「主体的・対話的で深い学び」についての一考察
― 中学校英語科の指導案作成に際しての留意事項
*―
林 田 朋 子**
A Study of ‘Proactive, Interactive, and Deep Learning’
Points to Note When Making a Teaching Plan for a Junior High School English Class
Tomoko HAYASHIDA**
* Received October 10,2019
** 長崎ウエスレヤン大学 現代社会学部 外国語学科 Faculty of Contemporary Social Studies Nagasaki Wesleyan University, 1212-1 Nishieida, Isahaya, Nagasaki 854-0082, Japan
はじめに 2017年3月に中学校学習指導要領(以下、中学 校学習指導要領〔2017〕と言う)が公示され、 2021年の全面実施に向けて、教育現場では様々な 対応が進められている。なかでも英語教育は、小 学校から中学校・高校に至るまで一貫した改訂・ 改革が行われており、大きな変化の時を迎えてい る。小学校での教科としての英語の導入、小学校 から高校までの8年間を通した教育体制のあり 方、グローバル化や人口知能の急速な発展などの 社会変化への対応が、新しい学習指導要領の目標 や指導方法に反映されている。この中でも特徴的 なのは「主体的・対話的で深い学び」という指導 の方向性が示されたことであろう。将来英語教員 を養成するための科目である英語科教育法の中で は、この方向性に沿った指導案を作成する力を育 成することが求められており、指導方法に深く関 わる「主体的・対話的で深い学び」について、学 生の理解を深めることは重要な課題である。そこ で、本稿では、中学校学習指導要領(2017)及び 文部科学省関連資料を主として用い、「主体的・ 対話的で深い学び」を取り上げ、英語科教育法の 授業の中で指導案を作成する際に留意すべき点に ついて検討する。第1章では、中学校学習指導要 領(2017)改定の背景と「主体的・対話的で深い 学び」の概要を述べる。第2章は、「主体的・対 話的で深い学び」とアクティブ・ラーニングの関 係について考察する。第3章は、「主体的な学び」 「対話的な学び」「深い学び」を具体的に検討す る。第4章は指導の際の具体的な手立てについて 述べる。第5章は指導案作成の際に留意すべき点 のまとめである。 1. 中学校学習指導要領(2017)の概要 1.1 中学校学習指導要領(2017)の社会的背景 中学校学習指導要領(2017)の特徴は、「社会 に開かれた教育課程」の下で、急速に変わりつつ ある社会で生きるための「資質・能力」が明記さ れたことにある。グローバル化、人口知能や情報 化の進展によりますます予測困難な時代に生きる 子供たちにとって、このような社会の担い手とな るような資質・能力を身に付けることが急務であ ることが背景にある。中央教育審議会は、2014年 11月に文部科学大臣から今後の学習指導要領の在 り方についての諮問を受けて、2016年12月に「幼 稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学 校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等につ いて(答申)」(以降、中央教育審議会答申〔2016〕 と言う)をとりまとめた。この中で、育成を目指 す資質・能力を、①生きて働く「知識・技能」の 習得、②未知の状況にも対応できる「思考力・判 断力・表現力等」の育成、③学びを人生や社会に 生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の 涵養、の三つの柱として示した(図1)。このよ うな資質・能力を育てるための学習・指導方法と して、「学びの過程において子供たちが、主体的 に学ぶことの意味と自分の人生や社会の在り方を 結び付けたり、多様な人との対話を通じて考えを 広げたりしていることが重要である。また、単に 知識を記憶する学びにとどまらず、身に付けた資 質・能力が様々な課題の対応に生かせることを実 感できるような、学びの深まりも重要になる。」 (p.47)とし、「主体的・対話的で深い学び」を実 現するための授業改善の必要性を示した。これを 受けて中学校学習指導要領(2017)では、「主体 的・対話的で深い学び」の実現に向けた指導上の 配慮事項が総則に記載された。総則の「第3 教
