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戦後日本の特許制度の数量的分析(出江秋利教授退官記念論文集)

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137

戦後日本の特許制度の数量的分析*

明  石  芳  彦

1.はじめに

 経済学における技術情報の研究は,従来,特許を中心とした無体資産の分析 として概ね確立している。欧米に関する特許制度の実証研究は,マハループ (1958),テイラー=シルバーストン(1973),シェアラー(1980)などを挙げ ることができる。日本を対象とした特許または特許制度に関する経済学的研究          1) は,さほど多くない。だが,われわれはいくつかの特許関連文献において,特 許出願件数を国際的に比較することにより日本の「技術立国」としての強さを        2) 論ずるという方法に疑問を抱き続けてきた:。  確かに日本の特許出願件数は膨大であり,そこに反映された発明力とか発明 へのエネルギーを評価できないわけではない。けれども,後で述べるように, *小稿の作成に当たり,日本経済政策学会関西部会(86年12月),大阪市立大学産業  研究会(87年5月),および産業学会87年春期(5月):大会にて,各参加者の方々よ  り有益なコメントを頂いた。記して謝意を表する。 1)例えば,越後(1972),今井他(1972),後藤(1984),斉藤(1979)などがある。  なお,日本の技術政策の概要,特に政府の税制,補助金政策など投入面での条件整備  については,後藤・若杉(1984)に詳しい。 2)鵜野(1981)(1983),各年の『科学技術白書』「技術貿易及び特許出願(・登録)  の動向」の章における出願特許と登録特許の扱い方等は,特許出願の動向から日本の  技術開発力を積極的に評価する立場を表していると思われる。さらに,特許庁(1985)  の「出願ラッシュ」論は,「第一に技術導入競争を含め,国内企業間の技術開発競争が  激しかったこと。第二に輸出,海外進出などによって,たとえば特許粉争,ライセン  スなどを経験し,外国のすすんだ特許戦略に遭遇したこと」(p.127),および「出願  ないし審査請求件数は多いものの特許率はそれほど高くはない。特許権が増えても強  力なもの・が少ない。外国出願も国内出願ほどの伸びがない。」(PP.127−8),「制度上  の違い,企業間競争,技術革新の程度を考慮したとしても,出願ラッシュ期の現象と  いう説明なくして,この極端な差は理解できないのではないだろうか。」(PP.129・一30)  という意見である。

(2)

日本において特許登録される発明は国際比較の結果から見て,必ずしも出願件 数の多さだけとは比例していないようである。したがって,日本を含めた主要 国の技術開発力の比較を出願特許件数の数値で行うことは必ずしも正確な実状        3) を反映していない可能性を残している。  また一般に,日本の特許と諸外国の特許が同じ価値レベルであるとして,出 願される特許の数が多いということは,幣害を招くことが少なくない。例えば, 出願された特許を審査・処理するために必要とされる期間を,日本とアメリカ とで比べてみると,日本が平均3年でアメリカは約2年という。新しい技術情 報が速やかに公開され,法的保護の下に普及していく制度的な枠組みを整備す ることが特許制度の本来的目的である。この認識の下に,小稿では,日本の膨 大な特許出願件数を知的資産もしくは技術開発力の代理変数と見なすことが適 切かどうか,また,なぜそれほど莫大な特許が出願され,それは日本の特許制 度が機能する上でどのような影響を及ぼしているかを問う。 ll.日本の特許制度の実態  1.特許制度と特許法  「特許(patent)」は「産業上利用することができる発明をした者」に与え られる(特許法,29条)。ここでいう「発明」とは「自然法則を利用した技術 的思想の創作のうち高度のものをいう」(同,2条)。一般には,新規性,進歩 性を要件とし,「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,以て 産業の発展に寄与することを目的とする」(同,1条)。また,日本では,西ド イツと並び,minor patentとしての実用新案制度がある。実用新案(utility model)とは「物品の形状や構造,あるいはその組み合わせについての考案」 に限られる。よって,特許と実用新案の相違は,前者が「高度」な発明であ 3)同じ1件でも“pioneer patent”の1件と付随的周辺特許の1件との違いが大きい  という点を強調しすぎると,ある種の不可知論に陥ってしまうだろう。われわれは,  重要な特許はそれ相応の周辺特許を伴っていて,特許全体の分布は「1件の重み」に  まつわる問題をある程度軽減すると捉えている。

(3)

      戦後日本の特許制度の数量的分析  139 り,後者が「高度」でない発明,製法は含まず特に製品の改良などがその対象 となる。  2.日本の特許制度  日本の特許制度について,特許成立のプmセスとそれに必要な手続きを簡単 に整理しておこう。図1は,現在の日本での特許の出願から登録までのプロセ スを示している。まず,出願された技術情報は,出願手続きなどの形式的な要 件を満たしている限り,出願公開と呼ばれる現行制度の下では,遅くとも1年 6ケ月後にはすべて一般に公開される。ただし,出願(公開)された情報に対 して,その技術内容の実質的な審査を請求する場合,改めて審査料を納付する 必要がある。つまり,出願された技術情報のうち審査請求があったものだけが, 特許としての技術内容を有するかどうかの実体審査に付されるのである。実体 審査で新たな特許としての価値を認められたものは,その技術内容の明細書を 公告して第3者の異議がないかどうかを問われる。現行制度の下では,異議申 し立ての期間は2ヶ月であるが,その期間中に当該案件の特許としての資格に 遅くとも、1年 6ケ月後には、 すべて公開され 翫   踊 方式審査 補正 出願公開 審査請求 原則として、有効期間は出願日 から7年以内(請求しなければ、 出願取下げとみなされる) 出 願 料 納 付 100e/o  ひ一レ・20年 実体審査 異議申立 出願公告 ,一一一J  拒絶査定 s 登録査定 拒絶査定

