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ウズベキスタンにおける聾学校への教育開発支援の試み:予報

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Academic year: 2021

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(1)121. 学校教育学研究,2007,第19巻,pp,121−127. ウズベキスタンにおける聾学校への教育開発支援の試み:予報 鳥 越 隆 士 (兵庫教育大学). 本報告は,ウズベキスタンの聾学校への教育開発支援の試み(4年間の科研プロジェクト)の第一報である。まず支援の方 途を探るため,聾学校調査を実施した。授業観察と関係者へのインタビューにより,生徒の生活場面では手話が豊富にある こと,指導の場では指文字や発音が重視され,手話の活用が十分になされていないこと,手話の活用のためには教師の手話. 技能や知識指導のあり方など実践全般に関わる改善が必要であることなどが明らかにされた。これをもとに今後の支援の あり方について議論した。. キーワード:聴覚障害児教育,国際協力,手話,ウズベキスタン 鳥越 隆士:兵庫教育大学臨床健康教育学系・教授,〒673−1494兵庫県加東市下久米942−1,E−mail;todgoe@hyogo−u.acjp. An Attempt of Support of Educational Development in a School       fbr the Deaf in Uzbekistan:APreliminary Report        Takashi Torigoe (C1’η∫cα乙召セα肋αη45動θdα13卿0πEo勉。α’∫oη).  The present paper described in preliminary an attempt to support the development of education fbr the deaf in Uzbekistan. The authors observed the classroom activities and interviewed the teachers of a school fbr the deaf The results showed that deaf children had a rich signed language environment at a Iiving level, though their teachers did not use it at a learning level, just putting an ernphasis on 負nger−spelling and oral skills, and that certain changes of teacher’s instruction a賃itude and skills of signed. language were needed, Finally, we discussed蝕ther suppo質to the development of education in this co㎜仕y.. Key Words:Education fbr the dea£Intemational Cooperation, Signed language, Uzbekistan.  Takashi Torigoe:Clinical, Health and Special Support Education, Hyogo University of Teacher Education,942−l Shimokume, Kato−city, Hyogo 673−1494 Japan. E−mail=torigoe@,hyogo−u.acjp.

(2) 122. 学校教育学研究,2007,第19巻. 1−1 はじめに. 語(トルコ語系の言語)が公用語となっている。ただも.  開発途上国への教育分野での支援が求められている. ともとソ連邦の一部であったため,ロシア語もよく使用. (黒田・横関,2005;内海,2001)。障害児教育分野での. されている。宗教は,イスラム教くスンニ派)が主流。. 協力・支援については,日本は特に経験が浅い。文部科. 日本との関係で言えば,ウズベキスタンにおける2国間. 学省は,障害児教育分野は教育開発支援における,これ. 援助では,日本が最大の援助供与国となっている(国際. から取り組むべき重要な分野の1つとして位置づけてい. 協力事業団,2001)。. る(文部科学省,2002)。本研究は,障害児教育分野,.  