氏 名 平田 良江 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 看護学 ) 学 位 記 番 号 医工博甲 第309号 学 位 授 与 年 月 日 平成27年3月18日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 ヒューマンヘルスケア学専攻 学 位 論 文 題 名 冷えのある中年期女性の指尖部血管反応の特徴と影響要因の抽 出と構造化
(Characteristics of Vascular Reactitvity in Fingertips of Middle-aged Woman With Poor Blood Circulation: Sampling and Structuring of its Influential Factors) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 浅川 和美 委 員 教 授 小林 康江 委 員 教 授 中込 さと子 委 員 教 授 宮村 季浩 委 員 准教授 鈴木 孝太 委 員 永井 正則(健康科学大学)
学位論文内容の要旨
(研究の背景) 日本人女性の約5割が冷えを感じていると言われ、女性の健康を悪化させる原因となってい る。冷えを適切に評価するとともに生活背景を整え、冷えにくい体を作ることが女性の健康 の保持・増進に大きく影響する。本研究では中年期女性の冷えを、軽微な冷却負荷に伴い生 じる指尖部血管反応を用い評価したいと考える。その上で冷えのある中年期女性の指尖部血 管反応に影響を与える要因を抽出し、要因間の関連を明らかにすることを目的とする。本研 究により中年期女性の冷えの特徴を明らかにすることで、今後の介入方法の検討とその評価 に繋げることができる。 (研究方法) 1.研究デザイン:関係探索研究 2.研究対象:A県内在住の健康な有職中年期女性377名 3.測定用具:自記式質問紙により、基本属性、冷えの自覚、冷え性傾向尺度、日常生活行動、SMI (簡易更年期指数)THI健康調査、検査データ等を聴取した。指尖部血管反応測定には指尖容積 脈波計ダイナパルスSDP-100(フクダ電子)を用いた。 4.データ収集法:食後1時間以上経過してから、室温25~28度、湿度50~60%に設定された室内で、 被験者を20分以上馴化させた後、実験を開始する。同意が得られた被験者に対し自記式質問紙及 びTHI健康調査票の記入してもらう。その後、両手第2指に指尖容積脈波測定プローブを装着。左 上腕を1分間冷却(表面温度10℃)、冷タオル冷却前後の指尖容積脈波の波高と、刺激解除後、 刺激前と同じ状態に波高が戻るまでの時間(以下回復時間とする)を測定した。 5.分析方法 統計的分析には統計ソフトJMP10、SPSS Amos Ver22を用いる。 (1)冷えの自覚、冷え性傾向尺度の有無による2群間における冷却負荷前後の指尖容積脈波の波高と負荷解除後の回復に要する時間を比較する。 (2)要因別の指尖容積脈波の波高、回復率、回復に要する時間を比較する。 (3)指尖血管反応、冷え性傾向、加齢による身体・心理的変化(SMI、THI健康調査票)、日常生活に 関する質問項目それぞれの関係性については共分散構造分析を用いパス図を作成し相互の関係性 を分析する。 5.倫理的配慮 山 梨 大 学 医 学 部 倫 理 委 員 会 の 審 査 を 得 た 。 ま た 、 調 査 協 力 施 設 、 対 象 者 に 対 し 、 研 究 目 的 、 方 法、 倫 理的 配 慮を 文 書 と口 頭 で説 明 し、 調 査 の承 諾 と協 力 を得 た 。 ( 結 果 ) 1.377名の平均年齢は49.1歳±5.9歳で、中年期女性の冷えの自覚のある人は183名(48.5%)、冷え 性傾向にある人は192名(51.5%)であった。冷えの自覚の有無において背景に有意差は認められ なかった。冷え性傾向の有無においては体重、BMIに差が認められた。SMIおよびTHI健康調査票 では冷えの自覚・冷え性傾向にある人の方がそうでない人よりも得点が有意に高いという結果で あった。「冷えの自覚」と「冷え性傾向尺度」の関連について、冷えのある女性183名のうち141 名(77.0%)が冷え性傾向尺度でも冷え性傾向であると判断できた。また、冷えの自覚のない女 性194名のうち143名(73.7%)が冷え性傾向尺度でも冷え性傾向でないと判断できた。 2.上腕の皮膚を冷却することで、冷却前後で指尖部血管反応が認められた。冷えの自覚及び冷え性 傾向の有無で、冷却前後の指尖容積脈波の波高と減少幅、減少割合を比較した。