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東京大都市圏における地方出身世帯の住居移動 長野県出身世帯を事例に

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地 理 学 評 論74A-12 685-708 2001

東京大都市 圏 にお ける地方 出身世 帯の住居移動

-長 野県出身世帯を事例に

中 澤 高 志*・ 川 口 太 郎**

(東京 大 学 大 学 院 生*,明 治 大 学 文 学 部**) 本稿 で は長野 県 出身 の東京大 都市 圏 居住 世帯 に対 して行 った ア ンケー ト調 査 に基づ き,ラ イ フ コース概念 を取 り入 れ て,地 方 出身者 世帯 の大 都市 圏 内で の住居経 歴 を分析 す る.住 居経歴 は40歳 世 代, 50歳 世 代, 60歳 世 代 の三 つ の世 代 につ いて 収集 し,住 居経 歴 の終点 が 特定 の地域 に収歛 す るこ との ない発 地 分散 的 デ ー タで あ る とい う特徴 を持 つ.大 都 市 圏 内の住居 移動 に関 す る一般 的特 徴 の多 くは世 代 を超 えて安 定 して お り,結 婚 後 の 住居 移 動回 数 は おお む ね1∼2回 で, 20歳 代 後半 か ら30歳 代 前半 の時期 に住居 移 動 の頻 度 が ピー クに達 す る.世 帯 が持 家 の取得 を 目標 とす る こと は世代 を通 じて揺 るぎな いが,持 家 を取 得す る時 期 は 住宅 市場 の動 向 に左右 され,取 得 す る持 家 の形態 も戸建 住 宅か ら集合 住 宅へ と世代 を追 って急速 に変化 した. 住居 移動 の空 間 的特徴 は,短 距 離移 動,セ ク ター移動,外 向移動 が卓 越 して い る ことであ り,こ れ らは郊外 に向か う跳躍 的移 動 と従前 の居 住地 の周 辺 で行 われ る短 距離 の移 動 に大別 され る.世 帯 の持 家取 得 欲求 は大 都市 圏 の同心 円 的な地 価水 準 の下 で実現 され るため,外 向移 動 は と りわ け持家 を取 得 す る移 動 に典型 的 にみ られ,結 果 と して居住 の郊 外化 が大 き く進展 す る.す なわ ち家族 段 階の発 達 とそ れに伴 う住 居形 態 の変化 と い う住居経 歴 の時 間的 軌跡 は,住 宅 市場 の動 向 に代 表 され る社会 経済 的背 景 と大都 市圏 の同 心 円構造 を反 映 した空間 的軌 跡 と して 現 出す るので あ り,そ れ 自身 が大 都市 圏 を外延 化 させ る原動 力 とな って いた. キー ワー ド:長 野県 出身,住 居 経歴,ラ イ フコース,住 居 移動,東 京大 都市 圏

Iは

じ め に

1.問 題 の所在

日本 にお け る高 度成 長期 の大 都市 圏 の人 口増加 は,

大都 市 での 旺盛 な労働 力需 要が 地方 圏 での地 滑 り的

な農 民層 の解体 とあ い ま って,大 量 の人 口が 流入 し

た ことに よ って もた らされた.農 村余 剰人 口の都市

へ の流入 とい う構 図 自体 は,明 治 期 あ るい はそれ以

前 か ら つ ね に 存 在 して い た が(蘭1994;

中 村

1999),高 度 成長 期 に は,産 業 構 造 の大 転 換 が ベ ビ

ー ブー ム世 代 を含 む人 口規模 の大 きな年齢 集団 の進

学 ・就 職 の時期 と重 な った ため,こ の流 れが未 曾有

の規模 とな った(大 江1995).こ

う した転 入者 の多

くは若 年層 で あ り(河 邉1984),中

に は大都 市 に流

入 した後 に さまざ まな事情 を抱え て再 び 出身地 に戻

ったUタ

ー ン者 も少 な くな い も の の(江 崎 ほ か

1999, 2000),多

くは大都 市 圏 に残 留 した.そ して

世帯 を形 成 した転 入者 が居 を構 え,世 代 の再 生産 を

行 った典 型 的な場 所 が郊外 の住 宅地 で あ った.東 京

大都 市 圏(東 京都,埼 玉県,千 葉県,神 奈川 県)を

例 に とれ ば,高 度成 長期 の累積 的 な転 入超 過 とそ れ

に続 く自然増 加 の結 果, 1950年 か ら2000年 の半 世

紀 の 間 に1305万 人 か ら3341万 人 へ と2000万 人 以

上 の人 口増 加 を み たが,こ の うち実 に約1760万 人

は郊 外(東 京 都 区部 を除 く東京 大都 市 圏)に お け る

増加 で あ った.

非 大都 市圏 か らの流 入が減 少 し,大 都 市圏 が む し

ろ人 口 を流 出 させ て い る今 日,郊 外 は溢 流人 口の受

け皿 とい う側面 を弱 めて い る.し か し過去 の蓄積 に

よ ってす で に大 量 の人 口 を擁 す る郊 外 は,も はや中

心 市 に依存 す るだ け のベ ッ ドタ ウ ンで はな く,自 立

的な生 活空 間 と しての性 格 を強 めて い る.ま た,郊

外 人 口の 自然 増加 の ピー ク は1970年 代前 半 にみ ら

れ るが(川 口2000),そ

の と き生 まれ た郊 外第 二世

代 が今 や20歳 代 後半 か ら30歳 代 にな り,世 代 交代

の時期 に差 し掛 か って い る.現 在 郊外 は質 的 な変貌

の ときを迎 えて い るので あ り,少 な くと も大量 の人

口を抱 えて い るだ けに,そ の変 化 の動 向 は今後 の大

都市 圏 さ らに は 日本 の将来 を 占 う上 で も看過 で きな

い.

(2)

ところで,郊 外 の変 容 につ いて論 じよ うとす る場

合,そ の出発 点 と して,ま ず大 都市 圏 に流入 し郊 外

に定 着 して い った人 々が いか な る過 程 を経 て郊外 の

居住 地 に到達 し,郊 外 の地 域形 成 に どの よ うに関 わ

って きたのか を 明 らか に して おか な けれ ばな らない.

なぜ な らば,今 日の郊 外 にお いて その質 的変 容 に先

立つ 人 口の量 的集積 を もた ら した の は,個 人 や世帯

が それぞ れ の条 件 に応 じて判 断 した居住 地選択 の結

果 で あ り,そ の総体 と して形 成 され た場 で あ る郊外

が次 な る世代 の生 活 あ るいは労 働 の場1)と な るか ら

で あ る.

この点 に関 し,既 存 の人 口(居 住地)移 動研 究 は,

Iの2に お い て詳 述 す る よ うに,移 動 パ ター ンの概

括 的 な把握 あ るい は個別移 動 の詳 細 な分析 を行 うこ

とに よ り,わ れ われ に一定 の知 識 を もた ら して きた.

しか しなが ら個 々 の移 動主 体 の選択 や行 動 と大都 市

圏 の地域 構造 を一 貫 したデ ー タに基 づ いて議 論 す る

こ とは,主 に デー タ上 の制 約 に よ って 阻 まれて きた.

そ こで本 稿 で は,世 帯 の住 居移 動 を一連 の住 居経歴

と して と らえ得 る ア ンケー ト調 査 を基 に時 間的 ・空

間 的な側面 か ら大 都市 圏 にお け る住 居移 動 の特性 を

把握 し,さ らに それ を大都市 圏 の住 宅市 場 の動向 や

居住 構造 と結 び付 けて解 釈 す る ことを企 図す る.こ

こで い う時間 的 な側 面 とは,家 族 段 階 の発達 とい う

時間経 過 を分析 の軸 に据 え て,移 動性 の変 化 や移動

に伴 う住居 形態 の変 化 な ど住 居移 動 の非空 間 的な側

面 を分 析 す る もの で あ り, IIIで詳 し く論 じる.ま

た空 間的 な側面 とは,住 居移 動 の方 向や距 離 な どを

定 量 的に把握 し,大 都市 圏 内で行 わ れ る住 居移動 を

空 間 現象 と して特 徴 付 け る もので あ り, IVで 詳 述

す る.そ の前 に以 下 で は,住 居移 動 を扱 った既存 の

研 究 を吟味 す る ことに よ り,そ の到達点 と限界 を明

らか に し,そ う した課 題 に対 して本 稿 が いか に答 え

て い くのか を示 す.

2.従 来 の研究

日本 で は1970年 代以 降,大 都 市 圏 へ の人 口の集

中 と郊 外化 を受 けて,大 都 市 圏 内の人 口移動 に関す

る研 究 が盛 ん に行 わ れて きた.初 期 の研 究 の多 くは,

国勢 調査 に代 表 され る既存 の統 計 資料 を用 いて人 口

移動 を把 握 し,移 動流 の形 態 的特徴 を地 域属 性 な ど

の 要 因 か ら説 明す る こと に主 眼 が 置 か れ て い た.