本報告者は,2002年度から3年間国際協力機構. とりわけ聴覚障害児教育での教育開発支援の取り組みを. (JICA)の短期専門家として,ウズベキスタンの開発福. 行うものである。. 祉支援に関わった。この案件では,成人聴覚障害者が主.  聴覚障害に関わる開発支援の経験としては,例えば,. たる対象であったが,関連して聴覚障害児教育について. JICA(国際協力機構)が,障害者リーダーシップ研修. も現地調査を行った。以下,その調査で得た内容の概略. を長年実施している。これは日本にアジア太平洋地域の. を示す。. ろう者本人を招聰し,およそ2ヶ月問の研修を行うもの.  ウズベキスタンでの聾教育(難聴児への教育も含め). である(ろう者のための指導者研修,1995年より実施し. は,聾学校が担っている。全国に聾学校が13校。また聾. ている)。また現地での支援の経験では,青年海外協力. 学校の外,難聴学校が5校ある。. 隊による支援の他,医療分野で,たとえば,障害者リハ.  101聾学校は,タシケント市の中心部にある聾学校で. ビリテーションセンター支援の一環として言語聴覚士の 派遣などが行われてきた(国際協力機構,2003)。いず. ある。生徒数は200名程度。180人ほどが寄宿舎生活をし. れにしてもそれらの支援は断片的であり,また経験の詳. ている。また生徒はウズベク語のグラスとロシア語のク. 細な記述・蓄積が十分でないため,教育支援に関わる理. ラスに分かれている。. 論的な検討や一般化・普遍化に向けたモデル構築などが.  校長の話によると,旧ソ連邦の時代は主として手話を. 難しい。このような中で,1っの支援活動の実践を詳細. 使用しない教育が行われていたが,独立前から少しずつ. に記録し,その過程や成果について検討することは,こ. 手話を導入する試みがなされるようになった。また校長. の分野での今後の支援を進めていく上において重要な礎. の話では,教師はみんな手話ができる,できないと子ど. となるであろう。. も達が教師を見ないということであったが,授業をいく. ある。プレスクールと1年生から11年忌までの12学年が.  本著者は,過去に開発福祉分野の枠組みでウズベキス. つか見学すると,教師の手話レベルは様々であった。手. タンでの聴覚障害者支援に取り組んだ経験を持つ(鳥越,. 話を流暢に使っている教師もいたが,全く使っていない. 2005)。これを契機にウズベキスタンで引き続き聴覚障. 教師もいた。手話を使っていても,指導場面では総じて. 害児教育に関わる開発支援に取り組んでいる。具体的に. 口話併用であった。また補聴器は高価なため装用してい. は,ウズベキスタンの聾学校教員や教育大学の研究者と. る子どもはあまり見かけなかった。いくつかの教室に集. 聾学校の教育実践に関わる共同調査研究を行っている。. 団補聴器の設備はあった。授業形態は教師主導の指導が. 4年間のプロジェクトで,最終的な目標は途上国におけ. 中心で,机の配置も前後2列に並べられていたりして,. る教育開発支援のモデルの構築にある。本報告はこの取. 子ども同士の対話を利用した授業はあまり見られなかっ. り組みの第一報である。ここでは,これまで取り組んだ. た。. 活動をできるだけ具体的に記述し,その時々で援助者が.  タシケントには聾学校の外,難聴学校が2校ある。ウ. 考えたこと,感じたことも含め,エスノグラフィーの手. ズベク語が使われている102学校とロシア語が使われて. 法(佐藤,1992;箕浦,lg99)を用いて質的に分析を行. いる106学校である。いずれも生徒数が300人弱。多くが. いたい。さらに,これをもとに今後の障害分野における. 寄宿舎に入所している点は聾学校と変わりがない。手話. 教育開発支援のあり方について考えたい。. が使われている授業もあった。聾学校か難聴学校かの就 学先の決定は,国の判定委員会が行い,およその基準は. 1−2 これまでの経緯. 聴力レベルが80dBということだった。ただ地方には難.  ウズベキスタンは,中央アジアに位置する。かっては,. 聴学校がわずかなため,難聴児も聾学校に就学するとの. シルクロードで栄えたと伝えられているが,19世紀より. ことだった。. ロシ.ア帝国の支配を受け,1920年代に旧ソ連邦の一部と.  地方の聾学校も視察した。フェルガナ地方ナマンガン. なった。およそ10年前(1991年),ソ連邦の崩壊ととも. にある聾学校は生徒数が260回戦どであった。中には聴. に独立を果たすが,現在経済的に困難な状況にある。人. 力レベルが60dBほどの中等度の難聴児も含まれていた。. 口はおよそ2,490万人。民族構成は,ウズベク人69%,. 聴力レベルの程度により,クラス分けを行っていた。教. ロシア人11%,タタール人4%である。言語はウズベク. 育言語はウズベク語で,ロシア語は外国語として教えら.