 にココココココロコロつ 

 約

 %

審査料納付70

 約

 纈

  

 特

ユ 図 ”一一  l 審半請求

i[麺

 i  i  l/ 約35% 登録 特許料納付

(4)

有効な疑義が出されない限り,最終的に特許として査定される。その段階で特 許料が納付されると,特許としての法的な有効性を持つが,現行ではその際, 向こう3ケ年分(第1年度分から第3年度分まで)の特許料を同時に納めるも のとされている。  なお,特許の有効期間は出願日から20 年,出願公告の日から15年を越えないこ ととなっている。そうした期間を長いと みるか短いとみるかという特許の最適期 間の議論もあるが,現在,技術革新の速 度が速くなっていることから,特許登録 された技術情報がその有効性を実際に何 年厚保っているかを知ることも,技術の 経済的な陳腐化度という観点から興味深      4> い問題である。  3.特許件数の国際比較  さて,先進5ケ国について,実際の特 許件数はどのような動向を描くであろう か。図2には,各国の特許出願件数の推 移が示されている。日本の件数が群を抜 いて多いことは言うまでもない。だが, 特許登録件数を示した図3を見ると,そ の意味するところは必ずしも図2と同じ ではない。つまり,登録件数ではアメリ カの方が日本よりも多いのである。出願 から登録までにタイムラグがあること,

43ワ臼−

11 (85)

/L/・本 アメリカ 西ドイツ イギリス フランス ’55 ’60 ’65 ’70 ’75 ’80 ’84

 図2特許出願件数

4)審査請求制度は1971年に採用された。それは,出願された技術情報をなるべく早い  段階で広く公開することが社会的厚生上,望ましいという考え方に基づく。

(5)

戦後日本の特許制度の数量的分析  141 (万件)

87654321

 アメリカ  日 本 .一 (85) スツス ンイリ ラドギ フ西イ ’55 ’60 ’65 ’70 ’75 ’80 ’8’S

 図3 特許登録件数

(万件)  32  31  30  29  28  27  26  25  24  23  22  21  20  19  18  17  16  15 ユ4 13 12 11− 10 9 8− 7 6 54晶321 出願件数 審査処理件数 登録件数 ’65 ’70, ’75 ’80 ’85

  図4 日 本の実状

登録件数のトレンドでみると日本の増加傾向は他国よりも著しいことも理解で きるが,出願件数と登録件数の動向を同一視してよいかどうかは予断を許さな いと思われる。ちなみに,図4に,日本の特許出願件数と登録件数の動向を比 較して示した。図から判断する限り,登録件数の増加ペースと出願件数の増加 ペースが並行的とは言い難い。両者の間に乖離が生ずる理由を探ることも小稿 の1つの目的となる。  4.問題点 こうして,われわれは,出願される特許件数が多いということの原因は何か, 出願特許件数と登録特許件数との関係はいかにあるか。それらに関連して,登 録までのプロセスでなぜ出願時の件数が大きく減少するのか。また,登録され

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た特許はどの程度の期間,特許として「残存」しているのか。そして,「多す ぎる」出願件数への対応策として何が考えられるか。以上の点を検討する。 皿.日本の特許制度の数量的分析  1.特許件数をめぐる考察   (1)産業(部門)別比較  さて,日本の特許件数が多いということは前の節で確認できたが,それらを 産業(部門)別に見たらどのような分布になっているのだろうか。ただし,特 許の分類は,通常の産業分類もしくは商品分類のように使用または生産される 表1 部門別特許出願件数の比率 実用新案 62 67 72 77 77 1) 農水産・飲食品 2)化学 3)機械 4) 運輸機器・建設 5)強電 ・6)弱電  (電気5+6) 7)日用晶他  6. 3 30. 5 20. 9  8. 2  8.3 12. 7 (21.0 13. 1 5.2 30.3 20. 4 9.1 8.6 12, 5 21. 1 13. 9 3. 6 26. 8 22. 3 10. 8 7. 5 18. 1 25. 6 10. 9 4. 0 23. 8 24. 1 9. 4 8. 3 22. 0 30. 3) 8. 4  6.4  4.7 2Z 6 17. 7 11. 3 12. 3 (23. 6) 20. 0 (1000件) (lsg) 1 (176) 特許出願件数一新分類による部門別動向 実用新案 76 77 81 85 85

1234にり昌り7

生活用品 処理・操作・輸送 化学・冶金・繊維 建設 機械工学 物理 電気

Z4

21.5 18. 2 3.6 9.9 19.0 20. 5 7.4 20. 5 17. 6 3.4 9. 7 19.9 21. 5 6.2 19. 4 15. 7 2. 9 10. 7 23. 2 2L 9 5.9 19. 0 14. 4 2,4 8. 7 25. 6 24. 0 14. 2 27. 4 2.4 6. 6 16. 6 14. 4 18. 4 (1000件) (216) (297) (202)

(7)

       戦後日本の特許制度の数量的分析  143 製品・原材料の性質に基づくものではなく,技術が使用される際の機能に基づ く技術分類であることに注意しなければならない。また,日本は1977年まで日 本独自の技術分類を用いていたが,1977年に国際特許分類(IPC;International Patent Classification)を採用した。よって,参照される各種資料にはそれに 伴う不連続性がある。  表1は,大まかな分類による特許出願件数の部門別シェアの推移を示してい る。日本分類に従う1977年まででは,62年から72年まで化学部門のシェアがも っとも大きく,77年において機械がわずかながら化学を上回っている。77年に        表2 部門別特許登録件数の推移        実用新案 62 63 68 73 78 78 1) 農水産・飲食品 2)化学 3)機械 4) 運輸機器・建設 5) 強電 6) 弱電    (電気5+6) 7) 日用品他 5,8 3.8 34.1 37.2 18.4 18.1 7.4 6.8 9.5 8.7 12.0 12.1 2L 5 20.8 12.8 13.3 3.3 5.0 2.9 39.0 33.2 30.3 19.1 20.4 20.3 5.5 10.7 11.6 8.5 6.1 6.7 13.9 IL 6 18.7 22.4 17.7 25.4 10.7 13.0 9.5 4.8 6.5 24. 8 20. 3 9.9 12.6 22. 5 21. 1 (件) (45504) (57702) 特許登録件数一新分類による部門別動向 実用新案 79 82 86 86

