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スウェーデンの住宅政策の現状と今後の方向性 社会民主主義から新自由主義へ移行する福祉国家の住まい

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Academic year: 2021

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⃝特集「住宅政策の新たな枠組みを探る」

1. はじめに

昨年の 9 月 9 日、スウェーデンでは 4 年に 1 度の総選 挙が行われた。東京のスウェーデン大使館では、10 日 の早朝(現地は 9 日夜)に“Election Day Breakfast” と称し、朝食ビュッフェをいただきながら、スウェーデ ン大使の選挙結果総括を伺うイベントが開催された。筆 者はそのイベントに出席した際、幸いにも現駐日大使 ローバック氏と話しをする機会を得た。ここ数年、特に 都市部で混迷を極めている住宅供給状況がこの選挙では どのように取り上げられているか、各政党はどのような 政策方針を打ち出しているのか伺おうとしたが、大使の 答えは「政策論争には全くのぼっていないし、どの政党 も住宅問題は取り扱っていない。しかし、今回の選挙で 政権をとった内閣は取り組まざるを得ないと思う。住宅 政策は無策な状況が続いている。」であった。 福祉国家構築にあたっての重要施策の一つであった、 スウェーデンの住宅政策は 1990 年代以降大きく姿を変 え現在に至っている。本稿では、その変化の過程を解説 すると同時に、スウェーデンの現在の住宅政策・住宅事 情を、様々な情報をもとに浮き彫りにしていきたい。

2. 福祉国家の樹立と「国民の家」

「国民の家(Folkhem)」とは、この国を福祉国家とし て導いた社会民主労働者党 2 代目党首ペール・アルビン・ ハンソンが、政権を獲得する 4 年前の 1928 年に示した マニフェストであり、普遍主義にもとづき国民全般の生 活の質的向上を目指した公約であった。マルメ大学のグ ルンドストロームは、「スウェーデン社会における「国 民の家」の構築と福祉国家形成の過程において、ハウジ ングは最も重要な要因であったことは疑う余地はない」 と説明しており、住宅政策が福祉国家樹立の大きな屋台 骨であったことを端的に表している。ハンソンが政権を とった当時のスウェーデン社会は、1930 年代の経済危 機によって生じた失業者の増大、高齢者や多子世帯の貧 困、出生率の低下、移民による人口流出など、深刻な社 会問題に直面していた。国民の生活向上には、まず住宅 の改善が必要であるという判断のもと、政府内には政策 方針検討の基礎資料を作成するため、1933 年に住宅調 査委員会が設立された。また同時期、調査委員会のメン バーであったストックホルム大学の経済学者グンナー・ ミュルダールは妻であるアルバとともに一冊の著書を刊 行した。1934 年に刊行された「人口問題の危機」は国 内の人口動態や人々の生活状況を分析した内容であり、

スウェーデンの住宅政策の現状と今後の方向性

社会民主主義から新自由主義へ移行する福祉国家の住まい

Swedish Housing Policy

Transformation of housing from social democracy to neoliberalism as welfare states

東洋大学ライフデザイン学部ライフデザイン学科 教授

水村 容子

This article mainly explains the transformations underlying the gradual privatisation and deregulation of Swedish housing policy after the mid of 1970’s. The housing has been one of the important component to shape the Swedih welfare state after 1930’s. The 2nd leader of Swedish Social Democratic party, named Per Albin Hanson showed policy agenda named Folkhem (the ‘people’s home’) in 1928. This agenda promoted to establish welfare state, operating simultaneously with regulated housing policy. Between Folkhem era and 1974, huge amount of housing were provided in the suburbs of middle and big size of cities in Sweden with regulating housing provison. In the first of 1990’s Swedish housing policy gradually shifted to privatisation, because of influence of neoliberalism and accedence of EU. Currnetly Swedish housing policy functions to complement private housing markets.