1980年 代 に入 ると,年 齢 ・世 帯 形 態 な ど の属 性 に

よる移動 性 向の差異 を手掛 か りに,住 居 移動 が発 生

す る メカニ ズ ムを解 明 しよ うとす る姿 勢 が強 くみ ら

れ るよ うに な った.そ して移 動 の メカ ニズ ム解 明 の

た めに は個 々の移動 と移 動者 の属 性 との対 応 が可 能

な デー タの分析 が必 要 で あ るため,必 然 的 にア ンケ

ー ト調 査 な どを通 じた非 集計 的 な デー タの収集 が積

極 的 に行 われ る よ うに な った.た とえば地 理学 で は,

中高層 集合 住宅 居住者 を対象 と して ア ンケー ト調査

を行 った 由井 の一 連 の研究(由 井1987, 1989),千

葉市 へ の転入 者 につ いて ア ンケ ー ト調査 を行 った 山

田(1992),愛

知 県 一 宮市 に お いて電 話 帳 か ら抽 出

した移 動世 帯 を対 象 に ア ンケ ー ト調 査 を行 っ た谷

(1995)な どが あ る.属 性 集 団 によ る移 動性 向 の違

いを重視 す る傾 向 は,住 宅 の需 要 と世帯 類型 の 関係

を 検 討 した工 学 系 の諸 研 究 や(和 泉1982;鎌

1983;林 ほか1986;三

輪 ・安 田1993;瀬

戸 口 ・佐

藤1994),住

宅取 得 と社 会 階層 の関係 につ いて論 じ

た社 会学 の諸研 究(国 民 生活 セ ンター1982, 1989;

浦 野1987)に

も共 通 して い る.こ の よ うな個 々の

移 動(者)に

注 目 して都 市 内人 口移動 を解 明 しよ う

とす る研究 は,主 と して労働 力移 動 の観点 か らマ ク

ロな人 口移 動 を集計 的 に把握 す る研究 に対 置 され る

よ うに な り,居 住地(住 居)移 動 研究 と して人 口移

動 研究 の一 分野 とな って い った.

しか し1990年 代 前半 まで の住 居 移 動研 究 に は,

い くつ か の問題 点が あ っだ

そ れ は,個 々の移 動が

その時点 で の住 居形 態や属 性 との関連 で解釈 され,

加齢 に伴 う家 族段 階 の発達 な どの内的要 因 が十 分 に

686

(3)

組 み込 まれ なか った こと,前 住地 と現 住地 の2地 点

間 の移 動 のみ が分析 の対 象 とされ,個 別 の移動 を各

世 帯 の住居 経歴 か ら完全 に切 り離 して断片 化 して し

ま う ことな どで あ る.そ の結 果,年 齢 集 団や家 族形

態 ご とに観 察 され た移動 の 断面 をつ な ぎ合 わ せ る こ

とで ライ フサ イ クル によ る連 続 的な変 化 と解釈 した

り,そ れ を時代 性 の吟味 な しにす べ ての世 代 に成立

す る もの と して合成 コー ホー ト的な解 釈 に陥 った り

す る問題点 が み られた.欧 米 で は,こ う した問 題点

に対 す る認 識が,こ れ まで 自明視 され て きた住 居移

動 研究 の方 法論 を議 論 の俎上 に載 せ る契機 とな り,

活 発 な議論 が展 開 され てい る2).

住 居 移 動 研 究 に 関 す る 展 望 の 中 でGreenwood (1985)やGober (1992)が 指 摘 し た よ う に,個 人 や 世 帯 が 一 生 を通 じて 行 う住 居 移 動 を一 つ の 軌 跡 と して と らえ,そ れ ら一 連 の 移 動 を ラ イ フ サ イ ク ル と の 関 連 か ら と らえ る と と も に,さ ら に は そ れ ぞ れ が 生 き て き た 時 代 背 景 と住 居 経 歴 の 関 連 を 理 解 す るた め に は,同 一 の個 人 や 世 帯 の住 居 移 動 を 経 歴 と して 記 録 し た縦 断 的 デ ー タが 必 要 と な る3).こ う した 問 題 意 識 か ら, 1990年 代 以 降,世 帯 の 住 居 経 歴 を 克 明 に トレ ー ス し,移 動 の発 生 や そ れ に伴 う住 居 形 態 の 変 化 を 世 帯 の ラ イ フ サ イ ク ル と 関 連 付 け て 分 析 す る 研 究 が 登 場 す る よ う に な っ た.さ らに は ラ イ フサ イ ク ル概 念 を 批 判 的 に 継 承 し,加 齢 に よ る 「ラ イ フ サ イ ク ル 効 果 」 だ け で な く,あ る時 代 に お け る歴 史 的 出 来 事 が 個 人 に 与 え る 「時 代 効 果 」 や コ ー ホ ー ト 独 自 の経 験 と して の 「コ ー ホ ー ト効 果 」 を加 味 した ラ イ フ コ ー ス 概 念 に依 拠 して,郊 外 住 民 の住 居 経 歴 を 分 析 す る 研 究 も 得 ら れ て い る4).日 本 で も 谷 (1997)が 欧 米 の 住 居 移 動 研 究 に お け る ラ イ フ コ ー ス概 念 の 枠 組 を 紹 介 し,そ れ に 基 づ い て 愛 知 県 高 蔵 寺 ニ ュ ー タ ウ ン に 居 住 す る 世 帯 の 住 居 経 歴 を 分 析 し て い る.ま た,川 口(1997a)は 埼 玉 県 川 越 市 に 居 住 す る世 帯 の 結 婚 後 の 住 居 経 歴 を 持 家 の 取 得 を 中 心 に 分 析 し,川 口(1997b)で は 埼 玉 県 越 谷 市 に 居 住

す る高齢 者 の住居 経歴 を 出生時 か ら トレース し,越

谷市 へ の転入 の過 程 を ライ フコ ース に沿 って明 らか

に して い る.一 方,田 中(1994, 2000)は ア メ リカ

合衆 国 お よび ドイ ツにお け る聞 取 り調査 に基 づ いて

各 国都 市 住民 の移動 経歴 の類型 化 を試 み ると と もに,

住 居移 動 の空 間 的軌 跡 と発生 契 機 を個別 世帯 の事 例

を用 いて詳 細 に検討 して い る.

ライ フ コース は発 達心 理学 と社 会学 の境界領 域 で

発 展 して きた概 念 で あ り,そ の詳 細 を解 説す る こと

は本稿 の範 囲 を超 えて い る5).し か しライ フ コース

概 念 を標榜 す る住居 移動 研究 に共 通 す る特 徴 を指摘

す るな らば,個 人 の人生 に焦 点 を当 て なが らも,客

観 的 に把握 可能 な事 実 に基 づ いて個人 の人 生 を再構

成 す る こ とを 目指 して い る点 で あ ろ う.ま た,こ の

点 が 口述 に よ る主観 的 な個人 史 に依拠 し,認 識 され

た人生 の再 構 成 を企 図す る ライ フ ヒス トリー研 究6)

との最 大 の相違 点 とい え る(高 橋 ・岸 野2001).

縦断 的 デ ー タに基 づ いた住 居移 動研 究 は,移 動 を

集計 量 と して扱 う際 の問 題点 を克 服 す る とと もに,

世帯 の ライ フサ イクル の進展 と住 居 の変化,お よび

個別 世帯 の住居 移動 の総 体的 帰結 と して もた らされ

る郊 外化 を関連 付 けて分 析 した点 で注 目され る.し

か し こう した研 究 も,調 査上 の制 約 か ら多 くが特定

地域 の住 民 の住 居経歴 を分析 す る こ とにと どま って

いた.あ る特定 の地域 の住 民 か ら得 られ る住居 経歴

デー タは,そ の地域 を住 居経歴 の終点 とす るいわ ば

着地 吸収 的 な デ ータで あ り,特 定 の住 宅地 の性 格 は

開発 時期 や 開発 主体 の影響 を強 く受 け るため,こ れ

に依 拠 して 大都 市圏 内で行 わ れ る住居 移動 の空 間的

特徴 を一 般化 す るこ とには問題 が あ る7).

本 稿 は東京 大都 市 圏 にお け る地 方 出身世 帯 の住居

移動 につ いて,そ の特 徴 を明 らか に しよ うとす る も

の で あ るが,そ の際,三 つ の年 齢集 団 か らな る長 野

県 出身者 を対 象 に世帯(個 人)の 住 居経 歴 を詳細 に記

録 した住 居経 歴 デ ー タを収 集 す る ことに よ り,従 来

の研 究 が孕 んで い た問題点 のい くつか を克 服 しよ う

(4)

と試 み た.そ れ は第1に,個

別 世帯 の一 連 の住居経

歴 を連 続 的 に把 握 す る ことに よ り,家 族 段階 の発達

に応 じた住居 移 動 を明 らか にす る こ とで あ る.第2

に,長 野県 出身 者 を対象 とす る ことに よ り,住 居 経

歴 が特定 の地 域 に収 歛す る ことのな い発地 分散 的な

デー タか ら住 居移 動 の空 間的特 徴 を検 討す るこ とで

ある.そ して第3に,三

つ の年 齢集 団 を比較 す る こ

とによ り,時 代背 景 を交え た考 察 を行 うこ とで あ る.

