インテーク面接におけるダイナミック・アセスメントの
ためのマニュアルと,ダイナミック・アセスメント後の
情動的及び認知的変化に関する単一事例研究
田 澤 安 弘
近 田 佳 江
インテーク面接におけるダイナミック・アセスメントのためのマニュアルと,
ダイナミック・アセスメント後の情動的及び認知的変化に関する単一事例研究
田 澤 安 弘
近 田 佳 江
はじめに
−問題と目的−
西田(2004)は,インテーク面接について, 「クライエントに対して行われる最初の面接 であり,クライエントがどのような問題を抱 えているのかを把握して,それに対してどの ような援助が最適であるかを判断するために 行う面接をいう。そのためインテーク面接に おいては,治療契約後に行われる治療面接に 比べて,心理学的診断に重点が置かれ」る, と述べている。これが,臨床心理学の世界に おいて伝統的に行われている,インテーク面 接の目的である。 ところが,このようにして心理診断をセラ ピーの前提とすること,つまりスタート地点 に専門家中心の診断を置くことに対しては, 来談者中心療法のロジャーズ(1946,1957) や,コラボレイティヴ・セラピーのアンダー ソンとグーリシャン(1988)などが異議を唱 えている。前者は共感的理解に対する診断的 理解への疑問から,後者は診断とセラピーを 担う専門家としての権威を否定し,クライエ ントとセラピストが協働して問題を定義する 社会構成主義的な思想的背景からであるが, いずれもエルキンス(2016)のような医学モ デルへの懐疑からと規定できるのかもしれな い。また,ブリーフセラピーの森(2015)に 至っては,セラピーとしての効果性が最も高 いと考えられる初回面接から積極的に介入を 行い,主訴,現病歴,生活歴,家族歴などの 聴取のために行われるインテーク面接の廃止 を訴えているほどである。 以上のように,初回面接は,セラピスト中 目次 はじめに−問題と目的 ダイナミック・アセスメントの ためのマニュアル Ⅰ.ダイナミック・アセスメ ントとは何か Ⅱ.ダイナミック・アセスメ ントのステップ Ⅲ.事例による各ステップの 例証 単一事例研究 Ⅰ.事例の概要 Ⅱ.分析の対象と方法 Ⅲ.結果と考察 おわりに−協働的なナラティヴ を創出するために 要旨: 本論は,従来の静的アセスメントへの批判から教育分野で発展してき たダイナミック・アセスメントの手続きを,サイコセラピーのインテー ク面接に導入するものである。本論は2部構成になっている。第1部 では,変化を生み出す治療的介入と変化(発達の最近接領域)の動的 測定が組み込まれた,インテーク面接におけるダイナミック・アセス メントのためのマニュアルを提示した。これは三つのステップから構 成されており,実際の事例を介して具体的な手順を解説した。第2部 では,ダイナミック・アセスメントを導入したインテーク面接後にク ライエントの情動や認知がどのように変化するのか検証するために, 分割時系列分析による単一事例研究を行った。結果として,インテー ク直後に効果量にして「大」の構造変化点が検出され,介入とそれに よる変化のダイナミック・アセスメントが組み込まれた1回のインテー ク面接が,クライエントに大きな肯定的変化を引き起こしたことが理 解された。 キーワード:ダイナミック・アセスメント,単一事例研究,インテーク面接心の心理学的診断を主たる目的としたインテー ク面接にすることも,半ば制度的に行われて いるそのようなインテーク面接なしにすぐさ ま介入を行う治療的セッションにすることも 実際には可能である。 次に示すのは,精神医学的診断に対する精 神病理学者ブランケンブルグ(1975)の批判 である。これは,彼の『精神医学的な対話の もつ誘発的要因について』からの抜粋である。 「結局のところ,古典的精神医学の診断的姿 勢にある反治療的な傾向,またそれに伴う非 人間的な傾向は,医者の診断を旨とする対話 に含まれる誘発的な契機のうちにあるよりは むしろ,それによって誘発されるものがほと んど例外なく病的な欠陥であるということの 方にある。そこで問題にされるのはいつも, 何が『欠けている』のかであり,……の不足, 隠れた欠損,疾病症状,といったことばかり である。もしもわれわれが,患者の潜在的な 可能性や能力,健康になる潜在力,人格の隠 れた健全さといったものを誘発的に発掘して 有効にするような方法を,それと同じ程度ま で展開するならば,精神診断的な対話におけ る誘発的要因はまったく別の顔を見せること になるだろう。更に言うなら,その人の人格 それ自身を―その生きられていない生を―誘 発することが重要なのである」 これはあくまで古典的精神医学の診断面接 に対する批判であり,ブランケンブルグが言っ ているのは,精神診断的な対話における基本 的態度として,クライエントの精神病理を誘 発するよりも,まだ潜勢的な可能性の域にと どまっている肯定的潜在力を誘発することが 大切だということである。さらに言えば,こ れはたんに人格の肯定的側面に着目せよとい う示唆ではない。潜在から顕在へ,つまりい ま現在すでに顕在化している肯定的側面のた んなる確認を超えて,いまだ顕在化していな い肯定的な潜在力の展開可能性を呼び起こす ことの重要性を彼は訴えているのである。 このように,初回面接は,アセスメントを 主体とした伝統的なインテーク面接にするこ ともできるし,見立てに至ることを目的とし ない介入を主体とするセラピーにすることも できる。しかし,一方を捨て去って他方を取 るのではなく,セラピーであると同時にアセ スメントでもあるようなインテーク面接を行 うことができるのではあるまいか。さらには, インテーク面接におけるセラピー的側面と表 裏をなすアセスメント的側面に関して,欠如 態としての精神病理や人格の否定的側面を誘 発して見立てに至ったり,すでに顕在化して いる肯定的側面の単なる確認を目的として行 うのではなく,潜勢的なまま見えないものに とどまっているクライエントの肯定的側面を 誘発して,クライエントとセラピストのあい だに見えるものとして展開させることを目指 して行うことが可能なのではあるまいか。 ブッドマンら(1992)は,ブリーフセラピー における初回面接について論じる中で,オリ エンテーションは異なるにせよ,大部分のブ リーフセラピストが初回面接で行う共通の課 題をいくつか挙げている。その中のひとつが, 「最初の治療的介入を行い,その効果をアセ スメントすること」である。セラピーの初期 段階で介入による変化のアセスメントを行う 代表例としては,たとえば短期集中力動精神 療法の「トライアルセラピー(Trial Ther-apy)」(Davanloo,1980) が存在している。 これは,抵抗に対して試験的な解釈投与を行 い,クライエントがそれに対してどのように 反応するのか,作業同盟に持ちこたえられる ものかといった点について,評価するもので ある。実際の介入に対する変化をアセスメン トするという点で,セラピーとアセスメント が一体化しており,静的アセスメントを目的 とする伝統的なインテークをすでに超えてい ることが注目されるであろう。
このような現代のブリーフセラピーやブラ ンケンブルグ以前に古典的な精神医学的診断 を批判し,困難を抱えた子どもに対して教育 と治療の可能性を探るような発達診断が必要 であることをいち早く訴えていたのは,ヴィ ゴツキー(1983)であった。本論においてイ ンテーク面接への導入が試みられる「ダイナ ミ ッ ク・ア セ ス メ ン ト(Dynamic Assess-ment)」(以下 DA と表記)は,以下に引用 する彼(Vygotsky,1935)の「発 達 の 最 近 接 領 域(zone of proximal development)」 の概念を応用したものである。 「子どもの発達の最近接領域は,自主的に解 決される問題によって規定される子どもの現 在の発達水準と,大人に指導されたり自分よ りも知的な仲間と協働したりして子どもが解 く問題によって規定される可能的発達水準と のあいだの隔たりのことです。……発達の最 近接領域は,まだ成熟してはいないが成熟中 の過程にある機能,今はまだ萌芽状態にある けれども明日には成熟するような機能を規定 します。……現在の発達水準は昨日の発達の 成果,発達の結果を特徴づけますが,発達の 最近接領域は明日の知的発達を特徴づけます。 ……発達の最近接領域は,明日の発達に何が 起こるかを予言することを可能にします」 ここでの教育学的な表現は,臨床心理学的 なものへと翻訳される必要があるかもしれな い。