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中小企業の業績推移分析(2005ー2012)

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新島学園短期大学紀要 35号

(別刷) 2015年3月31日発行

中小企業の業績推移分析(2005−2012)

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中小企業の業績推移分析(2005−2012)

山 口 憲 二

Business Performance Change Analysis of Small

and Medium Business (2005-2012)

Kenji

Y

AMAGUCHI

Niijima Gakuen Junior College Takasaki, Gunma 370-0068, Japan

要   旨 本稿は2008年のリーマンショック,2011年の東日本大震災前後を含む最近8年間 における中小企業の業績がどのように推移したかを分析する。業績指標として総資 本経常利益率(ROA)を用いるが,大企業に対するROAの比率の推移を分析した。 それは企業規模に関係なく受ける経営環境の変化の影響を取り除くためである。そ の結果,大企業との格差は2008,2009年が底で,以降は回復基調にあり,その要因 は総資本回転率ではなく売上高経常利益率であることがわかった。主要産業別にみ ると,全体として製造業と建設業の指標がより大企業に近く,サービス業と卸・小 売業はより格差が大きい。建設業は,2011年以降急速に格差を縮小している。これ は大震災後の経済対策,復興需要によるものと思われる。それらは大企業も恩恵を 受けるが,率ではより中小企業業績に寄与したということである。 Abstract

This paper analyzes how the performance of small and medium business (SMB) has changed in the last eight years, including the 2008 collapse of Lehman Brothers and the Great East Japan Earthquake of 2011. Using the ROA as a general performance indicator, we analyzed its transition calculating the ratio of ROA for big business. As a result, the bottom of the gap between the big business and SMB was in 2008 and 2009. Since then, it has been in the process of recovery. A major factor was found to be an ordinary profit ratio instead of total asset turnover. Looking at major industries, manufacturing and the construction industry are closer to big business, but the service, wholesale and retail industries are further from big business as a whole. The construction industry has been rapidly shrinking the gap since 2011. This is due to governmental economic policy and reconstruction demand after the Earthquake. Both big business and SMB received public investment, but it led to more merits for the SMB in the rate of performance.

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1.はじめに 中小企業基本法における中小企業は,資本金額と従業員数という規模を基準に定義 されている。少なくとも20世紀的な「規模の経済」を前提とすれば,その業績は大企 業より低位になる。しかし売上規模ではなく,効率指標としての業績という面では, 今後「規模の経済」の影響は小さくなると考えられる。たとえば情報化の進展により 企業間ネットワークの効率が劇的に改善すると,1企業の規模は業績と無関係にな る。 これまで中小企業業績に関する報告書や論文は,中小企業業績データを大企業のそ れと切り離して分析していることが多い。本稿は各年次の中小企業業績を,大企業と の対比で分析することにより,その傾向や特徴を探ることを目的とする。それにより, 大企業も同様に受ける景気変動の影響を除外し,中小企業の,大企業と対比した業績 を読み取ることができるからである。 その際,中小企業の財務データを扱う場合に注意しなければならないことがある。 そのことは大企業でもいえることだが,中小企業,とりわけ小規模・零細企業,個人 企業では特に注意が必要である。たとえば課税回避のため,非合理的な経費を計上し, 利益額が本来の経営成績を表さないということがある。 そこで本稿では,分析に用いるデータは「法人企業統計年報」から,非一次産業の 標本法人企業の財務指標の中央値を用いることにした。法人企業に限定することで会 計システムが整っていない可能性が高いと思われる個人企業を除外し,また中央値を 用いることで,極少数の一部巨大企業の数値や課税回避による異常値の影響を最小限 に抑えられると考えたからである。 2.中小企業のウェイト わが国の産業(非農林漁業)における中小企業1)のウェイトは,図表1が示すよう に非常に大きい。個人企業を含めると企業数では99.7%,個人事業所を含めない会社 数でも99.4%が中小企業である。また常用雇用者2)数で62.7%,従業者3)数で69.7% の人が中小企業(個人事業所を含む)で働いている。ただし,売上高では42.6%,付 加価値では51.9%と,他の項目よりもウェイトは小さくなる。したがって,1企業当 たり売上高や従業員1人当たり売上高等では当然ながら,大企業との格差がより大き くなる。中小企業の中小とは,後述のように企業規模のことであるが,業績指標も平 均的には見劣りすることになる。 とはいえ,あるいはだからこそ企業数および会社数の99%以上,従業者数の約70%,

