呼吸同期照射に関する基礎的検討
―換気量モニターと内部臓器の動きに関する検討―
山梨医科大学 放射線科 栗山健吾 大西洋 曹博信 小宮山貴史 荒木力 論文要旨 目的:胸部および上腹部の臓器の放射線治療では、呼吸性移動を考慮にいれて、照射領域を大きめに設 定するが、照射野の拡大により多くの臓器が含まれ、合併症の危険性も増す。最近、呼吸性移動のある 臓器の照射に、呼吸同期照射が多くの施設で研究、実用化されている。呼吸センサーのほとんどは皮膚 の動きをモニターしている。より直接的な呼吸のモニタリング方法として、呼吸換気量による呼吸モニ ター(呼吸量モニター)を考案し、この有用性を検討した。方法:15名にX線透視装置上で呼吸量モニ ターを通して安静呼吸をさせ、胸部、上腹部、呼吸量モニターのピストンの動きを3呼吸分撮影した。 ピストンと下肺野、上腹部内の点の1回呼吸における動きを測定し、その動きの相関性を解析した。ピ ストンの動きの呼気位と内部臓器の動きの呼気位の1回呼吸における時間的位置関係も比較した。結 果:ピストンの動きと内部臓器の動きの間に、90%前後の人に強い相関関係がみられた。ピストンの動 きの呼気位と内部臓器の動きの呼気位の1回呼吸における時間的位置関係の比較でも、有意な時間的ず れはみられず、ピストンの動きの呼気位の方が短かった。考察:呼吸換気量による呼吸のモニタリング は、腹式呼吸が主となる安静時呼吸では、横隔膜の動きを肺容積の変化という形で、より直接的にモニ ターしている。そのため、内部臓器の動きと、より正確に連動することが可能である。呼吸同期照射で は、通常の照射方法より治療時間が長くなる。今回の呼吸量モニターでは呼気位が1回呼吸時間の30%で あり、通常照射より3.3倍かかる。照射する呼気位の定義の設定に関し、更なる検討が必要である。結 論:呼吸同期照射における呼吸換気量で呼吸をモニターする呼吸量モニターの有用性が示唆された。 Key words:respiratory gated radiotherapy, venti lated gas volume, respiratory motion 背景 胸部の臓器の放射線治療では、呼吸性移動を考慮にいれて照射領域を大きめに設定する が、照射野の拡大により多くの臓器が含まれ、合併症の危険性も増加する。 最近、呼吸性移動のある臓器の照射に多くの施設で研究・実用化されているのが、呼吸 同期照射である。呼吸同期照射は、呼吸のある位相(安静呼気位が多い)にタイミングを 合わせて、その位相の間だけ照射する方法である。この方法では臓器の呼吸性移動の影響 が少なく、照射野を標的臓器により限局させることが可能である。 現在、呼吸同期照射において実用化されている呼吸センサーは、ほとんどが胸腹壁の動 きを感知することにより、呼吸信号を得ている1)’2)。しかし、この方法では、直接的に呼 吸の状態を感知しているわけではないため、症例により皮膚の動きと内部臓器の動きにず れが生じる可能性がある。より直接的な呼吸のモニタリング方法として換気量の計測によ る方法が考えられる。 目的 内部臓器の呼吸性移動のモニターとして呼吸換気量によるモニタリングの有用性を、今 回作製した換気量による呼吸モニターの原理(以下、呼吸量モニターとする)を用いて分 析を行い検討する。 一47一対象・方法 今回の実験には、胸部に放射線治療を施行している患者7名およびボランティア8名 (男性13名、女性2名、年齢18−80歳)を対象とした。被検者には実験の目的を説明した うえで協力を得た。 作製した呼吸量モニターの構造:モニターは上下の2つの部屋から構成されている (図1)。上段の部屋(以下、上室とする)は水で満たされており、この部屋の底面中央か ら上下に直径2cmの硬性の管(以下、通気管とする)が伸びている。通気管は上室の底 面を貫き、下段の部屋(以下、下室とする)に通じている。通気管には上側より、軽量な 材質の容器(以下、ピストンとする)が覆うように被さっている。ピストンの下面には水 が抵抗少なく流入流出できるように、窓があけられている。これにより、通気管より空気 が送気および排出されると、この空気量に応じてピストンが上下に動くようになってい る。下室からは内径2crnのホースが出ている。下室内は酸素を高濃度含んだ空気で満た し、このホースを通して呼吸することにより、呼吸量によりピストンが上下する仕組みに なっている。 呼吸換気量の計測:被験者にX線透視装置上に仰臥位で、安静呼吸をさせた。呼吸量 を口からの呼出、吸入量で測定するために、被験者にはノーズ・クリップをつけて、安静 呼吸をさせた。安静状態で呼吸が落ちついた後、呼吸量モニターを通して呼吸させ、X線 透視にてピストンの動きを安静呼吸3呼吸分撮影した。1回の呼吸の間にどのように呼吸 量が変化するかをみるために、1呼吸周期にかかる時間を10等分し、1回の呼吸の1/10の 時間毎にピストンの動きを計測した。