育課程の実施と学習評価」(文部科学省、2017: 23-24)で⑴知識及び技能が習得されるようにす ること、⑵思考力、判断力、表現力等を育成する こと、⑶学びに向かう力、人間性等を涵養するこ と、が偏りなく実現されるよう「単元や題材など 内容や時間のまとまりを見通しながら、生徒の主 体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善 を行うこと」とし、学習内容だけでなく、学習方 法すなわち指導方法についても明確に言及される こととなった。 1.2 「主体的・対話的で深い学び」とは何か 「主体的・対話的で深い学び」について基本的 な捉え方を見てみよう。図1が示すように、育成 すべき資質・能力を「どのように学ぶか」、しい てはどのように指導すべきかについて、「主体的・ 対話的で深い学び」という表現が用いられてい る。学校教育法第30条第2項ⅰには、学力の三要 素(「知識・技能」「思考力・ 判断力・表現力等」「主 体的に学習に取り組む態度」)が規定されており、 学校教育ではこれまでも、言語活動や観察・実験 など様々な活動を取り入れ、これらの要素を育む ための取組を充実させてきた。今回の改訂に至る までには、今までとは異なる全く新しい指導方法 を用いる必要性があるのかについて議論された。 この点に関して、『中学校学習指導要領解説 総則 編』(2017:34)には、次のように記されている。 子供たちが,学習内容を人生や社会の在り方 と結び付けて深く理解し,これからの時代に求 められる資質・能力を身に付け,生涯にわたっ て能動的に学び続けることができるようにする ためには,これまでの学校教育の蓄積を生かし, 学習の質を一層高める授業改善の取組を活性化 していくことが必要であり,我が国の優れた教 育実践に見られる普遍的な視点である「主体 的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改 善(アクティブ・ラーニングの視点に立った授 業改善)を推進することが求められる。 出典:文部科学省(2017:4)『中学校学習指導 要領解説 総則編』下線は引用者 留意すべきは、「主体的・対話的で深い学び」 とは、「我が国の優れた教育実践に見られる普遍 的な視点である」という点である。つまり「主体 的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善 は、過去の指導方法を全く否定するものではな く、現在実践されている優れた指導方法を継承し つつ、その取り組みの質を高める意味をなしてい ると言える。この点に関しては、「全く異なる指 導方法を導入しなければならないと捉える必要は 出典:中央教育審議会(2016)「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の 学習指導要領等の改善及び必要な方策等 について(答申)補足資料(1/8)」より抜粋 図1 学習指導要領改訂の方向性
ないこと。」(文部科学省、2017:4)と明記され ている。次章では、「主体的・対話的で深い学び」 と密接な関わりのある「アクティブ・ラーニング」 について考察する。 2.「主体的・対話的で深い学び」とアクティブ・ ラーニングとの関係 アクティブ・ラーニングという概念が注目され て久しく、多くの関連した書籍や実践発表が行わ れている。しかし、アクティブ・ラーニングの定 義は一様ではなく、能動的な学び一般を指すと広 く 解 釈 さ れ て い る 状 況 に あ る。 例 え ば、 西 川 (2015)は、自らが実践している指導方法を「『学 び合い』」として「アクティブ・ラーニング」と 定義しており、山本(2016)は「生徒の自立を促 し、学ぶ楽しさを実感させることで結果として成 績を伸ばす授業」をアクティブ・ラーニングとし ている。そこで本章では、ともすれば曖昧な理解 と誤解につながりかねないアクティブ・ラーニン グの概念と「主体的・対話的で深い学び」との関 係を明らかにする。まず、アクティブ・ラーニン グの定義について、「新たな未来を築くための大 学教育の質的転換に向けて-生涯学び続け、主体 的に考える力を育成する大学へ-」の用語集(中 央教育審議会、2012)の記述を見てみよう。 教員による一方的な講義形式の教育とは異な り、学修者の能動的な学修への参加を取り入れ た授業・学習法の総称。