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養育費算定式に関する疑問 : 「東京家審平成20年7月31日判批」補論

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Academic year: 2021

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(1)

本論文は, 先日発表した「東京家審平成20年7月31日判批」 (1) で書くこと のできなかった, 実務において使われている養育費の計算式, (2) いわゆる 三段階の計算式に関する非常に単純な疑問に関する。審判の結果に直 結する点であるから, あわせて一本の論文に収めるべきであったが, 民商 法雑誌での掲載形式や想定字数などを考えて, 分離し桃山法学に掲載する こととしたものである。 この算定方式はすでに実務で定着しているが, この算定方式に対しては, 松嶋道夫教授による一連の業績があり, 特に, 子が手続の上で一人の人間 として扱われていないこと, 最低保障という考え方がないこと, 特に生活 保護以下のケースが頻発するのに放置されていることなど, 説得的な批判 が展開されている。 (3) また, この算定方式における義務者, 権利者など細か い用語の問題も気になる。しかし, この論文では数式の問題のみを取扱う。

Ⅰ 現 行 方 式

子供の養育費を算出するにあたっては現在, 以下の三段階の計算式> が使われている。

養育費算定式に関する疑問

「東京家審平成20年7月31日判批」補論 キーワード:監護費用, 養育費, 離婚 <研究ノート>

(2)

① 基礎収入=総収入×0.35∼0.43(給与所得者の場合) (高額所得者の方が割合が小さい) 基礎収入=総収入×0.49∼0.54(自営業者の場合) (高額所得者の方が割合が小さい) ② 子の生活費=義務者の基礎収入 × 子の指数 義務者の指数子の指数 ③ 義務者の養育費分担額 =子の生活費× 義務者の基礎収入 義務者の基礎収入権利者の基礎収入 東京家審平成20年7月31日 (家月61巻2号257頁) は, 義務者Yには350 万円, 権利者Xには250万円の年収があり, 中学生の子の監護費用が争わ れた事件であり, 審判は養育費を月額2万5千円とした。基礎収入を算定 するために夫婦ともに総収入に0.4を乗じた場合の結果 (2万4千円余) より若干高額となっている。 まず数式①については, 総収入から基礎収入を計算するための係数が, 所得が少ない場合と多い場合とで0.05 (自営業者) または0.08 (給与所得 者) しか違わない。そのため, 現状では総収入の比は①でほぼ調整されず ③の結果に大きく影響する。具体的な係数の傾斜は不明であるが, おそら く年に100万円の給与を得る者の35万円と, 年に2000万円の給与を得る者 の860万円が, 全く同じ意味を持つ数字として扱われる。 三段階の計算式の問題は, さらに②③にある。 ②において, 義務者の基礎収入のみから子の生活費が計算される。 (4) この 数式そのものを支える根拠を研究会は示していない。この数式は, ②は子 の生活費を義務者の基礎収入のみで定めるが,「義務者と子との同居を想 定した」 (5) としても, わが民法上は義務者のみが子の扶養義務を負うわけで はない。 それでいながら, ③は子の生活費を義務者と権利者で分担し合う構造と なっている。 (6) その比は①でほとんど調整されなかった基礎収入による。 義 ’11)

(3)

務者の負担は軽減されやすいこととなる。権利者が稼働していなくても稼 働可能な場合には潜在的稼働能力を推計して控除するとされるため, (7) この 義務者負担の軽減作用はさらに強く働く可能性がある。

Ⅱ 可能であったはずの計算式

 「ありえた選択肢」は例えば, ②の左辺を「義務者が負担すべき子の 生活費」とし, ③を使用しないことであると考える。すなわち②を ② 義務者の養育費負担額 =義務者の基礎収入× 子の指数 義務者の指数子の指数 に置換し, これで計算終了とする。ちなみに前掲東京家審平成20年7月31 日の場合, 基礎収入の計算はそのままにしても義務者Yの監護費用負担部 分は月4万1千円余となるであろう。  この式には, 二つの異なる家族観からの根拠づけが可能である。 一つの可能性は, 権利者は子の監護をしていることに着目し, (8) 監護を経 済的負担と等価ととらえる根拠づけである。すなわち ②子の生活費=義務者の基礎収入× 子の指数 義務者の指数子の指数 +権利者の基礎収入 子の指数 権利者の指数子の指数 であると一旦は観念した上で, 権利者は権利者負担分を自らによる監護に よって履行し, 残額を義務者が負担すると考える方式である。 (9) もう一つは, 子の生活費は両親の基礎収入から計算されるとした上で, 子の生活費を基礎収入比で分担させるという考え方である。これは, やは り②を使ったうえで, ③に②をそのまま代入する計算式③で表現され る。計算結果は②と一致する。

