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埼玉県内のオヒシバにみられたグリホサート作用点抵抗性

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Academic year: 2021

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要 約:近年,埼玉県の加須市,本庄市において,グリホ サート抵抗性とみられるオヒシバが発生しており,問題と なっている。現地から採種したオヒシバにグリホサートカリ ウム塩を 132 g a.i./10 a 処理するといずれの系統も残草し,抵 抗性個体が含まれると考えられた。一方で,グリホサートと は異なる作用機序をもつ除草剤については,供試した剤(ジ クワット・パラコート,フルアジホップ P,グルホシネート) はすべて有効であり,グリホサートに特異的な抵抗性である と推察された。グリホサート抵抗性を示した個体の遺伝子解 析の結果,採種した系統の一つで,グリホサートの標的タン パク質である EPSPS アミノ酸配列中に日本国内では初確認 である抵抗性型の変異(T102I, P106S)が認められた。また, 遺伝子配列の差異から,少なくとも 2 か所以上の複数箇所で 独立に抵抗性個体群が進化したものと考えられた。 キーワード:グリホサート抵抗性,オヒシバ,EPSPS,埼玉県

緒  言

オヒシバ (Eleusine indica (L.) Gaertn.) は,環境適応性が広 く,増殖速度も早いため,強害雑草の一つとして位置付けら れている(Chen et al. 2015a)。中でも,近年報告が増加して いるグリホサート抵抗性オヒシバは,世界各地で問題となっ ており,日本でも 2015 年に報告されている(永井ら 2015)。 グリホサートは,篩部を介して浸透移行し,植物の生存 に 必 須 で あ る シ キ ミ 酸 経 路 の 重 要 な 酵 素 で あ る 5- Enolpyruvylshikimate-3-Phosphate Synthase(EPSPS)に結合し, その機能を阻害することで植物を枯死させる(冨永 2015)。 一般的には,グリホサートへの抵抗性は,EPSPS の変異や

EPSPS 遺伝子の増幅に起因するものが多い(Patterson et al.

2018; Gaines et al. 2019)。しかし,ABC トランスポーターの 活性化による排出など(Ge et al. 2010),抵抗性機構によっ ては多剤抵抗性となる可能性もある。そのため,防除方針を 立てる上では機構を明らかにすることが重要となる。

オヒシバにおいても,EPSPS のアミノ酸変異や(Yu et al. 2015; Franci et al. 2020),EPSPS遺伝子のコピー数の増加 (Chen

et al. 2015b),EPSPS 遺伝子の転写量の増加による抵抗性機 構が報告されている(Gherekhloo et al. 2017)。 近年,埼玉県の加須市,本庄市の圃場や非農耕地において, グリホサートに抵抗性とみられるオヒシバが確認されてお り,問題となっている。そこで,現地圃場からオヒシバ種子 を採種し,グリホサートの効果について調査した。

材料および方法

1.現地におけるオヒシバの採種と発生状況調査 オヒシバ採種地点の状況を第 1 表に示した。Sai_1 を採取 した圃場では,水田畦畔の防除にグリホサート含有剤を連用 しており,近年オヒシバの残草が増加してきた。Sai_2 の水 路脇の非農耕地では,管理に約十年以上前からグリホサート 含有剤を連用しており,3 年ほど前から急速にオヒシバが優 占してきた。Sai_3 の圃場では,過去 20 年以上にわたり管理 にグリホサート含有剤を使用しており,2017 年以降にはグ リホサート処理後もオヒシバが残草するようになり,コムギ 作付の準備において作業機に絡まるなど,農作業の支障と なっていた。Sai_4 の圃場は,Sai_3 と同生産者の水田の畦 畔であり,オヒシバが発生していたが,現状では顕著な被害 は確認されていなかった。これらのグリホサート抵抗性と考 えられるオヒシバが問題となっている現地 4 箇所で,2018 年 12 月下旬に採種した。 2.現地で採種したオヒシバへの除草剤処理 採種した種子は常温保存して随時試験に使用した。セル トレイ(6 cm × 6 cm × 深さ 5 cm)にホーネンス培土 3 号 (ホーネンアグリ,新潟) を入れ,オヒシバ種子をトレイ当た り 30 粒ほど播種した。オヒシバの種子は休眠性が強く発芽 率が極めて低いが,機械的な傷をつけることで吸水・発芽が 促進される(Kanzler and van Staden 1984)ため,種子を紙や すりで 10 回ほどこすってから播種した。播種後はグロース キャビネット(コイト電工,神奈川) を用いて,明期 30°C 8 時間,暗期 30°C 16 時間で適宜灌水しながら生育させた。 オヒシバの多くの個体が 3–4 葉期になった播種 28 日後に除 草剤を噴霧処理した。除草剤の処理量は,商品の標準処理量 を参考に設定し,グリホサートカリウム塩(日産化学,東京) 132,396,1320 g a.i./10 a,ジクワット・パラコート(シンジェ ンタジャパン,東京)74・53 g a.i./10 a,フルアジホップ P(石 原バイオサイエンス,東京)77 g a.i./10 a,グルホシネート (BASF ジャパン,東京)204 g a.i./10 a で処理し,対照区とし て水を噴霧処理した区を設けた。処理前に区画ごとの個体数 を計数し,処理 2 週間後に,殺草できなかった生存個体(新 葉が展開してきたもの)を計数した。除草剤処理以降に発生

