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海外の甲殻類関係のシンポジウム・学会から

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海外の甲殻類関係のシンポジウム・学会から

朝 倉 はじめに 甲殻類は非常に多種多様な分類群を含み, 日本 のみならず世界中でさまざまな研究がおこなわれ ており,日進月歩の発展を続けている. 本論説の 目的はそうした 一端を紹介すべく,私が参加した 国際学会のうち,甲殻類に関するものについてト ピック的に述べたい. もちろんそれらの全てにわ たって紹介することは,とてもできないが,私の 独断によ って,特に興味深いと思われたものは, その論文も含めて紹介する. また紹介できなかっ たものについても,各学会の proceed ing を紹介 するので,参照してほしい. なお ,あえて私を含 む日本人の研究発表には言及しなか ったが,これ は本学会員ならば,およそはご存じであろうとの 理由による .

Secon d International S ym p osi u m o n Indo・

Pacific M a r i n e Biology

1986年6月23-28日,グアムヒルトン ・カンフ エ レンスセンター ,グアム

こ の シ ン ポ ジ ウ ム は Western Soc iety of Naturali sts とUniversity of G ua m の主催によっ て 行 わ れ た も の で あ る . Western Society of Naturali stsは1911年にアメリカのスクリップス 海洋研究所につくられた主として海洋生物研究者 からなる自然史系の協会で,この1986年のシンポ ジウムまでに合計10回の国際シンポジウムをひら き,世界の延べ8000人の参加 をみている . その成 果は論文集として B ulletin ofルlarine Sc ience誌に 掲載されているが, 本シン ポジウムも同誌 41 (2)

(1987年) に出版されている . このシンポジウム

Akira ASAKURA: Reports on recent international symposia on crustaceans. 彰 の大きなトピックは「甲殻類の生物学」であ った. 特に興味深か った講演は以下のようである. アメリカ ・スクリップス海洋研究所の W . A N e w m a nは, 一貫 してきわめて精力的にフジツボ 類の分類,生物地理の研究をおこな ってきたが, ここでは共同研究者のやはりフ ジツボ類の分類の 研究者のニ ュージーランド ・オークランド大学の B. A . F'oster とともに,きわめて大胆な仮説を発 表している. 彼らによると ,南半球の固有種のい くつかは ,かつては北半球にも分布したものが, 絶滅してそうな ったとするもので,それを現生, 化石のフ ジツボの地理分布と大陸移動とそれに伴 う 海 洋 環 境 の 変 化 か ら 証 明 しようとしている (N e w m a n and F'oster, 1987). この仮説は, 1990 年の国際甲殻類会議でさらに拡張されて発展する ことになる . 現在はサンゴヤドリガニの分類学の研究者とし て知られるグアム大学出身でアメリカ ・メリーラ ンド大学のR. K. Kropp は,ここではグアムやパ ラオなどのマリアナ諸島の造礁サンゴの中に穴を つく ってすむテッポウエピ類の生態について発表 している. この非常にユニークなテ ッポウエビ類 は,固いサンゴに 穴をあけて主として 雌雄ペアで 暮 ら し て い る こ と が , 詳 細 に 報 告 さ れ て い る (Kropp. 1987) . 一連のスナホリガニ類の個体群生態研究で,ま たC rustacean lssues (A. A. B alkem a社刊) の編 者としても著名なアメ リカ ・カリフォルニア大学 のA. M. W e n n erは,その共同研究者とともにカ リフォルニア,ハワイ ,マーシャル諸島における スナホリガニ類の比較個体群生態に ついて発表し ている . W ennerの研究の常として 地道な内容で はあるが充実したデータを伴い ,説得性のある重 厚な研究 (Wenner et al., 1987) である. ヤドカリ類の分類学研究者として,また世界の

