• 検索結果がありません。

CD ROM WWW 10 WWW (1) Word 5,000 (2) (3) (4) 1 (5) (6) 2. CD ROMWWW

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "CD ROM WWW 10 WWW (1) Word 5,000 (2) (3) (4) 1 (5) (6) 2. CD ROMWWW"

Copied!
179
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

山梨大学教育人間科学部

附属教育実践総合センター

研 究 紀 要

No. 14

2009

社会科歴史授業における地域社会学習 — 単元「北海道の『山梨』」の場合— 服部 一秀,齊藤 功太,古川 明日香,萩原 義晃,鈴木 彩 . . . 1 茨城県東海村における1981年8月の海風の高度別流線と鉛直シアー 安達 隆史,筑紫 文夫,林 隆 . . . 23 茨城県東海村における1991年の秋,1992年の春,夏,冬の上層風 谷田 祐子,安達 隆史 . . . 41 学習履歴を中心にした大学の授業改善に関する研究 — OPPAを中心にして— 堀 哲夫 . . . 64 本学初等体育科教育学の授業における走り高跳びの指導 — ベリーロール及び背面跳びは小学生には危険な跳躍法かを通しての初等体育科教育学の授業の在り方 を考える — 植屋 清見,山田 直弘,澤邊 直人,小町 昂史,比留間 浩介. . . 72 チームスポーツにおける集団規範 — 特にバレーボールについて — 遠藤 俊郎,下川 浩一,安田 貢,布施 洋,袴田 敦士,伊藤 潤二 . . . 84 大学生の運動部活動に関する回顧調査 — 中学時代のストレス,サポート,自己効力感に注目して — 安田 貢,遠藤 俊郎,下川 浩一,布施 洋,袴田 敦士,伊藤 潤二 . . . 95 直流電流による磁界と「フレミングの左手の法則」の理解の実態 — 教員養成大学大学生を対象にして — 佐藤 博,白鳥 利恵 . . . 106 ニューヨーク州における障害幼児のためのレディネスプログラム 鳥海 順子 . . . 118 政策としての特別支援教育は何を生み出しているか? 古屋 義博,岡 輝彦,広瀬 信雄. . . 128 大学生の教育ボランティアが教育実践力の育成に及ぼす効果 進藤 聡彦,勢田 二郎,澤登 義洋,角田 修 . . . 139 病弱教育に関する理解促進を目的とした教育プログラム — 「院内学級イメージ」の変化に着目して — 谷口 明子. . . 152 教師の対人ストレスに関する基礎的研究 — ストレス経験に関する教師の語り — 赤岡 玲子,谷口 明子 . . . 159

山梨大学教育人間科学部附属教育実践総合センター

(2)

第1条 山梨大学教育人問科学部附属教育実践総合センター(以下「センター」という。)は、紀要編集委員会を 構成し、毎年、年度末にその年度の研究の成果を研究紀要にまとめ、これを『教育実践学研究』(以下 『センター紀要』という。)として刊行する。 第2条 『センター紀要』は、本学部教員及び附属学校園教員等の教育実践研究の推進に資する研究論文等を掲 載し、教育実践研究の推進に貢献することを目的とする。 第3条 『センター紀要』の内容は、教育実践研究を直接の対象とする「教育実践研究編」と、これを支える諸 科学の研究を対象とする「基礎研究編」、及びセンターの諸活動報告を中心とする研究情報等の提示を 柱として構成する。 第4条 諭文・報告は未発表のものに限る。ただし、口頭発表等の場合はこの限りではない。 第5条 原稿の採択・体裁の決定、発行は、紀要編集委員会が行う。 第6条 執筆要項は、別に定める。 第7条 原稿提出締切日は毎年9月最終木曜日を原則とし、センターで受け付ける。 第8条 投稿原稿の中で引用する文章や図表の著作権に関する間題は、著者の責任において処理する。 第9条 掲載された論文等の著作権は、原則としてセンターに帰属する。センターは、印刷媒体以外にCD–ROM、 WWW等を通じて論文等を公表することができる。特別な事情により著作権をセンターに帰属させる ことが困難な場合には、申し出により著者とセンターとの間で協議の上措置する。 第10条 掲載された論文等の著者は、出典を明記することにより、掲載論文等をセンターの許諾無しに、印刷媒 体・WWW等を通じて、複製・転載・公開することができる。 附 則 1. この規程は、平成17年7月27日から施行する。 2. 山梨大学教育人間科学部附属教育実践総合センター研究紀要刊行規程(平成16年4月1日制定)は、廃 止する。 山梨大学教育人間科学部附属教育実践総合センター研究紀要執筆要項 (平成17年7月27日制定) 第1. 原稿(論文題名、著者名、要約、キーワード、本文、参考文献、注記、図表・写真等掲載する内容のす べてを含む。)は電子的媒体(メールまたはフロッピーディスク)及び印刷物(2部)で提出する。 (1) 原稿作成にあたり、別途定める原稿作成要領に従う。Word等を用いて本文を含む原稿を作成する 場合、「書式なし」のファイル形式にして提出する。図表・写真以外に関し原稿作成要領に沿わな い形式の投稿については加工手数料として5,000 円を執筆代表者が負担する。 (2) 和文原稿は、常用漢字、現代仮名遣いにより、横書きとし、44字× 42行を1頁の目安とする。 (3) 欧文原稿は、横書きとし、半角 88字× 42行を1頁の目安とする。 (4) 図表・写真は、1枚毎に別々のファイルにして提出し、本文中での割付位置を提出物において示す。 (5) 提出するすべてのファイルの名前は、半角英数記号文字のみを用いる。 (6) 提出する印刷物の様式は問わない。 第2. 原稿の頁数は、制限しないが、CD–ROM化や WWW でのダウンロードの点から著しく容量を費やす ものについては、容量の縮小を要請する場合がある。 第3. 図表・写真で使用する色は問わないが、コンピュータ処理の関係で元の色が正確に再現できない場合が あることに留意する。図表・写真以外では白黒を原則とする。 第4. 和文、欧文原稿ともに冒頭に表題(副題を含む。)、著者名、所属名、要約(日本語400字、または欧文 200語以内)及び、キーワード(3∼5語)を記載する。表題と著者名は日・英両語で記載する。 第5. 参考文献は執筆者所属学会誌の記述形式に準じて、本文末尾に一括して記載する。 第6. 注記は、本文の該当する箇所に注記とわかるように挿入する。その注記は該当頁の下部に脚注として記 される体裁がとられることに留意する。

第7. 本文の見出しの番号の打ち方は{I, II, III}→ {1, 2, 3}→ {(1), (2), (3)}とし、参照する際には、章、節、 項と称することを原則とする。 第8. 校正は再校まで著者が朱書きで行い、期日までに提出する。校正は誤植の訂正のみにとどめる。 附 則 1. この要項は、平成17年7月27日から施行する。 2. 山梨大学教育人間科学部附属教育実践総合センター研究紀要執筆要項(平成16年4月1日)は、廃止 する。

(3)

A Study on the Development of a Junior High School History Course : — Unit Plan “Yamanashi as a place name in Hokkaido” —

服 部 一 秀∗ 齊 藤 功 太† 古 川 明日香†

HATTORI Kazuhide SAITO Kouta FURUKAWA Asuka 萩 原 義 晃† 鈴 木  彩†

HAGIHARA Yoshiaki SUZUKI Aya

要約: 社会科の歴史授業は,社会科の基本要件に応えなければならない.それは学習者に とって社会をわかることができる授業でなければならない.そのためには学習者が既有 のものの見方考え方を社会的なものの見方考え方へ改めつつ対象に取り組むことを学習 の基軸にする必要がある.本小稿では,その一つの可能性を明らかにするため,中学校 歴史的分野において求められている「身近な地域の歴史」の取り扱いの場合に即して具 体的な単元計画を提示する.この単元計画は,学習者が見方考え方を変形・拡大させつ つ地域の歴史事象について掘り下げ,その事象とともに当時の地域社会また日本社会や 国際社会の認識をうみだすことができるものである. キーワード: 社会科 歴史授業 見方考え方 「身近な地域の歴史」 単元計画  

