X線トポグラフィによるSiおよびGaAsの転位の観測
(昭和44年9月12日受刊i)
清水東
石田哲朗
Observation of Dislocation in Si and GaAs Crystals
by X-ray Topography
AzumaSHIMIZU TetsuroISHIDA In the course of investigating the dislocation in the crystal on characteristics of semiconductor devices, X−ray topograph of dislocation is taken for Si and GaAs single 6rystals. The photograph of dislocations in Si is taken with good contrast, and three dimensional dis− tribution of dislocations in sample is revealed by the stereomicrograph and the tomogram. The dislocation patterns in GaAs appear a pair of black and white line. It seems that this is caused by difference of atomic structure factors of Ga and As. Semiconductor devices could be made using the crystal which is taken X−ray topograph by this method. Therefore, the effect of dislocation on the device characteristics would be found. どの半導体に拡散したのち急冷すると転位線上にCuが 1. ま Z が き Synopsis X線結晶回折学の歴史は古く,ラウエの発見以来50 年あまりになる。結晶の構造解析や同定を中心に発展し てきたX線回折法は,結晶の転位などの個性を調べる手 段としていまなお発展しつつある。1958年にLangに よって発明されたX線トポグラフィ(ラソグ法)もその 一一ツである1)・2}。 筆者らは,半導体素子の製作過程で転位などの格子欠 陥がどのようにしてはいるか,また,素材にもともと存 在し,あるいは製作過程ではいり込んだ欠陥が,完成し た素子の特性にどのような影響を及ぼすかを研究してい る。 半導体内の転位の観測法には(1)光学顕微鏡による方 法,(2)電子顕微鏡による方法,(3)赤外線顕微鏡による 方法,(4)X線顕微回折法(トポグラフィ)の四つがあ る。 (1)の光学顕微鏡による方法は,転位の存在する箇所だ けが腐食の進むような化学的エッチソグを行ない,転位 の存在する位置を明らかにして光学顕微鏡で観察する方 法である。この方法では,転位線が結晶表面を横切る場 合しか観察できないのは明らかである。(2)の電子顕微 鏡による方法は,電子顕微鏡で転位を直接観察するもの である。この方法では,試料を電子線が透過できる数千 A以下の厚さにする必要がある。したがって,このよう に薄くした試料を使って半導体素子を作ることは不可能 となる。(3)の赤外線顕微鏡による方法は,CuをSiな 沈着(decorate)すること, Siなどの半導体が赤外線に 対して透明であることなどを利用している。Cuが沈着 した転位線は赤外線に対して不透明なので,赤外線顕微 鏡によれぽ転位線が黒く見える。C11など深い不純物準 位をもった不純物がドーブされた半導体ではキャリアの 寿命がきわめて短いので,一般に,この試料を使って半 導体素子を作ることはできない。 一方,(4)のX線顕微回折法によれぽ,半導体素子を作 るときと同様な加工の施された厚さ0.2∼1.Omm程度 の結晶を使って転位の分布が観測できる。そのため,転 位を観測し終えた試料を使って半導体素子を作ることが でき,したがって,でき上がった半導体素子の特性と転 位分布との関連を直接調べることが可能となる。 本論文では,プレーナトラソジスタ・プレーナダイオ ード・半導体集積回路などの特性とその母材に含まれる 転位との関連を調べるため,まずSiの転位を観測した。 つぎに,半導体レーザの発光特性とその素材に含まれる 転位との関連を調べる目的で,GaAsの転位の観測を行 なった。Siではかなりよいトポグラフィがえられたが, X線に対する吸収係数が大きいGaAsではよい写真がえ られなかった。後者については,その測定法をさらにく ふうする必要がある。 2. 原 理 いま,欠陥のない完全な結晶に,ブラッグの反射条件 を満たす方向から図一1(a)のようにX線①が入射した入射X線 回折X線 θ ! I ノ ① / θ θ / ! {
A
