交通科学 Vol.51, No.1(2020) - 26 -
ETC2.0 データを活用した生活道路対策
谷 口 智 広* 中 川 辰 則*
1.はじめに 我が国の交通事故死者数の長期的推移をみると,1970 年の約 17,000 人をピークに減少傾向を示しており,2018 年には過去最少の約 3,000 人となった. 死傷事故件数についてみると,2002 年には 93 万件(幹 線道路:72 万件,生活道路:21 万件)発生していたが, 2018 年には 41 万件(幹線道路:31 万件,生活道路:10 万件)となり,約 56%減少している1).自動車保有台数 が経年的に増加していることを踏まえると,全国的に実 施している交通安全対策が一定の効果を発揮していると 考えられる. 特に幹線道路の死傷事故件数に着目すると,2002 年か ら 2018 年の間に約 41 万件減少している.一方で,生活 道路における減少数は約 11 万件となっており,幹線道路 と比較すると減少量が小さい.また,交通事故死傷者数 の約 4 割が歩行中または自転車乗車中(以下,歩行者) であり,そのうちの約 6 割が自宅から 500m以内で事故 に遭っている2). 生活道路は周辺住民が地区内での移動や通勤,通学等 に利用することを主目的として整備されており,車道幅 員が狭く,歩車分離がなされていない区間が多い.その ため,車両と歩行者の接触事故が発生する危険性が高い. また,車両と歩行者の接触事故において,衝突時の車両 速度が 30 ㎞/h を超えると歩行者の致死率が約 4 倍に増 加する. 以上のことから,生活道路においては,車両と歩行者 の接触を防ぐ対策や通過交通を抑制する対策,通過する 車両の速度を抑制する対策等の実施が急務である. これまでも,特に小学校周辺の生活道路において,外 側線の整備やカラー舗装,路面標示の設置,コミュニテ ィ道路の整備等を実施してきた.また,兵庫県警察にお いてはゾーン 30 を設定し,交通規制を実施するなど,交 通安全の確保に努めてきた.これらの対策は過去の事故 発生履歴や合同点検の結果,地域からの要望などにもと づき実施してきた. 一方で,近年,ETC2.0 搭載車から得られるプローブ情 報(以下,ETC2.0 データ)を用いた生活道路の交通安全 対策が注目されている.ETC2.0 データを用いることで, 通過する車両の速度が速い路線や,急挙動が多く発生し ている箇所,通過交通の有無など,潜在的な危険個所を 把握することができ,予防保全的な交通安全対策を検討 することができる. そこで,今回は灘区深田町にある成徳小学校周辺の生 活道路エリア(以下,成徳エリア)を対象に,ETC2.0 データを用いた交通安全対策の検討を行い,対策検討の 一環として,近畿地方整備局兵庫国道事務所,並びに近 畿技術事務所のご協力のもと,可搬型ハンプの効果検証 を実施したので,その内容及び結果について報告する. 2.成徳エリアの概要 成徳エリアは図-1 の通り,国道 2 号,県道灘三田線, 市道八幡線といった交通量の多い幹線道路と JR 神戸線 に囲まれたエリアであり,ゾーン 30 に指定されている. 図-1 成徳エリア概要図 交通科学 Vol.51, No.1 26~29(2020)〈報 告〉
〈 Report 〉 Road Safety Measures on Community Roads Using the ETC2.0 Probe by Tomohiro
TANIGUCHI and Tatsunori NAKAGAWA
*神戸市建設局道路工務課 Kobe City Construction Bureau Road Department Construction Section
交通科学 Vol.51, No.1(2020) - 27 - エリア内には,数多くの人家に加え,小学校,幼稚園, 保育園及び公園が林立しており,エリア内のすべての路 線が地域住民の日常生活に欠かせない路線となっている. 当該エリア内においては,これまでにも外側線の設置や コミュニティ道路の整備等を実施してきたが,昨今の交 通安全の確保に向けた機運をうけ,さらなる安全性向上 に向けて,ETC2.0 データを活用した交通安全対策を検討 することとした. 3.使用する ETC2.0 データについて ETC2.0 データとは,ETC2.0 車載器に蓄積された車両 の走行履歴情報や挙動履歴情報を車道に設置した路側機 によって収集したものであり,走行距離 200m 毎,また は進行方向が 45 度変化した際の位置,速度等(以下,デ ータを取得した位置をポイントと呼ぶ),及び加速度が 0.25G 以上またはヨー角速度が±8.5deg/s 以上変化した際 の前後左右の加速度等が記録されている3). 