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『捷解新語』の音注の改修について―原刊本・改修本・重刊本における改修の全体的な傾向性を中心に―

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(1)

『捷解新語』の音注の改修について

ー原刊本・改修本・重刊本における

改修の全体的な傾向性を中心に

1. はじめに

r

捷解新語」は朝鮮の司訳院で作られた日本語学習のための教科杏であるが、原刊本

r

捷解新語」が康遇型によって(1676年刊)書かれた後、1796年の「捷解新語文釈」ま での間に少なくとも三度に亘って改版された。したがって、音韻、語法、語彙など各側 面から当時の両国語と語の変化を矧るに当たっての重要な資科になる。特に注目される のは本文の右側にハングルによる音注が付けられていることで、当時の日本語の資料で ははっきりしない、例えば消濁.促音・撥音などを知ることができる。この音注が原刊 本「捷解新語」(原刊本)、「改修(第一次)捷解新語』(改修本)、「重刊改修捷解新語』 (重刊本)で下記の例のように改修が行われている。 さてめてたいくたりてこそ御され myan-tyai-ta-i-kun-ta-rin(原ー2) さて御ふ全立なされましてめてたう御さる ku-ta-ri· · ·myai-tyai-to-u(改ー2ウ) さて御くたりなされましてめてたう御さる ku-nta-fr.. myai-ntyai-to-u (:!li:- 2ウ) 本稿ではエ段音節母音部表記、濁音表記、消音表記、促音表記、擬音表記など五つの 部分の日本甜に対する音注を、原刊本と改修本、改修本と重刊本との比較を中心に分析 して改修の全体的な傾向性を明らかにし、同時に若干日本語の音価についても考察して みる。

2. エ段音節母音部の表記

工段音節母音部の音注として原刊・改修本ではyaとyaiが、重刊本ではyaiが表記 されている。原刊本における音注をもとに先学によって、音価推定が提示されている 注I) が論議を残している。本稿では全体的な音注の分布と現れる音環境から考察してみた い。 1)字音語においてy3iとyaの分布 原刊本の字音語でyaだけが音注されている字(()の中は全体の数、Oの中は巻十に ある数、本稿の数は延ぺ数)は淵(1)、園(1)、遠(2、①)、延(2、②)、宴(1、⑦)、 68

(2)

-見(5 、⑦)、疲(1、②)、 鮮 (10)、 先 (4 、①)、伝 ( 3、①)、 念 ( 14、①)、 返 (12、②)、(2) 、 悦(①)、 結 ( 3 )、 拙(②)、(貝( I)) である。 yai だけで音注されている字は(2、②)、 界 (1)、 気 ( 2)、 下 (21) 、 頃(①)、啓(④)、稽 (2)、 景 (1)、斑 (4 、②)、(7 )、 芸( 1 ) 、 清(①)、静 (1) 、 誠 (I)、 節 ( 1)、説( 1 )、廷( 5)、 停( 7) 、 低 (I) 、 命(①)、 迷(12、 ①)、 麗 ( 2) 、例( 1) 、 礼 (27) 、 歴 (2)、 懸( 1 )、 膳 (I) 、 綿 (I) 、 (庁(3))である。 y3が音注された字音語は、 結、 悦、 拙の3 字以外は全て撥音(ん)‘で終わる字音藷 である。 また、yaiで音注された字音語は撥音 (ん)で終わらないものが大部分である が、 懸、膳、 綿の3 字が例外を成す。 改修本の字音話の中にyaだけで音注されている 字は宴(③)、 翁 (1、②)と原刊本になかった謙 (1)、 言( 1) のみでいずれも撥音 (ん)で終わる字音語である。 改修本ではほとんどyaからy;iiの方べ改修された。 と ころが、 原刊本巻ーから巻九までの109例の中に、 改修本で改修されたのは 63例 (58%) であるのに対し、 原刊本の巻十の43例の中、 改修本で y;iiに改修されたのは 2例 (0.5%)にすぎない。 • ' 2) 非字音語のyaとyaiの分布 非字音語の原刊・改修本において音注y;iとy;iiとの分布は次の表1 の通りである。 表1 非字音語の音注yaの分布(( )の中は巻十にある数). ゑ け せ て ね ヘ yai 23 6 170 158 1054 10 14 141 552 ' 原刊本 (35) (26) (73) (76) ( 2) ( 8 ) (14) (56) ya 15 6 10 2 126 3 9 38 38 ( 6 ) (2) (278 (37) (5 ) ya