発達の最近接領域とは,クライエントが いま現在一人で抱えている問題を独力で解決 し得る水準,あるいは自分ではどうすること もできずに行き詰っている現在の機能水準と, いま現在クライエントが抱えている問題をク ライエントとセラピストが協働することによっ て解消し得る可能的水準,ないし現在は潜在 化しているものの双方の協働的関係性におい て近い将来に顕在化し得る可能的機能水準と の隔たりのことである。換言すれば,クライ エント!セラピスト関係における発達の最近 接領域とは,クライエントの短期的ないし中 期的な回復にかかわる「伸びしろ」と言って もよく,その伸びしろを見極めることによっ て,クライエントが間もなく回復可能な水準 を予測することができる可能性が開かれるの である。 もうひとつ,クライエントにとって無理の ないセラピーを行うために,非常に示唆的な ヴィゴツキー(1956)の言葉を引用する。 「教授の可能性は,子供の発達の最近接領域 によって決定される。……以前は,子供が読 み方や算数などの教授を受けるまでに成熟し たかどうかが問われた。成熟した機能につい ての問いは,なお有効ではある。われわれは, つねに教授の下限を決定しなければならない。 しかし,問題はこれで尽きるのではない。わ れわれは,教授の上限をも決定し得ねばなら ない。これら両方の限界のなかでのみ,教授 は効果を上げることができる。これらの間に のみ,その教科の教授の最適の時期が存する。 教育学は,子供の発達の昨日にではなく,明 日に目を向けなければならない。そのときに のみ,それは発達の最近接領域にいま横たわっ ている発達過程を教授の過程において現実に 呼び起こすことができる」 発達の最近接領域において,クライエント の現下の機能水準に向けてアプローチするの がセラピーの下限であるとすれば(いわゆる 支持的アプローチに匹敵するであろう),近 い将来に展開可能な機能水準に向けてアプロー チするのが上限ということになる。ヴィゴツ キーの理論に照らすと,セラピーはこれら両 方の限界としての発達の最近接領域のなかで 営まれるときにのみ効果を上げることができ る。この意味で,セラピーの行方は,クライ エントの発達の最近接領域によって決定され ることになるといえるであろう。
しかしながら,ヴィゴツキーの論旨を拡大 解釈すれば,発達の最近接領域はクライエン トとセラピストのあいだ,つまり社会的に形 成される精神間機能の領域に創出され,それ が後にクライエント個人の内面的な精神過程 である精神内機能へ心内化されるものと考え られる。したがって,上限と下限を考慮に入 れたセラピーによってクライエントが回復し たとしても,それがもともとクライエントに 内在していた内的資質ないしリソースが内部 から外部へ発現した結果であるとは考えるこ とはできないであろう。回復の伸びしろは, あくまで個別的なクライエントとセラピスト の具体的な社会関係のうちに潜勢していて, それが精神間に顕在化した後でクライエント の精神内へと心内化されると考えるのが自然 である。 また,引用した文章のなかには「最適の時 期」という重要な言葉が存在している。これ が意味するのは,いわゆる臨界期のことであ る。潜勢している可能的機能水準が顕在化し てクライエントが回復の途につくには,機が 熟していること,つまり「カイロス(kairos)」 (Ellenberger,1973)の問題が絡んでいる ことを忘れてはなるまい。われわれには,発 達の最近接領域に横たわっている回復過程を セラピーのプロセスにおいて呼び起こすとい うよりも,むしろ回復の好機がすぐそこまで 到来していることを発達の最近接領域のうち に感得すること,あるいはタイミングを読む ことが求められるのである。 本論は二部構成になっている。第1部では, 変化を生み出す治療的介入と変化(発達の最 近接領域)の動的測定が組み込まれた,イン テーク面接における DA のためのマニュア ルを提示する。第2部では,DA を導入した インテーク面接後の情動的および認知的変化 について検証するために,時系列分析を活用 した単一事例研究を行う。DA は,いまは主 として教育分野で実施されているにすぎない。 臨床心理学の世界では,発達障害の領域で前 川ら(2013)が授業の作文産出過程に応用し ているだけであり,残念ながらわれわれにとっ てはまだ馴染みがない段階にとどまっている。 本論では DA の概要を説明し,その手続き をクライエントの反応性が最も高いと考えら れるインテーク面接に導入する一方法につい て述べた後で,臨床心理学領域における DA の有用性を単一事例研究を介して論証するつ もりである。 なお,インテーク面接における状態不安の DA とその後のブリーフセラピーによる特性 不安の低減効果との関連については,田澤・ 本田(2017)の実証的研究を参照されたい。
ダイナミック・アセスメントのための
マニュアル
Ⅰ.ダイナミック・アセスメントとは何か
教育分野では,近年,従来の静的アセスメ ントへの反省を踏まえた,DA が広がりつつ ある。静的アセスメントは,学習者がすでに 獲得している能力を,標準化された基準など に照らして教師が一方向的に評価するもので ある。それに対して DA は,自己評価やピ ア・アセスメントなどを介して学習者も評価 過程に参与し,教授・学習の過程に起こる変 化を学習者と教師が協働的に評価するもので ある。 リッツとエリオット(2007) によると, 現在行われている DA は多様であり,それ にはさまざまなモデルが存在している。しか し,DA の起源にはヴィゴツキー(1935)の 「発達の最近接領域」の考え方があって,DA として分類されるためのいくつかの中核的な 基準が存在している。リッツ(1991) は, それらを次のように要約している。 ① DA は,事 前 テ ス ト→介 入→事 後 テ ストの形式で行われる。まず,標準化されたテ ストを実施して,学習者がいま現在実行可能 なレベルを見定める。次に,介入することに よって変化を生み出そうと試みる。そして, 再度同じテストを実施して,変化の程度と特 徴をアセスメントする。 ② DA は,学習者の「変容可能性(modifi-ability)」に焦点を合わせる。ひとつは,介 入に対する反応として起こった,学習者の変 化の総量である。もうひとつは,実際の問題 解決において,関連するメタ認知的プロセス (ストラテジーの決定と適用,自己評価,セ ルフ・モニタリングなど)の現実的遂行が増 大することである。 ③ DA は,種々の介入を展開するための 有益な情報をもたらす。変化を生み出す介入 の強度に関する情報や,メタ認知的プロセス の機能や機能不全に関する情報をもたらすこ とによって,学習者のパフォーマンス改善を 促進するにはどのようにアプローチすればよ いのか,介入への示唆を与えてくれるのであ る。 このように,DA には変化を生み出す側面 と,間近に迫っているであろう近い将来の変 化を予測したり介入への示唆を得る側面があ る。そのため,介入と評価が表裏をなしてい るので,全体としてはどこまでがアセスメン トで,どこまでが介入であるのか,両者の境 界線を明確に引くことが極めて困難である。 この点が,従来的な静的アセスメントと大い に異なっている。臨床心理学の分野には,ア セスメントのプロセスをブリーフセラピーと して行うフィン(1996,2007)の「治療的ア セスメント(Therapeutic Assessment)」が あるが,アセスメントがすなわちセラピーな いし教育を意味するという点で両者は類似し た手法であると言える。
Ⅱ.ダイナミック・アセスメントのステップ
