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書籍流通の一翼を担うモンゴルの古本屋 (特集 アジアの古本屋)

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Academic year: 2021

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書籍流通の一翼を担うモンゴルの古本屋 (特集 ア

ジアの古本屋)

著者

マンドハイ ルハグワスレン

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

247

ページ

12-13

発行年

2016-04

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00002967

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.247(2016. 5)

12

特 集

アジアの古本屋

  ごく最近まで、といってももう 既に二六年以上経とうとしている が、モンゴルには古本屋は一軒だ け存在した。その名も「古書珍本 屋」という一階建ての国営書店が 六〇年代初めにウランバートル市 内 の 中 心「 ト ー ル・ レ ス ト ラ ン 」 近くにできたのがそれだ。それが 議会制民主主義を導入し、市場経 済へ移行する一九九〇年代まで国 内における唯一の古本屋だったと いう。一九二四年にソ連に次いで 二番目の社会主義国家となったモ ンゴルでは、モンゴル人民革命党 による一党体制の下、国立出版局 が出版物を製作し、その管轄下に あった全国の国営書店を通して販 売を行っていた。それが一九九一 年に始まる民営化の嵐にさらされ、 「 古 書 珍 本 屋 」 を 含 む す べ て の 国 営本屋が閉鎖し、書籍専門の販売 店が一時期街から姿を消した。政 治・経済・社会的変化の波に攫わ れ、配給食糧制度が導入されるに 至るなか、だれも本屋経営など考 え る 余 裕 が な か っ た に 違 い な い。 しかしながら、各県の県庁所在地 に存在した地方図書館もすべて閉 鎖され、倉庫に放置されていた本 がやがて個人の手に渡ったことも あり、急激に増えた「交渉店」と いう名のつく雑貨屋さんで本が売 られるようになった。なかには個 人が持っていた書籍を街中で売り 始める者もいた。こうしてモンゴ ルにおける個人型古本売買がスタ ートした。

  多くが店を構えるための資金不 足などを理由に道端での営業を行 っており、現在も大抵の古本業者 は店を構えておらず、露店での営 業を継続している。現在ウランバ ートル市内でこうした個人型古本 業者が立ち並ぶエリアは教育大学 の東側セレベ川沿いの一カ所に集 中している。数年前までは旧国立 デ パ ー ト の 北 側 に あ る「 ウ ル ト・ ツァガーン」という名の通りにも 雑貨屋さんにまぎれて数人が営業 を行っていたが、現在は営業して いない。両者とも筆者が高校生か ら大学時代にかけて、書籍専門店 がほぼ存在せず、その扱う冊数も 限られていた 時代であった ために、学校 で使う教科書 や辞書、外国 語教科書や社 会主義時代に 出版されたモ ンゴルの文学 作品を求めて

マンドハイ・ルハグワスレン

書籍流通

の一

古本屋

よく足を運んだ。教育大の東側の 売り場は、当時は個人がなにがし かの台を持ち込んで、その上に本 を並べるといったシンプルなもの だったが、二〇一五年の八月に筆 者が取材に訪れた時は、プレハブ 建ての小屋が建設されており、各 個人はその中に書棚を並べブース 型の店舗を構えていた。二〇一二 年からウランバートル市の支援の 下、土地の利用許可が下りたため 売り場を建設し、維持費を毎月出 し合って共同運営をしているのだ そうだ。壁際には歴代の作家の肖 像画が飾られ、売り場ごとに本棚 とテーブルが置かれており、明る く 開 放 的 な 雰 囲 気 に な っ て い る。 入り口から一歩中に足を踏み入れ ると、すぐにどんな本を探してい る の か 両 側 か ら 質 問 攻 め に 遭 う。 古本商売も激しい競争にさらされ セレべ川沿いの古本売り場内装(筆者撮影) セレべ川沿いの古本売り場(筆者撮影) 12_13_特集_書籍流通.indd 12 16/03/29 18:06

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13

アジ研ワールド・トレンド No.247(2016. 5) ているのが肌で感じ取れる。目当 ての本の題をいえばその本がある かどうか、あるとすれば誰が持っ ているかなどすぐに教えてくれる。 ふらっと入って本をじっくりみる というのにはあまり適していない 環境だ。各売り場に専門分野があ るというわけではなく、まんべん なく需要が高いものを扱うのが一 般的ということだった。価値ある 本ですでに絶版となり、書店では 手に入らないような本は棚の奥の 方にしまってある。どんなものに 興味があるかを聞かれ少し話をす るとこんなのはどうかといった感 じで出してくる。値段も交渉によ って決まるため同じ人からまとめ て買えば買うほど、値段も下がる。 数 名 の 店 主 に 話 を 伺 っ た と こ ろ、 主な客層は大学の講師の他、モン ゴルに留学中の学生が多いとの話 だった(不思議なことにモンゴル 人の学生はあまり来ないという) 。 しかしながら、インターネットの 普及や近年の書店の増加により売 り上げが減ったのも事実だそうだ。