5

3 6 24 8

改修本 (16) (24) 原刊本では「ゑ、 け、 せ、 て、 へ、 め、 れ」は主にyaiで (93.3% )、「ね」は主に yaで (92%) 音注されている 。ただし「せ、 め」は他に比べてyaが多い。 これに対し て、 比較的にy3が少ない「ゑ、 け、 て、 れ」は改修本で全てyaiに改修されている。 yaの方が多かった「ね」も巻ーから巻九まではyaiの方へ改修されたが、 巻十は改A多 が皆無である(数の差はトネキの差し替え)。改修本の「へ」も巻十以外は全てyaiの 方に改修されたが、 巻十だけにyaが24例見られ、書簡文と会話文との違いが見られる。

(3)

3)エ段音節母音部表記の改修 yaの現れる音環境は、字音話は N、 t (u) であり、非字音語はn である。 こ こで問題であるのは同一語でもyayaiの両様が現れることである。例えば、 「面」の字は原刊本でmyan16例、 myai 2例が現れる。 巻別に巻ーに1例、 巻五に 2例、 巻七に7 例、 巻+に6例である。 この中「めんしゃう(面上)」は、 御てまのめんしゃう (myain-zyo-'u) には(原三16ウ) であるのに対して 御めんしゃう (gko-my;m-syo-'u) もつて(原十4) に音注されている。 改修本でmyainに音注されている例は「めんしょく」 (myain-syo-ku三21ウ)と「御 めんどう」(gko-myain-to-'u、-24ウ)の 2例である。 いずれも原刊本にはなかった語 である。 ところが原刊本でmyainであったのは改修本で はじめて御たいめん (ako-ta'i-myan) いたしまして(四1ウ)

に改修されている。即ち、 原刊本にあったmyainmyanに改められてyaiからyaに改

修されているが、改修本で新しく出てきた語(めんしょく、 御めんどう)はmyainに音 注されている。 このようにエ段音節母音部のyaiyaとの音注の区別を語による、 あ るいは巻による述いの可能性を探って見たが同じ巻、 同じ語にも両様の表記が現れるの は、そ れ以外に原因があると思われる。 総数から改修を考えてみると字音語、 非字音語合わせてエ段母音部のyaの音注の総 数は、 原刊本で47 2例であるがその中にn_と_Nの環境のものは83% (390例)が現 れる。改修本でもyaの総数は164例でその中にn_と_Nの環境で83% ( 136例)が現 れる。即ち、 yaの音注の大部分は原刊・改修本ともにn_と_Nの環境である。 この環境においてyayaiとの比率を見ると、 n_は原刊本で巻ーから巻九までya が93% (9 9例)、yaiが7 % (8例)であり、 巻十はyaが93% (27例〉、 yaiが7 % ( 2 例)である。一方、 改修本の巻ーから巻九まではyaが23% (20例)、 yaiが77% (68 例)で、 yaからyaiへの改修が見られる。 ところが巻十ではya88% (15例)、 yaiが 12% ( 2例)で改修がほとんど行われていない。_Nは原刊本で巻ーから巻九までは yaが85 % (214例)、 yaiが15% (37例)であるのに対し、 巻十では全てya (50例)であ る。改作本の巻ーから巻九まではyaが29 % (59例)、 yaiが7 1 % (137例)であり、 ya からyaiへの改作が顕著である。これに対して巻十ではyaが95% (41例)、 yaiが5% (2例)で、 yaからyaiへの改修はわずか2例に過ぎない。 重刊本ではエ段母音部の音注はすべてyaiに改めている。 これは表記の統一というこ とであろう。巻十(世簡文)は会話文と大きな違いを見せているし、 改修本の段階を考 66

(4)