I

はじめに

社会科における歴史授業は,社会認識としての歴史認識を学習者に形成できるものでなければな らない1.仮に年代史的枠組を維持するとしても,それぞれの時代についての学習では,少なくとも その時代の社会をわかることができるようにする必要がある.社会認識の教育は一教科としての社 会科の基本条件であろう2. 尤も,過去の社会について単に知識を教授すればよいというわけではない.学習展開を形式上に おいて課題解決的なものにすればよいというわけでもない.たとえ社会についての知識を教えても, たとえ学習展開を課題解決的なものにしても,一定の過程を踏んで一定の知識を受容させ,学習者の 頭の中とは無関係に授業は授業として行われるのであれば,学習者が社会をわかることができると は限らない.学習者が頭の中にもっている見方考え方を対象との取り組みにおいて社会的な見方考え 方に改められるようにし,新たな見方考え方と結びついたものとして時々の社会についての認識をう みだせるようにすることが重要であろう3. ∗社会科教育講座, †教育学研究科修士課程社会科教育専修 1 森分孝治「社会認識教育としての歴史教授を」,『社会科教育』No.284,明治図書,1986 年 6 月号,他,参照. 2 服部一秀「地理科・歴史科・公民科から社会科への変革要件」,日本教科教育学会『日本教科教育学会誌』第 27 巻第 1号,2004 年,同「政治的判断形成のための社会科地理授業」,山梨大学教育人間科学部附属教育実践総合センター『教 育実践学研究』第 13 号,2008 年,他. 3 池野範男「新しい学力観に立つ社会の指導」,文部省『中等教育資料』No.602,1992 年 8 月号,同「社会科は何をめ ざすべきか」,『社会科教育』No.377,明治図書,1993 年 5 月号,服部一秀「小学校の歴史学習の事例と指導−日本国憲 法の制定と経済の復興」,平田嘉三監修『歴史教育の理論と実践』,現代教育社,1996 年,他,参照.

(4)

本小稿では,その実際の可能性を明らかにするため,中学校歴史的分野での各時代の学習において 求められている「身近な地域の歴史」の取り扱いの場合に即して,具体的な単元計画を示す.それは 小単元「北海道の『山梨』」である4.小単元「北海道の『山梨』」は,北海道の「山梨」という地名 の追究を通じて,山梨県から北海道への集団移住につながった 1907(明治 40) 年の大水害について掘 り下げていき,その大水害とともに明治期の山梨県の地域社会また日本社会や国際社会の認識をう みだすものであり,山梨県内の中学校での実施を想定して作成されている.この小単元により,もの の見方考え方の変形・拡大に基づいて地域の歴史事象の考察を深めることで当時の地域社会そして日 本社会や国際社会について捉えられるようにできることを例示し,見方考え方の変形・拡大に基づく 歴史授業を提起する.と同時に,地域史の取り扱いにおける地域社会と日本社会や国際社会の学習を 提起したい5.学習内容・基本構成と認識づくりの学習構造について順に説明し,そのうえで単元全 体の計画を提示し,その特質・意義を示すことにしよう.

II

学習内容と基本構成

小単元「北海道の『山梨』」は,年代史的枠組において歴史授業を行うとすれば,近代史の学習の 一環に位置づくものである.この小単元では,1907(明治 40) 年に山梨県で起こった大水害の現象構 造と背後構造を学ばせる.それは,自然的要因である気象や地質・地形などの関連,社会的要因であ る養蚕・製糸業の発展や鉄道整備の遅れなどに伴う山林の荒廃,それらの結びつきによる水害の発 生・拡大という大水害の現象構造である6.また,山梨県の地域産業振興を目指した地域政治や養蚕・ 製糸業依存型の地域経済,藩体制解体後の中央集権体制下での国主導による日本経済の近代化の推 進,日本と欧米工業諸国やアジア諸国の国際経済関係という大水害の背後構造である7.この小単元 においては,そのような大水害の現象構造とともに背後構造を学ばせ,山梨県の地域社会の学習も, 日本社会や国際社会の学習も,何れも目的化する.小単元「北海道の『山梨』」は,近代史の学習の 一環において,学習者が明治期の多様なレベルの社会をわかること,関係づけてわかることを主要な ねらいとする. 学習者が 1907(明治 40) 年の大水害という事象を見出し,その現象構造や背後構造へと奥深く考察 をすすめていくための素材として,この小単元では北海道の「山梨」という地名について取りあげ る8.北海道の「山梨」という地名は,1907(明治 40) 年の大水害のため,多くの被災者が北海道の蝦 夷富士と呼ばれる羊蹄山の付近の数カ所へ集団で移住したことによるものである9.小単元「北海道 の『山梨』」では「なぜ北海道に山梨というところがあるのか」を主題にし,学習者にとっては当た 4 小単元「北海道の『山梨』」の着想にあたっては,山梨県立博物館シンボル展「『米キタ』『アスヤル』−明治四十年 の大水害から百年−」(2007 年8月 21 日∼9月 24 日),笛吹市・山梨県河川防災センター共催「明治 40 年大水害 100 年記念 第 21 回『川名人』笛吹講座」(2007 年 10 月 14 日,於笛吹市スコレーセンター)などより多くの示唆を得た. 5 原田智仁「ワールドワイドで学ぶ日本史と世界史のインターフェース (10) 身近な地域に世界の歴史を見る」,『社会科 教育』No.571,明治図書,2007 年1月号,参照. 6 養蚕・製糸業の発展と山林の荒廃の関係,山林の荒廃と水害の被害拡大の関係については,数多くの研究において明 らかにされている.代表的なものとして,齋藤康彦「近・現代の歩み」,飯田文弥・秋山敬・笹本正治・齋藤康彦『山梨県 の歴史』,1999 年,山川出版社,pp.274-277,有泉貞夫編著『山梨県の百年』,山川出版社,2003 年,pp.121-128,など. 7 当時における山梨県の養蚕・製糸業依存型の地域経済については,齋藤康彦『産業の展開と地域編成』,多賀出版, 1998 年,pp.120-124,など. 8 地名を素材とする学習については,谷川彰英『地名に学ぶ 身近な歴史をみつめる授業』,黎明書房,1984 年 などをは じめとして,多くの取り組みがすすめられてきている.山梨県教育委員会『ふるさと山梨 小学校編』,2008 年,同『ふ るさと山梨 中学校編』,2008 年 においても,山梨県内の地名について取り扱うページが設けられている. 9  1907(明治 40) 年の大水害の被災者だけでなく 1910(明治 43) 年の大水害の被災者も北海道へ集団移住した.大水害の 被災者の北海道移住については,小畑茂雄「明治四十年の大水害被災者の北海道移住について」,『山梨県立博物館研究

(5)

北海道の「山梨」という地名の追究を通じて,大水害の現象構造と背後構造を学べるようにするた め,小単元「北海道の『山梨』」はパート1からパート4までの四つのパートから構成される.その 基本展開についてまとめたものが 表 1 である. 表 1 小単元「北海道の『山梨』」の基本展開 パート1は,「なぜ北海道に山梨というところがあるのか」の追究を開始するパートである.導入 にあたるパート1では,北海道豊浦町の山梨小学校の校章を取りあげ,北海道の「山梨」という地名 について探ることにより,「明治四十年の大水害」と呼ばれる 1907(明治 40) 年の山梨県での大水害を 知る.このパートは,地名「山梨」の直接的な由来の追究による大水害の存在確認である. パート2は,「なぜ北海道に山梨というところがあるのか」の追究をもう一歩深めるため,「北海道 への集団移住につながったほどの大水害は大雨による自然現象にすぎないか」を探るパートである. ここでは 1907(明治 40) 年の大水害の発生・拡大について考察し,気象や地質・地形という自然的要 因を関連づけるとともに,養蚕・製糸業の発展や鉄道整備の遅れなどに伴う山林の荒廃という社会的 要因と結びつけ,大水害の現象構造を捉える.このパートは,大水害の現象構造認識づくりによる地 名「山梨」の追究の深化である. また,パート3は,「なぜ北海道に山梨というところがあるのか」の追究をさらに深めるため,「な ぜ山梨県では山林の荒廃につながるほどに養蚕・製糸業が盛んだったのか」を探るパートである.こ こでは明治期の山梨県における養蚕・製糸業の発展について考察する.地域産業の振興を目指す地域 政治に支えられた養蚕・製糸業の発展やその結果においてうまれた養蚕・製糸業依存型の地域経済, さらに藩体制解体後の中央集権体制下での国主導による日本経済の近代化の推進,欧米工業諸国と 日本と他のアジア諸国の国際経済関係へと掘り下げ,大水害の背後構造を捉える.このパートは,大 水害の背後構造認識づくりによる地名「山梨」の追究の深化である.