II調

査 の方 法 と対象 者 の概要

本 稿 で は,長 野 県 内12高 校 の 同 窓 会 名 簿 を 基 に8), 1956∼1958(昭 和31∼33)年, 1966∼1968 (昭 和41∼43)年,お よ び1976∼1978(昭 和51∼ 53)年3月 に 高 校 を 卒 業 した 男 子 生 徒 の う ち9),掲 載 さ れ て い る 住 所 が 長 野 県 内 お よ び 三 大 都 市 圏 内 に あ る者 を 無 作 為 に抽 出 し,郵 送 法 に よ り住 居 経 歴 デ ー タ を 収 集 した.大 都 市 圏 拡 大 の 原 動 力 と な った 地 方 出 身 世 帯 の 住 居 経 歴 の 特 徴 を 分 析 す る本 稿 の 目的 か ら考 え て,通 勤 や 買 物 を 通 じて 大 都 市 圏 の 影 響 が 直 接 及 び 得 る県 や,人 口 吸 引 力 の 大 き な 広 域 中 心 都 市(仙 台 や 広 島 な ど)を 持 つ 県 で は な く,東 京 大 都 市 県 か ら一 定 の 距 離 に あ る 県 の 出 身 者 を 対 象 とす る こ と が 適 切 で あ ろ う.大 都 市 圏 か ら中 間 的 な距 離 に あ る県 と 国 土 の 縁 辺 に あ る県 で は 様 相 が 異 な る こ と も考 え ら れ る が,調 査 上 の 限 界 に 鑑 み,本 稿 で は前 者 に属 す る長 野 県 を 対 象 にす る. 調 査 票 の 主 な 内 容 は,学 卒 後 初 め て 就 職 して 以 降 の住 居 に つ い て,居 住 期 間 が1年 以 下 の 短 期 居 住 を 除 い て 余 す 所 な く記 載 して も ら う も の で あ り,同 時 に職 業 経 歴 や 家 族 構 成 を 聞 く こ と に よ り,個 人 の ラ イ フ コ ー ス に沿 っ た 住 居 経 歴 を連 続 的 に 把 握 す る こ と を 目 指 し た.彼 ら の 生 年 は 順 に1937∼1940年, 1947∼1950年, 1957∼1960年 で あ り,以 下 で は そ れ ぞ れ60歳 世 代, 50歳 世 代, 40歳 世 代 と呼 ぶ.調 査 の 時 期 は, 60歳 世 代 と40歳 世 代 が1997年9月, 50歳 世 代 が1995年11月 で あ る. 60歳 世 代 と40歳 世 代 に は 各3000票, 50歳 世 代 はとは6000票 を 郵 送 し, 60歳 世 代1491票(回 収 率49.7%), 50歳 世 代 1631票(27.2%), 40歳 世 代709票(23.6%)を 回 収 し た10).本 稿 で は,こ の う ち 東 京 大 都 市 圏 に 在 住 す る 既 婚 者 の み を 分 析 対 象 と し,そ の 数 は60歳 世 代675人, 50歳 世 代471人, 40歳 世 代105人 で あ る11). 1937∼1940年 生 ま れ の60歳 世 代(調 査 時 点 の 平 均 年 齢58.6歳)は 戦 後 の 高 度 成 長 を 基 幹 労 働 力 と して 支 え て き た 世 代 で あ り,ま た1947∼1950年 生 ま れ の ベ ビ ー ブ ー ム 世 代 で あ る50歳 世 代(同46.8 歳)も 高 度 成 長 を 支 え る と と も に 大 量 人 口 移 動 に大 き く貢 献 した 世 代 で あ る.い ず れ も今 日 で は 中 高 年 齢 層 に な り,地 理 的 ・社 会 的 移 動 も ほ ぼ 落 ち 着 い た も の と思 わ れ る.そ れ に 対 して1957∼1960年 生 ま れ の40歳 世 代(同38.5歳)は,い ま だ キ ャ リア 形 成 や住 居 経 歴 の 途 上 に あ る 者 も多 い.

本稿 対 象者 の属性 上 の特徴 と,分 析 結果 を解 釈 す

る上 での留 意点 を述 べ てお く.対 象者 は最 も高 齢 の

60歳 世代 で も大学 進 学 率 が80%を

超 え て い る.学

校基 本 調査 によ ると,対 象 者 と同 世代 の長野 県 男子

高校 卒 業者 の進学 率 は60歳 世 代 が12.3%,

50歳 世

代 が18.3%,

40歳 世 代 が25.6%で

あ り(各 世 代 と

も3年 次 の平 均),本 稿 の対 象 者 は同世 代一 般 と比

べて きわめて 高学歴 の集 団 で あ る.こ れは標本抽出

の原簿 とな る同窓会 名簿 の入 手 に大 きな制 約 が あ り,

同 窓会 組織 が確 立 して い る伝 統校 に偏 らざ るを得 な

か った こ との影 響が 強 い.大 卒者 が多 い とい う学歴

上 の特徴 と,出 身 地 を離 れて東 京大 都市 圏 に移住 し

て い る集 団 で ある こ とを反 映 して,対 象 者 の職業 は

会社 員 や公務 員 な ど,い わゆ るサ ラ リーマ ン(被 雇

用 者)が 大半 を 占 め る(表1).サ

ラ リーマ ンは 自

営 業者 に比 べ て住居 移動 回数 が 多 く,中 で も専 門技

術 職 や事務 職 の住居 移動 回数 は多 いので(国 土 庁計

画 ・調 整 局1995)12),対

象 者 の モ ビ リテ ィは一 般

の人 口集 団 に比 べて やや 高 い可能性 が あ る.ま た,

688

(5)

表1  対 象 者 の 職 業

Table 1 Occupations of survey respondents

事 務 系 ・技 術 系以 外 の会 社 員 は,主 に販 売 ・接 客 な ど に従 事 して い る. 属 性 の 偏 りが 持 家 の 取 得 に影 響 す る事 も考 え られ る が,こ れ はIIIで 検 討 す る. III結 婚 後 の 住 居 移 動 1.住 居 移 動 の 回 数 対 象 者 の 現 在 の 住 居 形 態 を み る と, 60歳 世 代 の 93.6%, 50歳 世 代 の83.0%, 40歳 世 代 の53.3%が 持 家 に 住 ん で い る13).国 勢 調 査 に よ っ て,対 象 者 の 年 齢(調 査 時 点)に 相 当 す る世 帯 主 年 齢 で の 持 家 居 住 割 合(東 京 都,神 奈 川 県,埼 玉 県,千 葉 県)を み る と, 60歳 世 代(平 成7年 国 勢 調 査 で55∼59 歳)で は69.9%, 50歳 世 代(45∼49歳)で61.1%, 40歳 世 代(35∼39歳)で38.8%で あ る の で,対 象 者 は 同 世 代 一 般 と比 較 して 持 家 取 得 率 が 高 い.し か し結 婚 直 後 の 時 点 で は,そ の ほ と ん ど(60歳 世 代 77.5%, 50歳 世 代70.3%, 40歳 世 代89.5%)が 借 家 住 ま い で あ り,対 象 者 の 多 くが マ イ ホ ー ム の取 得 に 向 け て 住 居 遍 歴 を 行 って き た と 想 定 で き る. 結 婚 後 か ら現 在 に 至 る ま で の 世 帯 の 平 均 住 居 移 動 回 数 は, 60歳 世 代 が2.04回, 50歳 世 代 が1.60回, 40歳 世 代 が1.17回 で あ る.世 代 が 若 い ほ ど移 動 回 数 が 少 な く な るが,こ れ は結 婚 後 の期 間 の 長 短 に よ る と こ ろ が 大 き い.埼 玉 県 川 越 市 で の 調 査 事 例(川 口1997a)で は1.52回(分 析 対 象 の 平 均 年 齢47.0 歳),埼 玉 県 越 谷 市 で の 事 例(川 口1997b)で は 1.49回(同66.2歳)で あ る の で,せ い ぜ い1∼2 回 の 移 動 が 大 多 数 を 占 め る と は い え,結 婚 後 の 住 居 移 動 につ い て 平 均 値 の 議 論 を す れ ば,そ れ ほ ど移 動 性 が 高 い わ け で は な い.し か し一 方 で4回 以 上 の 住 居 移 動 を 経 験 す る 世 帯 も一 定 数 存 在 して い る(60 歳 世 代18.8%, 50歳 世 代8.6%, 40歳 世 代5.8%). ア ンケ ー ト調 査 で は移 動 の理 由 を 直 接 質 問 して い な い が,転 居 回 数 が 多 い世 帯 は 給 与 住 宅 を 発 着 地 と す る移 動 を 頻 繁 に 行 って い る こ と か ら,そ の 多 く は転 勤 に よ る も の と み て 差 し支 え な い で あ ろ う14).多 く の 世 帯 で は 結 婚 後 の 住 居 移 動 は せ い ぜ い1∼2回 で あ り,そ れ を 超 え て 転 居 回 数 を 増 加 さ せ る の は 強 制 的 ・外 生 的 な 要 因 に よ る移 動 で あ り,本 稿 が 対 象 と す る サ ラ リー マ ン層 の場 合,そ れ は 企 業 や 組 織 の 論 理 に よ って 引 き起 こ さ れ る転 勤 移 動 と い う こ と に な る.

2.住 居移 動 と家族 段階

住 居移 動 は,転 勤 を は じめ転 職 ・独立,家 族 との

同居 ・別 居,災 害 や立 ち退 きな ど きわめて多 様 な要

因 に よ って 引 き起 こされ る.こ こに列挙 した要 因 は

各世 帯 に と って多 分 に個別 的 で外生 的 な側面 を有 す

るが,ラ イ フサ イ クル概念 は家 族 の増加 ・成 長 ・減

少 とい った多 くの世帯 が共 通 して た ど る過程 に注 目

し,家 族 の発 展段 階(フ ァ ミ リース テー ジ)に 応 じ

て変 化す る住 居 に対す るニー ズへ の各世 帯 の適応 行

動 と して住 居 移 動 を説 明 す る15).世 帯 を単 位 とす

る都市 内の住 居移 動 は,家 族 段 階 に応 じた住 宅 ニ ー

ズ に よ って 説 明 され る部 分 が と りわ け大 き い16).

