The Journal of AIDS Research Vol. 10 No. 4 2008
【
シンポジ ウム15】(日
本性感染症学会合 同シンポジ ウム)
性 感染 症 の現状 、新 診 断法 ・治療 薬 な らび に予 防啓発 につ いて
■ オ ー ガ ナ イ ザ ー:荒 川 創 一 (神戸 大 学 医 学 部 附 属 病 院 手 術 部 ・感 染 制 御 部)■座長:荒 川
創一
(神戸大学医学部附属病院手術部 ・感染制御部)
守殿
貞夫
(神戸赤十字病院)
■演者:小 野寺
昭一
(東京慈恵会医科大学)
高橋
聡
(札幌医科大学医学部泌尿器科)
笹川
寿之
(金沢大学大学院医学系研究科 ・保健学専攻)
白井
千香
(神戸市保健所予防衛生課)
荒川 創一
(神戸大学医学部附属病院手術部 ・感染制御部)
趣 旨: 性 風 俗 の 変 遷 に伴 っ て 、 性 感 染 症 も 、 そ の 実 態 を 変 え て い っ て い る 。HIV感 染 症 は 、 現 在 で は 、 そ の ほ と ん ど が 性 感 染 症 と して 伝 播 して い る 。B型 肝 炎 も、 医 療 現 場 で の 針 刺 し以 外 の 大 多 数 は 、 性感 染 症 に よ る もの で あ る 。 感 染 症 に 関 す る法 律 の 中 で 、 性 感 染 症 は5類 に 位 置 付 け られ て い る 。 梅 毒 、 HIV感 染 症 、B型 肝 炎 は 全 数 報 告 の 対 象 で 、 性 器 ク ラ ミ ジ ア 感 染 症 、 性 器 ヘ ル ペ ス ウ イ ル ス 感 染 症 、 尖 圭 コ ン ジ ロ ー マ 、 淋 菌 感 染 症 は 定 点 報 告 に 当 た る 。 本 シ ン ポ ジ ウ ム で は 、 性 感 染 症 の 実 態 と対 策 に つ い て 、 広 く論 議 を し た い 。 若 者 の 間 に 、 無 自覚 に 性 感 染 が広 が っ て い る こ と は 、 小 野 寺 昭 一 先 生 の イ ベ ン ト会 場 な ど で の 男 女 の ス ク リ ー ニ ン グ検 査 の 結 果 、 ク ラ ミジ ア陽 性 者 を数%認 め て い る こ と な ど か ら 明 白 で あ る 。 高 橋 聡 先 生 は 、 ク ラ ミジ ア 、 淋 菌 の 新 しい 核 酸 増 幅 検 査 診 断 法 を用 い た 、 咽 頭 保 菌 の デ ー タ等 を示 され る 。 笹 川 寿 之 先 生 は 性 器 ヘ ル ペ ス の 再 発 予 防 化 学 療 法 、HPV感 染 の 新 治 療(ク リー ム 塗 布)と 子 宮 頸 癌 予 防 ワ ク チ ン 開 発 な ど、 治 療 と予 防 の 話 題 を 取 り上 げ られ る。 白 井 千 香 先 生 に は 、 医 師 か つ 行 政 の 立 場 か ら見 た 中 高 生 へ の 予 防 啓 発 の あ り方 を語 っ て い た だ き 、 司 会 者 か ら は 、 本 年 中 に着 手 され る 日本 性 感 染 症 学 会 認 定 医 、 認 定 士 の 制 度 に つ い て 解 説 を 加 え る。 日本 性 感 染 症 学 会 で は 、1996年 よ り 、 性 感 染 症 の 診 断 ・治 療 の ガ イ ド ラ イ ン を発 表 し、2年 毎 に改 訂 を 行 っ て お り 、2008年 秋 に 最 新 版 が 刊 行 され る 予 定 で あ る 。 そ の 内 容 に つ い て も 、 で き る 限 り触 れ た い 。 性 感 染 症 対 策 の な か で 最 も重 要 な 根 源 的 な 点 は 、 教 育 現 場 で 若 者 に 性 感 染 症 の 正 し い 知 識 を与 え 、小野寺
昭一
東京慈恵会 医科大学