-えると重刊本でyai へ統一されたのは考えがたいので重刊本の巻+の音注は全て yai へ 改作された巻ーから巻九にしたがって整理されたと思われる。

3.濁音表記

濁音表記は「捷解新語」の原刊・改修・砥刊本に見られるように、①直前の綴字の末 尾にo • n • mを加えて示すこと、②邪~.nt- •• mp-、@河勺音k • t • pのみ、·④zの四 様の方法であるが、 ただ、 ②においては語中の同一話でも例えば、 くさぴ(楔) ku-sa-mpi (原五22 ウ),••ku-sam-pi (原八21 ウ)のように①と②の両様の表記が見ら れる点から、①と②は同じ機能であると思われるので本稿では一括して扱うことにする。 ④のzでi蜀音を示した方法はザ・ジャ行音に用いられている 。韓国語のz (△)は有 注2) 注3) 声歯音で 、 捷解新語の刊行された時期は消失しているのである。しかし、zの音注は改 修・菰刊本にも用いられている。 ところがザ・ジャ行音にsの有声音であるzがあるに もかかわらず、 単独で濁音を示すzの前にnを入れた例が見られることである(わざ と'oan-za-to 、 原八 1) 。 濁音表記としてzだけで表記することができるにもかかわら 注4)nz を使用したのは initial-glide の鼻音を表したためであろう。 この n が改修・砥刊 本で完全になくなっているのは、 initial-glide の鼻音の完全消失を表したと見られる。 (l)ガ行音、 原刊・改修・煎刊本のガ行は語頭では消音表記と同じkを用いている

が、 ギとゴはokも使用している。 ただ改修本のギ(儀)は~!)-ki 16例、 Ki14例である

のに対して、 重刊本ではki] 例、 !Jki 27例で K から!JK の方に改修されて鼻音(!))が培 えている。 語中では原刊・改修・重刊本ともに大部分鼻音(!))が伴う。 (2)ザ行音、!吾頭では原刊本から改修本への大きな変化は見られない。 zが大部分 で、 一部(ジ、 ズ)にSも用いられている。 ジは1例しかないが原刊本のSが改修本で z に改められている(じゆう zi-'yu-'u 、 自由、 改八10ウ)。 原刊・改修本の「じせつ」の「じ」だけがsi で音注されているのは韓国漢字音 (si-c�r) の影響であると見られる 。 ズの語頭の音注Sは全て原刊本の「ずいぶん」 (随分)の7例で、 改修本では4例がzに、 皿刊本では全てzに改修された。

ずいぶん(随分)su-'i-pun (原四 4)...zu-• i-pun (改四 8 ウ) .

語中では原刊本で用いられたnzi(ジ) . nzu (ズ) . nzo (ゾ)が改修・匪刊本では n を落とし、 zi • iu · zo で統一的に表記されていることが注目される。 このことはエ段 表記、その他の表記が改修本の段階で統一的に整理されていない事と異なる。 原刊本の

語中のズの音注は主にnu· ns で表記されているが、 ザ・ジ・ゼ・ゾは主に z. s で表

記されている。!!Oち、ズのinitial-glide の鼻音の消失が遅かったのを表していると思わ 65

(5)

-れる。また、ザ行は他の濁音表記に比ぺてnの音注が一番少ないのはinitial-glideの鼻 音がザ行音から消失したことを表すものであろう。 (3) ダ行音、ダ行音の語頭は原刊・改修・煎刊本でtであるがドは逆にntの方が 多い。語中では原刊本でntであった音注 (92%)が改修本で大部分tで表記されてお り (96%)鼻音 (n) がなくなっている。重刊本ではヂ・ヅは鼻音 (n) が完全になく なっているが、ダ・デ・ドは逆にntの音注が増えている。 御くだり (御下り) ・o-ku-ta-ri (改ー2 ウ)・・・'o-ku-nta-ri (匝ー2 ウ) (4) バ行音、語頭は原刊・改修・重刊本ともにmppで音注されている。 mpの・ 音注は「万、晩」の字音語であり、pの音注は「番、非字音語のバ」である。韓国漢字 音が「万、晩」はman、「番」はpanであることから考えると日本語の「万、晩」は 「番」より鼻音 (m) が残っていたとも考えられる。語中の「ぴ」は原刊本でmpの音 注であった四例が改修本でpに改修されている。改修本から重刊本へは逆に鼻音 (m) が増えている。

およびo-'yom-pi (原十24)'o-'yo-pi (改下2ウ) ・'o-'yo�mpi (狐下2ウ)

