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<共同研究>国際文化交流機関の評価に関する研究 : 韓国における国際交流基金(Japan Foundation)の事業評価調査

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Academic year: 2021

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(1)October 2 0 0 7. ―1 7 3―. 〈共同研究〉. 国際文化交流機関の評価に関する研究* ―― 韓国における国際交流基金(Japan Foundation)の事業評価調査 ――. 一寸木 英多良*1・大 宮 朋 子*2 岡 本 真佐子*3・真 鍋 一 史*4 2.評価とアカウンタビリティーを巡る課題. 第2部. 国際文化交流事業における評価 とアカウンタビリティーを巡る ディレンマ. いうまでもなく、評価は、その組織の成果を対 外的に説明するアカウンタビリティー、そしてそ の評価結果をフィードバックし、業務の改善につ なげるという両面において重要な意味を有する。. 1.はじめに. その評価作業は、それ単独であるのではなく、. 公的機関であれ、民間の非営利法人であれ、そ. 本来、組織の目標(Planning)、その目標の実行. こに働く職員の多くはその努力の成果をできる限. (Action)と 密 接 に 連 動 し て い る も の で あ る。. り世に説明し、理解を得たいと望んでいる。ま. 従って、計画段階で評価も念頭においた明確な事. た、実施している事業のさらなる改善のため、有. 業目標と評価指標の設定、その計画の忠実な実. 益なフィードバックを得たいと考えている。それ. 行、計画立案と実行を可能にする組織内外のマネ. ゆえに、これらの機関や法人の運営にとり、評価. ジメントがきわめて重要な要素となる。. は決定的に重要なプロセスであるといえる。. しかしながら、実際には、そのように評価制度. 昨 今、広 報・文 化 外 交(Public Diplomacy)、. を運用することは必ずしも容易ではない。それゆ. コンテンツ産業振興、観光立国、文化・芸術の振. えに、公的機関や、財団を始めとする非営利法人. 興等をはじめとする諸政策の観点から、その重要. の評価やアカウンタビリティーの課題に関する研. 性が改めて指摘されている国際文化交流の分野に. 究はこれまでも様々に行われている。過去のこれ. おいても、それは同様である。. らの研究を、大まかに以下の4カテゴリーに分類. しかしながら、いざ、評価の作業を始めてみる. し、ごく簡単にレビューしたい。. と、様々な課題やディレンマに直面する。特に、 国際文化交流事業の実施、または支援に関する評 価となると、それ特有の課題もあるように思われ る。この小論では、 「国際文化交流事業特有の評. (1)【課題1】評価のためのデータ収集上の課 題 一つは、評価のためのデータ収集上の課題につ. 価とアカウンタビリティーを巡る課題とは何か」. いて論じたものである。社会科学が開発してきた. に関し整理し、若干の考察を試みたい。. 調査手法としては、文献・資料調査、質問紙調. *. キーワード:評価、アカウンタビリティー、解釈上の等価性、バックトランスレーション、自由面接調査 この共同論文は、国際交流基金(Japan Foundation)企画評価部によって実施された「韓国における国別事業評価 調査」(2 0 0 6年2月2 4日∼3月1 4日)に基づくものであり、本調査の中間報告書(「国際文化交流の評価手法開発研究 中間報告書」国際交流基金)の一部をもとに執筆されたものである。なお、本共同論文は、関西学院大学社会学部紀 要第1 0 2号に掲載された共同論文の続編である。 *1 (独) 国際交流基金企画評価部・企画評価課上級主任 *2 (独) 国際交流基金企画評価部・国際文化交流研究センター研究員 *3 桐蔭横浜大学文化政策研究所教授 *4 関西学院大学社会学部教授.

(2) ―1 7 4―. 社 会 学 部 紀 要 第1 0 3号. 査、インタビュー等の手法があり、調査目的に応. は、組織体の規模、業務内容、各部署の機能等に. じ、こ れ ら 手 法 を 選 択 す る こ と に な る(Bell. より異なるとしている(Anheier 2000)。. 1999 等)。. また一方で、組織マネジメント論や組織理論. 非営利法人の評価のためのデータ収集において. (Management science、Organization theory)か. も、これらの手法の一つを選択するか、組み合わ. らも、評価やアカウンタビリティーに関して考察. せることが一般的と考えられる。しかしながら、. する試みがある。これらは、評価やアカウンタビ. 実際に評価を行うにあたっては、多くの先行研究. リティーを、ダイナミックかつ複雑な組織内部署. において、例えば以下のような課題が指摘されて. 間、および外部の多様なステークホルダー(利害. いる。. 関係者)との関係から捉えようとしている。. ①非営利法人のアウトカムは、一般的に数値化 しづらい。 ②プロジェクトのアウトカムは時間が経つに従 い異なる。そのため、アウトカム評価とアカ ウンタビリティーのプロセスには長期間の時 間が必要となる。 ③往々にして、コントロールできない外部要因 が介在する。. (4)【課題4】異なる目的、利益を有する複数 のステークホルダーとの関係 ① Multiple-Constituency Approach その一つ に、R. Kanter 等が主張する MultipleConstituency Approach という切り口がある。こ のアプローチの前提は、非営利法人のステークホ ルダーは多様であり(公的機関等の財政的スポン サー、事業共催者、サービス利用者等) 、それぞ. (2)【課題2】評価を実施する上での経済的・ 人的コスト 一方で、上記の【課題1】の問題意識に 基 づ き、評価手法の精緻さ、信頼性を追求するに従. れの異なる意思、目的、事情に基づき、自己の利 益を最大化することを目的に、非営利法人と関 わ っ て い る と い う も の で あ る(Kanter. and. Summers 1987 等)。. い、評価に要する経済的、人的コストが増大する. その結果、非営利法人の側から見れば、必ずし. 点についての指摘も数多い。評価と、それに基づ. も両立しない利害関係を持つ複数のステークホル. くアカウンタビリティーに注目した結果、事業や. ダーが、それぞれの価値基準に基づく評価指標を. サービスに投入できるリソースが減り、その水準. 持ち込み、法人に対し結果を要求する。これが、. が落ちれば結局評価も落ちてしまうというディレ. 上記【課題3】のとおり営利企業のような数値化. ンマは、多くの非営利法人の抱える課題ともいえ. しやすい絶対的な目標・指標が存在しないことと. る(Leat 1996 等)。. 相まって、法人の組織目標をますます曖昧なもの にし、かつ法人の経営と事業評価を複雑かつ政治. (3)【課題3】曖昧な事業目標および評価指標 非営利組織における事業目標の曖昧さ、それゆ. 的なものにしている。 ②アカウンタビリティー研究の観点から. えの評価の難しさを指摘する論考も多い。例え. また、アカウンタビリティーに関する研究で. ば、営利企業においては、「収益」という明確で. も、D. Leat や S. Kumar 等が、類似した視点から. 数値化しやすい組織目標、評価基準が存在するの. 非営利法人のアカウンタビリティーの複雑さを指. に対し、非営利団体の場合、P. Drucker は「その. 摘している。彼等によると、非営利法人のアカウ. ような明確なボトムラインがなく」 、きわめて複. ンタビリティーは決して画一的なものではなく、. 雑な組織体であると指摘する(Drucker 1990)。. 政府等のスポンサー、事業パートナー、サービス. また、これに対し H. Anheier は、「ボトムライ. 利用者・顧客等の利害関係者ごとに、異なる性質. ンがないのではなく、組織の中の部署ごとに、複. のアカウンタビリティーが必要となる。その結. 数の、場合によっては余りにも多くのボトムライ. 果、それぞれから求められる事業成果が異なるこ. ンが存在する。これが、非営利法人の経営と評価. とから、 「誰に、何を、どのように」説明するか. を複雑化している」と指摘しており、その程度. を巡り、限られたリソースのもと、アカウンタビ.

