持続可能な社会のための情報誌
Vol.
41
2014
OCTOBER
NOVEMBER
水と緑の
地球環境本部
REPORT
「水と人」をテーマに
中国で「アジア学生交流
環境フォーラム」開催
murmur magazine
編集長
服部 みれいさん
INTERVIEW
「自分を大切にすることが
エコロジーな心の芽生えに」
FOOD
浅間山のふもとで
持続可能な農業を
北軽井沢有機ファミリー
CONSUMER
災害時に
「いのちを守る力」を
付けよう
危機管理協会など
MOTTAINAI
電気を使わない
加湿器を開発
宮地楽器
CSR
株式会社ナカダイ
廃棄物を素材として再生
廃棄物を素材として再生
株式会社ナカダイ
―「子どもが、いつでも好きなときにお い し い 物 を 無 料 で 食 べ ら れ た ら 」。 ご 自 身のそんな願いが「子ども食堂」に結び ついたそうですね。 もう 10年以上前になるのですが、中学 の教師をしている友人から、ある生徒の お弁当のふたを開けたらクッキーだけだ った、と聞いてシュンとした気持ちにな り ま し た。 「 夜 は 塾 で フ ァ ス ト フ ー ド や コンビニのお弁当を一人で食べている子 が い る 」。 そ ん な 話 も、 子 育 て の 経 験 の ない私の耳に入ってくるようになり、 「子 どもこそ、おいしい食べ物と出合ってほ しい」と痛切に感じました。 ―舞台はお寺。 住職の協力で、畳敷きの大きな部屋を 開放していただき、1日2回、計 40組の 親子を招いた食事会となりました。 ―食材は。 マーマーマガジンの読者が自主運営す るウェブサイト「マーマーな農家」に掲 き込んだごはん、トマトやズッキーニを 使ったカポナータ、丸麦といろいろな豆 のおひたしなど、栄養たっぷりの内容で す。 食 卓 を 囲 む 子 ど も た ち の 笑 顔 が あ り、 それを親やスタッフが温かく見守ってい た。夢のようにうまくいき、胸がいっぱ いになりました。 私は昨年、結婚をしたのですが、周り には結構、独身の女性や夫婦だけの人が いて、子どもと接することが少ない。子 どもを産んだ人、産まない選択をした人、 単身者がこういう場でふれ合うといい。 ―「おいしい」の1点でつながるわけで すね。 まさにそう。さまざまな世代が交わる ことで何かが生まれる。女性の生き方の サポートになるのではないかと思いまし た。 ―マーマーマガジンの名前の由来は。 murmurは英語で庭のざわめきや 川のせせらぎ、小さな声でつぶやくとい う意味です。 もともと私は育児雑誌の編集の仕事を していて、そこを辞めてからはフリーラ イターとなり、ファッションの記事など
服部 みれい
さ
ん
編集長
「 か ら だ、 こ こ ろ、 魂 へ の 気 づ き 」 な ど を モ ッ ト ー に し た 雑 誌「 m u r m u r m agazine」が今年、創刊7年目を迎えました。オーガニック(有機)や自然農 の 食、 循 環 型 の 暮 ら し に 関 す る 情 報 を 届 け る 季 刊 誌 で す。 「 子 ど も た ち が お い し い 食 と出合う場を」と、この秋には、編集長の服部みれいさんが発案した1日だけの食事 会「 子 ど も 食 堂 」 が 都 内 の お 寺 で 実 現 し ま し た。 「 自 分 の 心 や 体 が 楽 し く な る こ と が エコロジーにつながる」と服部さんは語ります。 【聞き手・明珍美紀、写真も】 「 オ ー ガ ニ ッ ク の 世 界 は 奥 深 い」と話す服部みれいさん 季刊で発行するマーマーマガジン を書いていました。体が丈夫ではなかっ た の で、 ( 5 本 指 と 普 通 の く つ 下 を 重 ね ばきする)冷えとり健康法や自然治癒力 を高めるホリスティックな療法、オーガ ニックの素材を暮らしに取り入れていく うちに、段々元気になりました。 オーガニックの世界は奥深い。