はじめに タブレット端末を用いた体育授業の取り組みは,ICT機器の整備とともに広がりを見せて いる。平成29年に公示された小学校学習指導要領,指導計画の作成と内容の取り扱いにおい ても,積極的な活用と各分野の特質に応じた学習活動を行うことができるように工夫する ことが示された。ICT活用が教科の学習活動に広がる中で,体育におけるタブレット端末や ICTの活用は,他教科と比較して著しく低いことが報告されている。その理由としてあげ られているのは,「機器の準備や移動が大変である」,「タブレット端末などを用いても成果 (主に技能)が上がるか疑問である」,「教師自身が機器を扱うことが苦手である」である。 こうした現場の教師があげる理由以外にも,屋外での授業は直射日光,強風,砂ぼこり,突 然の雨などに対しての配慮をしなくてはならないこと,体育館や屋外では無線LANの電波 が届くように整備されていない場合が多いため,教師機とのアクセスが出来ないため教師機 を通してのデータの配信,収集,教材提示などのタブレット端末の持つ機能が使用できな いことも,体育授業でのICT活用を阻害している要因である。こうした背景もあり,タブ レット端末を活用した体育科の先行研究は,天候に左右されない,比較的機材の準備がし易 い体育館での運動を対象とした事例が多く,対象学年も機器の操作に慣れてきている小学校 中学年以上が大部分であり,低学年や幼児での活用は見られない。 また,先行研究のタブレット端末の活用方法は授業内での運動場面の録画をし,その録画 映像を授業中に児童が(個人またはグループで)見て,技能課題の自己評価,運動比較,課 題遂行状況の振り返りなどの学習をした成果を検討する方法である。あるいは,撮影した画 像と予めタブレット端末に保存してある見本となる動きや演技の画像と自分の動きや演技 と比較して,その差異を検討し,どのような動きや演技が良いのか,自分の動きや演技は どこを直すべきかを考えたりする活用も見られるが,この活用方法も授業内での映像による ⑴
小学校体育授業における思考・判断を促す
タブレット端末活用の実践的研究
上 條 眞紀夫
※※総合福祉学部 准教授
フィードバックを意図した研究と考えられる。 このように授業内で映像を撮影し,その映像を基にグループで話し合う形態のタブレット 端末の活用事例は数多く進められている。これらの研究は,自分のパフォーマンスを即時に 見ることによってフィードバックを得られる利点がある一方,「機器の操作に翻弄される姿 が見られる」,「一部の児童がタブレット端末を操作し他の児童は画像を見ることができな い」,「タブレット端末を用いることでお互いの動きや演技を見なくなる」,「タブレット端末 を操作したり,見たりする時間が多くなり,運動学習の時間が確保されない」,「運動技能の 低い児童がタブレット端末を操作する時間が多くなる」,「タブレット端末で撮影したがる児 童は運動技能が高い子の方が多く,技能が低い児童は撮影する側になり,自分は撮影されよ うとしない」,「タブレット端末の操作に専念して運動を回避する児童が見られる」といった 研究報告もされている。 こうした中で,タブレット端末を用いたICT利活用の方法として,反転授業の考え方が 注目されている。反転授業は,通常の授業の流れを反転させた授業の進め方である。通常の 授業が「運動に取り組む→運動を撮影する→画像を見て課題を発見する→課題に取り組む」 であるのに対して,反転授業は,前時に撮影した画像を授業時間後好きなときに見て反省や 分析を行い,次時の課題を見つけておくため,授業では「課題に取り組む」ところから授業 がスタートする。グループ活動を主とするボール運動などでは,分析結果で分かったことや 次時の課題について,画像を見ていない他のグループ児童に伝える学習をこの後に行う場合 が多い。反転授業では,その場で映像を見ることによる即時フィードバック効果はなくなる が,映像の読み込みや再生などの機器の操作の時間を取らなくても良いため運動時間を確保 できる,映像を見る際には時間を気にせずに何度でも画像を見返したり分析したりすること ができる。 反転授業の先駆的な研究として,鈴木(2016)らの研究があげられる。この研究では,撮 影した画像を授業後にグループで給食の時間や休み時間に見て分析,課題発見,次時の課題 を設定といった学習を行うだけでなく,順番でタブレット端末を持ち帰り,自分の課題解決 学習を「宿題」として行う。この学習活動は,単にタブレット端末を使った課題解決学習に 留まらず,自主的で主体的な学習態度の育成,家庭での体育授業映像を通した体育学習を介 しての保護者との学び,日常の体育活動や学級経営への保護者の理解を深めるといった,学 校内の授業だけでは得られない教育効果を生み出すことができる。もちろんタブレット端末 を家庭に持ち帰らせるためには万一の機器の破損,修理,LAN機能の制限,家庭の理解と 啓蒙など,様々な手立てが必要であるが,スマートフォンやタブレットといった現代の急速 なICTの普及速度を見ると,体育授業における反転授業のみならず,教育現場でのさらな るICTの利活用は急がれる課題である。またICTを取り巻く現代の社会情勢,新学習指導 ⑵