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52 海外の甲殻類関係のシンポジウム ・学会から 分類学における 指導的 な立場にあるフランス国立 パ リ自然、史博物館のJ. Forest は,左右対称のヤ ドカ リであるツ ノガイヤド カ リ類について ,その ユニーク な貝殻利用,行動生態と 地理分布につい て, 自身の 同分類群の分類学的研究にもとづき発 表している . ツノガ イヤ ドカリ類は , ツノガイ , 海に流 出 した 木材, 軽石,生きている海綿などに 寄居する興味深い生態をもったグル ープで,形態 的 には最も原始的な ヤ ドカ リとされ,良く発達し た腹部は,エビの ようである . なおここでの発表 (Forest, 1987a) のもととな った彼自身の分類学 的研 究 は 巨 匠 の 大 作 と も い う べ き 巨 編 で あ る (Forest, 1987b). ヤドカ リ類の行動生態に関する膨大な論文を発 表しているアメ リカ ・ミシガン大学の B. A . H az-lett は, ここでヤ ドカ リにおける貝殻闘争に関す る論争について ,述べている . 貝殻闘争とは ,ヤ ドカ リが自分の 貝殻 を同種ま たは異種のヤドカ リ の員殻にぶつ けて,相手の 員殻を奪う行動 である. これは最初,攻撃行動であ ると考えられてたが, H azlett (1978) では,小 さすぎる貝殻に入 って いる大きい個体が,大 きすぎる貝殻に入 っている 小 さい ヤ ドカ リ と 貝 殻 を 交 換 す る た め の 交 渉 (negotiation) で あ る と し た . こ れ に 対 し て Elwood とその共 同研 究 者 (例 え ば D o wds and Elwood, 1983, 1985: E lwood and G lass, 1981) た ちは ,貝殻闘争はあくまでも攻撃行動であるとし た実験結果を発表し ,論争が続いていて ,今 日ま でそれは続いているが, このシンポジウ ムでの講 演はその 一連のもののひとつであり 彼 自身が唱 え る と こ ろ の 交 渉 説 を 主 張 し て い る (H azl巴tt, 1987 ; 日本語の紹介は朝倉, 1993, 1994 ). なお手前ミソな話であるが,H azlett 氏 とはそ れまで手紙でのやりとりは あったが,直接会って 話をしたのは初め てで あった . 私自身はテナガツ ノヤ ドカ リの配偶様式に ついて発表したのである が,雌雄 の違 いについ て,も っ とさまざまな角度 からデータをとっ た方がよ い, とア ドバ イスを受 けた. こうし た彼の姿勢はもちろん,彼自身の論 文にもあらわれているのであるが,私は最終的に はC Iutton-Block ら( 1982) の著書の影響もあり , 性による生態的なさまざまな違いについてまとめ ることになり (Asakura,1995) ,ょ うやく H az le tt 氏 のアドバ イスを生かせ た. H azlett や E lwood らの研究が進展したひとつの 理由 は,理論生物学の分野におい て,攻撃行動と , 攻撃に よって守られることろの資源に関わる資源 保持能力 (R H P:resource holding power) に関す る研 究 が 進 展 し た こ と が あ げ ら れ る (例 え ば Parker. 1974). こうした観点からシャコの行動学 研 究 で有名なアメ リカ ・カ リフォリニア大学の R . L. Caldwell は, シャコにおいて巣穴をめぐる 攻撃行動 において,シャコの巣穴の善し悪しに対 す る評価,相手の攻撃能力の評価, 自分の防衛能 力の評価 をどの ように行っているかを発表してい る (C aldw ell,1987). 余談ながら Caldw ell 氏は ,日 本には 実 に精力 的にシャコの研究をしている浜野龍夫という人が いるね,と諾 ってくれた . C aldwell 氏とは 1999年 アメ リカのルイジア ナ における R ay m ond M an-m ng シンポジウムで再会す ることになるのだが, その 時 も,彼は講演の中で,こ の20年間における 世界のシャコの生態 的研究 の流 れの話題で,浜野 氏の論文を多数取り上げて解説していた . 彼は , 浜野氏の 開発 (? ) したと ころの , シャコの影絵 がよほど気に入 ったのか ,Cald well 氏も関わ った 本 C rustacean Sex ual Biology (1991, Columbi a