(5)拗音節音、拗音節の前では、改修本は原刊本とほとんど同じであるが、次のよ うに鼻音がなくなる傾向を見せている例がある。ヂャウは語中で鼻音 (n) が入った例 が原刊本に1例あるが(いちぢゃう 'i-cin-cyo-'u16)、改修本では現れない。ギャウ は原刊・改修本ともに語中にo-kyo-'uで鼻音 (o) が入っているが、煎刊本には鼻音 (o) が入っていない例が1例見られる(いちぎゃう 'i-ci-kyo-'u、直七22ウ)。 (6) 濁音表記の改修、濁音の音注に鼻音(o. n. m) が付けられている分布(%) は次の表 2 の通りである。 全体的に原刊本から改修本へは鼻音 (!J• n • m) がなくなる傾向を見せている。とこ ろが、改修本から煎刊本へは逆に鼻音が増える傾向を見せている。これらの各行音に見 られる鼻音に対して、大友先生1956initial-glideの鼻音と考えるのが妥当であると述 べている。原刊・改修本の濁音を分析比較した結果も鼻音は濁音の表記として使用して いるが、有声無声の対立として使用したとは考えられないのである。 全体的な流れから考察して見た結果、重刊本で鼻音 (!).n • m) が増えたとしても、 ザ行においては、一つも現れないことは菰刊本の鼻音はinitial-glideの鼻音だけでなく、 消濁の対立を表すためにもある程度使用したと思われる。即ち、ザ行音は消音 (s) に 対する濁音 (z) があるので、 initial-glideの鼻音が完全に消失した状態では鼻音 (n) の必要性は なくなったからであろう。ところが、他の行においては鼻音向・n • m)を 付け る以外は表記方法がないので、重刊本ではザ行音以外の音に鼻音 (!J• n • m) が増 える結果に なったと思われる。 64

(6)

-a i u e

語頭 詣中 諾頭 語中 語頭 語中 語頭 器中 語頭 語中

99.1 52.1 99.1

93.2

97.3 98.2 75.2

95.3 51.6 79.4

74.2

80.5 97.0 56.0

92.7 96.4 82.7

85.2

90.7 98.0 80.9 ,原

3.3

88.3

゜ ゜

゜ ゜

゜ ゜

4.5 91.7

68.0

93.7

97.3 88.9 96.1 3.8 1.8

4.1

0.6 77.3 6.1 1.9 64.0

゜ ゜

100 34.9 82.4 17.7 62.5 7.2

10.3 68.2 5.1 30.0 83.1

19.6 /ゞ 68. 4 3.2

88.2 22.4

1.6

33.3 40.0 7.5 28.5 9.1 92.9 41.5 57.1 ll.8

23.l 表2 鼻音(n • n • m)の分布(%)

4. 清音表記

日本栢の消音を表している表記として(1)濃音による表記、(2)平音で表す表記 の2種類がある。森田1957 で す でに指摘してあることと改修本・重刊本も同じであるが、 ただ改修本の語頭の「た」がttaになっている例が1例見られる。 濃音表記の分布を具体的に見ると次の表3の通りである(:!Ii:刊本は省略する。なお、 検討の結果、巻による特徴が見られないので合計だけを示す)。 表3 原刊・改修本における1li:ね子音の分布 戸I原

1原

1原 17211621 6 I 2 I 33 I 34 I 21 戸I原1改1原戸I原l改1原1改 4 I 4 I 110 I 23 I 89 I 146 I 48 I 17 I 71 I 65 シャ

I

I

I

I

I

I

I

I

I

I

I

I

1

l

I

91 I 226 I 2221227 I 99 5 12 158 354 20 63

(7)

-カ行の変化はほとんど 見られない。夕、テ、 卜は涙音表記が増えているのに対し 、ソ はほとんどなくなっている。ノは完全になくなっているのに対して、シ、シャ、ショ、 ス、セが新たに見られる。重刊本も改修本とほぽ同じであるが、ただ、i農音表記がやや 増えている (例は後述する) 。改修の流れ につ いて、比較的に用例が多い ものと変化が 多か ったものを比較しながら考察してみる。 「力」の浚音表記は助詞が原刊本106例、改修本116例でほとんどである。「ーか」は 原刊本kk から改修本Kに改修されたのが軍刊本で再びkkに改められている例がある。 おくれました生 ka(改ー18ウ) ••••••おくれました企 kka (直17) 助詞以外、例えば「ばかり」は原刊本で13例全てkkaであるの.に対し、改修本は10例 がkka、5例がkaで表記されている。また、重刊本は10例全てkkaで表記されている。 「キ」の濃音表記は原刊本I()ffl」、改作本 2 例、菰刊本11例で濃音表記のkkiは「てん 注5) き(天気)」の音注である。「てんき」については安田章氏が詳し く説明しているが、 改A位本でkkiからkiの方へ改作が行われ、狙刊本では全てttyain-kki に改めている。 「ク」は濃音表記が原刊本で33例、改修本で34例見られる。例えば「わたくし」13例 と「ごとく」12例が全てkkuであるが、改修本ではku が「わたくし」2 例、「ごとく」 4例現れる。 狐刊本では再ぴ「わたくし」15例、「ごとく」13例全てkkuに改修されて いる。