12345678

生活用品 処理・操作・輸送 化学・冶金・繊維 建設 機械工学 物理 電気 その他*

18025824

54047575

 9臼2   1ーム 8. 9 20. 6 23. 1 3.6 8. 3 16. 8 18. 6 0. 1 7. 5 20. 0 24. 9 3.3 9. 7 17. 8 16. 8 0.o 15. 5 25. 2 5.3 9. 9 19. 3 11. 1 13. 7 0.1 (件) (50601) (59900) j (42700) ee IPCが付与されてないもの

(8)

ついて,強電と弱電の合計を「電気」として一くくりにすると,電気は機械を も上回る。次に,国際分類に従う1977年以降では,処理・操作・輸送,電気お よび物理の3部門が拮抗しているが,処理他のシェアはわずかな低下傾向で, 物理のシェアは増加傾向にある。  他方,表2は特許登録件数の同様のシェアを示している。それによると,日 本分類に従う78年までは化学部門のシェアが第1位である。出願から登録まで のラグを考慮すれば,このことは表1の内容と整合的である。次に,国際分類 に従う79年以降については,物理,電気ではなく,処理他,化学他が第1位, 第2位である。予断を許さないが,出願から登録までのラグのせいかもしれな い。さらに,表1,2の大まかな部門分類を構成しているより細かい分類(以 下,これらを中分類と呼ぶ)での分布状態を考察するため,表3,表4では, 中分類の上位10部門とその件数シェアを示している。ただし,日本分類では, 中分類総数136のうち,1つの分類項目の中に含められる件数(構成要素)が 多くなると,件数データ分類を順次,細分化して公表している。通時的な比較 表3 部門別特許出願件数の上位10部門 外国人出願top 10 1973 1977 1977 1980 1985 1985

1234567890

         1

心計ア

  工 合総シ 5692(16) 5190(12) 3940(99−5) 3856(97−7) 3845(103) 3647(102) 3272(25−5) 3257(51) 2988(59) 2629(10) 6397(99−5) 15643(HOI) 19400(HOI) 33612(HOI) 5884(16) 5847(97−7) 5717(103) 5689(12) 4649(102) 4034 (59) 3362(51) 3206(10) 2923(25−5) 8159(GOI) 10245(GOI) 18750(HO4) 6658(HO4) 9040(HO4) 16472(GOI) 6073(CO7) 6746(GO3) 14589(Gll) 5147(HO2) 6709(CO7) 14441(GO6) 5068(GO3) 6063(Gll) 11324(GO3) 4982(GO6) 5927(HO2) 7775(CO8) 4517(CO8) 5893(GO6) 7508(HO2) 4418(Gll) 5228(CO8) 7477(CO7) 4105(B65) 4884(F16) 7586(B41) 38, 316 47, 708 144, 814 161, 006 26. 50/o 29. 60/o 64, 770 80, 135 139, 534 161, 006 191, 020 296, 852 40. 20/o 42. oo/, 47. oo/e 2791(Ce7) 1913(HOI) 1520(GOI) 1344(A61) 1283(CO8) 1084(F16) 790(B65) 759(HO4) 636(BOI) 550(B60) 12, 670 25, 382* 49・ 90/a *(外国人出願総数/全出願件数)=9.4%

(9)

         戦後日本の特許制度の数量的分析  145 表4 部門別特許登録件数の上位10部門 ( 1974 1978 1981 1986

1234567890

        1

TOTAL

総 数 シェア 2366(16) 1664(ユ2) 1460(25−1) 1460(26) 1358(103) 1285(99−5) 1048(99−7) 862(83) 852(10) 777(74) 2130(12) 4506(HOI) 1836(16) 2309(GOI) 1313(97一一7) 2214(CO7) 1224(102) 1862(B65) 1218(25−5) 1831(CO8) 1135(99−5) 1807(HO4) 937(10) 1362(GO3) 917(103) 1345(BOI) 853(51) 1276(HO2) 843(13−7) 1249(F16) 4664(HOI) 3359(CO7) 2456(GOI) 2188(CO8) 2152(HO4) 2036(GO6) 1801(G11) 1552(A61) 1542(HO2) 1356(B65) 13, 132 39, 626 33. 1 0/o 12, 406 45, 504 27. 30/o 19, 761 50, 904 38. 80/o 23, 106 59, 900 38. 6 0/e 外国入に関する登録件数のデータは,掲載されていない。     表5 136分類への集計データをベースにした表

1234567890

         1

出願件数 ’68 ’72 ’77 5803(16) 4919 (25) 3302(12) 3010 (98) 2901 (99) 2484(102) 2267(26) 2055(59) 1938(101) 1914(74) 5420(25) 5256(16) 5050(97) 3855(12) 3397 (99) 3054(103) 2864(13) 2765(102) 2427(83) 2419(98) 8669(97) 7596(99) 5884 (16) 5717(103) 5689 (12) 5574(25) 4649 (102) 4034(59) 3809(13) 3745 (96) 登録件数 ’69 ’73 ’78 2655(16) 1739(97) 1228(26) 1110(25) 1069(12) 989(98) 736(102) 633(30) 603(96) 553(42) 3794(25) 3130(16) 1257(99) 1087(12) 1028(103) 959 (83) 891(97) 876(30) 858(42) 855(86) 2294(25) 2130(12) 2056(97) 1836(16) 1439(99) 1407(83) 1363(13) 1224(102) 1191 (26) 1185 (86) のため,公表されたデータそのものによる表と,136分類に集計したデータを ベースとした表(表5)とを示している。日本分類によるケースでは16(有機 化合物),99−5(半導体装置関連)などの特定部門が上位を占めていて,上位 10部門のシェアは25∼30%であるが,国際分類によればHO1(基本的電気素