要領に示された資質・能力の育成の観点から,児童がタブレット端末を活用した自主的・主 体的に学習課題に取り組む体育授業モデルの作成は急務である。 Ⅰ.研究目的 本研究は小学校2年生の校庭で実施される体育授業において,タブレット端末を用いた反 転授業によって児童自らが授業課題について考え次時の課題を発見する学習に取り組んでい く実態を把握し,タブレット端末を活用した思考・判断を促す体育授業の在り方を検討する ものである。 Ⅱ.研究方法 1.対象学年及び児童の実態 本研究は,2019年3月5日から3月15日に実施された神奈川県K小学校の第2学年のクラ ス(男子17名,女子15名,計32名)を対象とした。全6回の授業は,担任の教師が全て担当 した。授業者の担任A先生は,教職経験年36年のベテラン教師であり,保健体育の中学校, 高等学校の教員免許を持ち,体育の研究会や学会などにも定期的に参加している体育指導に 多くの知見をもたれている先生である。 対象児童らは,パソコン室で文章を作成したり,はがきの絵を作成したりするパソコンを つかったICTを操作する学習は経験しているが,タブレット端末をグループや個人で活用 した授業はこれまでに受けたことはない。そのため,タブレット端末の操作は,カメラ撮影 やその再生について3月8日の第2時の前の時間に操作方法の説明を行い,実際にタブレッ ト端末を操作する時間を1時間設けた。操作練習の内容は,タブレット端末の起動→撮影→ 保存までの操作方法を指導した。この操作ができるようになった後,撮影した画像ファイル の読み込み→再生(一時停止,見たい場面の巻き戻し,繰り返し再生)の操作を指導した。 この一連の操作を1人30秒程度,友だちの姿を撮影し,その映像に日付をつけて保存,呼び 出して再生するという手順で全員に行わせた。タブレット端末の授業研究を実施した三浦ら が指摘するように「機器の操作に翻弄される姿」を危惧したが,小学校2年生の児童は1時 間の操作説明と練習によって,タブレット端末の操作を理解できていた。対象クラスの児童 が話をしっかりと聞き,授業準備を素早く行う学習規律が確立していたことも短い時間で操 作の説明を行うことが出来た要因ではあるが,現代の子どもたちにとってタブレットはスマ ホなどと同様に身近なツールであった。 学習規律が整っているクラスではあるが,帰国子女2名,ADHD傾向の児童が2名在籍 しているなど要支援児童が数名いるため,体育の授業のみならず,計画通りに授業や活動を 進めることや協働学習をスムーズに行うことには困難を有しているクラスである。 ⑶
2.対象授業の学習財 本研究において児童に指導された教材は,「ダンクボール」である。ダンクボールは, ゴール型ボールゲームである。セストボールゴールを低学年児童の身長より低い80cmに設 置し,ボールをゴールの上から両手で持ったままダンクシュートのようにシュートできる。 シュート局面を容易にすることでゴール近くでボールをもらえれば誰でもシュートが決め られるゲームである。(さらに,ボールを持って3歩歩くことが出来,守りは攻める児童の シュートを防いではいけないルールのため,ゴールの近くでパスをもらうことが出来れば確 実に得点出来る。)ダンクボールでの課題は,ゴールの3歩以内距離の場所でパスをもらう 動きがわかり,その場所でパスをもらうことである。特別なシュートの技能を必要としない ので,児童の学習課題は,ゴール近くでパスをもらうにはどこで待つか,どのように動いた ら良いかを映像などを通して発見し,プレーに活かそうとすることに焦点化されていた。そ のため,ゲームの経験が少ない低学年の児童ではあるが,タブレット端末で撮影した自分 たちの試合の画像を児童が見た場合,課題を見つけやすいのではないかと考えた。ゲームの ルールは以下のようである。 ・人数 攻めが4人(第3時より3人に),守りが2人 ・攻めと守りの攻守交代制 2(3)分間攻めて2(3)分間守るを2回行い,全員が試合に出 る。 ・コートの広さ バスケットコート半面より一回り狭い,縦約7m,横約7m ・ハーフコートのスタートエリアから相手のプレイヤーにパスをして返球してもらったら攻 撃を始める。 ・ボールを持って3歩は歩けるが,ドリブルは出来ない。(パスのみで攻める) ・相手の体に触らないようにボール保持者と腕の長さくらい離れて守る。 ・押したり,叩いたり危ないことはしない。 ルールを教師が全て決めるのではなく,子どもたちの実態,必要感に応じてルールを修 正,補足させるように授業は進められた。 3.指導計画と学習内容 運動学習の指導時間は,全6時間である。(タブレット端末の操作の時間を体育の時間以 外に情報教育の時間で1時間設けた) 第1時 オリエンテーションと試しのゲーム(約30分 ビデオ撮影,形成的授業評価は実 施せず) ダンクボールのゲームの行い方をクラス全体で学び,試しの4対2のゲームを全チームに 順番で行わせた。他のチームがゲームを行っているときには,全員でゲームを観察し,ゲー ⑷
ムの課題を見つける学習を行った。タブレットによる撮影を児童は行わず,教師が撮影を行 い,授業後に児童とゲームの様子を見る学習を行った。 第2時 投捕の技能を向上させるための対面パスの後,4対2のメインゲーム (児童がタブレットによる撮影を初めて行った時間) 投補の技能がまだ未熟なため,相手の胸に取りやすいボールを投げること,胸でしっかり ボールを受け止めて捕球することの2点が指導された。メインゲームはシュート出来る場所 でパスをもらうためにはどのように動くかを課題としていた。 第3時 チームでの3対3の対面パス,4対2のメインゲーム ドリルは2人での対面パスから発展させ,3対3でパスをしたら反対に走ることを加えた パスゲームを行った。30秒間に何回パスできるかという課題を設定し,ドリルゲームを行っ た。メインゲームでは,シュート出来る場所やパスのもらえる場所に動くことが学習課題と されていた。 第4時 チームでの対面パス,4対3のメインゲーム 投補の技能を高めるドリルゲームは前時と同じ。メインゲームは守りが1人増え3人とし たため,引いてゴール付近を守るだけでなく,パスカットに動くこともできる。守りが1人 増えたことにより,攻めはスペースで待ってボールをもらうことが難しくなるので,パスを した後ボールをもらえる位置へ動くことが課題とされていた。 第5時 2人での対面パスとチームでの対面パス,4対3のメインゲーム オーバースローでしっかりと投げる技能を育てるために実施した。チーム対面パスは,正 しくパスして走る動きを高めることをねらい,チームで新記録を出すことを目標に取り組ま せた。ボールのもらえる位置へ動く前時の課題を達成するためにパスをしたら走る,声を出 してもらう,動いてパスをもらうことが課題とされていた。 第6時 チーム対面パス,学習のまとめのゲーム 総当たり戦を行う時間を確保するため,チームでの対面パスをドリルゲームとして行い, メインゲームへ移行した。対面パスも投補の技能が向上したので,1m程度距離を遠くして 行ったが,クラス全体のパス合計は新記録であった。メインゲームは学習したことを活かし て行うと共に,パスを繋いでシュートできるようにパスの受け手と出し手がお互いに声を掛 けることが教師から提示された。 4.資料の収集と分析の方法 (1)タブレット端末によるゲーム様相の撮影 クラス児童を6グループに分け,各グループに1台タブレット端末を配布し,ゲームでの 試合状況を録画させた。撮影する位置は教師から場所,角度,画像の大きさなどを指示し, ⑸
