中学校吹奏楽における音楽表現指導について
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(2) 釧路論集一北海道教育大学釧路校研究紀要一第40号(平成20年) Kushiro Ronshu,−Journalof Hokkaido University of Education at Kushiro−No.40(2008):123−130. 中学校吹奏楽における音楽表現指導について 久保田 浩 文1・比 良 輝 夫2 1北海道教育大学附属釧路中学校 2北海道教育大学釧路校. StudyingformusicguidanceinJuniorhighschoolband HirofumiKuBOTAl、 TeruoHIRA2 要 旨 中学校における部活動の大きな目的は、活動を通しての人間形成と専門技術の習得にある。技術的に高いレベルにある 学校吹奏楽であるが、主体的に楽譜を読み取り表現する力が育っているとは言い難い。 生徒が楽譜の内容を読み取り、作曲者の意図が聴き手に伝わる演奏を行うための効果的な指導や考え方について、附属 釧路中学校吹奏楽部で行った実践例の一部を報告する。 1.はじめに. ルの自由曲として演奏した楽曲、「氷河特急」(1)をもとに、. 実際に筆者が行った指導実践の一部を取り上げ、生徒たち. 学校教育における授業以外の吹奏楽(または金管バンド). は、小学校では同好会活動、中学校および高等学校では部. がより主体的で生きた音楽表現を行うための効果的な指導. 活動として位置付けられている。. 法について考察していこうとするものである。. 近年の学校吹奏楽の演奏技術向上は著しいものがある。 中学生が演奏していた曲をわずか数年後に小学生が演奏を. 2.吹奏楽部の成立条件. 行うなど、難易度の高い曲を苦もなく演奏する姿を目にす. 「活動」と名の付くものすべてには、それを成り立たせ. ることも多い。また、高等学校に至っては世界の同世代に. るために必要な条件が存在する。吹奏楽部の活動について. おけるトップクラスと言われるほどの高い演奏技術を有し. も例外ではない。特に楽器という高額なものを使用するた. ている。. め、多方面からの理解や援助なくしては成り立たない。. 技術的に高いレベルにある我が国の学校吹奏楽である. 吹奏楽部が活動を行うにあたり、私が最低限必要と考え. が、「子どもたち自身が音楽的な内容や表現方法を充分に. る条件は次のとおりである。. 理解せず、指揮者(顧問)の指示どおり演奏している(さ. ①部員(生徒). せられている)」と感じる演奏を耳にすることも多い。特. 活動する部員が存在しなくては部活動は成り立たない。. に、「プレイヤー自身が楽譜から音楽内容を読み取り、主. 学校規模にもよるが、極端に少ない人数では吹奏楽として. 体的に表現できているか」という視点から見た場合、疑問. の十分な活動ができない(アンサンブルならば可能)。ま. を感じてしまうことが少なからずある。. た、大人数でも不都合が生じる場合もある。実際の吹奏楽 曲では50名前後で一とおり楽譜上の音を演奏できるもの. 主体的な音楽表現は、目的をもたない単純な繰り返し練 習(曲の通し練習)からは生まれない。繰り返し練習は、. が多い。なお、全校生徒に対する吹奏楽部への入部率とし ては、一般的に全校生徒の一割前後が平均的と言われてい. 表現したい内容が演奏者や指拝者に明確に存在する場合、 また耐久力(スタミナや集中力)を高める場合には有効な. る。. 方法となる。しかし、中学生にとっては音楽的表現を自ら. ②指導者(顧問). 考えながら演奏することは容易なことではない。したがっ. 部活動の指導では、技術指導と生徒指導の両面が必要で. て、あまり深く考えず指揮者の指示に従い、言われたとお. ある。また、会計等を担当する副顧問がいることが理想で. りの演奏を行うことが多くなるのである。筆者自身も20. ある。顧問が1名の場合には、これらを全て担当すること. 年ほど前に初任校に赴任した当時、生徒に対して一方的な. になり、2人体制の場合には技術指導と会計等の事務処理. 指示を行い、「演奏させていた」という苦い経験がある。. を分担する場合が多い。生徒指導は主・副顧問とも行う。. その反省に立ち、生徒自身が考え、生きた演奏を行うため. 副顧問がセクション練習や基礎合奏を担当することもあ. に、どのように指導すべきか、これまで試行錯誤を繰り返. る。 なお、指導者自身が音楽科の教師、吹奏楽経験者や管打. してきた。. 楽器の経験者であることのメリットはあるが、必ずしも絶. 本稿は、平成19年度に本校吹奏楽部が吹奏楽コンクー. 一123−.