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その中で彼らは、「スウェーデンは貧困国であるにもか かわらず、人口を同規模維持するだけの出生率が保てて いない。それは住宅不足および住宅の劣悪な環境に起因 するものである。」と主張した。住宅調査委員会の報告 内容やミュルダール夫妻らの指摘を受け、ハンソン内閣 は公共主導のもと全ての国民に良質な住宅がいきわたる 政策レジームを構築していく。筆者は昨年 6 月、スウェー デンのウプサラ大学で開催された European Network for Housing Research へ出席したが、その際同大学の IBF(The Institute for Housing and Urban Research) のベングトソンがスウェーデンの住宅政策の枠組みを、 以下の通りに説明していた。 ①所得によらずあらゆる階層・世帯へ開かれた住宅供給 政策 ②基礎自治体の所有する住宅建設供給公社によって提供 される公的賃貸住宅を基本とした政策展開 ③所有に対する中立性を保った政策展開 ④公的賃貸および民間賃貸を統合した賃貸住宅市場 ⑤全国借家人組合による中央集権的な家賃交渉システム と利用価値にもとづく家賃設定 また、ベングトソンは、そのプレゼンテーションにお いて「EU への加盟、移民の増大、大都市および地方中 核都市における深刻な住宅不足、アフォーダブルな住宅 確保の困難さの増大、などの理由により、この 5 つの枠 組みの継続は困難になっている。政治および行政はこう した課題解決の方策を提示できていない」とも指摘して いた。次節ではまず、この 5 つの枠組みが機能した時代 の概略を解説する。

3. 「国民の家」からミリオンプログラム終了

まで−規制による政策展開の時代

「国民の家」誕生の経緯は上述の通りであり、それ受 けて 1930 年代に様々な調査を実施した住宅調査委員会 の提言が、その後の住宅政策に大きな影響を及ぼした。 方針の大きな柱として、「住宅市場は自由市場原理に乗っ 取ってはならない」「住宅市場および住宅政策の健全化 のために公的介入が不可欠である」「住宅地の計画・開 発は民主的なプロセスで進めなければならない」などの 原則が定められ、法規制と補助金助成を中心とした住宅 供給が進められていく。具体的な枠組みは以下の通りで ある。 (1)行政の責務 住宅の供給計画および実際の開発、その後の維持管理 に関しては、基礎自治体(Kommun)が責務を負う。 中央政府は、住宅政策に関わる法律の立案、住宅建設お よび住宅取得に関わる資金に対する国庫補助金の拠出 (具体的には住宅取得者への減税、住宅融資への利子補 助、公的賃貸住宅・協同組合住宅への建設資金の助成な ど ) の み の 役 割 を 担 う。 広 域 自 治 体(Län och Lansting)は住宅行政に関する権限を有さない。 (2)住宅の供給主体 全ての基礎自治体は供給事業を行う住宅建設供給公社 (Allmännyttan)を有しており、公的賃貸住宅を供給し ている1)。また、1920 年代の深刻な住宅難時に登場した、 住宅協同組合(代表的な全国組織である HSB をはじめ と し て SKB、Riksbyggen な ど の 組 合 が あ る ) で は、 “Bostardsrätt”2)という所有形態の住宅を供給している。 日本語への翻訳はなかなか困難であるが、「協同組合所 有」あるいは「居住権所有」とも称させる共同性の高い 所有形態である。当時、民間の開発事業者は、主として 戸建ての持ち家を供給していた。 (3)住宅の所有形態 持ち家(一戸建てやタウンハウスなどの 1 世帯住宅が 主流)、公的賃貸住宅(集合住宅が主流)、民間賃貸住宅 (民間事業者による集合住宅)、協同組合所有住宅(集合 表 1 スウェーデンの住宅所有形態の推移 1) 量的には少ないが、住宅建設供給会社の供給以外に広域自治体や基礎自治体が直接供給する賃貸住宅も存在する。 2) 借家人兼所有者組合が不動産を所有しその組合から各居住者が用益権としての性格を有する居住権を取得する方式。