学修者が能動的に学修 することによって、認知的、倫理的、社会的能 力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育 成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学 習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグ ループ・ディスカッション、ディベート、グ ループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニ ングである。 上記の定義を整理すると、アクティブ・ラーニ ングとは、生徒が自ら意欲的に学ぶことで能力を 向上させる学習方法であり、それを実現させるた めの授業方法を一般的に総称したものである。生 徒が伸ばすべき能力とは、知識や技能の習得にと どまらず、他者と協力しつつ、身につけた知識・ 技能を比較・分析などの認知的思考過程を経て応 用する能力を育成することである。また、このよ うな学びを実現するための具体的な学習方法とし て、「発見学習、問題解決学習、体験学習、調査 学習」などが想定されており、教室内での学習形 態としては「グループ・ディスカッション、ディ ベート、グループ・ワーク」が挙げられている。 このようなアクティブ・ラーニングの概念は、 2015年11月の中央教育審議会において出された 「初等中等教育における教育課程の基準等の在り 方について(諮問)」の中で、次のように示され ている。 〔‥‥‥〕ある事柄に関する知識の伝達だけ に偏らず,学ぶことと社会とのつながりをより 意識した教育を行い,子供たちがそうした教育 のプロセスを通じて,基礎的な知識・技能を習 得するとともに,実社会や実生活の中でそれら を活用しながら,自ら課題を発見し,その解決 に向けて主体的・協働的に探究し,学びの成果 等を表現し,更に実践に生かしていけるように することが重要であるという視点です。そのた めに必要な力を子供たちに育むためには,「何 を教えるか」という知識の質や量の改善はもち ろんのこと,「どのように学ぶか」という,学 びの質や深まりを重視することが必要であり, 課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学 ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」) や,そのための指導の方法等を充実させていく 必要があります。こうした学習・指導方法は, 知識・技能を定着させる上でも,また,子供た ちの学習意欲を高める上でも効果的であること が,これまでの実践の成果から指摘されていま す。(下線は引用者) 「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学 ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)や, そのための指導の方法等を充実させていく必要が あります。」との指摘が示すように、この時点で は、主体的・協同的に学ぶ学習と「アクティブ・ ラーニング」がほぼ同義のものとして取り扱われ ていたことがわかる。しかし、この点に関しはそ の後の議論の中で次のような指摘がなされた。 昨年11月の諮問以降、学習指導要領等の改訂 に関する議論において、こうした指導方法を焦 点の一つとすることについては、注意すべき点 も指摘されてきた。つまり、育成すべき資質・ 能力を総合的に育むという意義を踏まえた積極 的な取組の重要性が指摘される一方で、指導法 を一定の型にはめ、教育の質の改善のための取
組が、狭い意味での授業の方法や技術の改善に 終始するのではないかといった懸念などであ る。我が国の教育界は極めて真摯に教育技術の 改善を模索する教員の意欲や姿勢に支えられて いることは確かであるものの、これらの工夫や 改善が、ともすると本来の目的を見失い、特定 の学習や指導の「型」に拘泥する事態を招きか ねないのではないかとの指摘を踏まえての危惧 と考えられる。 出典:中央教育審議会(2015)「教育課程企画 特別部会における論点整理について(報告)論 点整理 補足資料」下線は引用者 「育成すべき資質・能力を総合的に育むという 意義を踏まえた積極的な取組の重要性が指摘され る一方で、指導法を一定の型にはめ、教育の質の 改善のための取組が、狭い意味での授業の方法や 技術の改善に終始するのではないかといった懸念 などである。」との指摘にあるように、「アクティ ブ・ラーニング」という一つの教授法が教育現場 に押し付けられ、教育現場にいる教員の創意工夫 が喪失する恐れがあることを危惧する声があった ものと考えられる。これらの議論を経て、中央審 議会答申(2016)は、「アクティブ・ラーニング」 を次のように位置づけた。 