(10)

  件

 岳

 璽

30,000 20,000 10,000 出願件数     登録件数

’74 ’80 ,85

  図5HO1部門の実状

件︵登録︶ 5,000 子)部門が第1位であり, 上位10部門のシェアも40∼ 45%に達している。  さて,それらの上位10部

門の中でHO1部門の特許

件数を時系列的に描いたも のが図5である。そこでの 特許出願件数と特許登録件 数のトレンドが「並行的と は見なしえない」と考える のは筆者のみであろうか。 だが,例えば上位10部門に ついて何らかの具体的な政 策課題を論ずるためには,       5) 今後,それらの個別部門についてより一層詳細な検討を加える必要がある。   (2)出願件数と登録件数の関係:定量的分析 それでは,出願される特許件数が登録される件数と並行的でないのは,すべて の部門について言えることだろうか。われわれはこうした疑問点を検討するた めに,特許の出願件数と登録件数とのクロスセクショナルな関係を定量的に分 析した。まず,日本分類での最近年78年の登録件数がそれまでの6年間の出願 件数といかなる関係にあるかが表6に示されている。相関係数は,6年前の72 年の出願件数との0.967をはじめ0.9以上の高水準である。その特徴は国際分類 を用いた場合でも同様であり,85年の登録件数は79年の出願件数と0.962の相 関係数を示す。80年以降の出願件数とは,相対的にだがその相関係数が低下し 5)例えばシェアラー(1983)のいう「特許性向」を,保有特許件数/研究費(100万  円)で比較するとき,日本の上場企業の場合0.052,ベンチャービジネス(VB)の場  合0.099となり,VBの特徴が顕著に現れる(上場企業のデータは『日経会社情報』  82−N,VBのデータは『同, VB版』84年版で,サンプル数はそれぞれ501,661で  ある)。

(11)

      戦後日本の特許制度の数量的分析  147 表6 特許件数=出願件数と登録件数の関係 実

各年の出願件数

N

78年の登録件数 との相関係数   傾き 85年の登録件数 との相関係数   傾き 72 73 74 75 76 77 .967 .967 .961 .950 .938 .919 .418 .332 .321 .294 .281 .268 79 80 81 82 83 84 .962 .958 .935 .935 .928 .919 .244 .221 .167 .166 .152 .131 136 118 両 対 数 各年の出願件数 78年の登録件数 との相関係数   傾き 85年の登録件数 との相関係数   傾き

69 70 71 72 73 74 75 76 77

.850 .860 .956 .964 .964 .965 .954 .952 .947 1.061 .966 1.057 1.064 .997 1.024 .996 .943 .961

76 77 78 79 80 81 82 83 84

.788 .789 .955 .952 .963 .957 .947 .945 .953 .745 .748 .960 .921 .931 .906 .898 .891 .864 両 対 数 各年の登録件数 68年出願件数 との相関係数   傾き 78年出願係数 との相関係数   傾き

69 70 71 72 73 74 75 76 77 78

.852 .871 ,856 .815 ,806 .849 ,883 .840 .845 .854 .961 .992 .988 .991 .970 LO19 1.022 .967 1.042 1.061 79 80 81 82 83 84 85 .544 .931 .953 .790 .947 .959 .955 .664 .985 .954 .812 .937 1.022 .960    6) ている。  また,出願・登録件数データの両対数による相関分析の結果からも,実数デ ータからの分析結果が追認される。けれども,相関係数は両対数分析の方が少 し高いこと,登録件数と相対的に高い相関係数を示す出願年次は5∼7年のラ 6) ここで,例えば72年に出願された特許が何年後に登録されたかは特定化できていな  い。同様に,78年に登録される特許についても,その投入年次はバラバラであるかも  しれない。つまり,出願件数と登録件数は勲等の暦年件数を示すにすぎない。

(12)

グを与えた年に対応すること,等が分かる。5∼7年前の値とのラグは,出願 後7年以内の審査請求が必要という現行制度と何らかの関係があるかもしれな い。 表6にはさらに,1968年,78年に出願された特許とその後の登録件数(暦年) との相関係数およびそれぞれの弾力性の値が示されていて,3年後と7∼8年         表7 出願人の種別出願シェア

     ヘへ

出願人の種別  三江\

願位 畑上社

讐⑳

内件 同曜

 2

同門

 3

同趾

 4

同町

 5

同曜

 6

同 100社 内国法入

全 体

その他の 内国人出願 外国からの 出  願 件  数 (シェアー) 件  数 (シェアー) 件  数 (シェアー) 件  数 (シェアー) 件  数 (シェアー) 件  数 (シェアー) 件  数 (シェアー) 件  数 (シェアー) 件  数 (シェアー) 件  数 (シェアー) 1982年

特許 実用新案1合計

76, 953 (32. 7) 95, 551 (40. 6) 104, 142 (44. 3) 111, 578 (47. 4) 117, 219 (49. 8) 122, 806 (52. 2) 135, 446 (57. 6) 195, 935 (83. 3) 14, 961 (6. 4) 24, 275 (10. 3) 42, 337 (20. 9) 58, 737 (29. 0) 68, 243 (33. 7) 75, 285 (37. 1) 81, 864 (40. 4) 86, 452 (42. 6) 100, 355 (49. 5) 172, 752 (85. 2) 28, 605 (14. 1) 1, 345 (O. 7) 119, 290 (27. 2) 154, 288 (35. 2) 172, 385 (39. 4) 186, 863 (42. 7) 199, 083 (45. 5) 209, 260 (47. 8) 235, 803 (53. 6) 368, 687 (84. 2) 43, 566 (9. 9) 25, 620 (5. 9)

