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成人用過剰適応傾向尺度(OATSAS)と児童・生徒用の過剰適応尺度との比較検討およびOATSAS を用いた社会人と大学生の過剰適応傾向の比較検討

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成人用過剰適応傾向尺度(OATSAS)と児童・生徒用

の過剰適応尺度との比較検討およびOATSAS を用い

た社会人と大学生の過剰適応傾向の比較検討

著者

水澤 慶緒里

雑誌名

関西学院大学心理科学研究

40

ページ

25-30

発行年

2014-03-25

URL

http://hdl.handle.net/10236/12755

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問 題 過剰適応とは,社会的・文化的適応である外的適応が 過剰なため,心理的適応である内的適応が困難に陥りバ ランスが崩れた状態のことである(桑山,2003)。その ため,適応方略の一つでありながら,不適応行動として 捉えられている(臼倉・堀・濱口,2012)。成人を対象 に,この過剰適応状態へのなりやすさを測定するために 開 発 し た 尺 度 が,成 人 用 過 剰 適 応 傾 向 尺 度(Over-Adaptation Tendency Scale for Adults : OATSAS;水澤, 2013尺度名を変更)である。OATSAS では過剰適応傾 向は,「物事に几帳面に取り組むといった強迫性格を持 つ者が,他者の評価を気にして,過度に褒められようと したりためらいがちになったり,何でも自分だけでうま くやろうとした時に強くなる」と定義されている。そし て,内的側面である「強迫性格」を測る下位尺度およ び,外的側面である「評価懸念」「多大な評価希求」「援 助要請への躊躇」を測定する計 4 下位尺度で構成されて いる。また,この外的側面を測る 3 下位尺度は「他者評 価にかかわる側面」という上位概念で括れることが示さ れている(水澤,2013)。尺度得点に関しては,「強迫性 格を持ち,かつ他者の評価を気にする」という過剰適応 傾向の定義から,OATSAS 得点全て,つまり「強迫性 格」および「他者評価にかかわる側面」得点が共に高い 時に,過剰適応傾向が最も強くなると考えられている。 実際,職場不適応を起こした臨床群と健常社会人群間 で OATSAS の 4 下位尺度の平均値を比較したところ, 全ての下位尺度得点で臨床群が健常社会人群より有意に 高かった。このことから,過剰適応へのなりやすさは職 場不適応と関連があり,OATSAS が弁別的妥当性を備 えることが示されている(水澤,2013)。他に,女子大 学生に OATSAS の尺度項目 20 項目から想起する過剰 適応的な人物像を自由記述させたところ,記述された人 物像全てに過剰適応の特徴を示す単語および文章が見ら れた。また,OATSAS 得点が低い人は過剰適応が弱い 人物像を,高い人は強い人物像といった,自身の過剰適 応傾向が想起する人物像に反映される結果が得られた (水澤,2013)。これは,人は既存のイメージを超えるも のに遭遇した時は認知ギャップを埋めるために,本人が 持つ知識を基準に判断するセルフ・アンカーリングモデ

成人用過剰適応傾向尺度(OATSAS)と

児童・生徒用の過剰適応尺度との比較検討

および OATSAS を用いた社会人と

大学生の過剰適応傾向の比較検討

水澤慶緒里

* 抄録:研究 1 では,成人用過剰適応傾向尺度(OATSAS)と,児童・生徒用過剰適応尺度との相違点,類似 点を明らかにするため,大学生 324 名に質問紙調査を行った。OATSAS の「評価懸念」「多大な評価希求」 「援助要請への躊躇」およびこれら 3 つを合わせた「他者評価にかかわる側面」と,児童・生徒用過剰適応 尺度の外的側面とは正の相関関係が見られた。他方,OATSAS の「強迫性格」と,児童・生徒用過剰適応 尺度の内的側面とは関連が見られなかった。これらのことから,成人用,児童・生徒用どちらの尺度も,他 者の目を意識する外的側面は同じであった。一方,子どもは不本意ながら過剰適応し,大人は自ら進んで過 剰適応に向かう傾向の違いが明らかになった。研究 2 では,OATSAS 得点の社会人と大学生の比較検討を 目的とした。社会人 270 名と大学生 324 名の調査の結果,OATSAS の「強迫性格」を除く 3 下位尺度およ び「他者評価にかかわる側面」得点で大学生が有意に高く,「強迫性格」得点では社会人が有意に高かった。 加齢に伴い過剰適応傾向の不適応的な側面は低下すること,社会人は学生に比して業務遂行・業績達成の動 機付けが強いこと,社会人が職場に感じるよりも,大学生の方が所属するコミュニティに集団アイデンティ ティを感じやすいことが考えられた。 キーワード:過剰適応,成人用過剰適応傾向尺度(OATSAS),社会人,大学生,発達 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― * 関西学院大学大学院文学研究科研究員 * 本研究では便宜上,子どもを対象にした過剰適応尺度を総括し,「児童・生徒用過剰適応尺度」と表記している。 関西学院大学心理科学研究 Vol. 40 2014. 3 25