2人で交互に撮影させた。1グループの人数は4人から5人なので,守備側のチーム児童 がタブレット端末でゲームの録画を行った。タブレット端末の撮影,及び画像分析,両方と も,各グループの2名で順番に行うアロンソンの責任学習モデルの考えに倣って交代で全て の児童に行わせた。順番に撮影,分析を行わせた理由は,運動技能に大きな差があることが 通常である小学校の体育授業においては,技能が高く知識のある一部の児童の意見によって 分析や課題の発見が行われてしまっていたり,撮影を特定の児童が行っていたりすることが 多く見受けられるためである。責任学習モデルはジグソーと呼ばれる学習モデルで,全ての 学習者が何らかの責任課題を担い,その課題に関しての回答を作成する時間をエキスパート 活動とし,エキスパート活動で作成した回答をグループ全員に伝える(ジグソータイム)学 習活動である。 (2)録画したゲーム様相を児童はどのように分析したのか 録画したゲーム様相の分析を担当する児童は,毎回違うペアの児童が行った。授業後にタ ブレット端末の画像を見て,攻撃では,得点を入れていた友だちは,どのような動きをして いたか,どこでボールをもらえると得点しやすいかの2点,守備では,得点を取らせないよ うにするには,どのように動いたらよいでしょうかについて,タブレット端末を見ながら話 し合い,考察をグループ学習ノートに記述した。その考察はエキスパート活動でグループの メンバーに伝えられ,次の試合の動きの課題として確認された。 この学習過程における分析担当の2名の児童が記述したグループ学習ノートの内容を基に 話し合いをすることによって,児童の思考・判断力が育まれていたかを検討した。また第3 時のタブレット端末の画像分析(分析の2回目)は全グループお昼休みに一斉に行わせたた め,ゲーム画像分析を行っている児童の会話と様子をビデオで収録し,どのような話し合い がなされていたか,グループ学習ノートと合わせて資料とした。 (3)ダンクボールの単元終了時のタブレットをつかった体育授業についての児童の評価 全授業終了後に,8項目の質問からなる「タブレットをつかった体育のべんきょうのふり かえり」のアンケート調査を実施し,児童のタブレット端末を用いた授業の効果について分 析した。質問項目の回答は,「はい」,「いいえ」,「どちらでもない」の三択とし,8項目の 質問以外に「体育の学習でタブレットをつかったかんそうを教えて下さい。よかったこと, こまったこと,何でもいいです。」の自由記述欄を設け,授業終了時の意識を分析する資料 とした。 ⑹
(4)教師行動と授業の実態 体育授業での学習の実態,教師行動を把握するため教師にワイヤレスマイクをつけてもら い教師の音声を記録するとともに,学習活動の様態を記録するため,ビデオカメラで授業を 撮影した。 (5)形成的授業評価 授業後に9項目の形成的授業評価アンケートを実施し,授業の成果の指標として毎時間, アンケート調査を行った。 Ⅲ.分析結果と考察 1.タブレット端末によるゲームを撮影した児童の実態 タブレット端末を活用した授業経験の全くない小学校の2年生の児童が,屋外での体育授 業で自分のチームのゲーム様相をきちんと撮影出来るかが授業前の最大の心配事であった が,児童は決められた場所から(撮影ポイントは教師が予め指定し,カラーコーンを立てて おいた),カメラを手で隠さないような持ち方で2分間,コメントをペアの子と言いながら, 全員が順番に行うことができた。先行研究では「機器に翻弄される姿が見られた」と高学年 の実践でも報告されていたが,タブレット端末を使う授業場面を限定し,撮影をさせること で,低学年の児童でもタブレット端末を使った体育授業を展開することが十分に可能である ことが示された。 また今回の研究は屋外での授業であったため,タブレット端末を活用するには困難な状況 が何点かあった。第1には太陽光の向きが授業時間によって変わるため,毎回同じ場所から の撮影は出来なかったため,午前と午後の授業では撮影場所を変える必要が生じた。第2に は,砂ぼこりと強風により,タブレット端末や学習カードを入れてあった各班のかごが飛ば されてしまったり,タブレット端末の画面が砂だらけになってしまったりした。第3には直 射日光が当たると画面が見にくく,操作ができなくなる場面があった。こうした悪条件が あったにも関わらず,2年生の児童は,ゲーム場面の撮影をすることが出来ていた。体育授 業は屋外で行う授業が多いが,活用する場面や指導方法を教師が工夫することでタブレット 端末やICTを使った体育授業を日常的に行うことは可能である。 児童が撮影の際に戸惑っていたのは,タブレットを立ち上げる際に入力するIDとパス ワードがローマ字(shukutoku)であったため,アルファベットを読めない児童が戸惑って しまった。そのため,アルファベットをキーボードのひらがなに置き換えてパスワードを入 力させて対応した。(s→と,h→く)こうした問題が生じつつも,児童のタブレット端末 を用いた授業は計画通りに進められることが出来たことは,屋外や教室外でも,低学年の児 ⑺