(6)

これらパート2とパート3は,北海道の地名「山梨」の追究を大水害の存在レベルに留めず,大水 害の現象構造レベル,さらに背後構造レベルへと深めるパートである. パート4は,以上を踏まえて,「なぜ北海道に山梨というところがあるのか」という問いに答えな おすパートである.ここでは北海道への集団移住につながった 1907(明治 40) 年の大水害の存在,現 象構造,背後構造の認識を整理する.北海道の「山梨」という地名と 1907(明治 40) 年の大水害の社 会的な成り立ちを捉え,学習内容を改めて確認する.とともに,この小単元の学習を踏まえて,以後 の授業や個人学習につながる新たな疑問をもつ10.このパートは,地名「山梨」の追究のまとめと新 たな追究の準備である. このように小単元「北海道の『山梨』」では,「なぜ北海道に山梨というところがあるのか」をパー トの進行に伴ってレベルを変化させながら繰りかえし追究する.[1 地名「山梨」の追究による大水 害の存在確認]から,[2 大水害の現象構造認識づくりによる地名「山梨」の追究の深化],[3 大水 害の背後構造認識づくりによる地名「山梨」の追究の深化],[4 地名「山梨」の追究のまとめと新 たな追究の準備]へと進む.北海道の地名「山梨」について取りあげ,その追究の反復的段階的進行 において「明治四十年の大水害」の存在と現象構造・背後構造を捉えさせ,地名「山梨」の由来や大 水害の構造とともに明治期の山梨県の地域社会や日本社会や国際社会を認識できるようにするわけ である.素材の追究を通じて,主題に対する認識づくりを繰り返しながら深め,段階的に学習内容へ と迫っていけるようにするのが,この小単元「北海道の『山梨』」の基本構成である.

III

認識づくりの構造

小単元「北海道の『山梨』」では,学習者が自らの頭の中にもっているものを使って考え,その限 界をのりこえるために社会的なレベルで物事について捉えたり考えたりする社会的見方考え方に改 め,新たな認識をうみだせるようにすることを狙う.各パートにおいては,学習者が既有の見方考え 方を投入したり変形・拡大したりすることで認識をつくるとともに新たな問題をもつことを学習の基 本枠組とする.このような基本枠組を問題の進化に沿って反復的に繰りかえすことにより,既有の見 方考え方を社会的な見方考え方に改めつつ取り組む認識づくりによって学習内容を新たな見方考え 方とともに学べるようにする.各パートにおける認識づくりの学習構造を整理すると, 表 2 の通り である. ここでは,大水害の背後構造の認識づくりを行うパート3の場合に即して,具体的に説明してみ よう. パート3の学習は,パート2の学習の結果においてうまれた「なぜ山梨県では山林の荒廃を招く ほどに養蚕・製糸業が盛んだったのか」という問題のもと,四つのサブパートですすむ.何れのサブ パートにおいても,学習者は産業の見方考え方を投入したり変形・拡大したりすることで認識をつく るとともに新たな問題をもつ. サブパート○1では,学習者は最初,昔の産業は自然によって決定づけられたものという既有の素朴 な産業観を使って,山梨県における養蚕・製糸業の発展を解釈しようとする.そこで「扇状地が多い ので養蚕・製糸業が盛んだったのか」を問い,扇状地が桑の生育に適していることを確認し,自然的 前提が産業に関わっていることを確かめる.とともに,養蚕・製糸業の生産が明治期に著しく伸びた こと,現在は養蚕・製糸業が盛んではないことなどから,既有の産業観やそれに基づく解釈の不十分 さに気づき,「山梨県の養蚕・製糸業が自然条件を活かしつつ急速に発展したのは,どうしてか」と いう問題をもつ. 10 社会科授業のオープンエンド化については,片上宗二『オープンエンド化による社会科授業の創造』,明治図書,1995

(7)

サブパート○2では,その問題を問い,器械製糸の山梨県における早期導入などの事実を知り,自然 的前提のもとでの人々の取り組みやそれを支えた仕組みに着目する.山梨県勧業製糸場の建設や養蚕 業の普及促進によって地域産業の振興を目指した地域の政治と結びつけたり,養蚕・製糸業に依存し

(8)

その好不調が地域全体を構造的に左右する養蚕・製糸業依存型の地域経済を捉えたりする.産業は自 然を前提としつつ地域の社会と結びついたものという新たな産業観へと既有の産業観を変形し,山 梨県における養蚕・製糸業発展の再解釈を行う.また,養蚕・製糸業が発展したのは山梨県だけでは ないという事実から,再解釈の不十分さに気づき,「養蚕・製糸業が山梨県だけで発展したわけでは ないのはどうしてか」という新たな問題をもつ. この問題を解くため,サブパート○3では,山梨県勧業製糸場と富岡製糸場の対比・関連づけによ り,国の働きかけに気づく.民間主導ではなく国主導で推進された経済の近代化,国による産業の育 成を必要にした近代国家形成・不平等条約改正という国家目標,および,江戸時代の体制のなかでの 企業の未成熟や産業発展の条件の未整備,国による主導を可能にした中央集権体制を捉える.社会と 結びつけて理解する産業観を地域社会だけでなく国家社会とも結びつけて理解する新たな産業観へ と拡大し,山梨県における養蚕・製糸業発展の再々解釈を行う.一方,当時の国内における製糸業と 絹織物業の規模の違いから需要面を意識し,再々解釈の不完全さに気づき,「養蚕・製糸業が大きく 発展するほどに生糸が売れたのはどうしてか」という問題をもつ. サブパート○4では,その問題を問い,山梨県製の生糸の商標に記された絵や文字などを手がかり にし,外国との関係に目を向ける.国際経済への日本経済・山梨県経済の編入,そして,日本と欧米 諸国の貿易,日本と他のアジア諸国の貿易,欧米諸国における産業革命や日本における急速な工業化 による三者の関係を捉え,山梨県や日本における養蚕・製糸業の発展を国際関係と関連づける.社会 と結びつけて理解する産業観を地域社会や国家社会とともに国際社会とも結びつけて理解する新た な産業観へと拡大し,山梨県における養蚕・製糸業の再々再解釈を行うことにより,「なぜ山梨県では 山林の荒廃を招くほどに養蚕・製糸業が盛んだったのか」という問題を解き,大水害の背後構造の認 識をまとめる. このようにパート3の学習は,学習者が産業についての既有の見方考え方を投入したり変形・拡大 したりして明治期の山梨県における養蚕・製糸業の発展の解釈を行うことで新たな認識をうみだすこ とや新たな問題に気づくことを基本枠組としている.そのような基本枠組を問題の進化に沿って四つ のサブパートで反復的に繰りかえすことで大水害の背後構造の認識を深めていく構造になっている. その他のパートでも,そのように既有の見方考え方の投入や変形・拡大によって認識をうみだすこ とと問題に気づくことを基本枠組とし,それを反復的に繰りかえすことで学習をすすめていくよう になっている.パート1では,地名観を自然的にあるものとしての地名から,人為的にうみだされた ものとしての地名へと改め,「山梨」という地名の由来を解釈し,大水害の存在を捉える.パート2 では,災害観を単一の自然的要因によるものとしての災害から,自然的要因の複合によるものとして の災害,自然的要因とともに社会的要因と結びついたものとしての災害へと改めることにより,大 水害の現象構造の解釈を行う.これらでは各々,次のパートへの問題もうみだす.また,パート3で は,上述の通り,産業観を自然によって決定づけられたものとしての産業から,地域社会と結びつい たものとしての産業,地域社会・国家社会と結びついたものとしての産業,地域社会・国家社会・国 際社会と結びついたものとしての産業へと改めることにより,大水害の背後構造を解釈する.最後, パート4では,この小単元を通して身につけた地名・災害・産業の社会的な見方考え方に基づいて追 究の成果をまとめ,さらに新たな疑問をもち,新たな追究を準備する. 小単元「北海道の『山梨』」では,このような基本枠組とその反復による認識づくりとして各パー トの学習を行う.この小単元においては,社会の物事は自然現象のようなものではなく諸条件下での 人々の判断や行為の集積の結果としてつくりだされているという見方考え方を重視し11,学習者が各 パートにおいて地名や災害あるいは産業のそのような社会的見方考え方へと既有の見方考え方を改 めつつ認識や問題をつくりだせるようにする.さらに,それを四つのパートにおいて行うことによ

