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ローラ島における淡水レンズの動態―水理水頭分布に基づくローラレンズ塩淡境界付近の地下水流動の把握―

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ローラ島における淡水レンズの動態

―水理水頭分布に基づくローラレンズ塩淡境界付近の地下水流動の把握―

幸田 和久*

1

Dynamic analysis of freshwater lens in Laura Island

Kazuhisa KODA

*

1

Abstract

Water shortage is a critical problem in the Republic of the Marshall Islands due to occasional drought caused by El Niño. Up-coning of the fresh groundwater lens on Laura Island (Laura Lens) in the Majuro Atoll has occurred as a result of excess pumping of fresh groundwater from the aquifer. However, Laura Lens could not im-mediately recover from up-coning. The purpose of this research was to estimate the groundwater flow and the Laura Lens shape by observing the hydraulic heads and the electric conductivities in Laura Lens. The distribution of hydraulic heads and electric conductivities before and after the occurrence of up-coning was compared. Consequently, it took a long time to recover from up-coning due to the following fac-tors: 1) the groundwater flow concentrated on the place where the hydraulic heads were relatively low, and high salinity groundwater moved from deep underground through the groundwater flow path; and 2) the groundwater flow moved mainly in a horizontal direction, and exchange of groundwater in a vertical direction also took a long time. It is expected that this observation technology would be applicable to fresh groundwater lenses other than the Republic of the Marshall Islands.

Key words: Laura Lens, up-coning, hydraulic head, groundwater flow Ⅰ.はじめに 太平洋には,赤道を中心として北緯30°から南 緯30°までの間に約3万もの島が大陸から離れた ところに存在する。一般に,火山島のように透 水性の低い基盤岩を持つ島では,湧水や河川水が 水源として利用できるが,環礁島のように透水性 が高い島では,水源は天水と地下水に限られる (Falkland, 1993)。数百 m以上の幅を持つ島で は,淡水の地下水が塩水との密度差によって塩水 の上にレンズ状に浮かんで存在する(Falkland, 1993)。このレンズ状に存在する淡水の地下水は 淡水レンズと呼ばれる。環礁島ではこの淡水レン ズが水資源の安定的供給の面で重要な役割を果た している。面積が2,000 km2未満,もしくは島の 最大幅が10 km程度の小島嶼では水資源として 地下水に依存する割合が高いため,地下水の過剰 取水が,淡水レンズの縮小や消失を生じさせてい る(Falkland, 1993)。とりわけ,環礁島は,面 積がせいぜい1 km2と小さく,幅も1 km未満で あることが多く(White and Falkland, 2010), 標高が数mと低平である。島嶼地域の中でも環 礁島の水資源は脆弱であり,そのために淡水レン ズを保全することが極めて重要である。

1 国際農林水産業研究センター Japan International Research Center for Agricultural Sciences * 責任著者