(3) 久保田 浩 文・比 良 輝 夫. 対的な条件ではない(コンクール全国大会の結果を見ても. 置されていない。したがって、附属小学校出身者は全員未. 明らかである)。. 経験者となる(公立小学校出身者は、年によっては少数で. (卦楽器・楽譜類. はあるが経験者が入部してくることもある)。例年、3学. 活動に必要な管楽器や打楽器等の備品は創部時期にある. 年合わせて25名前後の部員数で推移しており、編成上は. 程度揃えられるが、耐用年数があるため随時更新していか. 決して十分な人数であるとは言えない。なお、筆者は平成. なければならない。また、新入部員が多い牢には楽器が不. 11年9月より顧問(指揮)を担当している。. 足する場合もある。また、打楽器などの大型楽器は開校○. 練習は、基本的に平日放課後の午後6暗までと、土曜日. 周年といった時に購入してもらえることもある。. の午前に行っている(できるだけ週に一目は生徒を家庭に、. (∋活動場所. という方針で休みを入れるようにしている)。本校生徒は. 合奏練習は音楽室で行うことが多い(演奏会前やマーチ. 市内全域の広範囲にわたって居住しておりバス通学者も多. ングなどで体育館を借用する暗もある)。パート練習やセ. い。そのため、帰宅時間を考えると十分な練習時間は確保. クション練習などは普通教室や特別教室で行う。教室はあ. できない。しかし、これをデメリットではなく、「時間の. くまでも学校側から許可を得て使用するという考え方に立 ち、使用後の整理整頓や美化に努めることは当然のことで. 使い方や大切さを学ぶ」、「限られた時間の中で集中力を 高める」、「練習内容を工夫し内容の濃い練習を行う」良. ある。. い機会であると考えるようにしている。. 径)活動に必要な資金(楽器や楽譜等の購入、修理など). 年間の主な演奏活動は、大会関係では団体コンクール、 個人・アンサンブルコンク山ルへの参加、演奏会では年一. 楽器は購入後にいっさい辛がかからないというわけでは なく、老朽化や故障により修理が必要になる。また、木管. 回の定期演奏会、ウインターコンサー. 楽器のリード等の消耗品や楽譜の購入も必要となる。その. アンサンプルコンクール)の開催、釧路市中学校吹奏楽連. ための資金として、学校から活動費や備品代などの補助が. 盟定期演奏会などへの参加である。. ト(兼:部内個人・. 出ている場合が多い。部費や保護者会費という形で協力し てもらう場合もある。. 4.主体的な音楽表現のための試み. ⑤その他. 次に、筆者の実践の中から音楽的な表現方法に関わる指. 部員の送迎や保護者会など、保護者の理解や協力も当然. 導を行ったものを中心に取り上げ、効果的な指導方法を探 っていくこととする。. 必要不可欠な要素となる。また、部員一人一人の様子や情 報などを学級担任や養護教諭との連携を取りながら把握し ておく必要がある。. (1)楽譜から作曲者の意図を読み取るということ. 我が国を代表する吹奏楽曲の作曲家の一人である保科洋 氏は、作曲家の立場から次のような大変興味深い発言をし. 3.本校吹奏楽部の概要. ている。少し長くなるが引用する。. (1)部活動の目的. 学校教育における部活動の大きな目的は、「活動を通し. 「作曲家の側からすると、自分の曲の中で微妙なニュア ンスを表現したい時、実際にそれを楽譜上に記号や用語で. ての人間形成」、「種目の専門的技術の向上」にあると考 えている。特に、同じ目的をもった集団での活動を通して、. 書くことは難しいと思うのです。例えば音量に関してはf. 社会性や忍耐力、継続した努力の大切さを身に付けるとと. やp、またクレシュンドやデクレシエンド、また速度に関. もに、感動体験を通して豊かな人間性を育成することにそ. してはリタルダンドやアッチエレランドなど、ある程度決. の存在価値がある。実際に部活動を担当する場合、技術指. まった形でしか表記できないわけです。ですから、演奏者. 導以前に生徒指導の充実なくしては成り立たないことに異. は作曲家が書いた楽譜中の記号や用語を機械的に演奏する. 