(3) ウズベキスタン聾学校への教育支援. 123. れているとのことであった。この聾学校もプレスクール. 市部に限られているが,高等部段階の教育が行われてい. と11年生までの12学年があるが,特徴的なことは,上級. る。. の学年に行くにしたがい,生徒数が減少していることで.  以上が,2002年度から3年にわたって短期専門家とし. あった。校長によると,事情は様々であるが,何人かの. て派遣された間に調査した聴覚障害児教育に関する概要. 女子生徒が結婚のため退学したとのことであった。地方. である。ウズベキスタンの聴覚障害児教育の特徴として. では女性の結婚年齢が低く,親の意向で在学中に結婚す. 次の3点に整理することができよう。まず第1に,聾児. ることになり,退学を余儀なくされることもあるようで. の集団が確保されていることである。集団があるゆえに,. ある。. しっかりとした手話の学習基盤が形成されていると言え.  タシケントには聾児のための幼稚園もあった。3歳か. よう。第2に,教育の専門家(教師など)には手話に対. ら5歳までの幼児50人ほどが在籍していた。寄宿舎があ. する正しい認識がまだ十分に形成されておらず,しかも. り,多くの園児が寄宿生活を行っていた。ここでもウズ. 教師主導の,ややもすると,一方向的な指導形態がよく. ベク語のクラスとロシア語のクラスが分かれていた。訪. とられていた。したがって教科指導や言語指導において,. 問したとき,4∼5人ほどのクラスに分かれて,授業を. 児童・生徒たちが持っている手話の力を十分に活用でき. 受けていた。担当教師によると,遊び活動も行うとのこ. ていないこともあげられよう。第3に,先進諸国のよう. とであったが,集団補聴器を利用して発音の学習を行う. に補聴器などのテクノロジーを活用した教育環境が整っ. ことが中心のようであった。授業では手話は使用してい. ていないことである。先進諸国においては,これら高度. なかった。ただ日常の生活や集団の中では手話を使って. テクノロジーを活用した教育実践がそれなりに蓄積され. いるとのことであったQ. ているが,経済的な理由により,それをそのままウズベ.  聾学校の教師を養成する部門が,タシケント教育大学. キスタンの聴覚障害児教育に適用することは困難であろ. にある。カリキュラムの中に手話の授業を少しずつ取り. う。聾児の手話環境が確保されており,また成人聾者も. 入れているようだ。手話の授業を担当している教員で,. 社会を形成,その中で手話がしっかりと伝承されている. 本調査の協力者のZu㎞la Islambekova氏の話によると,. ことから,社会資源として存在している手話を活用する. 手話に対する学生の人気は高いようである。4年問に80. 手立てが,当面ウズベキスタンの聴覚障害児教育におい. 時間の手話(指文字も含む)の授業があるとのこと。た. て重要な役割を担うと考えられた。. だテキストもなく,教材も整備されておらず,担当の教 員は暗中模索で指導をしている。ビデオ教材などの学習. 1−3 本研究のめざすもの. 教材を作りたいとの意欲はある。.  本研究は,「途上国における特別支援教育開発の国際.  どこの聾学校(難聴学校)に行っても,在籍生徒数が. 協力に関する研究」(科学研究費基盤研究(A)海外学. 多く,また多くが寄宿舎で生活し,聾児集団が形成され. 術調査;研究代表者:中田英雄;実施期間:平成17年度. ていた。このような土壌が手話言語をしっかりと育成し. ∼平成20年度)の一部として実施された。この中で本馬. ているのだろう。障害をもった子どもたちが通常の学級. 誉者の研究グループ(ウズベキスタン班)は,ウズベキ. で教育を受ける,いわゆる「インクルージョン(統合). スタンの聴覚障害児教育に焦点化し,途上国における聴. 教育」という考えはほとんど聞かれなかった。障害があ. 覚障害児教育の国際協力モデルの構築をめざしている。. ると,たとえ難聴であっても,特別の学校に就学すると. 具体的には,現地の研究者,教育関係者ともに,ウズベ. いう,「分離教育」がウズベキスタンの基本的な教育政. キスタンの聾学校での教育実践を見直し,課題を整理し,. 策のようである。. 改善を試みながら,また同時に教材等の共同開発も行い.  ちなみに就学年限も聾学校と通常の学校では異なって. ながら,そのプロセスを理論化,一般化しっっ,国際協. いた。一般の児童生徒は義務教育が小学校と中学校を合. 力モデルの構築を行う。まず第一年度の活動として,本. わせた9年間であるが,聾学校では2年延長され11年で. 報告者は,2005年12月13日から23日までウズベキスタン. ある。そのために高校にあたる教育が抜け落ちてしまっ. での現地調査を行った(日程については巻末資料を参照. ている。なぜなら国による教育への支援は,18歳までが. のこと)。聾学校での教育実践をより深く理解するため. 原則。聾学校での教育期間が延長されているため,高校. に,授業の参観とともに関係者と意見交換を行った。. に入学する時期になると,すでに多くが18歳を過ぎてし まっているということである。結果として,聾教育には. 2 ウズベキスタン聾学校調査. 高校に当たる後期中等教育がない。例えば大学や専門学 校に行きたいと思っても,高校へ行くこと自体が困難な. 2−1 101聾学校の現状. ので,なかなかさらに上の教育を受けるということが難. 本調査地として選ばれた101聾学校及びウズベキスタ. しい。ただし,夜間の聾学校があり,タシケントなど都. ンの聾教育の現況を,学校長とタシケント教育大学ズフ.