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太平洋の島嶼地域の気候は,熱帯海洋性気候に 区分されることが多く,年降水量は1,000∼4,000 mm と比較的多い (Stoddart, 1992)。低緯度にある島 では,しばしばエルニーニョ現象の影響を受けて 干ばつが発生することがある (Van der Brug, 1986; Bailey and Jenson, 2011)。気候・気象が地球温 暖化に伴って変化すると干ばつの発生する範囲が 拡大,変化し (IPCC Working Group 1, 2007), 海水面が地球温暖化に伴って上昇すると淡水レ ンズ中で塩水化が進むことが懸念される(IPCC Working Group 2, 2007)。太平洋上には環礁島 の数が294あり,全海洋上の環礁島の約72%を占 める (Bryan, 1953)。地球温暖化の人間活動への 影響は,水源が天水と地下水に限られ,低緯度に ある低平な環礁島において強く現れると考えられ ている。 低緯度にある環礁島は主に炭酸カルシウムを多 く含む石灰岩で構成される。完新世に石灰砂で形 成された堆積層と更新世に石灰岩で形成された基 盤層の境界面は島嶼の水文地質学者名に因んで ターバー不連続面 (Thurber Discontinuity) と呼 ばれている。ミクロネシアでは,この不連続面は 地下水面から深度15∼25 mに存在する(Bailey et al., 2008)。このターバー不連続面の下の層で は透水性が高く,塩水の淡水中への拡散が促進さ れるため,淡水レンズの塩淡境界がターバー不連 続面より深い位置に存在することは希である (Bailey et al., 2010)。 マジュロ環礁では1998年にエルニーニョ現象 の影響を受けて大干ばつが発生した。この干ばつ による水不足は極めて深刻であった。Presley (2005)によると,この年の乾季の降水量は,平 年値の8.2%と極端に少なく,1954年から2000年 までの間で最低であった。また,この干ばつ時の 揚水により,ローラ島の取水施設周辺で,地下水 の塩分濃度が上昇した。1985年における観測結 果(Hamlin and Anthony, 1987)では確認され ていなかった淡水レンズ中のアップコーニング (淡水レンズや沿岸部の井戸からの揚水に伴い, 帯水層の下部から塩水が円錐状に浸入し,やがて 井戸水が塩水化する現象)が1998年には観測さ れた(Presley, 2005)。 淡水レンズ中にアップコーニングが発生すると 塩分濃度が上昇し,地下水の用途に著しい制限が 生じることがある。干ばつ時にはローラレンズか らの揚水が増加するだけでなく,今後はマジュロ 環礁の人口増加に伴い,水資源としてローラレン ズに依存する割合の増加も見込まれている。その ため,ローラ島では降水の有効利用が模索されて いるが,それと同時に地下水資源に対しても十分 な研究,そしてそれに基づく管理が必要である。 淡水レンズを保全するためには地下水流動をコン トロールする水理水頭を観測することが重要であ る。石田ほか (2010)は,物理探査により,ロー ラレンズのアップコーニングの現状を調査した。 しかしながら,これまで水理水頭の実測値に基づ く地下水流動は明らかにされてこなかった。そこ で,筆者は,ローラレンズ中心部のアップコーニ ングに着目し,地下水観測井で観測した水理水頭 とそれに伴う地下水流動に関する知見を取りまと め,本研究の推定結果を比較することを目的とし た。 Ⅱ.方法 1.研究対象地域 大洋州のマーシャル諸島共和国は,ミクロネシ アに位置し,29の環礁と5つの島を有する。この 国の人口は53,127人(外務省,2019)であり, 首都マジュロは東西方向に40 km,南北方向に 9.7 kmの大きさを持つ環礁である(Fig. 1)。マ ジュロ環礁の中央の礁湖の面積は324 km2,平均 水深は46 mであり,その最深部は水深67 mであ る (Xue, 2001)。マジュロ環礁の年間平均降水量 は約3,300 mmと多く,乾季でも月間平均降水量 は200 mm程度あり,年間を通して湿潤である。 ローラ島 (Laura Island) は,人口約2,300人, 面積1.8 km2,平均標高数mの島であり,河川や 湖沼はない。この島はマジュロ環礁の西端に位置 し,貿易風の影響を受ける (横木ほか,2004)た

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め,その地盤は風上の島より細かな堆積層で構成 される傾向にある(Bailey et al., 2010)。Fig. 2 (a) にローラ島の地質断面図を示す。ローラ島の 礁湖寄りの地質構造は,上位から厚さ約0.6 mの 表土層,石灰砂で構成される上位・下位堆積層, 基盤となる下位石灰岩層の3層構造である (Presley, 2005)。上位・下位堆積層の層厚は,16.8∼24.4 m であり,礁湖寄りで厚くなる(Anthony et al., 1989)。ローラ島の下位堆積層は,透水性の低い シルト分を含む地層で構成されている。 ローラ島はマジュロ環礁唯一の農業地区である。 ローラ島の淡水レンズ(ローラレンズ)の貯水域 は約1.2 km2,貯水量は約160万m3である (Koda, 2019)。ローラレンズはローラ島だけでなく, ウォッチャ,アジェルタケ,及び市街地(DUD 地区)の水源であり,ローラ島から市街地まで延 長約50 kmのパイプラインで送水されている。 2.地下水観測 1998年にUSGS (アメリカ地質調査所) により 10箇所の地下水観測井サイトが施工された。こ れらの地下水観測井は,先端にスクリーンの付い た開口部(ストレーナ)の深度が異なり,各地下 水観測井サイトに2∼4本設置されている。本研 究では,これらの中でローラ島の中央断面に位置 する4箇所の地下水観測井サイトの15本の地下 水観測井,及び1箇所の浅井戸を地下水観測のた めに使用した。ローラ島の地下水観測井サイト, Fig. 1 Overview map of Majuro Atoll.