埼玉県内のオヒシバにみられたグリホサート作用点抵抗性

丹野和幸

★ 埼玉県農業技術研究センター玉井試験場 〒360-0853 埼玉県熊谷市玉井 195-1 ★ [email protected] (2020 年 12 月 7 日受付,2021 年 1 月 28 日受理)

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した後発個体は計数しなかった。以上の処理を各区とも 2 反 復行った。 3.統計処理 同一系統内で処理薬剤の水準に対して,生存個体の割合に 差があるかどうかについて,カイ二乗検定と残差分析によっ て検定した。除草剤処理 2 反復の結果は一括で解析した。 4.オヒシバの EPSPS 遺伝子における抵抗性変異の確認 グリホサートカリウム塩 132 g a.i./10 a 処理区で生存したオ ヒシバから各区 2 個体ずつ選び,緑葉から ISOPLANT(ニッ ポンジーン,東京)を用いて個体別に DNA を抽出した。抽 出のプロトコルはキット付属のものに従った。抽出した DNAを, イントロンを含むオヒシバのEPSPS遺伝子の部分配 列を増幅するプライマー (Ng et al. 2002, F: 5ʹ-GCGGTAGTT GTTGGCTGTGGTG-3ʹ, R: 5ʹ-TCAATCCGACAACCAAGTCGC- 3ʹ)を用いて PCR により増幅した。酵素は Ex Taq(TaKaRa, 滋賀) を用い,98°C 2 分× 1 → 98°C15 秒・55°C 30 秒・72°C 18 秒× 30 → 72°C 7 分× 1 → 4°C 静置のサイクルで行った。 増幅した PCR 産物を精製し,ダイレクトシークエンスを行っ た。シークエンス解析には,Big Dye Terminator v3.1 および ABI 3500(Thermo Fisher Scientific, 東京)を用いた。

結  果

1.採種したオヒシバの除草剤抵抗性 グリホサートカリウム塩 132 g a.i./10 a 処理区では,Sai_1 の供試個体の50%が枯死し,それ以外の系統では全個体が 生存した(第 2 表)。一方で,ジクワット・パラコート,フ ルアジホップ P,グルホシネート処理区では全個体が枯死 した(第 1 図,第 2 表)。そのため,いずれの系統もグリホ サート抵抗性個体を含むと考えられた。また,Sai_2 は, 1320 g a.i./10 a のグリホサートカリウム塩の処理でも生存率 や生育に対する影響が軽微であったため,強いグリホサート 抵抗性を有する個体群を含んでいると考えられた(第 1 図, 第 2 表)。 2.EPSPS 遺伝子における抵抗性変異の有無 グリホサート抵抗性であると考えられた個体のEPSPS 遺 伝子の部分配列を増幅すると,いずれのサンプルでも約 100 bp のイントロンを含む 300 bp ほどの配列が確認された (第 2 図)。 これらの配列をシークエンス解析し,NCBI から取得した グリホサート感受性型のオヒシバの EPSPS 遺伝子配列と アラインメントした。その結果,Sai_2 では,DNA を抽出し 配列を解析した 2 個体の両方に,EPSPS タンパク質の 102 番目のトレオニンがイソロイシンに置換する変異(T102I, ACT → ATT) と,106 番目のプロリンがセリンに置換する変 異(P106S, CCA → TCA)が確認された。オヒシバの EPSPS アミノ酸配列の変異は国内では初報告である。また,イント ロン部分にも 5 bp の挿入が確認され,明らかに他採種地の オヒシバとは由来が違う個体群であると考えられた。一方 Sai_2 水路脇 ― 加須市 LC517087 Sai_3 水田転換畑 コムギ(11~翌 6 月) 本庄市 LC517088 Sai_4 水田畦畔 イネ(5~10 月) 本庄市 LC517089 第 2 表 除草剤処理 2 週間後のオヒシバの生存率 処理薬剤 10 a 当たりの薬量 / 希釈水量 (w/v) 生存個体数 / 供試個体数

