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《修論報告》協働的な創造につながる古典的文学の授業

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Academic year: 2021

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(1)横浜国立大学国語教育研究 No.45(2020) 《修論報告》. 協働的な創造につながる古典的文学の授業 岩田晴之 1、背景と目的. 第3章. 次期高等学校学習指導要領(以下新学習指導要領). 古典的文学を扱う実験的授業の解析. 第1節. 高畑勲『かぐや姫の物語』と『竹取物語』. では、必履修科目「国語総合」が廃止となり、 「現. を比較する授業. 代の国語」と「言語文化」各2単位の2科目が必履. 第2節. 修とされる。「言語文化」という科目名称は、教材と. で語り合う授業. 夏目漱石『こころ』の映画化企画を SNS. 3、内容. なる作品の成立年代で科目を区分するのではないこ とを示している。本論でも、従来の古典文学に近代. 第1章では過去から現代にいたる学習指導要領を. 文学の定番教材を含めて古典的(classic)文学ととら. 中心に高等学校のカリキュラムを概観した。その中. える。生徒に日常との隔たりを感じさせるこれらの. では、古典 (1)作品や文学作品が人格形成のための教. 文学を教材として扱う際には、その学びが育成する. 養であると考えられることが多かった。時代ととも. 資質・能力の明確化が求められる。. に文語の実用性は低くなり、古文・漢文の読解法を. 一方、生徒をとりまく環境はテクノロジーの発達. 教えるだけの授業に対して疑問が投げかけられてい. によりメディアの多様化が急激に進んだ。言語環境. る。古典的文学からの学びを実際に何かのために使. にも大きな変化がみられる。これまで通りの文字を. 用したり、他者に向けて発信したりという面では現. 読むという方法だけで、教科書中にある古典的文学. 代のカリキュラムも課題が多いと考えられる。. 教材に親しむことが難しい面も多くなっている。. 一方、ハーシュ(1989)の「文化常識(cultural literacy)」. 同時に文学作品と人間との関係性も大きく変化し. の考えによれば、言語表現には背景知識の影響が大. たといえる。その作り手と受け手の関係は 20 世紀後. きいことが明らかである。新しい分野の知識を得て、. 半から今世紀初頭にかけて大きく変化している。成. 多様な人々と共感をもってコミュニケーションをと. 人後の長く多様な人生に、文学がどう関わるかを想. っていくためにも、知識の共有は大きな働きをする。. 定するのもたやすくはない。. これらを多く含む古典的文学からの学びは今後も重. 本論の目的は、これまで単純に知識・理解や読解. 要な意味を持つといえる。. の力を培うことが主な目的と考えられてきた古典的. 第2章では、古典的文学学習の「使用価値」(2)の一. 文学の学習が、21 世紀を生きる生徒たちにも役立つ. つとして、協働的な創造について考察した。. 価値を持ち、特に、協働的な創造のための資質・能. まず、生徒たちが自分たちの時代のものと感じる. 力の育成にもつながることを明らかにすることであ. 文化について概観した。大塚(2001)、岡田(1996)、斎. る。. 藤(2000)、千田(2018)の言説から明らかなのは、1980. 2、構成. 年代以降のポップカルチャーの分野で、受容と創造. 第1章. の様相がそれ以前とは著しく変化していることであ. 国語教育における古典的文学への認識. 第1節. 新学習指導要領における古典的文学の位. る。この時代の文化は、テクノロジー進化等の時代. 置づけ 第2節. 的特質を表しながらも、他の時代の文化と断絶した 国語教育史にみられる古典的文学を学ぶ. 異質なものではない。古典的文学から現代のポップ. 目的. カルチャーに至る物語またはコンテンツの連なり. 第3節. 「文化常識(cultural literacy)」として古典. は、文化として連続したものと考えられるのである。. 的文学を考える 第2章. ゆえに学びの場においても同じ視点での授業デザイ. 現代における協働的な創造. 第1節. ポストモダン世代における創造. 第2節. 協働的な創造をあつかう現代の学習. ンが可能だと考える。 次に、創造に向かう際に求められるスキルとして 協働の重要性を考察した。ジェンキンス(2009)が「参. 47.

