へき地小規模中学校の全校生徒を対象とした対人関係ゲームの効果の検討
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(2) へき地小規模中学校の全校生徒を対象とした 対人関係ゲームの効果の検討 本 田 真 大*. Effects of Interpersonal Relationships’ Games for Small Rural Junior High School Students. 要 約 本研究の目的はへき地小規模校における対人関係ゲームの効果を検討することである。へき地にある 中学校の全校生徒24名を対象に主張性向上を目的とした対人関係ゲームを実施した。分析の結果, 「独 自な意見の表明を望む気持ち」の向上が認められた(t(21)=2.37, p<.05)。へき地学校の対人関係の特徴 を踏まえた対人関係ゲームの実施方法について議論された。. 問題と目的. 特性として,「個々の子どもにあった学習指導」, 「少人数指導を生かした学力保障・学力向上の取. 1.へき地小規模校における子どもの対人関係の. 組」, 「異学年交流と強い縦の関係を生かした取組」. 特徴. 「個々の出番の機会の多さと主体性を発揮する取. へき地教育振興法第二条より,へき地学校とは. 組」,「行事への保護者・地域の参加協力の強さと. 「交通条件及び自然的,経済的,文化的諸条件に. その取組」を肯定する回答が多く,小規模校の特. 恵まれない山間地,離島その他の地域に所在する. 性を生かした教育活動が展開されている実態が明. 公立の小学校,中学校及び義務教育学校並びに中. らかにされている。一方,小規模校の課題として,. 等教育学校の前期課程並びに学校給食法(昭和二. 「良い意味での競い合いや切磋琢磨の機会の不足」,. 十九年法律第百六十号) 第六条に規定する施設 (以. 「組織的・機能的な子どもの集団作りの困難さ」 ,. 下「共同調理場」という。 ) 」を意味する。. 「都市部の学校との交流学習や交流の不足」など. 近年,いくつかの研究によりへき地小規模校の. を肯定する回答が多かった。. 実態が一部明らかになっている。川前(2009)は. 子どもの集団作りと関連して,今在(2012)は. 北海道の小学校長を対象に北海道のへき地小規模. 準へき地指定された小学校1校(児童数22名)の. 校の現状と課題の認識を調査している。北海道市. 保護者と教師に児童観に関する調査を行った。自. 町村立小・中学校長を対象とした調査から小学校. 由記述調査の結果,児童の人間関係のよさを挙げ. 1345校中765校(へき地指定なし298校,へき地1. る回答が多く見られたものの,競争心や社交性の. 級181校,へき地2級107校)から得られたデータ. 乏しさを懸念する回答も見られたと報告している。. を用いて分析した。その結果,小規模校の教育の. また,コミュニケーションスキルの乏しさを示す. *. Masahiro HONDA:北海道教育大学函館校. キーワード:へき地学校,中学校,対人関係ゲーム,予防開発的心理教育. 41.
(3) 学校臨床心理学研究 第18号(2020年度). 具体的な場面を尋ねたところ,保護者10名の回答. 2.へき地小規模校を対象とした対人関係ゲーム. からは教師に比べるとコミュニケーションスキル. 学校における集団づくりの技法には様々なもの. に問題を感じていないようであること,そして教. がある。生徒指導提要(文部科学省,2010)では. 師5名の回答からは, 「積極的に意見を言えない」. 「教育相談に活用できる新たな手法等」として8. 「人見知りする」 「特定の人物の意見が目立つ」 「適. つの方法が挙げられており,本田(2017)は対人. 切な言語表現ができない」という回答が得られて. 関係ゲームとグループワーク・トレーニングを加. いる。. えた10の技法の特徴を整理している。