出 願 全 体

235, 171 202, 702 437, 873 [D3]35巻

(13)

149 戦後日本の特許制度の数量的分析 後に相対的に高い相関関係が観察される。また,弾力性は7∼8年後に1を上 回るが,総じて0.96−1.06とか0.8−1.0というレベルである。  かくして,クロスセクション分析でみる限り,出願一登録件数間には一応の 相関関係が見いだせる。一部の観察値の突出をならし統計的に高いフィットを 得る上でも対数分析の方が望ましい。そして,弾力性は日本分類の方が高いが 現在の国際分類ではおよそ0.75一α93である。 表8 東証一部上場会社 公開特許件数1985年 (a)

件数

業種下

件数園社

業種名

名 順一社 2, 940 2, 602 2, 355 2, 192 1, 946 1, 828 1,606 1,594 1,590 1,572

品品二二工学鋼品器学

部部

同同機機機  製機

車車気気気  属気

動動

自自電電電化鉄工電化

自タ電 ︸プ六鉄電装写

産・洋二主日友電士

日ト三ソシ小新住日富

11 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P9 Q0 16, 542 16, 505 13, 825 9, 657 9, 572 9, 158 6,438 3, 695 3, 242 3, 157

器器二業器皿器二二器

機機機機機山鴬 機工

気気二二気気密 気密

電電電電電電精造電工

立下芝気電通ン重工一

   電工士捌菱電コ

日松東日三富キ三松リ

12345678910

㈲ 社 数1特許件数 1構成比(%)1一社平均 四 種 業 順位 1, 025   180   859   393   206    84 1, 034   149   108    26 55.1 8. 2 7. 5 6.4 4. 0 3.7 3. 4 2. 6 2. 5 1.2 195 100. 0 101, 479 15, 079 13, 750 11, 790  7,399   6, 862  6, 206  4, 754  4,632  2, 291 184, 205 99 W4 P6 R0 R6 W2

U324389

器学器品鋼械船品維設

   部

機 機同   製

気 三三   属

   動

電化精自鉄機造金繊建

12345678910

943

全産業合計

(14)

  (3)企業別データによる検討  表7より,1982年の上位10社のシェアは32.7%にも及ぶ。だが,上位50社の シェアは49.8%,上位100社のシェアは57.6%であり,上位10社以降のシェア の増加幅は相対的に小さい。そのことがむしろ,上位10社のシェアが異常とも 言える高い水準にあることを示唆している。資料の入手可能性という点で,同 じ82年に対応する資料ではないけれども,85年の企業別公開特許件数の上位20       の 社が表8(a)に示されている。上位10社中,7社が電気機器業種の会社であり, 電気機器業種の企業は上位20社中,なんと半分の10社を占めている。また,上 位10社の特許件数の合計は91,791件で,表8 (b)の全産業合計184,205件の約半 数を占める。上位11社から20社までの特許件数和が20, 225件であることから考       の えても,それは「異常な集中度」だと言える。  以上の分析から,部門別にはHO1等半導体関連部門への特許件数の集中が みられ,企業別には電気機器業種への集中がみられることが明かとなった。電 気機器関連の企業の特許活動が,部門別の特許件数分布に反映されていること は想像に難くない。日本の特許件数全体の動向がこれらの一部企業・業種の行 動によって大きく左右されていることを示唆している。  2.特許となる段階別の比較=制度的分析   (1)請求率の推移  審査請求率の推移は図6に示されていて,審査請求制度が導入された1971年 の70.3%以降,概ね低下傾向を辿っている。79年の段階では65.6%である。し たがって,出願された特許案件のうち7割程度しか実体審査の請求がない。審 査請求率の国際比較を料金体系,残存期間等の条件を考慮しつつ,さらに検討      の すべきである。 7)表7は和光経済研究所が作成されたものの一部である。 8)明石(1984)で示された研究費,研究員,売上高等の「集中度」と比較して,おそ  らく相当程度高いと思われる。 9)少し古い資料だが,審…査請求率は,西ドイツが1969年出願分の45%(6年目までの  実績),オランダが1964年出願分の42%である。日本は約70%だから,特許の「審査

(15)

戦後日本の特許制度の数量的分析  151   (2)公告率の推移     (%)  次に,審査請求された技術情報  70 のうち,実体審査を経て拒絶され なかった比率が公告率である。そ  65 れは図7に示されているが,1971 年の55.5%から76年目52.4%とわ’60 ずかながら低下傾向にある。公告 率はおおよそ5割,つまり,審査 請求のあった特許情報の2つに1       (o/o) つしか実際の特許としての価値を 有していず,実体審査を請求した  60 案件の半分近くが拒絶されている。 50 審査請求者の技術情報管理のまず        40 さとか,特許案件の質的向上が繰 り返し叫ばれる由縁である。  日本の特許制度を説明した図1 に立ち戻って大まかな実状を整理 してみれば,審査請求率が7割, 70,3 69,0 65.6(特許) 6Q.7(実用新案)

 ’71 ’76 ’81 ’84

       出願年 図6 審査請求率の推移([D3]39巻より)