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ル(self-anchoring model)の 結 果(Otten & Epstude, 2006, p 959)と考えられる。このように OATSAS の構 成概念妥当性の検討が行われている。他に,OATSAS を用いた研究には,小学校教師を対象にした水澤・中澤 (印刷中)がある。過剰適応もバーンアウトも仕事への 関わりが強いため生じる不適応と考えられる。ここで は,過剰適応傾向が強いために,精力的に仕事に取り組 み過ぎ,その結果バーンアウトに陥りやすくなることが 明らかにされている。 一方,近年の過剰適応研究で頻繁に使用されているの が,児童・生徒用の過剰適応尺度である。主なものに, 女子高校生を対象に標準化した桑山(2003)の過剰適応 尺度と,中学生と大学生への自由記述から項目を作成し た,石津(2006)による青年期前期用過剰適応尺度があ る。これら児童・生徒を対象とした過剰適応尺度は,い わゆる「よい子」研究に基づき作成されている。そのた め,過剰適応しやすい子の内的側面の特徴として,自分 の欲求は我慢してでも周りの期待に応えようとする自己 抑制性と,それに伴う自己不信,自己不全感に着目して いる。 成人の過剰適応と児童・生徒の過剰適応の最大の違い は,この過剰適応を構成する内的側面の捉え方にある。 前述のように,児童・生徒の過剰適応は,自己抑制性と それに伴う自己不信,自己不全感を過剰適応要因とす る。一方,成人の過剰適応者に共通して見られる内的側 面の特徴は,OATSAS の「強迫性格」に代表されるよ うな,几帳面さ(緒方・内山,2003)や仕事熱心さ(殿 岡・大島・湯浅・谷口・内田・渡辺・桂,1994),会社 から大いに期待され,実際それに応えるべく能力を発揮 して,会社に十分適応していた点(柴田,1984)であ る。つまり,成人用と児童・生徒用尺度のどちらも,外 的側面として他者の目を気にし過ぎる傾向を含むところ は共通である。しかし,内的側面に関しては,子どもは 自己を抑制することで過剰適応し,大人は自発的に過剰 適応に向かう違いがあるといえる。 そこで研究 1 では,異なる対象者向けに開発された成 人用過剰適応傾向尺度(OATSAS)と,児童・生徒用過 剰適応尺度の相違点,類似点を明らかにする。OATSAS において仕事・課題への熱心さを示す「強迫性格」と, 児童・生徒用過剰適応尺度において自己抑制性,自己不 信,自己不全感を示す「内的側面」および「対自因子」 下位尺度とは,その尺度構成の違いから関連が弱いと考 えられる。また,OATSAS の「評価懸念」「多大な評価 希求」「援助要請への躊躇」およびこの 3 下位尺度を合 計した「他者評価にかかわる側面」と,児童・生徒用尺 度の「外的側面」および「対他因子」とは,同様の傾向 を測定しているため関連が強いことが予測される。 研究 2 では,成人を対象に開発した OATSAS を社会 人と大学生に実施し,比較検討を行う。大学生も広義の 成人期であるため OATSAS の使用対 象 で あ る。し か し,会社と大学という所属する集団の違いにより差異が 生じることが考えられる。社会人に比べ自由で制約のな い環境にある大学生では,全ての下位尺度および「他者 評価にかかわる側面」において過剰適応傾向を示す得点 が低くなることが予想される。 対象者に大学生を用いるのは,発達上,成人と児童・ 生徒の間に位置することと,過剰適応の研究においても 数多く対象とされているためである(臼倉他,2012;尾 関,2011 他)。 研 究 1 目的 成人用過剰適応傾向尺度(OATSAS)と児童・生徒用 過剰適応尺度の比較検討を行う。 方法 調査の実施と対象者 2011年 6 月,関西の私立大学生を対象に授業時間内 に質問紙を配布し,324 名(男性 97 名;平均年齢 20.10 歳,SD =1.09,女 性 225 名;平 均 年 齢 19.64 歳,SD = 1.49,不明 2 名)から回収した(回収率 97.5%)。 質問紙の構成 1.成人用過剰適応傾向尺度(Over-Adaptation