U ni versity Press) の表紙にもな っている . シオマネキの繁殖生態の研究で知られるパナマ のスミソニアン熱帯:研究所の J. H. C hri sty は, こ こでは自身のシオマネキ研究 から 出発した繁殖行 動 に関して ,全カニ類にその視野をひろげ, カニ 類の配偶様式の類型化 をお こない, オス同士の攻 撃行動の観点から 3 つの大きなカテゴ リーに分類 し, さらにその中をいくつかに分類することによ って,合計8 つの配偶様式を認めた . それまでは , カニ類の配偶様式といえば,交尾直前にメスが脱 皮するかしないかで 2 つに大 別 する H artnoll (1969) の類型化が よく知られてた が,C hristy の はそれとは異なる観点か らのユ ニークかつ大胆な ものである (Chri sty,1987 ;日 本語の紹介は朝倉, 1990) . そのイ也主 な講演としては ,M . L. Reaka (サン ゴ礁性 シャコおよびその他 の十脚甲殻類の成体と

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幼稚体の行動的相互作用) , R. B. Forward, Jr.

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脚甲殻類の幼生放出のリズム ),K. H. Chang, Y. S. C hen, C. P. C hen (サンゴに生息するオウギガ ニ類,サンコeガ、ニ類) などであり,いずれも上記

B ulletin o f Marine Sicence誌に原著論文として収 録されている.

T h e Third International C r ustacean C onfer-en ce 1990年7月2 - 6 日,クイーンズランド大学, オース トラリ ア 本シンポジウムはD o n Fielder氏が主催代表者 となりクイーンズランド大学, クイーンズラン ド 博物館などのオーストラリアの研究組織が世話役 となっておこなわれたもので, 32の固から200人 以上の参加があ った . セ ッションとしては ,生物 地理と進化,分類と系統,生理生態と行動,幼生 の生物学,水産と増殖にわかれていた . このシン ポ ジ ウ ム の 論 文 集 は D avie and Quinn (eds.) (1991) M em oirs of the Queensland M useu m 31 と して出版されている. 特に興味深かった講演は以 下のようである. 巨編 rCrustaceaJ (Schram, 1986) で広く知ら れる当時アメリカ ・スクリップス海洋研究所にい たF. R. Schram は,共同研究者の M.J. Emerson とともに,甲殻類の起源に関する大胆な仮説を発 表した . 節足動物は ,形態的な起源としては ,1 つの節に1対 の付属肢がついたものが,いくつ も 連なった形をしていて ,それが部分ごとに機能分 化 して,さまざ まな形態を つくっていると考えら れており ,その中で甲殻類はいわゆるパイラミア (Biramia) で,二叉型の付属肢が各節についてい る形がもととなっており, 二叉にならない,つま り見虫などの単肢型付属肢をもっグループ,いわ ゆるユニラミア (U niramia) と対比して考えら れる. ところが, Schram らは化石的証拠, 神経 節の構造, コペポーダなどの現生種の付属肢の詳 細な観察,シ ョウジョウパエの発生などから ,パ イラミアの体節は,起源的にはユニラミアの2 つ の体節が癒合してできたもので,パイラミアも結 局はユニラミアから進化したする説を発表した (Schra m and Emerson, 1991). Schram氏はムカ