689

(6)

表2  フ ァ ミリー ス テ ー ジの定 義 と該 当世 帯 数

Table 2 The definition of the family stages and the number of families in each phase

1)新 婚 期 の始 ま りは結 婚 時 の,新 婚 期 と形 成 期 の境 界 は長 子 誕 生 時 の,拡 大 期 と安 定 期 の境 界 は末 子6歳 時 の世 帯 主 平 均 年 齢 に よ って定 め,そ れ 以 外 の ス テ ー ジ境 界 の 平 均 年 齢(太 字)は 子 供 の成 長 分 の年 齢 を加 算 して定 め た. 2)太 字 はそ の ス テ ー ジ を経 験 して い な い世 帯 が 存 在 す る こ とを,()は 該 当世 帯 が総 世 帯 の半 数 以 下 で あ る こ と を示 す. 3) 60歳 世代 に は,調 査 時 点 で の フ ァ ミ リー ス テ ー ジが 判 明 しな い世 帯 が5世 帯 存 在 す る.

また,年 功序 列 の賃金 体系 や定 年制 度 が あ る日本 の

労働 市場 に お いて は,家 族 段階 の発 達 は家賃 負担能

力 や住 宅 ロー ンの組 み方 とい った住 居 ニ ーズの応能

力 の代 替 的 な指 標 と もな り得 る.そ こで本稿 で は,

夫 婦 と子 供 の 年 齢 を指 標 と して 家 族 段 階 を 区分 し

(表2)17),ラ イ フサ イ クル と対 応 させ て住居 移動 の

特 徴 を検 討 す る.

それ ぞれ の ステ ー ジは,結 婚 を経 て新 しい家族 を

築 き始 め る 「

新 婚 期」,世 代 の再 生 産 が開 始 され る

形成 期」,子 供 の誕生 で家 族数 が増 加 し育児 に忙殺

され る 「

拡 大 期」,家 族 数 の増 加 が終 わ り.子供 の成

長 に よ って定 常 的 な家族 状 態 に な る 「

安 定 期」,子

育 て か らの解放 と と もに子供 が 自立 し始 め る 「

成熟

期 」,就 職 や 結 婚 に伴 う子 供 の離 家 で家 族数 の減少

が進 む 「

縮小 期 」,世 帯 主 が 退職 し子 世 帯 へ の包摂

や死 によ って世 帯 が消滅 へ と向 か う 「

衰退 期」 とな

る.表 中 に は各 ス テ ー ジの境 界 とな る世帯 主 の平 均

年 齢 を示 して い るが,そ れ ぞ れ の世 代 は 異 な った 時 代 背 景 を 有 して い る に も か か わ らず,ス テ ー ジ と年 齢 層 の 対 応 関 係 は ほ ぼ 一 定 で あ る.た だ し世 代 と ス テ ー ジ の 組 み 合 わ せ に よ って は,該 当 世 帯 数 が 少 な い た め に 十 分 な 議 論 が で き な い場 合 も あ る. こ う して 設 定 した フ ァ ミ リー ス テ ー ジ に 基 づ き , 家 族 段 階 の 発 達 に 伴 う 移 動 性 の 変 化 を 求 め た(図 1).こ れ は ス テ ー ジ ご との 移 動 総 数 を そ の ス テ ー ジ に 該 当 す る 世 帯 数 で 除 して 世 帯 当 た りの 平 均 移 動 数 を 求 め,さ ら に ス テ ー ジの 長 さ に ば らつ き が あ る の で,世 帯 主 の 平 均 年 齢 に よ っ て 求 め られ た各 ス テ ー ジの 期 間(表2)で 除 し た も の で あ る.い ず れ の 世 代 で も世 帯 の 形 成 期 に 移 動 の ピ ー ク が み られ,以 後 ス テ ー ジの 発 達 と と も に世 帯 の モ ビ リテ ィ は 低 下 し て い く.形 成 期 に は 対 象 世 帯 の 約 半 数(60歳 世 代 47.0%, 50歳 世 代57.1%, 40歳 世 代48 .6%)が 動 を 経 験 し,世 帯 の 形 成 に伴 う移 動 が 行 わ れ る新 婚 690

(7)

図1 

世帯 当た りの年平均移動数 の推移

年平均世帯 移動数 は各 ステー ジの移動 数を該当世帯数 で除 し,さ らにそれ を各 ステー ジの平均年幅 で除 して 求 めた.

Fig. 1 Changes in average annual residential moves by the family stage

期 と合 わ せれ ば,い ず れ の世 代 も夫 が20歳 代 末 か

ら30歳 代 前 半 ま で の世帯 形 成 の初 期 に住居 移 動 を

頻 繁 に行 う傾 向 が み られ る18).安 定 期 以 降 は若 い

世 代 ほ ど世 帯 当 た りの年 平均 移動 数 が低 くな るが,

これ らの世 代 で は該 当 す るス テー ジを完 了(経 験)

して いな い世帯 が多 く含 まれ るた めに,移 動数 が過

小 評価 されて い る もの と思 われ る.

次 に住居 形態 を持 家 と借家 の二 つ に分 け,ス テ ー

ジご との移動 の特徴 を住 居形 態 の変化 か ら検討 す る

(図2).各 世 代 と も新 婚期 や 形成 期 には借家 間 の移

動 がか な りの割 合 を 占め るが,そ の後 借家 か ら持家

へ の移 動が 中心 とな り,持 家取 得 世帯 が増 加す るに

したが って持 家 の二 次取 得で あ る持家 間 の移動 の比

率 が上昇 す る.つ ま り家族 段 階 の発達 に伴 って借 家

間 の住 み替 えか ら持 家 の取 得 に中心 が 移 り,さ らに

場 合 によ って は持 家 間 の住 み替 え を行 う とい う住 居

経歴 の主 潮 が確認 で きる.世 帯 の平 均移 動数 を持 家

の取得 前 後 で比 べ る と, 60歳 世 代 で は取 得 前1.40

回 に対 して 取 得 後0.64回,同

じ く50歳 世 代 は

1.21回 と0.39回, 40歳 世 代 は0.98回 と0.19回 と

い うよ うに,持 家 の取 得以 降 に世帯 のモ ビ リテ ィは

大 き く低 下 す る.結 局,世 帯 の住居 移動 は形 成期 に

最 も頻 繁 に行 われ,そ れ には持 家取 得 のた めの移 動

が大 き く関与 して い る こと,す なわ ち住居 経歴 の中

で持家 の取 得 が大 きな位 置 を 占めて い る ことが想 定

され る.そ こでIIIの3で

は持 家 の取 得 に焦 点 を 当

て る ことにす る.

図2  移 動 に よ る 住 居 形 態 の 変 化 と フ ァ ミ リ ー ス テ ー ジ

Fig. 2 The relationship between family stages and changes in housing types by residential moves

3.持 家 の 取 得

対 象 世 帯 の 持 家 取 得 経 験 率 は60歳 世 代 で95.2%, 50歳 世 代 で83.9%, 40歳 世 代 で54.3%で あ り, 30

(8)

図3 

持家の取得時期

数字 は各世代の全世帯数に対する当該 期間に持家を取得 した世帯 の割合 であ る.