(4) 124. ラ・’. 学校教育学研究,2007,第19巻. Cスラムベコーバ(Zukhra Islambekova)氏より聴. 取した。. 検査,読話指導など聾学校に特有なものを行う教師25名。. その他,寄宿舎や生活担当のスタッフと称する人たちが.  101聾学校は1924年に設立された。現在,生徒は217人. いる。新卒者はすぐには教師になれない。スタッフとし. で,寄宿舎にはそのうち150人が生活している。土日や. て,1年以上勤め,そのうち優秀な人が教師になるとの. 長期休暇はできるだけ家庭に戻すようにしている(寄宿. ことである。. 舎での生活も可能)。また冬になり,通学が難しくなる.  聴覚障害の発見は,一般に3歳頃。但し多くの場合,. と,寄宿舎に入る子どももいる。全部で26クラスで,各. 聴覚の障害が発見されても,特別な教育がなされていな. 8名から12名となっている。ほぼ1学年2クラスで構成. い。多くは7歳になって初めて聾学校にやってくる。言. されており,ロシア語のクラスとウズベク語のクラスに. 語指導に関しては,0年生で,まず指文字(ダクトロジー). 分かれている。プレスクール(0学年)とll学年合わせ. を教えるとのことである。その他,発音,文字,読み書. て12年間の課程である(一般の学校は9年間なので3年. きなども指導する。. がプラスされている。ただし幼稚園課程を修了したもの.  カリキュラム,学習プラン,配分時間などはすべて国. はプレスクールを経ずに1年生になる)。12年間の学習. で決められている。例えば0年生は1日,1コマ30分が. で,中学校の卒業資格が得られる。0学年は,それまで. 3コマと決められている。聾学校で使っている教科書に. まったく教育を受けていない子どもたちが入る。学校へ. ついては,ウズベク語のものはウズベキスタンで作られ. の入学は,医療の委員会で聴力検査を行った上で決定さ. たが,ロシア語のものはモスクワで作ったものである。. れる。聾学校の入学は聴力レベル80dB以上であるが,. 教材は特に少なく,このプロジェクトでの教材制作への. 生徒たちの聴力レベルは,90から100デシベルが最も多. 期待は大きいように感じた。算数の教科書は,問題が並. い。90デシベル以下は1割もいないとのことである。. んでいて,問題集のような感じであった。ただ一般の学.  ちなみに難聴学校は,2っのグループに分かれている。. 校で使用されている教科書も同じ構成のようである。. 聴力レベル60dB以下の生徒と以上の生徒で,前者はll 年間の課程で高校卒業の証明が得られ,後者は10年間で. 2−2 授業の見学. 中学校の卒業証明が得られる。聾学校,難聴学校ともに.  授業実践の実態をより深く理解するため,小学低学年,. 仕事や結婚のため途中でやめる生徒もいる。そのために. 中学年など,いくつかの授業を参観した。また授業の虚. 夜間聾学校がある。以前はタシケントに2校あったが,. 実長者と意見交換をした(授業はビデオ収録されたが,. 現在は1っ閉鎖で1校のみとのことだ。. ビデオ資料の詳細な分析は別稿にゆずり,以下の記述は.  教科内容は,通常学校のものとほぼ同じである。カリ. 参観時になされたメモ書きによる)。授業中の教師や生. キュラムは国が決めているが,特に低学年では時間をか. 徒の発言は,通訳者により同時通訳された。. けてやっているとのことである。通常であれば1年目終. (1)小学3年(ロシア語クラス)の国語(朗読)の授. わるものを2年くらいかけてやっている。発音(話し方).   業. や読話など,聾学校独自の科目も決められている。これ.  生徒は8人。まず教師が,「天気はどう?今はどんな. らはすべて国語の時間に位置づけられている。音楽など. 季節ですか?」などと生徒にたずねる。生徒は指文字に. は特別の指導内容とのこと。手話に関しての授業もある. よる表現が主。教師も必ず声を出している。手話をした. が,正式の教科ではない。手話は,旧ソ連時代は使って. り,指文字でたずねたり。授業の本題に入る。まず絵カー. いなかった。ただ聾学校では必要であるとの認識があり,. ドを見せる。教師が「女の子が絵を描いています。誰に. 実際には使っていたとのことである。手話は3年前から. 絵を渡しますか?何の絵を描いていますか?」など,絵. は正式に導入された。