平成26年11月の諮問において提示された「ア クティブ・ラーニング」については、子供たち の「主体的・対話的で深い学び」を実現するた めに共有すべき授業改善の視点として、その位 置付けを明確にすることとした。 出典:中央教育審議会答申(2016:48) 以上から、中学校学習指導要領(2017)は、「我 が国の優れた教育実践に見られる普遍的な視点で ある『主体的・対話的で深い学び』の実現に向け た授業改善(アクティブ・ラーニングの視点に 立った授業改善)を推進することが求められる。」 (文部科学省、2017)との文言を設け、アクティブ・ ラーニングの導入という直接的な表現を避け、ア クティブ・ラーニングは「主体的・対話的で深い 学び」を実践するための唯一の方法ではなく、そ れを実現するための一つの視点であるという位置 づけを行った。外国語科では文法・語彙などの知 識の習得に偏重した授業が多く、コミュニケー ションの場に応じた表現力を育成する機会が十分 に設けられていないことが日本の英語教育の課題 として述べられている(中央教育審議会答申、 2016:193)ことも考慮しつつ、英語科教育法に おいては、コミュニケーション能力の向上を目指 し、アクティブ・ラーニングの視点を用いて学習 指導案の作成に取り組むよう指導する必要があ る。一方、基礎的な知識や技術の定着が図られな いまま、コミュニケーション活動のみに重きを置 いた授業にならぬように配慮すべきである。次章 では、「主体的・対話的で深い学び」の具体的な 内容について検討する。 3.「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」 3.1 「主体的な学び」とは何か 本章では、「主体的・対話的で深い学び」につ いて具体的な内容を見ていく。まず英語科におけ る「主体的な学び」について、中央教育審議会答 申(2016:49-50)の記述を見てみよう。 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリ ア形成の方向性と関連付けながら、見通しを 持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振 り返って次につなげる「主体的な学び」が実現 できているか。子供自身が興味を持って積極的 に取り組むとともに、学習活動を自ら振り返り 意味付けたり、身に付いた資質・能力を自覚し たり、共有したりすることが重要である。 上記から、「主体的な学び」とは、教師主導型 ではなく生徒主導型であり、生徒たちが興味関心 をもって、自ら課題を発見し、解決策を模索しな がら目標を達成するような継続的な学びであるこ とがわかる。また、自らの学習を振り返り、次の 学習に活かすことができる学びである。外国語科 に関しては、「主体的学び」を促すものとして、 「コミュニケーションを行う目的・場面・状況等 を明確に設定する」、「学習の見通しを立てたり振 り返ったりする場面を設ける」、「発達の段階に応 じて、身の回りのことから社会や世界との関わり を重視した題材を設定する」(中央教育審議会、 2016:200)などの指導方法があげられている。 したがって、指導案を作成の際には、「主体的な 学び」の機会を授業に組み込み、生徒に多くの気 づきと経験を与えることができる学習を提供する 授業方略を用いることが求められる。具体的な指 導方略としては、生徒が資料を調べて発表するな ど、教師が一方的に教えるのではなく、生徒が自 らの考えを構築する機会を設けることや、生徒に
スピーチのテーマを選ばせるなど、生徒自らが選 択する機会を与えることなどが考えられる。 3.2 「対話的な学び」とは何か 次に「対話的な学び」について、中央教育審議 会答申(2016:50)の記述を見てみよう。 子供同士の協働、教職員や地域の人との対 話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を 通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学 び」が実現できているか。身に付けた知識や技 能を定着させるとともに、物事の多面的で深い 理解に至るためには、多様な表現を通じて、教 職員と子供や、子供同士が対話し、それによっ て思考を広げ深めていくことが求められる。 特徴的なのは、対話の相手が「教師と生徒」「生 徒と生徒」に限られていない点である。「地域の 人との対話」を含め、より幅広く多様な人との交 流の中で学びを深めることを実現することが求め られている。また、学習過程においては、他者と の対話や交流を介して、物事を多面的に捉える機 会を設け、論理的な思考を経て表現する機会を設 けることが目指されている。