成徳エリアにおける 2016 年 1 月~2016 年 12 月及び, 2017 年 3 月~2018 年 2 月の ETC2.0 データの解析結果 図-2 ETC2.0 データ解析結果 図-3 成徳 4 号線全景 より,車両の走行速度が速い路線(データ数が 2000 ポイ ント以上かつ,そのうちの 40%以上が 30 ㎞/h を超える 路線)並びに急減速挙動が多発している箇所を抽出する と図-2 の通りとなる. 特に,成徳 4 号線は小学校,幼稚園,保育園から公園 への動線として園児,児童の通行量が多い.また,駅や 商業施設へ向かう主要経路として数多くの地域住民が利 用している.一方で,図-3 に示す通り,生活道路として は車道幅員が広く直線的な道路であるため,車両の走行 速度が速くなりやすく,道路を横断する歩行者との交錯 時に急減速挙動が多数発生している. そこで,成徳 4 号線を通行する車両の走行速度を抑制 することで,当該路線の安全性向上を図る. 4.可搬型ハンプを活用した効果検証 成徳 4 号線には横断歩道が多く,ダイヤマークが数多 く設置されている.また,横断歩道付近には速度低減を 促す電柱幕が設置されている.しかしながら通行する車 両の多くが制限速度を超過している実態から,視覚的に 注意を促す対策ではなく,物理的に通行車両の速度を抑 制するハンプ(路面に凸部を設け,車両を上下に振動さ せることで速度低減を促すもの)に着目し,当該路線に おける速度抑制効果を検証することとした. 【検証概要】 効果検証にあたっては,図-4 に示す通り,可搬型ハン プを設置し,交通流動の変化を調査した. ・設置期間:2020/3/19~2020/4/17(30 日間) ・実施内容:可搬型ハンプの設置,外側線の設置,中央 線の削除 ・設置位置:図-5 の通り 図-4 可搬型ハンプ整備写真 図-5 設置位置図
交通科学 Vol.51, No.1(2020) - 28 - 5.検証結果 可搬型ハンプの設置前後における交通量等を検証する ため,2020 年 3 月~4 月にかけて,ビデオ調査を実施し た.調査実施日については表-1 の通り. 表-1 調査実施日 調査日 期間 調査時間 3 月 11 日(水) ハンプ設置前 12 時間(7 時~19 時) 3 月 15 日(日) ハンプ設置前 12 時間(7 時~19 時) 4 月 2 日(木) ハンプ設置中 12 時間(7 時~19 時) 4 月 5 日(日) ハンプ設置中 12 時間(7 時~19 時) ビデオカメラの設置位置については図-6 の通り,可搬 型ハンプ設置位置の東西に 2 台(①,②)を設置し,車 両がビデオカメラの前を通過する時刻をもとに平均速度 を算出した.また,ハンプ設置中の 4 月 2 日と 4 月 5 日 の調査については,西側交差点付近にビデオカメラ 1 台 (③)を増設し,ハンプ通過前後の速度変化につても調 査することとした.また,騒音計を設置し,ハンプ設置 に伴う走行音の変化についても併せて調査した. なお,便宜的にビデオカメラ①及び②の間の区間を A 区間,ビデオカメラ②及び③の間の区間を B 区間と呼ぶ こととする. 図-6 ビデオ調査概要 (1)交通量の変化について ハンプ設置前及びハンプ設置中の車種別交通量を図-7 に示す.図より,ハンプの設置による交通量の変化は見 られない. 図-7 ハンプ設置前後の交通量比較表 (2)ハンプ設置前後の走行速度比較 A 区間におけるハンプ設置前及び設置中の平均走行速 度はそれぞれ 34.7 ㎞/h,23.6 ㎞/h であり,ハンプを整備 することにより約 11 ㎞/h の速度低減効果があった.また, ハンプ設置前は通過車両の約 69%が制限速度の 30 ㎞/h を上回る速度で通過していたのに対し,ハンプ設置中は 約 73%の車両が 30 ㎞/h 以下で走行しており,ハンプに よる速度抑制効果が確認できた. 図-8 ハンプ設置前後の走行速度分布 (3)ハンプ通過前後の走行速度比較 ⅰ)東行車両(B 区間→A 区間方向)について 東行車両の B 区間と A 区間における速度分布を表-2 に示す.表-2 は車両が B 区間から A 区間へ移動した際の 速度変化を表しており,例えば B 区間を 30~40 ㎞/h で 走行した車両 95 台に着目すると,そのうち 79 台が A 区 間では 30 ㎞/h 以下に速度を落としており,残りの 16 台 は同等の速度,もしくは加速して通過していることが読 み取れる.