Ten-dency Scale for Adults : OATSAS;水澤,2013)「強迫 性格」および「評価懸念」「多大な評価希求」「援助要請 への躊躇」の 4 下位尺度,各 5 項目の計 20 項目で構成 される。「評価懸念」「多大な評価希求」「援助要請への 躊躇」の 3 下位尺度の合計は「他者評価にかかわる側 面」とする。それらの項目に自分がどの程度当てはまる かを尋ね,「全く当てはまらない(1 点)」∼「かなり当て はまる(4 点)」の 4 件法で評価させた。 2.青年期前期用過剰適応尺度(石津,2006)「他者 配慮」8 項目,「期待に沿う努力」7 項目,「人からよく 思われたい欲求」5 項目,「自己抑制」7 項目,「自己不 全感」6 項目の 5 下位尺度,計 33 項目から成る。回答 は「まったくあてはまらない(1 点)」∼「とてもあては まる(5 点)」の 5 件法で回答させた。 3.過剰適応尺度(桑山,2003)「対自因子」12 項目 と「対他因子」10 項目の 2 下位尺度,計 22 項目から成 る。「まったくあてはまらない(1 点)」∼「とてもあては まる(5 点)」の 5 件法で評定させた。 どの尺度も得点が高いほど,その特徴が強いことを示 す。 関西学院大学心理科学研究 26

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結果 OATSASと青年期前期用過剰適応尺度との関連について 成人用過剰適応傾向尺度(OATSAS)の 4 下位尺度お よび「他者評価にかかわる側面」(「評価懸念」「多大な 評価希求」「援助要請への躊躇」の合計)と青年期前期 用過剰適応尺度の「内的側面」(「自己抑制」と「自己不 全感」の合計),「外的側面」(「他者配慮」「期待に沿う 努力」「人からよく思われたい欲求」の合計)得点で相 関分析を行った。その結果 Table 1 のように,OATSAS の「強迫性格」と青年期前期用過剰適応尺度の「内的側 面」を除く全ての下位尺度間で,1% 水準の正の相関関 係が見られた(r=.25∼.72, p<.01)。 OATSASと過剰適応尺度との関連について 同様に,成人用過剰適応傾向尺度(OATSAS)の 4 下 位尺度および「評価懸念」「多大な評価希求」「援助要請 への躊躇」を合計した「他者評価にかかわる側面」と過 剰適応尺度の「対自因子」「対他因子」得点で相関分析 を行った。その結果 Table 1 の通り,OATSAS の「強迫 性格」と過剰適応尺度の「対自因子」とを除く全ての下 位尺度間で,1% 水準の正の相関関係が見られた(r=.33 ∼.72, p<.01)。 研 究 2 目的 社会人と大学生の,成人用過剰適応傾向尺度(OAT-SAS)得点の比較検討を行う。 方法 調査の実施と対象者 社会人については,2010 年 4 月∼7 月にかけて,尺度 項目決定のための調査で得た正規雇用者の得点を利用し た。270 名(男 性 109 名;18 歳∼60 歳 代,女 性 139 名;20 歳∼50 歳代,不明 22 名)から回答を得た(回収 率 79%)。大学生については,研究 1 で使用した 324 名 (男 性 97 名,女 性 225 名,不 明 2 名)の 得 点 を 利 用 し た。 質問紙について 成人用過剰適応傾向尺度 研究 1 で使用した OAT-SASを用いた。 結果 社会人と大学生の過剰適応傾向の比較について 成人用過剰適応傾向尺度(OATSAS)の 4 下位尺およ び「評価懸念」「多大な評価希求」「援助要請への躊躇」 を合計した「他者評価にかかわる側面」得点を,社会人 群,大学生群の群間で比較した。その結果,全ての下位 尺度および「他者評価にかかわる側面」で,0.1% 水準 の 有 意 な 平 均 値 の 差 が 見 ら れ た(t=−5.82∼9.00, p <.001)。「強迫性格」では,社会人群の得点は大学生群 より有意に高かった。また,「強迫性格」を除く全ての 下位尺度と,「他者評価にかかわる側面」では,大学生 群の得点は社会人群より高かった(Table 2)。 総 合 考 察 研究 1 では,成人用過剰適応傾向尺度である OATSAS Table 1 成人用過剰適応傾向尺度(OATSAS)と過剰適応に関する他尺度との相関係数 OATSAS M(SD) 青年期前期用過剰適応尺度 過剰適応尺度 内的側面 外的側面 対自因子 対他因子 34.20(7.17) 56.39(9.32) 32.21(5.89) 26.97(4.17) 強迫性格 評価懸念 多大な評価希求 援助要請への躊躇 他者評価にかかわる側面 (評価懸念+多大な評価希求+援助要請躊躇) 12.16(2.25) 13.59(3.13) 12.91(2.74) 11.85(2.64) 38.36(6.77) −.04 .67** .27** .50** .61** .25** .64** .67** .39** .72** −.01 .72** .38** .46** .66** .34** .46** .45** .33** .53** **p<.01 Table 2 社会人と大学生の成人用過剰適応傾向尺度(OATSAS)平均値の差の検定 OATSAS 大学生(n=324) 社会人(n=270) t値 強迫性格 評価懸念 多大な評価希求 援助要請への躊躇 他者評価にかかわる側面 (評価懸念+多大な評価希求+援助要請躊躇) 12.16(2.25) 13.59(3.13) 12.91(2.74) 11.85(2.64) 38.36(6.77) 13.33(2.55) 12.44(2.97) 10.88(2.76) 10.91(2.59) 34.23(6.47) −5.82*** 4.55*** 9.00*** 4.34*** 7.50*** ***p<.001 27 OATSASと他の過剰適応尺度,OATSAS の社会人と大学生の比較検討