1.何が測定されるのか 本論で DA が測定の対象とするのは,ク ライエントの不安とその低減である。そのた め,STAI(肥野田ら,2000)を使用して, 状態不安および特性不安を測定する。状態不 安は,インテークの冒頭と終了直前に2回測 定する。特性不安は,インテークの冒頭で1 回測定する。 クライエントは,初めてセラピストと顔を 合わせるインテークの冒頭で,大変緊張して いるものである。この高不安の状況で測定さ れた数値に反映されるのは,クライエントが 独力でなし得る不安低減のための自己コント ロールをネガとする,ポジとしての顕在的不 安感であろう。これが,発達の最近接領域の 下限であると考えられる。 その後,時間をかけて治療的介入が行われ るわけであるが,われわれのアプローチは, クライエントが心的体験に接触して情動体験 へと至ることを重視している。おそらく,負 荷が高い心的体験への接触によって一時的に インテーク冒頭よりも不安が高くなるものと 思われるが,不安を静穏化するようなセラピ ストの情動コントロールなどの影響で,セッ ションが終わる頃にはクライエントの不安は 低減しているはずである。この時点で測定さ れる数値に反映されるのは,クライエントが セラピストと協働するなかで間主観的に実現 される情動コントロールをネガとする,ポジ としての安心感ないし低減した顕在的不安感 であろう。これが,発達の最近接領域の上限 であると考えられる。 クライエントとセラピストが対面すること によって,二人のあいだに創出される潜勢的 な可能性の領域から不安感情を調整する静穏 機能が誘発され,結果としてクライエントに 緊張と弛緩のダイナミズムが生み出されるこ とになる。今回 DA が直接的に測定するのは,シングル・セッションの内部におけるこ のような緊張と弛緩の落差に他ならない。ま た,グリーンバーグ(2011)が言うように, 「自己をなだめる能力(being able to soothe the self)は,最初は保護的な他者の静穏機 能を内在化することで発達する」わけで, 「時間とともに自己をなだめる能力が内在化 され,クライエントは潜在的な自己静穏−意 図的に努力することなく自動的に感情を静穏 する能力−を培っていく」ことになるが,理 論的には,DA は不安を調整する静穏機能 (クライエントが近い将来に独力で実現可能 になる自己静穏能力)を間接的に測定してい ることにもなるであろう。 2.実施手順 ①ステップ1 まず,インテークのためにクライエントを 室内に迎え入れ,着席後に,緊張緩和のため に少しだけ会話する。その後,セラピストは 必要事項を説明して,各種書類への記入をク ライエントに求める。このあいだ,およそ5 ∼10分を要する。 次 い で,不 安 の DA の1回 目(事 前 テ ス ト)に移行する。まずセラピストは,クライ エントに対していま現在の気分について「気 分はいかがですか。緊張していませんか」な ど尋ねる。少し言葉を交わしてから,STAI の状態不安と特性不安への回答を求め,その 際に,いまと,今回のセッションの終わりに 同じ心理テストを行って,後ほどその変化に ついて話し合いたいと伝えておく。 ②ステップ2 ここからクライエントの訴えに耳を傾ける。 筆頭著者の場合,ごく普通のインテークのよ うに,クライエントの悩み(中核的葛藤)や 抱えている問題,生活史などについて聞き取 るだけではない。初回面接ではあるが,積極 的に介入することによって変化を生み出そう と働きかけることもする。むしろ,こちらの 方がメインとなるであろう。 インテーク面接には,全体として90分から 2時間程度の時間をかける。クライエントに よっては3時間を超える場合もあれば,1時 間で終了する場合もある。まずセラピストが 「今回はどのようなご相談になりますか?」 「どんなことでお困りですか?」などクライ エントに問うことからスタートするわけであ るが,インテーク開始から30分が経過する頃 までは積極的な介入を行わずに,クライエン トの訴えにひたすら耳を傾けることに終始す ることが多い。このようにしてクライエント の声に浸ることによって肌で感じ取った言語 以前の触感を頼りとして,その後は臨機応変 に治療的介入を試みていくことになる。 どのような介入をどのように行うかは,セ ラピスト自身のオリエンテーションによって 左右されるであろうし,介入の強度も,セラ ピストがそのつど感じ取るクライエントの変 化に応じて時々刻々と修正されるはずである。 すでに述べたが,筆頭著者の場合には前言語 的な身体レベルに表出する不安−緊張を意識 して,間主観的な情動コントロールに努めな がら,クライエントがその心的体験と充分に 接触するようにアプローチしていく。 ③ステップ3 2回目の DA である(事後テスト)。イン テークでのやり取りを一通り終えてから,ク ライエントに再び STAI への記入を求める。 ここでの回答は,状態不安だけでよい。セラ ピストは事前テストと事後テストの状態不安 得点,それから特性不安得点を計算し,それ ぞれを記録用紙のグラフ上にプロットしてク ライエントに示す。 次いで,DA によるこの変化のアセスメン ト結果を足場としながら,いま現在抱えてい る悩みをセラピストに話すことによって,冒 頭での不安が低減したのか,あまり変わらな かったのか,あるいはさらに不安になったの かといった点について,内省による自己評価 をクライエントに求め,話し合う。さらに,
その話し合いのなかで,セラピストの対応は 侵入的なものではなかったか,安心感を与え るものであったか,あるいはセラピストとの 個別的関係において今後セラピーのなかで心 情を言語化した場合,精神的に楽になりそう か,苦痛が昂じそうかなど,互いにピア・ア セスメントを行う。 もしもインテーク前後で状態不安得点が上 昇したとすれば,その後のセラピーへの示唆 として理解し,たとえば「今回のような強度 のアプローチでは動揺が強くなりすぎるので, 次回はもう少しサポーティヴに関与しよう」 など,セラピスト側の関与の仕方を修正する ための材料として活用することもできるであ ろう。 以上,①事前テスト→②治療的介入→③事 後テスト+変化のアセスメント結果をもとに した話し合いという一連の流れが,インテー ク面接におけるDA のステップである。
Ⅲ.事例による各ステップの例証
以下に,実際の事例を用いて各ステップを 例証する。事例は第2部の単一事例研究で検 討されるA子さんである。ここではステップ 1からステップ3までの逐語録を抜粋して示 す。なお,インテークの実施時間は全体で1 時間45分であった。ステップ1
以下は,インテーク冒頭でのやり取りであ る。書類への記入などがすんでから気分につ いて会話し,その後STAI への記入を求めた。 Th!)# 44J"BXJ"2Pj?H2PA 6$ Cl!)# 1"B3IRL2IA! Th!*# B3IA6! Cl!*# O2! Th!+# 1[PV"~Oj?L2IA6$ Cl!+# ~Oj?PA'{3(! Th!,# 1%"B3IA6! Cl!,# O2!IR"ddO|IA! Th!-# 11"B3IA6! Cl!-# O2! Th!.# 44J";X"cJ6jZW} a^bL[IA:K";XZpSFH2C D2H"BXJ"pN5o27xYFH 6UR3d@NZSFH2CD2H" sZg?HQC2[IAM!BXI"C tTVRz?E2CJ6"RFJj? CJ6"BNZmI?o2C2[IA! Cl!.# O2! Th!/# 'STAI JikZv?H(44 J"eJqJG1VP?H";EU7pN <h!;EU7 N<hIy2H9D =2! Cl!/# O2!&&'iZfrAW!xP I*Z?C(&&Ry8PA6$ Th!0# 11"B;OlnIAT!1V7J3 <>2PA!'STAI Zw:uFHiX7 L26_\`]AW( このように,心理テストの目的を説明し, 同意を得ることが基本である。また,われわ れは,神田橋(1984)が言うように「緊張を ほぐす最初の,しかも最良の操作は,緊張し ていることに気付かせることである」と理解 しており,インテーク冒頭で必ず緊張につい ての問いを発し,会話するように心がけてい る。インテーク終了後に算出されたものであ るが,この時点でのA子さんの状態不安得点 は69パーセンタイルであり,正常範囲の上限 に位置するものであった。ステップ2