対人関係. これらの実態調査は小学校を対象としたもので. ゲームとは学級集団の人間関係づくりのための技. あり,中学校にそのまま適用はできないとはいえ, 法であり,人間関係の改善によって児童・生徒の へき地小規模校の特徴として一定程度共通する部. 学校での社会生活が豊かになるとともに学校で起. 分はあると思われる。中学生を対象とした研究と. きている問題の解決をめざす方法である。目標と. して,戸田・福岡(2001)は都市部とへき地の中. なる学級集団の状態は「群れ(目標達成のために. 学生の対人ストレスとコーピング,知覚された. 組織的に動く集団)」であり,「群れ」の集団に発. ソーシャル・サポートを比較した。その結果,対. 達するには,相互に支えあう人間関係,意味のあ. 人ストレスについては, 「かげで悪口をいわれた」. る仕事,人間関係や仕事での楽しい体験,が必要. 状況に対しては都市部の生徒の方がへき地の生徒. である(田上,2003)。. よりもストレスに感じる程度が高く, 「夜遅く帰っ. 対人関係ゲームは交流するゲーム,協力する. て親に叱られた」状況と「おなじことを何度もく. ゲーム,役割分担し連携するゲーム,心をかよわ. りかえしていわれた」状況ではへき地の生徒の方. すゲーム,折り合うゲームの5種類に分類され,. が都市部の生徒よりもストレスに感じる程度が高. これらの組み合わせによりプログラムが組まれる。. いことが示された。 対人ストレスコーピングは 「攻. 代表的なプログラムには,不登校児童生徒の学級. 撃的対処行動」(暴力をふるう,どなる,文句を. 復帰など,長期的な人間関係の不安・恐怖がある. いう, にらみつける)と「非攻撃的対処行動」 (そ. 学級集団を対象とする「不安解消プログラム」 ,. れとなく注意する,ほかの人に間にはいってもら. 学級で十分に受け入れられていない発達障害のあ. う,ほっておく)の2つから検討され, 「他の人. る子どもの在籍する学級集団などを対象とする. がいる前でバカにされた」状況において,都市部. 「 仲 間 づ く り プ ロ グ ラ ム 」,「 群 れ 」( 田 上,. の生徒の方がへき地の生徒よりも攻撃的対処行動. 2003)への発展をめざす学級集団を対象とする「達. を行う割合が高いことが明らかになった。さらに. 成集団づくりプログラム」がある(田上,2010)。. 知覚されたソーシャル・サポートの分析からは,. これまでの対人関係ゲームを展望した大澤・田. 「助けを必要としている時頼れそうな人がいるか」. 上(2015)によれば,小学校での実践が多く,実. の質問に対して, 「誰もいない」と回答した生徒. 践報告は不登校や発達障害のある子どもなどの特. の割合は都市部の中学校では7.9%であったのに. 別なニーズへの対応が必要な子どもを受け入れる. 対し,へき地の中学校では13.5%であることが示. 学級環境の改善を目的とした実践と,人間関係・. された。これらの結果より,対人ストレスの程度. 学級集団づくりに関する実践に大別される。特別. やコーピング方略に関しては地域差がほとんど確. なニーズとしては,発達障害が最も多く,次いで. 認されず,知覚されたソーシャル・サポートはへ. いじめ,選択性緘黙・引っ込み思案,不登校・登. き地の中学生は都市部の中学生よりも低い可能性. 校渋り,グループの逸脱行動となっている。さら. があると言える。. に,対人関係ゲームにおける体験や効果の測定の. 以上より,へき地小規模校の児童生徒の対人関. ための尺度作成も進められている。. 係の実態をまとめると,対人関係上の課題は都市. 対人関係ゲームは主に学級集団を対象に実施さ. 部とへき地で共通する部分が多くみられる一方で, れており,学校規模などの要因は多くの研究では 集団づくりの面での難しさや教師から見た課題,. 扱われていない。実際に大澤・田上(2015)にお. サポート源の少なさといった課題があると言えよう。. いても実践した学級がへき地指定校であるかどう. 42.