外国語科に関して は、「言語の果たす役割として他者とのコミュニ ケーション(対話や議論等)の基盤を形成する観 点を資質・能力全体を貫く軸として重視し、コ ミュニケーションを行う目的・場面・状況に応じ て、他者を尊重しながら対話が図られるような言 語活動を行う学習場面を計画的に設けること」(中 央教育審議会、2016:200)の2点が指導例とし てあげられている。具体的な例としては、生徒同 士の協働として、ペア・ワークやグループ・ワー クを活用し発話量の増加を促すことや、生徒が住 んでいる地域のことについて調べて発表するなど の活動が考えられる。 3.3 「深い学び」とは何か 「深い学び」について、中央教育審議会答申 (2016:50)は、次のように示している。 習得・活用・探究という学びの過程の中で、 各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働 かせながら、知識を相互に関連付けてより深く 理解したり、情報を精査して考えを形成した り、問題を見いだして解決策を考えたり、思い や考えを基に創造したりすることに向かう「深 い学び」が実現できているか。子供たちが、各 教科等の学びの過程の中で、身に付けた資質・ 能力の三つの柱を活用・発揮しながら物事を捉 え思考することを通じて、資質・能力がさらに 伸ばされたり、新たな資質・能力が育まれたり していくことが重要である。教員はこの中で、 教える場面と、子供たちに思考・判断・表現さ せる場面を効果的に設計し関連させながら指導 していくことが求められる。 「深い学び」の実現に際しては、各教科の特質を 活かすように促されており、英語科教育法では、 英語の特質を反映させた物事の「見方・考え方」 を授業の中に取り入れることが求められている。 「見方」とは、ある物事をどの角度から捉えるの か、またどのように理解し解釈するのかを示して いる。一方「考え方」とは、どのように考え、物 事を判断し、それを表現するのかに関わってい る。知識の単なる暗記に終始することなく、身に 付けた知識の関連性を理解し、情報を整理して自 分の考えを表現する力を育むための授業設計が必 要である。教員は、「教える場面」と、生徒自身が 「思考・判断・表現」する場面のバランスをとりな がら、指導計画を作成することになる。外国語科 については、「言語の働きや役割に関する理解」、 「外国語の音声、語彙・表現、文法の知識や、それ らの知識を五つの領域において実際のコミュニ ケーションで運用する力を習得すること」、「実際 に活用して、情報や自分の考えなどを話したり書 いたりする中で、外国語教育における『見方・考 え方』を働かせて思考・判断・表現すること」、「コ ミュニケーションを行う目的・場面・状況等に応 じた言語活動を効果的に設計すること」(中央教育 審議会、2016:200)が、「深い学び」への視点とし て述べられている。具体的な授業の手立てとして は、英語の教材として、社会や国語など他教科で の既習事項に関連する素材を用いて関連性や因果 関係を説明することを促す、文法規則などを帰納 的に発見する授業を用いて生徒の問題解決能力を 求めるなどの方法が考えられるだろう。 ここまで、「主体的な学び」「対話的な学び」「深 い学び」の内容について見てきた。教師はどのよ うな指導を用いて子供たちをこのような学びに導 くことができるのかを考え、様々な工夫と改善を 授業に取り入れることが求められている。一方 で、中学校学習指導要領(2017 : 82)には、この
ような学びは一単位時間に同時に取り入れること が求められているわけではないことにも言及して あり、三つの視点はそれぞれ固有のものであると 理解し、授業の内容や単元の中で、それぞれの学 びのバランスに配慮することが肝要であるとして いる。よって、指導案作成の際には、指導する単 元の目標や本時のねらいなどを、指導計画の中で 位置づけながら理解することがますます重要にな るだろう。前後の単元との関連性を考慮しつつ、 授業目標を達成するための視点を明確に持つこと の重要性を伝える必要がある。次章では、このよ うな授業を実現するための具体的な手立ての例を 見ていく。 4. 「主体的・対話的で深い学び」に導く手立て 「主体的・対話的で深い学び」を実現するため の授業改善への様々な取組が、各都道府県で行わ れている。この中で、「『主体的・対話的で深い学 び』の実現に向けた授業改善【理論編】」(栃木県 総合教育センター、2018)では、「主体的・対話 的で深い学び」が実現できた子供の姿を考察し、 具体的な例と指導の手立てを提示している。以下 はその内容をまとめたものである。