Fig. 3 The times of purchasing a house

い ず れ の 世 代 も約30%に の ぼ る(60歳 世 代29 .6%, 50歳 世 代31.0%, 40歳 世 代31.5%).既 往 研 究 の 多 くは 持 家 の 取 得 を 家 族 段 階 の発 達 と関 連 付 け て き た が,持 家 取 得 時 期 の 分 布 は お お む ね 世 代 間 の年 齢 差 に等 しい10年 の タ イ ム ラ グ を 示 して お り(図3), 持 家 の 取 得 が ライ フ サ イ ク ル の 発 達 に 強 く規 定 さ れ て い る こ と が 確 認 で き る. 一 方 で 住 宅 の供 給 量 や 価 格 な ど ,世 帯 に と っ て 外 生 的 な 要 因 が 住 宅 取 得 に及 ぼ す 影 響 も見 て 取 れ る. た と え ば1970年 代 の 後 半 は, 60歳 世 代 と50歳 世 代 の両 世 代 と も,最 も住 宅 取 得 が 活 発 に 行 わ れ る フ ァ ミ リー ス テ ー ジで あ る形 成 期 か ら は や や 外 れ る が, い ず れ も持 家 の 一 次 取 得 が 活 発 に 行 わ れ て い る. 1970年 代 後 半 は 分 譲 住 宅 の 供 給 量 が 豊 富 で あ る と 同 時 に 住 宅 価 格 の年 収 倍 率 が 下 落 した 時 期 で あ り, 住 宅 取 得 が 比 較 的 容 易 で あ っ た と 考 え ら れ る(図 4).そ の 結 果, 50歳 世 代 で は 新 婚 期 に や や 早 め の 一 次 取 得 を 行 っ た 世 帯 が 多 く(60歳 世 代22 .4%に 対 し, 50歳 世 代29.9%)19), 60歳 世 代 で は 若 干 遅 れ て 安 定 期 に 一 時 取 得 を す る 世 帯20)が 多 か っ た (50歳 世 代11.5%に 対 し, 60歳 世 代22.1%).ま た, 1980年 代 後 半 は い わ ゆ る バ ブ ル 期 に あ た り,住 宅 価 格 の 年 収 倍 率 は急 上 昇 した が,こ の 時 期 に 新 婚 期 を 迎 え た40歳 世 代 で は 当 該 ス テ ー ジで 一 次 取 得 を 行 っ た 世 帯 が11.4%と き わ め て 少 な く,影 響 の 大 き さ が うか が え る.一 方 で バ ブ ル が 崩 壊 し,年 収 倍 率 が 一 転 しで 低 下 に 向 か っ た1990年 以 降 は40歳 世 代 に と っ て お お む ね 形 成 期 に 相 当 し,他 の 世 代 と ほ ぼ 同 等 の31.5%が 一 次 取 得 を 行 っ た.し か し新 婚 期 に 持 家 取 得 が 進 ま な か っ た こ と で, 40歳 世 代 で は 他 の 二 世 代 の 同 時 期 に 比 べ て 持 家 の取 得 を 済 ませ た世 帯 が 大 幅 に少 な く な って い る. 一 次 取 得 し た持 家 の 形 態 もま た ,住 宅 市 場 の 動 向 を 反 映 し て い る.50歳 世 代 の 持 家 取 得 が 進 ん だ 1970年 代 後 半 期 は,分 譲 住 宅 の 中 心 が 戸 建 か ら集 合 へ と急 激 に 移 行 す る 過 渡 期 に あ た っ て い る.そ の 結 果, 60歳 世 代 で は74.9%が 戸 建 住 宅 を 一 次 取 得 して い る の に 対 し, 50歳 世 代 で は そ の 割 合 が58.9 %に 低 下 し た.持 家 の集 合 住 宅 化 は さ らに 進 展 し, 40歳 世 代 で は 一 次 取 得 さ れ た 持 家 の62.5%ま で も が 集 合 住 宅 と な っ た. 持 家 の 住 み 替 え す な わ ち 持 家 の 二 次 取 得 は, 60 歳 世 代 で 全 世 帯 の28.0%, 50歳 世 代 で24.5%が 経 験 して い る が,一 次 取 得 の 物 件 が 戸 建 住 宅 で あ っ た 692

(9)

図4 

東 京大都市 圏 における分譲住宅新 規着工戸 数 と住宅価 格年

収倍率の推移

Fig. 4

The number

of new construction

starts of dwellings

(built for sale, bars) and the ratio of housing price to

an annual income of general workers

(lines) in the

Tokyo metropolitan

area

世 帯 の 二次 取 得 率 は そ れぞ れ21.4%,

13.3%で あ

る の に対 して,そ れ が 集 合 住 宅 で あ った 世 帯 は

47.8%, 40.5%と 有 意 に高 い.つ ま り集 合持 家住 宅

す なわ ち分譲 マ ン シ ョンは,次 な る持 家 の取 得 に向

けた仮 の住 ま い とい う様相 が認 め られ,こ の よ うな

移 動性 向が40歳 世 代 に も共 通 す る な らば,今 後 彼

らに も住 宅 の住 み替 えが か な りの確 率 で生 じる こと

にな る.し か し集 合住 宅 を取得 す る世帯 の永 住志 向

が 急速 に高 ま って い る こ とや21),不 動 産 価 格 の 下

落 に よ り持家 の売 却 が含 み損 を発生 させが ちな現 状

な ど22),近 年 は持 家 の二 次 取 得 に伴 う住 居 移 動 を

減少 させ る方 向 に働 く要 因が多 い.

住 宅市場 の動 向 は,あ る時点 にお ける持家 の取得

可 能性,あ るい は取 得可 能 な持家 の形 態 を大 き く左

右 す る もので あ る.し か し世 帯 が最終 的 に持家 の取

得 を 目指 す こと,そ して それ が30歳 過 ぎの形成 期

に発意 され る ことは世 代 を超 え て共通 してい る.

IV住

居 移動 の空 間特 性

1.居 住地 分布 の変 化

IIIで は,結 婚 後 の世 帯 の住 居 移動 につ いて,そ

の回数 や発生 時期,住 居形 態 の変化 な ど住居 移動 の

非空 間 的 な側 面 を中心 に分 析 を行 って きたが,こ こ

で は,住 居移 動 の距離 や方 向 な ど空 間 的 な特 徴 を検

討 し,そ れ が大都 市圏 の居 住構 造 とどの よ うに結 び

付 いて い るのか を考 えて い く.結 婚 後 の世帯 の住 居

(10)

図5 

結婚直後 と現在 の居住地

新婚 時代を必ず しも東 京圏内で過 ごしていない対象世帯 もあるので,結 婚直後 と現在 の総世帯数 は異 なっている. Fig. 5 The distribution of residential place immediately after marriage and at present

(11)

図6 

現住地 の方位 角

Fig. 6 The direction of the present residences from the central business district

移 動 は結婚 前 の住 居経 歴 と無関 係 で はな いが,そ の

影 響 を検討 す るため に は夫婦 双方 の結婚 前 の住 居経

歴 が必 要 とな る.し か し本稿 で は調 査対 象 を男 性 に

限定 して い るた め,こ の点 を分析 す るこ とはで きな

い.各 時点 で の就業 地 と居住 地選 択 の関係 も検 討 さ

れ るべ きで あ るが, 50歳 世 代 につ い て は就 業地 が

把 握 され て お らず, 60歳 世 代, 40歳 世 代 につ い て

も対象者 が 経験 したす べて の就業 地 が把握 されて い

るわ けで はな いた め,考 察す る ことがで きなか った.

は じめ に,世 帯 の住居 経歴 のふ りだ しであ る結 婚

直後 の居 住地 と今 日までの住 居経 歴 の帰結 で あ る現

住 地 の分 布 を市 区 町村 単 位 で 示 す(図5).ま

ず 結

婚 直後 か ら現 在 にか けて,い ずれ の世 代 にお いて も

住居 形態 が借 家 中心 か ら持 家 中心 に変化 す ると とも

に,東 京 都 や神奈 川県 方面 に集 中 してい た分 布 が郊

外 の全域 に拡 散 して い る ことがわ か る.ま た,現 住

地 の分布 を世 代 間で比 較 す る と,若 い世 代 にな る に

したが って埼 玉県 か ら千葉 県方 面 の分布 が増 加す る

こ とか ら,居 住地 の 時計 回 り方 向 へ の移 動 が示唆 さ

れ る.こ れ らの ことを定量 的 に示 す ため,世 帯 の居

住地 を各 市 区 町 村 の 役場 所 在 地 で代 表 させ23),都

心(東 京駅)と それ ぞれ の市 区 町村 を結 ぶ直 線距離

(都心距 離 と称す る),お よ びそ の直線 が磁北 となす

角 度(方 位 角 と称 す る)を 求 め た.な お, 40歳 世

代 につ いて は,対 象世 帯数 が少 ない こ とや,結 婚 後

の年 数 が相対 的 に短 く住居 経歴 の途 上 に あ る世帯 が

多 い こ とか ら,分 析 の対象 か ら除外 した.

図7  分 譲 住 宅 新 規 着 工 戸 数 の都 県 別 構 成 比 (建築統計年報 によ り作成).

Fig. 7

Distribution

ratio

of new construction

starts of dwellings

(built for sale)

現 住 地 の方 位 角 を 考察 す る と(図6),

50歳 世 代

で は60歳 世 代 に比 べ て 南西 か ら西 まで の角 度 帯 に

居住 す る世帯 が減少 し,居 住地 の分 布が相 対 的 に北

東 方 向 に移行 して お り,分 布図 の比 較 でみ られ た時

計 回 りの移動 が裏付 け られ る.東 京 大都市 圏 にお け

る分譲 住 宅 の供 給量 を み た場 合,北 部 の埼 玉県 およ

び東部 の千 葉県 にお いて供給 量 が増加 す る傾 向 は一

貫 した もので はな いが(図7)24), 1980年 代 後 半 か

ら1990年 代前 半 にか けて比 率 が 高 ま って い る.こ

の時 期 に は50歳 世 代 で も持 家 の一 次 取得 が 進 ん で

い たが, 60歳 世 代 で はす で に持家 の二 次 取 得 も終

息 しつ つ あ る頃 で あ り(図3参

照),ラ イ フサ イ ク

ル に対 応 した移 動 性 の 差 の 分 だ け, 50歳 世 代 の分

布 が やや北 東方 向 に偏 った と考 え られ る.

図8は 結 婚直後 と現 住 地 の都心 距離 帯別 構成 比 を

折 れ線 グ ラフで示 し,併 せ て現住 地 の住 居形 態 を距

離 帯 別 に棒 グ ラフで 示 して い る. 60歳 世 代 で は,

結 婚 直後 は20km帯

を中 心 とす る分 布 で あ った の

(12)

図8 

結婚直後 と現住地 の都心距離帯別構成

Fig. 8 The household distribution according to distances from the central business district to the residences immediately after marriage and at present

が, 30年 ほ ど経 過 した現 住 地 は40km帯

が分 布 の

中心 にな り,居 住地 の外 延化 が 明瞭 に把握 で き る.