(4) へき地小規模中学校の全校生徒を対象とした対人関係ゲームの効果の検討. かの記載はなされておらず,へき地であるかどう. あるが,学校の実態としてスキルの獲得欠如とい. かの言及はないものの,小規模校で実践された対. うよりも遂行欠如の可能性が高いこと,介入を実. 人関係ゲームの報告は高橋(2018)など限られて. 施する時数が限られていること(1回50分),日. いる。. 常の人間関係が幼児期より長期間にわたって固定. 以上より本研究では,へき地小規模中学校にて. 化しているため,ソーシャルスキル教育による. 対人関係ゲームを実践し,その効果を検証するこ. ロールプレイを行っても般化しにくい可能性があ. とを目的とする。. ること,が予想された。 そこで,「自己主張の強い生徒に自らの意見を. 方 法. 主張する行動」を抑制する要因と考えられる「不 安・緊張」をおさえながら自己主張を行う対人関. 1.介入対象者. 係ゲームを選択することが妥当であると判断され. 北海道のへき地にある公立中学校1校の全校生. た。また,スキル遂行を抑制する要因として「自. 徒24名(1年生7名,2年生9名,3年生8名,. 己主張後の他者からの否定的反応(批判,無視,等). 男子11名,女子13名)を対象とした。介入当時,. の予測」も考えられたため,活動の中では話し合. 当該中学校はへき地教育振興法施行規則第三条に. いのルールを明確にするため,前半は他者の意見. より,へき地二級の指定を受けていた。. を否定しないことを明示したブレインストーミン グを行い,後半はある程度自由な活動の中で自己. 2.介入時期. 主張・他者配慮・折り合いをつける練習を取り入. X年12月に実施した。. れることとした。 思春期の子ども集団を対象としたソーシャルス. 3.介入方法. キル教育(例えば,相川・佐藤,2006)では,介. ⑴ 学校の特徴と生徒の実態. 入対象者の中に含まれる動機づけの低い子どもへ. 実践にあたって実施した教師からの聞き取りに. の配慮や,リハーサル・フィードバックの過程で. よる学校の特徴として,幼稚園,小学校,中学校. の抵抗感(恥ずかしさなど)への配慮が重要であ. が各1校のため,子どもの人間関係がほとんど変. ると指摘されている(神村・佐藤・小林・本田・. わらないまま中学校に進学していること,生徒は. 尾形・吉田・谷・元村,2012)。介入対象者とな. お互いのことを良く知っている反面,人間関係が. る生徒はこれまでコミュニケーションを直接扱っ. 固定化し,表面上は上手く関わることができるも. た予防開発的心理教育(石隈,2016)を受講した. のの発言力の強い生徒に自己主張できない様子が. 経験がないことを踏まえ,ソーシャルスキルを直. 見られることが把握された。また,在籍する生徒. 接明示してロールプレイを繰り返すことで学習す. にとっては,本研究の実践が初めてのコミュニ. る方法は普段の人間関係と状況が大きく異なり,. ケーションのトレーニングの機会であることが確. 恥ずかしさや戸惑いが強まる可能性がある。そこ. 認された。. で,より普段の人間関係の文脈に近い「遊び」の. ⑵ 介入の目標と評価方法. 要素を取り入れた技法の方が抵抗を回避して参加. 学校の特徴と教師の希望を踏まえ,介入の目標. できると判断された。. を主張性に定め,自分の意見を表明する(自己主. 以上を踏まえ,対人関係ゲームの中の「折り合. 張),他者の意見を聞く(他者配慮) ,自己と他者. うゲーム」から,「新聞紙タワー」を採用した。. の意見をまとめ一定の結論を得る(折り合い) ,. ⑷ 介入プログラムの概要(50分×1回). の3つとした。. 田上(2003)を参考に以下の方法で実施した。. ⑶ 介入技法の選択. 活動時に学年混合の4名グループを構成し,導入. 介入の目標に基づき,自己主張に関するソー. (約5分)として本時の目標を「自分の意見を表. シャルスキルである主張性スキルとともに他者の. 明し,他者の意見を聞いたうえで,意見をまとめ. 主張を受容するスキルを目標とすることが妥当で. る」と設定し説明した。次に,活動の概要(新聞 43.