童がICTを使った体育授業を行うことが出来ることを示した。 2.ジグソー学習における児童のゲーム画像の分析 表1から表6は,各班のゲームを分析した児童2名が授業の攻め方,守り方の課題を基に タブレット端末に録画されたチームの試合映像を見て,教師が提示した課題を解決するには どのような動きをしたら良いかを考え,話し合って学習カードに記述した内容である。 1班の児童が画像を見て分析した記述を見てみると,ボールを持っていない動きとして, 守りのいないスペースに動くことが必要であることを指摘した記述が,第1時間目と第2時 間目の分析に見られる(二重下線の文)。しかしその後の時間の記述は,固まらないといっ たポジショニングに関する抽象的な分析に留まっており,他の児童との意識の共有は見られ ていない。毎時間分析に表れる記述は,ボールの投げ方に関する記述(波線下線の文)で あった。児童の投捕の技能はまだ定着しているとは言えないため,味方に捕れるボールを投 ⑻ 表1 1班のタブレット端末のゲーム画像を見た児童が記述したゲーム分析の記録 攻め方について 得点を入れた友達はどんな動きをしていましたか どこでボールをもらえると得点しやすいか 守り方について 攻めるチームに得点を取らせないようにす るには,どう動いたらよいでしょうか 7日 1時 守りがいないところに攻めが行って,(そこに)ボールを投げる のぞみさんの攻め方が上手かったです 8日 2時 もう少しボールを投げる力を緩めた方が良い早く動いて味方の近くにいて得点をとれた 素早く相手の動きを見比べていた 12日 3時 攻める方は固まらない方が良いよ高く投げすぎ 強すぎてパスが上手くいかない。強く投げな い方が良い みんなが広がっている 13日 4時 相手のロングパス作戦が良くききました 14日 5時 固まらないパスが高い ボールを蹴っていた カットが上手になった ならんでいる 15日 6時(味方同士で)サンドイッチをしている相手に囲まれている ボールが高い ロングパスをしているがパスが成功していな い ロングパスやりすぎ 6班 すばやく かたまりすぎ (守りを)さぼっている人がいた すきまを明けていた キャッチができていた うしろが守れていない 前に固まりすぎ
げないとパスがつながらないと分析したのであろう。動き方の問題よりも個人のスキルを問 題視していることが伺える。 2班の児童は,画像を見ながら感想を言ったり何度か画像を巻き戻したりしながら,活発 な話し合いをしていた。記述した内容で多かったのは,1班と同じくボールの投げ方に関す る内容である。空いている空間についての記述は,固まらないといった現象をそのまま記述 している記述が多く,固まっているからどう動いたらいいのか,どうしたらいいのかという 具体的な分析には深まってはいない。気づきのレベルではあるが,同じところにいない,人 のいないところがあるといったオープンスペース,有効空間に関しての記述も有り,こう した気づきから思考・判断を深めることが望まれる。「パスがつながっていた」はチームプ レーや戦術・作戦に関する記述である。ゲーム経験の少ない低学年の児童がチームの課題や 作戦内容に画像を見ただけで気づくのは難しいと思われたが,1時間目の児童はパスのス ムーズなつながりに着目できていた。 ⑼ 表2 2班のタブレット端末のゲーム画像を見た児童が記述したゲーム分析の記録 攻め方について 得点を入れた友達はどんな動きをしていましたか どこでボールをもらえると得点しやすいか 守り方について 攻めるチームに得点を取らせないようにす るには,どう動いたらよいでしょうか 7日 1時 広がってボールをもらう少し高く投げる 高くジャンプ(してボールを捕球)する 8日 2時 高く(ボールを)あげすぎの人がいました。もうちょっと下げた方がいいです うろちょろしすぎだから,なかまから(パス を)とってパスするからうろちょろしていた ら得点が入らない 同じ場所にいてもカットはできない 12日 3時 少し固まっていた高く投げすぎていた 後ろにいすぎたときもあった,前に固まりす ぎていたときもあった みんなよく動けていた 縦にならんでいた(ので),横にならんで 守る 前にいすぎ(て守ってい)た,(ので)前 と後ろにいて守る 13日 4時 パスをもらったらすぐに投げないといけないと思いました。みんなが同じ所にいるから, また今度はおんなじ所にいないといいなって 思いました。だけど前よりはよくなったなっ て思いました 守るのもいつもよりすごく上手くなってき ました 14日 5時 みんな周りをよく見ていないので見た方が良いと思う。人がいないところがある こわがって(ボールを)捕れないみんなボールの動きを見ない 15日 6時 パスでシュートしていたパスがつながっていた 点をたくさん入れていた
3班の記述も,ボールの投げ方や取り方を主とした投補に関する事実の記述が多い。ボー ルに固まらないことやボールからもう1人が離れるという記述も見られるが,どこへ動く か,どのような動きをしたら良いのかといったチームの次の作戦や課題につながる記述には 至っていない。 4班の記述も個人のボール操作や投補に関する記述が多いものの,空いているスペースに 捕球できるように投げることや前後,左右に動いてボールをもらおうとすることが大切であ るといった次時のチームのめあてや作戦に発展させられる具体的内容を書くことも出来てい た。このような分析→チームへの伝達→次の試合のめあての確認の学習がされていたこと が,「みんなで動く」「みんなで協力しないと」といった5時間目の分析につながり,6時間 目の「うまくパスが出来てゴールを入れられた」というプレーを引き出せたと見られる。 5班は4班の記述の中に「5班のパスがうますぎてカットがあまり出来なかった」と書か れているように,チームでパスをつないで攻めることが出来ていたチームである。「守りに マークされていないもう1人が斜め前や後ろ斜めでもう1人が攻める」や「相手のいない方 へパスをつなぎながら攻める」など,トライアングルバスを意識した記述やパス交換をしな がらゴールをねらうといったチーム全員で攻めようとする意図が毎時間の記述から伺える。 