(3) October 2 0 0 7. リティーを巡るマネジメントが複雑化するという (Leat 199 0、Kumar 1996)。. ―1 7 5―. 3.英国と日本における事例 上記2.の最後に提示した問いに対する答を探. 以上のように、先行研究で指摘された課題を概. るため、上に示された評価に関する諸課題に関. 観してみると、広く認識されているように、評価. し、英国および日本の国際文化交流機関・団体が. のための調査手法の精緻化や、そのコストを各組. 具体的にどのような困難や検討課題を抱え、如何. 織で実用可能な程度に抑えるべく努力することは. に対応しようとしているかについて、見てみるこ. もちろん重要である。. ととしたい。. しかしながら、そのように磨き上げた評価手法. 英 国 に つ い て は、British. Council(以 下. という「ツール」を実際に活かすためには、その. 「BC」)および Visiting Arts(以下「VA」)の事例. 前提として、上記の【課題4】で述べたように、. を、日本については、(独)国際交流基金の状況を. 非営利法人を巡る組織内および組織間のダイナミ. 中心に簡略に紹介したい。. ズムの中で、評価やアカウンタビリティーを捉え る視点が、より一層重要ではないだろうか。. (1)【課題1】アウトカム評価のためのデータ. 第一に、アウトカム評価に関するプロセスは、. 収集技術上の課題. それを念頭においた目標設定から始まることか. ① BC. ら、【課題3】や【課題4】で指摘されていると. ・膨大な統計資料を、戦略的に組織運営に活用で. おり、組織としての事業目標が実際に明確に定ま. きていなかったとの反省のもと、2002年より新. らなければ、いくら精緻かつ実用可能なコストの. 評価システム Performance Scorecard の導入を. 評価手法を開発できても、そもそもアウトカム評. 段 階 的 に 進 め て き た。新 制 度 は 定 量 的 な. 価は進まない。. Scorecard と、定 性 的 な エ ピ ソ ー ド 等 に よ る. 第二に、評価作業のための調査手法デザインを. Story Board で構成されている。. 具体的に詰める段階においても、社会科学におけ. ・ま た、2004年 に 策 定 し た 中 期 計 画「Strategy. る調査方法研究でよく指摘されるように、 「何を. 2010」に基づき、より一層アウトカム指向の組. 目的に」、「どのような」データを収集し、 「どの. 織 運 営、評 価 を 行 う た め、2005年 よ り、. ように」分析するかを明確にしておく必要がある. Scorecard に「BC 事業への参加に伴う対英国. (Bell 1999 等)。その意味で、上記【課題4】が. 認識の変化」に関する新たな5つの指標を導入. 指摘するように、多様なステークホルダーから複. し、全世界共通の主要指標として位置づけた。. 数の「要請」がある中で、特に誰に対して、どの. ②国際交流基金. ようなデータを集めて、どのように説明するかと. ・2003年の独立行政法人化に伴い、独立行政法人. いう複雑な問題を予めよく認識し、整理しておか. 通則法で全法人に義務づけられている年度ごと. ないと、真に精緻な評価手法の開発は難しいので. の業務実績評価を開始した。. はないか。 それでは、果たして、今回の共同研究のテーマ である日韓交流をはじめとする「国際文化交流事. ・現行では、支援対象者の満足度等の定量的指標 と、中長期的な成果に関する事例等の定性的指 標の組み合わせで評価が行われている。. 業」という個別の事業分野においては、これらの. ・外務省に設置されている独立行政法人評価委員. 課題は具体的にどのような形で現れるのだろう. 会からは、より成果指向的なアウトカム評価の. か。. 導入の必要性を指摘されている。. 特に、多様なステークホルダーと事業実施主体. ・文化交流事業の成果を国別の観点から評価する. とのダイナミックな相互関係は、国際文化交流事. 手法について、参考になりうる先行事例が皆無. 業の評価とアカウンタビリティーにどのような影. に近いことから、2 003年より外部専門家ととも. 響を与えるのだろうか。. に、研究を進めている。.

(4) ―1 7 6―. 社 会 学 部 紀 要 第1 0 3号. (2)【課題2】評価を実施する上での経済的・ 人的コスト. (4)【課題4】異なる目的、利益を有する複数 のステークホルダーとの関係. ① BC. ① BC、VA. ・1977年に BC の芸術部門の1部署として設立さ. ・筆者が2004年に行ったインタビュー調査におい. れ、2001年に独立し Charity となった VA の 理. て、VA 理 事 長(当 時)お よ び BC 評 価 室 長. 事長(2004年当時)は、筆者のインタビューに. (同)に対し、「評価に関し、複数の異なる立場. 対し、「BC が導入 し た Performance Scorecard. の主要ステークホルダーとの関係をマネージす. は、ある程度の精緻さとコストのバランスが取. るためには、彼、彼女らを実際の評価プロセス. れている手法。かつての英国のように、評価が. にもう少し関与(involved)させる必要がある. 一種のファッションにならないよう、十分注意. との先行研究があるが、 BC や VA においては、. が必要」と述べた。. この点につきどのように考えているか」といっ. ・また一方、BC の評価室長等(2004年当時)は、. た趣旨の質問を行った。これに対し、VA 理事. 「中 長 期 的 な 成 果 を 把 握 す る た め の イ ン タ. 長 か ら は「も ち ろ ん 評 価 プ ロ セ ス へ の. ビュー調査のコストは高い。また、忙しい BC. involvement は望ましいことだが、実際には英. 本部および各海外事務所において、膨大な評価. 国外務省(FCO)や Arts Council といった主要. 作業に割けるリソースは限られている」と BC. スポンサーの関係者達は忙しく、このような評. における現状を説明した。. 価プロセスに煩わされたくないと考えている。. ②国際交流基金. これらの機関の担当官達が、われわれが一生懸. ・評価担当部署、および各事業実施部署で、実績. 命作り上げた評価報告書を、実際にどの程度. 評価に関し、かなりの量のデータ収集や資料作. しっかり読んでくれているのか、正直なところ. 成作業が生じており、外部有識者で構成される. 分からない」との現状認識を説明した。. 「国際交流基金評価に関する有識者委員会」で. ・また、BC の評価室長は、「もちろん、われわれ. も、評価に関する作業がかなり高いコストに. も FCO を評価プロセスに関与(involve)させ. なっている点が指摘されている(平成18年度. たいと考えている。しかし、彼、彼女らは文化. 「国際交流基金. 評価に関する有識者委員会」. 議事概要 等)。. 活動の評価に関与したいとあまり考えていない ように思われる。その結果、FCO との業績評 価に関する議論は日々の非公式なものに止まっ. (3)【課題3】曖昧な組織目標および評価指標. てしまっている」 、「また、ほとんどの FCO の. ①国際交流基金. 担当官達は、文化活動に関する評価に必要な知. ・アウトカム評価を行うには、組織目標の記述が. 識を十分に持ち合わせていない」と、評価プロ. 必ずしも明瞭になっていない。例えば、韓国を. セスにおける FCO 側とのやりとりの現状につ. 含む国別の事業目標の記述が、 「○○の実施、. いて述べた。. 推進、支援」となっており、実施、推進等の結 果として何が達成されることが期待されていた のか把握するのが困難な状況にある(国際交流 基金 2007)。. 4.考察 以上の英国と日本の事例から、国際文化交流と いう事業分野における評価やア カ ウ ン タ ビ リ. ・また、第1次中期目標・中期計画(2 003年10月. ティーにおいても、上記にあげた【課題1】∼. ∼2007年3月)で は、 「事 業 分 野 別」の 目 標. 【課題4】の問題が、何らかの形で存在すること. と、「国別」の 目 標 が そ れ ぞ れ設 定 さ れ て お り、予算配分と事業運営は基本的に「分野別」. が確認された。 【課題1】に関しては、各組織において定量的、. に行われているため、国ごとに目標を設定して. 定性的な評価手法の開発や、成果指向的な評価の. も、それらを優先的に追求し、実施する組織構. 導入に試行錯誤していることが分かった。 【課題. 造になっていない(同上)。. 2】に関しては、やはり各組織において評価に伴.