デエピRemiped iaの研究から今回の発表を示唆す る内容をすでに1983年に発表しており (Schram, 1983) ,長年暖めてきたア イデアであったのだろ う. ちなみにSchram氏はその後アムスタルダム 大学の動物学博物館に移り ,同地 で第 4 回の国際 甲殻類会議を主催することになる. 1986年の前記シンポジウムで大胆な南半球固有 種成立の仮説を発 表した N ew m a n は, ここでは 講演の題名こそ南半球国有種の起源についてであ るが,いよいよその内容を拡張して海洋性甲殻類 全 般の全 地球規模での分布成立 プ ロセ スについ て,広く化石種,現生種の証拠をもと に,また甲 殻類ではないが化石がよく残っている貝類の知見 も傍証として加えて,さまざまな雄大な仮説を発 表する ( N e wm an,1991). これはま ったく驚くべ き生物地理の論文であり ,甲 殻類研究者のみなら ず,広く自然史研究に携わる人々に読んでもらい たい内容である. 甲殻類の幅広い分類群の精子の微細構造を研究 してきている地元オーストラリア ・クイーンズラ ンド大 学の B. G. M. Jamieson は, 自身の 研 究 と 他 の研究者の研究成果を統合し , 甲殻類全体の系 統,ならびに特にカニ類の系統について,精子の 微細構造から見るというきわめて野心的な発表を おこな っている . ここで彼は , カニ類については パ リ自然史博物館の G uinot (1978) の説が強く 支持されるとのべている . Guinot (1978) はカ ニ類を形態から非常に大きく 3 つのグループに分 けてい る. その方法は まったく単純で,原始形質 はオ スは第5 脚 ( = 第 8 胸脚),メス は第 3 脚 ( = 第6胸脚) の底節に生殖口が閉口する,派生形質 はオスは胸甲第8節目,メスは胸甲第6節目に生 殖 口が閉口すると考え , この生殖口の開口部につ い て オ ス メ ス と も に 原 始 形 質 を も つ の が Podotrem ata,メスが派生形質,オスが原始形質 をもつのがHeterotremata,オスメスともに派生 形質をもつのがThoracotremata とした. 精子の 微細構造による系統解析でも G uinotの分類法は 強く支持された Uamieson,1991). なおJamieson は,ゼンケン ベルグのシンポジウム( 後述) では Podotremata内の系統関係についてさらに詳細な 議論をおこなっている .

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54 海外の甲殻類関係のシンポジウム ・学会から また, こ の G u in ot の 分 類 法 は , 1999 年 の とそれを来総とした生物地理の話題である . この Raymond Manni ng シ ン ポ ジ ウ ム ( 後 述 ) で 叩殻 類の新しい分類法と題して , 6綱40目830科 の 分 類法の再検討をおこなったロサンゼルス博物館の 高 名 な loel W . Martin と そ の 共 同 研 究 者 G.

E

Davisによ っても,支持されている . また精子の微細構造による系統解析は,その後 JamiesonのところにいたC . Tudge 氏 に よ っ て 特 にヤドカリ類を中心に精力的に研究がすすめられ ( 例えばT udge,1991, 1995),現在スミソニアン 自然史博物館の R afael L em aitre 氏 の と こ ろ に い る C. T u dge 氏は, Le m aitre 氏とともに ,次回( 第 5回) オーストラリアのメルボルンでヴイクトリ ア博物館の Gary Poore 氏が中 心 となって開催 予 定の国際甲殻類学会で,異尾類に閲するシンポジ ウムを聞く予定である.

International Senckenberg S y m p o s i u m : Crus-tacea D e c a p o d a 1993年 10月18-22日,ゼ ンケンベルク博物館, ドイツ 本シンポジウムは同博物館の著名な 甲殻類研 究 者 の M. Turkey 氏 が 主 催 し た も の で あ る . 内 容 としては ,カニ 類の行動 ・生態,進化 と系統, 動 物相と生物地理,十脚類の分類学などである . 特 に興味深かった講演は以下のようである . スミソニアン博物館の R . Lem aitre とヤ ドカリ 学の神様ともいうべきウエス タン ・ワ シントン大 学の P.A. McLaughlinは, 異尾類からカニへ と進 化する道を探ろうとしている . ここで彼らはカニ へ 進 化 す るプロセスを carclni zation とよんでい る. Paguroidea, G alatheoidea. Hippoideaの各属の 成体の形態を詳細に分析した結果,それが最も顕 著なのは Paguroidea であると結論づけている . これは McLaughlin and Lem aitre (1997) の論文 とな って結実するが,これは大変な力作 で,異尾 類からカニ類への進化 に興味があ る人には必読で ある. なおこの論文は「その 1J とな っており続 編がさらに用意されているようである. ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド ・カンタペリー大学のC. L. M cLay は自身の巨編「ニューカレドニアとフィ リッピンのカイカムリ科J (M c L a y, 1993) の紹介 研 究 の中で, M c L a y はJITj科に 29属 109穏を認め, 本研究の中だけでも11の新属を創設した. なおこ の研究によ って日本産の同科の種も大幅に学名が 変更にな っている. また M cL ay 氏はその後 トゲ カ イ カ ム リ 科 の 再 検 討 の 論 文 も 発 表 している (Mc L ay, 1999) が,これもまた大変な力作で,こ こでもまた日本産の種も大幅に学名が変更にな っ ている. ドイ ツの R. Diesel とその共同研究者たちは, 子育てをするイワガニ類について発表している. 実際これは話しを 聞いて いて不思議に思うのは , Diesel氏にだけなぜこのような現象をみつけるこ とができるのだろうか,ということである. 十脚 甲 殻 類 の 始 め て の 亜 社 会 性 と し て 有 名 に な った Metopa叫lias dep何ssus の 話 し を 始 め ,岩礁 のi朝上