(5) 学校臨床心理学研究 第18号(2020年度). 紙のみを使ってグループで1つの高い塔 (タワー). トに記入した。作成の段階(約15分)では,新聞. を作ること,はさみや糊などの新聞紙以外のもの. 紙タワーを設計図通りに作りながら修正・改善し. を使わなければ,折る,丸めるなど自由に使って. た。また,作りながら設計と異なるものにしても. よいこと,新聞紙は1グループ8枚であること). よいが,その場合はグループで話し合って決める. を伝えた。そして,新聞紙タワーの設計を行うこ. ように教示した。計測の段階(5分)では,教師. と(ブレインストーミング) ,その後でグループ. が各グループのタワーの高さを測定し全体で共有. の設計方法を決定し作成すること,最後にグルー. した。まとめ(約10分)として,本時の目標を再. プごとに高さを計測すること,という活動の流れ. 確認し,ワークシートに活動時の体験を記入し,. を伝えた。. 発表役に発表してもらった。また,活動時のルー. 活動開始に当たって,4名グループの中で司会. ルとして,活動に積極的に参加することと,他者. 役,記録役,配布役(活動の教材を受け取ったり, の発言や行為を冷かしたりからかったりしないこ 活動で使用したワークシートを回収し提出したり. とを伝えた。. する役) ,発表役を決めた。新聞紙タワーの設計. 本実践を行うにあたり,第一著者が全体の進行. の段階(約5分)では,高いタワーを作る方法を. を行う他に,活動の補助として大学3,4年生9. 自由に考え,3分間で思いついた方法を付箋に1. 名を引率した。大学3年生6名(男性2名,女性. つずつ図や文章で記入した。設計方法の決定の段. 4名)が各グループに入り,4年生3名(女性). 階(約10分)では,司会役が進行しながらグルー. は全体を巡回し,生徒に学習してほしい行動(ソー. プ内で1人ずつ発表した後,どのような方法で作. シャルスキル)のモデルとなるように行動した. 成するか話し合い,記録役が設計図をワークシー. (Table 1)。また,中学生にとっては固定化した. Table 1 介入補助者に対する教示内容 全体を通して行うこと 生徒に学習してほしい行動(ソーシャルスキル)のモデルとなるように,相手の方を見る,声かけに合った 表情をする,聞こえる声で言う,対象の行動の直後に声かけする,の4点を非言語スキルとして行う。 新聞紙タワーの設計(ブレインストーミング)時 生徒の行動. 生徒の行動に対する介入補助者による介入. ルール尊重. 活動のルールを守っている場合には認める言葉として「たくさんの意見が出ているね」 , 「色々なアイディアがあっていいね」等と伝える。ルールを守っていない場合にはルー ルを意識できるように伝える(「(ルールが書かれた用紙を提示し)批判せずにたくさん の意見を出すことが大事だよ」等). 意見の表明. 特定の生徒ばかりが発言する様子が見られたら, 「他のみんなの意見も言おう」と促す。 他の生徒が発言したら「ちゃんと意見を言えるのは大事だよ」等と伝え,先ほどの生徒 に「しっかり聞けていたね」と伝える。. 他者の表明を聴く 行動. 相手の方を見て,うなずきながら,話の終わりまで聴く,という姿勢が見られたらほめる。 これら3点ができていない場合は具体的に伝える( 「人の意見は最後まで聞くようにしよ う」等)。. 意見の折り合いを つける行動. 設計を1つに決める時に他者に配慮した言い方をしていればほめる( 「そういう言い方を すると,相手を傷つけずに自分の意見を言えるね」等) 。. 生徒の行動・反応. 生徒の行動・反応に対する介入補助者による介入. 新聞紙タワー作成時 他者の新聞紙を 使う. 自分の新聞紙は自分で使うように促す。. 設計と異なる方法 特定の生徒の意見で変更しようとしている場合,話し合いによって変更するように促す に変更する (「グループのみんなはどうしたらいいと思う?」等) 。 自 己 主 張 が 少 な 意見の表明を促進する(「(作るとき)どこが上手くいかない?」 「 (指さしながら)ここ, い・無言 どうやって作ったの?」等)。. 44.
(6) へき地小規模中学校の全校生徒を対象とした対人関係ゲームの効果の検討. 人間関係の中で経験しにくい初対面の相手との交. て困ることが多い」など)3項目と「率直さへの. 流の機会として,初対面の大学生相手にも学習し. 肯定感」(「自分の気持ちや考えはとても大切なも. たソーシャルスキルを使用する機会を提供すると. のだと思う」など)6項目を使用した。4項目で. ともに,大学生の行動をモデリングする機会とし. あり,4件法(「1:まったくそうは思わない」. た。大学生・大学院生には事前に第一著者が研修. ~4:「とてもそう思う」)で回答が求められた。. を行った。 5.倫理的配慮 4.調査時期と調査内容. 質問紙のフェイスシートで学年,年齢,性別,. 質問紙調査について,Time 1(事前)はX年. 