ごとくko-to-kku(原十16ウ) •••ko-to-ku(改中13) ···ko-to-kku(瓜中11 ウ) 「ケ」の濃音表記は原刊本で20例(23例中)、改修本で16例(33例中) •現れるが、全 て「 かたじけなし」の「け」である。重刊本では「 かたじけなし」が21例現れるが全部 「kkya」で音注されている。「け」の濃音表記の音注は語によって非常に偏っているし、 改修は7例が原刊本「kkyai」から改修本「kyai」の方へ改修された 後、重刊本で全て が再ぴ「kkyai」の方へ改修されている。 「コ」は原刊本の2 例がkkoから改修本でkoに、狐刊本でkkoに改り但されている。

み やこにmi-'ya-kko(原五 9) ···mi-'ya-ko(改五13) ···mi-'ya-kko(瓜五11〉

「夕」はほとんど助詞「た」(原86例、改132例)である。促音を表す 濃音表記が原刊 本に38例見られるが、改修本では 1 例を除く と全て「御互�za-tta (原三20)御互ュ左 zat-ta(改ー39ウ)」のように前の音節に、促音に当たる「t」を付けて表記している。 「チ」原刊本のcci音注は全て「こち、そち、あち」の「ち」(48例)である。原刊 本から改修本へは「こち 」の 1 例がcci から�iに改修された のに対し (五40ウ)、重刊 本では全てcciの音注が表記されている。 「ツ」の濃音表記は語末の「 つ」がほとんどCCUで表記されている。 原刊・改修・重 刊本ともに変化はほとんどない 。音注も3吾頭、語中はcu、語末はCCUの傾向を表して

(8)

いる。

「テ」の濃音表記はほとんどが接綬助詞「て」である(原84例、改192例)。

「卜」の濃音表記は原刊本222例、改修本237例が現れる。「とも」はttoからtoに改

修されたものと(tto-mo原四30 • to-mo改四42)、逆にtoからttoに改修されたものも

ある(to-mo原九9 • tto-mo改九13) 。改修本から諏刊本へは全てtto-moに統一的に整

理されている。助詞「と」は数から見るとtoからttoの方へ改修が行われている。 「シ」の浚音表記は「ました」ma-ssi-tta(改九25ウ)のように助動詞「まする」の 「し」だけ (5 例)である。助動詞「まする」の「し」は改修本で260例が現れるがそ の内、 5 例が濃音で表記されている。重刊本もほとんど同じである。260例の内 5 例を ssiで表記しなければならなかった理由としてアクセント、強調表現なども考えられる が、確定するのには難題であると思う。 「シャ」の濃音表記はいずれも助動詞「しゃる」である。「さっしゃる」即ち、促音 に続く場合は改修本では22例の内3例がssyaに表記されているが、重刊本では全て平 音(sya)に表記されている (改ー36、重ー29) 。 「ショ」の濃音表記は改修本で158例現れる。この中 3 例だけが平音表記(syo)に表 記されているが、重刊本で全て濃音表記(ssyo)に改修されている。 「ス」のi農音表記は改修本で354例の内、助動詞「まする」が286例 (303例中)で、 「御ざりまする」が68例 (70例中)である。例えば、助勁詞「まする」は17例が平音表 記(su )で音注されているが、重刊本には改修本で平音表記(su)であったものが全て 濃音表記(ssu)に改修された(すみ主主ma-su(改四21) がma-ssu(菰四19ウ)に)。 「せ」の濃音表記は改修本で助動詞「ませいJ 13例 (70例中)など20例現れるが、重 刊本では助動詞「ませ~」の場合はssy;iiで統一的に整理されている。