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付加価値産出額の50%以上を占める中小企業の経営を研究することの重要性は,中小 企業政策,個別企業の経営改善,あるいは働く場としてキャリアを考えるなど,実用 面でも論を待たない。 なお,法人中小企業の数的ウェイトが高いのは,主要先進国に共通に見られる特徴 である。それは産業社会のインフラが整っていて,起業家精神旺盛な人が多いという ことを表し,望ましいことであると考えられる。 3.中小企業の規模分布 中小企業基本法における中小企業者の定義は図表2のように,資本金額と従業員数 の基準で示されるが,業種によりかなりの差がある。 図表1 中小企業のウェイト(非農林漁業) 図表2 中小企業者の定義 *)会社数以外は個人事業所を含むデータである。 (出所)中小企業白書(2014)より作成 (出所)中小企業庁Webサイトhttp://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html

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ここでは,中小企業と一口に言っても,その規模分布はかなり小規模の方に偏って いることを確認しておく。図表1の会社数合計1,688,268社の分布を常用雇用者数階級 別に見ると,図表3のようになる。つまり,日本の個人事業所を除く全ての会社約 170万社のうち,常用雇用者が4人以下の会社が98万社(58.2%),9人以下が127万 社(86.8%)を占めている。 次に資本金額階級別に会社数の分布を見ると,図表4のようになる。2つの山があ るが,資本金1,000万円未満の会社が約90万社(52.5%),3,000万円未満が約150万社 (87.0%)に達する。 図表3 常用雇用者数別企業数分布(非農林漁業) (出所)平成24年経済センサス−活動調査より作成

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4.中小企業業績の分析指標 (1)法人企業統計年報による中央値 前節では,経済センサスデータを用いたことから,個人企業と会社企業を区別して 議論した。 以下では,財務省「法人企業統計年報」を用いて,非一次産業の法人企業(前節の 会社(非農林漁業)に相当)の業績を分析する。 経済センサスは文字通り全数調査であるが,「法人企業統計年報」は平成24年度調 査の場合,標本法人数35,895社,回答法人数27,879社,回答率 77.7%であった。 前述のように,企業規模分布は非常に大きく広がり,しかも偏っている。企業の 99%以上が中小企業であることから,中小企業の規模分布もまた範囲が広く,偏りが 大きい。そのような場合には,平均値よりも中央値による分析がより実態を反映する と考えられる。ごく少数の大きい値のデータの影響を最小限に抑えることができるか らである。 そのようなことから,中小企業白書は毎年,「法人企業統計年報」を再編加工し, 法人企業の主要財務・損益状況と財務指標(中央値)を業種別に掲載しており,本稿 図表4 資本金額別会社数の分布 (出所)平成24年経済センサス−活動調査より作成

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はこのデータを用いる。 (2)総資本経常利益率 本稿では,総合的な業績指標として総資本経常利益率を採用する。次式のように分 解できるので,必要に応じて問題要因を2つの面から探ることが出来る。 この式は,総資本経常利益率の大小がx-y平面上で,双曲線の原点からの位置で図 示できることを意味する。横軸に売上高経常利益率,縦軸に総資本回転率をとると, 総資本経常利益率が等しい業績の集合が,双曲線で表されることになる。 5.大企業との比較による分析 (1)中小企業の業績推移 中小企業白書が「法人企業統計年報」を再編加工した,2005年から2012年にわたる 中小企業の売上高経常利益率と総資本回転率の中央値の積として計算した総資本経常 利益率の推移(図表5)をまず見てみる。 業績総合指標である総資本経常利益率の推移を折れ線(図表6)で見ると,2008, 2009年が底で,以降は回復基調にある。その要因は売上高経常利益率であることがわ かる。総資本回転率は2009年度以降変化が無い。 経常利益   経常利益     売上高 総資本経常利益率= ――――― = ―――――  × ――――― 総資本    売上高 総資本 (売上高経常利益率)(総資本回転率) 図表5 中小企業の業績推移(中央値) (出所)中小企業白書(2009,2010,2014年版)より作成

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2007年から2008年への急落は,いわゆるリーマンショック(2008年9月リーマンブ ラザーズ倒産)によるものである。業績(総資本経常利益率)推移を2次元的,鳥瞰 的に捉えるため,x-y平面に図示した図表7を示そう。双曲線は総資本経常利益率の 等高線である。 (2)大企業の業績推移 比較のため,同様に大企業4)の業績推移(図表8,9,10)も数表とグラフで見て 図表6 中小企業(全産業)の業績推移(折れ線) (出所)図表5 より作成 図表7 中小企業(全産業)の業績推移(散布図) (出所)図表6より作成

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おこう。 図表8 大企業の業績推移(中央値) (出所)中小企業白書(2009,2010,2014年版)より作成 図表9 大企業(全産業)の業績推移(折れ線) (出所)図表8より作成 図表10 大企業(全産業)の業績推移(散布図) (出所)図表8より作成