分析するペアの児童は毎時間変わるにも関わらず,分析視点が一貫しており,ジグソータイ ムでの話し合いによる意思疎通が機能していたことがうかがえる。さらに作戦への意識が良 ⑽ 表3 3班のタブレット端末のゲーム画像を見た児童が記述したゲーム分析の記録 攻め方について 得点を入れた友達はどんな動きをしていましたか どこでボールをもらえると得点しやすいか 守り方について 攻めるチームに得点を取らせないようにす るには,どう動いたらよいでしょうか 7日 1時 軽く投げる1人がゴールの所へ行って(いるが)もう1 人が遠いから,上手くいかなかった 8日 2時 やさしく投げること (あいてが)いないところに投げる 12日 3時 パスが上手くいってよかった胸の所にボールを投げられなかった 13日 4時 かたまらない強く投げない 遠くに投げない 1人1人が違ったところに立って(守って) いる 14日 5時 高く投げすぎ強く投げない 15日 6時 1人が奥にいてはパスができない
く現れているのは6時間目の「△で攻める・△で守る」,「ジグザグにパスをして」といった 1人1人がどのように動くかを具体的に記述している表現である。教師の分析の視点を理解 し,共有できていたことが次の試合のプレーにつなげることが出来たと見られる。さらに4 班の第3時の記述に書かれていた「Hくんがタブレットで撮影をしながら声かけをしていた のでまねをしたい」を第5時に「相手が声かけをしていたので私達もやってみたい」とチー ムメイトに伝え,第6時には「声かけができました」と画像分析の気づきを次時の活動に活 かしている。タブレットをつかったペア学習が有効に機能していた事例と言えよう。 ⑾ 表4 4班のタブレット端末のゲーム画像を見た児童が記述したゲーム分析の記録 攻め方について 得点を入れた友達はどんな動きをしていましたか どこでボールをもらえると得点しやすいか 守り方について 攻めるチームに得点を取らせないようにす るには,どう動いたらよいでしょうか 7日 1時(場所に)投げる上に投げるとダメ。キャッチ出来るように 8日 2時(画像を)見てたら,全部が易しく投げない強く投げすぎた。最初はやさしく(投げる) と上手くいかない。でもうまくキャッチはし ていた 人の胸に投げていた 上手に投げていた 私達のチームがボールを持ちながら10歩歩い ていた 12日 3時(パスを)すぐ投げていなかった遠いところへ投げる かたまっていた Hくんが動画をとりながらサポートしていて 分かりやすかった ジャンプしてボールをカットしていた 13日 4時 近くで思いっきり投げていた遠くに投げない 1カ所にかたまっていた横が空き空きだった 14日 5時 やっぱかたまっている遠くに投げ過ぎてパスが上手くいかない ボールを持ちすぎ 歩きすぎ 左か右か前か後ろに動く みんなで協力しないとカットとかパスがいか ない みんな動く 作戦が上手くいかないと出来ない 5班のパスが上手すぎてカットがあまり出 来なかった 15日 6時 かたまっている 声をかけるとかたまらないかなあ うまくパスできて,ゴール入れられた 守りがゴールの入ってはいけないところに 入っていた 守りが上手だった
6班もボールの投げ方や投補に関する記述が見られるが,投げ方だけで無く,パスの出す 方向や投げる位置などに注目している。パスをつないで攻める班と対戦したことにより,相 手チームのパスの動きを見て自分たちの分析に取り入れたと見られる。第2時の「パスをし たら,すぐ前へ行く」の記述は他の班には見られない記述であり,次の試合への有効な改善 点であった。しかし,この記述がチームのエキスパート活動でチームメイトに上手く伝わら なかったため,次の試合でのプレーを改善することにはつながっていなかった。しかし,パ スに関しての記述はこの後の児童も毎時間記述しており,パスがこのゲームで重要なスキル である意識はチームで共有されている。反面,空いている場所へ動くことやポジショニング についての気づきは固まらないといったレベルの分析に留まっている。 ⑿ 表5 5班のタブレット端末のゲーム画像を見た児童が記述したゲーム分析の記録 攻め方について 得点を入れた友達はどんな動きをしていましたか どこでボールをもらえると得点しやすいか 守り方について 攻めるチームに得点を取らせないようにす るには,どう動いたらよいでしょうか 7日 1時(守りにマークされていない)もう1人が前斜めや後ろ斜めでもう1人が攻める どんどんパスをする 敵とボールを見る 8日 2時 相手がいない方にパスをつなぎながら攻めることができていなかった(相手が近くにいる としたら遠くの方にいるなかまに投げる) 大きく投げすぎて外に出てしまう 早く投げる 12日 3時 最初に投げようとすると攻め守りがつながっていた (相手が)投げても角に1人でもいればキャッチすることが出来る 13日 4時 細かくジグザグにパスをして相手をかわす奥にいる人がゴールに近いので奥に投げる 相手にマークをしているとき,相手から離れない 14日 5時 相手が声を出していたから,私達もやってみたいです ちゃんとパスができた ちゃんと△で守れていた 自分がちゃんとカットできた ちゃんとゴールを守れていた 仲間もちゃんとカットできていた 15日 6時 声かけが出来ましたパスが上手く出来ていた いつも言っていることなんだけど仲間とかた まっている 作戦は△で行くと言っていたのにバラバラ Rさんがボールカットをいっぱいしてたの でよかったです 押した,押していないで言い合いになって いた