生徒はウズベク語クラスとロシア. を見ながら発問する。これに対して,生徒が手話を使っ. 語クラスに分かれているが,手話は1つとのことである. たり,指文字を使ったりして答える。ただ「猫です」と. (旧ソ連の国々は1つの手話を使用している)。教師に対. 生徒が手話で答えると,声と指文字で再度表現させる。. して手話の研修も行われている。JICAの援助で行われ. 発音が明瞭な生徒も不明瞭な生徒もいる。絵カードは教. た手話通訳養成プログラムの修了生もおり,そのプロジェ. 科書の文章の内容に沿ったもの。次に教科書の文章を指. クトで作られたテキストで現在も教師の研修で使われて. 文字と声を使って読ませる。絵カード,指文字,手話,. いる。また両親聾の聴の教師が,親向けに手話の講習も. 発音,文と合わせて教えている。文章の内容を絵で表し,. 行っている。聾学校に聴覚障害を持った教師がいるかど. 絵を手がかりに内容を理解させる。. うか聞いた。難聴の体育の教師がいるが,聾者はいない.  授業の中で,よく教師の問いに反応して,声も手話も. とのことであった。. 出る生徒がいる。後で聞くと,彼女は両親が聾とのこと。.  教師の数は,一般の教師(通常の教科の指導担当)50. また,真ん中の女生徒はほとんど手を動かさない。授業. 人,特別の指導,すなわち,個別指導や発音指導,聴力. の内容がわからない様子。この生徒は,軽い知的な障害.

(5) ウズベキスタン聾学校への教育支援. も併せ持っていると言う。. 125. ど,生徒が答え,教師が文字で確認する。それぞれの医.  一緒に文章を読んだ後,読んだ内容を再度,絵,文字. 者の単語の導入(単語カード)。また教師が「この聾学. 単語カードで確認する。教師が内容について質問する。. 校にいるのはどの医者?」とたずねると,「小児科!」. 「犬が何故…  ?」とたずねると,生徒が指文字と声. と生徒が答える。. で答える。「犬はネコと仲がいいですか?」と聞くと,.  授業が終わり,授業担当者と意見交換した。集団補聴. 生徒が首を振る。また絵を見て,その内容が書いてある. 器の役割について聞く。今回のロールプレイでは,集団. 文を探させる。最後に宿題として,文章を読むこと,ネ. 補聴器を使わないことがあったが,同じ内容を別の時間. コのための家を描くことが与えられる。この授業ではノー. に,聴覚を使っても確認するということである。指文字. トをあまり使わなかったが,別の時間にはよく使うとの. が多いようだが,この授業では意識して指文字を使って. ことである。生徒のノートのいくつかの頁を見せてもらっ. いたのかと聞くと,そうだと言う。指文字と発音を結び. た。. つけることを重視している。集団補聴器の機械は60年代.  授業終了後,教師との意見交換を行った。まず教師が この授業の目的や内容,感想を言う。単元のタイトルは 「わがままなネコ」。目的は,文章を読むこと,新しい単. のソ連製で,ボリュームがあるだけ。音質の調整はでき ないようである。. (3)小学3年(ロシア語クラス)の算数の授業. 語の導入,発音指導など。子どもたちは全般的に楽しそ.  7人の生徒。掛け算の勉強。テキストはロシアで作ら. うに勉強していたが,やはりうまく授業に乗っている子. れたもので,問題がずらずらと並べられており,問題集. どもと乗れない子どもがいるのが気になった。また教師. のような形式であった。教師が問題の数式の絵カードを. と生徒との対話形式で進められていたが,生徒同士の対. 見せて,それに答えさせる。例えば,「8×9= 」と か「7×6= 」など。数字で答えさせるだけでなく,. 話はほとんど見られなかった。. (2)小学4年(ロシア語クラス)のスピーチの授業. 指文字でも答えさせる。生徒にノートに式を書かせる。.  生徒は7人。2人が欠席しているらしい。生徒は机の. そこでは,数式だけでなく文字でも書かせる。生徒の中. 集団補聴器を使用している。まず教師が「何の授業です. で,記憶力が弱い子どもが2呪いるという。数式を指文. か?」とたずねる。ここでも生徒は指文字と発音で答え. 1字で表現させると,はじめの方に言ったことを忘れてし. る。手話はあまり活用されていない。導入で生徒と会話。. まうと言う。学習障害か知的な障害があるのだろう。彼. 今日の天気や気候についてたずねる。