以下は,ステップ2に相当する部分からの 抜粋である。成育歴などを聴取するかたちの従来的な情報収集型インテークを超えて,セ ラピーのレベルまで踏み込んだセッションに なっていることが理解されるであろう。 まず,セラピストの「どういったご相談に なりますか?」という問いから会話がスター トする。 Th!'# B1=V=C^"3¸ÎIE\FJÆ 6V=C9K"YH¼Æ4AH0CD6 V?N!I"K10FC;°µML_V?4$ Cl!'# 22J"0b0b"1d"ÅL_M" :1krsth=C_"»=0:JMkrs th=CdI?9K"Z1:J;J81V8 04L8H"BaICSdLd4£¯= H`J:b5/`dI?9K!V/"BaP" IZ"ZJZJ»=0:J["Ld4Ív O:Jc[FH"¹ÍZBdLM=L4F C4^"ÈL0FH1J:bZ/`dI ?9K"ÁËv M£cÉ8=H0H"I" 0VBO¢¡J=H"I6`¦MwVa H0`OI"V?V?:1Ld4Å5W> YMLFH6C_J4"/%"Ld4jqD" ÅPjqLdDFHFC_?`~5³ 8H!_PBdLÄMFHL0O4Z= aL0dI?9K"ÅI:1ÁËv M M=?7H0H"V/"/J5Êy J01:JZ/FH"Ì5ÃuDJ4"B 101:JZ/FH"Ld4Z1"K1=C ^00dDb1FH"2HZÈL0:J c2H=V1FH014!1%d"Ld4" B1014^À9=C0LFH01O 5"/_V?! Th!(# ÅM£5L0dI?4$ Cl!(# P0"L0I?N! Th!)# T1T1"0VO¢¡DJ"_O¦ PI6`¦Q4_LdD! Cl!)# 1V8Ç5I6`¦5":1`J! CSdÅPÇ5FH01gtpsl fi5/`O4Z=aL0I?! Th!*# T1T1"LdI?4$ Cl!*# DJ0V?! Th!+# 22J"}²§cÆ0HZ00I? 4$ セラピストは,冒頭からクライエントの強 い緊張を感じ取っていた。そのため,クライ エントの話し方に合わせて,いつもよりかな り声のヴォリュームを下げ,発話のテンポを ゆっくりとしたものに調節している。Th!5 で唐突に家族構成に話題を変えたのは,情動 からトークに移行することによって不安感情 の静穏化を意図したものである。 Th!,# 1d1d!ÊyI":a4^«O :J5¤½I?N!1%d!¦O¶M0`J" LdD4£5L0! Cl!,# P0! Th!-# 1d!BaPMVFC:JLdI ?4!@%FJ¬4^! Cl!-# ¦¬I·?`OP"¬4^I?! Th!.# RX"<4OU`J"0G;b4^I ?4! Cl!.# CSd""{M/`OP" ¨OOoemO¿Â~I!xz´9HP0 `dI?9K"º5¥F¾MLFH"Å5 |c[FC4P®2H0L0>I?! Th!'&# T1T1!¨O"º5¥F¾M LFH´0H0C! Cl!'&# P0!B1DJ0V?! Th!''# T1T1!0V"0VI?]!¦¬I ·?`J"KdLR1ML`dI?4$ Cl!''# Ld4Z1¤±5nfnf=H"BO" 5?;8ª8LFH"©5AL8L_V ?! セラピストはここで,幼少時の記憶からい ま現在の身体反応へと焦点をシフトさせた。 さらに会話は続く。 Th!'*# R%d!ÅM£5L0FH01O
J"£¦I®A^FH56OJ"RG5 H5^cIA9$ Cl!+.# P%"RG5H5^[6L~:?U A! Th!+/# KcLS6M! Cl!+/# 6%c!Lc9"³"A^FH56 >Jbdm%h?H5L59L!s5>Jb 7HL59L!Y^>JªMI;H 5^O9L! Th!+0# ³A^D`6"A^D`6FH7 H5^! Cl!+0# PLc9BcLµMFH^[6L ~:?UA!K6LcD! Th!+1# 6c!±O:"sO«b7H 5^! Cl!+1# 9W?_L5IAN!6%c!U4" I;L5c@XL59FH"¶I5c I5^"O9W?_L5IA! ここでは,話題が身体反応から思考内容へ と変化している。そして,クライエントは, 思考にとらわれることによって目の前にある 現実が生きられていないことを口にしている。 セラピストは,ふたたび身体感覚に焦点を合 わせた。 Th!+2# 6%c! ©lflf"{:¥<L]" ¤:L<L^! Cl!+2# P5! Th!+3# P¢7! Cl!+3# 77"P5"B6IAN!P5! Th!,*# KcLS6ML^cIA9!ejej ML^cIA9$ Cl!,*# ejejML]UAN!P5!>aQF Cz@ML^J5UA! Th!,+# ScSc!P59:IA9$ Cl!,+# 5UP"BcLM!P5!½E¬5H 5^T6DJ5UA! Th!,,# 6c!?®?H5^=K"½E¬ 5H5^! Cl!,,# P5! Th!,-# Sc!6%c!tM"¡<9=^> J:I;UA9$ Cl!,-# 4%!>6!'M85H5Clkg bM85H]¯A( Th!,.# 59:IA9! Cl!,.# 4PP"6%c"Lc9"pokfi ?Cz@ML]UA! Th!,/# 6c"B6!&&'°»(&&>65 6"EZFJ°»4]U?C[N$ Cl!,/# P5! Th!,0# >656OP"KcLz@:?UA$ Cl!,0# Lc9"°»I55O9LFH6! BcLM5YLz@P?L5IA! セラピストは,日常場面で緊張した際の身 体感覚ではなく,いまここでの感じに具体的 に焦点を合わせている。イスに深く座り直し てもらい,それによる気分の変化を尋ねたり, たったいま起こった沈黙によって触発される 感情について尋ねたりしている。Cl!24でク ライエントは「リラックスした感じになりま す」と答えたものの,セラピストにはリラッ クスした感じが見て取れなかった。まるで, 深く腰掛けるとリラックスするものであると いう,一般論を口にしているかのように映っ たのである。 Th!/0# T6!5UUI"K_<\5O>JM jnqrh?H"|HH;CcIA9$ Cl!/0# 6%c"&&'¿(&&Lc9y II;C\LFH"6U5>J7H5 CcIA=K"B_W4U]Mw À:L< H"º¾I"4;\VH}FH;H!I%" &&'¿(&&¹v=[6JF H"B_W´J9¨§?HL9FCcIA =K"B_Wux=H"DVI"W64; \VH!I%"EZFJ"u"))M¸ bFH")))Ob¼B6JFH" ²?<HYVH"U4"w O·?H"U
Fo|Rw@_5MIFgLB<N"]I TaEc[8O;K"]ZK!CIM"q [O@6O4WW"CbCbK@WIK! L"y[ER"&&'¡(&&zxER ¥[O;OIK@WIK"k%jK45!E 545rALBQ"4W!zx"L[Og8" 9£@KO4G<L"G<OgLB< N! Th!.0# G<OgLB8$ Cl!.0# G<O"5%g! Th!.1# imGIFM:P"9£@K4 O48`M8"E545P~6bgLBQ! Cl!.1# E5LB!B4WDg"8gL[4 4LB8$ Th!.2# S4! Cl!.2# ':OpLf8Y( Th!/)# PSQ"3bWL£@K4 be<LBQ!4J[! Cl!/)# E5LBQ! Th!/*# L"imOM:P"£9aO8I F8`M8"fZbrAL@^58Q! Cl!/*# S4!'¤f¢@O9`"4( クライエントの自責的な自己批判の声を取 り上げ,気持ちを汲むと,彼女は涙を流して いる。セラピストは,沈黙のなかで,涙を流 す彼女にしばらくのあいだよりそった。そし て,自己否定的思考によって気分がますます 落ち込んでいくクライエントの姿を目の当た りにしたセラピストは,以後,内的な自己批 判の声に焦点化して関与していくことになる。 Th!/+# 66M"¤9K:WBQ! Cl!/+# S4!'?`P4( Th!/,# 75HLnL4bM:P"=5@K ¤f¢B=MS3bgLB8$ Cl!/,# 3%"FWP3aWB!'4( Th!/-# 5gM"4W¤f¢@K"@ H 4FR8O! Cl!/-# S4"E5LBQ! Th!/.# NgOrA9@K4WB8$ Cl!/.# S%!5%g"Og8"BI:a@F M458!S4" H4FuLB! Th!//# P$ Cl!//# 6UU!5g!3%"4]"OPv4 KbgGd5"lhGO%IK4WB!E c[Og8"4]"=5]IKv;R["z xOg8"s4M458"4]%"s6K4 bgGOIK4WB! Th!/0# S%"OPv4KbR"lhGQ!s 6KbgA\O4e! Cl!/0# S4!S4"4WB! Th!/1# v4FM:P"IKv8@M4K; cO4gLBQ! Cl!/1# S%"E5LBQ!S4!lhGOI K4WB! Th!/2# 5%g!v4KbP"}@Bb 9"=RP'RO8P(nM8" M8"[IM4bR8O! Cl!/2# 3%"E5LBQ! セラピストが気分を問うと,クライエント は「落ち着いた気分です」と答えている。だ が,やはり落ち着いたようには映らず,「本 当に?」と懐疑の言葉を発している。それに 対するクライエントの答えは,「バカ」「甘え」 という自己批判の声を伴うものであった。セ ラピストは,そのような内的な声たちを外在 化するアプローチをさらに継続させた。 Th!0)# V5!ERFHP">ZgO?4Q" lhXF4O=M{5<N"ERFHP" q8{IKBM@F`"qM{IK]aF 4LB8$ Cl!0)# 3%"44A\g"P! Th!0*# V5V5"44A\gP"v4KFI K! Cl!0*# E545tOgG_IK"{4F4 LB8Q! Th!0+# V5!