(9)

IV

学習指導計画

小単元「北海道の『山梨』」は,学習者が地名・災害・産業の既有の見方考え方を社会的な見方考 え方に改めつつ北海道の「山梨」という地名の追究を深めていく認識づくりにより,1907(明治 40) 年の大水害や山梨県における養蚕・製糸業の発展について取り組み,明治期の山梨県の地域社会や日 本社会また国際社会にまで掘り下げてわかることを可能にしようとするものである. そのような小単元「北海道の『山梨』」の学習指導計画を表3として示そう12. 表 3 小単元「北海道の『山梨』」の学習指導計画 12 この小単元「北海道の『山梨』」の学習指導計画は,共同研究者5名が服部を中心にして全体の基本構想を練り,それ に従って原案づくりを分担して行った後(原案づくりの分担は,パート1−鈴木,パート2○1○2 −萩原,パート2○3 − 齋藤・古川,パート3−齋藤,パート4−古川),協議・修正を重ねることで,一往の完成に至ったものである.

(10)
(11)
(12)
(13)
(14)
(15)
(16)
(17)
(18)
(19)
(20)
(21)
(22)
(23)
(24)

V

結び−特質・意義−

小単元「北海道の『山梨』」の特質・意義は,次の三点にまとめられる. 第一の特質・意義は,学習者が歴史授業において,既有のものの見方考え方という既に自らの頭の 中にもっている枠組を社会的なものの見方考え方に改めつつ対象に取り組む認識づくりによって社 会をわかることである.この小単元は,教師の指導のもとに学習者が見方考え方の変形・拡大による 認識づくりを反復的に繰りかえし,それによって学習内容である歴史社会認識へと段階的に迫ってい くとともに新たな見方考え方を自らの中にうみだすことができる歴史授業である.学習者の認識づ くりによる歴史授業としては他のアプローチも考えられる.例えば,学習者が相互の相異なった見方 考え方に基づく解釈との関係において,自らの見方考え方や解釈を省みたり共同して新たにつくり だしたりすることに重点をおく討論型の授業なども考えられる.それらは学習者が社会をわかる作 用を学習の基軸にすることで共通する.学習者の頭の中と授業を結びついたものにし,社会的な見方 考え方とともに歴史社会を学べるようにすることが重要であり,その一つの可能性を小単元「北海道 の『山梨』」は具体的に示していよう. 第二の特質・意義は,学習者が地域の歴史事象について掘り下げていくことにより,地域レベルの 社会とともに国レベルや世界レベルの社会をわかること,それらを関連づけて相対化してわかるこ とである.小単元「北海道の『山梨』」は,地域史の取り扱いを地域史の学習で終わらせないし,日 本史の学習の単なる動機づけや具体例の参照に留めることもしない.社会科の歴史授業として,地域 史を取りあげるときにも当時の様々なレベルの社会を捉えられるようにする.それは地域社会認識・ 日本社会認識・国際社会認識づくりとしての地域史学習であり,現在の多様な社会を捉えるうえで有 意義な認識を学ばせるものとなっていよう. 第三の特質・意義は,様々な物事を学習者が一旦つきはなして見てみようと意識できることである. この小単元は,学習者が「身近な地域の歴史」をものの見方考え方を改めつつ解釈し,地名をはじめ とする様々な物事に社会性を読むことにより,自然現象のようなものと見てしまわずに社会現象とし て見つめなおしてみることの面白さや大切さを実感できるものである.当たり前と自明視せずに一 度疑問の眼を向けてみようとすること,社会の在り様を見出してみようとすることや新たな在り方 を考えてみようとすることは,社会の形成に向けた一歩にとって重要である.そのような態勢づくり を社会の認識づくりや判断づくりの学習を通じて促すことは社会科の授業において必要であろう13. 13 戸田善治研究代表『子どものポピュラー文化に関する教材開発研究』(平成 18 年度文教協会研究助成金研究成果報告

(25)

Stream lines in upper layers and vertical shares of sea breeze, August 1981 in TOKAI Village, IBARAKI Prefecture

安 達 隆 史∗ 筑 紫 文 夫† 林  隆‡

ADACHI Takashi TSUKUSHI Fumio HAYASHI Takashi

要約: 地学の気象分野は,環境問題を理解する上で重要な分野であるが,大学や高校に おいて,風が大気の汚染物質等を運び,拡散させているという観点での気象学教材が必 ずしも十分ではない.この論文は,科学的な新たな知見を発表するとともに,上記の教 材不足を補うものである.1981 年 8 月に茨城県東海村の海岸を含む陸側約 12km 四方の 領域において,日本原子力研究所によって 4 地点同時の測風気球観測が行われているの で,その貴重なデータを使用して,海風時に着目した約 1km 以下の高度別の流線と地点 別の風向風速の高度変化を解析した.その結果,地上から高度 75 m∼925 mに風向また は風速の顕著な鉛直シアーが認められた.その場合に,風速が高度とともに減少するた めに風速鉛直分布のべき法則が適用できないような事例があった.この鉛直シアーは大 気中に高所放出される大気汚染物質や放射性ガスの移流拡散予測に大きな影響を与える が,観測によって面的にとらえた例は,これまでにほとんど発表されていないので,貴 重な教材となる. キーワード: 海風,流線,鉛直シアー,ウインドシアー,大気汚染

I

はじめに

この論文は地学または環境科学の内,大気拡散に関係する気象を研究したものである.内容は,比 較的平坦な沿岸地域において,高い煙突または排気筒からの排煙または放射性ガスの移流拡散を予 測する場合に問題となる海風の鉛直シアーについてである.安達ら(2006)は 1980 年 10 月に茨城 県東海村で観測されたパイバル観測データを解析し,海風の顕著な鉛直シアーが地上 250∼750m に 現れたことを報告した.この時の観測点は海岸から内陸方向へほぼ一直線状に 10km までであったた め,横方向即ち,海岸線と平行な方向の風の分布状況がわからなかった.今回はほぼ同じ地域である が,翌年の 1981 年 8 月に,海岸を含む陸側約 12km 四方の領域において,4地点で同時に実施され たパイバル観測のデータ(角田ら,1986)を解析する.ここで,海風の鉛直シアーとは,地表からの 海風層とその上の反流または一般流などとの境目にできる風向または風速の差が顕著な部分を指す. 特に,風向差については 90 度以上の現象に着目した.また,パイバル観測とは,パイロットバルー ン観測の略語であり,測風気球をセオドライトという高度角・方位角の目盛がついた望遠鏡で目視追 跡するもので,測風気球観測とも呼ばれる. 典型的な海陸風は,地上付近で,昼間は海から陸へ向かう風,夜間は陸から海へ向かう風となる. 一方,数百メートル程度の上空では,それぞれ反流となっているとされる.実際には,この反流の 方向や高度はより規模の大きい気象現象(一般流など)の影響を受けることによって様々となり,反 ∗理科教育講座, †(財)日本気象協会首都圏支社, ‡(元)日本原子力研究開発機構東海研究開発センター原子力科学研究所

(26)

流と一般流などとの区別がつかなくなる場合もある.そのために煙突の高さと反流または一般流な どの高さとの兼ね合いで煙の行方も様々となる.このように海風の鉛直シアーの状況は環境アセス メントの際に重要な要素となる.一方,大学や高校において気象学や環境科学の講義を行う場合に, これまでに教材として使える海風の立体分布の実測例が必ずしも十分ではない.特に,地上から高度 1km 程度までを 50m 間隔で,なおかつ前記のように海岸から内陸にかけて複数地点同時に行われた 空間的・時間的に高密度の風向風速観測は,これまでにほとんど発表されていないので貴重である. 今回のこの研究も安達ら(2006)と同様に,大気汚染規制・原子炉施設の安全確保と教材開発の双方 からの要求に答えようとするものである. なお,この論文では,海岸付近の高い煙突等からの排煙等による陸上の大気汚染等に係わる研究を 目標としているので,海陸風機構に深く係わることはせず,海から陸に向かう風をすべて研究対象と して海風と呼ぶ.また,荒井ら(2008)は既に,東海村における 1992 年の夏の 2 週間について,高 度別風配図を,地上から 500m までは 50m 間隔,その上 1km までは 100m 間隔,その上 3km までは 1km 間隔で発表した.それらによると 1km 以下では北東から東の風,すなわち海よりの風が卓越し ているので,当該地域で海風の鉛直構造に関する研究を行うことには意義がある.