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住宅が主流)によって構成される。前出のベングトソン の資料から表 1 に戦後の所有形態の推移を示す。 (4)賃貸住宅の関する施策 家賃補助として基礎自治体からの給付による多子世帯お よび高齢者世帯を対象とした住宅手当(Bostardsbidrag) や、適正な家賃価格維持のための利用価値家賃制度 (Bruksvärdesystem)に基づく、借家人組合と賃貸住宅 所有者間との家賃交渉制度がある。この制度は当初は公 的賃貸のみを対象としたが、70 年代以降は民間賃貸に も適用されるようになった。 (5)持ち家取得に関する施策 国庫補助金による住宅融資への利子補助や住宅取得者 に対する税控除などがある。また、所有の中立性の観点 から、持ち家取得者であっても住居費への支援が必要な 場合は、多子世帯・高齢者世帯であれば住宅手当が支給 される。 第 2 次世界大戦に参戦しなかったスウェーデンは、戦 中戦後、他のヨーロッパ諸国と比して国内の諸制度を整 備・強化する余裕があった。40 年代以降は、まずは少 子化対策として多子世帯向け住宅の供給を開始し、その 後本格的な大量供給の時代を迎える。まず、1945 〜 65 年の 20 年間、大都市および地方中核都市の周縁部にお いて、住戸計画や設備・建設工法などに様々な改良を加 えながら郊外住宅地が建設されていった。特に 1950 年 代には「a-b-c 原理(a:arbete(就労)、b:bostad(住宅)、 c:centrum(商業センター)」というニュータウン計画理 論が導入され郊外住宅地が形成されていった。この時期、 戦後のヨーロッパ特需に沸いたスウェーデンでは都市化 が急激に進み、いずれの都市においても住宅不足が慢性 化していた。その解決のため、政府はさらに 1965 年か ら 74 年の 10 年間に「ミリオンプログラム(100 万戸建 設計画)」を策定した。この計画により建設された住宅は、 最終年度の 74 年に発生したオイルショックの影響もあ り 60 万戸にとどまった。しかしながら、現時点におい ても既存ストックのかなりの割合を占めておりその存在 感は大きい。 紙面の都合上詳細には解説できないが、「国民の家」は、 公共主導のもと規制を強化することより、計画的かつ大 量の住宅供給を推進したことに加え、国内経済の活性化 (例えば住宅地開発と同時に進行した公共交通の整備や マイカーの普及に伴い Volvo や Saab が発展など)や、 スウェーデン市民のライフスタイルの構築、さらにはス ウェーデンの近代主義と機能主義の具現にも大きく貢献 したと評価されている。

3. ミリオンプログラム終了から 2006 年まで

−規制撤廃による政策変容の時代

ミリオンプログラムが終了した 1974 年以降、スウェー デンの住宅政策は徐々に新自由主義への道を歩みはじめ た。まず、1978 年に家賃規制に関する新しい法が導入 され、前述の通り家賃交渉制度に民間賃貸住宅も組み込 まれることになった。その結果、不動産所有者に有利な 市場家賃が次第に設定されるようになっていった。さら には、1991 年の総選挙における右派連立政権の樹立を 契機に、より一層の規制撤廃が進められ、住宅政策は民 営化向けて大きく舵を切った。同年、基礎自治体の住宅 建設供給公社が所有・管理する公的賃貸住宅の払い下げ が可能になり、翌 1992 年の国会では、公的賃貸住宅建 設に対する国庫補助金の全廃および住宅融資への利子補 助の削減が採決された。このような一連の政策転換は、 EU 加盟へ向けた動きでもあった。さらに、2002 年には、 住宅建設供給公社に与えていた、利子補助・税制・財務 などに関する優先的な取り扱いを中止し、これにより非 営利組織でありながら民間事業者との競争が強いられる 状況が生じた。その結果、特にストックホルム・ヨーテ ボリ・マルメの三大都市圏において公的賃貸住宅の払い 下げが続き、協同組合所有住宅へと所有転換がなされた。 一方、協同組合住宅にも 92 年の改革の影響が及び、 住宅建設に対する低金利融資などの優遇措置が廃止され た。事業の継続を図るため、居住権価格を高額に設定し 販売(実質的には賃貸)開始段階で事業資金の全額回収 をはかる事業へと転換した。この時期、規制緩和の一貫 として居住権取得のために銀行の融資が受けられるよう になり、協同組合所有による居住権は、実質的には日本 の区分所有に近い個人資産としての性格が強化されて いった。こうした基礎自治体の住宅建設供給公社および 協同組合住宅供給会社への優遇措置の撤廃により、90 年代以降、民間の住宅開発事業者の台頭が顕著となる。 現 在、SKANSKA、NCC、Matson、JM が 国 内 4 大 デ ベロッパーとして位置付けられ、主に収益が期待できる 協同組合所有住宅の開発を手がけ、急激にそのシェアを 伸ばしている3)。従って、特に大都市部では、中心市街 地の利便性の高い地域に協同組合所有ストックが集中 し、郊外は公的賃貸ストックという所有形態ごとの地域

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隔絶が生じている。その結果、公的賃貸から払い下げら れ協同組合所有が占めるようになった住宅地には高所得 階層が暮らし、一方公的賃貸として運用されている住宅 地には外国人や低所得階層が暮らすという住宅地格差が 生じ慢性化している(ストックホルムの事例を図 1 およ び表 2 に掲載)。特にミリオンプログラム時代に建設さ れた郊外住宅団地の多くは現在でも公的賃貸住宅として 存続しており、その是非について議論が交わされている。 その間徐々に廃止されていた住宅建設・住宅供給に関わ る補助金は、最終的には 2006 年にその全てが姿を消し た。