③ ! ^ θ θ 、 、 、 、 、 (a)完全な糸1}、品による回折 呵折X線 一‘δ (b)転位の付近における回折 図一1完全な結晶および転位のある結晶による回折 Fig.1 Diffraction by perfect crystal and near dislocation. とすると,②のような回折線がえられる。これはまた, 結晶面に対してブラッグの反射条件を満たしており,③ のように回折される。このように何度か回折されて② の方向に出てくる回折線は,結晶内で吸収を受けている ため,かなり弱いものとなる。これを一次消衰効果とい う。 図一1(b)のように,転位を含んだ結晶にブラッグ角を 満たす方向からX線が照射されると,完全な部分では一 次消衰のために②の方向の回折線は弱まるが,転位のあ る部分からはかなり強い回折線が出てくる。これはつぎ のように説明される。転位のある部分の回折面は完全な 部分のそれよりも微小角δだけずれている。回折面がわ ずかにずれていても,特性X線のスペクトルには自然幅 Aλがあるため,回折条件が満足されて②の向きに回折 が起きる。しかし,この回折線が完全な部分の回折面に 入射するときには,θ一2δの角度ではいるので,もはや 回折条件は満足されない。したがって,②の方向の回折 乾板 .._一’”`
x 、、/
、、 」 図一2 ラング法の原理 Fig.2 Principle of the Lang method. 線は再び回折を受けることなしに結晶の外に出てくる。 すなわち・転位のある部分では,一次消衰効果が減って 強いX線が観測される。この回折線に垂直に写真乾板を 置けば,転位の部分だけが黒くなった写真がえられる。 X線トポグラフィ(ラング法)はこのような原理を使っ ている。 30μ程度の微小焦点X線源から出たX線を,第1スリ ットを通して図一2のように結晶に入射させ,ブラッグ 角を満たすまで結晶を回転させると回折が起きる。第1 スリットを0.1∼0.2mm程度まで狭くすれば, Kα、線 による回折だけが起きるようにできる。この回折線をそ れに垂直に置かれた乾板で受けると,前述の原理によっ て,結晶のABの部分の転位の像を写しとることができ る。このとき,結晶と乾板の間に図のように第2スリッ トをそう入して,入射X線が乾板に直接はいらないよう にする。以上の方法では,結晶のAB部分の転位しか写 せない。結晶全体の転位を写すには,ブラッグの反射条 件を満足させ,しかも結晶と乾板の位置関係を保持しな がら両者を左右に平行移動させれぽよい。 微小焦点X線源の見かけの大きさをf,点X線源から 結晶までの距離を1,結晶から乾板までの距離を勿とす れぽ,分解能dは ∂=∫丁 (1) で与えられる。実際の装置では1・・ 30cm, m−2∼3cm, f≒30μにとるから,分解能はd−2∼3μとなり,微粒 子写真乾板の粒子の大きさとほぼ同程度である。 3.実験方法および結果3.1Siの転位
{111}面で薄く切断された厚さ350μ・抵抗率19cm のN形Siを試料として用いた。これをカーボラソダム で研磨したのち,表面の加工層を取り除くためにHFと HNO3が1:3’の混液でエッチし,厚さ230μにして使 った。 転位がコントラストよく観察されるためには,試料の 厚さをt,,X線の吸収係数をμとすると,μt 4 1’でなけ れぽならない。Agのκα1線(λ=0.55936A)に対する Siの吸収係数はμ一〇.9mm−1であるので,前述の試料 ではμオ<1の条件がじゅうぶんに満足されている。こ のことから,本研究ではX線源としてAgのKα1を利 用した。 Siは面心立方格子(ダイヤモンド格子)をなし,格子 定数はao=5.4307 Aである。ラング法の反射面には回 折強度の強い{111}面と{220}面がよく使われる。こ 一一@148 一表一1ブラッグ角の計算値 。 Si:αo=5.4307 A, AgKαi:λ=O. 55936 A hkl dhkt sinθ θ 2θ 111 220 1 れらの面に対するブラッグ角を計算してみよう。面指数 碗Z}をもった面の面間隔は,立方格子の場合
4励「万葦[ア (2)
で与えられる。また,ブラッグの反射条件2dhlet sin 0 −nλにおいてn−1とすると、i。θ一λ (3)
2d/Lke e がえられる。式(2)および(3)でa。−5.4307A,λ ・=O.55936 Aとして面指数を代入すると,ブラッグ角θが表一1の ように求まる。 ’観察する試料の面は{111}面であり,{220}面はこれ に直交している。試料を装置に取りつけるとき,この性 質を使うと結晶の方位の調整に都合がよいので,{220} 面を回折面として利用した。 以下に測定の手順の概略を述べる。まず試料をラソグ カメラに取りつける。このとき,図一3のように,回折 面{220}をX線に平行に,しかも装置に対して垂直にな るように調整する。この方位は,あらかじめラウエ法で 決めておく。すなわち,ラウエ写真をとったとき,図一 4のように,{111}面からの三つの反射点がIE三角形を 形づくり,しかも,そのうちの一つがX線の入射点の垂 直上方にくるように方位を調整すればよい。