Cl!1,# 6i"K]«=YB! Th!1-# R%!E6R5IJ]"YF"B?5 5K|8 IJ<diGf68! Cl!1-# E6KB!EIHQ®9"5a6N 9@YB! Th!1.# X6!EQ"5FHL"£a<B d>LRK:N5! Cl!1.# R4"M6_IJ£´<BeS55Q 8N!g8bN5KB! Th!1/# >6Q®9y§¥O5Q8N! Cl!1/# E6KBP!R5!¤hZJR5 diKB=M"K]_ITc"pwGIJN cYBP! 自分を圧倒する内的な声に制圧されて終わ るのではなく,反対に打って出る声を探すと, 「いいじゃん,別に」「そういう人間なんだ よ」という言葉が表出している。だが,抵抗 を試みるにもかかわらず,なかなかうまくい かないようである。そこでセラピストは,支 配的な声に制圧される自分を後押ししてくれ るような,保護的な声を探った。 Th!10# E656O"¬hsqmjqt@ J<ed">6¯®ZF5NQR5diKB 8$ Cl!10# 4%"¬Q¢K"KB8$ Th!11# X6! Cl!11# 6%i!E6KBP"6%i"¬Q ¢8bR"Ni8YeJ>N5iKB=M" 8b geF>LL8"h"5@J" |L8¤BdIJ56"AKB8P!6% i!E6KBP!6i!°O¦¸@FcL 8"NiLN<>6"ªNiGIJ56 >Lh}¨BdIJ568!K]"EQ@ Q;KBP!6i! Th!12# 6i"EQ@Q;K OK KB! Cl!12# RRR"E6KB8! Th!13# YK 8O geF ±L8"~7 J5dQ94diKB8$µONd! Cl!13# E6KBP!K]"Ni8!6%i" ¹9N5L568"Ee]"Ab eN5KBP! Th!2*# ¹9N5! Cl!2*# 6i"¬KRNi8!E6R5IJ <eJJ]"¬RE6R7N5IJ56 8!'¶h³B( Th!2+# X6X6! Cl!2+# E6KBP!B5YDi!'rkqnx hLd(8b>6 IJ]bIJ]"6% i"Ee"IJ@Y6L568!'©h8[( 6i"R5! Th!2,# EQ ±R"FL7S·Y@J<ed a6N ±NiKB8$ Cl!2,# E6KBP!X\J<edL8! Th!2-# X6"¥OR"NiL56 ±N iKB8$ Cl!2-# 6i"EQYYK55iGaL8"v lu%oK55iGaL8"K:d8b ªL8! Th!2.# E6"W>iKdO"EQYYK5 5iGa"vlu%oK55iGa"ª GaIJ! Cl!2.# R5!))))95diKB=M" 95d8bªGaL8!6%i!K]" >6"Ni8¬L@JR"¬K|8h@ N:^"L8"IJ56Q94diK" 6i"5Y8bKR¡5iKB=M!E65 6Qh{:CIJ5dQ8NIJ! Th!2/# E6"EQ"95d8bªGaI J IJ<ediKBP!K]"U`6 9N5! Cl!2/# RRR"EeRFVi¹R4di GL6iKB=M!K]"6%i"EeR AJ5diKB=M!&&'¢²(&&F Vi"Y4"FVi9&&'¢²(&& zA^N<J]"OEQRO@N5 L6iKB=M"¬QN8KEeK55 Q8NIJ56Q"94cYB! Th!20# 6i6i!EQYYK55iGaIJ
b`KY"4%d"33R7OIK! Cl!0.# S3!\;O3"\;O3IK!=d OdBZhpG\IK3VC! Th!0/# =dOdBZ"hpOdLCQ! Cl!0/# S3"E43IKKY"¢¯SL9O 3LCQ!¬AKVC! Th!00# 4d" OK LC! Cl!00# SSS! Th!01# EdO©PQ"°V?`KY"WAa | vOdLA[47Q! Cl!01# 2%!5"4`"tC_IK347" zA3dLC<N"4d4d"E`SE`L C>;zA3A"niMC_dLC<N"L Y"ªLS"LYhpGIK"=`BZh pGIK"IKVC! Th!1)# S2S2"zA3IK34RM"=` BZhpGIK34RM! Cl!1)# S3!4d"P<¥`]`O3I K347! Th!1*# E4!=`BZhpGIK34R82 _RL"O7O7P<¥`]`O3! Cl!1*# S3! Th!1+# 4%d!O7O7~ LCQ! Cl!1+# S%! Th!1,# >b3LCQ! Cl!1,# 4d"S3! Th!1-# OdG7"=`BZhpGIKI K3_8~C:K! Cl!1-# S3! 自分を支える暖かい声が姿を現わしている。 だが,やはり自己批判の声も執拗に姿を現わ している。セラピストは,自己批判の声に晒 されて自責の念を口にするクライエントを 「全然OK」と受容したり,暖かい声と批判 の声に反応するクライエントの一方を切り捨 てるのではなく,双方を同一の地平に乗せて 「嬉しいっていうのと,これじゃダメだって いうのと」など,インクルージョンも行って いる。
ステップ3
以下は,インテーク終了間際の約7分間の やり取りである。インテーク開始時とたった いま行ったSTAI の状態不安得点および特性 不安得点を算出して,記入用紙に得点をプロッ トしてから会話を再開した。 Cl!*# S3!'Th PAKw¤AFjgkc ¡C!=`S v}RFXPmrjgk MAKIF«Rjgk( Th!*# S3"2^8M4>@3VC!&&& &55M"=H]PJ3KS"55M"E4 LCQ!RM9P"CUKR®jgk Rvc"VMXKfqlPAK"L"so% kcJ<K6¡AL9_dLC<N"ERM 9P6]DC_=MPO_M3VC!S 3!L"=IHOdLC<N'STAI R=M(" 55M"?I9M¦UK"3"3VR{ªS 378LC7$ Cl!+# 4%d"Od7"S%"&&&&4% d"V2"ªIK=434©PIK3_ dGIK=M8"xXK"2%"4d"yB VAF!&&4d"Od7"&N4A[4Y O3=M"IK3_\4O{8AK9VA F!TT! Th!+# S2!?I9\^"AKVC$YI MH9VAF$ Cl!,# 2%"YIMH9VAF! Th!,# 2%"E4LC7!4d4d!4d4 d!4dM!&&=`"d8,RM=a OdLC<N"==LCQ!L"?I9S" 55M"==7!¨R"¨£GIFd LC8"3VS"rqiegVLHK VCQ!L"¨N47M34M"==Od LC<N"¨\^Y"V2"uS3O% M34M=aLCQ! Cl!-# S3"E4GM3VC! Th!-# ¨"§tyS"7O^~XIKy@KAP! Cl!,# R%"D3KAP!R2! Th!,# K"X1"";Q9_2il%t L¢GJ2aQK"5£Aa;LO^HJ" DbF:KZxONbD3KAP$ Cl!-# R%"D3KAP!R2! Th!-# P"K£?JYJ"M3K? E$<yR! Cl!.# R2!3e"&&ojL?EL236! &&R2!5GI"3e"uLN9"R2! ¢G2E| GKA! セラピストは「いまの気分はいかがです か?」(Th!1)と尋ねるが,クライエント の返答は「なんか,どうしょうもないこと, 言っているような気がしてきました」(Cl!2) という自己否定的なものであった。そこでセ ラピストはクライエントの自己否定的言動に そのまま耳を傾けるのではなく,「さっきよ り,緊張してます?もっと落ち着きました?」 (Th!2)と問うことによって,気分や感情 の変化に対して焦点を向けかえている。 その後セラピストは,STAI の状態不安の 変化と普段の特性不安について,プロットさ れた数値を具体的に提示しながら説明してい る(Th!3∼Th!5)。そしてセラピストは, インテークの感想を聞いたり(Th!6),次 にはセラピストの聴き方そのものに対する感 想を聞く。 