出席番号が尋ねられ,続いて以下の質問への回答. 12月上旬,Time 2(事後)は12月中旬に調査し, が求められた。質問紙のフェイスシートには上記 その間に全校生徒を対象とした対人関係ゲーム. の内容に加えて倫理的配慮として,出席番号は質. (50分1回)を実施した。クラス担任教師に調査. 問紙の対応を取る目的のみに使用すること,質問. を依頼し質問紙を配布してもらい,集団で調査が. すべてに対して拒否権があること,拒否したり途. 実施された。. 中で回答を中止したりしても成績などに不利益が. ⑴ 自己主張. ないことなどを明記した。なお,本研究は第一著. 柴田(2001)の友人関係における自己表明尺度. 者の所属機関の研究倫理委員会の設置前に実施さ. の下位尺度である「意見の表明」 ( 「まわりの友だ. れた。. ちにどう言われようと正しいと思うことは自分の. 結 果. 信念を貫く」など)を使用した。7項目であり, 4件法(「1:まったくあてはまらない」~4: 「とてもあてはまる」 )で回答が求められた。. 欠損値のなかった22名のデータを分析に用いた。. ⑵ 他者配慮. 各下位尺度は先行研究と同じ構成として分析に用. 柴田(2001)の他者の表明を望む気持ち尺度の. いた。また,本研究では対象者が少数であったた. 下位尺度である 「独自な意見の表明を望む気持ち」. め,佐藤・三田村・高岡・金谷・佐藤(2014)を. (「私が友だちに意見を求めたときは自分の考え. 参考に,全体のデータを用いた分析と,対象者の. をはっきり言ってほしいと思う」など)を使用し. 個別の変化の検討を併用する形で効果を検証した。. た。4項目であり,4件法( 「1:まったくあて はまらない」~4: 「とてもあてはまる」 )で回答. 1.対人関係ゲームによる全体の効果. が求められた。. Time 1,Time 2のデータを用いて対応のあるt. ⑶ 自己主張に影響する要因. 検定を行った。その結果,「独自な意見の表明を. 柴田(2004)のアサーションの心理的要因尺度. 望む気持ち」のみが実践後に得点が上昇した(t(21). の下位尺度である「スキル不安」 ( 「自分の考えを. =2.37, p<.05) 。その他の変数には有意な得点の. 言おうとしてもどう言ったらいいのか分からなく. 変化は認められなかった(Table 2)。. Table 2 介入効果の検証(N=22) Time 1 自己主張・他者配慮 意見の表明 独自な意見の表明を望む気持ち アサーションの心理的要因 スキル不安 直さへの肯定感. Time 2. t値. M. SD. M. SD. 2.77 2.99. .48 .81. 2.86 3.40. .48 .55. 1.04 2.37*. 2.82 3.28. .82 .63. 2.79 3.35. .71 .74. .26 .48 * p<.05.. 45.
(7) 学校臨床心理学研究 第18号(2020年度). 2.個別の対象者の得点変化. (意見の表明)の程度に変容は見られなかったも. 各下位尺度得点を用いて,Time 2とTime 1の. のの,独自な表明を望む気持ちが上昇した。つま. 得点差を算出し,得点が介入後に下降した対象者. り,50分1回という本研究の実践を通して,学校. (下降群) ,上昇した対象者(上昇群) ,変化がな. の生徒集団の中で他者の自己主張を受け入れる雰. か っ た 対 象 者( 同 一 群 ) に 対 象 者 を 分 類 し た. 囲気作りが促進されたと考えることができる。そ. (Teble 3) 。. のような効果が得られた理由として,本研究では. その結果「意見の表明」 , 「独自な意見の表明を. アサーションの心理的要因尺度のスキル不安と率. 望む気持ち」 , 「率直さへの肯定感」の上昇群には. 直さへの肯定感を取り上げて検討したが,いずれ. 50%以上の生徒が含まれていた。また, 「スキル. の変数にも介入前後で得点の変化は見られなかっ. 不安」は下降群と上昇群の人数が同じであり,ス. た。そのため,独自な表明を望む気持ちの変化に. キル不安が下降した生徒もいれば上昇した生徒も. はこれらの変数以外の要因が影響した可能性があ. いること,そして同一であった生徒もほぼ同数で. る。. あったことが示された。4つの下位尺度における. そこで,本研究の実践方法から得点の変化につ. 下降群,上昇群,同一群の人数の割合の分布を. いて考察する。対人関係ゲームとしての本実践の. =. 特徴として,幼少期から人間関係が固定化しやす. 4.46, n.s.)と「スキル不安」 (χ2(2)=.36, n.s.)に. いへき地小規模の中学校において実践したこと,. は有意な分布の偏りは認められず, 「独自な意見. 活動の前半(設計を考える段階,設計を決定する. の表明を望む気持ち」には有意な分布の偏りが認. 段階)において自己主張し相手の主張を聞く時間. 