帯の

i

車;}jだまりで子育てをするベンケイガニのなか まのAγmases mterSH,カタツムリの員殻の中で子 育てをする Sesanna jarvisiのことが紹介されてい る. こ れ らについての詳細は, Diesel and Schuh (1993) , Schuh and D iesel (1995), D iesel and H orst (1995) を参照されたい . その他 主な講演は M . Vannini とその共同研究 者 ( カ ニ 類 の 移 動 生 態),A. B. Williams ( ミズ ヒキガニ科の分類),Diana S. Jones (オーストラ リア の 十 脚 甲 殻 類 の 生 物 地 理), N. Tirmizi ノ(f キスタンの十脚甲殻類),P. K. N g とその共同研 究者( ニューカレドニアのカニ類) ,M. de Saint L aurent . N. Ngoc-H o ( アナジャコ科の再検討) などである. なお余談ながらイタリアのフローレ ンス大学の V a nnini 氏は ,いつもたくさんの弟子 や同僚を連れて国際学会にあらわれ,かれらは自 分たちのグルー プ を F lorence Crab T eam と呼ん でおり,共通のロゴとチームのマークがあり,発 表の冒頭に必 らずそれが現われる .

T h e F o u r t h International Crustacean C on-gress

1998年 7 月20-24 日, アムステルダム大学,オ ランダ

これは非常に大規模な甲殻類の国際学会で発表 だけで 500以上あ った. 主なセ ッションは,生物

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多様性: 多様性の時空 間的変化, 生物地理と帰化 の諸問題,行動と生態,生理学 ・生化学 ・遺伝学, 水産と増殖,幼生の生物学,生殖の生物学などで ある . この学会では 内容があ ま りにも多岐にわた るため ,それを紹介するのは難しいが, とにかく 2 冊 ある論文集 (Schram and Klein, 1999; Klein and Schram, 2000) を読んでいただきたい. ここ ではそのうちごく少数のものを紹介する . カニの分類を始めとする甲殻類の研究で知ら れ るイスラエルの B ella G alil は, スエズ運 河が開 通 した ことに より,紅海 と地中 海の生物が行 き来 する ようになった ,いわゆる レセ ップス移動につ いて,解説した (Galil,2000). カリフォルニア工科大学の P .Castroは,彼の 一連のサンゴガニの研究の進展のひとつとして , インド洋と太平洋におけるサンゴガニの生物地理 について発表した . サンゴガニは基本的には,よ く知られた イン ドー西太平洋分布を示すものが多 いが,