このピストンの移動量を呼吸量を表す指標として代 用した。計測はX線透視装置の画面上で行い、0.lmm単位で計測した。1回呼吸分の計測 は吸気位(横隔膜が最も下降した時点)から次の吸気位までとした。 内部臓器の呼吸性移動の計測:呼吸換気量の計測と同時に下肺野、上腹部の構造物 の1点の1呼吸の間の移動量を計測した。呼吸換気量の計測と同様に1回の呼吸の1/10の 時間毎に移動量を計測した。計測点としては下肺野では、その部位に病変があればその病 変上の一点を、病変がなければ肺血管影の一点を計測点とした。また、腹部では、TAE (経カテーテル的肝動脈塞栓術)や胆管ステント留置の既往があり、肝内にX線不透過物 質がみられる場合はその一点を、肝内の一点が同定できなければその周囲の認識できる臓 器の一点を計測点とした。
呼吸換気量と内部臓器の呼吸性移動の解析
D呼吸換気量と内部臓器の動きの相関性の解析
まず、呼吸換気量の変化量と内部臓器の移動量が直線的関係にあるかを解析した。1回 呼吸中のピストンの移動量の変化と内部臓器(下肺野、上腹部)の移動量の変化の関係を Spearman’s rank correlationで相関係数を求め、その相関の有意性を危険率5%で検定し た。相関係数は0.90∼1.00を強い相関があるものとして判定した。 ii)呼吸換気量と内部臓器の呼気位の時間的関係の比較 呼吸同期照射は安静呼気位に照射するため、呼吸換気量の呼気位と内部臓器の呼気位は 時間的に一致する必要がある。そのために、呼吸換気量および内部臓器の動きの呼気位の 持続時間を求め、比較検討した。ここで、呼吸換気量、内部臓器の動きの呼気位は次のよ うに定義した ・呼吸換気量:1回呼吸中のピストンの移動量の最大値の80%以上移動している位 相。 (移動量が最大の時の前後20%の範囲内) −48一・内部臓器:その臓器が呼気時に最も頭側に挙上した位置から呼吸性移動の振幅の 20%下方までの範囲内にみられる位相 呼気位の持続時間や呼気位の時間的位置の比較がしやすいように、呼気位の時間的中間の 点(以下、中間点と記す)を設定し、1回呼吸の開始となる吸気位の点から中間点までの 時間および呼気位の持続時間を、1回呼吸時間の長さに対する割合で求めた(図2)。これを ピストン、内部臓器のそれぞれの点について求めた。呼吸換気量と内部臓器の呼気位の時 間的一致は、呼気位の中間点で比較した。両点の一致の有無については、Wilcoxon signed−ranks testを用いて検定し、危険率5%で判定した。また、持続時間に関しても比 較した。 結果 呼吸換気量と内部臓器の動きの相関性:ピストンの移動量の最大値は、被検者によ り個人差が大きくみられたが、38.4−110.Omm(平均65.6㎜)でありた(表1)。下肺 野、上腹部とピストンの移動量の相関係数では、下肺野と有意に強い相関関係がみられた のは、15例中、13例(87%)であった。また、上腹部と有意に強い相関関係がみられた のは、15例中、14例(93%)であった。 呼吸換気量と内部臓器の呼気位の時間的関係:ピストンの中間点は43.1−−59.0であ り、平均50.6±4.6(平均値±標準偏差、以下同様)であった(表2)。下肺野の中間点は 39.O−58.1であり、平均48.3±5.2であった。この両方の値の間には有意差はみられな かった(p=.0534)。また、上腹部の中間点は43.4−60.2であり、平均52.0±6.0であっ た。これらの値との間にも有意差はみられなかった(p=.2330)。また、ピストンの動き の呼気位の時間的長さ(持続時間)は、平均30.0±6.0であった。下肺野との比較では、 ピストンの方が有意に短かった(p=.0031)。上腹部との比較では、15例中8例にピスト ンの動きの呼気位の方が長かったが、有意差はみられなかった(p=.9250)。 考察 呼吸同期照射において皮膚の動きによる呼吸信号検出は、目標臓器(ターゲット)の呼 吸性移動を直接的にモニターしているわけではなく、照射のタイミングとターゲットの動 きの間に時間的ずれが生じる可能性がある。その誤差をより小さくするために、より直接 的に呼吸をモニターできる呼吸量によるモニターを作製し、その有用性に関し、基礎的実 験を施行した。 呼吸量モニターのピストンの動きは下肺野とでは87%に、上腹部とでは93%に強い相関 を示した。これは、以前に筆者が調べた、皮膚面と内部臓器で強い相関がみられた率 (82%)と比較し、有意ではないが、より高頻度に相関する傾向があることを示してい る。上述したように、安静時呼吸では、横隔膜の下降、挙上による腹式呼吸が主となる。 また、内部臓器の呼吸性移動は頭尾方向が主であり、この動きも横隔膜の下降、挙上に よって引き起こされる。したがって、安静時呼吸の際の内部臓器の動きは、横隔膜の動き を介して、呼吸で呼出、吸入する空気の量と準直接的に連動していることになる。さら に、ピストンの移動量は最も動きが小さかった症例でも38.4mmであり、測定における誤 差の影響は少ない。これらのために呼吸量モニターの動きは内部臓器の動きと強く相関し ていたと考えられる。 また、呼吸量モニターの動きと内部臓器の呼吸性移動の呼気位の時間的関係を比較し 一49一