2. χ 検定で分析した結果, 「意見の表明」 (χ. 2. (2). =7.18, p<.05) ,ライアンの名義水. を明示的に設けたこと,大学生が活動に参加し自. 準を用いた多重比較の結果,下降群と上昇群の間. 己主張,他者配慮に関わる望ましいソーシャルス. に偏りがあることが明らかになった(臨界比2.25,. キルを即時に強化したこと,の3点が挙げられる。. p<.05) 。また, 「率直さへの肯定感」には有意傾. 第一の特徴を踏まえると,幼少期から続く長期的. 向があったが(χ2(2)=4.73, p<.10) ,多重比較の. に変化の少ない人間関係の中で,自己主張の少な. 結果,有意な分布の偏りは確認されなかった。. い生徒の自己主張を促進することは1回の介入で. 2. められ(χ. (2). は困難であったと思われる。反対に得点の上昇が. 考 察. 見られた独自な意見の表明を望む気持ちは,第二 の特徴,第三の特徴によって遂行が促されやす. 本研究の目的はへき地小規模中学校で実施した. かったと考えられる。そのために他者配慮に関わ. 対人関係ゲームの効果の検討であった。. る独自な意見の表明を望む気持ちの得点に上昇が 認められたと考えられる。. 1.本研究のまとめ. また,本田・大島・新井(2009)は中学生の4. ⑴ へき地小規模中学校における対人関係ゲーム. ~5月に実施した「上手な聴き方」と「あたたか い言葉かけ」のソーシャルスキル教育によって学. の効果の検討. 級内の不適応状態にある生徒の適応状態が改善し. 本研究の実践の効果としては,自らの自己主張. Table 3 介入後の得点変化者の度数分布(N=22) 度数 自己主張・他者配慮 意見の表明 独自な意見の表明を望む気持ち アサーションの心理的要因 スキル不安 率直さへの肯定感. 下降群 割合(%). 度数. 不変群 割合(%). 上昇群 度数 割合(%). 8 3. 36.36 13.64. 3 6. 13.64 27.27. 11 13. 50.00 59.09. 8 6. 36.36 27.27. 6 4. 27.27 18.18. 8 12. 36.36 54.55. 46.
(8) へき地小規模中学校の全校生徒を対象とした対人関係ゲームの効果の検討. た理由として,学級内の不適応状態にある生徒は, 生徒の割合が明らかになった。介入対象者の人数 他の生徒に自分から働きかけるよりもまずは他の. が少ないために多変量解析を実施することはでき. 生徒からの働きかけに対して「上手な聴き方」ス. ないが,今後の研究の中で対人関係ゲーム後の変. キルを使用し,他の生徒が学習した「あたたかい. 容の個人差に影響する要因を明らかにすることが. 言葉かけ」スキルを遂行することが肯定的な. 望まれる。. フィードバックとなり,承認される体験を重ねた. さらに,得点の下降が望ましい「スキル不安」. 可能性を挙げている。つまり,不適応状態の生徒. については,上昇した生徒と下降した生徒が同じ. にとって,自ら積極的に学級の他者に関わること. 割合であり(36.4%) ,変化が見られなかった生. よりも,他者が当該生徒を受け入れるソーシャル. 徒が27.3%であり,3群の人数がほぼ均等に分か. スキルを遂行することや, 「上手な聴き方スキル」. れていた。スキル不安は高校生よりも中学生の方. のような他者からの働きかけに肯定的に応えるこ. が高く,中学生男子の不満・要求の表明,意見の. とが重要になると考えられる。同様に,Kasari,. 表明,断りの表明と負の関連があり,中学生女子. Rotheram-Fuller, Locke, & Gulsrud(2012)は自. の不満・要求の表明,意見の表明と負の関連があ. 閉スペクトラム症の児童60名を15名ずつ4グルー. る(柴田,2004) 。つまり,中学生の年代の自己. プに分け,6週間の介入(①本人へのソーシャル. 主張を抑制する重要な心理的要因の一つであると. スキルトレーニング,②周囲の子どもへのソー. 言えるため,スキル不安の解消は重要な課題とな. シャルスキルトレーニング,③①と②の両方,④. ろう。本研究で実施した対人関係ゲームではスキ. 何もしない)を行ったランダム化比較試験を報告. ル不安の低下までは確認できなかった。スキル不. している。 その結果, ②と③の介入を行ったグルー. 安を低減して自己主張,他者配慮を高めるために. プは3か月後の時点で自閉症スペクトラム症の児. は,自己主張や他者配慮,意見の折り合いをつけ. 童と他児の関係改善が確認されており,教育的な. るという目的達成のためには,本研究で実施した. ニーズの高い自閉症スペクトラム症児本人のみで. 対人関係ゲームに加えて,ソーシャルスキル教育. なく,環境要因としての周囲の他児のソーシャル. による自己主張スキルの育成を行うことが望まし. スキルの向上が対人関係の改善に有効であると言. いと思われる。. える。. ⑶ へき地小規模校における対人関係ゲームの意 義. 