3.ダンクボール単元終了時のタブレットをつかった体育授業についての児童の評価 授業終了後に児童に実施した「タブレットをつかった体育のべんきょうのふりかえり」の 8項目のアンケートから,タブレットを使用した授業についての実態を把握しようとした。 アンケート調査は8項目の質問と,「体育の学習でタブレットをつかった感想を教えて下さ い。よかったこと,こまったこと,何でもいいです。」の自由記述欄である。8項目のアン ケート調査は児童のタブレット端末を用いた授業に対しての「技能の伸びや課題の発見など の成果」次元の項目(問3.6.8),「タブレットの画像分析を通した友達との教え合いや 学び合いなどの学び方」の次元の項目(問2.4.5),「タブレット端末を使った学習に 対しての意欲や関心」の次元の項目(問1)の3次元で構成されており,タブレット端末を 使った児童の単元終了後の実態を知る手がかりとした。問7は学習成果とは関係しない質問 であるが,今回の研究対象児童が低学年2年生のタブレット端末の機器操作についてどのよ うに感じているか,実態を把握するため,特別に設定した。8項目のアンケート調査結果の 集計,及び,自由記述欄に書かれた児童の記述は表7の通りである。 「タブレットをつかった体育授業」について授業後の調査結果を見ると,タブレットを ⒀ 表6 6班のタブレット端末のゲーム画像を見た児童が記述したゲーム分析の記録 攻め方について 得点を入れた友達はどんな動きをしていましたか どこでボールをもらえると得点しやすいか 守り方について 攻めるチームに得点を取らせないようにす るには,どう動いたらよいでしょうか 7日 1時 遠くからパスをしすぎた歩いていた キャッチが出来ていた 8日 2時 パスをしたら,すぐ前へ行くボールを高く投げる ジャンプしてキャッチする 12日 3時(味方同士が)少し離れた方が良い仲間がくっつきすぎ みんな後ろに集まりす ぎもあるし,前に固まりすぎていることもあ るし,ゴールに固まっていることもある 守りの人が後ろにいすぎ みんなよく止まらないで動いている 13日 4時 パスが悪かった パスの投げる位置が悪かった ずっと同じ場所にいた 14日 5時 高く投げすぎもうちょい軽く投げた方が良い ロングパスをしすぎ 攻めがラインから出て しまっている 攻めが止まっている 広がっていてO.K 15日 6時 ロングパスをやりすぎ素早く(動く) かたまりすぎ (相手のパスを)キャッチ出来ていた 後ろが守れていない 前に固まりすぎ
⒁ 使った体育学習は楽しかったとほぼ全員の児童が回答している。また成果の次元,学び方の 次元,両方とも80%以上の児童が肯定的に回答している。全ての児童にタブレットを活用し た体育の授業の効果を感じさせることは出来ていないが,一定の成果を上げることが出来た と言える。しかし,タブレットの画像を見て,友だちと協力して課題を見つけたり,気づけ たりしているが,見つけたことや分析したことを友だちに伝える力が不足していることも明 らかになった。伝える方法やその手立てについて今回の授業では班ノートに記述した言葉に よる伝達だけであったので,2年生の児童が伝えやすい手立てや方法についての支援のあり 方を考えるべきである。また,タブレットの操作について難しいと感じている児童が多く見 表7 タブレットをつかった体育のべんきょうについてのふりかえり 授業後の調査結果 タブレットをつかった体育学習の感想 N=30人 ◎今回のタブレットをつかった体育のべんきょうについてのふりかえりです。 下の1~8について,どう思いましたか。あなたのきもちにあてはまるものに〇をつけてください。 1.タブレットをつかった体育のべんきょうは楽しかったですか 2.タブレットを見ながら友だちと話し合ったり考えたりできましたか 3.タブレットを見て「そうか」とか「わかった」といったことを見つけられましたか 4.タブレットを見てわかったことを友だちに伝えようとしましたか 5.タブレットを見てわかったことをじゅぎょうでやってみようとしましたか 6.タブレットを見て自分のめあてやかだいを見つけることができましたか 7.タブレットのつかいかたは,むずかしかったですか 8.タブレットを見て友だちのいいプレーを見つけることができましたか 表8 「タブレットをつかった体育学習の感想」の次元別の集計 N=30人 タブレットに関する 質問項目のカテゴリー はい いいえ どちらでもない 成果 問3 新しい発見 26人 * 3人 1人 問6 めあてや課題の発見 23人 5人 2人 問8 良い動きへの気づき 24人 5人 1人 協力 問2 話し合い・学び合い学習 25人 * 4人 1人 問4 表現力・伝える力 22人 6人 * 2人 意欲・関心 問1 楽しさ 29人 * 1人 0人 問5 分かったことを試そうと する姿勢 26人 * 4人 0人 操作について 問7 操作の難しさ 22人 8人 * 0人 *注目すべき解答数値
⒂ られたことは,この授業を計画する段階で想定された問題ではあるが,機器の操作に関する 問題は,体育学習だけでなく,他の学習場面での日常的なタブレット端末活用によって改善 していける問題であると思われる。その反面,タブレットを使った体育の授業は楽しい,ま たやってみたいと参加した児童の全員が回答しており(いいえと回答した1名の児童は見学 児童),タブレットを使っての分析に学びがあったと答えている児童が全体の80%を越えて いることから,小学校2年生にタブレット端末を使った校庭での体育授業は,十分成果を上 げることが出来ると言えよう。調査用紙の欄外に設けた自由記述欄に書かれた児童の感想は 表9の通りである。 表9 「タブレットをつかった体育授業」について授業後の自由記述 1-1 よく人の手がえいぞうにでていて,よくわかりませんでした。 1-3 楽しかった。 1-4 みんなでやってきてたのしかったのでよかったです。 2-1 さいしょはタブレットをつかうとき,むずかしかったです。だんだん慣れてきました。で もタブレットをつかうとき,けんかをするときがありました。 2-2 タブレットをはじめてつかった時,ちよっとむずかしかったけど,いがいにかんたんでし た。こまったことは,とる時にゆびがうつってたけど,今はじょうずにできるようになり ました。 2-3 タブレットをつかったとき,むずかしいとおもったけどいがいにかんたんでした。 2-4 はじめむずかしかったけど,なれてきたら,つかい方がうまくなりました。 2-5 タブレットはこわれやすいんだ。タブレットってふくざつだなあ。 