(2) 横浜国立大学国語教育研究 No.45(2020) 加型文化」の時代と主張する現代には、参加者に助. 的に与える授業が批判される。しかし、「文化常識」. 言をし、協働して創造に向かうためのリテラシーが. の検討で明らかなように、教養的知識を得ることは. 大切であることがわかった。また、エンゲストロー. 重要なことである。そういう知識を増やすこと、従. ム(2008)らによって提唱された「第三世代活動理論」. 来の学びも安易に否定することはできない。幅広い. を援用すると、学習者は閉ざされたコミュニティー. 古典的知識を与えつつ、同時にその「使用価値」を. にとどまるのではなく、拡張して異なるもの出遭う. 実感できる授業デザインやカリキュラム設定が必要. ことから、協働的に学び、創造に向かうと考えられ. と考える。. る。. ※注記. 現代における協働的な創造の様相につながること. ⑴ 本稿において「古典的」ではなく、単に「古典」. を念頭において、古典的文学による授業デザインは. と述べる場合には従来の科目としての「古典」に. なされるべきである。. 含まれる文学作品を想定しており、それは「古典. 第3章では、古典的文学を教材とする実験授業を. 的文学」の一部であると考える。. 報告し、それらの中に生徒が協働的な創造につなが. ⑵ エンゲストローム(2008)は、学校には「労働市場. る価値を見出すことが出来たかどうか、その様相を. における生徒の将来の価値を決定する成功のし. 分析した。. るしをえるため」のテクストと「学校外の社会に. 高畑勲『かぐや姫の物語』を『竹取物語』と対比さ. 対する自分自身のあり方を打ち立てるための生. せる授業では、アニメ制作者が古典作品の余白に新. きた道具ともなる」テクストがあり、これは資本. しい作品制作の契機を得ていること、その他にも古. 主義経済における商品の「交換価値」と「使用価. 典からのリソースを表現に用いていることを指摘し. 値」の二重性に根ざしていると考えている。. た。生徒は、自身と同時代の作品が古典文学への深. 5、主な参考文献. いアプローチを契機として作られたことを知り、同. 東浩紀, 『動物化するポストモダン オタクから見た日本. 時に古典への理解が深まると現代の作品をより深く. 社会』, 2001, 講談社現代新書. 受容できることも学んだ。. 大塚英志, 『定本 物語消費論』, 2001, 角川書店. 夏目漱石『こころ』の映画化企画を SNS で交換す. 岡田斗司夫, 『オタク学入門』, 1996, 太田出版, 文庫. る授業では、物語のモードを変換して再話するとい. 版, 2000, 新潮社. う現代的な創造を想定したアクティビティーを行っ. 斎藤環, 『戦闘美少女の精神分析』, 2000, 太田出版,. た。生徒は SNS で学校外の他者と交流し、自分たち. 文庫版, 2006, 筑摩書房. の企画へのさまざまなコメントを得た。このことか. CCR, 『21 世紀の学習者と教育の4つの次元 知識,ス. ら生徒は、古典的文学『こころ』の学びによって他. キル,人間性,そしてメタ学習』, C.Fadel 他. 者との対話ができたという実感を得、その対話が、. 砂川誠司,「「参加型文化」論からみたメディア・リテラシ. もう一度本文を読んで解釈を深めたり、新しい企画. ー教育の提唱 Henry Jenkins(2009) Confronting the. を思いついたりという新たな創造につながっていっ. Challenge of Participatory Culture を 中 心 に ー 」 ,. た。古典的文学『こころ』からの学びが、他者と対話. 2010, 広島大学大学院教育学研究科紀要 第二部. し、協働して、新たな創造に向かう意欲や糸口を得. 第 59 号, p133-140. るために役立ったと言える。生徒たちは古典的文学. 千田洋幸, 『危機と表象 ポップカルチャーが災厄に遭. からの学びに「使用価値」を見出したと考える。. 遇するとき』, 2018, おうふう. 4、 成果と課題. E.D.ハーシュ(Hirsh), 中村保雄訳, 『教養が国をつく. 本論では、古典的文学からの学びによって協働的. る。アメリカ建て直し教育論』, 1989, TBSブリタニカ. な創造に向かう資質・能力を得る授業のデザインを. 羽田潤, 『国語教育における動画リテラシー教授法の研. 検討してきた。それによって古典的文学の授業の一. 究』, 2008, 渓水社. つの「使用価値」を示すことができたと考える。. 浜本純逸,『国語科教育論 改訂版』, 2006, 渓水社. 課題として考えられることは、現実の授業デザイ. 山住勝広 ユリア・エンゲストローム 編,『ノットワーキング. ンやカリキュラムにある。昨今は客観的知識を垂直. 結び合う人間活動の創造へ』, 2008, 新曜社. 48.

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