意見の表明と独自な意見の表明を望む気持ちの. 間には正の相関関係が認められていること(柴田, 本研究ではへき地小規模校において対人関係 2001) , 並びに本田他 (2009) とKasari et al.(2012). ゲームを実施しその効果を検証した。対人関係. の知見を踏まえると,本研究において他者の独自. ゲームの先行研究では学校規模を含めた詳細な検. な意見の表明を望む気持ちが高まったことは,今. 討は実施されておらず,小規模校において実施し. 後の自己主張が促進される環境形成に寄与したと. た研究の報告も高橋(2018)など少ない。対人関. 言えよう。さらに,柴田(2001)で得られた両変. 係ゲームに関する研究として,本研究では小規模. 数の相関関係は,実際には独自な意見の表明を望. かつへき地の学校で実践しその結果を報告した点. む気持ちを原因,意見の表明を結果とする方向の. に意義があろう。. 因果関係にあることが示唆される。この点は本研. 本研究で対人関係ゲームを選択した理由の中で,. 究で得られた新たな知見である。. へき地小規模校の特徴として挙げられる点は,学. ⑵ 個別の対象者の得点変化に関する検討. 校が「組織的・機能的な子どもの集団作りの困難. 本研究の実施後に得点の上昇が望ましい「意見. さ」(川前,2009)を認識している点,介入対象. の表明」 「独自な意見の表明を望む気持ち」 「率直. 者が長期間にわたる変化の少ない人間関係の中で. さへの肯定感」は50%以上の生徒において得点の. 生活している集団である点,過去に予防開発的心. 向上が認められたものの,介入後に低下した生徒. 理教育(石隈,2016)を受講した経験がない点,. が13.6~36.4%確認された。本実践において生徒. である。対人関係ゲームは教師にとって比較的実. の得点変化を個別に検討したことより,下降した. 施しやすいと考えられるため,本研究の実践は教 47.
(9) 学校臨床心理学研究 第18号(2020年度). 引用文献. 師が子どもの集団づくりのための教育相談の技法 を学習する機会にもなったと言えよう。また,長 期的に変化の少ない人間関係の中でも,遊びの要. 相川充・佐藤正二(編)(2006).実践!ソーシャ. 素を多く取り入れた対人関係ゲームは普段の人間. ルスキル教育 中学校 図書文化. 関係の中で無理なく新たなソーシャルスキルの学. 本田真大(2017).予防的・開発的教育相談の様々. 習ができる可能性が高い。さらに,対人関係ゲー. な方法 藤田哲也(監修) 水野治久・本田真. ムは予防開発的心理教育(石隈,2016)を初めて. 大・串崎真志(編著) 絶対役立つ教育相談―. 経験する子どもであっても,遊びの中で体験して. 学校現場の今に向き合う―(pp.73-74) ミネ. いくために参加しやすいと思われる。対人関係. ルヴァ書房. ゲームは他の人間関係づくりの技法(本田,2018). 本田真大・大島由之・新井邦二郎(2009) .不適. と比較して,へき地小規模校の特徴に合致しやす. 応状態にある中学生に対する学級単位の集団社. い可能性がある。しかしこの点は検討されておら. 会的スキル訓練の効果―ターゲット・スキルの. ず,今後の予防開発的心理教育(石隈,2016)の. 自己評定,教師評定,仲間評定を用いた検討― . アセスメントに資する研究として,初めて経験す. 教育心理学研究,57,336-348.. る子どもの参加への抵抗感を測定し,複数の方法. 今在慶一郎(2012) .へき地の保護者と教員が抱. 間で比較することも有益であると思われる。. く児童観―人間関係,コミュニケーションスキ. ⑷ へき地小規模校における実践に大学生が参加. ル,競争心について― へき地教育研究,66,. する意義. 45-50.. 本研究では大学生が実践に参加した点も特徴の. 石 隈 利 紀(2016) . 予 防 開 発 的 心 理 教 育 を 学 ぶ . 一つとして挙げられる。川前(2010)は大学1年. 野島一彦(編) 公認心理師への期待 日本評. 生から実施されるへき地教育の体験的プログラム. 論社,66-72.. を紹介しており,その中で経験する少人数指導,. 神村栄一・佐藤寛・小林奈穂美・本田真大・尾形. 異年齢集団指導,地域を活かしたカリキュラム開. 明子・吉田沙蘭・谷晋二・元村直靖(2012).. 発などは市街地の学校でも応用して取り組むこと. 子どもと思春期に対する認知行動療法―工夫と. ができると指摘している。本研究は教育相談の側. 秘訣の展覧会― 認知療法研究,5 ,31-40.. 面からへき地小規模校の子どもと関わる体験をす. 川前あゆみ(2009) .北海道小学校長から見たへ. るものであり,これまでのへき地小規模校におけ. き地小規模校の現状と課題 釧路論集(北海道. る教員養成教育から見ても本実践に一定の価値が. 教育大学釧路校研究紀要),41,105-121.. あると思われる。. 川前あゆみ(2010).