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と,児童・生徒用の過剰適応尺度との比較検討を行っ た。仮説通り,OATSAS の「強迫性格」と,青年期前 期用過剰適応尺度の「内的側面」,過剰適応尺度の「対 自因子」とは関連が見られなかった。また,OATSAS の「評価懸念」「多大な評価希求」「援助要請への躊躇」 およびこれら 3 つを合わせた「他者評価にかかわる側 面」と,青年期前期用過剰適応尺度の「外的側面」,過 剰適応尺度の「対他因子」とは関連が見られた。これ は,成人用,児童・生徒用どちらの尺度も,外的側面と して他者の目を気にし過ぎる傾向を含むところは共通で ある。一方,内的側面として子どもは自己を抑制するこ とで過剰適応し,大人は自ら進んで過剰適応に向かう, その尺度構成の違いが明確に表れた結果といえよう。 また,OATSAS の「強迫性格」は精神健康調査票(The General Health Questionnaire ; GHQ ; Goldberg, 1978)と の 間 に 相 関 関 係 が 見 ら れ な か っ た こ と か ら(水 澤, 2013),過剰適応には影響を及ぼさないとも考えられた。 しかし本研究において,「強迫性格」は青年期前期用過 剰適応尺度の「外的側面」,過剰適応尺度の「対他因子」 と正の相関関係が見られた。このことから,「強迫性格」 は直接不適応には関連しないものの,過剰適応を構成す る外的適応の過剰さとは関係することが示されたといえ る。Martin, Ward, Achee, & Wyer(1993)は,前向きな 気 分(positive moods)と 後 ろ 向 き な 気 分(negative moods)について,次のような実験結果を報告してい る。課題に楽しめなくなった時には止めて良いと言われ た場合には,後ろ向きな気分の者達の方が前向きな気分 の者達よりも早く課題を止めた。このことから,前向き な気分の者はより長く課題に従事すると述べている。成 人の過剰適応者に見られる勤勉さや仕事熱心さといった 課題に対する持続的な姿勢は,この前向きさによるもの と考えられる。この前向きさからくる仕事熱心さを反映 していると考えられる OATSAS の「強迫性格」は,い わば成人の過剰適応傾向を促進させるエンジンのような 役割を果たしているといえよう。実際,社会人 361 名を 「過剰適応群」と「職場適応群」,「無気力・鈍感群」に ク ラ ス タ ー 分 け し た 比 較 研 究 が あ る(竹 本・西 山, 2008)。ここでも,強迫的な努力がストレス反応に悪い 影響を及ぼすのではなく,他者評価不安などが否定的に 作用することが報告されている。 研究 2 では,成人を対象に開発した OATSAS を,成 人期の社会人と大学生に実施し,比較検討を行った。そ の結果,仮説通り「強迫性格」得点では,大学生群が社 会人群より有意に低かった。しかし,仮説に反して OAT-SASの「強迫性格」を除く全ての下位尺度および「他 者評価にかかわる側面」得点では,大学生群が有意に高 かった。 過剰適応傾向の発達的変化に関する数少ない報告の一 つに,益子(2011)がある。それによると,高校生群, 大学生群,成人の壮年期群(23 歳∼40 歳),中年期群 (41 歳∼60 歳)の 4 群の中で,過剰な外的行動(社会的 適応)は大学生群が有意に高かった。一方,自分らしく ある感覚である本来感は,高校生群,大学生群では低い ものの,壮年期群,中年期群で高くなることが報告され ている。また,高校生では過剰な外的適応行動は本来感 を低下させるものの,大学生,壮年期と時期を経るごと にその関連は弱くなり中年期において最も弱くなること から,加齢に伴い 2 つの変数の関連性が弱くなると述べ ている。他にも例えばタイプ A 行動パターンに関して は,以前は 30 代がピークで 40 代で頭打ちになり,それ 以降年齢が上昇するに従い減少すると言われてきた。し かし,10 代の被験者を含め,13 歳から 92 歳までを調査 対象にしたことで,タイプ A 行動パターンのピークが それまで言われていたよりさらに若い,18 歳から 24 歳 の大学生にあたる発達時期にあることが明らかにされて いる(Nakazato, Shimonaka, & Kawaai, 1998)。さらに, 平均年齢 20 歳の大学生と平均年齢 73 歳の退職後の成人 を比較した研究がある(Erskine, Kvavilashvili, & Korn-bror, 2007)。ここでは,老年期の成人の方が大学生よ り,日常生活の中で自らの不適切な考えを制御しようと 試みる思考抑制を行う回数が少ないこと,その理由とし て老年期の成人は,抑うつの持続・重症化に関係する反 すうや不安が低いことを挙げている。これら加齢に伴う 不適応的側面の減少と適応的側面の増加に関する研究が 示すように,過剰適応傾向においても加齢に伴い不適応 的な側面が低下する可能性が考えられるため,その検証 は今後の課題としたい。また,尾関(2011)は,過剰適 応の外的側面が大学生および短大生の集団アイデンティ ティを高め,集団アイデンティティが自尊心に正の影響 を及ぼすことを報告している。本研究においても,社会 人が職場に感じるよりも,大学生の方が所属するコミュ ニティに集団アイデンティティを感じやすいために,過 剰適応傾向得点が高くなったことも考えられる。 一方,「強迫性格」は学生よりも社会人の方が有意に 高かった。これは,OATSAS が正規雇用者を対象に標 準化されていることと関係するであろう。例えば白樫・ 成瀬・田崎(1964)は,社会人は学生に比して業務遂行 ・業績達成の動機付けが強く,会社の業績をあげるため の工夫をして仕事を徹底的にやり遂げ,専門外の仕事で も自分で工夫対処する態度を積極的に支持していると述 べている。つまり OATSAS の「強迫性格」は,社会人 の仕事・課題への動機付けの実態を反映したものになっ ているためといえる。 現在,生涯発達概念に根差した研究が求められている ものの,調査協力者が得られにくいことから,青年期研 究の主たる対象は学生であること(白井・安達・若松・ 関西学院大学心理科学研究 28