冷タオルを用い た上腕の冷却刺激により、冷却側・反対側とも指尖容積脈波の波高が減少した。冷えの自覚があ る女性の方が冷却側(p=0.0002)、反対側(0.0092)とも有意に脈波の波高が減少していた。冷 え性傾向の有無では、減少割合に差は認められなかった。冷えの自覚の有無及び冷え性傾向の有 無で指尖の波高が冷却前の高さに戻る時間(以下、回復に要する時間という)を比較したところ、 冷却側、反対側とも冷えの自覚あり(冷却側,反対側 p<.0001)、冷え性傾向あり(冷却側p=0.0023, 反対側p=0.0039)という女性の方が有意に冷却刺激からの回復が遅いという結果であった。 3.冷え性傾向には不定愁訴(β=.53)と血管反応(β=.29)が正の影響を与え、体重が負の影響(β =-.18)を与えていた。血管反応が遅く不定愁訴を訴える人が冷え性傾向を訴えるという結果で あった。 (考察) 今回の調査において冷えを自覚する女性の割合は48.5%、冷え性傾向尺度(物部)では51.5%で あっり、これまでに報告されている健常女性を対象とした調査と同様の結果であった。つまり、 中年期女性の2人に1人は冷えを感じているということになる。また、皮膚冷却刺激に対し冷えの 自覚、冷え性傾向の有無で回復に要する時間に差が認められた。冷却刺激が加わるとその刺激が 反射中枢に伝わり交感神経に作用し血管径が収縮する。冷え性者では、交感神経緊張による血管 収縮強度が大きいため、冷却側、反対側とも血管径が収縮したと考える。いったん冷えて収縮し た血管は冷え性者ではなかなか拡張しないため、まずは身体を冷やさないことが必要である。冷 え性傾向には生体反応としての血管反応が遅いということ、体重が少ないこと、不定愁訴の訴え が影響していた。中年期女性の不定愁訴や冷えに関する訴えを聴取するとともに、今後は皮膚感 覚の冷感の閾値を検討すること、血管の収縮と拡張を促進させるケア、交感神経の緊張を和らげ るケアの検討が必要であると考えた。
論文審査結果の要旨
1.研究テーマの意義 女性の冷えは、様々な健康障害との関連が報告されているが,その実態は不明であり,明確な診断 基準は存在しない。本研究では,従来,本人の自覚や主観的な訴えとしてとらえることが多い冷えを,客観的データとして示すことを目指して,軽微な寒冷負荷に伴い生じる指尖部血管反応を測定し,冷 えと自律神経反応との関連を明確に示した。 指尖容積脈波による客観的データと冷えの自覚や主観的な冷え尺度の結果とが相関していること が示され,指尖容積脈波が冷えを診断するための客観的な指標になりうる可能性が示唆された。指尖 容積脈波が冷えを判断するための客観的指標として使用可能であることが検証されると,冷えの改善 策や対策の効果を判断する指標として活用できる。冷え改善の介入の影響を客観的な指標を用いて評 価することにより,エビデンスに基づいた看護実践につながる。 また,冷え性者は,皮膚冷却刺激に対し,交感神経緊張による血管収縮度が大きく,一旦収縮した 血管はなかなか拡張しないことが明らかになった。冷え性者は身体を冷やさないことが必要であるこ とを実証的に示した。 2.学位論文及び研究の争点,問題点,疑問点,新しい視点等 冷え性傾向と日常生活要因との関連を検討するために,共分散構造分析を用いてパス図を作成し, 相互の関係性を分析した結果,冷え性傾向には不定愁訴が正の,体重が負の影響を与えていた。自律 神経反応は,身体的な要因とともに精神的な要素も関連しており,本研究の対象者が中年期の女性で あったことが,関連要因として不定愁訴が抽出された可能性もある。今後は,若年女性を対象とした 調査が必要である。体重との関連では,肥満型は身体の中心部の皮膚温低下,痩身型は四肢末梢部の 皮膚温低下が報告されており,冷えの部位と血管反応の関連についての検討が必要である。 夏期と冬季では,軽微な寒冷刺激に対する反応時間や主観的な反応に違いが認められた。実験時期 や環境条件については,冷え性者への寒冷刺激による負担などの倫理的な側面をふまえつつ,実験結 果に反映させる最低条件を吟味する必要性が示唆された。 3.データの信頼性 実験は,温湿度の調整可能な個室で一定の環境下で行われた。冷却用の水温,タオルの表面温度と 貼付時間も管理されており,信頼性あるデータである。冷えの関連要因として用いた体脂肪率や BMI, コレステロール値などの血液検査結果は,被験者によっては,実測ではなく自己申告によるデータを 用いた。 4.学位論文の改善点 データ収集方法,サンプルサイズの根拠と方法など,研究方法についての記述を追加する。共分散 構造分析のパス図における矢印の意味を文章として丁寧に記述する。文章中の変換ミスを修正する。