(5) October 2 0 0 7. うコストがきわめて重要な問題であることが確認. ―1 7 7―. も、きわめて根源的な課題であろう。. された。また、【課題3】に関し、国際交流基金. 第一に、国際文化交流の特徴として、たとえ実. において、事業目標等が、実績評価を進めやすい. 施・助成主体が政府から中期目標を提示され、予. 形で記述されておらず、かつ分野別方針と国別方. 算を交付されている国際交流基金や BC のような. 針という別々の切り口の方針が並存していること. 公的機関であっても、実際に交流事業を実施する. が確認された。. のは、国際交流基金、BC から助成を受けたり、. 更に、【課題4】に関し、BC や VA の事例にお. これらと共催する民間の文化、学術団体等であ. いて、主要なステークホルダーと各法人との間. る。これらの文化・学術団体や専門家達は、当然. で、評価やアカウンタビリティーを巡り、理解や. ながら独立した自由な意思を持ち、時には万人に. コミュニケーションが必ずしも十分に成熟してい. は共有されにくい前衛性・先進性も持ち合わせて. ない状況が垣間見られた。. いる場合がある。. これらのいくつかの「発見」も踏まえ、上記. 第二に、国際交流基金や BC が そ の 意 識・姿. 2.の最後に提示した「国際文化交流事業という. 勢、行動に訴えかけようとする主な事業対象者. 個別の事業分野においては、評価を巡る課題は具. は、個々に異なる社会的、個人的背景を有する外. 体的にどのような形で現れるのだろうか」との問. 国の一般市民達である。. いに関し、もう少し考察を進めていきたい。. そ の 結 果、Multiple-Constituency Approach の 考え方によれば、各個人も団体も、日本や英国の. (1) 国際文化交流事業の特徴. 政府が国際交流基金や BC に課している公式の事. 評価やアカウンタビリティーの観点からは、国. 業目標に必ずしもとらわれず、それぞれの主体的. 際文化交流事業の特徴として、以下のような諸点. な目的・ 考えに基づき、選択的に国際交流基金. があげられるのではないかと考える。. や BC の活動に参加、協力している場合が現実的. ①第一に、国際文化交流は、主に海外の一般市. には多いといえるのではないだろうか。また、そ. 民、有識者等の考え・姿勢(Attitude)およ. もそも国際交流基金、BC およびその職員自身さ. びそれに基づく行動に訴える取り組みである. えも、そのようなダイナミックな組織間関係の中. こと。. の、一つの能動的なアクターともいえるのではな. ②第二に、成果は数値化されにくく、かつ通常 中長期的に成果が期待される。. いか。 いわば国際交流基金や BC のような法人は、. ③第三に、国際交流基 金 や BC 等 の 実 施 主 体. 様々に異なるステークホルダーの立場、意向、利. は、単独では事業実施が困難もしくは不可能. 益が交錯し、お互いの利益を巡って綱引きを繰り. であり、ほとんどの場合、国内外における民. 返す、一種の Battlefield と見ることもできるので. 間の文化・学術団体、専門家をパートナーと. はないか。. して、主催または助成等の形で組織目標を達 成しようとしている。. (3) 事業の「意図せざる結果」 以上の観点に基づけば、外国における国際交流. (2) 各ステークホルダーの subjective reality 国際文化交流事業が、上記(1)にあげる①や. 基金や BC の各種事業への参加者や、それぞれが 各国で運営する「日本文化センター」や「英国文. ③のような特徴を有するとした場合、Kanter や. 化 セ ン タ ー」の 利 用 者 は、「顧 客(Clients,. Anheier 等が指摘している「異なる目的、利益を. Customers)」というより、むしろ自己の目的、関. 有する複数のステークホルダーとの関係」 、つま. 心、事情、置かれた環境により、国際交流基金・. り、政府等のスポンサー、美術館や大学研究所等. BC の事業目標とは必ずしも関係なく、選択的に. の事業パートナー、各国における日本語講座受講. 事業に参加しているとも見ることもできる。. 者等のサービスユーザー等との関係は、国際文化. 確かに、筆者が1997年から2001年まで駐在した. 交流事業の評価やアカウンタビリティーに関して. 韓国における文化交流の現場においても、例えば.

(6) ―1 7 8―. 社 会 学 部 紀 要 第1 0 3号. 日本語講座や日本語能力試験への応募、または、. 指標が、現場において常に「完全に」一致してい. 韓国の研究者等に日本での研究機会を提供する. るとは、必ずしもいいづらい状況にあるのではな. フェローシッププログラムへの申請等において、. いか。. 担当者として上記のような実感を抱いた事例は数 多く存在する。. 現実には、様々な立場のアクターが、独自の意 思でダイナミックに絡み合う国際文化交流の現場. このように考えてくると、例えば国際交流基金. において、事業目標を明確化することは意外に難. や BC が実施する日本語または英語講座を受講し. しいと思われる。「よい事業」、「意 義 あ る プ ロ. たり、フェローシップの供与を受け、日本での在. ジェクト」は、切り口、評価基準を変えれば無数. 外研究の機会を得た各国の市民、専門家が、その. に存在しうる。. 後、その成果をどのように活用していくのかを予. 以上のとおり、冒頭「はじめに」で述べたよう. 測することは、実は容易ではないように思われ. な世のニーズに基づき、公的な機関が国際文化交. る。また、その結果、それぞれの参加者等が日本. 流活動を実施、支援することと、 「文化・学術」. や日本人に対しどのような認識を持ち、どのよう. や「国際交流」が本質的に有する自発性、創造. に関わっていこうとするのかを把握し、厳密に評. 性、先進性等との間に、完全には両立しないディ. 価することも簡単なことではないであろう。. レンマがあるように思われる。. 多くの場合、国際交流基金・BC の当初の公式的 な事業目的を超えて、良きにつけ、悪しきにつけ、 「意図 せ ざ る 結 果(Unintended Consequences)」 (Rossi et al. 2004)を、様々な形で生み出してい くのではないだろうか。. (5) 今後の方向性( 「意図せざるアウトカム」 の評価に向けて) それでは、上記のようなディレンマを克服し、 実際に国際交流基金や BC において、このように 予想しづらい国際文化交流事業の「意図せざるア. (4) 曖昧な事業目標. ウトカム」を、複雑かつ曖昧になりがちな事業目. 上記(1)③のとおり、国際文化交流は、国内. 標・評価指標に基づき、どのように把握し、行政. 外の独立した外部の文化・学術団体に対する助. 的に十分耐えうる評価を行うことができるのだろ. 成、またはこれらとの共催により事業目標を達成. うか。これは、かなりの難題といえる。. し よ う と し て お り、評 価 や ア カ ウ ン タ ビ リ. ①例えば、事業の有効性を測定する指標とし. ティー、事業運営の観点からは、 「複雑な事業形. て、現在国際交流基金でも使われており、. 態」をとっているともいえる。. BC でも2004年頃まで使われていた「事業参. 特に、国際交流基金、BC が助成する文化団体、 専門家は、基本的に国際交流基金・BC の事業目. 加者・顧客の満足度」はどれだけ有用であろ うか。. 的に関わりなく、自己の目的、価値観などに基づ. 確かに、「事業参加者の満足度」は、重要. き、選択的・戦略的にこれらの機関に助成申請. な基本的指標ではある。しかし、上記のとお. し、給付を受けている場合が多いとも考えられ. り、外国の一次受益者は、基金本来の事業目. る。. 標には基本的には関わりなく、自己の関心、. また、国際交流基金や BC が主催または共催の. 都合、置かれた状況に基づき選択的に基金事. 形で海外に派遣する国内の文化団体、専門家で. 業に関わっているとした場合、「個々の満足. あっても、これら機関と目的を共有している場合. 度の集計結果」と、「本来の事業目的の達成. が多いとはいえ、やはり元々それぞれに独自の目. 度」とがどのように関係しているかを、説得. 的、価値観、事情等を持ちつつ、選択的に関わっ. 力を持って説明するのは難しい。しかも、国. ていると見るのが自然ではないだろうか。. 際文化交流事業の性格上、一次受益者の多く. その結果、助成対象団体、共催団体、または派. は、スポンサー(日本の納税者等)とは異な. 遣する団体・専門家と、国際交流基金・BC が政. るコミュニティーに属する外国人である。果. 府から課せられている「公的な」事業目標や評価. たして、最も重要な受益者であるべき日本や.