II

研究方法

この研究では,1981 年 8 月,茨城県の県都水戸市より北東約 15km の那珂郡東海村(東経 140 °34 ′北緯 36 °28 ′, 図 1 )において日本原子力研究所(現在,日本原子力研究開発機構)が実施した大 型の大気拡散実験“ TOKAI 81 ”の中のパイバル観測データ及び天気図(角田ら:1986)を利用する. この実験には,当時,著者らも研究者または研究受託者として実験計画策定,現地指揮,気象観測, ヘリコプター搭乗などに参加した.この実験の概要は角田ら(1987)と安達(1999)に紹介されてい るが,ここで簡単に述べると,海岸線上空 150m 高度に保ってヘリコプターを反復飛行させ,トレー サーガスを海岸線に沿った長さ約 7km の線状に高所放出するという大気拡散実験である.この野外 実験の結果は原子炉施設の「緊急時線量予測システム」の開発に供されたが,気象観測結果の基礎的 部分の多くは未発表のままである.従ってそれらを解析する今回の研究にはオリジナリテイがある. パイバル観測点を 図 2 に示すが,東端の海岸から A,E の順に内陸側(西方)に配置され,さら に南側に M,北側に J 点が配置されている.図中のほぼ南北の海岸線の右側が太平洋で,沖合は寒 流域であることが多い.海岸線の中央よりやや上方に,日本原子力発電株式会社東海第二発電所(略 称,東海原発)の港の防波堤があり,次に久慈川河口,さらに右上角が日立港となる.A点は日本原 子力研究所東海研究所(略称,原研)の構内にあり,海岸近くの平坦地であるが,A 点の西側には高 さ数 10m で南北 2km 程度の丘があるので,そのことに留意して E 点が配置された.この図の範囲内 は水田,畑,山林,住宅地,及び市街地で比較的平坦な地形である. パイバルによる風向風速の観測高度は,地上 25m から 50m 間隔で 975m 高までの計 20 高度であ る.この他に,高度別流線図用に,地上 50,150,200,250,300,500,950m 高の風向風速も内挿 計算により求めた.

III

解析

実験 ”TOKAI 81 ”は 1981 年 8 月 20 日∼28 日に実施され,海からの風が定常的に吹き,降雨が ない等の実験条件に合う 90 分間を単位として 11 回実施された.この 90 分間を実験の小区分として

(27)

群馬県 群馬県群馬県 群馬県 栃木県 栃木県栃木県 栃木県 東海村東海村東海村東海村 水戸 水戸水戸 水戸 千葉県 千葉県千葉県 千葉県 神奈川県 神奈川県 神奈川県 神奈川県 東京都 東京都 東京都 東京都 埼玉県 埼玉県 埼玉県 埼玉県 茨城県 茨城県 茨城県 茨城県 図 1 東海村の位置(関東地方北部,太平洋岸,茨城県の県都水戸市より北東に約 15km の沿岸地域. 気象庁の関東地方地図を元に作成) 図 2 東海村でのパイバル観測地点の配置(海岸の A 点の北側の突起は,東海原発の港の防波堤,さ らに北側が久慈川河口,さらに北は日立港である.図の右側が太平洋,左側が内陸.) RUN と呼ぶ.さらに,ダミー放出時間に相当する前段(60 分)を枝番の 1,捕集時間に相当する後 段(30 分)を枝番の 2 とし,簡単のためにそれぞれ前半,後半と呼ぶ.なお,ダミー放出時間とは, エアトレーサーが放出点から全捕集点まで達するに要する時間を確保するためのものである. 海風の鉛直シアーが観測された RUN(枝番付き)のみの実験時間,地上風,日射量,パスキル安 定度を 表 1 にまとめた.パスキル安定度には地上 7.5m 高の風速をそのまま適用した.なお,RUN11 の地上風向は弱風のために変化が大きかったので期間の代表性が低い.また,実験日の天気概況を 把握するために天気図も収集した.RUN は 1 回が 90 分で,その間に 15 分間隔で 7 回のパイバル観 測が前記の 4 地点同時に行われた.それらを地点毎に,前半 4 回(60 分間)と後半の 3 回(30 分間) に分け,前半は 4 回の観測値の平均,後半は 3 回の観測値の平均をそれぞれ用いた.使用した風向 風速のパイバル観測値は高さの観測間隔(50m)に相当する空間平均値とみなせるが,気球が毎分数 100m の速度で上昇するので,短時間の観測値である.そのため,時間平均も採用して観測精度を高

(28)

めたものである. 表 1 海風の鉛直シアー観測日時と A 点での地上気象 RUN 月/日 時間 地上 7.5m の 地上 7.5m の 日射量 パスキル安定度 風向 風速(m/s) (kw/m2) 3-1 8/21 14:00∼15:00 ENE 2.8 0.29 C 3-2 8/21 15:00∼15:30 ENE 2.5 0.24 C 7-1 8/25 8:30∼9:30 E 2.1 0.61 A–B 7-2 8/25 9:30∼10:00 E 2.9 0.72 A–B 8-1 8/25 12:30∼13:30 ESE 2.1 0.55 B 8-2 8/25 13:30∼14:00 ESE 2.0 0.66 A–B 9-1 8/25 15:30∼16:30 SE 2.6 0.13 D 10-1 8/28 14:00∼15:00 ENE 1.1 0.27 B 10-2 8/28 15:00∼15:30 ENE 1.0 0.25 B 11-1 8/28 16:30∼17:30 S 1.1 0.07 D 11-2 8/28 17:30∼18:00 SSW 1.0 0.01 D (注)前半(枝番の 1)は 1 時間,後半(枝番の 2)は 30 分間の平均値 RUN 毎に,海岸から内陸に向かう約 12km 四方の領域内で風向風速が鉛直方向と水平方向にどの ように変化するかを見るために,まず,高度別の流線図を作成した.この流線とは,時刻を固定し て,地点毎の風ベクトルを滑らかにつないだ直線または曲線のことである.次に,風向シアーを詳し く見るために,天気図の風向・風力記号を用いて,風向風速場の鉛直断面図に類似したものを作成し た.風向は矢羽の軸の向きで表すが,上向きが北風に該当する.南風ならば下向きに,東風ならば右 向きに,西風ならば左向きにする.北東風は北風と東風の中間,北北東風は北風と北東風の中間にな る.以下,同様である.風速は図中の例示に従って羽根の数と長さで表し,10m/s は塗りつぶした三 角旗で表す. 次に,風速の鉛直シアーを見るために 4 地点を重ねた風速鉛直分布図を作成した.以下に,RUN 毎の解析結果を述べる. 