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及び住民の浅井戸の位置図をFig. 2(b)に示す。 ローラレンズの地下水流動を把握するため, 1985年における地下水観測井の既往の観測結果

(Hamlin and Anthony, 1987) を利用するととも に,引き続き,手動観測による地下水観測データ の収集を行なった。主要な地下水観測井サイト Fig. 2 Geology and groundwater observation map(a: Geology cross sectional map; modified from Anthony

et al., 1989, b: Location map of groundwater observation sites, water-supply well, and resident shal-low well; numerical and alphabetical characters show the groundwater observation site numbers, water-supply well number, and a resident shallow well name.).

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は,Hamlin and Anthony (1987) の 研 究 で は No. D, E,及びFであったが,本研究では1998 年に施工されたNo. 4, 5, 6,及び10である。地 下水観測井サイトNo. D, E,及びFは現存せず, それらの位置は地下水観測井サイトNo. 4, 5,及 び6か ら, そ れ ぞ れ,20 m東,50 m東, 及 び 40 m西に位置した(Presley, 2005)。1985年に 使用された地下水観測井のストレーナの長さは 0.76 mであるが(Hamlin and Anthony, 1987), 1998年に施工された地下水観測井のストレーナ の長さは0.6 mである(Presley, 2005)。アップ コーニング発生後の観測時期は,2012年8月,及 び10月である。観測項目はほぼ同じであるが, 地下水観測井の設置位置,サイト数,開口深度, 及び構造が異なる。 ローラ島における地下水観測井,及び住民の浅 井戸一覧表をTable 1に示す。この一覧表に本研究 で用いた地下水観測井や住民の浅井戸に係る開口 深度を記載した。Koda et al. (2013)で示されて いる主に3種類の構造の観測井,及び既存の井戸 を用いた。 本研究では基準点を起点とする水準測量を行 い,これらの管頭標高等を調査した。ローラ島の 基準点は,国立研究開発法人国立環境研究所(大 西ほか,2008)により2006年に設置された。ア マタカブア国際空港とアジェルタケ地区における 海水面の平均的な観測値を標高0 mと設定し,空 港からローラ島まで水準測量が実施された。ま た,測点の緯度・経度を測定するためにスタ ティック法のD-GPS測量が実施された。 地下水観測井,及び住民の浅井戸において水位 と電気伝導度を観測した。この水位は管頭から地 下水面までの距離である。水位の手動観測を行う ため,ミリオン水位計(ヤマヨ測定機社テープ長 さ10 m) を使用した。この水位計で地下水観測 井の水位を1 cmの位まで読み取った。電気伝導度 の手動観測機材として,ECメータ (WTW社 ProfiLine Cond) とEC測定用セル (WTW社 TetraCon 4極20 mケーブル) を用いた。地下水 観測井の開口深度,及び住民の浅井戸の孔底にお いて,1 mS/mの位まで電気伝導度を読みとっ た。 地下水観測井の水位は管頭から地下水面までの 距離である。地下水観測井No. 6-15b, No. 10-17, 及び住民Emomyの浅井戸の水位を自由地下水面 Table 1 Table of groundwater observation wells

and resident shallow well in Laura Is-land(a: Groundwater observation wells and resident shallow well(existing), the numerical characters, which are de-scribed after the site number, refer to the opening depths(in meter)of the groundwater observation wells, b: Groundwater observation wells(de-funct), the numerical characters, which are described after the site number, re-fer to the opening depths(in meter)of the groundwater observation wells. (a)