表1のそれぞ れの学びの姿をさらに具体的に現したものが表2 である。例えば、「主体的な学び」ができている 生徒は、学習内容や活動に興味をもっており、授 業で学ぶことで何ができるようになり、将来にど のように役立つかという見通しができており、目 標に向かって粘り強く取り組んで、失敗や成功を 次の学びにつなげることができている。しかし、 表1・2に示された学びを全て行っている生徒像 を描くのはもちろん現実的ではない。これらの項 目を授業の目的や状況に合わせていくつかでも取 り入れていくことが求められているものと考える。 表1「主体的・対話的深い学び」が実現できた子どもの姿 「主体的な学び」が実現できた 子どもの姿の例 「対話的な学び」が実現できた 子どもの姿の例 「深い学び」が実現できた 子どもの姿の例 ・興味や関心を高める ・見通しをもつ ・自分と結び付ける ・粘り強く取り組む ・振り返って次へつなげる ・互いの考えを比較する ・多様な情報を収集する ・思考を表現に置き換える ・多様な手段で説明する ・先哲の考え方を手掛かりとする ・共に考えを創り上げる ・協働して課題解決する ・教職員との対話を手掛かりとする ・思考して問い続ける ・知識・技能を習得する ・知識・技能を活用する ・自分の思いや考えと結び付ける ・知識・技能を概念化する ・自分の考えを形成する ・新たなものを創り上げる 栃木県総合教育センター(2018:12-18)「主体的・対話的で深い学び」の 実現に向けた授業改善【理論編】を参考に筆者が作成
表2 「主体的・対話的で深い学び」が実現でき た子どもの姿の例 「主体的な学び」が実現できた子どもの姿の例 ・ 興味や関心 を高める 知的好奇心を高めている疑問を感じている 感動している 問題を見出している ・ 見通しをも つ 本時や単元のゴール(目標、ねらい、めあて)をつかんでいる 結果を予想したり 仮説をたてたりしている 問題を解決する方法を考えている ・ 自分と結び 付ける 生活と結びつけて考えている自分の将来と結びつけて考えている 自分事として考えている ・ 粘り強く取 り組む 諦めずに取り組んでいるうまくいかなかったときに別な解決策 を見出そうとしている ・ 振り返って 次へつなげ る 本時や単元で学んだことを、言葉や図 表で表現している 本時や単元の学び(活動や内容)の意 味に気付いている 本時や単元で身に付けた力に気付いて いる これまでの学びを基に、新たな見通し をもっている 「対話的な学び」が実現できた子どもの姿の例 ・ 互いの考え を比較する 多様な考えの存在に気付いている 複数の考え方の共通点(相違点)に気 付いている 自分の考えと他者の考えの共通点(相 違点)に気付いている 他者の考えを基に、自分の考えを明確 にしたり修正したりしている 他者の考えを基に、自分の考えの正当 性(問題点)に気付いている 複数の意見から、適切なものを選択し ている ・ 多様な情報 を収集する 地域の人々や実社会で働く人々との対話から情報を収集している 子ども同士の対話から情報を収集して いる 複数の資料から情報を得ている ・ 思考を表現 に置き換え る 自分の思いや考えを、言葉で表してい る 自分の思いや考えを、絵などに表して いる 自分の思いや考えを、数式などに表し ている 自分の思いや考えを、身体表現で表し ている 自分の思いや考えを、音などで表して いる ・ 多様な手段 で説明する 目的に応じた適切な手段を選択して説明している 効果的に伝えるための工夫をしている ・ 先哲の考え 方を手掛か りとする 先哲の作品や思想などから、自分の考 えを広げたり深めたりしようとしてい る ・ 共に考えを 創り上げる 納得解や最適解を見いだしている方針や意思について、合意形成をして いる ・ 協働して課 題解決する 課題を解決するために、一人一人が自分の考えを出し合って活動している ・ 教職員との 対話を手掛 かりとする 教職員との対話を基に、新たな視点を 見いだそうとしている 教職員との対話を基に、新たな方法を 見いだそうとしている 「深い学び」が実現できた子どもの姿の例 ・ 思考して問 い続ける 見いだした問題を解決するために考え続ける中で、新たな問いに気付いてい る 得られた結果について再考している よりよい結果に近づけようとしている 別解を見いだそうとしている ・ 知識・技能 を習得する 意味を理解した上で知識を身に付けている 用途や目的に沿った適切な技能を身に 付けている ・ 知識・技能 を活用する 既習事項と関連付けて考えている既習事項と関連付けて理解している 既習事項と関連付けて作っている/試 している/話し合っている ・ 自分の思い