けれど も、その内容があまり見えない。つまり きちんと伝わっていない。一方でファッ ションの世界は見せることが上手。そこ で、この二つを合体させた雑誌をつくろ うと思い立ち、マーマーマガジンが生ま れました。 ―読者は。 10代から 80代まで、女性を中心にさま ざまな人がいます。発行部数は約2万部 で、多いときは3万部。そのほか、月4 回発行するメールマガジンがあり、イベ ントや講座なども開いています。 ―この間、東日本大震災や福島の原発事 故が起き、ご自身の意識は変わりました か。 「 福 島 で つ く ら れ た 電 気 を 私 た ち は 使 っていた」と、改めてエネルギーの問題 を突きつけられました。 もちろん電気は使っていい。要はその 電気が何からつくられているのかという こと。福島の原発事故が終息していない のに原発を再稼働していいのでしょうか。 本当に安全で人にも自然にもやさしいエ ネルギーで生活をしたいのです。 ―普段の生活で実践しているエコは。 早寝早起きを心がけています。 私は 「買 い物は投票だ」と思っているので、自然 栽培の野菜やオーガニックコットンなど の衣料を買うようにしています。 まずは自分を大事にすることを考える といい。無理をしない。体にいいものを 取り入れる。あるいは 「こうしなければ」 と思い込んでいることを書き出し、それ を一つやめてみると楽になる。 自分の心と体にやさしく接するように なれば、自然と地球にやさしい生活にな っていくと思います。 フードデザイナーのた かはしよしこさん (左) と食材や料理について 説明する服部さん 載されている生産者のうち 10軒の農家が 提供してくれた野菜や穀類、果物などで す。岐阜に住む私の父も退職後、畑を始 めたので、そこからも届きました。 メニューは、フードデザイナーのたか は し よ し こ さ ん が 考 え、 ボ ラ ン テ ィ ア の ス タ ッ フと調理してくれました。 伝統野菜の五寸人参を炊オーガニックとファッション
二つの世界が合体
はっとり・みれいさん 1970年、岐阜県生まれ。クレヨンハ ウスの育児雑誌「クーヨン」の編集を手 がけて独立。08年、「マーマーマガジン」 創刊。現在は同マガジンを発行する「エ ムエム・ブックス」の代表で、夫の福太 郎さんは営業や実務を担当。 エムエム・ブックスのスタッフと 当日のメニュー表 都内の寺で9月6日に実施された「子 ども食堂」は、映画「聖者たちの食卓」 の公開(9月27日)にちなんで配給会 社(アップリンク)と協力して企画。同 映画は、1日10万食もの食事を人々に 無料提供しているインドの寺院を追った ドキュメンタリー映画。 「マーマーマガジン」(1冊600円、税 抜き)は年4回発行。全国の書店や雑貨 店、カフェなど約350店舗で取り扱って います。問い合わせはエムエム・ブック ス(☎03・6804・2207)へ。創刊7年目を迎えた「
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子ども食堂に参加した親子5 イ オ ン 環 境 財 団 の 岡 田 卓 也 理 事 長 が、 母校の早稲田大をはじめ、文化活動など で 親 交 の あ る 清 華 大、 高 麗 大 に 呼 び か け、 日 中 韓 の 大 学 の 学 生 ら が 参 加 し て 2012年夏からスタート。初回は日本 が舞台で、東日本大震災の被災地の岩手 県田野畑村や世界遺産の中尊寺、京都な ど を 訪 れ、 「 環 境 と は 何 か 」 と い う 基 本 的な主題に向き合いました。韓国で行わ れた2回目からベトナム国家大学ハノイ 校 の 学 生 が 加 わ り、 今 夏 は マ レ ー シ ア・ マラヤ大学が初参加。5大学計 80人の若 者が集い、8月4~ 11日まで開催されま した。 北 京 市 の 清 華 大 学 で あ っ た 開 講 式 で、 イ オ ン 環 境 財 団 の 岡 田 卓 也 理 事 長( 89) は「環境問題は国境を越え、地球規模で 取り組まなくてはなりません。