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下村・川崎,2009)や,成人期前期の研究の乏しさが指 摘 さ れ て い る(船 越,2011)。一 方,益 子(2009)は, 青年期の適応様式がその後の適応体制の基本をなすた め,過剰適応傾向の病前性格的側面について青年期に着 目することは有益であると述べており,大学生を対象と した過剰適応研究は必須であろう。ただし,例えば尾関 (2011)の過剰適応に関する研究では,大学生の場合, 他者配慮や期待に沿う努力,人から良く思われたい欲求 といった過剰適応の外的側面は,内的側面である自己を 抑制した結果として生じるのではないため,過剰適応の 内的側面が外的側面を予測しやすいという中学生(石津 ・阿保,2009)とは異なる結果になることを指摘してい る。このことからも,今後大学生を対象とする場合に は,児童・生徒用の尺度のような自己抑制,自己不信の 観点からのみではなく,過剰適応を促進するいわばエン ジンである「強迫性格」にも注目していくことが肝要で あろう。また,本研究では,OATSAS と児童・生徒用 の過剰適応尺度の外的側面同士は関連を示す一方,内的 側面同士では異なる傾向を示した。このことから,OAT-SASは尺度の定義に沿っており,成人に適した尺度で あることが確認された。同時に社会人と大学生との比較 を行うことで,同じ成人であっても置かれている環境の 違いでそれぞれ異なる傾向を示すことが明らかとなっ た。今後はこの OATSAS と児童・生徒用過剰適応尺度 との相違点と類似点,社会人との相違点について留意し て大学生にも活用してゆく必要があろう。 これまで成人を主な対象としてきた OATSAS だが, 今回児童・生徒用過剰適応尺度との比較研究,大学生と の比較研究により発達的な視点が加味された。Nakazato et al.(1998)は,調査対象者を若年層に広げることで, タイプ A 行動パターンの最盛期に関する新たな知見を 得ている。今後は,成人の過剰適応傾向がどの発達段階 で確立されるかといった発達上の経緯を確認するために も,児童,生徒にも対象を広げた研究を重ねていくこと が求められる。 引用文献