2-6 はじめはわからなかったけど,わかったときは楽しくてかんたんでした。またつかいたい です。 3-1 ゆれちゃったり,ゆびがうつっちゃったり。 3-3 (タブレットをつかって)パスがつづくようになった。 3-4 タブレットのパスワードを入力するのがむずかしい。 4-1 おもしろかったです。みんなきょうりょくできてよかったです。タブレットがおもしろ かったです。 4-2 タブレットを見て自分のなおさなきゃいけないとこがわかった。 4-4 タブレットをつかうべんきょうははじめてだったから楽しかった。 5-1 いいプレーをできていてよかった。またやりたかった。 5-3 みんなのうごきを見たり,さつえいするのが楽しかったです。 5-5 とっている人のよく手がうつっちゃうのでそこをなんとかなおしてほしかった。 6-2 はじめてつかったから,むずかしかった。自分がうごかないでとるのがむずかしかった。 6-5 パスワードがむずかしかった。
⒃ 自由記述の感想には,タブレットの操作が初めてであったことから「操作に慣れるまでが 大変であった」といった感想が多かったが,もう使いたくないといった大変さではない。6 時間の授業後には「慣れると意外と簡単でした」,「上手に出来るようになりました」といっ た表現に変容しており,タブレットを使うことには前向きである(自由記述の回答を全員 に書いてもらえなかったのは,最終日の翌日が卒業式のためである)。児童はスマホやタブ レットが家族や社会で日常的に使われていることを見ている世代のため,ICT機器に触れ, 使いこなしていく技能を身につけたいという好奇心,探究心は旺盛であると感じた。実際, 画像分析をしている際に「スマホと似ているね」,「家で使ったことがある」といった会話も 所々で聞かれた。自由記述の中で,下線が引かれている感想は,タブレットの画像を使った ジグソーによるペア学習の効果を評価している感想である。こうした感想数は相対的には多 くないが,こうした児童の感想を増やしていく指導を展開していくことによって,児童1人 1人の思考・判断する力を高め,思考・判断した内容を伝えようとする学習へ発展させてい けると考えられる。そうした資質・能力の育成にタブレット端末は様々な学習指導法を用い て,貢献できる学習機器であると言える。 4.形成的授業評価と授業の実態 表10は第2時から第6時の児童による形成的授業評価の結果である。第1時は2年生の児 童が初めて行うダンクボールの教材説明と授業の進め方を学ぶオリエンテーションの時間と して実施したため,形成的授業評価は実施しなかった。形成的授業評価は,体育授業を診断 的評価する際の指標として用いられているので,タブレット端末を活用したことによる学習 成果を直接表してはいない。形成的授業評価は,授業全体で育てられる「知識や技能の習得 などの成果」,「体育への関心や意欲を高める情意」,「主体的・自主的な学びに向かう姿勢」, 「仲間との教え合いや学び合い」の4次元を通して授業を振り返る評価法である。 単元全体を概観すると,第2時は5段階評価で5,第3時から5時は4と評価されてお り,よい体育授業であった。一般的には単元後半に向けて評価点は向上するのであるが,今 回の授業は第2時でやや低下し,第6時では大きく落ち込んでいる。 第2時の低下の原因としては,この時間にチームでの対面パスのドリルゲームを新たに導 入したことによって,説明の時間が通常の時間の2倍以上もかかってしまったこと,児童に ドリルの動きを教えるための指導に多くの時間を費やしてしまったことにより,自主的な学 習や運動に浸る時間を奪ってしまったことが原因である。先行研究でも説明の時間は学習成 果と相反することが指摘されている。 第6時は多くのチームと対戦する中で,学んだことを発揮してゲームを楽しむ時間であっ たが,授業は要支援の児童に対して加配されていた支援員教師と担任教師が最後の試合で児
小学校体育授業における思考・判断を促すタブレット端末活用の実践的研究 75 ⒄ 童に良い動きやプレーをさせたいと思うあまり,一つ一つのプレーに対して指示や命令,感 情的な応援,矯正的なフィードバックなどを逐一与えてしまったことにより,ゲーム中に自 ら考えたり仲間と協力したり工夫したりといった活動が普段より見られなくなってしまっ た。教師の介入の度合いが強すぎたことにより,児童は自ら考えプレーをしたり,友達と声 を掛け合ったりすることが少なくなり,全ての次元の評価が低下してしまった。 投補の技能差が大きい2年生では,協力したプレーをゲームで行うことは難しかったと見 られるが,知識・技能の成果を示す次元は,第2.3.4時は5段階評価で5の評価,第6 時でも評価4を保ち,タブレットの画像を分析し次のゲームの課題を考え,伝える責任学習 が一定の効果をもたらしていたことが伺える。 Ⅳ.まとめ 本研究は,研究対象の児童を小学校2年生,実施場所を校庭に設定して体育授業における タブレット端末活用研究を実施した。実施時期は3月上旬,まだ寒風が吹く中,初めてタブ レット端末を使用した児童は「機器に翻弄される姿」も見られず,ゲーム場面の撮影,デー タの保存などの操作をほぼ正しく行えていた。第3時は台風のような強風が吹く天候で,タ ブレット端末を収納していた籠が数メートル飛ばされたり,タブレット端末が砂埃で真っ白 になってしまったりする事態も生じたが,タブレットによる撮影は計画通り行うことが出来 た。冬季の屋外で行う体育授業では,撮影した画像をその場で再生して分析する授業ではな 表10 第2時から第6時の児童による形成的授業評価の変容 第2時 3月8日 第3時 3月12日 第4時 3月13日 第5時 3月14日 第6時 3月15日 成果次元 2.84 2.5 2.85 2.7 2.56 意欲・関心次元 2.84 2.76 2.87 2.91 2.57 学び方次元 2.76 2.67 2.69 2.7 2.62 協力次元 2.74 2.74 2.61 2.59 2.4 2.84 2.5 2.85 2.7 2.56 2.84 2.76 2.87 2.91 2.57 2.76 2.67 2.69 2.7 2.62 2.74 2.74 2.61 2.59 2.4 2 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 2.8 2.9 3 第2時 3月8日 第3時 3月12日 第4時 3月13日 第5時 3月14日 第6時 3月15日