論はなかろう。. のではなく、さらに一歩踏み込んだ形で、楽譜から作曲者. 本校吹奏楽部でも活動の根幹を人間的成長に置き、「仲. の意図を読み取る作業が必要になるのです。それが結果的. 間を大切に」、「時間を大切に」、「楽器を大切に」の三つ. に多様な音楽表現を生み出すことにも繋がるわけです。で. の活動目標のもと、自分たちが活動できることに対して、. すから、自分が書いた曲が様々な解釈で演奏されることも. 「常に感謝の気持ちを忘れずに」という気持ちをもって活. 良いのではないかと思っています。」(2). 動に取り組んでいる。. 保科氏のこの発言は、音楽表現の本質を突いた大変示唆 に富んだものであると言える。作曲者の指示による速度や 強弱などを意識して演奏することは当然であり、重要なこ. (2)本校吹奏楽部の活動について. 本校吹奏楽部は開校以来、課外活動として活動を行って きた。大学の附属中学校という位置付けのため、学年の約. た表現とは完全に→致しない場合があると言っているので. 3分の2は隣接する附属釧路小学校からの入学となってい. ある。さらには、そのことが決して悪いことではなく、そ. る。附属′ト学校には合唱同好会はあるが吹奏楽同好会は設. れが幅広い表現を生む可能性にもなることも指摘している. とである。しかし保科氏は、それだけでは作曲者の意図し. 一124−.
(4) 中学校吹奏楽における音楽表現指導について. のである。. 保科氏は、フレーズの中での「重心」についても話をし. 近年では、吹奏楽コンクール課題曲(4∼5曲)の参考. ている。この「重心」とは、一般的に言われる「曲のヤマ」. 演奏がプロの吹奏楽団によって演奏され、参考演奏CDと. とも一部重複する部分があるが、「曲のヤマ」が比較的長. して販売されている。これらは、作曲者の指示した速度や. い小節数や時間をもつものが多いのに対し、「重心」は4. 強弱などを厳密に守り、忠実に(意図的・機械的に)演奏. 小節や8小節などの小さなまとまりの中でも考えることが. されている。それ以外の要素については極力独自の解釈を. できるものである。. 排し、「色をつけない」ことを前提としている。しかし、. 保科氏は「重心」をつぎのように定義している(3)。. そのような約束で演奏されているにもかかわらず、時おり 微妙に音楽的な色が出ている(出てしまっている)ことは. ある昔群内において、. たいへん興味深い。. 先行する音(群)はアナクルーズ(anacrouse) を、 後続する音(群)はデジナンス(desi■nence)を. (2)指導の具体例. 本校吹奏楽部が平成19年度吹奏楽コンクールの自由曲. 表現し得るような音(群)。. として取り上げた「氷河特急」は作曲者の高橋伸哉氏が2. 〈エネルギーの起伏の頂点として機能する音(群)〉. 000(平成12)年に作曲した吹奏楽作品である。曲名 が示すとおり、「世界一遅い特急列車」として有名なアル. 重心は、そのフレーズ内で、ある音楽的な必然性をもち. プスの鉄道を措いた標題音楽である。. ながら重心に向かってクレシエンドし、重心を越えた後に. 曲はアルプスの雄大な山々を連想させる序奏に続き、特. デクレシエンドしていくことにより表現される場合が多. 急列車が駅を出発する様子が描かれている(同様の場面に. い。ただ、この場合、「結果として強弱の変化が現れた」. は、他に、M.アーノルドが音楽を担当した映画「第六の幸. のであり、クレシエンドが書いてあるのでクレシエンドを. 福をもたらす宿(原題:TheInnoftheSixthHappiness)」. する、という単純なものではない。中学生は、この「書い. の冒頭部分などがある)。. てあるので」という演奏が多く、「どうしてそうなるのか」. 曲は序奏に続き、アップテンポでありながら優雅さを兼. といった分析を行わない(行えない)場合が多い。これが. ね備えた旋律の流れとなる。中間部ではゆったりとしたテ. 先述した「やらされている」演奏、すなわち聴く側にとっ. ンポとなり、木管楽器を中心とした叙情的な旋律が流れる。. ては奏者の主体性が感じられない演奏になってしまうー因. 