しか し50歳 世 代 で は,結 婚 直後 も現 在 も20km帯

か ら40km帯

にか けて平 均 して分 布 し,居 住 地 が

そ れ ほ ど外延 化 してい ない よ うに見受 け られ る.現

在 の住居 を形 態別 に分 けて距 離帯 別構成 をみ る と,

60歳 世 代 の ほ とん どを 占 め る戸 建 住 宅 の分布 は40

km帯

が 中心 で あ り, 50歳 世 代 で も戸 建 住 宅 居住

者 は 同様 の傾 向 を示 す の み な らず,よ り外側 の50

km超

帯 の比 率 が 上 昇 して い る.し か し同 時 に50

歳 世代 で は集 合住 宅居 住者 の割 合 も増 え,そ の分布

は20km帯

を 中心 と して い るた め,結 果 と して50

歳世 代 で は20km帯

か ら40km帯

まで が 同程 度 の

構 成比 に な って い る25).戸 建 住 宅,集 合 住 宅 の い

ず れ につい て も都 心 に近 くな る ほど価 格 が高 くな る

が,地 価 が住宅 価 格 に反映 され る割合 が戸 建 住宅 に

比 べ て小 さい集 合住 宅 で は,距 離 帯 に よ る価 格 の差

が比 較 的 小 幅 に収 ま って い る(図9).し

たが って

戸 建住 宅 にお いて距 離帯 別 の価格 差 が顕在 化 し,取

得 場所 が遠 隔化 して も,集 合 住宅 で あれ ば相対 的 に

都 心周 辺 での取 得 が可能 で あ った.さ らに取得 す る

持 家 の形態 と して集 合住 宅 を選ぶ 世帯 が増 加 したた

め,世 代が若 くな る につ れ て戸建住 宅 の外 延化 が進

展 して も,平 均 的 に はそれ ほ ど著 しい外 延 化 が認 め

られ ない こ とにな るの であ る.

2.住 居移 動 の距離 と方 向

居住地 の分 布 は世帯 が行 う住 居移 動 に よ って変 化

す る.そ こで以下 で は,個 々の住居 移動 につ いて そ

の 空間特 性 を明 らか に し,そ れ らの総 体 と して の住

居経 歴 の結果 が大 都市 圏 の居住 構造 に どの よ うに結

び付 いてい るのか 検討 してみ たい.以 下 で は分析 の

対象 を,世 帯 が結 婚後 に行 った住 居移 動 の うち,発

着 地 の いず れ もが 東 京 大都 市 圏 内 に あ る圏 内 移 動

(60歳 世代923回, 50歳 世 代525回)に

限定 す る.

な お40歳 世代 につ いて はサ ンプル数 が少 ない ため,

IVの1と 同様 に分析 の対 象 か ら除外 す る.分 析 の対

象 とな る移 動 は形成 期 か ら安 定期 にか けて行 われ た

ものが中心 で あ り,ま た持家 を起 終点 とす る移 動 の

割 合 が高 い26).こ れ は大都 市 圏 外 との 流 出 入 を 除

外 した ため,給 与住 宅 や賃貸 住宅 を経 由 す る ことの

多 い転 勤移 動 の多 くが省 か れ るためで あ る.

1)移 動距 離

住居 移動 の発 地 と着地(の 市区 町村)を 結 んだ 直

線 距離 を 「

移動距 離 」 と称す る ことに し,移 動 距離

の頻 度 分布 をみ る と(図10),移

動 総 数 の4分 の1

強(60歳

世 代26.7%,

50歳 世 代27.4%)が

移動 距

離 ゼ ロ,す な わち 自市 区 町村 内 の移 動 で 占め られ て

696

(13)

図9 

距離帯別住宅価格

Fig. 9 Housing prices in the zones divided by concentric circles

い る.さ ら に 移 動 距 離10km未 満 の 移 動 が60歳 世 代42.4%, 50歳 世 代47.4%, 20km未 満 の 移 動 が 64.9%, 68.0%を 占 め て お り,す べ て の 移 動 の平 均 距 離 は そ れ ぞ れ17.3km, 16.6km,中 央 値 は13.0 km, 11.2kmで あ る.都 心 か ら40km, 50kmの 広 が りを 持 つ 大 都 市 圏 の 大 き さ に 比 べ る と,そ の 中 で 行 わ れ る1回1回 の 住 居 移 動 の 長 さ は思 い の ほ か 短 い.以 下 で は 自市 区 町 村 内 お よ び 移 動 距 離5km 未 満 の 移 動 を 「近 隣 移 動 」 と称 す る こ と に す る が, そ の 割 合 は30%以 上(60歳 世 代31.2%, 50歳 世 代 34.1%)に 達 す る.こ う し た近 隣 移 動 の 比 率 が 特 に 高 い の は,集 合 住 宅 か ら戸 建 住 宅(60歳 世 代44.4 %, 50歳 世 代44.4%),あ る い は戸 建 住 宅 同 士 の住 み 替 え(60歳 世 代47.5%, 50歳 世 代51.7%)な ど, 持 家 の 二 次 取 得 に 伴 う移 動 で あ る27).他 方,給 与 住 宅 を 発 着 地 に 含 む 移 動 の 平 均 距 離(60歳 世 代 25.8km, 50歳 世 代27.8km)は そ の 他 の 移 動 に比 べ て有 意 に 大 き い .両 世 代 を 併 せ て 給 与 住 宅 に 入 居 す る移 動 の う ち43%が 移 動 距 離30kmを 超 え,さ

らに18%は50kmを

超 え て い て平 均距 離 を 押 し上

げて い る.先 述 したよ うに給 与住 宅 を含 む移動 は転

勤 に伴 って発 生 す る ことが多 く,そ の場 合 居住地 の

選択 にあ た って移 動者 の 自発 的 な意 思 が反 映 され る

余 地 は少 な い.給 与 住 宅 を含 む移 動 は圏 内 移 動 の

30%以 上 を 占め(60歳 世 代34.7%,

50歳 世代32.8

%),そ

の社会 的 意 味 は少 な くな いが,家 族 段 階 の

図10 

住居移動 の移動距離 の頻度分布

Fig. 10 The frequency distribution of distances moved by residential relocation

(14)

発 達 や居住 地選 好 とい う個 人 あ るい は世帯 の論 理 に

依 拠 して説 明 で き る もの で はな く,詳 細 に検討 す る

に は企 業 の事業 所配 置 や企 業 内キ ャ リア形 成 と転勤

の関係 を も視野 に入 れ た分析 が必 要 で あ り,こ こで

はそ の特 異性 と重 要 性 を指摘 す るに とどめてお く.

2)セ ク ター移 動

大 都市 圏 内で行 わ れ る空間 行動 の特徴 と して しば

しば指摘 され るのが セ ク ター的 な移動 の卓越 で あ る.

今 日の大都 市 圏 で は郊 外 の成長 が 著 しい とはい え,

業 務 機能 や商 業 ・娯楽 機能 が集 中 す る都心 が郊 外住

民 の生 活 に及 ぼす 影響 力 は依然 と して強 い.し たが

って都 心 と郊外 を結 ぶ放 射 状 の交通 路 は,通 勤 を は

じめ とす る住民 の生 活行 動 の枢 軸 を成 す.住 居 移動

につ いて も主要 な鉄 道 や幹線 道 路 に沿 ったセ ク ター

状 の移動 が卓 越 す る こ とが指 摘 され,住 宅市 場 と し

て の大都 市 圏が 地価 と対 応 した同心 円構 造 を持 つだ

けで な く,住 居移 動 の圏 域 と して把握 され る複数 の

サ ブ マー ケ ッ トか ら成 って い る ことが示 されて い る

(由井1987,

1989;古 田 ほか1991;山

島 ・長 谷 川

1996).し か しこれ まで の 研究 の ほ とん どは あ る一

時点 の移動 デ ータ に基 づ い た横 断 的分析 で あ り,住

居 経歴 の終 点 が固 定 され た着地 吸収 的 デー タに依存

した研 究 も多 く,そ れ に よ つて観察 され る移動 が対

象 地域 に向か う遠心 的 ・セ クタ ー的 な移動 に偏 つて

いた可 能性 も捨 て きれ な い.そ こで本 稿 の発地分 散

的 な デー タを用 い,改 めて セ ク ター移 動 の存 在 を検

証 して み る こと にす る.

まず,郊 外 を東 郊(千 葉 県 お よび茨 城 県南 部),

南郊(神 奈川 県),西 郊(東 京 都市 郡部),北 郊(埼

玉 県)の 四 つ に分 け,そ れ ぞれ の地 区 を着地 とす る

住 居移 動 の発 地 が都心 か らみて どの方角 にあ るのか

(発地 の 方 位 角)を 示 す(図11).南

郊 を 着 地 とす

る移動 の発 地 は南 南西 の方 角 に集 中 し,同 様 に西郊

は西,北 郊 は北北 西,東 郊 は東 南東 と北北 東 とい う

よ うに,そ れ ぞれ東 海 道,中 央 道,関 越道,京 葉道,

常磐 道 な ど に沿 った セ クタ ー状 の移動 圏 が鮮明 に浮

か び 上 が る. 60歳 世 代 と50歳 世 代 の グ ラ フ の 形 状 は 酷 似 して お り,セ ク タ ー的 な 移 動 圏 と して の 住 宅 サ ブ マ ー ケ ッ トは世 代 を 超 え て 存 在 して い る よ う に 思 わ れ る.