1

RUN 3

の解析

図 3 に RUN 3 を実施した日(1981 年 8 月 21 日)の午前 9 時の天気図を示す.天気概況は,日本海 に低気圧が現れ,本州南方海上には台風 15 号があり,北上しているため,天気は全般に曇天となっ た.現地も曇天が続き,海岸線では特に雲底が低くなった.風は北東風で,まだ強くはならず 2∼3 m/s であった.この時はシーリング・視界不良のためにヘリコプター飛行が不可能となり,トレー サー放出が中止され,濃度のバックグランド捕集と気象観測が実施された.表 1 によれば,前半,後 半いずれも海風でパスキル安定度が C であった. 図 4 に RUN3 の高度別流線図を示す.左図に示した前半は 200m,250m,300m,500m のそれぞ れの間に風向の鉛直シアーが認められる.右図に示した後半は 200m と 250m の間に風向の鉛直シ アーが認められる.詳しく見るために, 図 5 に RUN3 の風向風速鉛直断面図を示すが,前半は 175

(29)

図 3 RUN 3 の実施日の天気図 図 4 高度別流線図(左図:RUN 3 前半,右図:RUN 3 後半,図の上が北,高度は左図,右図の各々, 上段左が 50m,上段右が 100m,二段目左が 150m,二段目右が 200m,三段目左が 250m,三段目右 が 300m,四段目左が 500m,四段目右が 950m.2 高度を結ぶ赤色の両矢印は,鉛直シアー発生気層 を示す.) 示すが,高度約 250m に風速の極小値が現れ,その前後の高度に風速の鉛直シアーが認められる.さ らに,300m 以下は風速が単純に高さとともに増大していないので,風速が単純に増加して風速鉛直 分布のべき法則が適用できるのはせいぜい 100m 以下である.結局,250m を中心として厚さ約 300m

(30)

の層が,下層の海風とその上の反流または一般流との遷移層となっていることがわかる.

図 5 RUN3 の風向風速鉛直断面図(前半は観測値 4 個平均,後半は 3 個平均:スカラー平均値,A 点:原研構内で海岸から 0.2km,E 点:A 点のほぼ西方で海岸から 3.7km,J 点:A 点のほぼ北西方 向で海岸から約 8km,M 点:A 点のほぼ南西方向で,海岸から約 8km,風向を表す風向軸の方向は 上が北風,右が東風,下が南風,左が西風を表す.風速(風力)は図中で示したように,矢羽根の長 さと数等で表す.矢羽根の記載がない高度は霧や雲のために欠測.従って,前半,後半ともに A 点 の地上 25m の風は北東風 4m/s 前後を表している.赤色枠は,鉛直シアー発生気層を示す.)

2

RUN7

の解析

図 7 に RUN7(8 月 25 日)の天気図を示した.東日本は,東方海上から張り出す高気圧に覆われ ていたが,南岸の前線が北上し,活発となったため,天気は雲が多く次第に下り坂となった.現地も 午前中は晴れていたが,午後は曇りとなった.風は 2∼3m/s 程度であったが,風向は午前中,東北 東から東,午後には東南東から南東に変化した.RUN7 の前半,後半ともに海風で,パスキル安定度 は A–B である. 図 8 に RUN7 の高度別流線図を示す.前半も後半も 300m 以下のほとんどで流線が曲率をもってい ることがわかる.これは領域内の風向の水平一様性が保たれていないことを意味する.また,300m と 500m の間に風向の鉛直シアーが認められる.詳しく見るために,図 9 に RUN7 の風向風速鉛直断 面図を示すが,前半は 425∼625m に,後半は 425∼575m に風向の鉛直シアーが確認される.800m 程度にも風向の弱い鉛直シアーが認められる.下から上に向って,東北東風の海風,遷移層,南風, 南東風の4層構造になっている. 図 10 に RUN7 の風速鉛直分布を示すが,高度約 500m に風速の極

(31)

図 6 RUN3 における 4 地点の風速鉛直分布(実線が A 点,破線が E 点,点線が J 点,一点鎖線が M 点.赤色矢印は,風速極小の高度を示す.)

図 7 RUN7,8,9 の実施日の天気図

のべき法則が適用可能な範囲はおよそ 150m 以下である.結局,500m を中心として厚さ約 200m の 層が,下層の海風とその上の反流または一般流との遷移層となっていることがわかる.

(32)

図 8 高度別流線図( 図 4 と同様,ただし,左図:RUN7 前半,右図:RUN7 後半)

3

RUN8

の解析

天気図は RUN7 と共通で 図 7 である.地上風は海風で,パスキル安定度は前半が B,後半が A–B である. 図 11 に RUN8 の高度別流線図を示すが,前半も後半も 300m 以下で流線が曲率をもってい ることがわかる.これは領域内の風向の水平一様性が保たれていないことを意味する.また,前半 も後半も 200m と 500m の間に風向の鉛直シアーが認められる.詳しく見るために, 図 12 に RUN8 の風向風速鉛直断面図を示すが,前半,後半ともに 225∼375m に風向の鉛直シアーが確認される. 700m 程度にも弱い風向鉛直シアーが認められる.下から上に向って,東風の海風,遷移層,南風, 南南東風の4層構造になっている. 図 13 に RUN8 の風速鉛直分布を示すが,高度約 300m に風速 の極小値が現れ,その前後の高度に弱い風速鉛直シアーが認められる.風速が単純に増加して風速 鉛直分布のべき法則が適用可能な範囲はおよそ 200m 以下である.結局,300m を中心として厚さ約 150m の層が,下層の海風とその上の反流または一般流との遷移層となっていることがわかる.

4

RUN9

の解析

天気図は RUN 7と共通で 図 7 である.後半は視程が悪く気象観測に欠測が多いので,前半を解 析した.地上風は海風で,パスキル安定度は D である. 図 14 に RUN9 の高度別流線図を示す.前 半は 200m と 500m の間に風向の鉛直シアーが認められる.詳しく見るために, 図 15 に RUN9 の風 向風速鉛直断面図を示すが,前半は 75∼325m に風向の鉛直シアーが確認される.500m 程度にも弱 い風向鉛直シアーが認められる.下から上に向って,東南東風の海風,遷移層,南風,南南東風の4 層構造になっている. 図 16 に RUN9 の風速鉛直分布を示すが,風速の増加率は 100m 以下,100m

(33)

図 9 RUN7 の風向風速鉛直断面図( 図 5 と同様,ただし,前半の A 点の地上 25m の風は東風 3m/s 前後を表している.) ∼500m,500m 以上の 3 層でそれぞれ異なっている.風速が単純に増加して風速鉛直分布のべき法則 が適用可能な範囲はせいぜい 100m 以下である.結局,250m を中心として厚さ約 500m の層が,下 層の海風とその上の一般流との遷移層となっていることがわかる.

5

RUN10

の解析

図 17 に RUN10 と 11(8 月 28 日)の天気図を示した.日本海に高気圧があり,本州南岸に前線が 停滞しているため,本州南部は曇雨天となった.現地もはじめのうち雨が降る天気であったが,午後 は晴れ間も見られるようになった.風は午後になって弱まり 1m/s 程度で,風向は東北東から南寄り の風に変化した.RUN10 の前半,後半ともに弱い海風で,パスキル安定度は B である.特に,前半 の地上風は一応,東北東風であるが,弱風のために風向変化が大きかった. 図 18 に RUN10 の高度別流線図を示す.前半と後半ともに 500m と 950m の間に風向の鉛直シアー が認められる.詳しく見るために, 図 19 に RUN10 の風向風速鉛直断面図を示すが,前半は 525∼ 925m に,後半は 425∼675m に風向の鉛直シアーが確認される.775m 以上にも E 点と J 点には風向 鉛直シアーが認められる.特に,J 点の風向は全高度に渡って高度変化が激しい. 図 20 に RUN10 の風速鉛直分布を示すが,前半は 400m 程度に最大が,900m 程度に極小が認められる.風速が単純 に増加して風速鉛直分布のべき法則が適用可能な範囲はこの 400m 以下である.それ以上のほとんど の高度では風速がマイナス勾配となっているのでべき法則は適用できない.後半は全層が弱風となっ ているために,はっきりした風速鉛直シアーは認められないが,かすかに 500m 程度に風速の極小が 認められる.

(34)

図 10 RUN7 における 4 地点の風速鉛直分布( 図 6 と同様)

(35)

図 12 RUN8 の風向風速鉛直断面図( 図 5 と同様,ただし,後半の A 点の地上 25m の風は東風 3m/s 前後を表している.)

(36)

図 14 高度別流線図( 図 4 と同様,ただし,左図:RUN9 前半,右図:RUN9 後半)

図 15 RUN9 の風向風速鉛直断面図( 図 5 と同様,ただし,前半の A 点の地上 25m の風は東南東 風 3m/s 前後を表している.)

