロントアクス ルの内燃機関とリアアクスルの電動システムに動力を分割できます。このタ イプは、車両の全輪駆動システムにもなるため、ドライバーにとってさらなる 利点をもたらすものになります。 計測、統制、制御といったシステム開発能力がなければ、内燃機関、電気 モーター、クラッチの複雑な相互作用をコントロールし、ハイブリッド車を快
5 / 9 ページ 適かつ効率よく走行させることはできません。これを雄弁に物語っているの が、パラレルフルハイブリッドの「惰行」機能です。ドライバーがアクセルを離 すと、最高速度160 km/h までは惰行機能が作動します。内燃機関が停止 し、燃料を消費せずに車両が惰行します。安全性と快適性にかかわるシス テムはすべて、その間も完全に機能します。ドライバーがアクセルまたはブ レーキペダルに触れると、内燃機関がほとんど気付かないうちに始動し、再 びトラクションが回復します。このように、電気パワートレインにはボッシュの システム開発能力が活かされ、大いに役立っています。このシステム開発 能力こそが、ボッシュの顧客やカーメーカーが求めているものです。2010 年 以降、ボッシュはポルシェ・カイエンとフォルクスワーゲン・トゥアレグ向けに、 そして、先ごろからはポルシェ・パナメーラにもパラレルフルハイブリッド技術 を提供しています。今年は、PSA プジョー・シトロエンがボッシュの革新的な アクスルスプリットハイブリッド技術を搭載した、世界初のディーゼルハイブ リッド車であるプジョー 3008 HYbrid4 を発売します。ボッシュの e-モビリ ティ関連事業は今後も発展を続ける見込みです。これは、たとえば、リチウ ムイオン電池技術の合弁会社である SB リモーティブも例外ではありません。 2013 年までに、ボッシュは 12 社のカーメーカー向けに、電気モーター、パ ワーエレクトロニクス、バッテリーなどのコアコンポーネントに関する20 件の プロジェクトを実施し、量産化を目指す計画です。 SB リモーティブが国際的に成功 SB リモーティブは設立からわずか 3 年でさまざまな顧客の獲得に成功し、 現在は約850 人の従業員が働いています。SB リモーティブは BMW i3 と 1 シリーズの ActiveE 向けにリチウムイオン電池用セルを提供します。電気 自動車のフィアット500 EV には、SB リモーティブのバッテリーシステムが 搭載されます。また、米国大手カーメーカーのクライスラー、GM、フォードか ら、840 万米ドルにのぼるリチウムイオン電池用セルとバッテリーシステム 開発の注文を受けました。2015 年までに、SB リモーティブは韓国のウルサ ン(蔚山)のセル生産力を年間約4 ギガワット時にまで引き上げる計画で、 これは約18 万台の電気自動車をカバーできる量です。SB リモーティブと連
6 / 9 ページ 携するヨーロッパのカーメーカーが増え続けているため、2013 年以降にヨー ロッパにも生産拠点を設立することを検討しています。長期的に見て、大量 のバッテリーセルを大陸間で輸送することは、環境保護および物流の観点 でも無益です。 SB リモーティブではエキスパートたちが積極的に技術開発を進めています。 エネルギー密度と出力密度、耐用年数、サイクル耐性などの主要パラメータ は着実に改善されています。私たちは、2015 年までに SB リモーティブの 35 kWh バッテリー1 つで、200 km の航行距離が達成できると期待してい ます。さらに、自動車業界では耐用年数を12 年に伸ばすことが絶対条件と なりつつあります。最終的に、電気駆動システムが成功するかどうかは価格 にかかっています。SB リモーティブでは 2015 年まで 1 キロワット時あたり 350 ユーロに設定し、2020 年には 250 ユーロにコストダウンする方針です。 コストダウンを実現したとしても、6,000 から 12,000 ユーロというバッテリー 価格は、将来においても電気自動車やハイブリッド車のコストの大部分を占 めることになると考えられます。また、エンドユーザーにとっては電気自動車 を選択することで、日常的に車を使用する際にデメリットを感じないことが決 め手となります。 プラグイン・ハイブリッド – 多くの可能性を秘めたコンセプト そこで、カーメーカーと検討を進める中で、プラグイン・ハイブリッドが多くの 可能性を秘めたコンセプトとして浮上してきました。これにより、ドライバーに 必要とされるあらゆる走行タイプがカバーできます。都市の住宅密集地など では、自宅の電源ソケットで繰り返し充電することで何週間も電気のみを使 用して、ゼロエミッションで環境にやさしく走行することが可能です。プラグイ ン・ハイブリッドの場合は同時に、たとえば旅行に出かける際など、内燃機 関を利用して航続距離を伸ばすこともできます。従来の内燃エンジン搭載車 と比べた場合のハイブリッド技術の追加費用は、今後は約10%にとどまり、 許容の範囲内となります。ハイブリッド駆動システムと容量16 kWh のリチ