っぎに,ガ イガカウソタの前に狭いスリットを取りつけ,これを試 料を中心としてX線の入射方向から回折角2θだけ回転 したのち,試料をブラッグ角θだけ回転すると,回折線 がガイガカウソタにはいって指針が振れる(図一5)。結 晶の方位が正しく調整されると,ブラッグ角θの付近で 3.・354 ・.・892・15・・7’ ・.92・・…45671 se23’ 10°14’ 16°45’ 12201面 、I l , 1 ?@il ‘ 1 1 面 一 1 仁レー’ {111}面 X線 図一3 結晶の方位の調整 Fig.3 Adjustment of crystal direction when the crystal sets on Lang camera. 図一4結晶の方位が正しく調整されたときのラウエはん点 Fig.4 Laue spots of crystal which is adjusted in correct direction. 入射X線 第1スリット 川 品\12θ
\
第2スリット\\ 乾板
第3スリット (。)(泣o)面からの1[llt斤 図一5 Fig.5 600 慈500 二40。9
1x 3°° i2°° “’” P00 入射X線2θ1/
/
(b) r220) 1酎力・’)t7’)11]]」斤 ラング法による立体写真の撮影法 Stereomicrography by Lang camera・ 0「一
u「
2 4 6 8 ブラッグ角付近の角度(!))’) 10 図一6AgKα、とKα2による回折線の分離(ロッキング 曲線) Fig.6 Separation of diffractions by AgKαi and Kα2(rocking curve).(a)(220)面からの回折 (b)(220)面からの回折 図一7 Si単結晶内の転位分布の立体写真 Fig.7 Stereomicrograph of dislocatlon in Si single crystal. 結晶をわずかに回転させたとき,図一6のような角度一 X線強度の曲線(rocking curve)がえられる。大きな 山がKα、の回折線であり,小さい山がKα2によるもの である。 以上の調整が終わったのち,試料と乾板を左右に平行 に移動(往復運動をくりかえす)させながらX線を照射 して露出を行なう。露出時間は,試料の幅1mm当たり 1∼2時間である。この実験に使った試料の幅は13mm であり,露出に15∼30時間を要した。このようにして えられた写真の一例を図一7に示す。ブラッグの条件を 満たすのは,図一5の(a)および(b)のように,左および 右に回転させた二つの場合がある。図一7の(a)および (b)はそれぞれ図一5の(a)および(b)に対応している。 この1対の写真は実は立体写真となっている。写真を 立体視するのに二つの方法がある。すなわち,写真越し (a)X線源に近い側 Y z ぺ/?y−.¥
\/\
S:1■■■■■■1| B’ C/ x’ Y’ 2’ 図一8 断層写真の撮影法 Fig.8 Tomography of disloca− tion by Lang camera. に遠方を見るようにすると2枚の写真が4枚に見える。 目を調節して,この内側の2枚を重ね合わせると立体視 できる。また,よせ目をして2枚の写真を見ても4枚に 見える。前と同様に内側の2枚を重ね合わせると立体視 が可能である。筆者の経験によると,あとの方法が見や すいようである。前の方法と後の方法では奥行きの関係 が逆になる。 図一7では〈110>方向を水平にとってある。図に見ら れる転位線の多くは〈110>方向に走っている。立体視し たとき,たとえば転位Pは結晶の向こう側(X線源に近 い側)に,転位qは中央付近に,転位rは手前(乾板に 近い側)にあることがわかる。 つぎに,同じ試料の断層写真をとった。その原理を図 一8に示す。入射X線は結晶のABの部分で回折され, 乾板上ではA’B’の幅をもつ。いま,結晶と乾板との間(b)中央 (c)
図一9 Si単結晶内の転位分布の断層写真 Fig.9 Tomogram of dislocations in Si single crystal. 乾板に近い側一150一
にS2のようなスリットをそう入すると, AC部分以外で 回折されたX線はスリヅトでしゃ断されてしまう。した がって,結晶を平行移動して写真をとった場合,XX’平 面とYY「平面で囲まれた部分の転位だけが撮影される。 同様に,S3のようなスリットを入れると, Yy’平面と ZZ’平面で囲まれた部分のみの転位が撮影される。この 方法は,結晶の表面に傷があり,それを除いた部分の転 位を見るとか,内部にPN接合があり,その付近だけの 転位を見たいような場合に有効である。 図一7に示した結晶を3層に分けてとった断層写真が 図一9である。X線源に近い側の断層写真(図a)のコ ソトラストが最もよく,手前にくるほど(図b,c)コ ントラストが悪くなっている。これは,つぎのように考 えられる。