へき地生活体験・へき地教 育指導体験と地域に根ざす教師の育成 生活体. 2.本研究の限界と課題. 験学習研究,10,23-33.. 本研究の課題は統制群を設定できていない点で. Kasari, C., Rotheram-Fuller, E., Locke, J., &. ある。本研究の介入効果を厳密に検討するには統. Gulsrud, A. (2012). Making the connection:. 制群を設定した研究が欠かせない。また,本研究. Randomized controlled trial of social skills at. では学校の実態を踏まえた上で対人関係ゲームの. school for children with autism spectrum. 中の折り合うゲームを選択したが,固定化した人. disorders. Journal of Child Psychology and. 間関係の中で自己主張と他者配慮,折り合いを高. Psychiatry, 53, 431-439.. める上で,ソーシャルスキル教育などの他の技法. 文部科学省(2010).生徒指導提要. の方が望ましかった可能性もある。今後はへき地. 大澤靖彦・田上不二夫(2015).対人関係ゲーム の動向と展望 東京福祉大学・大学院紀要,6 ,. 小規模校における予防開発的心理教育(石隈, 2016)の研究知見を蓄積し,へき地小規模校の実. 87-107.. 態に照らして効果的な方法を見出すことが課題で. 佐藤寛・三田村仰・高岡しの・金谷尚佳・佐藤美. ある。. 幸(2014).うつ病リスクの高い大学生を対象 48.
(10) へき地小規模中学校の全校生徒を対象とした対人関係ゲームの効果の検討. とした集団認知行動療法―ターゲット予防プロ グラムの予備的研究― 認知療法研究,7 , 84-93. 柴田祐子(2001).青年期の友人関係における事 故表明と他者の表明を望む気持ち 発達心理学 研究,12,123-134. 柴田祐子(2004) .青年期の友人関係における「自 己表明」と「他者の表明を望む気持ち」の心理 的要因 教育心理学研究,52,12-23. 田上不二夫(編著) (2003) .対人関係ゲームによ る仲間づくり―学級担任にできるカウンセリン グ― 金子書房. 田上不二夫(編著) (2010) .実践グループカウン セリング―子どもが育ちあう学級集団づくり― 金子書房. 高橋淳一郎(2018).小規模中学校における対人 関係ゲームによる予防的心理教育プログラムの 効果―1年目と2年目のソーシャルスキルの伸 びを比較して― 日本文理大学商經學會誌, 36,29-37. 戸田須恵子・福岡真理子(2001) .へき地におけ る中学生の対人関係ストレス,コーピング及び ソーシャル・サポートに関する研究―釧路市内 の中学生との比較― 北海道教育大学紀要(教 育科学編) ,56(1),1-10.. 付 記 本研究にご協力いただきました皆様に感謝申し 上げます。. 49.
(11) 学校臨床心理学研究 第18号(2020年度). SUMMARY Effects of Interpersonal Relationships’ Games for Small Rural Junior High School Students Masahiro HONDA (Department of Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education) The purpose of this study is to examine the effects of interpersonal relationships’ games for students at a small junior high school located in rural area. Participants were 24 junior high school students, and the program aimed for promoting assertion was conducted. As the results, “expectation of friends’ expression” was enhanced, but “self-expression” was not. The assessment of interpersonal relationships’ game for small rural schools were discussed.. Key words : rural school, interpersonal relationships’ game, preventive/developmental psychoeducation. 50.
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