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種類においては東太平洋障壁を越えて , 太平洋の東西両方に分布する (Castro,2000). 近年非常に精力 的にヨコエピ類の子育ての論文 を発表し続けていた M . Thielは, 甲殻類におけ る子育てのレヴューを まとめている . 甲殻類の子 育てに関するこれまでなされた数多くの文献と自 身の研究がスッキリと まとめられており , この分 野の非常に重要な論文となると思われる (Thi巴1, 2000) . イギ リスのR . G. Hartnoll は, カニ類の 配偶様 式について ,有名な1969年の論文の 内容を発展さ せ, ここでは3つの類型化ができるとして いる. それは( 1 )無限成長型( 最終脱皮がない) の種にみ られる soft-fem ale型( メスが交尾前に 脱皮する) の配偶様式, (2)有限成長型( 最終脱皮がある) の 種 に み ら れ る soft. fem ale 型 ま た は hard -fem ale 型,(3)無限成長型の種にみられる hard -fem ale型 であり ,それぞれの有利点,不利点について論じ ている. T h e C r ustacean Society 1999 S u m m e r M e e t i n g 1999年5月26-30日,ルイジアナ ,アメ リカ この学会は,十脚甲殻類の生殖の生物学で知 ら れる R a y m ond B auer氏とサウスウエスタン ・ル イジア ナ大学がホス トとなって 聞かれた . 全体 は 3 つの大きなシンポジウムに よ り構成されてい た. R ay m ond M anning氏 を記念するシンポジウ ム,甲 殻類研究における分子生物学的手法に関す るシンポジウム , アオガニの生存に関するシンポ ジウムで ある. 本年

1

月に亡 くなられたM anning 先生も , このシンポジウムの時はご健在で、,身も 軽くお元気そうであった. M anning先生はこのシ ンポジウムにも招待されていた長崎大学の玉置昭 夫氏 と共著で, 日本産ス ナモ グリに対して新属を 創設 され た (Manning and Tamaki, 1998) ばかり であ ったが, しきり に玉置氏のスナモ グリの研究 を賞賛していた . このシンポジ ウムの3 ヶ月あと の9月に,私はスミソニアン博物館でヤドカ リ類 の標本調査をしたが,その時も M anning さんは すこ ぶるお元気そうであった . またその時, A u-stin William s先生もお元気そうに研究をされて おり , 日本に行 った時は熊本大学の馬場先生にた いそうお世話になった , と話されていたが,その 1 ヶ月後William s先生 も残念ながらお亡くなり にな った . なおこのM anning S ym posium のP rO ceedings は, Journal of Cru stacean Biology S pe-cial Issue としてつい最近 出版にな った. 興味深 かった講演は以下のようである . テーューク大学のC. M orrison とC. W . C unning-h a m に よるミ トコンドリア D N A を使った異尾類 の分子系統では ,Lithodidae とP aguridae は単系 統群 であること ,Hippoideaは単系統群で P agur oidea とG alatheoidea の 中 間 に 位 置すること , Galatheoideaは分類学 的 に謎の生 物 と言 われる A eglaとL ornisを含んで, 他 の異尾類とは姉妹群 の関 係 にある こ とが示された (AeglaはM artin and A bele, 1988, Lom is はM cL aughlin,1983に良 い紹介がある) . 前記ゼンケンベルグシンポジウ ムでは , ブラジルのG. B ond -B uckup と L. B uck-叩 によって A e glid ae (H a u m u riaegla とA e glaの

2属) の reVlslonが発表さ れたが,論文な ったか どうかはわからない. ただし個人的な感想を 言 う な ら,研究された種数が少 なく ,例 えばP agur-oidea においてヤドカ リ科 (Diogenidae) に属す るP ag叫ristesは同干ヰの Calcinusよりホンヤドカ リ

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56 海外の甲殻類関係のシンポジウム・ 学会から いたが,このように細かく凡ていくと ,従来の分 類法とはかなり違う部分もあり,さらに多くの種 でデータがとられることが望まれるであろう . ズワイガニの生物学について様々な 側面からの 研究を発表し続けているカナダの B. Sainte.Marie とその共同研究者によると 1個体の抱卵メスが もって いる受精卵は,最大で5 個体の違うオスの 精子により受精されていることが,わかった . 彼 らはこれを「便宜的に一妻多夫とよぶ」としてい るが,従来 1 個体のオスが 1 度に複数のメスを 確保することは知 られていたが, このような現象 はきわめて珍しいことである. Sainte-M arie 氏と はゼンケンベルグでもお会いしたのだが,あ りが たいことに , アサ クラの研究からは影響を受けた よ,と語 ってくださった . ところがこのシンポジウムで偶然にも ( ?に 同じ現象が深海性のスナモグリでみられることが 地 元 サ ウ ス ウ エ ス タ ン ・ル イ ジ ア ナ 大 学 の し Bilodeau とその共 同研究者により報告された. 彼 らが調べた結果では ,抱卵 メスのうちの18 %が, それがもっている受精卵塊 は少なくとも