中間部が終わると、前半部分と同様のアップテンポに戻り、. になっていると考える。. 前半の旋律を再現した後、華やかに曲を閉じる。. 例として【語例1】を取り上げ、重心について考察して. 軽快な部分と叙情的な部分とが調和し、中学生にとって. いきたい(譜例については、今後特にことわりがない限り. 親しみやすく、本校部員も大変好んで演奏していた。 ①フレーズのもつ「重心」について. 「氷河特急」の一部を抜粋したものとする)。. 【譜例1(92∼98小節目)フルート、アルト・サクソフォーン他】. ◎Copyright2002byBrainCc・.,Ltd.(Hiroshima,Japan) A11rightsreserved.. ※Usedpemission. 125.
(5) 久保田 浩 文・比 良 輝 夫. 楽譜上の前半部分は基本的に旋律が下行していくパタ. 手を離して体が宙に浮いた状態をオクターブ上がった状態. ーンである。下行進行の中でエネルギーが蓄積され、下降. であると説明する。もちろん、オクターブや音の跳躍にか かわる全てがこのパターンに当てはまるものではないが、. 形の最低音(92小節目4柏目裏)に着いた時に重心がか かる。ともすると、旋律の下降形はすべてデクレシエンド. この説明により、実際の演奏では奏者(中学生)の意識や. になると解釈してしまう指導者や生徒も見受けられるが、. 表現力がかなり高まった。. その後に続く音の配置(旋律の流れ)から、この位置に重. 私は常々、「演奏している自分も気持ち良く、聴いてい. 心が置かれることが妥当であると判断した(これは、保科. る人にとっても心地よい」演奏を意識させている。奏者自. 氏の「ジェットコースターの原理」(4〕と呼ばれる考え方. 身が気持ち良く演奏できなければ聴く側に感動は伝わらな. による)。. い。しかし、聴いている人が物足りなさや違和感を感じる. その後、短い上行形があり、いったん音が下がった後、. 演奏では、結果として自己満足の域を出ない。常に聴き手. 1オクターブ上の音に跳躍する。竹内俊一氏はこれを「音. のことを考えた演奏を心がけることが必要であろう。. の跳躍があるところに感動が生まれる」(5)と表現してい. そうした意味で、この「重心」を意識した演奏は、聴く. る。竹内氏は、具体例として、森進一の「襟裳岬」の中の. 側に音楽表現を伝えやすい方法の一つであると言える。. 旋律で、「襟裳の春は」の歌詞にあたる部分の「えりも」 と「の」の箇所を取り上げて説明を行った。この場合は1. ②休符の意味を理解し意識化することの効_果について. オクターブ下に動くパターンであるが、的を射た説得力の. 中学生の中には、休符に対して、「お休み」「音を出さ. ある説明であると思う。. ない場所」「ブレス(息継ぎ)をする場所」という程度の 意識である場合が多い(ただ、こうした意識をもっている. 【譜例1】に戻る。この1オクターブの跳躍の演奏では、. 本校中学生は上がった音(95小生目1拍目)を大きく吹. 生徒はまだ良いほうで、中には休符そのものを意識せず、. いてしまうことが多い。これは、中学生の場合には、技術. 結果的に「音符の一部」として前の音符の長さに加えて演. 的に高音を出しにくい場合が多いため、力んで演奏してし. 奏してしまう生徒もいる)。. まった結果であることが多い。また、技術的に問題がない. 休符は、段落としての区切り(言葉でいう「句点」や「読. 場合でも、単純に高い音を気持ちよく演奏したいために、. 点」)としての意味合いをもつもの、緊張感または弛緩し. 勢いで強く出してしまうことも多い。. た状態を作り出すもの、その他さまざまな理由から用いら. 私はこのパターンのイメージ化を図り意識を高める方法. れ、音楽全体に大きな影響力を及ぼすものである。. として、跳び箱の踏み切り板の例を挙げることが多い(部. 合奏練習では、実際に音が出る「音符」ばかりに意識や. 員に説明する時には、「跳び箱理論」と言っている)。こ. 