Th!.# TeTe!&&D3!QP"5£Q 8L6"267K?E$£?O96HE `?XCe6$ Cl!/# XHE9N2KA! Th!/# N2KA6!DbRrfhq?J2a c:KRN9J! Cl!0# 2\%"N2KA!R2!;eNOn sns?[VHJ"Ne6"TTT"Z3" B6?29_2KA! Th!0# 1%%%"D36!TFeR" Cl!('# R£=N2^3N!TTTT! Th!('# 1%!D3P!B6?2y@7"2 XHJa!?! Cl!((# D3KAP!R2"Ne6"1X` O}HG[2:N2^3N;LKZ";LQ ^3N|7AaQK!R%2"D3KAP" 1X`g%mtNwKRN2Q6Z?bN 2KA! Th!((# 1bKA6";eN;Lnsns"n sns?[VHG[HJ"YE2N! Cl!()# R2! Th!()# 1%"&&1%!;b6_5vO{` XAP!5vO{HJ;Q d2?E _"MeN;L4aL2XA6$ Cl!(*# 1%"\HS`"Ne6" d£A ;LOA<9"TFeR~71aQK" \%";eN;L2HJ"^6HEQ6N% L6"36Z?bN2! Th!(*# R1R1"W3"22eKA:M P! Cl!(+# RRRR!EUezbJN2HJ23 QL!&R%"D3KAP!~71aeF L2XA!R"D323£dAaQO! Th!(+# W3W3!R1"3e"D3P!X1" ;eNy@Q\``K"eK28XA! 3e!&Z3?";3?JW?2"YE2 NQ1`XA6$ Cl!(,# 224!&&ON2KA!:M!; Q"NeJ23eK?]36";Q"Q; Q"k%pK"TT":J"2EF2JZ ^2QK?]36$ Th!(,# R2"22KA! Cl!(-# R%"1`7L3<>2XA! Th!(-# W3!Z?6?E_"¡Ne@[N 2HJ23Q7"1aeKA6$ Cl!(.# 1`XA!R2! Th!(.# W3!&OK KA! Cl!(/# R1!1`7L3<>2XA!uLN 9"?JZ?]37N2;LNQ6NH J"23Q71HJ!
Th!*,# I%U!&&DUAA92$ Cl!*-# grA"gd_c"7"7D4M/5 D/G2D!B"f0B6R3.PJ9! Th!*-# I%U!;0"eJAF"^2.>@ L"grA"grA"B/0a8A7<$ Cl!+)# ;0A9F!H/! Th!+)# H%!J."1vpHsB7@"oq 7D/G2D$ Cl!+*# ;0A9F!H/!;0A9F!bi A9!&&9/J:U!&&'YVXWZT h>@wTl0(&&H.%!9/J:U! &&&& Th!+*# ;07<O"L0k7AjSPJ9F! 8M."6Q2OGmKtE?/@"=N> Bnu7J95C&&'\]"`[(&& このようにしてセッションは終了した。イ ンテークで積極的に治療的介入を行うことに より可能になることだが,その後に導入され るであろうセラピーについて,Th!14のよう に「こんな感じのやり取りで進んでいきます」 と説明できることには,多大なメリットがあ るように思われる。というのは,クライエン トはインテークでの実感(こんな感じ)を頼 りに,セラピーを開始するか否かについて自 分で判断することができるからである。 介入に対する反応として,クライエントの 状態不安は69から15に低下した。これが,シ ングル・セッション内で実際に生起した変化 であり,変化の「伸びしろ」としての発達の 最近接領域(不安感情を調整する静穏機能の 変容可能性)である。しかし,このような感 情的側面の変化にもかかわらず,2回目のDA 後の話し合いのなかでも,自己否定的な思考 が繰り返し顔を出している。ここから今後の 介入への示唆として得られるのは,インテー クのこの感じで関与すれば静穏機能が肯定的 に変容して気分・感情面は速やかに改善され るであろうこと,予想されるのは,気分・感 情と比較して否定的な思考が変化するには少 し時間がかかるであろうということである。
単一事例研究
Ⅰ.事例の概要
1.倫理的配慮 本論の事例は,筆頭著者が運営する私設心 理相談室に来談したクライエントである。相 談室のホームページにあらかじめセラピーの 内容と対象だけでなく,受け入れる際の諸条 件も具体的に提示し,それを目にして申し込 んだ方である。受け入れの条件は,セラピー の中で入手されたデータ(映像,音声,心理 テストなど)を研究目的で使用することを受 諾していただけることであり,それに同意し たクライエントのみ無料でセラピーに導入さ れた。以下の記述は,プライバシーを保護す るために最小限にとどめると同時に,修正が 加えられている。 2.事例 A子さん。30代の独身女性である。職場で の対人不安や緊張感が強く,10年ほどの長期 にわたる社交不安を有している。これまで精 神科受診歴はない。A子さんは,時間制限の 短期療法である「多元的ブリーフセラピー」 (田澤・近田,2015; 田澤・近 田・本 田, 2016; 田 澤・橋 本・近 田・本 田,2016)に 導入された。セラピストは,インテーカーで もある筆頭著者である。インテークとフォロー アップをのぞいて,セッション回数は4回で あった。日数は,インテークを含むベースラ イン期26日,1回目セッションから4回目セッ ションまでの介入期49日,フォローアップ期 20日で,全体としては95日であった。 表1は,インテーク時,最終セッション (4回目)時,フォローアップ時に実施され た,各種心理テストの結果である。測定され たのは,特性不安(STAI),抑うつ(BDI) (小嶋・古川,2003),社交不安(LSAS!J)(朝倉ら,2002),特性マインドフルネス (FFMQ)(Sugiura et al,2012)である。 インテーク時に中等度のレベルにあった, 特性不安,抑うつ,社交不安が,最終セッショ ン時にはすべて正常値に下降し,フォローアッ プ時にもさらに下降していることが理解され る。また,特性マインドフルネスにも同様の 傾向が認められ,飛躍的に上昇している。短 期的なセラピーによって,苦痛な感情が和ら ぐと同時に,いまこの瞬間の体験に意識が拓 かれたことが理解されるであろう。 また,主観的なレベルの報告であるが,A 子さんは2回目セッションの際に,「人前で 緊張しなくなりました」と語り,これまで続 いていた社交不安がなくなったことを示唆し ている。また,4回目セッションの際に「こ の10年くらい鬱だった。トンネルを抜けまし た」と語り,抑うつから解放されたことを示 している。
Ⅱ.分析の対象と方法
1.手続き クライエントには,ホームワークとして, 以下に説明する3種類の心理尺度に毎日回答 することを求めた。やむを得ない事情によっ てその日に行えない場合には,翌日の朝に行 うこともよしとした。また,相談の申し込み があった時点で心理尺度のセットを自宅に郵 送し,インテークに来談する前から開始する ように依頼した。 2.対 象EQS(Emotional Intelligence Scale ) この EQS(内山ら,2000)は,情 動 知 能 を 測定するために日本で独自に開発された尺度 で,「自己対応」「対人対応」「状況対応」と いう三つの領域を構成する,合計21個の下位 因子から構成されている。本論では,「自己 対応」領域の対応因子のひとつである「自己 洞察」の質問項目のみ使用した。「自己洞察」 は,下位因子である「感情察知」3項目と 「自己効力」3項目の合計6項目から構成さ れており,前者は自己の感情状態を認知する 能力を,後者は自分の現在の感情を正しく表 現して他者に伝えることができる能力を,そ れぞれ測定する。教示文は,原版の「各文章 を読んで……自分にもっともよくあてはまる ……」を「今日の自分にもっともよくあては まると思う数字ひとつを○で囲んでください」 に変更した。なお数値は,素点を個人内標準 化した得点を使用した。