フォーラ ムでの対話をきっかけに参加者同士の絆 を深め、 ネットワークを築いてください」 と呼びかけました。 水をたたえた湿原にのどかな雰囲気が 漂います。フィールドワークは、中国第 5の都市、天津から始まりました。ビル が林立する中心部を抜け、向かった先は 天津港に近いエリア。草が生い茂る湿地 が広がっていました。 「 こ こ は、 希 少 動 物 や 野 鳥 の サ ン ク チ ュアリ(聖域)です」と、清華大環境科 学系の劉雪華副教授( 50)が説明します。 企業誘致などに力を入れ、発展の波に乗 る天津ですが、その一方で、開発禁止区 域を設けて湿地を保全しています。 「なぜ湿地は必要なのか」 。この問いに、 早稲田大の清水康晶さん( 23)=文化構
アジア学生交流環境フォーラム
国の枠を超え若者たちの
ネットワークを
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生たちが集まり、国の枠を超えて水資源や生態系の保全につい
て考え、交流しました。
【明珍美紀、写真も】
中国大陸で
フィールドワーク
中国では干ばつや砂漠化の問題が深刻 化しています。黄砂は砂漠の砂が偏西風 に乗って飛来します。緑化活動が進む内 モンゴル自治区、クブチ砂漠の恩格貝を 訪れました。 学生たちは真夏の日差しを受けながら 砂丘を歩きます。小高い丘から見下ろす と、砂地にポプラなどの樹木が育ってい ます。 恩格貝は、1990年代初めに鳥取大 名誉教授の遠山正瑛さん(故人)が植林 を始めた地として知られ、砂漠の緑化を 通じて「日中の平和を」との願いが込め られています。 現地ガイドの宋慧敏さん( 31)は「こ のあたりはかつて草原でした。家畜の過 放牧や樹木の伐採で砂漠化が進み、戦争 による環境破壊もありました」 。 宋さんが住む包頭では、いまも年に3 ~ 4 回 程 度、 黄 砂 が 吹 き 荒 れ、 「 外 に も 出られない状態になる」といいます。 早稲田大で学ぶ中国出身の黄心怡さん ( 22) = 商 学 部、 現 在、 米 国 に 短 期 留 学 中=は「生態系を壊すと、そのツケは人 間にはね返ってくる」と考え込みます。砂漠の緑化活動
日中友好と
平和への思いが底流に
次は四川省。豊富な水をたたえる世界 文化遺産・都 と 江 こう 堰 えん を訪問しました。 水流の力と地形を利用して、治水、利 水を実現させた古代の水利施設。ダイナ ミックな景観と合わせて観光客を引きつ け ま す。 ベ テ ラ ン ガ イ ド の 郭 家 宏 さ ん ( 35)によると、 世界遺産の登録 (2000 年)で観光客が増え、ごみ問題が発生し ました。そのため、清掃スタッフやごみ 箱を増やすなどの対策が取られた、との ことです。 省都・成都市には活水公園がありまし た。 川のほとりにある「水の保護」をテー マにした公園で、微生物など自然の力で 川の水を浄化するシステムを園内に再現 し て い ま す。 「 エ コ シ テ ィ」 を 掲 げ る 市 のPRにも一役買っています。 成都では、ジャイアントパンダの繁殖 研究基地に寄りました。 「 見 学 の 目 的 は 絶 滅 の 危 機 に ひ ん し て いる希少動物の習性や生活環境を知って もらうこと」と劉副教授。世界中の人々 に愛されるパンダのためにも、森の生態 系を保全し、きよらかな水を保たなけれ ばなりません。 野外活動の締めくくりは、万里の長城 をのぞむ地での育樹活動です。イオン環 境財団が、地元と協力ながら植樹をして いる山を訪れ、水やりや手入れを手伝い ました。自然と共存する心
先人たちに学び
「地球規模で取り組む課題」
湿地は生態系の宝庫 内モンゴル自治区のガイドの宋慧敏さん 観光客を乗せるラクダ 世界遺産の都江堰で 活水公園で 昼寝をする パンダ 生 ま れ て 間 も な い パンダの赤ちゃん 植樹した木の手入れに汗を流す学生たち 開講式であい さつする岡田 卓也理事長 ASEPに参加した 5カ国の学生たち5カ国の
