神経難病療養者のスピリチュアルペインと緩和的ケア
牛 久 保 美 津 子 私は, 脳神経外科病棟・リハビリテーション病棟での 臨床経験をきっかけにして, 爾来, 病気や障害をかかえ たまま退院される患者のケア, 特に「神経難病の療養支 援」の研究・教育・実践に取り組んでいる.これまでの主 な研究活動は, 難病のケアシステムと在宅療養支援, 訪 問看護, 難病医療相談に関するものである. 難 病 と は 難病は, ①希少性, ②原因不明, ③効果的な治療方法の 未確立, ④生活への長期にわたる支障, という 4つの特 徴を有する疾患である.それゆえ,病名告知は本人・家族 に多大なショックを与え, 病気受容はきわめて困難であ る. 加えて, 病状は四肢筋の麻痺による歩行障害や嚥下 障害, コミュニケーション障害などの日常生活上の諸問 題のみならず, 呼吸障害など生命維持を脅かすに至るま で悪化進行する. しかも進行の程度や予後の見通しは不 確実性が高いことが特徴である. 難病療養者がかかえる 苦悩ははかりしれない. スピリチュアルペインとは こうした難病療養者の苦悩は「難病を生きる苦悩」と 「死を前にした苦悩」と表現されるがごとく, まさしく スピリチュアルペインのことである. スピリチュアルペ インとは, 絶望の淵に立たされ悩み苦しむことであり, 自己の存在と意味の消滅 (無意味, 無目的, 無価値など) から生じる苦痛のことである. 1990年に, WHO (世界保 機構) が肉体的苦痛を取り除くことと並行して, スピ リチュアルペインに対するケアの重要性を表明している. 発症時から次々と進行する病状に追いまくられる神経 難病の在宅療養過程において, 療養者が体験するスピリ チュアルペインをはじめとした苦痛や苦悩に対処するた めには, 在宅緩和ケアが重要視されなければならない. しかし, がんに対する緩和ケアの重要性は広く認識され てきているものの, 難治性進行性神経筋疾患の緩和ケア の広範な論議は, 世界的にはじまったばかりである. こういった背景のもと, 私はここ数年にわたり, 神経 難病療養者のスピリチュアルペインを緩和する支援に関 する研究を積み重ねてきた. 徐々に悪化する難病をかか えながらも, 療養者とその家族が前向きに生きていくた めの支援とは何か. 本稿ではその成果の一部をご紹介さ せていただく. スピリチュアルペインの緩和的ケア 神経難病の長期療養者の発症から病状・生活障害が重 度にいたるまでの病体験を明らかにし, 神経難病ととも に生きる療養者の苦悩を緩和するための支援方法を検討 することを目的に, 質的帰納的 析による研究を行った. 対象は, 発症から 10年以上経過した在宅神経難病療養 者とその家族 9 組で, 方法は半構成的面接法を用いた. その結果, 表 1に示すように, 療養者の苦悩は 6領域 12カテゴリが抽出された.身体症状・生活障害領域は【症 状のわずらわしさ】【生活障害による苦痛】【自 で自 のことができない苦痛】の 3つから構成され, これらか ら他の苦悩が派生していた. 一方, 療養者の支えとして 【症状のコントロール】【保持されている身体機能への感 謝】をはじめ,苦悩の領域と対比する 10カテゴリが抽出 された. 療養者の心的状態は, これら苦悩の重さと支え 189 Kitakanto Med J 2007;57:189∼190 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科地域看護学講座在宅看護学 野 平成19年4月5日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科地域看護学講座在宅看護学 野 牛久保美津子との間で揺れ動くシーソー関係にあることが明らかに なった. これらより, 療養者のかかえる苦悩の緩和的ケアとし て, 1. 身体面の苦痛や障害への優先的な働きかけ, 2. 難 病と生きるうえでの支えを発見・支持すること, 具体的 には『希望』や『新たな役割』を発見あるいは支持する 関わり, 3. 苦悩を支えに転換する関わり, 具体的には 1) 周囲の人々に対する抵抗感は, 他の周囲の人の優しさ・ 支えでそれに対する感謝の思いに転換, 2) 進行する身体 症状・生活障害に対しては,失われた機能ではなく,保持 されている機能に目を向け, それに感謝する思いに転換, 3) 家族に対する申し訳なさを感謝の思いに転換, 4. 患者 の思いに寄り添ったケア提供, の 4点が示唆された. お わ り に 医療ニーズおよび介護ニーズの両方を併せ持つ療養者 への長期在宅療養支援・緩和ケアのあり方は, 「神経難 病」の 野がモデルを示していかなければならない. 在 宅療養支援の専門家として, 安全で安心, そして難病で あっても生きることに意味を見いだす支援策の検討に, 今後も微力ながら貢献する所存である. 文 献 1. 牛久保美津子. 神経難病とともに生きる長期療養者の病 体験 : 苦悩に対する緩和的ケア,日本看護科学学会誌,25 (4): 70-79, 2005. 2. 牛久保美津子, 小倉朗子, 小西かおる. 訪問看護師がとら えた神経難病療養者の苦悩と 藤, 日本難病看護学会誌, 9 (3): 188-193, 2005.
3. Mitsuko Ushikubo,Susumu Yuto,Katsuyoshi Takagi,et al. Medical consultation needs and the length of the illness course in patients with intractable diseases, Pri-mary Care Japan, 1 (1): 30-40, 2003.
神経難病療養者のスピリチュアルペインと緩和的ケア
表1 難病療養者がかかえる苦悩および難病とともに生きる支え 190