1
はじめに
特別支援教育対象者の増加 図1 義務教育段階における特別な支援を要する児童生徒の割合 平成24年度に文部科学省が行った調査によれば、義務教育段階において通常の学級 に在籍し、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症と推定さ れ特別な教育的支援を必要とする児童生徒の割合は、6.5%と示されています。 義務教育段階における特別支援教育の対象者は、特別支援学校0.63%、特別支援 学級1.58%、通級による指導対象者0.69%の合計2.90%、それに通常の学 級で、LD等が疑われる児童生徒6.5%が加わり、これらの数値を合わせると9.4 0%になります。LD等が推定される児童生徒の全てが支援を必要とする訳ではありま せんが、義務教育段階では、約10%の児童生徒が特別な教育的支援を必要とする可能 性があることが考えられます。 これらの児童生徒は、就学前の段階、また高等学校段階においても何らかの教育的支 援を必要とすることが考えられます。 e-learning:特別支援教育自立活動とは
障害のある児童生徒が自立し社会参加するためには、知識や技能を習得していく各 教科等の指導の他に、学習上又は生活上の困難さに対応する力を獲得することができ るようにする自立活動の指導が必要です。 ここでは、自立活動とは何か、どうして自立活動が必要なのか、自立活動をどのよ うに教育課程に位置づければよいのかについて解説します。自立活動とは 自立活動の目標は、特別支援学校小学部・中学部・高等部学習指導要領に次のように 記されています。 個々の児童又は生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体 的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の 調和的発達の基盤を培う。 自立活動の内容は、人間として基本的な行動を遂行するために必要な要素と、障害に よる学習上又は生活上の困難を改善・克服するための必要な要素で構成しており、それ らの代表的な要素である26項目を六つの区分に分類・整理されています。 指導に当たっては、個々の児童生徒の指導上の課題を基に、六つの区分の下に示して ある項目の中から必要とされる項目を選定し、それらを相互に関連付けて具体的な指導 内容を設定することになります。 1 健康の保持 生命を維持し、日常生活を行うために必要な身体の健康状態の維持・改善を図 る観点 (1) 生活のリズムや生活習慣の形成に関すること。 (2) 病気の状態の理解と生活管理に関すること。 (3) 身体各部の状態の理解と養護に関すること。 (4) 健康状態の維持・改善に関すること。 2 心理的な安定 自分の気持ちや情緒をコントロールして変化する状況に適切に対応するととも に、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲の向上を図る観 点 (1) 情緒の安定に関すること。 (2) 状況の理解と変化への対応に関すること。 (3) 障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること。 3 人間関係の形成 自他の理解を深め、対人関係を円滑にし、集団参加の基盤を培う観点 (1) 他者とのかかわりの基礎に関すること。 (2) 他者の意図や感情の理解に関すること。 (3) 自己の理解と行動の調整に関すること。 (4) 集団への参加の基礎に関すること。
4 環境の把握 感覚を有効に活用し、空間や時間などの概念を手掛かりとして、周囲の状況を 把握したり、環境と自己との関係を理解したりして、的確に判断し、行動でき るようにする観点 (1) 保有する感覚の活用に関すること。 (2) 感覚や認知の特性への対応に関すること。 (3) 感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。 (4) 感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握に関すること。 (5) 認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること。 5 身体の動き 日常生活や作業に必要な基本動作を習得し、生活の中で適切な身体の動きがで きるようにする観点 (1) 姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。 (2) 姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること。 (3) 日常生活に必要な基本動作に関すること。 (4) 身体の移動能力に関すること。 (5) 作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること。 6 コミュニケーション 場や相手に応じて、コミュニケーションを円滑に行うことができるようにする 観点 (1) コミュニケーションの基礎的能力に関すること。 (2) 言語の受容と表出に関すること。 (3) 言語の形成と活用に関すること。 (4) コミュニケーション手段の選択と活用に関すること。 (5) 状況に応じたコミュニケーションに関すること。 自立活動は、特別支援学校の教育課程において特設された指導領域であり、その指導 を行うことによって、幼児児童生徒の人間としての調和のとれた育成を目指しています。 小・中学校等の教育は、幼児児童生徒の生活年齢に即して系統的・段階的に進められ ています。そして、その教育の内容は、幼児児童生徒の発達の段階等に即して選定され たものが配列されており、それらを順に教育をすることにより人間として調和のとれた 育成が期待されています。 しかし、障害のある幼児児童生徒の場合は、その障害によって、日常生活や学習場面 において様々なつまずきや困難が生じることから、心身の発達の段階等を考慮して教育 するだけでは十分とは言えません。そこで、個々の障害による学習上又は生活上の困難
を改善・克服するための指導が必要となります。 学校教育法第72条では「視覚障害者・聴覚障害者・知的障害者・肢体不自由又は病 弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して特別支援学校は小学校中学校または高 等学校に準ずる教育を施すとともに障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を 図るために必要な知識技能を授けることを目的とする」と示されています。これは特別 支援学校だけでなく特別支援学級また通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対し ても同様のことが言えます。 自立活動では、図2のように自立活動の時間における指導を中心とし、各教科、道徳、 外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動と密接な関連を保つことが重要であると示 されています。 図2 自立活動と各教科等の関連 すべての教員に知ってほしい自立活動の指導 学校教育法第72条では特別支援学校は障害による学習上又は生活上の困難を克服し 自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とすることが示されています。こ のように、自立活動は、特別支援学校の教育課程において特別に設けられた指導領域で あり、その目標は特別支援学校の目的と一貫性のあるものです。 一方、幼稚園、小学校、中学校、高等学校等の教育内容としては示されていませんが、 小学校及び中学校の特別支援学級や通級による指導では、特別な教育課程を編成するこ とによって取り扱うことができます。 小学校及び中学校の通常の学級や幼稚園、高等学校については、自立活動の指導を行 うことになってはいません。しかし、障害により支援を必要としている子どもは、どの 学級にでも在籍しています。 したがって、どこの学級でも障害のある子ども一人一人の困難に応じた指導が求めら れていることから、すべての教員は自立活動の視点をもつことが必要です。
自立活動
幼稚園、小学校、
中学校又は高等
学校に準ずる教
育課程
障害による学習上又は
生活上の困難を克服し、
自立のために必要な知
識技能を授ける
密接に 関連障害のある児童生徒の教育
各教科、道徳、外 国語活動、総合的 な学習の時間、特 別活動自立活動の教育課程上の位置付け 図3は、特別支援学校と小、中学校等における自立活動の取り扱いについて示した図 です。 図3 特別支援学校と小、中学校等における自立活動の取り扱い 特別支援学校においては、前述のように自立活動は教育課程において特別に設けられ た指導領域であることから、授業時間を特設して行う自立活動の時間における指導を中 心とし、各教科等の指導においても自立活動の指導と密接な関連を図って行われなけれ ばなりません。 小学校、中学校の特別支援学級や通級による指導においては、児童生徒の障害の状態 等を考慮すると小学校又は中学校の教育課程をそのまま適用することが必ずしも適当で はなく、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領に示されている自立活動等を取り入 れた特別な教育課程を編成する必要性が生じる場合があります。学校教育法施行規則第 138 条、同第140 条には、特別支援学級又は通級による指導において、特に必要があ る場合は、特別の教育課程によることができると規定し、自立活動の内容も取り入れ、 実情に応じた教育課程編成の必要性を示しています。 また、小学校又は中学校の通常の学級に在籍している児童生徒の中には通級による指 導の対象とはならないものの障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服を目的と した指導が必要となる子どもがいます。こうした児童生徒の指導にとっても適切な指導 や必要な支援を行うことが望まれます。
2
自立活動の指導の特徴