緊ミ禦熱

oL一“一一一.一

 ’71 ’.75 ’79

       出願年 (注) 公告率は、審査請求期間が満了し、  審査処理がほぼ終了した出願年のもの 図7 公告率の推移([D3]39巻より) 公告率が5割ということは,仮に100件の特許が出願されたとして,その70% が審査請求され実体審査に付されていて,また実体審査に付されたものの5割 が公告されているということは,当初の100件から言えば約35件が公告されて いる(異義申し立てがなければ,登録査定される)のである。つまり,出願 一審査一公告の関係は100−70−35という割合になる。 「  出願特許のうち1/3しか公告されず,2/3が権利放棄もしくは拒絶査定を受 けるということは,特許制度上,改善の余地が少なからずあることを物語って いる。特許庁としては,近年,公告率の優秀さを認定する意味で,企業別に公 請求制度を採用しているオランダ,西ドイツに比べて高い水準にある」([D3]29巻, p.12)という。

(16)

告率上位企業のリストを公表している。と同時に,公告率を(当面)60%まで 引き上げることを唱っている。    (3)特許権の推定残存率  さて,特許として登録された技術情報が果してその後何年間にわたり特許と

(o/o) (e/e)

100 90 80 70 60 50 40 30 20 10

8FD2

7QQOO

 123456789101112131415

      経過年       図8一(a) (e/e> 10 90 80 70 60 50 40       電機 30 20      化学 10 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 精密機器

123456789101112131415

       経過年        図8《b) (e/o) 100 90 80− 70 60 50 40 30 20 10 (o/e) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 fi績・化繊

123456789101112131415

       経過年      図8一(b) 金属加工 機械

123456789ユ01112131415

       経過年        図8一(b)    (%)    100     90     80     70     60     50 紙      む 一般機械  30     20     10

123456789101112131415

       経過年      図8一(b)        特許 自動車 ガラス他

123456789101112131415

       経過年       図8一(b)

の 残存率

(17)

しての価値を持ち続けるのだろう か。われわれは,特許庁の資料 [D3]と,後藤他(1986)が技術 の「陳腐化率」を計測するために 収集・使用された特許の登録残存 件数データ (法人分)から,「特 許の残存率」を推測してみた。ま ず,特許庁データでみるとき(図 8(a)),78年は原点に凸型,82年 はほとんど直線,85年は原点に凹 戦後日本の特許制度の数量的分析  153 (O/e) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 通信機器 医薬品

12345678910ユ112131415

       経過年

三8(b)特許の残存率

型である。これから判断する限り,特許の残存率は逓増的減少から逓減的減少 に変化している。また,登録後12年目までは85年中残存率が78年の残存率を上 回っている。  一方,後藤他が作成されたデータは,1968年に登録された特許(それは,15 年目に当たる82年において最新のデータベースとなる)について,いくつかの       10) 業種の代表的企業の特許権i利保護の状況を調査したものである。われわれはそ こでの残存件数の状況を,当初登録された件数を100%として,その後の15年 間(正確には,4年目からの12年間)の各々の年に何%が特許として残存して いるかを計算した。結果は図8(b)に示されているが,その特徴は2つある。1 つは,鈴木・宮川(1986,P.131)が「技術の陳腐化」のパターンを原点に凸 の形でイメージ表示(図示)しているのに対し,われわれの計算結果では,む 10)1968年に登録された特許のその後の残存率の算出にあたり,標本とされた産業とそ  れぞれの特許件数は,化学肥料・無機化学・有機化学(293件),医薬品(199件),ガ  ラス・セメント(167件),発送配電用・産業用電気機械(90件),通信機器(103件),  自動車(38件),紡績・化学繊維(290件),紙(18件),金属加工機械(73件),一般  産業用機械(36件),度量衡器・計量器・光学機器・レンズ(32件)である(企業デ  ータに基づいた前賢階調査により,特許件数が多い技術分野の性格を反映しうるよう  な分野別資料は,5%の標本摘出法による)。例えば医薬品産業について,68年に199  件が登録されたが,その後の4年目以降の各年において,199件のうち何件が特許と  しての権利を維持されたかを調べている。

(18)

しろ原点に凹の形が支配的だという点である。もう1つは,4年目以降,当然 のことながら残存率は低下していくけれども,特に8年目を境として9年目か らの低下が大きい(と思われる)点である。ちなみに,料金体系は7年目から 9年目までは同率(同額)で,10年目からおよそ倍増する。けれども,われわ れの図から見る限り,大幅な低下はほぼ明らかに9年目から現れているのであ る。低下の傾きが大きいほど陳腐化率は高く「有効特許期間」は短い。残存率 が50%以下になる年がとくに早い業種は,医薬品,化学,紡績・化繊の3業種 であり,いずれも11年目である。それらの3業種は,15年目には残存率30%を も下回っている。つまり,法定の権利保護期間15年間に対して,技術の経済的       ま ラ 有効期間が極めて短期化していることを物語っている。  3.特許庁の対応:制度的変更  (1)審査請求制度(出願公開制度)の導入  1971年1月より,出願された特許情報のうち,審査請求のあった案件だけを 実体的に審査し権利付与の対象としている。それは,出願される特許件数の肥 大化傾向に伴う審査処理機能もしくは情報提供機能の低下を防ぐため,出願さ れた発明情報を速やかに公開し,重複研究,重複出願を防止するという特許制 度の本来的機能を維持しようとする狙いに基づく。だが,「防衛特許」のよう に必ずしも権利の獲得を第一義的な目的とせず,第三者が後日に出願すること に伴うトラブルを避けるために前もって特許出願されるという発明が少なくな いとか,出願時における発明の経済的価値がその後の諸条件の変化により減少 しうる,など制度改革でカバーできない様々な問題がある。なお,審査請求の 期限は原則として,出願日から7年以内であり,期間内に請求のなかったもの 11) 医薬品産業においては周知のように,特許出願の後に臨床試験,中央薬事審議会の  審査等があるため,新薬の有効特許期間が7∼8年しか残されていないという。よっ  て,最長5年に限り特許としての有効期間の延長を認めることになっている。だが,  ここで計測した残存率の結果からみる限り,医薬品の有効特許残存期間はかなり短  い。医薬品の特許期間を延長する必要があるという議論とこの結果とをいかに整合的  に解釈すべきだろうか。