練習が集中しがちになるが、休符を取り上げることによっ. の場合、助走を行い両足を踏み切り板につき、十分に踏み 切り板が沈み込んだ状態が、オクターブ上がる前の昔のエ. て得られる表現や演奏効果も大きいと考えるのである。. ネルギー(重心)となる。その後、跳び箱に両手をつき、. 取り上げる。. 次に、実際に休符を意識するために行った練習の一例を. ⑥Copyright2002byBrainCo.,Ltd.(Hiroshima,Japan) Allrightsreserved.. ※Usedpemission. 【譜例2】は冒頭2小節目のトランペットの旋律である。. しに必然的に重さがかかることになる。この場合、そのエ. 小節の冒頭に八分休符があり、その後に旋律が演奏される。. ネルギーは決してアクセントとして演奏されるわけではな. この楽譜の場合、仮に強拍である1柏目の休符部分に音. く、あくまでも緊張感や間を生み出す効果があるものであ. があっても問題はない。この楽譜では休符をここに置くこ. る。. とにより、本来、強柏部分で昔が出るためのエネルギーが. 練習当初は、アタックやタンギングなど音符ばかりに気. 蓄積され、緊張感が増し、結果として1柏目の裏拍の出だ. を遣い過ぎ、休符のもつ意味や価値はあまり意識されてい. −126−.
(6) 中学校吹奏楽における音楽表現指導について. このパターンは、小節の頭の音に重さがかかる典型的な. なかった。そこで実際の練習では、まず八分休符のところ に1拍目の裏拍と同じ音符を入れたものを演奏させた(譜. ものであり、そのエネルギーや緊張感を体感させた後、本. 例3)。. 来の楽譜どおり(語例2)に演奏させた。この方法により、 生徒は休符の存在や意味を理解するようになり、吹き始め. 【譜例3 リズムを変えたパターン(1stトランペット)】. の音型に力強さや緊張感が表れるようになった。それでも 最初は音に荒さが目立った。そのため、「刺さるような痛 い音ではなく、幅広く丸みをもち、かつ力強さを感じさせ る音を出そう」と指示し、生徒が互いに音を出し合い、相 互評価を繰り返すことにより目標とする水準まで到達する ことができた。. ′. ⑥Copyright2002byBrainCo.,Ltd.(Hiroshima,Japan) AllrightsreseⅣed. ※Usedpemission. 中学生であれば、この楽譜(語例4)の程度のリズムを. とします(下図を板書)。. 認識し、「ほぼ正確に」演奏することは決して難しいこと ではない。しかし、本当に「正確に演奏できている」かと いうと、そうではない場合が多い。特にこの場合、2柏目. 1. 2. 3. 4 (cm). の裏の八分音符を正確に取ることは実は簡単なことではな い。一人でも難しいものを複数名で演奏するとなると、正 確に合わせることがより困難になることは明らかであろ. この定規で1c皿ごとに点を打っていくことは簡単です. う。 この「合わない」原因は、柏のカウントの数え方にある。. ね。 しかし、この定規で5皿m間隔で正確に点を打ち続けるこ. 中学生は、どのようなリズムの配列においてもすべて拍子. とができるでしょうか。よほどの偶然が起こらない限りほ. (この場合は4分の4相子)の基準となる音符(四分音符). とんど不可能ですね。これは皆さんの演奏する楽譜につい. でカウントすることが多い。これは、四分音符より長い音. ても同じことが言えます。この定規の1目盛りを四分音符. 符や休符が続く場合には問題は生じないが、それより短い. の長さとした時に、八分音符の長さ(1目盛りの半分)を. 音符や休符では不都合が生じる。実際の本校吹奏楽部の指. 正確に取ることはできないですね。ですから慣れないうち. 導においては、部員に対して次のような説明と練習を行っ. は、そのフレーズの中での最短の音符や休符の長さに合わ. た。. せたカウントの取り方を意識して練習する必要があります. 【実際の指導場面】. ね。そして、カウントされた最短の音符のリズムが、演奏. 例えば、ここに1c皿刻みで目盛りが切られた定規がある. 中も常に頭の中でメトロノームのように連続して鳴ってい. ー127−.