図(a)では,一次消衰をほとんど受けていな いX線が転位のところで回折され,そのまま乾板にはい るため,コントラストがよくでる。しかし,手前にくる ほど入射X線が一次消衰効果を受けて弱くなっているの で,転位のところで回折されたX線も弱くなり,図(b), (c)のようにコントラストが悪くなる。 つぎに,個々の転位の現われ方を見てみよう。転位P は図一9(a)の写真に現われ,(b)にはごくうすく見える。 すなわち,この転位線は結晶のX線源に近い側にある。 同様に,転位qは(a)と(b)に写っており,中央よりも少 しX線源側にあるものと考えられる。また,転位rは図 (c)のみに現われ,手前側にある。これらの結果は,立体 写真のそれともよく合っている。
3.2GaAsの転位
表一2のような性質をもち,{111}面で薄く切断され たN形GaAsウェーバについて測定した。この試料を顕 表一2試料(N形GaAs)の性質 {110}面 {111}面 BA
A
{111}面 一一 340μ 図一10 GaAs試料の外観 Fig.10 0uter view of GaAs sample. 項 目 値キャリア密度
移 動 度 抵 抗 率 エッチピット密度 2.7×10i7cm−3 3090cm2/Vs O.0074 9cm 約900Ep/cm2 表一3ブラッグ角の計算値 GaAs:ao=5.6537 A, AgKα1:λ=0.55936 A 図一11GaAs単結晶内の転位の分布 Fig.11 Distribution of dislocation in GaAs single crysta1. hkl 111 220 dhkt sinθ θ 2θ 3.2642 L9989 0.08568 0.13992 4°5st 8°03’ 9°50’ 16°06’ 微鏡で観察しながら完全な鏡面になるまでラップおよび ポリッシュを行なう。仕上がった試料の厚さは340μで る。 GaAsのX線の吸収係数μが不明なため,まず,これ を求めた。X線の強度1は試料内で1−1。e一μ(xはX 線が進んだ距離,Ioはx==Oにおける強度)に従って減 衰するものとし,前述の試料をX線の通路に入れた場合 と入れない場合との強度の比から吸収係数を求めたとこ ろ,μ≒5mm−1となった。このμと試料の厚さt−=o.34 mmとからμ云≒1.7となり,μ≠≦1を満足しないが, この程度まではラング法による転位の観測が可能であ る。 つぎに,ブラッグ角をSiの場合と同様に計算すると 表一3のようになる。測定試料の装置への取りつけは,Siの場合よりいくぶ ん容易である。それはGaAsは{110}面でへき開が起き やすく,図一10のような外観をもった試料がえられる ので,この外観によっておよその結晶の方位が決められ るからである。そのほかは,Siの場合と同様に調整して 撮影する。x線の吸収が多いため,露出時間をSiの場 合の2倍以上長くしなければならない。幅13mmの試 料に対して約70時間露出した。結果の一例を図一11に 示す。 Siの場合とは違って,転位線は白と黒の対になってい る。μまが大きい場合には,異常透過によって転位が観 測でき,このとき転位線は白く写る。この現象では白と 黒の対になることは説明できない。GaとAsの原子散 乱因子が異なるために生ずる現象であろう。エッチピッ トの密度900Ep/cm2に比べて,観測された転位線の数 はきわめて少ない。このことからGaAsの場合は,すべ ての転位が写されているとはいいがたい。 4, ま と め Siでは転位が十分なコントラストで観察され,立体写 真や断層写真によって転位の3次元的分布もわかった。 この観測に使用した試料を使って半導体素子を作ること ができ,したがって,素子の特性と転位分布の関係が直 接調べられる。 GaAsの試料については,μ‡−1.7と不適当であった ため,露出に時間がかかり,また,コントラストも十分 ではない。試料を薄くしてμ渉〈1とするか,または吸 収係数の大きい長波長のX線を使ってμ6>10とし,異 常透過現象を利用する必要がある。また,結晶全体にわ たってわずかなひずみがある場合の測定法を確立する必 要もある。このようなひずみは,拡散など素子の製作過 程で必然的に結晶内にはいってくるからである。 謝 辞 本研究に使用した装置の購入に便宜を与えられた電子 工学科各位および測定に協力された功刀三枝子技官・学 生春日宗夫君に感謝する。 文 献 1) A.R. Lang:“Direct observation of individual dislocations by X・ray diffraction”, Jour. ApP1. Phys.,29,3, p.597(March 1958) 2) A.R. Lang:“Studies of individual dislocations in crystals by X・ray diffraction microradiography”・ Jour. Appl. Phys.,3①,11, p,1748(Nov.1959)