図11 

着地別 にみた発地 の方位角

Fig. 11 The direction of origins of residential relocations in terms azimuthally divided destina tions

この ことを よ り一般 化 す るため,移 動 の発 地 と着

地 の方位 角 の差 を 「

偏 向角 」 と称 し,発 地 に対 して

着 地 が時 計 回 りの 位 置 に あれ ば0∼180度 の値 を,

反 時計 回 りの位 置 に あれ ば0∼-180度

の値 を と る

もの とす る.仮 に都心 と発地 の延 長上 に着地 が あれ

698

(15)

図12 

住居移動 の偏 向角 の頻度分布

Fig. 12 The frequency distribution of difference in the angle between the direction of residential moves and the concentric radii

ば その偏 向角 は ゼ ロにな るの で,偏 向角 は都心 と発

地 を結 ぶ 直線 に対 して着地 の方 角 が どの程度 ずれ て

い るか を示 す 指標 とな る.偏 向角 が小 さい ほ ど移動

が都心 を中心 と した幅 の狭 い扇 形 の中 で完結 す る こ

とにな り,セ クタ ー状 の移 動 圏 の存 在 が確認 され る

こと にな る.

偏 向 角 の頻 度 分 布 は0度 付 近 へ の集 中が 著 しく

(図12), 60歳 世 代 で は移 動総 数 の51.0%,

50歳 世

代 で は56.4%の

移動 が ±15度 の範 囲 に収 ま って い

る.い ずれ の世代 で も住 居移 動 の約半 数が都 心 を中

心 とす る30度 の幅 を持 つ扇 形 の 範 囲 で完 結 し,セ

ク ター状 の移 動 圏,さ らに言 え ば沿線 別 の移動 圏が

存 在 して い るとい って もよい くらいで ある.以 下 で

は この ±15度 以 内 の偏 向 角 を持 つ移 動 を 「

セ ク タ

ー移動 」 と称 す る ことにす る.

3)外 向移 動 ・内 向移 動

各世 代 とも結 婚 直後 か ら現 住 地 に至 る過 程 で居住

地 の分 布 は外延 化 して い る.通 常,住 宅価 格 の水準

は都心 か ら離 れ るほ ど低 くな るので,住 宅 の取 得 と

りわ け戸建 住宅 の取 得 は郊外 に行 くほ ど容 易 に な る.

したが って前述 の よ うに持家 の取 得 が住居 経歴 の一

つ の ゴールで あ る とす るな らば,結 果 と して都 心距

離 を遠 ざけ るよ うな移動 が卓 越 す るはず で あ る.そ

こで 近隣移 動 を除 い た移 動 の うち,発 地 の都心 距離

よ りも着地 の都 心距 離 が大 き くな る移 動 を 「

外 向移

動」,小 さ くな る移 動 を 「

内 向移 動」 と定義 し,移

動総 数 に 占め る内 向移動,近 隣移 動,外 向移動 の割

合 を 求 め る と, 60歳 世 代 が それ ぞ れ23.7%,

31.2

%, 45.1%, 50歳 世 代 が23.0%,

34.1%, 42.9%

にな る.い ず れ の世 代 におい て も外 向移動 が卓 越 す

る ことか ら,住 居移 動 の累 積 的結果 と して居 住地 の

外延 化 が進 んだ ことが 示 され る.

これ らの移 動類 型 が移動 総数 に占め る割合 を発 地

の 距離 圏別 に示 す と(図13),東

京 都 区部 とそ の隣

接 地 域 か ち な る近 距 離 圏(20km圏

内)を 発 地 と

す る外 向移 動 が 全 体 の30%前

後 を 占 め,圏 内移 動

の主 流 を成 して い る.ま た事例 数 の少 な い遠 距離 圏

(40km以

遠)を 別 にす ると,距 離 圏 に関 係 な く近

隣 移動 が一定 の割 合存 在 し,こ うした傾 向 は世 代 を

通 じて変化 が ない.す なわ ち大都市 圏 内 にお け る住

居 移動 は近距 離 圏か ら郊 外 に向 か う跳躍 的 移動 と,

従 前 の居住地 周 辺 で行 われ る短距離 移動 の二 つを 中

心 に構 成 され てお り,前 者 の移動 が居 住地 の外 延化

を もた らす大都 市圏 の遠 心力 を体 現す る とと もに,

後 者 の移動 が セ ク ター内 に完 結 した移 動圏 を形 成 し

つつ 展開 して い る もの と思 われ る.

3.住 居 移動 の形 態変 化 と空間 特性

大 都市 圏 の住 宅 ス トックの構 成 は同心 円的 な地 価

水準 を反 映 し,距 離 圏 ご とに異 な って い る.し たが

って住居 移動 は,前 述 したよ うに発地 とす る距離 圏

によ ってそ の空間 特性 が異 な る とと もに,住 居形 態

の変 化類 型 に も違 い がみ られ るはず で あ る.す で に

(16)

図13 

発地距離圏別 の移動方向

数 字 は全 移 動 に 占 め る割 合 で あ る.近 距離 圏 は20km圏 内,中 距 離 圏 は30∼40km圏,遠 距 離 圏 は50km圏 以 遠 を指 す.

Fig. 13 The direction of residential relocations by concentric zones

明 らか に したよ うに住 居形 態 の変化 はフ ァ ミ リース

テ ー ジと密 接 に関連 して い るので,こ こで住居 形態

の変化 類型 と住 居移 動 の空 間特性 の関連 が明 らか に

なれ ば,住 居経 歴 とい う世帯 の時間 的軌跡 を大都 市

圏 内 にお け る空 間的 軌跡 と重 ね合 わせ て理解 す る こ

とが可能 にな る.そ こで こ こで は,数 量 化 皿類 を用

い て移動 に伴 う住 居形 態 の変 化 と移 動 の空間 特性 の

相 互 関係 を 明 らか に し,両 者 を大都 市圏 の同心 円構

造 の中 に位 置付 け る ことを試 み る28).

数量 化III類は,変 数 が順 序尺 度 や名 目尺 度 な どの

質 的 デ ー タによ って与 え られ る とき,変 数 や サ ンプ

ル間 の類似 性 を把握 す る手 法で あ る.こ こで は発 地

の距 離 圏 を 「

近 距離 圏」,「中距離 圏」,「遠距 離 圏」

の3区 分 に,住 居形 態 の変化 を 「

借家→ 借家 」,「借

家 →戸 建(戸 建 一 次 取得)」,「借 家 →集 合(集 合 一

次取 得)」,「持家 →持 家(持 家 二次 取得)」,「持家 →

借 家 」 の5区 分 と し,そ れ に 「

近 隣/内 向/外 向移

動 」,「セ クタ ー/非 セ ク ター移 動」 の二 つ の空 間特

性 を加 え た各 カ テ ゴ リー変 数 を用 いて数量 化III類の

計 算 を行 った.計 算 の結 果,第2軸

まで の累積 寄与

率 は60歳 世 代 が35.2%,

50歳 世 代 が33.0%に

り,ア ンケー ト調査 によ って得 られ たデ ー タと して

は比較 的 良好 な説 明 力 を持 つ.図14は

抽 出 され光

二 つの軸 か ら成 る座標 平面上 に諸 項 目を布置 した も

の であ り,近 接 す る項 目同士 は一 つ の住 居移 動 にお

いて 同時 に観測 され る ことが多 く,関 連性 が 強 い こ

とにな る.

まず60歳 世代 と50歳 世代 に共通 す る特 徴 を挙 げ

る と,近 距離 圏 と外 向移 動,中 距離 圏 と近 隣移 動,

遠距 離 圏 と内向移 動 の間 に それぞ れ強 い関連 性 が認

め られ,発 地 の距 離 圏 によ って移動 性 向が異 な ると

い うIVの2の

結果 を裏 付 け る.ま た,持 家の二次

取得 はいず れの世 代 にお いて も中距離 圏 ・近 隣移動

の近傍 に位 置 して い る.持 家 の二 次取 得 の場 合,す

で に居 住 す る持 家 が あ るため,従 前 の居住 地 で築 き

あ げて きた社会 関係 や ライ フス タイ ルを可 能 な限 り

維 持 しよ うとす る意 志 が働 き,近 隣 での移 動 が卓越

す る もの と思 われ る.さ らに,借 家 間 の移 動 や持家

か ら借 家へ の移動 は両世代 と も非 セ ク ター移動 の近

傍 に位 置 し,距 離 圏 や移動 方 向を表 す諸 指標 か ら独

立 した位 置 にあ る.こ れ らの移動 で は距 離 や方 向 に

明 瞭な規則 性 が見 出 せな い とい うこ とで あ り,世 帯

の意志 が働 か な い ことの多 い転勤 移動 との関 連 を想

起 させ る.