Number Opening depth (EL m)

No. 4-06 −2.94 No. 4-15 −12.22 No. 4-18 −15.30 No. 4-21 −17.70 No. 5-06 −4.09 No. 5-09 −7.12 No. 5-10 −8.60 No. 5-15 −13.19 No. 6-10 −8.05 No. 6-13 −11.06 No. 6-15a −12.64 No. 6-15b Surface to −13.03 No. 10-04 −1.62 No. 10-13 −10.72 No. 10-17 Surface to −13.55 Emomy −0.05 (b)

Number Opening depth (EL m)

No. D-04 −2.02 No. D-09 −7.07 No. D-20 −18.07 No. E-04 −2.02 No. E-13 −10.76 No. E-17 −14.72 No. F-04 −2.58 No. F-09 −7.22 No. F-14 −12.16

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とみなした。水理水頭や電気伝導度のコンター図 では,各地下水観測井サイトの観測値を用いて内 挿することが可能な範囲のみを記載した。 3.淡水レンズの塩淡境界深度の推定 小島嶼の淡水レンズの塩淡境界深度は一般に 10∼20 mであることが多く,塩分濃度を示す塩 化物イオン濃度や電気伝導度で定められる (White and Falkland, 2010)。淡水レンズの塩淡境界深 度は,電気伝導度では200 mS/mとされている (石田ほか,2010)。地下水観測井において観測 した異なる深度の電気伝導度分布から,各地下水 観測井サイトの深度別電気伝導度データを直線で 結び,200 mS/mとなる点を塩淡境界深度と推定 した。ローラ島中心部におけるローラレンズ端部 の塩淡境界は,外洋サイド,及び礁湖サイドの海 岸とした。 4.潮汐データ 本研究では,DUD地区のウリガドック (Fig. 1) で1993年5月から観測を実施しているオーストラ リア連邦気象局の潮位データを利用した(http:// www.bom.gov.au/)。オーストラリア連邦気象局 は6分毎に潮位データの観測を行い,1時間毎の 潮位データを毎月公表している。潮位観測装置は コンクリート構造物に固定され,観測地点の標高 は水準測量により算定された。 5.取水施設 ローラレンズから揚水するため,ローラ島には 7箇所の取水施設がある。これらの取水施設はロー ラレンズが厚い中心部に位置する。取水施設は, 井戸,ポンプ,及びシャフト(ローラレンズを広 く浅く取水するために設置されたϕ100 mmの有 孔塩ビ管)で構成される。海洋が干潮時でも取水 できるよう,管頭から約3 mの深さでシャフトを 通じて地下水が取水されている。取水施設の中 で,地下水観測井サイトNo. 5の直近に位置する 取水施設No. 3からの過剰揚水により,ローラレ ンズ中にアップコーニングが発生した(Presley, 2005)。また,取水施設については,1)1991年 から稼働を開始し,アップコーニング発生前の 1984年の時点にはまだ稼働していなかったこと, 2) 1998年の月平均日揚水量の年間平均は134.6 m3 であり,ポンプ稼働時に限れば161.5 m3であっ たこと,及び3)雨季乾季別の揚水量変動は特に なかったこと等がわかっている (Presley, 2005)。 Ⅲ.結果 1.アップコーニング発生前の挙動 1.1 中潮時

1984年9月24日にHamlin and Anthony (1987) が実施した地下水観測結果をもとに作成した水理 水頭コンター図をFig. 3(a)に示す。この月は雨 季で,月間降水量が163 mmであった。ローラレ ンズの中心付近に位置する地下水観測井No. E-13, No. D-09, No. F-04,及びNo. F-09付近に相対的 に水理水頭の低い場所が存在した。ローラレンズ 中心部で鉛直下向きの地下水流動が,また,それ 以外の部分では側方の地下水流動が発生した。ま た,ローラレンズ中央の塩淡境界付近で最深部か らの上向きの地下水流動が生じ,ローラレンズ内 部からの下向きの地下水流動が滞留した。潮汐は 小潮から4日目の中潮であった。なお,横軸の距 離は1/20倍している(以降の図も同様)。