た。ピストンの動きの中間値は、下肺野、上腹部と有意な時間的ずれはみられなかった。 呼気位の長さでは、ピストンの動きは内部臓器と比較し、短かった。このことより、呼吸 量モニターによる呼気位は、内部臓器の動きの呼気位の時間的位置を正確に検出できる。 通常の照射方法に比べ、呼吸同期照射は照射を間欠的に行うため、照射時間が長くかか る。Tadaらは、通常の方法と比較し時間が2.03−2.18倍かかったと報告している3)。 Sontagらは、2−3倍と報告しているω。今回、我々が呼吸量モニターで施行した結果で は、呼気位の長さ(持続時間)は、平均30.0%±6.0であったので、通常照射と比較し約 3.3倍かかることになる。これは、照射する時間を安静時呼吸の何%呼気位と設定するか によって変わる。Tadaらは呼気位30%で照射しているが、今回我々は、20%で呼気位を 定義した。照射するときの信号を検出するのに最適な呼気位の設定に関する検討を、今後 行う必要があると思われる。 結論 呼吸量モニターの動きは、内部臓器の動きと強く相関する傾向があり、呼気位のずれも みられなかった。呼吸量モニターの呼気位に合わせて放射線照射をすれば、内部臓器が呼 気位内で納まっている状態で照射する事が可能であり、呼吸同期照射の呼吸信号検出装置 として有用であると考えられる。今後、呼吸量モニターで呼吸同期照射を行うにあたり、 最適な呼気位の定義、構造上の改善などにつき更なる検討が必要である。 参考文献 1)Kubo HD, Hill BC. Respiration gated radiotherapy treatment:a technical study. Phys Med Bio11996;41:83−91 2)Davies SC, Hill AL, Holmes RB, et al. Ultrasound quantitation of respiratory organ motion in the upper abdomen. Br J Radio11994;67:1096−1102 3)Tada T, Minakuchi K, Fujioka T, et a1. Lung cancer:intermittent irradiaton synchronized with respiratory motion−results of a pilot study. Radiology 1998; 207:779−783 4)Sontag MR, Merchant TE, Burnham B, et a1. Clinical experience with a system for pediatric re spiratory gated radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys 1998; 41(Supp1.1):140 一50一
:通 答:: 高濃度酸素 十 空気 マウス ピー 矢印(thの部分に水が出入りできる窓が 開けられている 図1.呼吸量モニターの構造の模式図 (%) 1∞ 80 変 化 量 O 呼気位 開 中 始 間 点 点 時間 図2.呼気位の定義 終 了 点 100 (%) 表1.内部臓器とピストンの動きの相関係数 症例 下肺野 上腹部 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 .935 .861 .955 .955 .850 .933 .993 .959 .989 .986 .961 .982 .905 .955 .978 (.0030) (.0066) (.0024) (.0025) (.0072) (.0031) (.0017) (.0024) (.OO 18) (.0018) (.0024) (.0019) (.0042) (.0072) (.0023) .900 .859 .982 .998 .902 .941 .982 .907 .989 .968 .918 .989 .977 .970 .985 (.0046) (.0066) (.0019) (.0019) (.0043) (.0029) (.OO21) (.OO42) (.0018) (.0022) (.0037) (.OO 18) (.0020) (.0022) (.0020) O内はp valueを示した。 一51一
表2.ピストン、下肺野、上腹部の動きの呼気位の中間点と持続時間