(19)

      戦後日本の特許制度の数量的分析  155 は取り下げと見なされるが,一度出願された発明と同一内容の発明に対する第 三者の出願は(既に公開された技術情報と見なされるので)言うまでもなく拒        絶される。  (2)1976年置ら「特許・実用新案の出願・審査請求の適正化」施策を実施 している。具体的には,出願件数上位企業(25∼30社,86年には上位100社) や業界団体等に特許管理の改善,出願等の質的向上(事前審査,出願競争の抑 制),審査処理効率の向上などを要請している。  (3)多項制の採用  現在,特許の出願には一発明一出願(単項制)の原則が採られていて,特許 請求の範囲は一項で記載することになっている。つまり,1つの発明には1つ の特許しか認められないので,発明の数だけ出願する必要がある。一方,多 項性の場合,1つの発明(出願)による複数の特許が認められる。日本では, 1976年より「ある物質とその製法などのように関連が単純なもの」に限り多項 制が採用されてきた(併合出願制度)。それが,88年4月より全面的に,特許 請求の範囲に複数項の記載(クレーム)が認められることになった。多項制の 本格的な採用は特許(出願)件数の動向にいくばくかの影響を及ぼすことも予     の 想される。  (4)特別早期審査制度  1986年2月より,「緊急性の高いものに厳選」して「実施関連出願の早期審 査及び早期審理」制度の導入がなされた。適用第1号になった特許は,「通常 なら約3年かかる審査期間が,2月1日の申請以来,5ヶ月で済んだ」(『日本 経済新聞』86年7月2日)ということである。同紙によると,「早期審査はす でに商品化し,早く特許を確立しないとコピー製品が出回るなど,トラブルが 12) 「ユニークな」技術情報開示の仕方として,一部の企業では,特許申請するだけの  価値がない技術情報を定期刊行物に記載する形で「公知の事実」としている。 13) 日本特許協会の試算によると,多項制の導入により特許出願件数は年間で約1割程  度減少するという(『日経』87年1月7日)。だが,多項制の採用は特許件数の変化と  いう効果以外に,大企業の基本特許による技術独占の傾向を一層強化するという点も  指摘される。有賀(1974),今井(1976)を参照。

(20)

生じる恐れがある案件が対象」で,申請者も「公開特許公報から自分の発明に 似た案件をあらかじめ選び,違いを明らかにするなど『先行技術調査』を実施 する必要がある」という。86年末までの申し出は約250件であった[D3]が, 他方で,あまりにも多くの案件がこの制度に殺到すると審査処理はできなくな るという。これは発明の重要性を序列化せざるをえないなど,現行の特許制度 がほとんど機能障害に陥っていることを示す好例であり,制度の根幹に関わる 問題と見なすことができよう。  (5)特許事務の総合機械化(ペーパーレスシステム,電子出願)  技術情報の照会,特許出願事務,及びその審査処理等に際して,有形書類を 必要としないオンライン化とするために,現在,10年計画でデータベースが作 成されつつある。ペーパーレスに伴う迅速な対応が期待できると言うものの, それは事務上の合理化であり,特許制度の機能上の改善・正常化という観点か らは,本質的な問題解決とは言えない。  以上の特許庁の対応に関連して,いくつかの検討課題を列挙しておきたい。  1.社会的厚生の見地から考えて,料金体系の変更がもっと検討されてよい。 出願料は,78年5月5,400円,81年6月6,300円,84年8,月9,500円,87年6月 より14,000円と,「小幅に」引き上げられてきた。登録に至らない「安易な」 特許出願の数を減らすためには,アメリカのレベルも参考にして,出願料を現 行の2∼3倍にすることが!つの考え方である。また,単一の申請者の申請数 に応じて累進的な出願料金体系を設定することなども,検討されてよいのでは ないか。ただし,中小企業,個人,非営利団体等については,アメリカのよう に別の料金体系を適用する方法がある。つまり,個人まtは少数単位の出願を 不利とすることは特許制度の本来の主旨に反するので,上位100企業など「一 定」件数を上回って出願する企業に限って高い出願料を適用するなど,料金体 系の改革が必要ではあるまいか。  2.新規性調査に関する料金を設け,新規性の調査がすでに実施されている かどうかで,料金格差をつけることが考えられる。この種の制度(条項)は, イギリス,フランス,西ドイツに見られる[D3]。具体的には,現行の早期審

(21)

      戦後日本の特許制度の数量的分析  157 査制度を有料にするのと同じような意縞合いを持つことになるであろう。  3.実用新案を無審査制にする,または実用新案制度に抜本的改革を加える ことが検討されてよいのではないだろうか。実用新案制度が持つ今日的な意味 は何か。国内における発明促進の効果及び日本に進出する外国人・外国企業へ の効果,そして外国との関連での発明上の価値,等が改めて検討されるべきで あろう。 IV.分析の要約と残された課題一結びに代えて一  ここでは,日本の特許制度の機能と問題点を指摘することで結びに代えよう。  特許制度に本来望まれる機能は,権利の合法的な「排他的行使」と技術革新 インセンチィヴのバランスを保つことである。ただし,技術革新インセンチィ ヴは,例えば回収される期待利益の大きさ等で測られよう。他方,特許の機能 は,新しいアイデアや発明を誘発することよりも,そうした発明,開発に伴う トラブルを未然に防ぐことにあるとも言われる。  (1)特許制度は,重要な技術やそれを利用した製品を輸入する基盤を形成 する。それが日本の技術導入の条件整備の機能を果たしてきたことは間違いな い。だが,1973年以後導入する技術が相対的に少なくなったにも関わらず,一 方的な技術輸入の状態が現在なお続いているということをいかに理解すべきで あろうか。その主因はノウハウであるらしいということが,問題を一層困難に   する。  (2)日本の特許件数が多いという問題はlocal(=特定部門・企業に限定 した問題)と見なせるのか。つまり,日本技術分類に従う場合にも国際技術分 類に従う場合にも,クロスセクションでの分析結果は特許出願件数と特許登録 件数とが相互に高い相関係数を示した。ところが,個別部門について,例えば HO1部門での両者の関係は並行的と見なしがたい。その意味で上の問題を, 14)特許という形態を取らない技術契約が増えているという事実は,特許制度の根本的  理念と相反する。つまり,ノウハウ,著作権,トレードシークレット等は,いずれも  情報公開義務を有さない点で,競争政策上大きな問題を含む。明石(1988)参照。