性 感 染 症 で は 多 くの 無 症 候 感 染 者 が 存 在 す る 。 性 器 ク ラ ミジ ア 感 染 症 で は 、 男 性 で15∼20%、 女 性 で70∼80%は 無 症 候 と 言 わ れ て お り 、 自 覚 症 状 が な い た め に 医 療 機 関 を 受 診 し な い 潜 在 的 な 患 者 が 多 数 存 在 す る こ と が 予 想 され る 。 わ れ わ れ は2003年 か ら厚 労 省 科 研 費 に よ り 、 若 者 を対 象 に し た 性 器 ク ラ ミ ジ ア の 無 症 候 感 染 者 の ス ク リ ー ニ ング 検 査 を継 続 して 行 っ て い る が 今 回 そ の 結 果 を 中 心 に 報 告 す る 。 あ る県 の 高 校 生 の 男 女 約5000人 を対 象 と し た 大 規 模 ス ク リ ー ニ ン グ 調 査 で は 、 ク ラ ミジ ア 陽 性 者 は 男 子7%、 女 子13%と き わ め て 高 い 結 果 で あ っ た 。 ま た 、2006年 に 東 京 都 内 で 行 わ れ た若 者 向 け の イ ベ ン ト時 に 行 っ た 性 感 染 症 検 査 希 望 者 の 調 査 で は 、 性 器 ク ラ ミジ ア の 平 均 陽 性 率 は7.6%(男 性: 5.8%、 女 性:8.6%)と い う結 果 で あ っ た 。 こ れ ら の 調 査 か ら性 器 ク ラ ミジ ア に 関 し 、 と く に 高 校 生 の 女 子 に お い て 陽 性 率 が き わ め て 高 い こ と が 明 らか に な っ た 。 ま た 、 イ ベ ン ト時 に行 っ た性 感 染 症 に 関 す る ア ン ケ ー ト調 査 で は 、 男 女 と も 、 「気 軽 に 受 診 で き る 医 療 機 関 を知 り た い 」 や 「具 体 的 な 検 査 ・ 治 療 方 法 を 知 りた い 」、 「自 宅 で 検 査 を 受 け た い 」 な ど の 要 望 が 多 く あ り、 さ ら に 、 検 査 結 果 に つ い て は プ ラ イバ シ ー の 保 護 に 関 す る希 望 も強 い こ と が 明 らか に な っ た 。 以 上 の 結 果 か ら、 若 者 に 対 す る 性 感 染 症 予 防 の 普 及 啓 発 は ま だ ま だ 不 十 分 な こ と が 分 か り、 今 後 は と く に若 者 を対 象 と して 、 性 感 染 症 に 対 す る 知 識 の 普 及 啓 発 を よ り積 極 的 に 行 う だ け で な く、 彼 らが 性 感 染 症 検 査 を 受 け 易 い よ う な環 境 と体 制 を 早 急 に 作 り上 げ る こ と が 必 要 と 考 え られ た 。SY15-2)ク
ラ ミ ジ ア 、淋 菌 の 新 しい 診 断 法
高橋
聡
札幌医科大学医学部泌尿器科
男 子 尿 道 炎 と子 宮 頸 管 炎 の 主 要 な 原 因 微 生 物 で あ る淋 菌 、 ク ラ ミジ ア ・ トラ コ マ テ ィ ス の 検 出 法 と して は 、 核 酸 増 幅 法 の 一 つ で あ り最 も普 及 し て い るPCR法 が 広 く用 い られ て き た 。 し か し、 最 近 、 PCR法 と は 異 な っ た 原 理 の 核 酸 増 幅 法(TMA法 、SDA法)が 使 用 可 能 と な っ た 。PCR法 で は 、 近 年 増 加 傾 向 に あ る 、 感 染 源 と して の 咽 頭 の 淋 菌 を検 出 す る場 合 に 、 口 腔 内 の 非 病 原 性 ナ イ セ リ ア属 を検 出 し、 偽 陽 性 の 結 果 と な る可 能 性 が あ っ た 。 しか し 、 新 規 の 検 出 キ ッ トで は 、 淋 菌 の み を検 出 可 能 で あ り偽 陽 性 の 可 能 性 が 無 い 。 