(37)

図 16 RUN9 における 4 地点の風速鉛直分布( 図 6 と同様.赤色矢印は,本文で言及した着目高度 を示す.)

(38)

図 18 高度別流線図( 図 4 と同様,ただし,左図:RUN10 前半,右図:RUN10 後半)

6

RUN11

の解析

該当の天気図は RUN10 と共通で 図 17 である.RUN11 の前半,後半ともに風弱く,地上風向は 海風と陸風の境目で,夕方のためにパスキル安定度は D である.特に前半は風向が大きく変動した. 図 21 に RUN11 の高度別流線図を示す.前半は 200m と 250m の間,および 500m と 950m の間に 風向の鉛直シアーが認められる.後半は 150m と 300m の間,および 300m と 500m の間に風向の鉛 直シアーが認められる.詳しく見るために, 図 22 に RUN11 の風向風速鉛直断面図を示すが,前半 は 125∼325m 間および 375∼775m 間に,後半は 125∼475 m間および 525∼825m 間に風向の鉛直シ アーが確認される.特に,前半の J 点の 125m 以下が他の地点の風向とはっきりと異なっていて,弱 風のために水平一様性が崩れている. 図 23 に RUN11 の風速鉛直分布を示すが,全層が弱風のため に高度変化が顕著でない.詳しく見れば前半は 400m 程度が最大になっていて,後半は 100m 程度が 最大で,400m 程度が極小となっている

IV

まとめ

茨城県那珂郡東海村において 1981 年 8 月に観測された海風の水平分布と鉛直分布から,高度約 1km 以下に表れた顕著な風向または風速の鉛直シアーを 11 例抽出して,詳しく解析した結果,次のこと が判明した.ただし,大気汚染濃度予測に言及する場合は,ほぼ短期濃度評価に関するものである が,現象の出現頻度が多い場合は長期濃度評価にも波及する事柄である.

(39)

図 19 RUN10 の風向風速鉛直断面図( 図 5 と同様,ただし,前半の A 点の地上 25m の風は北東風 2m/s 前後を表している.)

(40)

図 21 高度別流線図( 図 4 と同様,ただし,左図:RUN11 前半,右図:RUN11 後半)

図 22 RUN11 の風向風速鉛直断面図( 図 5 と同様,ただし,前半の A 点の地上 25m の風は東南東 風 2m/s 前後を表している.)

(41)

図 23 RUN11 における 4 地点の風速鉛直分布( 図 16 と同様) 1. 研究対象領域の高度 300m 以下において,流線は直線ばかりでなく,曲率を持つ場合があった ことから,風向の水平一様性は必ずしも保たれていない.このことは,大気汚染濃度の予測計 算を行うときに風向として,放出点の値だけを使うと,煙軸位置にある程度の誤差が生じる可 能性を示唆している. 2. 風向の高度差がほぼ 90 度以上の鉛直シアーは地上 75∼925m に現れた.このことは,大気汚 染濃度の予測計算を行うときに.地上付近の風向をもって数 100m 上空の風向の代替とすると, 煙軸方向に 90 度以上の誤差が生じる可能性を示唆している.そのことによって,煙軸が陸上に 現れるか,大気汚染濃度評価の対象外の海上に現れるかという,評価上の大きな違いに発展す る可能性もある. 3. 風向の変化途中の遷移層の厚さは 150∼400m であった. 4. 風向の鉛直シアーは風速の極小または風速のマイナス勾配を伴う場合が多い. 5. 顕著な鉛直シアー出現の高さや程度は,一般流の影響を受けるので規則性を見つけることはむ ずかしい. 6. 風速の極小または風速のマイナス勾配が地上 100m 以上に現れることがあった.このことは,風 速鉛直分布のべき法則が適用できるのはせいぜい地上 200m 以下であることを示唆している. 以上の知見は大気汚染濃度予測などの研究または行政面での規制に役立つとともに,大学や高校 において気象学や大気環境関係の講義教材として活用できる.

(42)

参考文献

[1] 安達隆史, 筑紫文夫, 林 隆, 2006:茨城県東海村の沿岸地域で観測された海風の鉛直分布, 山梨 大学教育人間科学部紀要, 7(2), 1–8.

[2] 角田道生, 林 隆, 1986:大気拡散実験データ Vol. 1, ”TOKAI 80, TOKAI 81 ”, 日本原子力研 究所, JAERI-M 86-021, 270pp. [3] 荒井友香, 安達隆史, 2008:茨城県東海村における 1992 年の夏と冬の上層風, 山梨大学教育人間 科学部紀要, 9, 14–21. [4] 角田道生, 林 隆, 安達隆史, 1987:野外大気拡散実験(緊急時線量予測システム開発のための野 外実験及び風洞実験の第2章), 日本原子力研究所, JAERI-M 86-187, 2–45. [5] 安達隆史, 1999:境界層理論と野外実験の適用による大気拡散推定法の研究, 大気環境学会誌, 34(2), 43–52.

(43)

Ibaraki Prefecture, Japan

谷 田 祐 子∗ 安 達 隆 史†

YATA Yuko ADACHI Takashi

要約: 気象学は教員養成系の大学では,理科教育専修の地学分野に含まれるが,環境科 学の分野にも当然,含まれる.近年の地球環境問題を理解する上で重要な分野であるに もかかわらず,大学や高校において,風が大気の汚染物質等を運び,拡散させているとい う観点での気象学教材が必ずしも十分ではない.この研究は,科学的な新たな知見を発 表するとともに,上記の教材不足を補うものである.この研究では,茨城県東海村の日 本原子力研究所によって 1991∼1992 年に実施された,四季別2週間の低層レーウィンゾ ンデ観測(地上から高度 3000m まで 50m ごと)による風向風速データを入手して解析し た.解析結果は季節別高度別の風向頻度などを表わした風配図,上層風の実測値と推定 値の比較図,風向風速の日変化図などで表わし,大気汚染濃度予測の観点から考察した. キーワード: 東海村,上層風,風配図,鉛直シアー,海陸風

I

はじめに

この研究は,著者の谷田(2008) が,ソフトサイエンス課程環境科学コース (地学分野) の平成 19 年度卒業研究として行った「レーウィンゾンデデータによる上層風の研究」の成果を教育実践総合 センター研究紀要の論文として取りまとめたものである.内容は公開されている日本原子力研究所 (現在名は,独立行政法人日本原子力研究開発機構であるが,ここでは,利用した気象観測の実施時 期での名称を使い,短く「原研」と呼ぶことにする.)による気象観測データを有効活用したもので, 理科教育教材の開発という意味もあるので,解析図を多く掲載した.なお,研究の手法と対象地域が 同様であるが,夏と冬の上層風を解析した荒井(2007)と荒井ら(2008)の研究に引き続くもので ある. 我が国では,これまでに火力発電所の環境アセスメントや原子炉施設の安全解析のための特別気 象観測が電気事業者によって多くなされているが,四季別1週間というように観測期間があまり長く ない場合や,低い高度のみ観測される場合が多い.また,それらの気象観測データは公表の義務がな いので,ほとんどが公表されていない.しかし,今回研究対象地域に選んだ茨城県那珂郡東海村の原 研では,大気拡散に関係する気象の研究がなされていて,観測・実験データ集がしばしば刊行されて いる.今回利用できた気象データは,著者の安達も参加した試験研究(林ら,1998a,b,c.d)によるも ので,四季別2週間で,地上から高度 3000m まで 50m ごとに風向風速気温が観測(低層レーウィン ゾンデ観測という.)されているので,これまでにない貴重なものである.ただし,今回は風向と風 速の解析を行い,気温の解析は今後の課題とした. 当研究では,荒井(2007),荒井ら(2008)による 1992 年の夏と冬についての研究成果を再吟味 し,それに加えて,同年の春と前年(1991 年)の秋を追加することによって四季を揃えて,比較的 ∗ソフトサイエンス課程環境科学コース学生,現在,株式会社エヌアイデイ, †理科教育講座

(44)