表-2 より B 区間を 20 ㎞/h 以上で走行した車 両 432 台の内,281 台(65%)が A 区間では速度を落と している.特に A 区間を制限速度超過で走行した車両 100 台の内,84 台(84%)が B 区間で速度を落としており, 走行速度が高いほど,速度抑制効果が発揮されている. 表-2 東行車両の速度分布 速度 (km/h) 台数 (台) ~20 20~30 30~40 40~50 50以上 ~20 42 37 5 0 0 0 -1.3 20~30 334 197 94 37 6 0 -4.7 30~40 95 44 35 14 2 0 -14.1 40~50 5 3 1 1 0 0 -26.5 50以上 0 0 0 0 0 0 -B区間 A区間速度別内訳(㎞/h) 平均速度 増減量 (km/h) (台) ⅱ)西行車両(A 区間→B 区間方向)について 西行車両の A 区間と B 区間における速度分布を表-3 に示す.A 区間において,西行車両 387 台の内,170 台 (44%)が制限速度の 30 ㎞/h を超過して走行しており, そのうち 126 台(74%)が B 区間においても同等の速度, もしくは加速して通過している.また,A 区間を正減速 度の 30 ㎞/h 以下で走行した車両 217 台の内,122 台(56%)
交通科学 Vol.51, No.1(2020) - 29 - が B 区間では 30 ㎞/h を超える速度に加速していること がわかる. 表-3 西行車両の速度分布 速度 (km/h) 台数 (台) ~20 20~30 30~40 40~50 50以上 ~20 107 3 55 34 15 0 14.7 20~30 110 0 37 48 22 3 12.1 30~40 153 3 32 71 40 7 6 40~50 17 0 2 7 8 0 -7 50以上 0 0 0 0 0 0 0 A区間 B区間速度別内訳(㎞/h) 平均速度 増減量 (km/h) (台) (4)通過する車両の騒音比較について ハンプ設置前及び設置中の車種別騒音値の平均及び最 大値を表-4 に示す.いずれの車種についても,ハンプを 設置することによる騒音の増大は確認されなかった. 表-4 車種別騒音値 普通車 貨物 タクシー 平均 最大 平均 最大 平均 最大 設置前 55.1 84.9 56.2 70.4 53.0 64.4 設置中 54.8 72.3 56.0 69.6 57.3 68.1 db 6.おわりに ETC2.0 データの解析結果をもとに潜在的な交通危険箇 所を抽出し,効果的な交通安全対策の検討の一環として 可搬型ハンプ用いた効果検証を実施した.その結果,ハ ンプの速度低減効果が確認でき,本検討の対象である成 徳 4 号線の交通安全の確保に有効であることが確認でき た.一方で,ハンプ上を 30 ㎞/h 以上で通行する車両や, ハンプ通過後に大幅な加速をしている車両が一定数存在 することが確認され,ハンプ通過前の注意喚起やハンプ 通過後の急加速の防止が課題であることが明らかとなっ た. 当市では,令和 2 年度中のハンプ本設設置を目指して おり,ハンプの設置位置,設置基数をはじめ,路面標示 や注意喚起看板等の対策を組み合わせながらより効果的 な対策として実施を検討していきたい.さらに,成徳エ リア内の成徳 4 号線以外の路線についても,区画線整備 や注意喚起看の設置等を検討し,地域住民や兵庫県警察 の理解を得ながら,成徳エリア全体のさらなる安全性向 上に向けて取り組んでいきたい. 参考文献 1) 生活道路の交通安全対策に関するポータルサイト, https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/sesaku/anzen.ht ml(2020/7/25 参照) 2) 坪田隆宏, 吉井稔雄, 倉内慎也, 山本篤志, ETC2.0 データを活用した生活道路の交通事故リスク要因分 析, 土木学会論文集 D3(土木計画学), Vol.74, No.5, pp.1029-1035, 2018 3) 国土交通省 ITS(高度道路交通システム)の推進, http://www1.mlit.go.jp/road/ITS/j-html/etc2/index.html (2020/7/25 参照) 4) 一般社団法人交通工学研究会, 生活道路のゾーン対 策マニュアル, 2017 (令和 2 年 8 月 5 日受付)(令和 2 年 8 月 6 日受理)