1984年9月24日にHamlin and Anthony (1987) が実施した地下水観測結果をもとに作成した電気 伝導度コンター図をFig. 3(b)に示す。この電気 伝導度の観測結果から地下水観測井サイトNo. D, No. E,及びNo. Fにおけるローラレンズの塩淡境 界深度は,それぞれ,約−7.0 m, −10.8 m,及び −7.1 mと推定された。 1.2 小潮時

1985年4月13日にHamlin and Anthony (1987) が実施した地下水観測結果をもとに作成した水理 水頭コンター図をFig. 4(a)に示す。この月は乾 季から雨季への移行期で,月間降水量は391 mm であった。ローラレンズの中心部付近に水理水頭 の高い場所が存在し,斜め上方,及び側方に向かっ

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Fig. 3 Contour map of hydraulic head and EC on September 24, 1984(a: Hydraulic head, b: EC; used data obtained by Hamlin and Anthony, 1987, Ground surface survey was not conducted in 1984 and the ground surface height was assumed to be same as the one in 2012.).

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Fig. 4 Contour map of hydraulic head and EC on April 13, 1985 (a: Hydraulic head, b: EC; used data ob-tained by Hamlin and Anthony, 1987, Ground surface survey was not conducted in 1984 and the ground surface height was assumed to be same as the one in 2012.).

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て地下水流動が発生した。Hamlin and Anthony (1987) によると,淡水レンズ中では,一般的に,

下向き,及び側方に地下水流動が生じる。淡水レ ンズ中で,斜め上方向にも地下水流動が生じたこ とは,きわめて特異な現象である。

1985年4月13日にHamlin and Anthony (1987) が実施した地下水観測結果をもとに作成した電気 伝導度コンター図をFig. 4(b)に示す。この電気 伝導度の観測結果から,地下水観測井サイトNo. D, No. E,及びNo. Fにおけるローラレンズの塩 淡境界は,それぞれ,約−7.6 m, −12.4 m,及 び−8.2 mと推定された。 2.アップコーニング発生後の挙動 2.1 中潮時 ローラ島中心部の地下水観測を2012年8月28 日午前10時55分から正午まで行った。この月は 雨季で,月間降水量は253 mm,地下水観測時間 中に降雨はなかった。潮汐は中潮の満ち潮で,観 測期間中の潮位 (標高)幅は−5.8∼25.1 cmであ り,観測を行った時間帯の潮位 (標高) は9.7 cm であった。

地下水観測井サイトNo. 4, No. 5, No. 6,及び No. 10において観測した水理水頭コンター図を Fig. 5(a)に示す。地下水観測井サイトNo. 5は, ローラレンズのアップコーニングのほぼ中心に位 置する。地下水観測井No. 5-09付近 (標高−7.12 m) から地下水観測井サイトNo. 6深部の方向に水理 水頭の低い場所が存在した。 電気伝導度コンター図をFig. 5(b)に示す。地 下水観測井サイトNo. 4, No. 5, No. 6,及びNo. 10におけるローラレンズの塩淡境界深度は,そ れ ぞ れ, 約−13.4 m,−5.8 m,−8.3 m, 及 び −1.6 mと推定された。地下水観測井サイトNo. 10 の塩淡境界深度が,最も浅い地下水観測井No. 10-04 の開口深度よりわずかに浅かった。外挿計算とな るため,このサイトの塩淡境界深度を地下水観測 井No. 10-04の開口深度とした。 2.2 小潮時 ローラ島中心部の地下水観測を2012年10月 23日午前11時50分から午後14時30分まで行っ た。この月は雨季で,月間降水量は221 mm,地 下水観測時間中に降雨はなかった。潮汐は小潮の 満潮から引き潮付近で,観測期間中の潮位 (標高) 幅は46.6∼23.1 cmであり,観測を行った時間帯 の潮位(標高)は34.5 cmであった。