や考えと結 び付ける 読み取ったことと、自分の思いや考え を結び付けている 表現方法と、自分の思いや考えを結び 付けている 調べて分かったことと、自分の思いや 考えを結び付けている ・ 知識・技能 を概念化す る 既習事項を本時の学習内容と関連付け て体系化し、より深く理解している ・ 自分の考え を形成する 必要な情報を選択し、自分の考えを作り上げている 必要な情報を関連付けて、自分の考え を作り上げている ・ 新たなもの を創り上げ る 感性や想像力を働かせ、新たなものを 創造している 今までに身に付けたことを使って、新 たなものを創造している 栃木県総合教育センター (2018:12-18)「『主体的・ 対話的で深い学び』の実現に向けた 授業改善【理論編】」を参考に筆者が作成 前述したとおり、これら全ての学びの姿を一つ の授業内で実現することを求めるものではなく、 生徒の実態や状況に応じて、本授業ではどの学び を通して目標を達成するのかを考える必要があ る。指導案作成に不慣れな間は、このような表を 参考にし、指導の手立てを考える一助とすること
が勧められる。例えば、指導案作成の際に次の表 を記入することで、授業の全体像と指導方法のバ ランスを見て取ることができる。表3は菅・松下 (2017)が、高校の授業での授業改善に用いるた めに提案しているものである。「主体的・対話的 で深い学び」を指導の視点とする際の俯瞰的な道 しるべとなり、中学校での指導案作成にも役立つ ものと考える。この表では、「語彙・文法」「音読・ 内容」「教科書本文」の三つの要素を学習場面と して想定し、それぞれについて、「主体的な学び」 「対話的な学び」「深い学び」のどの要素を重視し て指導にあたるかが一目瞭然となっている。ま た、4技能5領域のどの分野で、表1・2の学び を実施しているのかを確認するのに役立てること ができる。菅・松下(2017)は、特に重視するも のには◎を、重視しているものには○を記すよう に提示している。英語科教育法においては、「主 体的・対話的で深い学び」を授業の流れのなかで 取り入れる際に大いに活用することができるもの と思われる。 また、次のようなチェックシート(表4)を用 いて、模擬授業の前後に自己の指導案作成を振り 返ることができる。これらの項目を模擬授業の学 生間評価にも使用することで、授業技術の向上に つながるものと考える。例えば、指導案作成後の 確認項目として、「単元や題材の学習を通して、 子どもにどのような力を身に付けさせたいかを考 えている。」「単元や題材のまとまりを意識して、 指導計画を立てている。」「子どもの思考を表現さ せるための工夫をしている。」などがあげられて おり、指導案の中で、これらの要素を実現するこ とが意図されているかについて客観的に振り返る きっかけとなるものと思われる。 表4 指導案作成チェックシート② □ 下の項目を参考にして、自分の単元づくりを振り 返ってみましょう。あてはまる項目には右の欄に 丸をつけましょう。 単元や題材の学習を通して、子どもにどのよ うな力を身に付けさせたいかを考えている。 単元や題材のまとまりを意識して、指導計画 を立てている。 子どもと単元の目標を共有しながら、単元の ゴールのイメージをもたせている。 学習したことを振り返る機会を計画的に取り 入れている。 他者と対話したり体験したりして学ぶ場は設 定されている。 子どもに対話の目的を意識させている。 様々な考えを引き出すために、発問を工夫し ている。 子どもの思考を表現させるための工夫をして いる。 子どもに自分の考えをもたせてから、対話を させている。 教師が教える場面と子どもたちに思考・判断・ 表現させる場面を意図的に位置付け、関連さ せながら指導している。 各教科等における「見方・考え方」を働かせ て自分の考えを形成する場面がある。 子どもが自分の考えを再考する場面がある。 英語科の特質や題材に応じて、子どもの気付 きや疑問を生かして、課題をつかませている。 英語科の特質や題材に応じて、子どもが、課 題について予想したり仮説を立てたりする場 面がある。 表3 指導案作成チェックシート① 学習場面 領域・技能 語彙・文法 音読・内容 教科書本文 聞くこと 話すこと (やり取り) 話すこと (発表) 書くこと 複数技能 統 合 主 対 深 ※ 主=主体的学び、対=対話的な学び、深=深い学び 菅 正隆・松下信之(2017:24)『アクティブ・ラーニングを位置づけた高校英語の授業プラン』を参考に筆者が作成