(7) October 2 0 0 7. ―1 7 9―. 英国の納税者・寄附者の満足または利益と、. 価性」を追求するためのバックトランスレーショ. 「事業参加者の満足度」が、どのように関係. ンとそのプロセスについて考察することを目的と. しているのか十分に検討する必要がある。 ②質問票調査の精緻化. している。 日本とは文化的・社会的背景の異なる韓国にお. それゆえに、単に事業参加者の満足度を測. ける調査であることから、今回の調査では、特に. るだけでなく、それと他の重要な変数(例え. 質問紙作成過程において「解釈上の等価性」の追. ば、日本への関心の高まり、日本および日本. 求に重点が置かれ、質問紙の翻訳の正確さを保証. 人に対するイメージの改善など)との関係を 把握する必要があるのではないか。その意味. する技法の一つであるバックトランスレーション (back-translation,逆翻訳)が実施された。. で、真鍋等が本共同研究の第1部で提示して. 国際比較調査では、(a)サンプリングの方法、. いる国際文化交流の評価調査のための質問紙. (b)実査の方法、 (c)コーディングと分析の方法. 調査デザインは、今後の評価手法のあり方を. などを同じくすることによって、それぞれの国に. 考える上で示唆に富んでいる(国際交流基金. おける調査の「同一性」を確保しようとする。し. 2007 等)。. かし、「質問紙の翻訳の問題こそが最大の問題で. ③インタビュー調査手法の開発. あるということに反対する者はいないであろう」. また、上記(3)のとおり、多くの場合、. (真鍋,2 003:37―38)というように、質問紙の翻. 国際交流基金・BC の当初の事業目的を超え. 訳について、様々な手法の開発が行われると共. て、様々な「意図せざる結果」が生じてくる. に、その重要性の認識が高まってきている。その. ことが予想されるならば、その中長期的な展. 手法の一つがバックトランスレーションである。. 開を把握することがきわめて重要といえる。. バックトランスレーションは、異文化での調査. そのために、質問紙調査とは別に、インタ. において、調査を実施する地域・国の社会・文化. ビュー調査を中心とする質的調査. から見て質問文やワーディングに違和感がない. (Qualitative Research)の体制整備が不可欠. か、あるいは質問文を作成した側の意図が翻訳後 の質問文にも反映されているかを確認するために. であろう。 ④事業目標・評価指標を巡る継続的な調整努力. も有効である。そもそも、質問紙の翻訳の時点で. また、上記(2)のような複雑な状況を念. 適切な翻訳ができていなければ、調査のデータ解. 頭に置きつつ、さまざまなディレンマを巡. 析結果にも影響を与える。例えばある調査結果. り、各ステークホルダーの立場を調整しなが. が、その国や地域に特徴的な結果とされても、実. ら、より望ましい事業目標や評価指標を議論. はそれが翻訳の問題から来るものなのか、文化の. するための「フォーラム」 (Kumar 1996)の. 差異から来るものなのか、その両方であるのかが. ような場が必要ではないだろうか。. 判然としない。その意味でも、質問紙の翻訳への. (一寸木英多良). 十分な配慮が求められる。 また、バックトランスレーションについては国 際比較調査を行う場合の技術的な手法として実施. 第3部. 質問紙作成過程におけるバック トランスレーションの事例と考察 ―「解釈上の等価性」を確立する ための方法論的検討 ―. されたことが明記されることはあっても、その実 施の過程を詳細に記述したものは日本語の事例で は殆どない。 国際交流基金が今後、事業評価の一環として各 国において同様の調査を実施する場合、調査結果. 1.はじめに 第3部では、国際交流基金の事業・活動・サー ビスを評価するために韓国で実施された質問紙調 査について、質問紙の翻訳を中心に「解釈上の等. の比較が想定され、その意味でも質問紙の解釈上 の等価性を追求するための技法の考察は重要とな る。.

(8) ―1 8 0―. 社 会 学 部 紀 要 第1 0 3号. 2.質問文の翻訳の検討 ―「解釈上の等価性」の追求 近年、さまざまな文化や国家を対象とした調査. 本調査で実施したバックトランスレーションの 過程でも、言語的要因だけに限らないさまざまな 要素が問題になった。. が実施されるようになってきた。それに伴い、比 較研究の態勢と環境が整備され、比較調査の方法. 3.バックトランスレーション. 論をめぐって議論がさかんになった。その中心的. バックトランスレーション(逆翻訳)は、質問. な テ ー マ の 一 つ と し て、「調 査 の 等 価 性. 紙の翻訳に関する技法として1 970年代に提唱さ. (equivalence)」の 追 求 が あ げ ら れ る(真 鍋,. れ、その手法が開発されてきた(Brislin,1973)。. 2004:17―18)。. 狭義には、作成された質問紙を2言語ができる人. 「調査の等価性」をめぐる議論は、これまでさま. (バイリンガル)が2番目の言語に翻訳し、その. ざまな用語によって分類されてきたが、ここでは. 後、2言語ができる別の人が、はじめの翻訳作業. 「手 続 き 上 の 等 価 性(procedural equivalence)」. とは全く無関係にもとの言語に翻訳し直し、両者. と「解釈上の等価性(interpretive equivalence)」. を比較検討する手法を指す(真鍋,2 003:p.37―. の二つの領域の整理を参照する(真鍋,2004:. 39)。. 19、Johnson,1998)。特 に こ こ で 扱 う の は、測. 今回の調査では、具体的には次のような手順で. 定やデータの収集・解析の問題などの調査方法に. 行った。最初に質問紙の日本語版(STEP1)か. おける「手続き上の等価性」ではなく、質問紙に. ら韓国語への直訳を韓国人の翻訳家に依頼し、韓. おける「解釈上の等価性」である。. 国語版(STEP2)を作成した。次に日本人の韓. 質問紙を、他の言語に翻訳する際に「解釈上の. 国研究者によってバックトランスレーションが行. 等価性」はどのように追求されるべきなのか。質. われ、日本語版(STEP3)が作られた。二人の. 問文の翻訳の問題は、そもそも言語の翻訳の問題. 翻訳者には別々に翻訳の依頼を行い、両者の間に. のみを考慮すればよいものではなく、 「文化の翻. コミュニケーションはない1)。. 訳」といった意識が必要である。ある文化の枠組. 本来のバックトランスレーションの技法は、こ. みの中で作られた質問紙を、異文化で実施する質. こで STEP1(日本語版)と STEP3(日本語版). 問紙に翻訳する作業は、まさに「文化の翻訳」の. を見比べて最終版の質問紙を作成することをい. 問題でもあり、文化人類学や文化研究の分野では. う。しかし、今回の調査では、この作業に加え. 古くからその重要性と困難さが指摘されてきた. て、STEP2(韓国語版)を韓国の調査会社(韓. (青木,1978)。. 国ギャラップ社) 、国際交流基金ソウル日本文化. 文化人類学者のエドマンド・リーチは、 「人類. センターおよび国際交流基金の韓国勤務経験者と. 学者の主要な仕事は他者を理解し、他者の文化を. 韓国人スタッフが確認し、問題点が指摘され、そ. 自己の文化に翻訳することにある」「文化の翻訳. れが質問紙の最終版(STEP4)に反映された。. は単なる言語の移し替えではなく、他者の文化的. また、STEP4(韓国語最終版)についても、同. 言語の詩的意味を翻訳することにある」と述べて. 様に韓国の調査会社と国際交流基金ソウル日本文. いる(青木,1978:43から再引用)。. 化センターによって韓国において違和感のない質. 解釈の等価性の追求は、「文化の翻訳」の問題 でもあり、それは「言語的と非言語的の両方のコ. 問文とワーディングになっているかどうかの最終 的な確認を行った。. ミュニケーションの総体」(青木,1978:49)を. よって、従来のバックトランスレーションの手. 含んでいるからこそ、質問紙の翻訳の問題の背景. 法をより拡大して解釈をすることとし、STEP1. には、言語の問題だけではなく、総体としての文. から STEP4までの質問紙作成プロ セ ス 全 体 を. 化をどう翻訳するか、という問題でもあることを. バックトランスレーションの過程と呼ぶこととす. 踏まえておく必要がある。. る(図1参照)。. 1)行政の翻訳業務に関わるバイリンガルの翻訳者二人に依頼した。.