「今日は寒いです. らは視覚的な認知がすぐれているという。学年が上がる. か?今冬ですか?冬には何がありますか?」などとたず. につれて個人の差が広がっていくが,特に別のクラスを. ねる。生徒は「雪があります」などと答え,対話を進め. つくることはないとのことである。ソ連の時代は,ロ.シ. ていく。よく発言する子(指文字と発音)とそうでない. ア語クラスでも各学年に複数のクラスがあり,能力別の. 子の差が大きいような印象を受ける。. 対応も可能だったが,今は学年に1クラスずつしかない。.  授業の本題に入る。まず絵カードを見せる。店員とか. 人数が少なくなるので別のクラスを作るわけにはいかな. パイロットなど,いろいろな職業の入の絵がある。1っ. い。足りない部分は午後からの個別指導で対応している。. 1つ指さして,その職業を答えさせる。今日のテーマは. (4)小学2年(ウズベク語クラス)の発音の時間. 医者。教師が「ゲームをしよう」と提案する。教師が.  担当者は40年間聾学校で教えているベテランの教師。. 「誰がお医者さんになりますか?」と言って,手を挙げ. 生徒は7人。ここでも,ズフラ氏によると知的障害を持. た男子生徒を前に出させる。彼が医者の役割をする。白. つ生徒がいて,その生徒は教師の問いかけにほとんど答. 衣と帽子を身につける。教師が「医者の道具を知ってい. えられない。まず先回の授業の復習。テーマは「何」と. ますか?」と言って,いくつかの器具を机の上で示して,. 「誰」に関すること。まず教師が絵を示し,「これは誰で. 指文字で表現する。残っている生徒に対して,「誰が患. すか?これは何ですか?」とたずねていく。教師が「Bu. 者になりますか?」と聞く。みんな手を挙げる。教師が. kim?(これは誰?)Bu Nima?(これは何?)」と板書。. 一人ひとりに,どこが痛いかたずねる。生徒は「頭が痛. 6つの絵がある紙を2枚はる。1つは,いろんな人の絵. い」,「指を切った」,「咳が出る」などと答える(これは. がある。おばあさんであったり,教師であったり,パイ. 手話)。それから1人ずつ前に出てロールプレイをする。. 医者が「名前は?生年月日は?どうしましたか?」とた. ロットであったりする。もう1つの絵には,アイロンが あったり,馬があったり,キリンがあったりする。教師. ずねる。患者役が質問に答える。指文字が多い。何とか. が前者について,「これは誰ですか?」と聞く。絵を手. 包帯を巻いてもらったり,薬をもらったりした。「あり. がかりに生徒が「これは教師です」とか「これはおばあ. がとう」も手話でなく指文字だった。何人かがロールプ. さんです」と答える。生徒は声と指文字で表現する。た. レイをし終わると,教師は次に,どんな医者があるのか,. とえ手話で答えても,教師が指文字で答えさせる。後者. 種類を生徒にたずねる。小児科,歯科,内科,耳鼻科な. の絵については,教師が「これは何ですか?」とたずね.

(6) 126. 学校教育学研究,2007,第19巻. る。例えば,教師が1っの絵を指さして,「これはアイ. (5)小学1年(ウズベク語クラス)の発音(話し方). ロンです」といい,「質問は?」とたずね,「これは何で.   の授業. すか?」と言う。同じように子どもに質問文を言わせる。.  7人。生徒の席は横1列に並んでいる。教師が,子ど. 教師は,生徒との対話では手話を使うが,課題の文章を. もたちに対して,「今はどんな季節ですか?」と発問。. 読み上げるときはほとんど指文字と口話だけ。子どもも. 指文字で答えさせる。まず単音の発音練習をさせる。次. 指文字と発音のみで,』手話を使わない。. に単語に入る。教師は指文字と発音で「・・さんは外で.  今日の授業の本題に入る。1枚の紙に8っの絵が貼っ. 遊んでいます。」「…  はコートを着て,帽子をかぶっ. てある。人が動作をしている絵。テーマは,「何をして. ています」などの文を順番に言う。子どもの手元には,. いますか?」。パターンプラクティスが多いようだ。例. 帽子,コート,手袋の絵が置いてある。教師の発した文. えば,1っの絵を示し,教師が「お父さんさんは何をし. から,絵のうち関連する1っの絵を選ぶ。また次の文が. ていますか?」とたずね,生徒が「お父さんはチェスを. 示され,適切な絵を選ばせる。