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巻頭言

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Academic year: 2021

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巻 頭 言

平成 25年 9月 19日は,中秋の名月が夜空に白光鮮やかに映えた。兼好も「秋の月は限 りなくめでたき物也。「いつとても,月はかくこそあれ」とて,思ひ分かざらむは,むげ に心憂かるべきことなり。」(『徒然草』第 212段)と秋の月の美しさを強調している。 八月十五夜の観月は,平安時代には重要な年中行事であった。菅原家では観月の詩会を 催した。『菅家文草』に十五夜の詩が多く載る(『菅家文草 菅家後集』(日本古典文学大系 72 岩波書店 1966年 10月 153451頁他)。その後,この行事は宮中に入り,その様子が『栄花 物語』に知られる。村上天皇の康保 3年(966)の月の宴では,清涼殿の庭に美しい前栽 を植えて,州浜(浜辺に似せた台に花鳥木石などの景物を盛り合せたもの)を絵に描いて月 下に鑑賞しつつ,和歌管弦の遊びを夜更けまで行った(『栄花物語全注釈 1』(角川書店 昭 和 44年 8月 120頁))。 『源氏物語』「鈴虫」には,「月見るよひの,いつとても物あはれならぬ折はなき中に, こよひの新たなる月の色には,げになをわが世の外までこそよろづ思ながさるれ。」(『源 氏物語 4』(岩波書店 1996年 3月 77頁))という,名月に故柏木を想う源氏の言が載る。「いつ とても月見ぬ秋はなきものをわきて今夜のめづらしきかな」(後集秋中藤原雅正)を 引歌とし,『白氏文集』14の「三五夜中新月色 二千里の外故人の心」に拠る。 秋の月に関する日本古典和歌を 10首挙げてみたい。 「木の間よりもりくる月の影見れば心づくしの秋は来にけり」 (古今集秋上よみ人しらず) 「白雲にはねうちかはし飛ぶ雁のかずさへ見ゆる秋の夜の月」 (古今集秋上よみ人しらず) 「秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさ」 (新古今集秋上藤原顕輔) 「秋の夜の月に心のあくがれて雲居に物を思ふころかな」 (詞花集秋花山院) 「月ごとに見る月なれどこの月の今夜の月ににる月ぞなき」 (続古今集雑上村上天皇) 「よものそらひとつひかりにみがかれてならぶものなき秋のよの空」 (拾遺愚草藤原定家) 「峯のあらしうらの浪かぜ雪さえてみな白妙の秋のよの月」 (拾遺愚草藤原定家) 「かぎりなく名残をしきは秋の夜の月にともなふ曙の空」 (山家集西行) 「見ればげに心もそれになりぞ行くかれのの薄有明の月」 (西行上人集雑西行) 「思ひおくことぞこの世に残りける見ざらむあとの秋の夜の月」 (兼好自家集兼好) (『新編国歌大観』(角川書店)に拠る。漢字,平仮名,濁点は私意。) 平成 25年 9月 19日,観世会館で世阿弥作の『融』を拝見した。初冠狩衣指貫出立の源 融の霊(後ジテ)が中秋の名月の下,懐旧の舞(早舞)を華麗に見せる。終了後,装束の 間で能面装束鬘帯扇などの解説をして戴いたのち,外にでて眺めた夜空に浮かぶ満 月は殊更印象深いものであった。 (齋藤 彰)

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