(4)

②子の生活費=義務者の基礎収入× 子の指数 義務者の指数子の指数 +権利者の基礎収入× 子の指数 権利者の指数子の指数 ③義務者の養育費分担額 =子の生活費 義務者の基礎収入 義務者の基礎収入権利者の基礎収入 =



義務者の基礎収入 子の指数 義務者の指数子の指数 +権利者の基礎収入 子の指数 権利者の指数子の指数



 義務者の基礎収入 義務者の基礎収入権利者の基礎収入 =義務者の基礎収入権利者の基礎収入子の指数 義務者の指数子の指数  義務者の基礎収入 義務者の基礎収入権利者の基礎収入 義務者の基礎収入 子の指数 義務者の指数子の指数 結果として権利者の基礎収入が計算式に現れなくとも, 研究会による説 明に沿っているのはむしろこの②の方ではないであろうか。

Ⅲ 結

Ⅱで述べた選択肢は, 権利者の基礎収入を0と考える場合には, 現行の 三段階の計算式と結果が一致する。しかし, 離婚するにあたってまっ たくの無職よりは可能な限りの収入を得ようとするのは, 子の監護を確保 するためにも自然な行動である。問題はまず, 総所得の高低にかかわらず ほぼ同じ係数で基礎収入を計算する点にある。いくら生活保持義務といっ ても, 課税時と同じとまではいわなくてもある程度の傾斜のついた係数を 使用しないと, 扶養義務の算定根拠として適正な結果とならない。 ’11)

(5)

さらに, 現行では子の生活費を義務者の基礎収入のみを根拠に算出して いるにもかかわらず, それを権利者の基礎収入と按分している。 このことを考え合わせると, 現行の三段階の計算式では, 権利者の 基礎収入は養育費を必要以上に強く低減する作用を持つと, 言わざるを得 ない。以上の二点に焦点を当てると, 義務者の養育費負担部分のみに焦点 を当て, さらに義務者の基礎収入計算にあたり総収入が高額の場合には係 数をさらに上げることが望まれる。 この小文では前掲東京家審平成20年7月31日に関連し, 三段階の計算の問題点だけに焦点を当てて論じたが, とりあえずの次善の策を述べ たに過ぎない。 松嶋教授が指摘しているようにこの三段階の計算式に はそのほかにも数多くの問題点がある。全体的な改善が求められる。 注 (1) 拙稿・民商143巻6号 (2011年) 751頁。 (2) 東京・大阪養育費等研究会「簡易迅速な養育費等の算定を目指して 養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案 」判タ1111号 (2003年) 285頁。 (3) 松嶋道夫「養育費裁判がおかしい」久留米大学法学51=52号 (2005年) 122頁,同「養育費裁判の現状と改革への課題」久留米大学法学56=57号 (2007年) 191頁, 同「子どもの養育費の算定基準, 養育保証はいかにあ るべきか」久留米大学法学64号 (2010年) 1頁。 (4) 前掲注(2)・286頁には「養育費の算定は, 義務者・権利者双方の実 際の収入金額を基礎として行う」とあるが, 右辺に出てくるのは義務者 の基礎収入のみである。 (5) 前掲注(2)・288頁以下。 (6) この点に関しては同所では「養育費は両親が収入に応じて分担すべき であるから」とあり, 説明に矛盾はない。 (7) 前掲注(2)・292頁。 (8) 前掲注(2)・285頁。 (9) 参考・ドイツ民法1360条「配偶者は互いに, 労働と財産によって家族 を適切に扶養する義務を負う。もし一方の配偶者に家事遂行がゆだねら れているならば, その者は労働により家族の扶養に寄与する義務を, 通

(6)

常は家事の遂行によって履行する。」, およびシュバープ (鈴木禄弥訳) 『ドイツ家族法』(創文社, 1986年) 82頁以下。

参照

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