平坦な沿岸地域での大気汚染濃度予測手法研究の基礎資料を得る目的で,大気境界層内での季節や 高度による風向・風速の変化を調べて,風配図に取りまとめた.また,高度が変わると,風速は変化 する可能性があるが,環境アセスメントの経費節約のために煙が主に流れる高度での上層風観測が 省略される場合がある.その場合は,1年間,観測された地上風から1年間の上層風を推定する必 要が生じる.その際,よく使われるのは,風速鉛直分布の「べき法則」である.その法則のパラメー タである「べき指数」は,適用する高度や地域によって異なる可能性があるが,もしも統一した取り 扱いが出来れば便利である.安達(1981)は接地境界層の理論に基づいて地上 150m までに適用する 「べき指数」を地面粗度別に導いた.また,米国環境保護庁(EPA)承認の長期平均濃度用拡散モデ ルである CDM にも「べき指数」(環境庁;1988,公害研究対策センター;2000)が記載されている. ここでは試しに,この米国環境保護庁(EPA)の「べき指数」を取り上げて,今回の観測データに適 用してみる研究も行った.ただし,超音波風向風速計による地上風と気球観測による上層風とでは観 測方法に違いがあることと,地上風が周辺地物の影響を受けやすいことから,それらの影響を取り除 いて「べき指数」の有用性を確かめるため,地上 50m 風を既知として,地上 100m,150m,200m 風 を推算することにした. なお,これまでに,上記東海村地域で,四季,各 14 日間,3 時間間隔のデータによる地上から 3000m まで,50m,100m,または 1000m 間隔での風向別平均風速付きの風配図を示す研究や,季節別の地 上 200m までの上層風を風速鉛直分布の「べき法則」によって推定する研究はほとんど報告されてい ない.

II

研究方法

1

研究対象地点

茨城県那珂郡東海村 ( 図 1 ) の海岸部にある原研の東海研究所及び日本原子力発電株式会社東海発 電所・東海第二発電所を含む村内の南北に約 7km,東西に約 5km の比較的平坦な土地が研究対象地 域である.東海村は,関東地方の北部の太平洋側に位置し,東経 140 °34’,北緯 36 °28’ で,県都水 戸市から北東へ約 15km の距離にある(東海村 HP).

2

使用データ

原研が特別会計受託事業「環境放射能拡散評価安全性実証試験」において取得した長期野外拡散試 験データの内の気象観測データ(林ら,1998a,b,c,d)を用いた.観測時期は秋季(1991 年 10 月から 11 月),春季(1992 年 3 月),夏季(1992 年 7 月から 8 月),冬季(1992 年 12 月)の四季に 14 日ず つである.主に使用したデータは,試験期間中の3時間毎の低層レーウィンゾンデによる地上から高 度 3000m までの上層の風向風速観測結果である.観測場所は,秋季と春季が発電所北側の原研北部 敷地,夏季と冬季が原研海岸部の第二排水口付近である.この観測は,100g 気球にヘリウムガスを毎 分 200m で上昇するように充填し,これに低層ゾンデを吊り下げて放球し,低層ゾンデから送られて くる気圧,気温,湿度の信号を専用の受信機(RD −80 H)で受信する.風向風速は自動追尾アン テナによる気球の動きのデータから計算される.さらに,原研の長堀住宅の広場(海岸から約 3.7km 内陸)に特別に設置された地上 6.7m 高での超音波風向風速計による地上風データ及び原研構内の気 象室(海岸から約 0.9km 内陸)での大気安定度階級(パスキル安定度ともいう.)データも使用した.

(45)

群馬県 群馬県 群馬県 群馬県 栃木県 栃木県 栃木県 栃木県 東海村東海村東海村東海村 水戸 水戸水戸 水戸 千葉県 千葉県 千葉県 千葉県 神奈川県 神奈川県 神奈川県 神奈川県 東京都 東京都東京都 東京都 埼玉県 埼玉県埼玉県 埼玉県 茨城県 茨城県 茨城県 茨城県 図 1 東海村の位置(関東地方北部,太平洋岸,茨城県の県都水戸市より北東に約 15km の沿岸地域. 気象庁の関東地方地図を元に作成)

III

解析

1

高度別の風向・風速

(1) 風配図 高度別に風向の出現頻度(出現率のこと.)を調べるために,500m までは 50m 毎に,上空にいく ほど 50m 間隔では変化があまりないので,500m∼1000m までは 100m 毎に,1000m∼3000m までは 1000m ごとの風配図(16 方位の風向出現頻度をレーダーチャートにしたもの)を作成した.なお,欠 測(なんらかのトラブルによって観測値が得られなかった場合)が生じた場合には,風配図の右下に 欠測率{(欠測回数÷観測すべき回数)× 100}を記したが,風配図作成においては欠測回数を観測 すべき回数から差し引いた値を分母として風向頻度を算出した.また,Calm(静穏:風が弱くて風 向が定まらない現象)が生じた場合もその出現率を風配図の右下に記した.さらに,風向ごとの平均 風速も計算して風配図に重ねがきした(季節別高度別風向別平均風速の算出). 図 2 ∼ 図 13 に秋, 春,夏,冬の観測実施順に風配図を示した. 図 2 ∼ 図 4 に示した秋季は,地上では西北西風が特に卓越している.50m は北西と北東のふた山 型.100m∼500m は北北東から北東.600m∼800m は東北東であり,それとは別に南西の風向頻度が 徐々に高くなる傾向がある.900m と 1000m では北東,南南西,北西の三つまたは四つ山型.2000m と 3000m では西,西南西が多く見られる.この季節の卓越風で特に目立つのは,地上風と地上 100m ∼300m の風がはっきりと 90 度ほどずれていることである.地上 50m 風は,地上風と 100m 以上の 上層風との中間的な風向頻度になり,ふた山型になっているので,特別に地上風の観測精度が悪いわ

図

図 3 RUN 3 の実施日の天気図 図 4 高度別流線図(左図: RUN 3 前半,右図: RUN 3 後半,図の上が北,高度は左図,右図の各々, 上段左が 50m ,上段右が 100m ,二段目左が 150m ,二段目右が 200m ,三段目左が 250m ,三段目右 が 300m ,四段目左が 500m ,四段目右が 950m . 2 高度を結ぶ赤色の両矢印は,鉛直シアー発生気層 を示す. ) 示すが,高度約 250m に風速の極小値が現れ,その前後の高度に風速の鉛直シアーが認められる.さ らに, 3
図 7 RUN7 , 8 , 9 の実施日の天気図
図 8 高度別流線図( 図 4 と同様,ただし,左図: RUN7 前半,右図: RUN7 後半) 3 RUN8 の解析 天気図は RUN7 と共通で 図 7 である.地上風は海風で,パスキル安定度は前半が B ,後半が A–B である. 図 11 に RUN8 の高度別流線図を示すが,前半も後半も 300m 以下で流線が曲率をもってい ることがわかる.これは領域内の風向の水平一様性が保たれていないことを意味する.また,前半 も後半も 200m と 500m の間に風向の鉛直シアーが認められる.詳しく見るため
図 10 RUN7 における 4 地点の風速鉛直分布( 図 6 と同様)
+7

参照

Outline

関連したドキュメント

全国 北海道 青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県 茨城県 栃木県 群馬県 埼玉県 千葉県 東京都 神奈川県 新潟県 富山県 石川県 福井県 山梨県 長野県 岐阜県 静岡県

[r]

 1999年にアルコール依存から立ち直るための施設として中国四国地方

静岡大学 静岡キャンパス 静岡大学 浜松キャンパス 静岡県立大学 静岡県立大学短期大学部 東海大学 清水キャンパス

地域 東京都 東京都 埼玉県 茨城県 茨城県 宮城県 東京都 大阪府 北海道 新潟県 愛知県 奈良県 その他の地域. 特別区 町田市 さいたま市 牛久市 水戸市 仙台市

3.基本料率の増減率と長期係数 ◆基本料率(保険金額 1,000 円につき) 建物の構造 都道府県 北海道 青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県 茨城県 栃木県 群馬県

静岡大学 静岡キャンパス 静岡大学 浜松キャンパス 静岡県立大学 静岡県立大学短期大学部 東海大学 清水キャンパス

[r]