一人一人障害の特性に応じた指導 子どもの障害の状態は、一人一人異なっています。自立活動では、それぞれの障害に よる学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服することを目標にしているので、必 然的に一人一人の指導内容・方法も異なってきます。そのため、自立活動の指導に当たっては、個々の子どもの実態を的確に把握し、個別 に指導の目標や具体的な指導内容を定めた個別の指導計画を作成します。 したがって、個別の指導計画に基づく自立活動の指導は、個別指導の形態で行うこと が多くなります。しかし、指導の目標を達成する上で効果的である場合には、集団を構 成して指導することも考えられます。自立活動の指導計画は個別に作成されることが基 本であり、集団で指導することを前提とするものではない点に十分留意することが重要 です。 弾力的な指導 自立活動は、授業時間を特設して行う自立活動の時間における指導を中心としながら、 各教科等の指導においても、自立活動の指導と密接な関連を図って行います。 例えば、注意を集中させることが難しく、学習に取り組む時間が短い等の「障害によ る学習上又は生活上の困難」がある場合、この困難を克服・改善するために、時間割に 位置付け、時間を特設して行う指導(時間における指導)と各教科等(教育活動全体) の中で行う指導との関連を図りながら指導することが大切です。また、各教科等の中で も、必要に応じて、部分的に自立活動の指導を取り入れながら学習を進めていくことが できます。この場合は、あくまでメインは教科学習であり、教科の授業の流れを完全に 止めて行うものではなく、流れの中に滑り込ませるように指導を入れていくというイメ ージになります。 これらの指導は、教科の力を身に付けるための指導というよりも、障害による困難さ を軽減するための指導といえますが、結果的には、教科の力を身に付けることにつなが っていきます。
3
特別支援教育の推進と自立活動の指導
小・中学校等における特別支援教育の推進 通常の学級に在籍する障害のある子どもへの支援を行うことについて学校教育法では、 次のように規定されています。 学校教育法 第81条第1項 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び中等教育学校においては、次項各号のいずれ かに該当する幼児、児童及び生徒その他教育上特別の支援を必要とする幼児、児童及 び生徒に対し、文部科学大臣の定めるところにより、障害による学習上又は生活上の 困難を克服するための教育を行うものとする。 この規定は、特別支援学級の対象の児童生徒だけでなく、通常の学級に在籍する障害 により特別な支援を必要とする幼児児童生徒を指しています。 特別支援学校の地域におけるセンターとしての役割 特別支援学校は、地域の小・中学校等を支援する役割が求められるようになりまし た。学校教育法では、次のように規定されています。 学校教育法 第74条 特別支援学校においては、第72条に規定する目的を実現するための教育を行うほか、幼稚園、小学校、中学校、高等学校又は中等教育学校の要請に応じて、第81条第1 項に規定する幼児、児童又は生徒の教育に関し必要な助言又は援助を行うよう努める ものとする。 この規定により、特別支援学校は、特別支援学校に在籍する子どもに対する教育だけ でなく、小・中学校等の要請に応じて、障害により教育的支援を必要としている子ども に関して、必要な助言・援助が求められていることになります。このように、特別支援 学校は、地域において特別支援教育のセンターとしての役割を果たしていくことなりま した。このことは、特別支援学校が、より多様な障害の状態を示す子どもたちに対応す ることを意味しており、より多様な障害の状態を示す子どもの支援に対する助言や援助 を適切に行うことが求められます。特別支援学校は、地域における特別支援教育のセン ター的機能を果たしていく上で、自立活動の指導の専門性の向上に努めていかなければ なりません。 参考文献 文部科学省.2009.特別支援学校幼稚部教育要領、特別支援学校小学部・中学部学 習指導要領、特別支援学校高等部学習指導要領. コラム 「自立活動の指導」は「給食」と同じ? ある栄養教諭さんは、給食では、子どもたちの成長に必要な栄養素を 計算し、栄養バランスを考えた食材選び、調理法の工夫が大切だと言っ ていました。 これはまさに自立活動の指導と同じ考え方ではないでしょうか。 自立活動の指導は、児童生徒の実態を捉え(栄養計算)、6区分26項目の内容の 中から必要な内容を選択し(食材選び)、具体的に指導内容を設定(調理)していき ます。 さらに言うと、給食では、児童生徒に「おいしく、たのしく、進んで」食べてほし いと願い、調理法から提供の仕方まで工夫しています。これは、自立活動の指導で大 切にしている「主体的に」という視点に通じます。 自立活動の指導というと難しく考えてしまいがちですが、給食のように「必要な栄 養をとるために」、「適切な食材を選び」、「調理法を工夫して」、 児童生徒の「食べやすさ」を考えて提供するという視点で考え てみてはいかがでしょうか。きっと児童生徒の実態に合った、 児童生徒が主体的に取り組む自立活動の指導を作り上げること ができるでしょう。 作成:青森県総合学校教育センター特別支援教育課