(22)

日本全体に関わる問題と見るべきか,それとも特定部門に限定された問題と見 るべきか。特許件数のとくに多い特定部門の状況をタイムシリーズ的に検討す ることが今後の課題である。そのとき,技術分類基準,「特許性向」,多項制の 影響(特許法の構造)なども併せて検討する必要があろう。「特許性向」につ いて,例えば半導体という製品に固有な多数クレーム性が存在するかもしれな いし,そうした産業・製品に固有な条件(製品ライフサイクル)と関連がある かもしれない。  (3)特許出願競争に対しては,特許管理の改善,審査処理効率の向上,出 願特許の質的向上(事前調査)などの「お願い」だけでなく,料金体系を大幅 に変更するとか,実用新案の無審査制など抜本的対策が必要ではあるまいか。  今や,「発明の源泉」は個人の発明というよりも,大企業による科学研究の 内部組織化による側面が大ぎいだろう。しかも,そこでの発明はいわば競争手 段と化しており,特許制度(特許法)はその権益を法制度的に保護するための 国家権力である。つまり,法的枠組としての特許制度の下で,先出願主義(権 利の確保),防衛特許(無用なトラブルを事前に回避),研究員の士気向上とい う現象が誘発されていると考えられる。  (4)特許制度の実態分析のみならず,特許件数と他の技術革新の成果指 標との対応分析が必要である。つまり,シュムックラー(1966),シェアラー (1984)等が行った研究を参考として,日本に関する「特許の計量的分析」を 行うことにより,その制度的効率を一層検討すべきである。  (5)技術独占の問題  特許権の集中度の高さには目を見張るものがある。それが経済的にいかなる 効果を持っているかは未だ明かでない。けれども,特許の参入障壁としての実 効力の問題を指摘できる。特許が「参入障壁」効果を持つかどうかは,ある意 味で億,ライセンスフィーと要求利潤率の大小関係に依存する。だが,例えば 6%のロイヤルティーは無視できるコストか。それが問題である。

(23)

戦後「日本の特許制度の数量的分析  159 〈参 考 文 献〉 明石芳彦「戦後日本の技術導入・研究開発および特許の動向」『彦根論叢』226号,1984年   6月。     「戦後日本の特許制度・特許活動の数量的分析」『産業学会研究年報』第3号   (1987),1988年春刊行予定 有賀美智子「物質特許制度・多項制の導入と独禁法」『ジュリスト』no. 576,1974・12.1・ 越後和典「望ましい技術進歩と産業組織」『東洋経済』臨時増刊,近代経済学シリーズ,   1972年9月20日 後藤 晃「技術革新と制度的条件一特許制度と独禁政策一」『ESP』’84.6。 後藤 晃・本城 昇・鈴木和志・滝野沢守「研究開発と技術進歩の経済分析」『経済分析』   (経済企画庁経済研究所編集)第103号,1986年9月。 後藤 晃・若杉隆平「技術政策」小宮・奥野・鈴村編『日本の産業政策』東京大学出版会,   1984年12月。 発明協会編『特許庁』教育社,1976年。 今井賢一・宇沢弘文・小宮隆太郎・根岸 隆・村上泰亮『価格理論皿』岩波書店,1972年   (第14章第2節「特許の経済学」) 今井賢一『現代産業組織』岩波書店,1976年(第6章「情報一研究開発と準市場的配   分」) マッハルプ『特許制度の経済学』(土井輝生訳)日:本経済新聞社,1975年(Machlup, F・,   An Economic Review of the Patent System, U. S, Governrnent Printing O Mce,   1958) 斉藤 優『技術移転論』文眞堂,1979年(第18章「特許の国際経済学」) 五月女正三「多項制に関する諸問題」『特許管理』24巻1号,1974年1月 Scherer, E M., lndustrial market structure and economic performance, Second edition,   Rand McNally Co11ege Publishing Company, 1980 (chap. 16, The economics of   the patent system)     , “The propensity to patent,” L 1. L O., 1983     , “Using linked patent and R&D data,” in Griliches, Z., (ed), R&D, Patents,   and Productivity, University of Chicago Press, 1984 Schmookler, J., “Patent statistics,” in Tnvention and Economic Growth, Cambridge   Univ. Press, 1966 渋谷達紀『特許と経済社会』日本経済新聞社,1979年 鈴木和志・宮川 努『日本の企業投資と研究開発戦略』東洋経済新報社,1986年 Taylor, C. T., and Z.A. Silberston, The Economic Jmpact of the Patent System, Camb−   ridge at the University Press, 1973

(24)

特許庁『技術立国と特許』発明協会,1985年 鵜野公郎「米国に迫る日本の技術力」『日本経済新聞』1981年12,月5日(経済教室)     「日本はすでに技術大国」『日本経済新聞』1983年6月18日(経済教室) 吉藤幸朔『特許法概説』第6版,7版,有斐閣,1982,86年 〈資料〉 [D1]『外国技術導入年次報告』科学技術庁編 [D2]『科学技術白書』科学技術庁編 [D3]『特許庁年報』日本国特許庁

参照

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