さ ら に 、 検 出 感 度 に お い て もPCR法 を上 回 る基 礎 的 実 験 結 果 が 報 告 さ れ て い る 。 こ れ らの 新 規 の 検 出 キ ッ トは 検 出 の 精 度 を高 め 、 よ り正 確 な 診 断 へ と導 く可 能 性 が 期 待 され る 。 特 に 、TMA法 で は 、 偽 陰 性 の 原 因 と な る 増 幅 阻 害 物 質 を増 幅 反 応 前 に 除 去 す る 方 法 、 同 一 温 度 でRNAの 増 幅 反 応 を行 う遺 伝 子 増 幅 法 、 淋 菌 と ク ラ ミ ジ ア ・ トラ コ マ テ ィ ス を 同 一 検 体 か ら 同 一 の 試 験 管 内 で 同 時 に か つ そ れ ぞ れ 単 独 に 検 出 し判 定 す る方 法 と い う画 期 的 な い くつ か の 方 法 の 組 み 合 わ せ に よ り非 常 に 有 効 な 検 出 法 と して 期 待 され て い る 。 本 シ ン ポ ジ ウ ム で は 、 こ のTMA法 を 含 め た 核 酸 増 幅 ・検 出 法 の 臨 床 研 究 の 解 説 と共 に 、 核 酸 増 幅 法 の 問 題 点 に つ い て も述 べ た い 。360 (138)
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SY15-3)性
器 ヘ ル ペ ス とHPV感
染 に対 す る 新 治 療 と子 宮 頚 癌 予 防 ワ ク チ ン
笹川
寿之
金沢大学大学 院医学系研究科 ・保健学専攻
性 感 染 症 の な か で 、 ウ イ ル ス 感 染 は 取 り扱 い に 苦 慮 す る こ と が 多 い 。 ウ イル ス は細 胞 に寄 生 す る た め に 、 有 効 な治 療 薬 が な く、 免 疫 を 回 避 して 潜 伏 す る た め に不 顕 性 感 染 しや す い か ら で あ る 。 単 純 ヘ ル ペ ス 感 染 は 、 一 度 感 染 す る と神 経 の 根 元 に 潜 伏 感 染 し、 体 調 の 悪 化 に 伴 っ て 、 再 度 現 れ て 痛 み を伴 う皮 膚 潰 瘍 を形 成 す る 。 この よ う な再 発 性 の ヘ ル ペ ス に 苦 しむ 患 者 に 対 して 、 再 発 予 防 化 学 療 法 は 朗 報 と な っ て い る 。 ヒ トパ ピ ロ ー マ ウ イ ル ス(HPV)も 性 感 染 す る ウ イ ル ス で あ り、 外 陰 部 尖 圭 コ ン ジ ロ ー マ の 原 因 で あ る 。 自 己 の 免 疫 力 を 高 め 治 療 す る 薬imiquimodが 登 場 し、 新 し い 治 療 へ の 道 が 開 か れ た 。 一 方 、 女 性 の 子 宮 頸 部 や 膣 内 に 感 染 す る 多 くのHPVタ イ プ が あ り 、 子 宮 頸 癌 の 原 因 と な る 。 癌 を誘 発 す る これ らの 高 リ ス ク型HPVは 、 女 性 性 器 の 性 感 染 症 の 中 で 最 も頻 度 が 高 い 感 染 症 で あ る こ と が 、 最 近 知 られ て き た 。 ほ と ん ど が 不 顕 性 感 染 す る た め に 、 そ の 存 在 は 知 られ て い な か っ た 。 婦 人 科 を 受 診 し た10歳 代 女 性 の 約5割 、20歳 代 前 半 の3割 に 高 リス ク型HPV感 染 が 発 見 され る 。 子 宮 頸 癌 や そ の 前 癌病 変(CIN3)の 治 療 は 手 術 が 主 体 で あ る が 、HPV感 染 病 変 やCIN1-2な ど のsubclinicalな 病 変 に対 し