英語科の特質や題材に応じて、子どもが立て た予想や仮説を基に、学習計画を立てさせて いる。 英語科の特質や題材に応じて、新たな課題へ の気付きを促している。 栃木県総合教育センター (2018:54)「主体的・対話 的で深い学び」の実現に向けた授業改善【理論編】 を参考に筆者が作成 5.まとめ 中学校学習指導要領(2017)は、経過措置を経 て2021年には全面実施となる。大学の教職課程に おいて中学校教諭免許(英語)の取得を目指す学 生は、中学校学習指導要領(2017)の内容を理解 し、「主体的・対話的で深い学び」を目指した指 導案を作成する力が求められる。英語科教育法で 留意すべき点をまとめると次のようになる。ま ず、教育実習で作成する指導案は、生徒や各学校 の実態に応じた学習到達目標に従い、「主体的・ 対話的で深い学び」を実現させるための具体的な 方策を指導に組み込むということである。その 際、アクティブ・ラーニングは一つの教授法であ るという視点をもち、単元目標や生徒観に応じて 「聞くこと」、「読むこと」、「話すこと[やり取 り]」、「話すこと[発表]」、「書くこと」の4技能 5領域を目的や状況に応じてコミュニケーション の手段として学ぶ機会を提供することが必要であ り、基礎力の定着を軽視したコミュニケーション 活動のみの授業に陥ることがないように配慮すべ きである。また、これらの学びは一単位時間に同 時に盛り込むことは期待されておらず、学年の学 習目標を俯瞰し、自らが行う授業の位置づけを理 解した上で、指導案作成に臨むことが必要であ る。指導案作成の観点としては、「具体的な課題 を設定する」、「コミュニケーションにおける見 方・考え方を働かせる」、「コミュニケーションの 目的や場面・状況を意識して活動を行う」、「英語 の音声や語彙、表現、文法の知識を五つの領域に おける実際のコミュニケーションにおいて活用す る」(文部科学省、2017)を一連の流れの中で指 導に盛り込むことが求められている。さらに、指 導案作成と模擬授業での実践に効果的な循環を与 えるものとして、「主体的・対話的で深い学び」 を実現できた子供の姿を想像し、具体的な手立て を確認するためのチェックシートを活用するなど の工夫が必要になるものと考える。 以上、中学校学習指導要領(2017)における 「主体的・対話的で深い学び」について、英語科 教育法で伝えるべき留意点について検討した。将 来英語教員を目指す学生にとって、自らが経験し たことのない方法で授業を行うことは難しい。生 徒の自律的な学びを促す指導方法を取り入れつ つ、アクティブ・ラーニングのイメージだけが先 行した基礎力の定着が図られないままのコミュニ ケーション活動に陥ることは避けるべきだろう。 「どのように教えるか」の方向性を示した「主体 的・対話的で深い学び」の根本的な理念を理解 し、指導案に反映させる重要性を伝えることが、 教員育成に大きな責任を持つ英語科教育法の継続 的な課題になるものと考える。 ⅰ文部科学省「改正学校教育法第29条、第30条」 Retrieved from http://www.mext.go.jp/b_ menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/ attach/1399696.htm(最終閲覧日:2019-10-05) 参考文献 菅 正隆・松下 信之(2017)『アクティブ・ラーニ ングを位置づけた高校英語の授業プラン』明治 図書 中央教育審議会(2016)「幼稚園、小学校、中学 校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領 の 改 善 及 び 必 要 な 方 策 に つ い て( 答 申 )」 Retrieved from http://www.mext.go.jp/b_ menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/ 1380731.htm(最終閲覧日:2019/10/05) 中央教育審議会(2015)「教育課程企画特別部会 における論点整理について(報告)論点整理 補足資料」文部科学省 Retrieved from http:// www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/ chukyo3/053/sonota/1361117.htm(最終閲覧日: 2019/10/05) 西川純(2015)『すぐわかる!できる!アクティ ブ・ラーニング』学陽書房 文部科学省(2017)『中学校学習指導要領』 文部科学省(2017)『中学校学習指導要領解説 外国語編』 文部科学省(2017)『中学校学習指導要領解説 総則編』 山本崇雄(2016)『なぜ「教えない」授業が学力 を伸ばすのか』日経BP社