POMS!SF(Short Form of the Profile of Mood States) この POMS 短縮版(横山, 2005)は,「緊張!不安」「抑うつ」「怒り!敵 意」「活気」「疲労」「混乱」という6つの感 情成分を測定するために開発された尺度であ る POMS の短縮版で,各下位尺度につき5 項目,合計30項目から構成されている。本論 では,このなかから感情を測定するために 「抑うつ」と「不安」を使用した。教示文は, 原版の「過去1週間のあいだの……」を「今 日1日の気分をあらわすのに一番あてはまる 数字を○で囲んでください」に変更した。な お数値は,素点をT得点に換算して使用した。
DACS(Depression and Anxiety Cognition Scale) こ の DACS(福 井,1998)は,抑 うつや不安を引き起こす自動思考を測定する ために開発された尺度で,「将来否定」「脅威 予測」「自己否定」「過去否定」「対人関係脅 威度」という五つの下位因子から構成されて いる。本論では,そのなかから「自己否定」 の質問項目のみ使用した。この「自己否定」 は10項目から構成されており,自分はダメだ という自己否定の自動思考を測定する。教示 表1 各種心理テストの変化
Pre. Post. follow!up STAI(cut-off point=69) 90 → 38(57.78%↓)→ 2(97.78%↓) BDI(cut-off point=13) 27 → 1(96.30%↓)→ 0(100%↓) LSAS!J(cut!off point=42)80 → 13(83.75%↓)→ 6(92.50%↓) FFMQ(cut!off point=100)86 → 122(41.86%↑)→ 140(62.79%↑)
文は,原版の「この2∼3日であなたの考え では……どのように思っていたのでしょうか ……」を「今日の自分にもっともよくあては まると思う数字ひとつを○で囲んでください」 に変更した。なお数値は,素点を T 得点に 換算して使用した。 以上,本論ではこれら心理尺度をデイリー・ データとして用い,以下のような解析を行う。 3.方法 不安,抑うつ,自己否定,自己洞察の諸変 数についてマルチプル・ブレイクポイント検 定で構造変化の有無を確認した後,分割時系 列分析の一種であるシミュレーション・モデ リ ン グ 分 析(Borckardt et al,2008;Bor-ckardt and Nash,2014)によってブレイク ポイント前後のレベルの変化を検討する。統 計解析は,マルチプル・ブレイクポイント検 定に関しては EViews8を,シミュレーショ ン・モデリング分析に関しては SMA ソフト (Borckardt,2006) を,それぞれ用いた。
Ⅲ.結果と考察
各変数の構造変化を検討するために,マル チプル・ブレイクポイント検定(グローバル 最大化検定)を行った。ここでは,想定され るブレイクポイントの最大値を2,データの トリミングを前後15%,有意確率を5%に設 定して棄却限界値を推計した。 その結果,表2に示すように,すべての変 数において棄却限界値を超えるF統計量が存 在するので,ブレイクポイントはないという 帰無仮説は棄却された。5%水準で有意なブ レイクポイント数はそれぞれ1回と2回であ り,このなかから最大の2回が選択された。 ブレイクポイントの発生日は,不安がインテー クの3日後と1回目セッションの3日後,抑 うつがインテークの3日後と1回目セッショ ンの2日後,自己否定がインテークの4日後 と3回目セッションの当日,そして自己洞察 がインテークの3日後と3回目セッションの 当日と,それぞれ算定された。図1は,各変 数の推移を視覚化したものである。 構造変化が認められたすべての変数につい て,ブレイクポイントの前後で分割された3 つのセグメントをそれぞれⅠ期,Ⅱ期,Ⅲ期 と命名し,それらの原系列データについてシ ミュレーション・モデリング分析によって構 造変化前後のレベルの変化を検討した。した がって,本例に関しては,ベースライン期 (26日),介入期(49日),フォローアップ期 (20日)という,通常行われる3セグメント に分割した検定はしていない。なお,シミュ レーションの回数は10000回に設定し,有意 確率にはボンフェローニの修正を加えた。そ の結果を表3に示す。 表3 シミュレーション・モデリング分析の結果 *は5%水準,**は1%水準,***は0.1%水準で有意であることを,pAC は偏自己相関を示す。 表2 各変数の構造変化とその発生日 *は5%水準で有意であることを示す。 B.P.数 F 値 棄却限界値 B.P.発生日 不 安 1* 32.01 8.58 インテークの3日後 2* 29.38 7.22 1回目セッションの3日後 抑 う つ 1* 60.10 8.58 インテークの3日後 2* 49.14 7.22 1回目セッションの2日後 自己否定 1* 106.51 8.58 インテークの4日後 2* 106.50 7.22 3回目セッションの当日 自己洞察 1* 94.44 8.58 インテークの3日後 2* 77.31 7.22 3回目セッションの当日 Ⅰ期 Ⅱ期 Level(Ⅰ期 vs.Ⅱ期) Ⅲ期 Level(Ⅱ期 vs.Ⅲ期) 全体 N M±SD N M±SD r 有意確率 N M±SD r 有意確率 pAC(Lag 1) 不安 14 57.50±13.08 15 43.73±8.46 −.533* p=0.023×2 66 35.77±2.23 −.596*** p=0.000×2 .535 抑 う つ 14 66.86±11.87 14 47.93±5.52 −.715* p=0.015×2 67 41.06±2.27 −.644*** p=0.000×2 .758 自己否定 15 73.73±8.25 45 61.69±5.52 −.637** p=0.002×2 35 51.40±3.26 −.738** p=0.001×2 .781 自己洞察 14 32.59±7.26 46 50.27±6.67 +.739* p=0.002×2 35 56.61±4.89 +.466 p=0.052×2 .806まず不安においては,Ⅰ期とⅡ期のあいだ に効果量「大」とみなされる有意な負のレベ ルの変化が認められた(r=−.533,p=0.023 <.05/2)。Ⅱ期とⅢ期のあいだにも,効果 量「大」とみなされる有意な負のレベルの変 化が認められた(r=−.596,p=0.000<.001 /2)。 抑うつにおいては,Ⅰ期とⅡ期のあいだに 効果量「大」とみなされる有意な負のレベル の変化が認められた(r=−.715,p=0.015 <.05/2)。Ⅱ期とⅢ期のあいだにも,効果 量「大」とみなされる有意な負のレベルの変 化が認められた(r=−.644,p=0.000<.001 /2)。 自己否定においては,Ⅰ期とⅡ期のあいだ に効果量「大」とみなされる有意な負のレベ ルの変化が認められた(r=−.637,p=0.002 <.01/2)。Ⅱ期とⅢ期のあいだにも,効果 量「大」とみなされる有意な負のレベルの変 化が認められた(r=−.738,p=0.001<.01 /2)。 最後に,自己洞察においては,Ⅰ期とⅡ期 のあいだに効果量「大」とみなされる有意な 正のレベルの変化が認められた(r=.739,p =0.002<.01/2)。