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2つのグラフ(図表9,10)からわかるように,中小企業との格差はあるが,概ね 同じ動きをしているように見える。特に散布図(図表10)において,どちらも左回り になっていることが興味深い。さらなる業績向上には,総資本回転率の改善が必要で あろう。 (3)大企業との比較 図表5と図表8から,図表11を作成し,大企業に対する中小企業の業績比を見てみ よう。 これをグラフにしたものが図表12である。中小企業の業績指標は大企業に対し,総 資本経常利益率が80%強,総資本経常利益率はリーマンショックで格差が開いたが, それ以降は格差が縮小する傾向が見られる。その要因は売上高経常利益率の改善であ ることがわかる。 図表12 中小企業/大企業の業績比の推移(折れ線) 図表11 中小企業/大企業の業績比の推移 (出所)図表5,8から作成 (出所)図表11より作成

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6.業種別の分析 前節までで中小企業の業績(中央値)が,リーマンショック後の回復過程にあたる 2010年以降,大企業との業績格差を縮小してきていることを確認した。本節では,そ の要因を主要業種別に見ていく。まず図表13のようにデータを整理した。 これをグラフ化したものが図表14である。 大企業との業績格差ともいえるこの総資本経常利益率の〔中小企業/大企業〕比率 を主要産業別にみると,全体として製造業と建設業がより大企業に近く,サービス業 と卸・小売業はより格差が大きい。製造業では70%に達することがあり,逆にサービ ス業と卸・小売業では20%にまで落ちることがある。 続いてその推移に注目すると,2008年に格差が拡大したのは,製造業以外の3業種 であったが,その製造業も2009年に急落したものの回復基調にある。一方建設業は, 2011年以降急速に格差を縮小している。これは2011年3月に発生した東日本大震災後 図表14 総資本経常利益率の〔中小企業/大企業〕比率(折れ線) 図表13 総資本経常利益率の〔中小企業/大企業〕比率 (出所)中小企業白書(2009,2010,2014年版)より作成 (出所)図表13より作成

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の経済対策,復興需要によるものと思われる。それらは大企業も恩恵を受けるけれど も,率ではより中小企業の業績に寄与したということである。 2012年に産業合計の総資本経常利益率の〔中小企業/大企業〕比率が50%を越えた が,これはその建設業によるところが大きいとすれば,まだまだ中小企業業績が全産 業で好調であるとはいえない。 当面,製造業はコンスタントに70%台,他産業は50%台維持という目標設定を行う ことができる。その結果,全産業で60%を達成することで,従業者の待遇改善にもつ ながると考えられる。 建設業については,1997年以降の建設不況から,新分野進出等の経営の構造改革が 求められてきたところであるが,今回の特需は本業の一層の経営効率化を図る機会と 捉えるべきである。 7.まとめ 中小企業のウェイトは,法人企業数の99%以上,従業者数の約70%を占めるが,付 加価値産出額は約52%である。一方,総合的な業績指標であるROAの対大企業比率 は,2012年時点で全産業では51.5%であり,これは2010年から緩やかに増加している。 産業別では,製造業が62.6%でトップである。建設業は大震災後の経済対策,復興需 要により,58.3%と急回復した。反面,サービス業,卸・小売業は増加傾向にあるも のの,他産業よりも低い。 今後の課題として,上記の推移を継続してウォッチしながら,都道府県別の特徴を捉 えたいと思う。 (注) 1)中小企業:資本金3億円以下又は常用雇用者300人以下(ゴム製品製造業は900人以下,旅 館,ホテルは200人以下,卸売業,サービス業(ソフトウェア業,情報処理・提供サービ ス業,旅館,ホテルを除く)は100人以下,小売業,飲食店は50人以下)又は資本金3億 円以下(卸売業は1億円以下,小売業,飲食店,サービス業(ソフトウェア業及び情報処 理・提供サービス業を除く)は5,000万円以下)の企業。 2)常用雇用者:期間を定めずに雇用されている人,1か月を超える期間を定めて雇用されて いる人,それ以外の雇用者のうち,調査対象月の前2か月にそれぞれ18 日以上雇用されて いる人。したがって,正社員だけでなく,上記条件を満たすパートやアルバイトも含まれ る。 3)従業者:調査日現在,当該事業所に所属して働いているすべての人(他の会社や下請先な どの別経営の事業所へ派遣している人も含む。)。したがって経営者や役員も含まれる。 4)大企業:上記の中小企業以外の企業。

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【参考文献】 財務総合政策研究所(2013)『財政金融統計月報』第738号 鹿野嘉昭(2008)『日本の中小企業』東洋経済新報社. 山口憲二(2006)「群馬県における中小建設業の経営戦略」新島学園短期大学紀要26号 【利用データ】 財務省『法人企業統計年報』平成24年度 総務省統計局「平成24年経済センサス−活動調査」 中小企業庁『中小企業白書』2009∼2014年版

参照

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