80人が集い
4 想学部5年=は「企業や個人が無制限に 湿地を開発すれば、水を汚すだけではな く生態系が壊れる。結果として食料不足 などの弊害を招く」と答えました。イオン環境財団 岡田卓也理事長
アジア学生交流環境フォーラム ( A s i a n S t u d e n t s Environment Plat form)6 広大な中国大陸。学生たちは移動で滞 在するホテルが変わるごとに、部屋割り の相手が変わり、異国の友が増えていき ます。夜はグループ別の討論を重ねまし た。 そうして迎えた最終日。成果発表で学 生たちが掲げた言葉は、 「国際協調」 「経 済、社会、環境の3つの持続可能性を保 つ」 「教育」――など。 「MOTTAIN AI」 をキーワードにしたグループは 「日 本語のもったいないという気持ちを持っ て、限りある資源を上手に活用しながら 自然を保護しようとの思いを込めた」と いいます。 クロージングセレモニーで修了証書が 渡され、8日間のフォーラムが閉幕しま した。 清華大の李周園さん( 24)=大学院2 年=は「今回は水に焦点を当てたが、中 国では農業で使われる農薬などの問題が あり、水や生態系に関わる。日本やその 他の国はどう対処しているのか。今後も 情報交換していきたい」と言います。 ベ ト ナ ム 国 家 大 学 ハ ノ イ 校 の ボ エ テ ィ・フェンさん( 20)=国際経済学部3 年=は「それぞれの国の学生と温かい交 流ができました。日本人は親切で細かな ところによく気がつきますね」 。 ベトナムは次回のフォーラムの開催地。 ベトナム戦争で使用された枯れ葉剤など の 問 題 を 抱 え て い ま す。 「 そ れ ぞ れ の 国 の経験をモデルとして、環境保護に生か したい」とフェンさん。 全行程に同行した、早稲田大留学セン ターの高野孝子教授( 51)は「環境問題 と向き合うときは、政治や経済、社会な ど の 面 か ら 多 角 的 に 考 え る こ と が 必 要。 フォーラムで得た成果を将来につなげて ほしい」と期待します。
学びと体験を未来に生かし
成果発表の準備は夜遅くまで続いた もったいないの踊りを発表 に盛り込んだグループ 寸劇を交えた 発表も 「リサイクルを事業として確立 させ循環型社会を目指したい」今
回 の フ ォ ー ラ ム に 初 参 加 し た マ レ ー シ ア の マ ラ ヤ 大 学。 学 生 た ち は グループ討論でも積極的に発言していま し た。 そ の 一 人、 ジ ェ ロ ン・ ケ ン さ ん ( 27) = 9 月 に 大 学 院 を 修 了 = は、 同 大 の学生らとごみの分別などリサイクルを 推進。ごみを出さず、浪費をしない「ゼ ロウェイスト・キャンペーン」を提唱し ています。 「 マ レ ー シ ア に も 水 質 や 大 気 汚 染、 ご み問題があります。私たちは市民の意識 を高めるための教育や啓発活動を行って い ま す 」。 日 本 で は「 北 九 州 の N G O と つ な が り が あ る 」 と い い、 「 ご み を 資 源 として再生させることで利益が生まれる 循環型の事業を展開していきたい」と話 していました。 高麗大の孫 ソ ン 東 ド ン 仁 イ ン さん( 21)=右、韓国出身 で早稲田大に通う李 リ 長 ジ ャ ン ブ 府さん ( 24)=中央、 中国出身の黄心怡さん。日中、日韓問題に ついて聞くと 「個人的には人と人との関係」 ( 孫 さ ん )、 「 卒 業 後 も 日 本 で 働 く 予 定。 韓 国への理解を広げるために役立ちたい」 (李 さん) 、「これまでの市民交流の積み重ねを も と に 解 決 の 道 を 築 い て い け れ ば 」( 黄 さ ん)などの意見が8 9 幼児を抱えた母親や高齢者など「災害 弱者」といわれる人々の防災意識の向上 に 力 を 入 れ て い る の が、 公 益 社 団 法 人・ 危機管理協会です。