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付録 成人用過剰適応傾向尺度(Over-Adaptation Tendency Scale for Adults : OATSAS) 以下の各項目は,どれくらいあなたに当てはまりますか? 1 全く当てはまらない 2 あまり当てはまらない 3 やや当てはまる 4 かなり当てはまる のいずれか 1 つを選んで番号に○をして下さい。 全 く 当 て は ま ら な い あ ま り 当 て は ま ら な い や や 当 て は ま る か な り 当 て は ま る 1 人からどう思われているか心配だ 1 2 3 4 2 す 人より高い評価を得ないと気が済まない 1 2 3 4 3 ひま えんりょ 暇そうな人がいても,遠慮して手伝って欲しいとは言えない 1 2 3 4 4 ちゅう と はん ぱ が まん 中 途半端な仕上がりでは我慢出来ない 1 2 3 4 5 ぎ せい 何かを犠牲にしても仕事を優先する 1 2 3 4 6 他人の目を気にして,のびのび出来ない 1 2 3 4 7 ほ 相手から褒めてもらえることをまず考えてしまう 1 2 3 4 8 いちもく 周りから一目置かれたい 1 2 3 4 9 たの ごと 相手の迷惑になりそうで,頼み事が出来ない 1 2 3 4 10 他の人の仕事を増やすのは申し訳ないので,何でも自分でする 1 2 3 4 11 自分の言動が,周囲の反対にあわないか気になる 1 2 3 4 12 くだ 見下されないように,背伸びをしている 1 2 3 4 13 す 何でも自分でしないと気が済まない 1 2 3 4 14 き げん そこ 周りの機嫌を損ねないように,顔色をうかがう 1 2 3 4 15 人に何かを頼むと,自分の能力のなさがばれてしまう 1 2 3 4 16 か げん 仕事をいい加減にすることがあるⓇ 1 2 3 4 17 す いくら大変でも,その日のうちに出来ることはその日のうちに済ます 1 2 3 4 18 人に甘えたら,弱い人間だと思われる 1 2 3 4 19 はず おさ 仲間外れにならないように,自分を抑えている 1 2 3 4 20 人に気に入られることが何よりも大事だ 1 2 3 4 評価懸念 :1+6+11+14+19 多大な評価希求 :2+7+8+12+20 援助要請への躊躇 :3+9+10+15+18 強迫性格 :4+5+13+16+17 関西学院大学心理科学研究 30

参照

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