地下水観測井サイトNo. 4, No. 5, No. 6,及び No. 10において観測した水理水頭コンター図を Fig. 6(a)に示す。2012年10月23日の地下水観 測結果から,ローラレンズ中心部から外向きの地 下水流動を観測した。地下水観測井No. 5-10付 近に地下水流動が集中した。 電気伝導度コンター図をFig. 6(b)に示す。地 下水観測井サイトNo. 4, No. 5, No. 6,及びNo. 10 におけるローラレンズの塩淡境界深度は,それぞ れ,約−13.1 m, −6.0 m, −8.3 m,及び−1.6 m と推定された。地下水観測井サイトNo. 10の塩淡 境界深度が,最も浅い地下水観測井No. 10-04の 開口深度より浅かった。外挿計算となるため,こ のサイトの塩淡境界深度を地下水観測井No. 10-04 の開口深度とした。 3.地下水流動に関する知見 本研究では,ローラレンズにおけるアップコー ニング発生後の地下水観測を行ない,Hamlin and Anthony (1987)によるアップコーニング発 生前の結果との比較を行った。水位の観測値か ら,潮位を受けて変化するローラレンズ内の水理 水頭分布と地下水流動を明らかにした。中潮時に は,ローラレンズ中心部に地下水流動が集中する 箇所が観測された。このように,ローラレンズ中 心部の地下深部に水理水頭が低く,地下水流動が 集中する場所が存在することは,Werner et al. (2017)にも示されている。アップコーニング発 生前後の水理水頭分布を比較した結果,水理水頭 は地下水流動の駆動力となり,この地下水流動に よって,電気伝導度も変化していることがわかっ た。 取水施設のポンプが稼働してローラレンズから 地下水を揚水している時には,まず取水施設直下

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の地下水が揚水される。取水施設の周囲の地下水 が取水施設に移動し,地下水面が低下する。取水 施設の下部から地下水が上昇し,塩水と淡水のバ ランスにより,ローラレンズの塩淡境界が上昇す る。地下水流動の境界と塩淡境界は正確には一致 しない(Koda, 2018)。この過剰揚水により,地 Fig. 5 Contour map of hydraulic head and EC on August 28, 2012(a: Hydraulic head, b: EC).

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下深部から塩分濃度の高い地下水が移動した。こ の地下水流動は,相対的に地下水が流れやすい水 理水頭の小さい箇所や自然条件下での流動経路に 集中した。その結果,より孔隙の大きな流動経路 が発生した可能性がある。 淡水レンズは淡水域と塩水域,そしてそれらの Fig. 6 Contour map of hydraulic head and EC on October 23, 2012(a: Hydraulic head, b: EC).