東日本大震災後、専 務理事の髙貝正芳さん( 54)を中心にチ ー ム を 組 み、 「 子 育 て マ マ 」 を 対 象 に し た体験型防災セミナーを各地で開いてい ます。 参加者は 「防災ゲーミフィケーション」 という独自のシュミレーションゲームに トライします。 「 あ な た の 立 場 は 母 親。 仕 事 中 に 震 度 6強の地震に遭遇し、電話もメールもつ ながらず保育園に通う子どもをはじめ家 族の安否が不明です。あなたは職場に残 りますか。それとも保育園に子どもを迎 えに行きますか」など、災害時を想定し た設問が用意され、選択した理由とリス クを書き出します。 「 こ の 問 い に 正 解 は あ り ま せ ん。 切 迫 したときに瞬時に決断する体験を通して、 一人ひとりが日常生活でのリスクを考え、 その『気づき』を家族や大切な人、地域 で共有することが目的です」と髙貝さん は強調します。 セミナーでは、乾パン、カレーなどの 非常食を実際に食べます。防災の基礎知 識の講習や、過去に自分が経験した災害 などの記憶をたどる「あのときを振り返 る」というプログラムもあります。 埼玉県防災学習センター (同県鴻巣市) で9月半ばに行われたセミナーには約 10 組の親子が参加しました。グループに分 かれて防災ゲーミフィケーションに取り 組 み、 「 も し も 」 の と き の た め に ど ん な 備えが必要かなどを話し合いました。 髙貝さんが防災問題に関わるきっかけ は、 1995年の阪神大震災でした。 「当 時は神戸で会社を経営していた。オフィ スが入っていた7階建てビルの1階はつ ぶれ、 自宅も全壊した」 。命の重みを感じ、 「この経験を伝えたい」 と強く感じました。 現在は東京を拠点に学校や企業、地域 をめぐって防災関連の講座やイベントを 展開しています。主な活動が「いのちの 体験教室」などの「いのちを守る」シリ ーズ。その一つが「子育てママ」向けの セミナーというわけです。 「 東 日 本 大 震 災 で は 巨 大 津 波 に 襲 わ れ たが、どんなに高い防潮堤をつくっても 100%安全とはいえない。また、自分 が生き残らなければ、家族を助けに行け な い 」 と 高 貝 さ ん。 「 大 切 な の は 命 を 自 前で守る能力を高めること」と説きます。
楽しみながら学ぶ
「防災劇場」
髙貝さんが監修するイベントに「防災 劇場」があります。防災の知識や情報を 盛り込んだマジックショー。マジシャン のKassyさん(本名・山口由 ゆ 興 き )が 主宰する 「魔法招会」 のパフォーマー (危 機管理主任資格保持者)らが登場し、防 災グッズの使い方や、火災や地震などの 被害に遭ったときの備えについて、マジ ックや寸劇を交えながらアドバイスしま す。 「 セ ミ ナ ー に エ ン タ ー テ イ メ ン ト 性 を加えた。楽しみながら学ぶこともポイ ントの一つ」といいます。 セミナーの問い合わせは危機管理協会 (☎ 03・5217 ・ 2011) 。「いのちを 守る@ママ」 の専用ホームページ ( http:// cma-atmama.org )も開設。いのちを守る
能力
を
危機管理協会専務理事
髙貝正芳さん
切迫したとき瞬時に
決断する体験を
シュミレーションゲームで
「日常生活でのリスクを考え、
その
『気づき』
を家族や地域で共有を」