5. 促音表記

促音表記は原刊・改AE・重刊本ともに大部分t で表しているが、原刊本で希にKやP も見られるが改修本はtに改修されている。 けっく(結句)ky3k-ku (原八16ウ)•••k yat-ku (改六15) もっばら(専ら)mop-pa-ra (原九5 ウ) •••moじpa-ra (改九15ウ) ただ、改修本で促音表記としてKが現れるのは「みかち」mik-kan-ci(::::日路、原八 1、5ウ)に促音ッを入れた「みっかち」mik-ka-ci(三日路、改八1、8)の2例で ある。重刊本にはこの場合もtに改めている(mit-ka-ci、狐八1、7ウ)。即ち、促音 (ツ)は日本語の表記(つまりッ=t)に合わせて統一しようとしたと思われる。 語末では原刊・改修・菰刊本ともに入声_tで表しているが、全てが巻十にある。

(9)

きさつ(資札)ki-sat(原十5) • ki-sat(改上10) • ki-sa-ccu(狙上6、 8) すいさつ(推察)su-'i-sat(原十17ウ) su-'i-sa-ccu(改八24ウ)

su-'i-sat(改中14ウ) su-'i-sa-ccu(重)\18ウ、 中12ウ) これは原刊・改條本の時代は特に普節文を読む時、 まだ入声_tが残っていたが、 煎 刊本の時代になると開音節化されることを示すのであると思われる。

6. 撥音表記

原刊・改修・重刊本ともに撥音(ン)音注としてm、n、oの三様が表記されている。 語中ではm, n, Dともに用いられているが、 下に続く音節によって使い分けて表記さ れている。 m表記は原刊・改修・重刊本ともにパ、 マ行音節の前に現れる(けんもつ kyam-mo-ccu、 見物、 原八10ウ)。原刊本で mであった音注が改修本でnに改修される 傾向を見せている。 ちんみ(珍味) cim-mi(原七3)--·cin-mi(改七4ウ) 改修本から重刊本へもmからnに改修されている。 けんぶつ(見物)kyaim-pu-ccu(改八15ウ)•••kyait-mpu-ccu(重八24ウ) 重刊本ではパ、 マ行音節の前の撥音(ン)の音注は「ぜんぶ」(膳部、zyaim-pu、 重二 16)以外は全てmからnに改修された。 oの表記は原刊・改修·重刊本ともに力、 ガ行音節の前に限られている。 御いんぎん 9ko-· io-kin(御慇懃、 原六7) この場合n韻尾「前、 慇Jもm韻尾「談、 三」も下に続く音節の語頭音(k' g)の影 響でoで表記されている。 原刊本で!)であった音注が改修本にはnの方へ改修されている。 御いんぎん (御慇懃)gko-'i!)-kin(原六7)'"!)ko-'in-kin(改六10) 改修本から誼刊改修本へもoからnの方へ改修されている。 たんご(丹後)tao-ko(改九35ウ)・・・tan-ko(堂九15) これは原刊本の撥音 (ン)の音注は日本語に合わせた音韻的よりも音声的な表記で あって、 改修・重刊本に改修されるにしたがって日本語の表記(つまりン=n)に合わ せる音韻的な表記になったと思われる。

7. まとめ

以上、「捷解新語」原刊・改修・重刊本における音注の改修の全体的な傾向性につい て考察してみた。 その結果は次の通りである。 (1)字音語はn_ (92%)と_N (93%)の環境でyaiよりyaが日本語の発音に 60

(10)