(7) 久保田 浩 文・比 良 輝 夫. ることが大切です。. う恐れからである。また、講師と自分との力量を比較され、. それでは実際に、そのようにカウントして練習してみま. 生徒からの信頼を失うかもしれないという心配な気持ちに. しょう。. なるからである。これでは指導者本人はもちろん、何より も生徒たちを不幸にしてしまうことになる。. 実際の練習では、まだ楽器の演奏そのものに慣れていな. 私は条件が整えば、可能な限り外部講師をお願いするこ. い1年生は慣れるまでに時間がかかったが、2、3年生で. とにしている。合奏講習では、当然、自分の力量不足が明. は演奏がすっきりし大きな進歩が見られた。合奏の中でリ. らかになり、その場では大いに反省させられ落ち込むこと. ズムを合わせることを「縦を合わせる」、ハーモニーを合. もある。今回の「氷河特急」でも外部の優秀な講師から合. わせることを「横を合わせる」という言い方をすることが. 奏指導をいただき、日頃の指導の不十分さを痛感させられ. 多い。今回のように「縦の線」を合わせるためには、この. た。しかし、現在の自分に何が足りないかが明らかになる. 方法で意識化を図ることも有効な手立ての一つであると考. ということは、それらを克服することによって結果的に目. える。. の前の生徒にとってもプラスになる。それが今よりも良い 演奏につながるのであるならば、これほど良い機会はない. 4.成果と課題. と考えている。講習会後は、指導者として自分に足りなか. これまで音楽表現にかかわる、いわゆる「音楽づくり」. った部分を生徒に対して正直に話し、その日の講習を生か. をテーマに論を進めてきた。今回は触れていないが、その. して生徒と顧問で一緒に頑張っていこうというミーティン. 前段階である「音づくり」が、演奏に際してもっとも基本. グを行っている。. 的なことであり重要なことであるということを押さえてお. なお、本校では主に次の教本を使用し、バンドの基礎合. かねばならない。. 奏やサウンド作りを行っている。 ○『NEMUBANDMETHOD』(6). 竹内氏は、常々「吹奏楽指導において基本的な音作りを ないがしろにして音楽作りばかり行う指導の危険性(「音. ○『バンドのための音階教本 TREASURYOFSCALES』. づくりの大切さ」とも言い換えられる)」について述べて. (7). いる。これは、例えば美術において基本的なデッサンカを. ○『JBCバンドスタディ 音づくりから音楽表現まで」】(8). 身に付けずに着色ばかりにこだわるようなものである。. ○『66Festive&FamousChoralesForBand」](9) これらの教本については、すべての内容をもれなく行う. 本校では、各楽器の技術指導については、地元のアマチ ュア奏者や本校卒業生に依頼している(筆者自身は学生時. ということではなく、本校のバンドにとって必要と思われ. 代、トランペットを専攻していたため、特に木管楽器、打. る項目を抜き出して行っている。. 楽器の指導を依頼することが多い)。何事も最初が肝心と 言われるが、吹奏楽においても同様である。楽器を手にし た最初が最も大切であり、指導者が中途半端な知識で各楽. 今回の音楽表現の指導の成果と課題を、対外的に専門家 からの演奏評価を受けるコンクールの結果から振り返って. 器の奏法について指導を行ったり、「主体的」という名の. みたい(平成12年度以降のもの)。コンクールでは各審. もとに指導を放棄してしまうこと(正しい練習方法を教え. 