7 / 9 ページ ウムイオン電池に加えて、充電装置が必要になります。次のステップとなる のが、完全な電気自動車です。 ハイブリッドが暫定的な技術と考えられている一方で、中には今現在すでに 明確に電気自動車に狙いを定めているメーカーもあります。たとえば、中国 の場合は、できるだけ早急に原油への依存から脱却することが国を挙げて の目標になっています。そのため、人々の移動手段に別のエネルギー源を 開拓する必要性に迫られています。これは同時に、中国の大都市で問題と なっているエミッションの低減にもつながります。さらには、中国では昨今、 二輪車から四輪自動車に乗り換える人々が増えています。モビリティと言っ た場合は自動車が最大の関心事で、駆動方式が問題になることはあまりあ りません。中国政府はハイブリッド車や電気自動車の早期導入のため、これ らの技術に助成金を出しています。私たちは、ここに素晴らしい市場機会が あると期待しており、そのため、e-モビリティの分野を中国でも積極的に推進 しようと考えています。約100 人の従業員を擁する合弁会社の UAES(聯 合汽車電子有限公司、UnitedAutomotiveElectronicSystems)では、すで に中国のカーメーカー向けに電動化システムの開発が行われています。現 地でパワーエレクトロニクスと電気モーターの小規模生産も始まっています。 私たちは、中国の顧客向けに電気のみで駆動するデモ車両を製作しました。 この車両は、e-モビリティ分野におけるボッシュのあらゆるノウハウを結集し たものになっています。パワーエレクトロニクス、電気モーター、回生ブレー キシステムなどの補助ユニット、温度管理コンポーネント、SB リモーティブ のバッテリーシステムなど、試作車のパワートレイン一式がボッシュ製です。 標準化によるコストダウン 技術的な観点から言うと、電気自動車の実現に向けた道のりはそれほど 遠いものではありません。ただし、これには高いコストが伴います。私たち は、2020 年の電気自動車の価格は、同等の内燃エンジン搭載車と比べ て約45%割高になると予想しています。内燃機関のコストを 3,000 ユーロ 削減できた場合でも、電気パワートレインの約8,000 ユーロが追加されま
8 / 9 ページ す。そのうち、約6,000 ユーロがバッテリーのコストです。つまり、電動化シ ステム用コンポーネントの開発・生産を続ける上で重要な課題となるのは、 これらのコストを低減することです。将来的に購入者に電気自動車が支持 されるかどうかの決定的な要因となるのは価格です。生産台数が増加す れば、価格は低下して支持が拡大されます。これは、eBike からハイブリッ ド、プラグイン・ハイブリッド、電気自動車まで、e-モビリティ分野のすべて のプロジェクトに当てはまります。ボッシュの仕様課題リストでは、コストダ ウンが最優先事項になっています。これに関して、私たちは幅広いシステ ムノウハウ、および多数の開発プロジェクトや量産化プロジェクトを生かす ことができます。最初のプロジェクトで得たノウハウは、2 つ目のプロジェク トのベースとなり、これに基づいてさらに3 つ目のプロジェクトが実施され ます。蓄積したノウハウにより、開発スピードの迅速化、製品の品質向上、 研究開発費の低減が可能になります。同じことは、製造ノウハウについて も言えます。生産量が増加するとスケールメリットのおかげで、開発費用 や工具費用の分配が改善されます。早期に標準化が実現した場合、コス トが最適化されたモジュールコンセプトのベースが形成され、それにより バージョン固有の開発費用やテスト費用を削減できます。そのため、ボッ シュでは電気モーターなどのコンポーネント類には積極的にモジュールコ ンセプトを採用して、素早く、低コストで顧客ニーズに対応できるようにして います。 しかし、電気自動車が市場で成功するには、自動車業界は競争の差別化に つながらない設計要件や安全要件といった問題を標準化しなければなりま せん。ドイツ自動車工業会(VDA)では、初めてリチウムイオン電池用セル の規格を作成することに成功し、セルのサイズが統一されました。もっとも、 単純な電気コンポーネントの標準化については、これまであまり注目されて きませんでした。たとえば、各カーメーカー用に小ロットで個別生産している 高電圧給電ケーブルとインバータ間のプラグインコネクターは、シンプルな 部品にもかかわらず本質的な機能を担っている、非常に複雑なパワーエレ クトロニクスの半導体部品とほぼ同コストになっています。ここにコストダウ
9 / 9 ページ ンの可能性が秘められており、これこそがe-モビリティの迅速で幅広い導入 を後押しすることになります。 皆さま、 2020 年までは内燃エンジン搭載車が主流ではありますが、長い目で見て 将来性があるのはe-モビリティです。2020 年に全世界で製造される 1 億 400 万台の新車のうち、約 300 万台が電気自動車とプラグイン・ハイブリッ ド車、約600 万台がハイブリッド車になると私たちは見込んでいます。2025 年以降は電動化システムが大幅に増加し、内燃機関のみで駆動する自動 車は目立って減少するでしょう。遅くともそのころには、e-モビリティの時代が 幕を開けると考えられます。私たちは、コーポレート・スローガンである 「Invented for life」に従って、未来の e-モビリティを積極的に形成し、持続可 能なモビリティソリューションを提供するため、カーメーカーと力を合わせて チャレンジを続けるつもりです。