しかし,Ⅱ期とⅢ期のあ いだには,有意なレベルの変化は認められな かった(r=.466,p=0.052>.05/2)。 A子さんにとって,インテークのインパク トはかなり大きかったようである。不安,抑 うつ,自己否定,自己洞察のすべてにおいて, インテーク直後の数日中に効果量にして大の 構造的変化が起こっている。ここには,変化 を生み出す介入が組み込まれたインテーク面 接の効力が反映されているのであろう。さら に,不安と抑うつは1回目セッションの直後 に,自己否定は3回目セッションの日に,そ れぞれ効果量にして大の構造変化が引き続き 起こっている。意識的・自覚的には1回目セッ ションの直後に社交不安の変化が,3回目セッ ションの直後に抑うつの変化が起こったよう である。ここには,ダイナミック・アセスメ ント後に導入された多元的ブリーフセラピー の効力が反映されているに違いない。また, インテークのダイナミック・アセスメントが 終了した時点で,気分・感情は速やかに改善 するものの自己否定的思考の肯定的変化には 少し時間を要するであろうと予想されたが, 以上の結果から,この短期的な予想はおおむ ね的中したと言えるのかもしれない。 各変数において,統計的にはインテークの 直後に1回目のブレイクポイントが検出され ている。しかし,図1のグラフを視覚的に分 析すると,インテーク以前に,ということは クライエントが申し込みの電話をした時点で すでに変化が始まっているようにも見て取れ る。統計上の手続きとして冒頭のデイリー・ データが少しトリミングされているのだが, ベースラインの日数がもう少し多かったとす れば,ブレイクポイントの発生地点は異なっ て検出されていた可能性もある。この点が, 本論の限界であるのかもしれない。 本論では,インテーカーとセラピストが同 一人物であり,筆頭著者であるこの私とA子 さんとの関係において創出される,きわめて 個別的な発達の最近接領域を問題とした。検 証が必要であるが,もしもA子さんが他のセ ラピストとセラピー関係を持ったとすれば, 本論とは別の結果が出ていたのではないだろ うか。つまり,クライエントにとっては,発 達の最近接領域は関係するセラピストに応じ て多様化されるのではないかということであ る。このように,クライエントの一般的なレ ベルでの発達の最近接領域をアセスメントす るのではなく(インテーカーとセラピストを 変えるなどして?),特殊個別的な関係にお けるそれをアセスメントすることは限界では なく,臨床場面で具体的にセラピーを実践す るためには大きなメリットがあるように思わ れる。というのは,われわれ臨床家にとって 重要なのは,他の誰でもないこの私がこのク
ライエントと関わったとき,どのようになる のかということに尽きるであろうからである。 さて,セラピストがインテークで行ったの は,保護的な他者として不安感情の静穏機能 を働かせると同時に治療的に介入し,その効 果をアセスメントすることであった。ブリー フセラピーの森(2013)は「刺激を入れて反 応を見ないと分からない」と述べているが, ダイナミック・アセスメントはそのような介 入に対するクライエントの反応を客観的に数 値化できるところに,アセスメントとしての 強みがあるのかもしれない。 しかしながら,ダイナミック・アセスメン トのゴールは,介入によるクライエントの変 化「について」セラピスト側が何らかの見立 てに至ることではない。重要なのは,一方的 な見立てを超えて,相互的な開かれた話し合 いに至ることである。言い換えると,アセス メントの結果を出発点として,あるいはイン テーク面接のプロセス全体を通じて,クライ エントとセラピストが協働的なナラティヴを 継続的に創出していくことが大切なのである。 最後に,協働的なナラティヴを創出するた めの背景にある対話思想に触れて終わりとし たい。
おわりに
−協働的なナラティヴを創出するために−
われわれがダイナミック・アセスメントの プロセスで目指したいのは,クライエントの モノローグ的ナラティヴでも,セラピストの モノローグ的ナラティヴでもない。それは, 互いのナラティヴが出会うところに創出され る,ダイアローグとしての協働的ナラティヴ の創出である。そして,協働的ナラティヴが 生成するプロセスにおいて,クライエントは 回復の途につくのである。 ここで,ダイアローグ的に構築される協働 的なナラティヴと,モノローグ的に構築され る非協働的なナラティヴについて,バフチン の対話理論を引用しながら考えてみたい。 まず,セラピストがクライエントに対して, アセスメントの結果を一方的にフィードバッ クする際のナラティヴについてである。 「権威的な言葉がわれわれに要求するのは, 無条件の承認であり,自由な適用や,自分自 身の言葉との同化などでは全くない。それゆ え権威的な言葉は,それを枠づけするコンテ クストとの,その境界とのいかなる戯れをも, いかなる漸次的かつあいまいな移行をも,自 由で創造的な様式化を行ういかなる変奏をも 許さない」(バフチン,小説の言葉,訳書, pp.161!162) アセスメントの結果を一方的にフィードバッ クする場合,そこには「言葉の物化(それが 本来持っている対話性の抹消)」(バフチン, 小説の言葉,訳書,p.166)が発生している。 また,これは対話的姿勢を欠いた心理テスト の解釈や,クライエント不在の事例検討会な どでの発言において起こり得る「本人不在の 分析」に対する警告である。 「対話姿勢を欠いたまま,他者の口から語ら れるある人間に関する真実,すなわち本人不 在の真実は,……彼をおとしめる致命的な虚 偽となる」(バフチン,ドストエフスキーの 詩学,訳書,p.123) このようなモノローグ的な非協働的ナラティ ヴに対して,協働的なナラティヴの模範とな る記述が以下である。 「ドストエフスキーの文体の独自性とは,ま さにこのような対話的に呼びかける志向を持っ た言葉に主導的な意味が与えられ,モノロー グ的に閉じられていて相手の返答を待つこと のない言葉にはつまらぬ役割しか与えられていない,というところにある……作者はその 小説の全構成をもって,主人公について語る のではなく,主人公と語り合う。……ただ対 話的な共同作業への志向のみが,他者の言葉 を真剣に受け止め,ひとつの意味的な立場, もう一つの視点を表すものとして,それに近 づくことを可能にするのである」(バフチン, ドストエフスキーの詩学,訳書,p.131) ダイナミック・アセスメントのプロセスに おいて,協働的なナラティヴを創出するため の前提は,セラピストに対話的姿勢があるこ と,つまりその声が対話的に呼びかける響き を帯びていることである。そして,対話性を 失うことなく語り合いが継続することによっ て,結果として協働的なナラティヴが生成す ることになる。 来談者中心療法では,クライエントがセン ター・ステージに立つ。精神分析療法では, セラピストがセンター・ステージに立つ。だ が,バフチンの対話論ないしポリフォニー論 では,このような意味でのセンターはない。 あるいは,対話においてはそのつどのセンター が生成するだけであって,互いが対等なポジ ションにおかれることになる。アンダーソン とグーリシャン(1992)のコラボレイティヴ・ セラピーでは,協働的なナラティヴを創出す るために専門性を払拭した無知の姿勢が求め られるが,バフチンの思想に依拠するとわれ われの専門性はどのように変質するのであろ うか。あえて専門性を否定しなくても,クラ イエントとの協働は可能になるのであろうか。 理論的に重要なことでもあり,この点につい ては今後の検討課題としたい。 文 献
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