査員が各団体ごとの演奏についてのコメントを講評用紙に. ずに「自分たちで考えなさい」というこ. 記入することになっている。本校に対するこれまでの講評. とは指導の放棄で. あり放任である)は、せっかく高い志や希望をもって入部. では次のような内容のものが多い。. してきた生徒たちを不幸にしてしまう。. ○曲のもつ特徴や雰囲気がうまく表現されている。 OT寧な音楽づくりである。. 指導者はまず、自分の現状で「今できること」、「自分 一人ではできないこと」を客観的に分析し、的確に判断す. ○旋律の歌い方がよくできている。. ることが必要だと考える。その上で、「できないこと」を. ○指揮者と演奏者との息があっている。 ○気持ちよく聴ける演奏である。. 「努力によって短時間で可能なもの(知識の部分。例えば 演奏フォームのチェックや運指など)」、と「身に付くま. ○音楽の流れが良い。. でに時間のかかること(技能の部分。例えば各楽器を正し. ●奏者同士のピッチ(音程)のずれが気になる部分がある。. い奏法で実際に演奏すること)」に分類し、すぐにできな. ●強奏の部分で音の出だしが荒くなり音色も硬い。. いことは他者に依頼する勇気をもつことが大切だろうと思. ●強弱の幅がもう少しあると良い。. う。 しかし、現実には外部からの指導者を講師として招くこ. ●楽器同士の音色のブレンドの工夫が必要。. とを極力嫌う指導者も存在する。特にそれはパート別指導 よりも自校バンドへの合奏講習会でその傾向が見られる。. ●ヴイプラートを練習すべきである。. ●楽器間の音量バランスの調整が必要。. これらのコメントから、聴衆(審査員)に音楽的な表現. それは、指導力のある外部講師の指導や指摘により、顧問. は比較的伝わっていると考えられるが、基本的な技術面で. 自らの日常の指導の不十分さが生徒に露呈してしまうとい. 改善の余地があると反省させられる。. −128−.
(8) 中学校吹奏楽における音楽表現指導について. 例をあげることにより、具体的な演奏をイメージするこ. なお、本校吹奏楽部は創部当初より、吹奏楽(団体)コ. とが容易になり、主体的な表現を行いやすくなった。. ンクールには毎年参加しており、平成12年度(創部以来. ② 楽譜の解釈に共通の考え方を持つことにより、全体の. 初)から現在まで、地区代表となり北海道大会に進んでい. 演奏がまとまりやすくなった。. る。 平成12年度. ③ フレーズの「重心」という考え方やジェットコ ー理論を用いることにより、生徒自らが楽譜を分析し、. 中学校C編成 釧路地区代表 北海道大会 金賞. 主体的な表現を目指すようになった。. 自由曲 吹奏楽のための木挽歌(小山清茂 作曲) 13年度. また、残された課題は次のとおりである。. B編成 釧路地区代表 北海道大会 銀賞. ① 指導者からの説明によって表現したいイメージを頭で. 自由曲 祝典舞曲(保科 洋 作曲). は理解していても、その表現のための技術的な部分が追. 14年度. い付かず、結果的に満足のいく演奏にならないこともあ. B編成 釧路地区代表 北海道大会 銅賞 自由曲 メリー・ウイドウ・セレクション. った。今後も継続的に基礎的な演奏技術の向上を図る必 要がある。. (F.レハール 作曲). ② 音を出す前のイメージはあっても、実際に演奏を始め. 15年度. ると、音を出すことばかりに注意がいっていしまい、出. C編成 釧路地区代表 北海道大会 銀賞. した晋をフィードバックし自分の耳で聴き、結果を判断. 自由曲 メモワール(保科 洋 作曲). する習慣が身に付いていない。「自分が出した音に責任. 