次には指文字なしで,発. しています」と答えさせる。すべて指文字のみで答える。. 音だけでも同じ課題をさせる。時には手話で表現すると. 知的に障害がある子どもにも,教師は何とか答えさせた. きもある。今度は,文字カードを示し,それに対応する. い。「これは誰ですか?」(前の三冠に学習した内容)と. 絵を選ばせる。さらに文字なしで教師の発音だけで絵を. 聞くが答えられない。他の子どもが我先に指文字と発音. 選ばせる。いろいろなバリエーションで課題を与えてい. で答えようとする。教師は,他の子を制止して,その生. る。. 徒に答えさせようとする。結局隣の子どもが答えてしまっ.  次にクロスワードパズルをさせる。できたら1人ずつ. たので,その子に隣の生徒に答えを教えてあげなさいと. 前に出させて黒板に正解を書かせる。次に別のゲームを. 言う。その生徒は,隣の生徒に対して指文字で答えを教. 行う。いろいろな服の絵カードがある。右が夏,左が冬. える。答えは「おとうさん」であった。. となっている。2人が前に出て,夏の服と冬の服を集め.  教師が,さらに絵についていろいろな話をする。例え. るゲームである。ときどき間違いがある。最後に教師が. ば,以下のように。「私はお父さんですか?違いますね。. 生徒にごほうびの風船を与える。授業終了後,意見交換. この人はお父さんですか?そうですね。誰かのお父さん. を行った。0年生はダクトロジー(指文字)中心に指導. ですね」などと質問していく。次にこれは何ですかと手. してきたが,1年生になり発音を指導しているとのこと. 当たり次第に聞いていく。「これは何ですか?」は先回. であった。. の授業のテーマであった。その復習をその知的に遅れた. 生徒に対して行う。本を示して,ノートを示して,鉛筆. 3 今後の課題と方向. を示して,次々に「これは何ですか?」とたずねる。ど うも指導が断片的で,体系的でない印象を受けた。.  以上の聾学校調査から今後のウズベキスタンにおける.  また新しい絵を導入する。男の子が箒で床を掃いてい. 教育開発支援についていくつかの課題が整理できた。. る絵である。教師が「これは誰?」と聞き,みんなでこ.  第一に,手話の活用が教室での指導,学習において有. の子の名前を作ろうと提案する。いろいろ意見が出るが,. 用であることである。これは大きな集団が聾学校にある. 「シャルゾウ」と名づける。教師が「これは何?」とた. こと,日常的にも手話を使って生活をしていることによ. ずねると,生徒が声と指文字で「箒」と答える。「ここ. る。報告者も休み時間や放課後,廊下や校庭などで生徒. はどこ?」とたずねると,生徒が「床」と答える。「何. 同士が生き生きと手話で対話をしているのを観察してい. をしている?」などと発問が続く。教師の発問は全て指. る。教師たちも聾児にとって手話が大切であること,生. 文字のみであった。女の子が指文字で答えると,教師が. 徒とのコミュニケーションにおいて手話が重要であるこ. 前に出て黒板に書いてみなさいと言う。女の子は前に出. とを認識していた。また必ずしも教師の手話技能が十分. て,黒板に「シャルゾウが床を箒で掃いている」とウズ. でなく,そのたあの研修の必要性についても学校管理者. ベク語で書こうとする。ゆっくりと書く。教師が丁寧に. や教師自身から聞かれた。. 書きなさいと言う。単語がわからないと教師をときどき.  ただ課題の第二に,手話を教室場面で,もっと有効に. 見ながら書く。教師は指文字で手がかりを与える。書い. 活用するための手立てや工夫が必要であること。ロシア. た後,教師は生徒に指文字で文章を言わせる。その後,. 語やウズベク語などの言語指導や算数の教科指導におい. 文の名詞の上に,例えばシャルゾウの上にはkim(誰). ては,絵,指文字,発音,文字(文,文章)が使われて. と,箒の上にはnima(何)と書く。「では質問を作りま. おり,相互に関連付けることでことばや知識の指導が試. す」と言って,「誰が箒で床を掃いていますか」とか,. みられていたが,手話の活用はなされていなかった。む. 「シャルゾウは何をしていますか」とたずねる。最後に. しろ指導場面で,生徒の手話を抑制するような働きかけ. ノートを配り,生徒に黒板に書いたことを写させる。. さえ見られた。手話から音声言語への橋渡しとして,指.