(9) October 2 0 0 7. ―1 8 1―. 図1 韓国人の翻訳家 による翻訳. 日本人の韓国研究者 による翻訳. 日本語質問紙 (Step1). 韓国語質問紙 (Step2). 日本語質問紙 (Step3). 社会調査および文化交 流の研究者、国際交流 基金の韓国勤務経験者 によるチェック. 韓国の調査会社、国際 交流基金ソウル日本文 化センターによる チェック. 国際交流基金ソウル日 本文化センターおよび 国際交流基金の韓国勤 務 経 験 者、韓 国 人 ス タッフによるチェック. 韓国語質問紙 最終版 (Step4). 韓国の調査会社、国際 交流基金ソウル日本文 化センターの韓国人ス タッフによるチェック. バックトランスレーション 表1 STEP1 日本語質問紙. STEP2 韓国語質問紙. STEP3 バックトランスレーション. STEP4 韓国語最終版. 修正箇所. 日本人の友人・知 人がいる. 日本人の友人・親 類がいる. STEP2→3の 日 本 語 訳 の 際 に「知 人」 が「親類」と間違って訳された。. 日本料理屋・レス トランなどに置か れている情報誌. 日本飲食店・レス トランなどから持 ち出した情報誌. STEP1→2の韓国語訳の際に「置か れ ている」が「持ち出した」の意味になっ ていた。. 日本人と出会うた め. 日本人と交際する ため. STEP1→2の 韓 国 語 訳 の 際 に「交 際」 に近い意味に訳されていた。より「出会 う」に近い韓国語(マンナダ)に修正。. 人まねする. 模倣がうまい. STEP2→3が直訳すぎた。 韓国語でも否定的なニュアンスが強い意 味があったため、STEP2の韓国語をそ のまま利用。. 次に、バックトランスレーションを実施した結. うなミスの発見もバックトランスレーションの基. 果、どのような問題点の指摘がなされたのか、類. 本的かつ重要な成果の一つである。表1にその事. 型化して事例を示す。. 例をあげる。. 4.バックトランスレーションの事例と類型化. STEP1(日本語)ではマイナスのイメージを持. これらの事例のうち、特に「人まねする」は (1) 翻訳ミス 第一に、STEP1と STEP3の日本語版質問紙を. つ 語 で あ る の に 対 し て、STEP3(日 本 語)の バックトランスレーションでは、「模倣がうまい」. 見比べることによって、単純な翻訳ミスが発見さ. という語になり、どちらかといえばプラスのイ. れた。これらは、バックトランスレーションを実. メージの言葉に訳された。これは、「日本人のイ. 施しなければ気付かなかったミスであり、このよ. メージ」を聞く質問に対する答えの選択肢の一つ.

(10) ―1 8 2―. 社 会 学 部 紀 要 第1 0 3号. であり2)、回答者にプラスとマイナスのイメージ. ト ラ ン ス レ ー シ ョ ン は 比 較 的 容 易 で あ る」. のどちらの印象を与えるかは、調査結果の分析に. (Brislin,1973:42)とは一概にいえないことが. おいて全く異なる結果をもたらすことになりかね. 分かる。すなわち、言語体系が似通っていたとし. ない。このような点を確認できたことも、バック. ても、文化や社会的背景が異なることにより、翻. トランスレーションの一つの成果である。. 訳は困難となる場合もある。 二つ目の事例は、 「茶道、剣道など日本の伝統. (2) 社会的背景と言葉の結びつき. 諸道」という文章の翻訳である。これは、STEP. (特定の領域と語彙の連関). 1(日本語)と STEP3(日本語)を見比べるこ. 第二に、文化・社会的背景が異なることによ. と で 発 見 さ れ た。STEP1で は「伝 統 諸 道」に. り、ある言葉と特定の領域(職業・社会的地位・. な っ て い た が、STEP3で は「伝 統 的 な 道」と. 精神性など)との結びつきや連関に違いがある場. なった。STEP2(韓国語)を見た国際交流基金. 合に生じる問題の指摘があった。. ソウル日本文化センターからも、「『道』は、道路. 一つ目の事例は、学生の「派遣」 、大学の「先. と同じような意味に解釈できる」という指摘を受. 生」という二つの表現である。STEP2(韓国語). けた。「伝統諸道」は、技芸としての「道」を精. を見た国際交流基金ソウル日本文化センターの韓. 神性と結びつけて考える日本独特の思考から来る. 国人職員から、「大学の先生」という表現と、「学. 言葉であり、そのまま訳しても韓国では通用しな. 生を派遣する」という韓国語の表現には違和感が. い。そこで、韓国語最終版では具体的に「柔道、. あるという指摘を受けた。その理由として、韓国. 華道、茶道、剣道」と列挙した(表2参照)。. には「大学の先生」という表現はなく、大学で教 えるのは「教授」であり、「先生」と「教授」の. (3) 語彙に対する認識・理解の差異. 間には大きな社会的地位の差がある、という点が. 第三に、ある言語をどのように定義している. あげられた。また、その社会的地位の差から、先. か、すなわち、その言葉が表わす意味づけが社会. 生と学生に対して使う言葉には違いがある。 「派. によって異なる場合があげられる。. 遣」されるのは地位の高い先生であり、学生の場. これが顕著な例は、 「助成・援助・支援」とい. 合は「送る(ポネダ)」という別の用語が適当で. う単語である。STEP1では「助成」となってい. ある、という指摘を受けた。. たものが、STEP3では「援助」となった。日本. このように翻訳の問題が生じたのは、韓国語と. 語で「援助」というと、上から下への支援という. 日本語が類似した語彙体系を持つために、「先生」. 意味が強く、相手に不快感を与えかねない。一. や「派遣」をそのまま韓国語に訳すことが可能で. 方、国際交流基金ソウル日本文化センターに確認. あったことも要因の一つである。後に述べるが、. すると、韓国語でも「援助」という単語は今では. ブリスリンが指摘する「 (英語とフランス語のよ. 殆ど使われておらず、特に文化事業に対して「援. うに)類似の言語体系を持つ言語間で行うバック. 助」は不適切であるという指摘があった。ただ 表2. STEP1 日本語質問票 茶道、剣道など日 本の伝統諸道を 習ったことがある. STEP2 韓国語質問票. STEP3 バックトランスレーション 茶道、剣道など日 本の伝統的な道を 学んだことがある. STEP4 韓国語最終版. 修正箇所 「伝統諸道」の「道」という表現は日本 独特である。韓国語で「道」と単独で訳 されると、道路の「道」を連想させる。 よって「柔道、華道、茶道、剣道などを 習ったことがある」という具体例を列挙 する文章に修正. 2)日本語の調査票については、関西学院社会学部紀要1 0 2号(pp.1 4 9―1 6 2)を参照。.