Sai_1 Sai_2 Sai_3 Sai_4 水 0 g/100 L 10/10 a 10/10 a 16/17 a 30/31 a グリホサートカリウム塩 132 g a.i./25 L 5/10 a 8/8 a 10/10 a 19/19 a 396 g a.i./25 L 6/13 a 5/9 a 15/15 a 20/20 a 1320 g a.i./25 L 0/10 b 6/7 a 9/21 b 4/18 b ジクワット・パラコート 74 g a.i.・53 g a.i./100 L 0/18 c 0/21 b 0/23 c 0/34 c フルアジホップ P 77 g a.i./100 L 0/16 c 0/53 b 0/8 c 0/30 c グルホシネート 204 g a.i./100 L 0/28 c 0/33 b 0/43 c 0/27 c 1)データは除草剤処理試験 2 反復の結果をまとめた合計を示した。 2) 異なるアルファベットが示されたデータは,カイ二乗検定と残差分析の結果有意水準 5%で有意差があったことを示す。なお,検定は同一 系統内で処理薬剤の水準に対して実施した。

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で,その他の系統では,解析した部分の EPSPS 遺伝子配列 に変異は確認されず,抵抗性の機構は Sai_2 のものとは異な ると考えられた(第 3 図)。なお,解析した範囲の配列には ダブルピークはみられず,いずれの個体も解析した遺伝子領 域についてホモ接合であると考えられた。

考  察

埼玉県内で発生したグリホサート抵抗性オヒシバ グリホサート抵抗性と考えられるオヒシバが発生した箇所 では,いずれも管理にグリホサート含有剤を連用しており, これによりグリホサート抵抗性個体が優占していると考えら れた。 先行研究では,27 g a.i./10 a のグリホサート処理でオヒシ バのグリホサート感受性個体群は枯死したという報告があ る(Yu et al. 2015)。除草剤処理試験の結果,いずれの系統 でもグリホサートカリウム塩 132 g a.i./10 a(グリホサート 108 g a.i./10 a 当量)では枯死しない個体が確認された(第 1 図,第 2 表)。したがって,これらの個体群はグリホサート 第 1 図 オヒシバの除草剤抵抗性の評価 除草剤処理 2 週間後の写真。 第 2 図 オヒシバの EPSPS 遺伝子の増幅 グリホサートカリウム塩 132 g a.i./10 a 処理区で生存した個体を,各 区 2 個体ずつ個体別に DNA 抽出し,PCR 増幅した。M: 50 bp DNA Ladder(日本ジェネティクス,東京)。いずれの区でも約 100 bp のイ ントロンを含む約 300 bp の配列が増幅された。 第 3 図 オヒシバ EPSPS 遺伝子の部分配列 グリホサートカリウム塩 132 g a.i./10 a 処理区で生存した個体の EPSPS 遺伝子の部分配列を,各区 2 個体ずつ個体別に解析した。一 番上には,NCBI から取得した,グリホサート感受性オヒシバの EPSPS 配列(エキソン部分)を示した。KM387415.1 の配列にある ギャップ部分はイントロンの配列にあたる。解析した配列のアクセッ ション番号は,第 1 表に示した。