16年度 C編成 釧路地区代表 北海道大全 銀黄. をもつこと」を徹底する必要がある。. 白由曲 リバー・ダンス(B.ウイーラン 作曲). (∋ 生徒による和声分析をもとにした表現の工夫は難し い。生徒は授業(第2学年)で取り扱っているコードネ. 17年度 C編成 釧路地区代表 北海道大会 銀賞 自由曲 三日月に架かるヤコブのはしご. ーム程度のものしか理解しておらず、現状ではそれ以上 のものは望めない。. (真島 俊夫 作曲). 18年度. 5.おわりに. C編成 釧路地区代表 北海道大会 銀賞 自由曲 吹奏楽のためのバッサカリア. 豊かな演奏表現を行うためには、楽器の奏法など基礎技 術の習得や音楽全般についての知識はもちろんのこと、音 楽以外の文化や歴史についても幅広く理解を深めていくこ. (兼田 敏 作曲). とが必要であると考える。. 19年度. 大人になるにつれ失いがちになりがちな、「新たな発見. C編成 釧路地区代表 北海道大会 金賞 自由曲 氷河特急(高橋 伸哉 作曲). を喜び、ものごとに感動する心」、その純粋な気持ちを演. また、個人・アンサンブルコンクールでは個人の部で平. 奏の喜びや感動という形で味わわせてあげたいと考えてい. 成12年度(B♭クラリネット)、15年度(アルト・サ. る。そのために、今後も生徒たちが主体的に内容分析を行. クソフォン)、17年度(アルト・サクソフォン)、18. いながら音楽表現を工夫し、充実感をもって音楽を楽しめ. 年度(アルト・サクソフォン)で地区代表となり、15年. るような指導方法の工夫や実践を試みていきたい。. 度と17年度は北海道大会で金賞を受賞した。アンサンプ. 附託 本稿は久保田浩文が執筆し、比良輝夫が校閲したも. ルの部では平成19年度に金管六重奏が地区代表となっ. のである。. た。 コンクールの結果のみでは、今回の取組の効果について. [引用および参考文献]. 厳密に判断できないが、本校吹奏楽部の音楽づくりが、あ. (1)高橋 伸哉 作曲(ブレーン出版 2000). る程度外部から評価されてきたことを考えると、一定の成. (2)兵庫教育大学大学院 指揮法講義(1987). 果をあげることができたと考えている。. (3)保科 洋『生きた音楽表現へのアプローチ エネル ギー思考に基づく演奏解釈法』 (音楽之友社1998 p.56). 以上、実際の吹奏楽作品を例に取り、中学生に対する指 導過程の中で、生徒が主体的に楽譜から音楽を読み取り、. (4)竹内 俊一『バンド指導 ポイント20 上達のコ. 主体的に表現を行うための指導法について考えてきた。. ツ 合奏指導編』(音楽之友社1993 p.66∼67). 今回の試みの中で成果と考えられることは次の3点であ. (5)北海道教育大学教育学部釧路分校(現:北海道教育 大学釧路校)での交響吹奏楽部指導(1984). る。 ① 音楽の表現方法の指導に関して、できるだけ具体的な. (6)日本バンドクリニック委員会 監修(ヤマハ教販株. ー129−. ースタ.
(9) 久保田 浩 文・比 良 輝 夫. 式会社1992) (7)Leonard B.Smith 著 (株式会社ヤマハミュージ ックメディア 1997). (8)日本バンドクリニック委員会 監修 (ヤマハ株式 会社管弦打学校営業部 2005) (9)FrankErickson 編曲(AlfredPublishingCoリInc. 出版年末記載). −130−.
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