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遷移域(汽水域)で構成される。Presley (2005) によると,低平で透水性が高いローラ島では,ほ ぼ平坦な地面上に降雨が均質に落下し,その雨水 はローラレンズ内をほぼ鉛直下方に浸透する。そ して,塩淡境界付近では側方に流れる。このこと は,表層から浸潤した雨水がローラレンズ内部に 貯留されていた地下水を押し出し,水平方向に比 べると鉛直方向の地下水の入れ替わりには時間が かかることを意味している。このことも,いった んアップコーニングが発生すると,すぐには回復 しない原因と考えられる。 潮汐が小潮時と中潮時の地下水観測を取り上 げ,ローラレンズの水理水頭コンターをHamlin and Anthony (1987)と比較した。しかし,筆者 とHamlin and Anthony (1987)の潮位や観測時 間が完全に一致するわけではない。2012年10月 23日には,地下水観測が満潮を過ぎて,引き潮時 にまたがった。Fig. 3(a)とFig. 6(a)を比較す ると,Fig. 6(a)の水理水頭コンターがより満潮 時に近い地下水観測結果を反映していると考えら れる。 Table 2に2012年8月28日 と2012年10月23 日における各地下水観測井における自由地下水面 を示す。密度差により塩水の上に存在するローラ レンズの塩淡境界深度は,ガイベン・ヘルツベル グ(Ghyben–Herzberg)の法則によると地下水 位標高に比例する(Vacher, 1988)。このガイベ ン・ヘルツベルグの法則の式は,その誘導過程に おいて塩水と淡水は静的平衡状態にあると仮定さ れた(藤縄,2010)。ローラレンズがガイベン・ ヘルツベルグのレンズであれば,自由地下水面の 高さは塩淡境界深度標高の絶対値の40分の1とな る。しかし,これらの自由地下水面は,オールス トレーナタイプの地下水観測井の水理水頭とも先 端ストレーナタイプの地下水観測井の最浅深度の 水理水頭とも異なった。これは,これらの地下水 観測井が設置された場所で地下水流動が発生して いるためである。 1984年,及び1985年のローラレンズは滑らか なレンズの形状であった。1998年に発生した干 ばつ時の過剰揚水により,ローラレンズの中心部 にアップコーニングが発生した (Presley, 2005)。 このアップコーニングは長期的な地下水観測によ り継続的に発生していることが確認された。 マジュロ環礁の西端に位置するローラ島はダウ ンタウンに通じる南側の狭小な陸地以外では海洋 に囲まれている。ローラ島の面積は約1.8 km2 あり,幅が最も大きい部分でも1.5 km程度しか ない。ローラレンズの動態は,約3,300 mmの年 平均降水量や干ばつ時の水源として揚水される淡 水地下水だけではなく,海洋の潮汐の影響も強く 受ける。マジュロ環礁の大潮時の干満差は約2 m に達する。海面下ではサンゴ礁が広く存在するた め,ローラ島付近で波浪のエネルギーは小さくな り,これまで大地震による津波の被害が小さい。 地下には石灰砂堆積層が存在し,潮汐がローラ島 Table 2 Free groundwater surface at each groundwater observation well in the center of Laura Island (a:

August 28, 2012, b: October 23, 2012, * means that the Laura lens boundary is set to be the shal-lowest opening depth of the groundwater observation wells.).

(a)

No. 6 No. 5 No. 4 No. 10 Hydraulic head of all-strainer groundwater observation well (EL m) 0.40 ̶ ̶ 0.38 Hydraulic head at shallowest opening depth of groundwater observation well (EL m) 0.36 0.39 0.52 0.48

Free groundwater surface (Ghyben–Herzberg) (EL m) 0.21 0.15 0.34 0.04*

(b)

No. 6 No. 5 No. 4 No. 10 Hydraulic head of all-strainer groundwater observation well (EL m) 0.38 ̶ ̶ 0.41 Hydraulic head at shallowest opening depth of groundwater observation well (EL m) 0.38 0.45 0.52 0.44 Free groundwater surface (Ghyben–Herzberg) (EL m) 0.21* 0.15 0.33 0.04*