(11) October 2 0 0 7. ―1 8 3―. 表3 STEP1 日本語質問票. STEP2 韓国語質問票. 日本語書籍の韓国 語への翻訳の助成. STEP3 バックトランスレーション 日本語書籍の韓国 語翻訳に対して援 助. STEP4 韓国語最終版. 修正箇所 韓国語訳では「援助」となっていたが、 この語は殆ど使わないという指摘があっ た。また、「助成」という韓国語はある があまり一般的ではないので「支援」と いう韓国語に変更。. し、「助成」という韓国語もあまり一般的ではな. し、韓 国 語 の 最 終 版(STEP4)で は「米 国、. い。そこで、質問文の「日本語書籍の韓国語への. ヨーロッパ」に変更した。また、 「コンタクト」. 翻訳の助成」という場合に、韓国で使われる単語. という言葉も STEP2(韓国語)においてそのま. としては日本語の「支援」にあたる言葉を用いる. ま韓国語に訳されたが、これも韓国語では一般的. こととした(表3参照)。. な単語にはなっておらず、意味が通じない可能性 がある、とソウル日本文化センターの職員から指. (4) 社会の差異・変容と語彙の連関 (技術進行の速度の相違). 摘を受けた。検討した結果、最終的には韓国語の 最終版では「接触」という用語が使われた。. 第四に、社会および世代や時代の違いにより、. これらの事例も韓国語と日本語の語彙が似てお. 使われる言葉が異なる場合があげられる。これ. り、多少意味が通じなくてもそのまま翻訳が可能. は、発展の段階の異なる国、社会変化の速度が異. であるという言語的類似性により起こる問題でも. なる場合に出てくる翻訳の問題である。. ある。日本語から韓国語への翻訳が比較的容易な. 一つ目の事例は、 「コンピューターゲーム・テ. ため、韓国におけるその単語の利用頻度や違和感. レビゲーム」という語である。この単語が STEP. を考慮せずにそのまま訳された、という点で類似. 1(日本語)から STEP2(韓国語)にそのまま. の言語体系を持つからこそ生じた問題といえる。. 翻訳された際、韓国の調査会社から「PSP やゲー ム・ボーイ、任天堂 DS はどこに属するのか」と. (5) 言語的類似性からくる問題について. いう具体的な事例について質問を受けた。国際交. ブリスリン(Brislin,1973)は、“Cross-Cultural. 流基金の韓国人スタッフ、ソウル日本文化セン. Research Methods”の中で、バックトランスレー. ターと相談したところ、韓国で「テレビゲーム」. ションの技法とその事例について詳細に述べてい. といえば、インターネットを通した対人ゲームを. る。その中でバックトランスレーションが成功す. 指す。日本のテレビゲームに近い言葉は、 「ビデ. る理由の一つとして、英語とフランス語のように. オゲーム」であるという指摘を受けたため、これ. 言語構造(language structure)が似ている言語間. に変更した。また、 「ゲーム・ボーイ」なども含. の翻訳であることをあげている。ブリスリンの指. まれるように「ゲーム機」という単語を加え、最. 摘は、英語とインド―ヨーロッパ言語以外の言語. 終的には日本語版と韓国語版の両方の質問紙を. との間で行われるバックトランスレーションは、. 「コンピューターゲーム・ビデ オ ゲ ー ム お よ び. 英語とインド―ヨーロッパ言語間のバックトラン. ゲーム機」に修正した。 同様に、STEP2(韓国語)を見た韓国の調査. スレーションと比較するとより困難であるという ものである。. 会 社 か ら は、STEP1(日 本 語)で「欧 米」と. しかし、これまでの事例であげたように、本調. なっていたものがそのまま訳されたのを見て、こ. 査では日本語と韓国語という類似した構造を持つ. れは、韓国では殆ど使われなくなった古い単語で. 言語同士のバックトランスレーションであるから. あり、違和感があるというコメントがあった。こ. こその問題点も発見された。語順や発音、言語構. の場合は、日本語の質問紙は「欧米」のままに. 造・体系、文法などが比較的似ているといわれて.

(12) ―1 8 4―. 社 会 学 部 紀 要 第1 0 3号. いるからこそ、翻訳はしやすいが、実は現地の実. 正できたと考えられる。翻訳者や質問紙作成者側. 情にあっていない単語や文章になっている場合も. のみの視点ではなく、韓国における調査の実状に. あった。このことは、言語構造が似ているからと. 詳しい韓国の調査会社、韓国の文化・社会に詳し. いって、翻訳の間違いが減るものではないことを. い国際交流基金の韓国勤務経験者やソウル日本文. も示している。. 化センターからの指摘が得られた。これらの指摘. 以上のように、バックトランスレーションに. を一つ一つ詳細に検討することによって、質問文. よって明らかになった翻訳の問題点が生じる場合. は現地において違和感のない、また現地社会に. の類型化を試みたが、これ以外にも、形容詞や副. あったものになったといえる。質問紙作成過程に. 詞の翻訳も困難であったことを付け加えておく。. おける問題点の指摘の多くは、日本語版(STEP. 例えば「とても満足」はバックトランスレーショ. 1)とバックトランスレーション(STEP3)を. ンでは「非常に満足」となり、同様に「ま あ 満. 比較する中で翻訳者や質問紙の作成チームによっ. 足」は「大体満足」に、「やや不満」は「少し不. て行われただけでなく、韓国語版(STEP2)を. 満」となった。このようなスケールの用語の選定. 見た調査会社、国際交流基金のソウル日本文化セ. は、可能な限り日本語のニュアンスに合わせて修. ンターによって行われ、彼、彼女らの協力が欠か. 正した。. せなかった。. このようにして、バックトランスレーションを. このことは、翻訳作業の過程においてのみ、質. 実施した結果、日本語の原文も含めて再検討され. 問紙の違和感、問題点の指摘が行われるわけでは. た語彙は最終的に48項目に及んだ。. ないことを示している。質問紙の翻訳の問題点 は、質問紙作成の過程全体を通して、それに関わ. 5.考察. る人々全員によって指摘されるものである。調査. バックトランスレーションの実施は、国際比較. を実施する調査会社やそれを現地で支えるソウル. 調査において調査を実施する側とされる側の双方. 日本文化センターと調査について常時打ち合わせ. において質問紙の解釈を可能な限り等価なものに. を行い、質問紙作成のどの段階においても指摘を. するためには、有効な手法である。. 受けられる状況を作り出しておいたことは、その. しかし、バックトランスレーションの難点につ. 意味で重要であり、質問紙を作成する前に実施し. いても、いくつか指摘されている。例えば時間と. た韓国での事前調査がここに生きている点も指摘. 労力がかかりすぎる、あるいは原語の翻訳とバッ. しておきたい3)。. クトランスレートをする人を見つけることは容易. また、現地に拠点を持っていること、現地の社. ではないなど手法の困難さや(岩脇,1 994)、翻. 会・文化情報に詳しいスタッフを抱えていること. 訳およびバックトランスレーションに関わる翻訳. は、国際交流基金の強みでもある。このようなリ. 者が、翻訳作業に関わる方法論的な問題関心を. ソースを生かして広義の意味でのバックトランス. 持っていない、あるいはその翻訳で取りあげてい. レーションを実施すれば、質問紙の解釈の等価性. る問題についての社会的な経験を持っていない、. はかなりの程度まで確立できると考えられる。. など翻訳者の質の差に関する問題点もあげられる (真鍋,2004)。 本調査では、バックトランスレーションを広義 に解釈したことで、これらの欠点のいくつかは補. また、ブリスリンはバックトランスレーション 技法を他の技法と組み合わせることにより、解釈 の等価性が確立されると述べているが(Brislin, 1973)、この点も今後の課題となる4)。. 3)韓国における事前調査は、2 0 0 5年1 1月に行われた。この際に、現地の調査会社の選定、韓国での調査の応対窓口 となる国際交流基金ソウル日本文化センターへの事前説明などを行った。 4)ブリスリン(Brislin,1 9 7 3)によれば、プレテストを行う技法、グループで翻訳作業を行う技法、バイリンガル の人に元の質問紙と翻訳後の質問紙の両方に回答してもらい、その回答を比較する技法などがあり、これらの技 法とバックトランスレーションとの組み合わせによってより質問文の解釈の等価性を高めることができるという 提案を行っている。.