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同体以 上のオスにより受精されたことが,わか った. 彼 らはこの現象を「複父性 (multipl e paternity) J よんでいる. アメリカ ・ジョージア ・サウザン大学の A lan H arvey 氏は,最新のパソコンを使 った甲殻類の 図の作成法について発表していた. H arvey 氏は その1年前までニューヨークのアメリカ自然、史博 物館 に勤め,カニダマシを中心とす る異尾類の研 究をおこなってきた . ま た同博物館の同僚のC Boyko 氏もスナホリガニの分類の研究で知られる が,この2 人の論文をみたことがある人なら ,す ぐ気がつくであろうが,甲羅や脚の図に斎妙な陰 影がついていて,立体的にみえる (例えばBoyko

and H arvey. 1999). これは 実 は, H arvey 氏が開 発した方法で,実物の写真 をと って それをスキャ ナーを通してパソコンに取り込み ,輪郭だけはペ ンを入れてつくっているのである. この作業には かなりの記憶容量を必要とするため,光磁気ディ スクと容量の大きなハードディスクとメモ リーを もっパソコンを使うのであるが,私が「これはか な り 大 変 な 方 法 で は な い か

?J

と質問すると H arvey 氏卜│ く「簡単なことで、すJ . 余談ながら,実は私は以前から,い った いどう や ったら ,図にあのような( 変な? ) 陰影をつけ られるのだろうと,不思議に思 っていた. また H arvey 氏とは熱帯太平洋のヤドカリ類に関する 情報で手紙でいろいろやりとりをしていたので, 会ったらそれらも含めていろいろ聞いてみようと 思 っていたので,ちょうど良い機会であ った . そ の前年にアムステルダムに H arvey 氏が来て講演 することにな って いたので, アムステルダムでは 会うことを楽しみにしていたのだが,彼はアメリ カ自然、史博物館から 別の大学に転職することとな り, 多 忙 で 来 ら れ な い の で , か わ り に 同 僚 の Boyko 氏が発表していた . ところが私は, Boyko 氏を Harvey 氏と間違えて話しかけてしまった . Boyko 氏はこ のルイジアナのシンポジウムにも来 ていたのだが,彼日く「あの時は最初の数秒だけ, アラン (H arvey 氏) のものまねをしたんだよJ. そ の 他 の 主 な 発 表 と し て は ,

J.

E. Duffy (Synaltheus に お け る 社 会 進 化 と 系 統),R. L C ald well ( シャ コにおける 一夫 一妻制 の進化), しM . Math e w (テ ッポ ウエピにおける 一夫 一妻 制 の進化),C. T udge. G. Poore, R. Lemaitre (ス ナモグリ類の系統解析) などであ った. おわりに 海外の学会 に行 ったからとい って,特に実力が 上 がるわけではないが,現在の日本は年間

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万 人以上の人々が海外に大挙して出かけ,特に私が 住んでいる千葉からだと,どうかすると北海道や 九州に行くのと,そう変わらない金額で行けるよ うな時代にな ってき た. したがって世界の主要の 都市には,うん ざりするほどたくさんの日本人観 光客がい る. したが って,特に若手の人達はも っ と気楽に出かけてみては,どうかと思う. 圏内に いるより,ず、っ と多種多様な話しが聞けるし,そ れらの人達と直接情報のやりとりをし て勉強にな るし ,知 り合いも増えて,のちのちお互いの研究 の進展にも ,役立つであろう.

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引用文献 中UJ

:f::i

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