700

(17)

図14  数 量 化III類に よ る住 居 移 動 の諸 特 性 間 の 関係

Fig. 14 The relationship of attributes characterizing residential moves

一 方

,両 世 代 の間 で大 き く異 な るの は,持 家 の一

次 取得 に関す る移 動 で あ る.集 合住 宅 の一次 取得 は,

60歳 世 代 で は孤 立 した位 置 に あ り,借 家 を着 地 と

す る移 動 と同様 に空 間特性 との関連 はあ ま りみ られ

な い の に対 し, 50歳 世 代 に な る と近距 離 圏 ・外 向

移 動 の近傍 に引 き寄せ られて い く.こ れに対 して戸

建 住 宅 の一 次取 得 は, 60歳 世 代 で は近 距 離 圏 ・外

向移 動 に近接 した位 置 に あ った の が, 50歳 世代 に

な ると中距 離圏 ・近 隣移 動 に接近 し,持 家 の二 次取

得 と類似 した空 間特 性 を有 す るよ うにな る.世 代 が

若 くな るにつ れて集 合持 家住 宅 す なわ ち分 譲 マ ン シ

ョンを取 得 す る割 合 が増 加 して い る ことは先述 した

が,大 都 市 圏 にお け る住 居移 動 と居住 の外延 化 の主

流 を成 す近距 離 圏か らの外 向移動 の主 役 も,戸 建 住

宅取 得 のた めの移 動 か ら集 合住 宅取 得 の ための移 動

へ と移 って き たので あ る.

最後 に これ までの分 析結 果 を踏 まえ,大 都市 圏 に

流 入 した若年 者 の住居 経歴 を念 頭 に,家 族段 階 の発

達 に伴 って展 開 され る住居 移動 の諸 類型 を大都 市 圏

の同心 円構 造 の中 に位 置付 けてみ よ う.

まず世帯 形成 の初 期 に頻 繁 にみ られ るの は借 家 間

の移動 で あ る.そ れが本 質 的に ランダ ムな移動 特性

を持 って い るのか,あ るい は転勤 に関連 した移 動 が

多 くて撹乱要 因 に な ってい るのか定 か で はな いが,

その空 間特性 に明瞭 な規則 性 を見 出す ことはで きな

い.続 い て30歳 代 前 半 の形 成 期 に な る と持 家 の取

得 を 目指 す移動 が 多 くな る. 60歳 世 代 か ら50歳 世

代 にか けて その形 態 は戸建 住宅 か ら集 合 住宅 へ と変

化 す るが,い ずれ に して も大都市 圏 の中心 部 を発 地

とす る外 向移 動 で あ り,移 動距離 はそれ ほど長 くな

い と して も遠心 力 が強 く働 くため,居 住地 の外延化

が もた らされ る.そ の後 場合 によ って は持 家 の二次

取 得 が行 われ るが,住 居 の探 索範 囲 は一次 取得 した

持 家 の近隣 にほぼ限 定 され て いる.し た が って持家

を一次 取得 した場所 が二 次取 得 の場所 を規 定 す る こ

とにな り,持 家 の一 次取 得 を も って世 帯 の大都 市圏

定 着 の実質 的 な時期 とみなす ことがで きるの で はな

いで あろ うか.

Vお

わ り に

高 度成 長期 に大 挙 して大 都市 圏 に流入 した地方 出

身者 は,世帯 を形成 ・

拡 大 させつ つ次 第 に郊外 へ と定

(18)

着 して い った.郊 外 の拡大 や大 都市 圏成長 の原動 力

と位 置付 け られ る こ う した プ ロセスを理解 す る上 で

必要 な基礎 的知 見 を得 るた め,本 稿 で は三 つ の世代

に属す る長 野県 出 身 の東京 大都 市圏居 住世 帯 を対象

と して,地 方 出身者 世 帯 の大都 市圏 内で の住居 経歴

を分 析 して きた.フ ァ ミリーステ ー ジと住 居移 動 の

関係(ラ イ フコー ス概念 にお け るライ フサイ クル効

果)に 注 目 した場 合,彼

らの住居 移動 に関 す る特 徴

の多 くは世代 を超 えて安 定 して いた といえ る.し か

し世 代間 比較 の視 座 か らは,住 宅市 場 の変動(時 代

効 果)お よ びそ の変動 を どの フ ァ ミリース テー ジで

経 験 したか(コ ーホ ー ト効 果)が,各 世代 の住 居経 歴

に特徴 的 な相 違 を付 け加 え る ことが明 らか にな った.

各世 代 と も結 婚 後 の住居 移 動回 数 はお おむ ね1∼

2回 に とど ま り,住 居 移 動 の頻 度 は20歳 代 後半 か

ら30歳 代 前 半 の 時期 に ピー クに達 す る.そ して 持

家 の取 得 を 目標 と した住 居 経歴 の末,多 くの世 帯 は

30歳 代 前 半 の形 成 期 に持 家 を取 得 し,同 時 に世 帯

の移 動性 は大 き く低 下 す る.こ うした持家志 向その

もの は世 代 を超 え て揺 るぎの ない もので あ るが,持

家取 得 の時期 は住 宅 市場 の動 向 に左右 され,取 得 す

る持 家 の形態 は戸 建 住宅 か ら集合住 宅 へ と急 速 に変

化 した.つ ま り世 帯 は一 定 の フ ァ ミリー ステ ー ジま

で に持 家 を取 得 しよ うとす る欲求 を一貫 して持 ち続

けて い る ものの,持 家 取 得 の可 能性 や その形 態 は住

宅 市場 の動 向 や ライ フス タイル など社会経 済 的背 景

に大 き く影 響 され て い る.

大都 市圏 内 の住 居移 動 の空 間的特徴 は,短 距 離移

動,セ クタ ー移 動,外 向移 動 が卓越 して い る ことで

あ るが,こ れ らは近 距離 圏 か ら郊 外 に向 か う跳 躍 的

移動 と従前 の居 住地 周辺 の移動 に大別 され,前 者 が

外 向移動 の卓 越 を,後 者 が短 距離

セ クター移 動 の

卓越 を もた ら して い る.世 帯 の持 家取得 欲求 は大都

市圏 の 同心 円的 な地 価水 準 の下 で実現 され るため,

外 向移動 は と りわ け持家 を取 得す る移動 に典 型 的 に

み られ,結 果 と して居住 の郊 外化 が大 き く進 展 す る

ことにな る.す な わち家族 段階 の発 達 とそれ に伴 う

住居 形態 の変 化 とい う住居 経歴 の 時間 的軌跡 は,特

定 の社会 経済 的背 景 と大都 市圏 の 同心 円構造 を反 映

した空 間的軌 跡 と して現 出 して きたの で あ り,そ れ

自身 が大都 市 圏 を外延 化 させ る原動 力 とな った ので

あ る.

最 後 に本 稿 で の知見 を踏 まえ,大 都 市 圏 にお け る

住 居移 動 に関 す る研 究 の今後 の課 題 に触 れて お きた

い.今 回 の分析 で は,転 勤移 動 を特異 な移 動 と して

と らえ,も っぱ ら世 帯 の規範 的 な家族 段 階の発 達 に

基 づ く住居経 歴 を念 頭 に置 いて いた.し か し実 際 に

は,分 析対象 と した東京大 都市 圏 内 の移 動 総数 の う

ち3分 の1は 給与 住 宅が 関与 した移 動 で あ り,そ の

多 くは転 勤移 動 で あ った.本 稿 の分 析対 象 が高学 歴

層 で あ った ことが多少 そ の比率 を高 め て い るか も し

れ な いが,一 般的 に決 して無視 で きな い ボ リュー ム

が 存在 す る こ と は確 実 で あ る29).転 勤 移 動 は多 く

の場 合世帯 の 自発 的 な意思決 定 と相容 れな いが,た

また ま勤務 地 の関 係で移 り住 ん だ場所 が そ の後 の住

居移動 を大 き く左右 す るこ ともあ り得 る.ま た通勤

可 能 圏内 で あ るため異動 時 に は住 居移 動 を行 わ なか

った もの の,そ の後 に転 居 に踏 み切 る とい った事例

も十分 考 え られ る.通 勤 の条件 は住 居 選択 の絶 対的

な制約 で あ り,ラ イ フサイ クル要 因か ら行 わ れ る住

居 移動 で あ って も,つ ね に勤務 地 との関係 が念 頭 に

置 かれ て い る.住 居移 動 を世帯 の生 活 空間 に対 す る

要求 と勤 務地 との調整 過程 と して と らえ る視 点 を導

入 し得 るな らば,転 勤 に伴 う移 動 も調整 の一 形態 と

して包括 す る普遍 的 な分析 枠組 を設 定 す る ことがで

きるで あ ろ う.

本 稿 の骨 子 は1999年 度 日本地 理 学会 春 季 学術 大 会 で 発表 した.本 稿 には平成9∼11年 度文 部省 科学 研 究費補 助 金 「わ が国 にお け る全 国 ス ケール の人 口移動 の 実態解 明 に関 す る研究 」(基 盤研 究(C) (2),研 究 代 表者 荒井 良 雄,課 題 番号09680153)の 一 部 を使 用 した. (投稿2001年1月9日) (受理2001年9月8日) 702

Table  1  Occupations  of  survey  respondents
Table  2  The  definition  of  the  family  stages  and  the  number  of  families  in  each  phase
Fig. 1  Changes  in  average  annual  residential  moves  by  the  family  stage 期 と合 わ せれ ば,い ず れ の世 代 も夫 が20歳 代 末 か ら30歳 代 前 半 ま で の世帯 形 成 の初 期 に住居 移 動 を 頻 繁 に行 う傾 向 が み られ る18).安 定 期 以 降 は若 い 世 代 ほ ど世 帯 当 た りの年 平均 移動 数 が低 くな るが, これ らの世 代 で は該 当 す るス テー
Fig.  3  The  times  of  purchasing  a  house
+6

参照

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