(13) October 2 0 0 7. ―1 8 5―. 質問紙の翻訳の問題は、単に言語的な問題だけ によるものではないことも、バックトランスレー ションの実施によって明らかになった。質問紙を. 2.自由面接調査の実施概要 韓国における自由面接調査の実施概要は以下の とおりである。. 翻訳するという作業は、言語の翻訳にとどまら. 実施時期:2006年3月15日、16日. ず、文化の翻訳にまで関わる問題を含んでいる。. 実施場所:韓国. 言語の差異だけではなく、社会的・文化的な違い. 自由面接調査対象者(3名). を考慮する必要がある。. ・日本研究・知的交流分野:. 国際交流基金の活動の基礎にも、「文化の翻訳」 の積み重ねがあるはずである。 「文化の翻訳とは 文字通り翻訳者が自らを複数の文化差を生きるこ. ソウル市. 有力シンクタンク日本研究センター. セン. ター長 ・日本語教育分野:. とによって媒介するところに生まれるものであっ. 高校日本語教員で構成される日本語教育研. て」「単に言葉のレベルだけで解決されうるもの. 究会の全国組織幹部. ではない」 (青木,1978)という認識が、異文化. ・文化・芸術交流分野:. での調査に求められ、そこに今後どのように国際. 現代美術フリーキュレーター. 交流基金のリソースとノウハウを生かしていくか が国際交流基金が比較調査を続けていく鍵にもな る。. (大宮朋子). 面接において設定した3つの分野は、国際交流 基金の事業において主要な柱をなす分野である。 また自由面接対象者は、これら各分野の事業にお いてコーディネーターやプロジェクトメンバー等. 第4部. 国別評価調査における自由面接 調査の役割. として主要な役割を担った人々である。対象者を 選定するにあたっては、国際交流基金における韓 国事業担当者への聞き取り、ならびに韓国への事. 1.はじめに. 前訪問調査を行い、プロジェクトのプロセスや、. 国際文化交流事業の評価調査を行うにあたり、. その韓国社会における意味や位置づけについて全. インタビュー等の自由面接調査によって得られる. 体像を語ることのできる人物という点を重視して. 情報は、何を明らかにし、また評価調査全体の中. 選定した。. でどのような役割を担うことができるのだろう か。韓国において実施した国際交流基金の国別事 業評価調査では、第一義的には、質問紙調査とい. 3.自由面接調査事例と、事例から抽出できるポ イント. う手法で何をどこまで明らかにすることができる. 質問紙調査と自由面接調査等の相互補完的役割. のかを把握することを目的とした。しかし、これ. が、どのような意味で検討可能なのかという点に. はあくまでも評価手法を開発する際の手順とし. ついては後に触れることとし、まずは今回の自由. て、まず質問紙調査の利用可能性を検討したもの. 面接調査事例をもとに、国際文化交流事業の評価. であり、自由面接調査という質的調査の意味や役. を行う場合に自由面接調査データがもつ補完的役. 割が評価調査において二次的であると考えている. 割として抽出することができる点として次の4点. わけではない。. をあげ、それぞれ事例をあげながら説明を行って. 韓国調査においては、限られた件数ではあるが. いく。なお、以下に取りあげる自由面接調査内容. 自由面接調査を実施した。本稿ではその結果に基. については、紙数の制約から、その内容を筆者が. づいて実施事例の概略を報告するとともに、国際. 要約しつつ抽出・紹介したものであることを断っ. 文化交流事業の評価調査において自由面接調査、. ておきたい。. およびそこで得られるデータが果たしうる役割に. ①因果関係. ついて、特に質問紙調査との相互補完関係という. ②一定の時間の経過後に生じた効果や影響. 観点から考察を試みる。. ③事業やプログラム間のシナジー効果・影響.

(14) ―1 8 6―. 社 会 学 部 紀 要 第1 0 3号. ④制度的変化. れでもしたら困る」という懸念だった。 このような反応には驚いたが、調査結果がある. 【事例1】 日本研究・知的交流分野における自由 面接調査. 程度出てきた段階で、すべての分野が集まって情 報共有し意見交換を行うためのワークショップを. (1) 韓国における日本研究調査実施のプロセス. 開こうとした際にも同様のことが起こった。ワー. 〈事業の内容〉. クショップを国際交流基金ソウル日本文化セン. 国際交流基金では主要各国において、それぞれ. ターで開催する旨を連絡したところ、やはり日本. の国の研究機関等に委託して日本研究の概況調査. 語学と日本文学の参加者から「なぜ国際交流基金. を実施している。調査内容は主に、当該国の日本. で行うのか」という苦情が寄せられた。日本関係. 研究各分野における機関、研究者、研究の概況で. の機関に出入りして「親日」と見られては、とい. ある。韓国における直近の調査は2005年に実施さ. う心配だった。. れた。 〈自由面接調査の内容から〉. 日本研究の中でも分野間でこれほど日本につい ての認識や理解、意識には違いがあり、分野横断. 今回の調査において「日本研究」の対象にどの. 的にひとつのことを行うにはさまざまな難しさが. 分野を含めるかを議論し、社会科学分野だけでは. ある。しかし他方、日本に対する認識や意識の差. なく広く日本語や日本文学もその対象に含めるこ. は、各分野別に研究活動等が行われているかぎり. ととし、語学、文学、歴史、経済、政治の各分野. は埋まらない。今回、領域横断的なワークショッ. を対象として調査を実施することにした。具体的. プに参加したメンバーからは、他領域の状況につ. な調査実施の方法を検討するにあたり、各分野の. いて知ることができて有意義だという意見が寄せ. 学会の総務理事を中心として検討メンバーを組. られ、定期的な会合実施を望む声もある。. み、話し合いを行った。このような準備作業を行 う中でこれまで知らなかった他の日本関連学問分. (2) 韓国における日本研究の拠点助成プログラム. 野の状況について、自分自身も知るようになり、. 〈事業の内容〉. 得るところが多かった。. 日本研究拠点機関助成プログラムは、海外にお. 具体的に異なる分野が集まって一緒に作業して. いて特に中核的な役割を担う機関を指定し、日本. いく上での難しさもあった。たとえば日本と韓国. 研究部門の研究費や運営費等を総合的に助成する. という特殊な関係に基づく「反日感情」といった. 助成事業である。. 問題である。研究者といえども、たとえば国際交. 〈自由面接調査の内容から〉. 流基金という日本の機関の調査に協力すること. 96年ごろ、ソウル大学における日本研究拠点形. は、それだけで「親日」と見なされるのではない. 成について計画がつくられ、当時の地域研究所の. かという懸念を抱く人が、特に日本語および日本. 一員としてその計画案づくりに関わったことがあ. 文学の関係者に見られた。社会科学分野において. る。韓国における日本研究拠点づくりの案が出て. は90年代まではこのようなことを気にする研究者. きた当初は、ソウル大学という国を代表する機関. もあったが、現在は日本にも多様な意見があり、. に日本関連の研究所をつくるという象徴的な意味. 多元的な社会だということが了解されてきている. も大いにあった。しかし、96年当時とは異なり、. ので、親日云々はあまり気にしなくなってきてい. 現在は色々な大学に日本学の研究所やセンターが. る。しかし、ちょうど調査準備を実施していた時. つくられてきており、それぞれが「自分が中心と. 期に独島(竹島)問題が起こっていたこともあ. してやっていく」というつもりで研究に力を入れ. り、日本語と日本文学の研究者からは「なぜこの. ている。また、韓国における大学間競争という新. 時期に国際交流基金の調査をするのか」という苦. しい動きがあり、それぞれの大学が、自分が日本. 情が多数寄せられた。これは「 (調査に回答する. 研究所や日本研究センターをつくってそれを成果. などして)国際交流基金に協力することが、日本. にしたいと考えており、韓国政府の教育部もその. に情報を流していると見なされ、 『親日』と見ら. ような動きを成果として評価している。ソウル大.