4. 現在の住宅政策の動向

住宅の建設・供給に関するほとんどの規制そして公的 資金の投入が撤廃された後、スウェーデンの住宅政策は、 民間主導の市場がより適正に機能する方向へ重点が向け られた。時期を同じくして、2006 年以降の急速な人口 増加(図 2 参照)に伴い国内の住宅需要が高まり、これ まで以上に住宅不足が深刻化した。解決への足がかりと して、2011 年には住宅建設供給公社法(Allbolagen)が 改正され、公社は利潤追求の事業が認められるように なった。しかしながら行政施策との連動や市民への平等 なサービスをも義務づけられており、矛盾した政策誘導 に事業転換の方向性を見出せない公社が多く存在してい る。このような住宅供給に関する規制緩和と、依然とし て公共が主導する土地利用・都市計画施策との間に矛盾 が生じ、特に人口が集中する 3 大都市において住宅供給 の滞りおよび住居費の高騰が生じ、その結果既述の通り 住宅地格差が出現するという悪循環が生じている。

国 連 の Habitat Ⅲ の“Conference on Housing and Sustainable Urban Development”においてスウェーデ ン政府が発表したレポートによると、住宅政策および住 宅供給に関する国内の課題および評価は以下の通りであ る。 ①国内人口の急増に伴う 3 大都市圏への産業・人口の集 中、および地方の人口減。 ②高齢化の進行(19.4%(2013 年)から 23%(2030 年)へ) に伴う、高齢者向け住宅の不足。既存住宅ストックの バリアフリー化に関しては「障害者計画 2011-2016」 において対応。 ③ 90 年代以降の住宅市場は、抜本的な税制改革、住宅 政策の転換、経済不況の影響を大きく受けた。新規住 図 1 ストックホルム市の行政区 図 2 1990 年代以降のスウェーデン人口の推移 (スウェーデン政府による Habitat Ⅲでの政府レポートより) 表 2 ストックホルム市の行政区ごとの住宅所有形態の変化 3) 協同組合住宅は全国的に事業展開を行う HSB、Riksbyggen などに限らず、集合住宅ごとに結成することも可能であり、民間事業者が開発した住宅 はこの方式を取る。

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宅建設に対する国庫補助金の全廃や基礎自治体の所有 する住宅建設供給公社の役割の変化に伴い、96 年以 降は民間市場を主体とした政策展開を図っている。 2015 年以降国内において、年間 45,000 〜 60,000 戸の 新規住宅建設を推進する必要がある。 また、このような政府の見解を受け、国会に設置され た住宅と基盤整備に関する検討委員会では、2017 年に 以下のような提言を示した。 「国内の住宅建設促進のため、ストックホルム・ヨー テボリ・マルメの 3 大都市圏間への高速鉄道の整備およ び北部中核都市への交通網の延伸、通常公共交通の増強 および自動車交通の整備が必要である。試算の結果、こ うした交通インフラの整備により国内に 28,5400 戸の新 規建設が見込まれる。」 このように中央政府は、新規住宅建設の大量供給を望 んでいるにも関わらず、その需要に見合う建設は進んで いない。その理由を王立工科大学のハンソンは以下のよ うに分析している。 ①近年の基礎自治体は、依然として公有地の所有および 住宅建設計画に関する権限を占有しているにも関わら ず、十分に検討を重ねた住宅建設計画を策定できてい ない。 ②住宅の建設にあたり、都市計画マスタープランにおけ る詳細計画4)に基づく建築が求められるが、その審査・ 決定のプロセスが厳密であるため、着工までに時間が かかってしまう。 ③市民により住宅建設計画への異議申し立て制度が存在 し、申し立てがあった場合には、その対応が迫られる ため、建設着手まで時間がかかってしまう。 ④自然環境や文化遺産の保全を担う広域自治体内に設置 された行政委員会により建設計画への差し止めなどが 生じる場合がある。 ⑤住宅の新築に際し、騒音や水辺の環境保全など様々な 義務化規定が存在すること。 ⑥地域事情を考慮した基礎自治体独自の規制が、国の規 制を上回りより厳格であること。 ⑦基礎自治体と住宅開発業者の交渉プロセスに、予測可 能性や透明性が欠如していること。 ⑧多くの基礎自治体は公有地を保有5)し、住宅建設に 関する土地の割当権限を独占している。しかし、その 割当方法や内容に透明性が担保されていない。 このような理由から同じくハンソンの文献によると、 毎年 70,000 戸の新規住宅建設が求められるが、実際の 建設戸数が 40,000 戸を下回っている状態が続いている (図 3 参照)。 公共主導による住宅供給時代の枠組みが依然として 残っており、都市計画や建築確認行政が新規建設を抑制 の方向に機能しているため、民間活力を利用した住宅供 給が軌道に乗らず、依然として住宅不足が蔓延している のである。正に、冒頭のスウェーデン大使の言葉通り「無 策」の一言である。漸く組閣を遂げた次期政府はこの課 題をどう克服するのか、目が話せない状況が続いている。