自然は私たちに恵みをもたらす一方で、地震や異常気象などによる 災害で、ときには脅威の存在になります。不測の事態に直面したとき に、大切なのは命を守り、被害を最小限に食い止めること。防災の新 たな動きを追ってみました。 【明珍美紀、 写真も】 長期保存ができる缶 入 り の パ ン。 容 器 に は災害用伝言ダイヤ ルの説明も 防災劇場に出 演するKassy さん(右) 非常食を試す親子 阪神大震災での 経験を語る髙貝 正芳さん 防空ずきんになる 封 筒( デ ザ イ ン は 資生堂の渡辺真佐 子さん) クマ型の子ども 用ヘルメットを デザインした小 川裕子さん 笛と鍵が一つにな っ たcall key( デ ザインは佐々木晴 美さん) 危機管理協会が作製した備蓄品リスト 「ママの防災力」を高めよ うと子どもと参加した女 性たち=写真は埼玉県防 災学習センターで 非常時に便 利な防災ア イテム もしもの時のデザイン「災害時に役に立つ物や心のデザイ ン」展が東京都文京区の印刷博物館で開かれています。 笛と鍵が一体となり、がれきの中に埋もれたときなど、ピ ーと吹いて居場所を知らせられる「call key(コール・キー)」。 頭にかぶれば防空ずきんの代わりになる封筒。レリーフに沿 って切り取ることができ、避難所などで器代わりになるリユ ースのペットボトル――。100人のデザイナーたちが、生活 者の視点からデザインした防災用品や非常時の便利グッズが 展示されています。 公益社団法人・日本パッケージデザイン協会(JPDA)と 凸版印刷印刷博物館が主催。参加デザイナーの一人で、クマ の形をした子ども用ヘルメットをデザインした小川裕子さん は「動物のヘルメットなら非常時でも子どもたちが嫌がらず にかぶると思う。避難所に置いても心がなごむ」と言います。 JPDA理事長の加藤芳夫さん(61)=サントリー・シニア スペシャリスト=は「出品作品には機能的なだけでなく、愛 らしいものが目立った。災害に遭った人々が、少しでも前向 きになって明日への一歩を踏み出すために、デザインの力を 生かしたい」と話していました。 11月24日まで。入場無料。休館日など詳細は印刷博物館(☎ 03・5840・2300)。デザインの力を役立て
Daichi&keats
らかさがにじみ出ています。 満 蒙 開 拓 団 の 団 員 だ っ た 父 親 が 家 族 と 引 き 揚 げ た の は 清 水 さ ん が 1 歳 の と 微生物を殺してはならない」と清水さん は、除草剤を使いません。牛ふんなどで 堆肥もつくり、持続可能な農業を心がけ ます。 周辺の農家はキャベツ、レタス、ハク サイの栽培が主流ですが、 清水さんは 「お 客さんが欲しがるものを」とそれらに加 えてズッキーニやチンゲンサイ、花豆な ど計 15~ 20品目を育てます。なかでも縞 しま 模様のゼブラナス(イタリアのナスの一 種 ) は 評 判 で、 「 果 肉 が 引 き 締 ま っ て い るので厚切りにしてステーキにするとい い」と勧めます。 畑の広さは計約 16㌶。4~ 11月の繁忙 期はアルバイトを雇います。都会育ちの 若 者 た ち に 農 作 業 を 教 え る わ け で す が、 「 よ く や っ て く れ て い る。 こ っ ち も 若 い 人 か ら パ ワ ー を も ら っ て い る か ら ね 」。 農園で働いたのを機に就農した若者もい て「バイト同士でカップルも生まれたよ」 。 目指すのは、子どもたちが喜んで食べ る も の。 「 子 ど も は 正 直。 本 来 の 味 が 引 き出せれば、野菜が苦手な子どもたちも きっと食べてくれる」 大 自 然 が 相 手 の 日 々。 「 ま だ ま だ 挑 戦 は続く」と清水さん。群馬県の北軽井沢有機ファミリー
大地の生態系を守り
目指すは
「
子どもたちが
喜んで食べるもの」
清水忠雄さん