(15) October 2 0 0 7. ―1 8 7―. 学に協力して一緒に活動するよりは、それぞれが. は、質問紙調査の分析から得られた相関関係につ. 個別に頑張って成果をあげて、それを国や教育部. いて、その意味や原因を探るヒントやきっかけを. に認めてもらって補助金を獲得するほうが、現在. 示しており、因果関係を推論する手がかりを提供. では効率的・効果的な選択になっている。. している。 ②制度的変化. 【事例1】から抽出できる点 ―①因果関係と②制度的変化― ①因果関係を推論する手がかり. 事例1(2)の自由面接調査結果は、韓国の高 等教育行政に政策的変化が生じたことによって、 国際交流基金が日本研究拠点形成を目指した当初. 質問紙調査の、国際交流基金関連事業・活動の. の状況が変化し、ひとつの大学ないし研究所に拠. 中から、実際に参加・鑑賞・関係したことがある. 点を形成するという方法が、助成事業開始時点ほ. ものを選ぶ設問(問175)、複数回答)の結果を最. ど有効でなくなった可能性があることを示唆して. 小空間分析6)という方法で分析したところ、日本. いる。一時点で実施される質問紙調査では、経年. 語講座、日本語能力試験、日本語教師研修事業、. 的な変化やプロセスをとらえることはできず、制. 日本語能力試験という日本語関連事業・活動に参. 度的な変化のプロセスを把握することにおいては. 加する人々は、その他の事業にはあまり参加しな. 自由面接調査による情報やデータが必要である。. い傾向があるという結果が示された。他方、国際. また、この事例で示されたような「制度的」変化. 交流基金ソウル日本文化センターの図書館を利用. は、個別事業の結果や成果の現れかた(変化の幅. する人は、デザインや現代美術、漫画などの他の. の大小など)に大きな影響を及ぼす要因となるこ. 展覧会に参加する傾向があるという結果が出てお. とが考えられ、質問紙調査で得られるデータの解. り、これらの結果を比較すると、日本語関連事業. 釈や意味づけを行う際の不可欠の情報となる。. に関わる人々は参加する事業や活動の領域が、日 本語に関わるもののみに限定される傾向があるの. 【事例2】 日本語教育分野における自由面接調査. ではないかという推測ができる。最小空間分析は. (1) 韓国日本語教育研究会(全国組織)成立の. 相関関係を空間上の距離に置き換えて示したもの であり、この結果が直ちに何らかの原因や因果関. 経緯 〈自由面接調査の内容から〉. 係を示唆するものではない。ここで、自由面接結. 1990年頃の韓国では、およそ70万人から80万人. 果を参照してみると、事例1(1)の自由面接調. の高校生の日本語学習者がいたが、多くの教師は. 査では、韓国社会における日本語、日本文学に関. 自分が大学で受けた、文型練習を中心とする日本. する研究者に見られる対日認識が他の領域の研究. 語教授法で授業を行っていた。歌を利用するなど. 者と異なっていること、またそのような状況は日. の新しい日本語教授法は、国際交流基金日本語国. 本研究における諸分野間のコミュニケーションが. 際センター(さいたま市浦和区)の研修に招聘さ. 限られていることにも原因があり、特に日本語・. れた教師や、国際交流基金が派遣する日本語教育. 日本文学領域ではその傾向が顕著であることが示. 専門家の授業を受ける機会のある人は学ぶことが. 唆されていた。. できたが、その機会は非常に限られていた。. 質問紙調査で得られた相関関係については、事. 90年にソウル日本語教育研究会が発足し、当初. 業実施に関わる条件や実施プロセスなど多様な要. は会員数が1 5,6名で活動もあまり活発ではな. 素を考慮して理解する必要があり、他方自由面接. かったが、新しい日本語教授法などを学ぶ自律研. 調査内容についても、さらなる検証が求められる. 修会を実施し始めると次第に会員が増え、96年に. ため、両者を単純に関連づけることはもちろんで. は400名を超える会員数になった。しかし全国的. きない。しかし、自由面接調査から得られた情報. に見ると、ある程度活動が活発に行われているの. 5)調査票を参照。(関西学院大学社会学部紀要第1 0 2号、pp.1 4 9―1 6 2. ) 6)Smallest Space Analysis. 複数の項目間の相関関係の大きさを空間上の距離に置き換えて目に見えるようにしたも の。相関関係が大きい(強い)ほど、空間上の距離が小さくなる。.

(16) ―1 8 8―. 社 会 学 部 紀 要 第1 0 3号. は、ソウルを初めとして4地域程度であり、96年. いての自律研修会を実施したと聞いており、活動. 頃には、ソウルだけが活動が活発だという状況で. の広がりと活発化を喜んでいる。. いいのかどうかという問題意識を抱き、全国組織 ができればいいのではないかと考え始めていた。 全国組織の設立に向けて具体的な動きにつなが るきっかけができたのは、2000年に、国際交流基 金日本語国際センターで実施される研修に自分が. 【事例2】から抽出できる点 ―③事業やプログラム間のシナジー効果・影響 と④制度的変化― ③事業やプログラム間のシナジー効果・影響. 参加することになった時である。韓国全土から集. 事例2では、国際交流基金日本語国際センター. まった研修メンバーとともに、2ヶ月間生活を共. における日本語教師研修事業と、韓国における日. にするなかで、さまざまな話し合いの機会があ. 本語教育研究会の全国組織設立という動きが具体. り、韓国に戻ったら日本語教育研究会の全国組織. 的にどのようにつながり、また相互に影響しなが. をつくりたいという意向を話したところ、研修参. ら結果につながったかが示唆されている。国際交. 加者はそのアイデアに賛同してくれた。研修期間. 流基金の事業としては、前者は研修事業であり、. 中に住所やメールアドレスをお互いに交換し、こ. 後者は組織設立のための助成事業という別個の扱. のメンバーが韓国に帰国して後、それぞれの出身. いであり、事業評価としてはそれぞれが個別に扱. 地域にある日本語教育研究会の会長に全国組織立. われることになる。しかし自由面接調査は、この. ち上げについて話をするという役割を担ってくれ. 両者のいずれが欠けても結果には結びつかなかっ. た。その結果、各地の会長からの反応もおおむね. たという意味でのシナジー的影響を明らかにして. 好意的で、全国組織立ち上げの可能性があること. おり、このようなシナジー効果・影響を抽出する. がわかってきたので、2002年に国際交流基金ソウ. ことは自由面接調査の役割といえる。. ル日本文化センターに派遣されていた日本語教育. ④制度的変化. 専門家の先生とも相談し、国際交流基金の支援を. また事例2は、韓国日本語教育研究会という組. 受けて、2003年2月、全国組織である韓国日本語. 織が立ち上がることによって、日本語教育の動向. 教育研究会の発足にこぎつけた。. や新しい教育方法に関する情報が全国にすばやく. 全国組織としての韓国日本語教育研究会は全国. 伝達・共有される土台が形成され、それによって. 各地にある研究会を統合するという位置づけにあ. 日本語教育に関する教育実践活動が全国的に活発. り、主な活動としては年1回実施される「授業研. になったことを示しており、日本語教育の広がり. 究発表会」、そのほかに年2回の事務局レベルの. の現状を理解する際の「文脈」となる、「制度的」. ワークショップがある。現在、授業研究発表会に. な変化がもたらす影響をとらえている。. は地方予選を勝ち抜いた人しか参加できないほ ど、参加者の裾野が広がっている。授業研究発表 会の発表はビデオに収録して CD にされ、発表会 終了後に会員全員に配布するということが行われ たが、3年目以降は CD が有料になっても多数が 売れたとのことである。. 【事例3】 文化・芸術交流分野における自由面接 調査 (1)「アンダーコンストラクション」プロジェ クトの実施経緯 〈事業の内容〉. 全国組織ができ、全国レベルの大会やワーク. 2000年∼2002年にかけて国際交流基金アジアセ. ショップが行われることにより、各地の研究会メ. ンター(当時)の主催で、アジア地域における若. ンバーが情報収集、情報交換、また意見交換をす. 手芸術家の交流プログラム「アンダーコンストラ. る場ができ、全国の日本語教師間で情報が行き来. クション」を実施。アジア7カ国から若手キュ. しやすくなった。また当初ソウルの研究会の活動. レーターが集まり、 「アジアとは何か」という統. だけが活発だったが、全国組織の立ち上げと同時. 一テーマのもとに討議と調査を重ね、各国の芸術. に発足した全羅南道の研究会(当初会員2名)で. 家と協力しながらその結果をローカル展と総合展. も、つい先日、韓国を代表する日本語研究者を招. において発表した。.

参照

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を体現する世界市民の育成」の下、国連・国際機関職員、外交官、国際 NGO 職員等、

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