  市場化の波にのり、古本ビジネ スを始めたバーサンドルジ氏(名 字はナツァグドルジだが、モンゴ ル人は名前だけを使う)に話を伺 った。彼は教育大や「ウルト・ツ ァガーン」の集団営業には参加せ ず、 チ ン ギ ス・ ハ ー ン 広 場 の 横、 国会議事堂の斜め前に立つ中央郵 便局のビルの前の角を販売スペー スとしている。社会主義時代には 長 く バ ス の 運 転 手 を し て い た が、 怪我のため働けなくなり生活の糧 とするために本を売り始めた。昔 から文学が好きで集めていた本を 売り出し、徐々に冊数を増やした。 売り出した初日に当時の価格で工 場員の一カ月の収入に匹敵する金 額が手に入り、記念に母親と三人 の妹と一緒に近くの写真屋で写真 を撮ったのが一九八九年一一月だ ったという。本人の話によれば彼 が古本売りとしての第一号であり、 一 九 九 〇 年 一 月 に は 三 人 に な り、 五月には八人に増え、現在公式の 数字はないが、三〇〇人あまりが 古本売りとして活動しているとい う。彼は自分が扱う本のほとんど に目を通しており、特に伝統医療 関係の本に興味を持っているとい う。現在彼は四人の子どもを育て ているが、育てるうえでなるべく 薬を使わないようにしているのも 本と触れ合って生きてきたおかげ だという。扱う本に特に専門性を 設けている訳ではないが、意識し て 扱 わ な い 本 の 種 類 が 三 つ あ る。 ひ と つ は 小 中 高 生 の 教 科 書 類 だ。 金銭的に余裕のない母親が子ども に買ってあげられず子どもにみせ る顔がなくなるのを嫌がって、と いうのが理由だ。そして金銀装飾 が入った稀覯本などは法律上の理 由で扱っていない。そして最後は アダルト系のものだ。彼は長年同 じ場所で本を売り続け、今では本 を売りに来る常連さんもいるとい う。彼はリクエストがあればそれ に答えるべく、お客や他の本売り に連絡を取り探し出すという。   こうした古本売り業に未だに需 要があるのは、モンゴルの人口は 三〇〇万人と出版市場として小さ く、 一 冊 あ た り の 印 刷 部 数 が 三〇〇~五〇〇程度であり、再版 も少ないため売り切れれば本屋で 新刊本を入手できなくなるケース が多いからである。モンゴル出版 社協会の職員によれば、現在全国 で出版業務に携わっている会社は 一六〇あまりあるが出版編集業務 全般を担う業社は少なく、印刷業 務を主とする印刷工場のような会 社がほとんどであるという。した がってモンゴルでは本の出版から 宣伝広告、配本まですべてを著者 自身が担うケースが多く、各書店 の在庫補充システムなども未発達 なままだ。新刊本といえども、町 の書店でスムーズに手に入る状況 にあるとは言い難い。実際、書籍 を専門とする大型店舗ができたの も大手出版社ADMONが経営す る INTERNOM 書 店 が オ ー プ ン し た 二 〇 〇 四 年 が 初 め て だ。 INTERNOM は 元 々 現 在 入 っ て い る建物の二階で古本も扱っていた が現在は新刊本専門となっている。 現 在 で は INTERNOM 以 外 で も 書籍専門店が増え、海外の書籍の 翻訳本や、児童本など様々なジャ ンルの本が店頭に並ぶようになっ たものの、いずれも印刷部数の限 りから一旦売り切れれば探しだす のが困難になる。このように書籍 の流通制度が全体的に未熟である なか、モンゴルの古書店は同国に おける書籍の流通の大事な一翼を 担う存在であるといえる。 ( Mandkhai Lhkagvasuren / 東 京 大学人文社会系研究科アジア史専 修博士課程) ベテランのバーサンドルジ氏 (筆者撮影) 12_13_特集_書籍流通.indd 13 16/03/29 18:06

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