初秋の9月。JRの中軽井沢駅から北 へと向かうと、木々に覆われた街道につ ながります。行き先は群馬県の北軽井沢。 旅館やペンションが集まる中心部を抜け る と、 キ ャ ベ ツ 畑 が 広 が っ て い ま し た。 ファミリーのメンバー、清水さんの農園 で す。 「 今 年 は 雨 続 き で 大 変 だ っ た。 で も育ったものは味がある」と清水さんは、 キャベツの葉っぱに目をやります。日焼 けした顔が畑に注ぐまなざしには、おお 4軒の農家はいずれも息子たちが後を 継いでいます。 清 水 さ ん の 場 合 は、 長 男 の 明 俊 さ ん ( 41) が 会 計 士 か ら 転 身 し、 北 軽 井 沢 有 機ファミリーに加わりました。二男の裕 次さん( 33)は料理人となって近くでレ ストランを営みながら農作業を手伝いま す。 岩田さんは、長男の修一さん( 34)が 農業大学校を卒業して農業の道に。その ほか、関根貴志さん( 40)と桐渕正芳さ ん( 35)がファミリーの2代目として奮 闘しています。 「 自 分 た ち に は、 親 父 た ち が 受 け 継 い だ開拓(フロンティア)の精神があるの か も し れ な い 」 と 修 一 さ ん は 言 い、 「 自 分たちがベストを尽くすことが次の世代 に つ な が る 」。 明 俊 さ ん は「 植 物 は 土 と 水とおひさまがあれば育つ。食料にする ために我々が手をかけるのはそのうちの 1割」と話していました。 ゼブラナスを手にする明俊さん 清水さんの農園で飼って いるヤギのマイケル。雑 草を食べてくれる インゲン豆 ファミリーの2代目たちと(左から清水明俊さん、岩田修一 さん、清水忠雄さん、関根貴志さん、桐渕正芳さん) キャベツの生育を 見る清水忠雄さん標高1000㍍の高原で
4家族が連携
ファミリーの
2代目たちが奮闘
開拓の精神引き継ぎ
付近の畑で見つけた太陽光パ ネル。ためたエネルギーはイ ノシシよけの電線に使用 き。 「 お や じ は 苦 労 し て こ の 土 地 を 開 墾 し、 牛 を 飼 い 始 め た 」 と 振 り 返 り ま す。 清水さんが 26歳のときに父がこの世を去 り、酪農を継ぎました。 転機は 47歳で訪れました。農業仲間の 一人、岩田紀重さん( 67)がつくる野菜 を食べて「これはうまい」とうなりまし た。 「(岩田さんは)堆 たい 肥 ひ を使ってあれこ れ工夫をしていた。野菜の味が濃いとい うか。確かに違った」 健 康 な 土 で い い 野 菜 を 育 て よ う ――。 同 じ よ う な 志 を 持 っ た 男 4 人 が 集 ま り、 北軽井沢有機ファミリーが誕生しました。 大学で土壌の専門家から講義を受けるな ど、 そ れ ぞ れ「 自 分 流 」 を 追 求。 「 土 の さわやかな風が高原を駆け抜けます。浅間山をのぞむ群馬県の北軽井沢。 標高約1000㍍の地で、4家族の農家が連携して、多彩な野菜を育てて い ま す。 そ の 名 も「 北 軽 井 沢 有 機 フ ァ ミ リ ー」 。 食 物 は 人 間 に 栄 養 と 生 き る エ ネ ル ギ ー を 与 え て く れ ま す。 「 だ か ら こ そ、 そ の 食 べ 物 を つ く る 大 地 を大切にしたい」と、ファミリーの名付け親、清水忠雄さん( 69)は言葉 に力を込めます。 【明珍美紀、 写真も】 収穫された野菜たち 清水さんの農園は、地元のホテルをは じめ、東京の飲食店などと提携していま す。有機農産物の宅配などを手がける 「大地を守る会」とは約20年の付き合 い。丸の内のビル地下にある直営のレス トラン「Daichi&keats」(☎03・6273・ 4345)では、北軽井沢から届いた野菜 が食材に加わります。 料理長の中嶋知行さん(41)は「特 に葉物は茎や根に甘みがある」といいま す。間伐材などが使われた店内は「農園 風」のインテリア。都心のオフィス街で 働く人に栄養たっぷりのオーガニック料 理を提供しています。 大地を守る会のホームページ=http:// www.daichi.or.jp Daichi&keatsの サ ラ ダ ラ ン チ (スープ、パン付きで1080円)。 ブロッコリーやトウモロコシ、 サニーレタス、グリーンリーフ は清水さんの農園の野菜(食材 や栽培元は旬に合わせて変更) 木のぬくもりにあふれた店内12 13