第
2時から第6時の形成的授業評価
成果次元 意欲・関心次元 学び方次元 協力次元⒅ く,授業の後にグループなどで分析する反転授業の方が授業の実態に即した活用方法である と考えられる。今回の実践から,低学年の児童であっても教師の周到な準備,的確な指導と 指導法の選択がされれば,屋外などの環境でもタブレット端末を活用した授業を展開できる ことが示された。 また反転授業にジグソー法の学習を取り入れた責任学習においては,ペアによって分析し た記述内容に差が見られた。しかし,チームの課題を他のメンバーに知らせなくてはならな いという責任感を持って,能力差に関わらず全ての児童が画像分析をしたことは,まず自 分で思考し,判断する力を育てるために有意義な学習であったと言える。ボールを持たない 動きや,パスの出来る空いている空間に気づけている児童も見られたことから,子どもた ちの自由な時間を使っての画像分析も十分可能であることが示された。授業計画にゆとりが あれば,教師の指導の下,ジグソータイムでペアが気づいたことをグループや全体でのエキ スパート活動で共有する学びの場を持てば,より深い学びにつなげることが出来たと思われ る。 タブレット端末を使った学習後の感想を見ると,児童は画像を見て良い動きを見つけたり することについては一定の評価をしているが,授業中に協力したり友達に伝え合ったりする 活動が出来ていたとは言えない。タブレットを活用した学習が目新しさや物珍しさによる楽 しさで終わるのではなく,協働的な学びや学び合いを伴った真の楽しさにつなげる活用法を 工夫していく必要がある。そのためには,下記のシステム環境を生かした,画像や児童の発 言の転送と回収,児童の意見を基にした学び合いを単元の随所で用いることも授業方略とし て考えられる。 今後はタブレット端末を児童が家庭に持ち帰り,保護者と授業の様子を見たり,課題の分 析を記録データを使って行ったりする反転学習を日常的に進めることで,学びの場を教室の みならず,家庭,そして地域社会へと広げていくことも可能となっていく。児童の深い学び をもたらす,タブレット端末を活用した実践研究の探求が今後も望まれる。 (本研究で使用した教師機PCと児童用タブレット端末をつなぐネットワークシステム) 児童用タブレット端末6台と教師用パソコン1台は,スカイ社の教育用学習活動ソフト ウェアSKYMENUを使用している。このソフトウェアは,学習ソフトだけでなく,教師か らの児童用タブレット端末を遠隔操作したり,画像の転送・回収をしたりできる様々な機能 を有している。多くの自治体のパソコン教室の学習ソフトウェアとしても使用されている。
使用している機材は,児童用タブレット端末レノボ・ジャパン製YOGA BOOK with
Win-dows6台,教師機PCレノボ・ジャパン製 ThinkPadL570 1台である。
⒆ タラクティブ画像転送対応無線LANアクセスポイントはSKY-AP-302AN 1台を使用し, タブレット端末と教師用PCとの無線LAN接続を可能にしている。教師機PCとタブレット は自動的に同期し,相互のデータのやりとりが可能になる。このシステム内でのデータ通信 は可能であるが,外部との通信は遮断されている。インターネットには接続できないので, 画像データなど個人情報の外部への漏洩は完全に防止できるとともに,児童が反転授業で家 庭に持ち帰ってタブレット端末をインターネットに繋ごうとしても繋ぐことが出来ないシス テムになっている。児童が家庭にタブレット端末を自由に使って,次時の学習課題を発見し たり考えたりする反転授業を実施するには,情報漏洩や授業と関係のないサイトへのアクセ ス防止のために,外部と遮断されているこうしたネットワークシステムは欠かせないもので ある。 引用・参考文献 鈴木直樹・成案篤史・石塚諭・阿部隆行編著(2017),『子どもの未来を創造する体育の「主体的・ 対話的で深い学び」』,創文企画,pp. 150-151. 鈴木直樹・大熊誠二・石塚諭・野口由博・伊佐野龍司・上野佳代・川村尚人(2017)『体育におけ るICTの利活用ガイド』. 筑波大学附属小学校情報・ICT活動研究部編著(2016)『教科のプロもすすめるICT活用術』,東洋 館出版社,pp. 90-113. 山崎功一(2016)『動画再生アプリを活用する』,体育科教育第64巻第12号,pp. 38-41. 横尾智治・入江友生・合田浩二・徐広幸・登坂太樹・森裕紀・須釜浮腰(2017)「ICTを活用した 保健体育の授業実践」,筑波大学附属駒場論集56巻,pp. 61-67. 吉井偉人(2016)『タブレットPCを活用し,思考・判断を促す』,体育科教育第64巻第12号,pp. 42 -45. 岩田靖・吉野聡・日野克博・近藤智晴編著(2018)初等体育授業づくり入門,大修館書店,pp. 142 -143. 原祐一(2012)『デジタルカメラを活用した評価システム「ティーチング・ポートフォリオ」』,体 育科教育第60巻第5号,p. 25. 日野克博(2016)『学びのデジタル革命で体育授業はどう変わるのか』,体育科教育第64巻第12号, 大修館書店,p. 19. 八塚伝(2016)『「体育館の教室化」で体育の学習を変える』,体育科教育第64巻第12号,pp. 46-49. 加登本仁・辻延浩(2016)『情報共有システムの導入で同僚の育ちを支える』,体育科教育第64巻第 12号,pp. 29-33.
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