て 現 在 、 治 療 は な さ れ て い な い 。 これ らの 病 変 に対 す る簡 単 な 治 療 法 につ い て 紹 介 す る 。 20歳 代 後 半 か ら50歳 代 ま で の 若 い 女 性 に お い て 、 子 宮 頸 癌 死 亡 率 が 増 加 して い る 。 早 い 時 期 の 性 交 渉 開 始 は子 宮 頸 癌 の 発 症 年 齢 を早 め た と考 え られ る 。 と こ ろ が 、 日本 で は 若 い 女 性 の 子 宮 頸 ガ ン検 診 受 診 率 は 非 常 に低 く 、 これ か ら益 々 若 年 頸 癌 が 増 加 す る と考 え られ る 。 欧 米 で はHPV16,18型 に 対 す る感 染 予 防 ワ ク チ ン を接 種 す る試 み が始 ま りつ つ あ る 。 この ワ ク チ ン に よ っ て 若 年 頸 癌 が 大 幅 に 減 少 す る可 能 性 が あ る 。 こ の ワ ク チ ンの 意 義 と現 状 に つ い て 述 べ る 。
白井
千香
神戸市保健所予防衛生課
は じめ に 若 年 者 の 性 意 識 ・性 行 動 につ い て は 、 当 事 者 の 若 者 の 声 や マ ス コ ミの 情 報 か ら 、 必 ず し も性 感 染 症 予 防 を意 識 して い な い こ とが わ か る 。 厚 生 労 働 科 学 研 究 な どの 結 果 か ら性 器 ク ラ ミジ ア感 染 症 は 高 校 生 の 年 齢 で の 感 染 率 が 高 く、 届 出 指 定 医 療 機 関 か らの 感 染 症 発 生 動 向 調 査 に よ っ て も 、15∼20代 前 半 の 罹 患 報 告 が 目立 つ 。 若 年 者 の 性 感 染 症 に 対 す る予 防 行 動 の 現 実 は ど う で あ ろ う か 。 一 方 、HIV感 染 症 の 広 が りが 懸 念 され 、20∼30代 の 発 生 報 告 は増 加 して い る。 目的 HIV感 染 症 を含 む 性 感 染 症 予 防 の 対 象 を 中高 生 と し、 学 校 で の 性 教 育 と の 連 携 や 地 域 で の 支 援 を 考 え る必 要 が あ る。 そ の 方 法 の い くつ か を考 え、 実 施 例 を紹 介 し、 予 防 啓 発 の あ り方 を考 え る一 助 とす る。 啓 発 方 法 の 紹 介 神 戸 市 で の 思 春 期 ヘ ル ス ケ ア事 業 を紹 介 し、 予 防 啓 発 の 方 向 性 を示 す 。 (1)性教 育 の 中 で 、 性 感 染 症 を 思 春 期 の 健 康 問 題 お よ び 人 権 問 題 と し て 認 識 す る 。 (2)感染 症 予 防 の 考 え 方 を伝 え る 感 染 リス ク を知 っ て 、 予 防 行 動 を と る(Safer SEX)。 自 分 の リ ス ク ア セ ス メ ン トを す る。 早 期 診 断 ・治 療 は二 次 感 染 予 防 に つ な が る 。 (3)地域 で の 協 働 と して 、 疾 病 対 策 を超 え た 課 題 につ い て 目 的 の 共 有 を は か り 、 世 代 や 組 織 を 超 え て 取 り組 む 。 ま と め 学 校 と連 携 した 性 感 染 症 予 防 教 育 を 基 本 と して 、 中 高 生 に は 自 ら の 生 き方 を 考 え る き っ か け をつ く る こ と が 大 切 で あ る 。 医 療 保 健 従 事 者 、 教 育 関 係 者 が 性 感 染 症 対 策 に 効 果 的 に 係 わ る た め に 、 予 防 ・ 治 療 い ず れ の 役 割 に お い て も共 生 の 環 境 整 備 が 必 要 で あ る 。362 (140)
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