-ふさわしかったと思われる。改修本ではyaiの方へ改修される傾向を見せているが、巻 +では改修がほとんど行われていない。重刊本では全てyaiに改修されてい る。 (2)濁音表記である9k · nt • mp • ns • nzの表記は原刊・改修本ではinitial-glide の昴音を表した と思われ る。 改 修 本 で はなくな る傾向を 見せており、 これ は initial-glideの鼻音の消失する過程と一致している。 重刊本では鼻音(!).n • m)がザ 行以外の行で増えていることから清濁の対立のためにもある程度使用されたと思われる。 (3)泄音の表記は原則として平音の表記であるが、 淡音表記も使用されている。改 修本では平音表記に改修された語が重刊本で再ぴ濃音表記が増える依向が見られるし、 特定の語に限られている。 (4) 促音表記は大部分tで表している。 原刊本で希に見られるk. Pの表記が改修 本でtに改修され、 韮刊本ではtに整理されている。撥音の表記は!).n · mが現れるが、 改修本では!J'mからnの方へ改修され、重刊本ではほとんどnに改修されている。即 ち、 促音・撥音表記は日本語の表記に合わせて統一しようとしたと思われる。 (5)原刊・改修・煎刊本の全体的な改修の流れは、 原刊・改修本がほとんど同じで あるが重刊本で大きく改修されたこと(エ段音節母音部表記の巻十)、原刊本から改修 本では改修されたが重刊本は改修本とほとんど同じであること(促音表記、 消音表記の ノとザ行音)、 原刊・改修・重刊本ともにほぼ同じ程度の改修が行われたこと(エ段音 節母音部表記の巻ーから巻九まで、 濁音表記のザ行以外、 撥音表記)など三種類の流れ が見られる。 注1) 全行のエ段音節を[- ye]とする考え(ローランド・ラング1971)、ア行は[- ye]、他の 行は[- e]である考え(大友1957、森田1957)、yaにもyaiにも共通する口近化音性の考え (杉戸1989)、口辺音を積極的に認めない考え(浜田]965、安田1973)などがある。 注2) 李甚文、△は有声歯音[ z lであった。

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語音頷史研究J P30。 注3) 消失時期を十六世紀後半までと推定している(李基文、「韓国語の歴史J (大'印館奢店)参 照)。 注4)大友信一、「「掟解新甜Jに見られる濁音表記」(r言甜研究J 30、1956 • 9} 5) 安田京、

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外国沢科と中世国開」三省堂、 1990、P153参照。 参考文献 ローランド・ラング 1971 文献沢料に反映した中ii!:日本紐工列音節の口笠性

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国語学J 85 大友 侶ー 1957 「徒解新開」による国栢音の研究 「文化」 21-4

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浜田 安田 杉戸 森田 1965 弘治五年朝鮮板「伊路波J粧文対秤孜 「国語国文」21-10 F,t 1973 「三本対照 捷解新語」解題(点都大学) 消樹 1989 原刊本「捷解新栢」のエ段音節母音部への音注について 「野村正良先生受京記念百語学論集」

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三本対照 捷解新語」解遁(京都大学) 1957 (付記〉 本稲は、 第169回岡山国語談話会(平成21215日、 岡山大学) ・全国国語学会平成3年度春 季大会(平成3526日、 甲南女子大学)で発表した内容に、 大幅な修正・加策を施したも のである。 発表の1甜上、 また、 それ以上の機会にも御指荘下さいました大友伯ー先生、 辻足児 先生に原く御礼巾し上げます。 一韓国 昌1甘専l"J大学専任講師ー一 赤羽教授が退官されて早一年。時の矢は述いものである。空席になっていた助教 授の席に、 四月一日より山本秀樹氏が講師として滸任される。 上田秋成を中心に江 戸文学、 つまり近世担当である。 また、 教養部の廃止に伴って、 文学部へ配属され た方々の中で、 国語国文に三人の方が配置換えされ、 国文は一挙に六人の教授陣と なる。 近・現代文学に吉田俊彦教授と片山倫太郎踏 師、 中世に田仲洋己助教授であ る。 国語学 は教登に在藉していなかったので、 現状維持ということではあるが、 八 名の陣容とな り、 文学関係は、 古代から現代まで切れ目がなくなったと言えよう。 文学部は、 今までの購座制度から大講座制度になり、 国語国文学は、 言語文化学科 の日本語学・日本文学専攻とな る。哲学・史学・文学科という名称は、 哲学・史学 科が、 人間学科と行動科学学科と史学学科となり、 文学科は、 言語文化学科となる。 国語国文学科時代に卒業された方は、 なにか故郷喪失のような思いに躯られるかも 知れませんが、 国際化時代の中で、 大きく羽ばた<ように考えられれば、 如何で しょうか。新しい皮袋に新しい酒となるかは諸先鉗と在校生と我々の三位一体にか かっていると思うのは、 大袈裟でしょうか。 とにかく船は出帆しま した。 見守るだ けではなくかなりの努力がいるものと思います。文学部丸は、 少し大きく改造され、 船中のまじきりも変わりました。 二十一世紀の大海原を釆り切るよう、 祈ると共に 尽力しなければならないでしょう。

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