(7) 127. ウズベキスタン聾学校への教育支援. 文字や文字,発音の役割が重要であるが,教材内容の理. 国際協力機構「課題別指針:障害者支援」,2003. 解を深め,広げるために手話の役割は重要だろう。また. 国際協力事業団「中央アジア援助研究会報告書」,2001. 生徒同士の話し合い活動や協働学習が教師の教育実践の. 箕浦康子「フィールドワークの技法と実際」ミネルヴァ書房,. 中で重要視されていない印象を受けたが,これらの教育.  1999. 的取り組みの中でも相互に理解可能な手話が重要な役割. 文部科学省「国際教育協力懇談会最終報告」,2002. を担うだろう(鳥越,1999,2003)。. 佐藤郁哉「フィールドワーク」新曜社,1992.  さらに第三の課題として,教師の手話能力の向上が必. 鳥越隆士 ろう教育における手話の導入「兵庫教育大学研究紀. 要であろう。大学等で手話の授業やJICAの支援による.  要」1999,19,163−171.. 手話テキストや講習会の実施などの資源があるが,それ. 鳥越隆士 聴覚障害児童に対する国語科指導のための手話教材. だけでは十分でないようだ。学校にの聾教師がいないこ.  ビデオ制作の試み「兵庫教育大学研究紀要」2003,23,97−. ともこの課題の解決を困難にしている。学校外の資源の.  107.. 活用のための方途の検討が必要だろう。例えば,聾協会. 鳥越隆士 障害分野における開発支援のエスノグラフィー1ウ. などの協力を得て,成人聴覚障害者の教育場面での活用.  ズベキスタン手話通訳養成計画への支援の取り組みから「兵. を行うなどが考えられる。.  庫教育大学研究紀要」,2005,27,49−61..  また第四に,単に手話を表現する技能だけでなく,教. 内海成治「国際教育協力論」』世界思想社,2001. 師の手話に対する認識の向上が必要だろう。第二の課題 とも関連するが,手話を正しく認識した上で,それをど. 巻末資料:ウズベキスタン・聾学校調査の日程. うロシア語やウズベク語と関連づけていくか,手話を活. 2005年12月13日 関西空港発,タシケント着. 用した教育実践を質的に高めていくことが必要だろう。. 12月14日 調査の打ち合わせ. そのためにもまず手話に関する理論的実践的な知識や技. 12月15日 タシケント聾学校調査. 能の向上が必要である。. 12月16日 ウズベキスタン日本センター視察,セミナー実施.  また第五の課題として,子どもたちにとっての手話環.  (タシケント教育大学). 境の整備も必要だろう。日常的に手話を使用していると. 12月17日. 資料整理. しても,それを学習活動に活用できるためには,生活言. 12月18日. 資料整理. 語としての手話から学習言語としての手話へと質的に高. 12月19日. セミナー実施(タシケント聾学校). めていく必要があろう。その手立てが必要である。手話. 12月20日. タシケント聾学校調査. 教材の開発や指導法の工夫,手話を活用した学習プログ. 12月21日. タシケント聾学校調査. ラムの充実が必要だろう。. 12月22日. 幼稚園視察,ろう協会が運営する工場の視察,.  また第六に,子どもたちに手話の力を十分活用するた. 12月23日. 難聴学校視察,盲学校視察,ろう協会事務所訪問,. めには,従来のような一方向的な指導形態でなく,教師.  タシケント発. と生徒あるいは生徒同士の対話を利用した,インターア. 12月24日 関西空港着. クティブな授業実践が不可欠だ。第二や第五の課題と関 連づけた取り組みが必要だろう。.  そして最後に,以上のことを進めていくためには,学 校内の資源の活用だけでは不十分である。成人聴覚障害 者が教育活動の関与できる枠組みの構築が必要だろう。. 先にも述べたように,聾学校に聾教師はいない。また聾 教育の制度を見ても,聾者自身が教師になるζとはそう 容易ではない。ただ放課後活動での成人聴覚障害者の協. 九教室場面でのチームティーチングなど試みられても いいだろう。このような先駆的な取り組みが必要である。.  以上のように,ウズベキスタンの聾学校調査から,今 後取り組むべき課題が見出された。これらの課題をもと に,第2年度以降の調査研究を進めて行きたい。. 引用文献 黒田一雄・横関祐見子「国際教育開発論」有斐閣,2005. (なお、本調査には報告者の他に2名の同行者がいた)             (2006.9.1受稿,2006.10.17受理).

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