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JVRSJ Vol. 26 No. 1 Mar. 2021
日本バーチャルリアリティ学会誌第26巻 1 号2021年 3 月
1 .はじめに
このコーナーでは主に国際留学について語られる事が
多く,今回の話は国内研究室留学のため,若干特殊な
ケースかもしれません.そのため,国際的な文化の違い
などを楽しんで読まれていた方々には先に断りを入れさ
せて頂きます.しかしページを飛ばす前にちょっとだけ
読んで頂けると大変嬉しく思います.
今回の留学では,日本 VR 学会ハプティクス研究委員
会および SICE 触覚部会による国内留学サポートを受け,
名古屋工業大学田中由浩先生の元で 2 週間滞在させて頂
きました.ご支援を頂いたこと,先生方,触覚部会の
方々には大変感謝致しております.
2 .留学の目的
今回の留学の目的は 2 週間ぶっ通しで実験を行う事が
目的の留学だったので目的はかなり明確でした.実験な
んて自分の研究室でやればいいじゃないか,という声も
聞こえてきそうですが自分の研究室にそういったリソー
ス(実験に使うデバイスなどの物理的,実験方法などと
いった知識的なものを含めて)がない場合もあります.
そういったときに国内研究室留学はとても有り難いもの
となります.実験装置についてはお借りして,実験の目
的に沿うような動作が実行できるようにするだけで済み
ます.装置を作るまでが研究という考えにも一理ありま
すが,拝借できる場合にはその恩恵を受けたほうが圧倒
的に早く研究を進めることができます.また,実験の手
法についてもその分野に詳しい先生方,学生方に直接手
ほどきを受けることができます(もちろん事前に自分で
実験設計をしたうえで,何度かミーティングを挟んで手
法のブラッシュアップを重ねております).
ワクワク留学体験記
Memoirs of a Waku-waku Study Abroad
広島大学
岸下 優介
名古屋工業大学
図 1 .実験風景 ▼
3 .国際留学との違い
大体の違いは想像つくかもしれませんが,国際留学と
の違いを簡単に説明させて頂きます.大きな違いとして
挙げられるのは「費用」と「文化・言語への順応」だと
思います.
3. 1.費用
まず,時差も無く,環境の違いに慣れる必要もないた
め期間を絞って行くことが可能になります.更に物価の
違いももちろん無いので,費用については圧倒的に安く
済み,事前に大学の宿泊施設を予約して頂いたため宿泊
費もかなり抑えられました.
また,今回の目的は実験の遂行だったため研究室留学
をする前に, 2 ~ 3 回出張させて頂いて機器の調節の時
間に当てました.この事前に出張できるというのも,国
内ならではです.
3. 2.文化と言語
当たり前ですが,日本語で日本文化です.今回行った
実験は,今まで自分がやったことがないものだったので,
被験者への手順の説明を日本語でできるという心理的負
担はとても大きかったです.更に,文化のバックグラウ
ンドが異なる場合というのが一番厄介なものになると思
います.というのも,文化が異なると自分が常識だと
思っていたことが相手にとっては異なる場合が存在しま
す.特に私の場合だと,人の感覚的な要素について探っ
ていく心理物理実験だったため,聞き方によっては全く
違う回答を導いてしまう可能性があるためです.母国語
で喋れる環境だと,そこらへんの細かいニュアンスを
しっかり説明できる分,実験をスムーズに進められます.
4 .実際どうだったのか
実験も予定通りスムーズに進んで,想定していたよりも
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早く終わりました,なんて言えると良かったのですが実
際はそんなことはありませんでした. 2 年経った今でも
ひたすらしんどかった記憶が鮮明に浮かびます.ただこ
れだけは言いたいのが,実験を行うに当たって事前に被
験者を募集して集めて頂いた田中先生には本当に感謝し
てもしきれません.
何がしんどかったかと言うと,まず時間的な拘束でし
た.被験者一人あたり 4 時間近くかかる実験で,期間も
絞っていたため 1 日あたり 2 人行いました.つまり, 1
日 8 時間は実験に張り付きっぱなしで,それが 2 週間続
きます.実験が壊れないようにずっと気を張りますから
8 時間の実験はかなりこたえました.もちろん,被験者
も 4 時間拘束されるため辛いです.最後の方は私も意識
が朦朧としながら実験を行っていました.
そして,被験者の洗礼を受けました.まず一人目の実
験で,実験をしながら寝られました(もちろん,この
データは論文には載せてません).自動車のハンドリング
に関する実験だったため,まさに居眠り運転です.確か
に心理物理実験では数百回同じ動作を繰り返すので,退
屈で眠気がくるのもわかりますが,さすがに一人目でこ
れだと心が折れかけました.
5 .国内留学で得られたもの
もちろん,実験データを得ることができました.更に
この実験データを使って論文を執筆し,無事にアクセプ
トを頂くことができました.つまり,この名古屋工業大
学への国内留学を実施したおかげで博士課程を卒業でき
たと言っても過言ではりません.
ただ,今回の留学で得られた何よりも大きいものは研
究室の文化の違いを知れたことだと思います.どうして
も自分の研究室が全ての基準になってしまいがちですが,
他の研究室に数週間だけでも属することで色々な視野が
広がります.それは先生方の学生に対する接し方であっ
たり,学生方の研究への向き合い方であったりなど様々
です.特に今回だと先生方が学生の実験に積極的に顔を
出しており,自分の研究に対する愛と学生への気配りを
非常に感じました.それと同時に,私もこうありたいな
とモチベーションをもらうことができました.
6 .まとめ
今回は国内留学について書かせて頂きました.国内留
学は費用もかからず,文化の違いもないため金銭的・肉
体的・精神的にも気軽に行くことができます.上記で挙
げた要素に対して順応する必要もないため,期間を短く
したとしても,しっかりと意義のある留学にすることが
可能です.
特に今回の留学の目的は実験の遂行で,実験環境を構
築させてもらい, 2 週間ぶっ通しでそこに全エネルギー
を集中させる状態にしたことで,より中身の濃い国内留
学にできたことと思います.しんどいしんどい言ってま
すが,事前にしっかり実験のオートメーション化を図っ
ておけば恐らく避けられると思います.被験者の居眠り
はちょっと避けようがありませんが.
また,そこで得られる知見,特に他の研究室に属する
ことで知る研究室の文化は後々の研究姿勢に非常に良い
影響を与えてくれます.もちろんこれに関しては,国際
留学の方がもっと大きな影響を与えてくれることかと思
います.もし,国際留学で少し躊躇しているようであれ
ば,一度国内研究室留学に行くことでそれを足がかりに
してみてはいかがでしょうか.
略 歴
岸下 優介(KISHISHITA, Yusuke)
広島大学工学部・広島大学院工学研究科博士課程(生体シス
テム論研究室)を修了。現在は Global Walkers 株式会社に
所属.