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内部に伝達するまでに時間を要する。しかし,海 岸付近ではローラ島内部に比べて潮汐の影響が早 く伝わる。潮汐が満潮を過ぎて引き潮の時には, 水理水頭コンターは,ローラレンズの内部では高 い値を保持したまま,その外部の水理水頭が減少 し,閉じた形となることがある。これまでは,フ ロリダ半島ビスケー湾の海岸付近において,満潮 の満ち潮時に低い水理水頭コンターが淡水地下水 内部に発達し,外側から内側の地下水流動が発生 したことが示唆されている (Cooper et al., 1964)。 しかし,ローラレンズでは,これとは逆に内側か ら外側の地下水流動が引き潮時に観測された。 Ⅳ.まとめ ローラレンズのアップコーニングの回復に時間 を要する要因は以下の様にまとめられた。 (1) 水理水頭が低い場所に地下水流動が集中し, より孔隙の大きな地下水流動経路が形成され,地 下深部から塩分濃度の高い地下水流動が生じるよ うになった。 (2) 地下水面から雨水がローラレンズ内に浸潤 し,ローラレンズに貯留されていた淡水の地下水 を押し出すように流動した。側方の地下水流動が 大きいため,水平方向に比べると鉛直方向の地下 水の入れ替わりに時間を要した。 本研究は,農林水産省の運営費交付金により, 国立研究開発法人国際農林水産業研究センターが 実施した島嶼環境保全プロジェクトで収集した データを利用した。マーシャル諸島共和国の調査 研究活動で連携・協力を頂いた国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究部 門,国立研究開発法人国立環境研究所,マーシャ ル諸島共和国資源開発省,同国環境保護庁,マ ジュロ環礁地方政府,及びマジュロ上下水道公社 関係各位に謝意を表する。 石田聡・吉本周平・小林勤・幸田和久・土原健雄・ 万福裕造 (2010) マーシャル諸島共和国マジュ ロ環礁における地下水の塩水化について.地盤 工学会誌,58(5), 22–25. 大西俊次・今枝良平・佐野滋樹・伊藤和弘・山野 博哉・茅根創 (2008) マーシャル諸島マジュロ 環礁におけるGPS測量とジオイド.先端測量 技術,96, 48–51. 外務省 (2019) マーシャル諸島共和国基礎データ. 外 務 省,https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ marshall/data.html#section1. (2019.4.19閲覧) 藤縄克之 (2010) 環境地下水学.共立出版,136– 141. 横木裕宗・佐藤大作・山野博哉・島崎彦人・安藤 創也・南陽介・高木洋・茅根創・Albon Ishoda (2004) 環礁州島における地形維持機構とラグー ン内波浪場の関係に関する現地調査.海岸工学 論文集,51, 1381–1385.

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原稿受付:2019年9月25日 原稿受理:2020年7月23日 この論文に対する「討論」を2021年6月30日 まで受け付けます。

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ローラ島における淡水レンズの動態

―水理水頭分布に基づくローラレンズ塩淡境界付近の地下水流動の把握―

幸田 和久

要 旨 マーシャル諸島共和国は,干ばつに被災し,水問題が深刻である。マジュロ環 礁ローラ島の淡水レンズ(ローラレンズ)からの過剰揚水により, ローラレンズ 中にアップコーニングが観測された。しかし,ローラレンズはアップコーニング からすぐに回復しなかった。本研究の目的は,ローラレンズの水理水頭と電気伝 導度の観測結果から,地下水流動とローラレンズ形状を推定することである。 アップコーニング発生前後の水理水頭分布と電気伝導度分布を比較した。その結 果,アップコーニングの回復に時間を要する要因は,1)水理水頭が低い場所に 地下水流動が集中し,地下水流動経路が形成され,塩分濃度が高い地下水流動が 生じたこと,及び2)雨水による側方流動が大きく,鉛直方向の地下水の入れ替 わりに時間を要したことであるとわかった。この観測技術はマーシャル諸島共和 国以外の淡水レンズにも適用できることが期待される。 キーワード:ローラレンズ,アップコーニング,水理水頭,地下水流動

Fig. 1 Overview map of Majuro Atoll.
Table 1  Table of groundwater observation wells  and resident shallow well in Laura  Is-land(a: Groundwater observation wells  and resident shallow well(existing) ,  the numerical characters, which are  de-scribed after the site number, refer to  the openi
Fig. 3  Contour map of hydraulic head and EC on September 24, 1984(a: Hydraulic head, b: EC; used  data obtained by Hamlin and Anthony, 1987, Ground surface survey was not conducted in 1984 and  the ground surface height was assumed to be same as the one i
Fig. 4  Contour map of hydraulic head and EC on April 13, 1985  (a: Hydraulic head, b: EC; used data ob- ob-tained by Hamlin and Anthony, 1987, Ground surface survey was not conducted in 1984 and the  ground surface height was assumed to be same as the one

参照

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