5. まとめ

本来筆者は、高齢者や障害者を配慮した住宅計画を専 門としている。スウェーデンの住宅政策の変遷を追うに 際し、最も関心のある点とは、こうした Vulnerable(社 会的に脆弱な)と称されるグループに対する住宅セーフ ティーネットが福祉国家として機能しているか否かで あった。その点について、ハンソンやその恩師である元 王立工科大学教授リンドによる印象的な発言があった6) 「この国は戦後から 80 年代にかけて良質な住宅を供給 してきましたし、その多くは現在でも住宅ストックとし て活用されています。そして、色々な統計をみると、実 図 3 スウェーデンにおける必要な新規住宅建設数と実際の 建設戸数の推移 (点線が必要な新規住宅建設戸数、実線が実勢の建設戸数を示す。 ハンソンの 2018 年の文献より) 4) スウェーデンにおいては、建築確認申請は詳細計画と連動しており、詳細計画に反した建設計画には許可が降りない。

5) 参照した文献では”Land Bank”という表現になっているが、アメリカで導入された Land Bank とはことなり公有地の運用や管理を所管する部門を 意味していることから、本稿ではこの語を用いてない。

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にスウェーデン国民の 80% は高い居住水準の住宅に暮 らしています。高齢者や障害者、母子世帯であっても、 住宅手当やその他の年金を得ることにより住宅に困るこ とは無いのです。ですから、国民の多くは現在の住宅に 関する様々な状況を社会的問題だとは捉えていない。そ れが故に政治家もこの問題をとりあげないのです。ただ し、我々には移民の問題が存在しています。そして彼ら に対する住宅セーフティーネットが構築されていないの が大きな問題です。」 「国民の家」の精神とその時代に築かれた良質な住宅 ストックが、今なおこの国の居住を支えていることが伺 える言葉であり、やはり今後どのような道を歩んでいく のか興味は深まるばかりである。それと同時に、良質な 住宅ストックが蓄積されているとは言い難い日本の現状 への不安も深まる一方である。 <参考文献> ケットネン・パウリ他(2017)北欧福祉国家は持続可能か−多元性と 政策協調のゆくえ、ミネルヴァ書房 水村容子(2014)スウェーデン「住み続ける」社会のデザイン、彰国 社 水村容子(2016) スウェーデンにおける 1990 年代以降の住宅政策の転 換およびストックホルムにおける居住状況の変化に関する考察、日 本建築学会計画系論文集 第 81 巻第 730 号、pp.2661-2671 Boverket (2014) “Vision for Sweden 2025” Boverket Piblikationsservice Boverket (2011) “ De allmännyttiga bostadsföretagens utveckling och

roll på bostadsmarknanden (The development and role of the Common Benefit Companies on the housing market) Rapport 21. Karlskrona:Regeringsuppdrag.

Elsinga Marja (2013) “The Effect of EU-Legislation on Rental System in Sweden and the Netherlands” Housing Studies、Vol.28, No.7, pp.960-970

Government Office of Sweden, “Swedish National Report: Sweden’s National Report for the third United nations Conference on Housing and Sustainable Urban Development” Habitat Ⅲ Gundstrom Karin (2016) “ From Folkhem to lifestyle housing in

Sweden: segregation and urban form, 1930s-2010s” International Journal of Housing Policy, Vol 16, No.3, pp.316-336

Hansson Anna Granath (2018) “Combatting the housing shortage through institutional reform: The parallel case of Germany and Sweden” Zeirschrit fur Geodasie, Geoinformation und Landmanagement 143(2), DOI 10.12902/zfv-0197-2018

Hansson Anna Granath (2015) “Planprocess i Sverige –aktuell debatt och reformförslag” KART OG PLAN, Vol.75, pp.249-254

SOU 2017:107 ”Infrastructure and housing” The National Negotiation on Housing and Infrastructure

参照

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