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構は,多剤抵抗性というより,グリホサートに特異的な抵抗 性である可能性が高いと考えられた。 オヒシバのグリホサート抵抗性機構 本研究では, Sai_2 のグリホサート抵抗性オヒシバが T102I と P106S のアミノ酸変異を有することが確認された(第 3 図)。ダブルピークはみられなかったため,ホモ接合で変異 を有すると考えられた。T102I と P106S の変異が同時に起こ ることは TIPS と呼ばれ,グリホサート 1080 g/10 a 処理でも 枯れない強い抵抗性を得るとの報告がある(Yu et al. 2015; Han et al. 2017)。日本での既報のグリホサート抵抗性オヒシ バでは,EPSPS 遺伝子中に変異は確認されなかった(永井 ら 2015)ことから,日本国内ではオヒシバのグリホサート に対する作用点抵抗性は初確認である。 Sai_3, 4 は, グリホサート抵抗性が強い個体群を含んでい ると考えられた(第 1 図,第 2 表)。Sai_2 以外の系統に抵抗 性変異は確認されず(第 3 図),該当塩基にダブルピークは 観察されなかったため,ヘテロ接合で抵抗性アリルを有する 可能性も低い。そのため,今回解析した配列の変異以外の要 因で抵抗性を獲得していると考えられた。 その他のオヒシバのグリホサート抵抗性機構としては,今 回解析しなかった領域における EPSPS 配列中の変異(P381L, Franci et al. 2020)や,EPSPSの発現量が増加するような変異 (Gherekhloo et al. 2017)などが報告されており,こうした機 構によって抵抗性を獲得している可能性がある。また,オヒ シバでは報告されていないが,トランスポーターの活性化に よる液胞への隔離(Ge et al. 2010)といった非作用点抵抗性 である可能性もある。 本研究では採種したいずれの箇所でもグリホサート抵抗性 のオヒシバが存在することが判明したが,Sai_2 とその他の 系統の EPSPS 遺伝子配列は抵抗性に関連する変異だけでな く,イントロン部分にも 5 bp の挿入が確認された(第 3 図)。 したがって,Sai_2 とその他の系統は由来が異なると考えら れ,埼玉県内のグリホサート抵抗性オヒシバは,少なくとも 2 か所以上で独立に抵抗性が進化したものと考えられる。 グリホサート抵抗性オヒシバの防除 現在,グリホサート抵抗性オヒシバの発生は,非農耕地か, 水田または転換畑などの湛水可能な圃場にしか発生していな いが,今後畑地等に拡大した場合,湛水による防除ができず に大きな被害を受ける可能性があり,防除体系について検討 する必要がある。防除については,ブラジルで詳細な圃場試 験が行われている (Takano et al. 2018)。この研究でグリホ サート抵抗性オヒシバに有効であるとされている除草剤のう らのうち水田畦畔に農薬登録がある剤を供試し,いずれも有 効であった(第 1 図,第 2 表)。しかし,グルホシネートに 関しては,単独処理では抵抗性の有無にかかわらずオヒシバ への防除効果が不十分な事例が報告されている(Molin et al. 2013; Takano et al. 2018)。そのため,茨城県の畦畔管理マニュ アルにあるように,水田畦畔に登録のある土壌処理剤と茎葉 処理剤を組み合わせて防除することが有効であると考えられ る(茨城県県北農林事務所 2018)。今後は,特定の薬剤によ る選択圧が上がらないように,複数の作用機序をもつ薬剤を 組み合わせた体系を普及していく必要がある。

謝  辞

本研究を遂行するにあたり,埼玉県農業技術研究センター の志保田尚哉技師,小山浩由技師,宗方淳技師,平野泰志専 門研究員,山本和雄担当部長には調査に協力頂いた。本庄農 林振興センターの根岸勉担当部長,加須農林振興センターの 小澤貴弘担当部長,JAほくさいの富塚賢一営農渉外担当に は,現地情報の提供にご協力頂いた。また,農研機構中央農 業研究センターの内野彰上級研究員には,原稿執筆にあたっ て多くの助言を頂いた。ここに記して感謝の意を表する(所 属は研究当時)。 引用文献

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Occurence of target site resistance to

glyphosate in goosegrass (Eleusine indica

(L.) Gaertn.) in Saitama prefecture, Japan

Kazuyuki Tanno

Summary

Goosegrass (Eleusine indica (L.) Gaertn.) plants suspected to be resistant to glyphosate were collected at four locations in Saitama

prefecture, Japan. Application of 132 g a.i./10 a glyphosate potassium had little effect on viability, suggesting resistant to glyphosate. On the other hand, diquat-paraquat, fluazifop and glufosinate were effective against these goosegrasses. This suggests that mechanism of resistance is likely specific to glyphosate. One of the isolates had glyphosate-resistant mutations (T102I, P106S) in the amino acid sequences of EPSPS, the target protein of glyphosate. This is the first report of target site glyphosate-resistance of goosegrass in Japan. In addition, comparison of EPSPS DNA sequences revealed glyphosate-resistant goosegrass likely occurred independently in multiple regions.

Keywords: glyphosate-resistance, goosegrass, EPSPS, Japan

Saitama Agricultural Technology Research Center Tamai Branch, 195-1 Tamai, Kumagaya, Saitama 360-0853, Japan

参照

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