<共同研究班活動報告>フィールドワークのための課
題解決のフレームワーク
著者
谷岡 優子
雑誌名
KG社会学批評
号
8
ページ
67-74
発行年
2019-03-24
URL
http://hdl.handle.net/10236/00028025
(3.共同研究班活動報告)
3-3.フィールドワークのための課題解決のフレームワーク
谷岡 優子
1 本共同研究発足の趣旨 学生がある問題関心を抱きそれを研究に繋げようとする時、様々な手法が考えられる。関連 する公私諸機関の記録、個人文書、過去の統計資料や調査報告を探し分析する文献調査、質問 票の配布、対面式での聞き取り調査、現場での参与観察、マッピング、タイムアロケーショ ン、会話分析、映像分析…、手法を挙げればキリはない。このなかで研究対象となる地域また は社会へ研究者自身が赴き調査することをフィールドワークと呼ぶ。 フィールドワークを手法として採用する研究者は数多くいるが、研究者はこの手法で得られ た諸データをどのようなプロセスを経て整理し、学術論文の執筆へと繋げていくのだろう か?1) 指導教員と共に同じ調査地に赴き調査手法を共有することはあっても、フィールドワ ークに赴く前の先行研究の点検、フィールドワークから帰還後のデータの整理、そして論旨の 構想から学術論文執筆までの過程は、完全に個人の領域であり、その経験や手法が共有される ことは殆どない。しかし、このフィールドワークのデータを論文化する過程でみられる、偶然 の発見やひらめきとして語られるもののなかには「言語化されていない」だけで、誰でも実践 可能な一連の作業がある。同様に文献の読解やデータの整理のプロセスにおいても、ふだんは 言語化されていないが、多くの研究者が実践している一連の作業がある。そこで、本共同研究 ではフィールドワーカーが実践するこの一連の作業を言語化することで若手研究者の情報発信 の促進につなげることを目的とする。 共同研究発足後、まず構成メンバー間で「自身が論文執筆の際に最も困難だと感じているこ とは何か」という議論を行い、以下の 2 点が論文化のプロセスにおいて障壁となっていること が判明した。 (1)フィールドワークに行く前に行う先行研究の点検の段階で、自身の問題関心に沿った諸研 究といかにして出会い、自身の研究の立ち位置を定めればよいのか。 (2)フィールドワークで得た情報を、いかに自分の問題関心の解明に近づくように分類し、論 旨を作成すればよいか。 ─────────────── 1)本共同研究と同様の問題関心に基づく著作として、『京大式フィールドワーク入門』(2006)がある。 これは 2004(平成 16)年 10 月 30 日∼31 日に開催されたワークショップ「フィールドワークから紡 ぎだす──発見と分析のプロセス」の成果をもとに編集されたものである。我々が今回提示した 2 つ の課題は本書の議論を引き継ぎ、これを補完するものである。 KG 社会学批評 第 8 号 [March 2019]これらの解決方法を模索するべく、今年度は 2 名の文化人類学者を招聘し 2 回にわたり研究 会を実施した。研究会では、講師がフィールドワークのデータを論文化する過程でどのような 実践を行っているか丁寧に言語化していただき、上記の 2 点をどのように克服しているのかに ついてお話いただいた。 2 初回研究会 ■初回研究会概要 日程:2018 年 12 月 8 日(土)13 : 30∼17 : 00 場所:関西学院大学上ケ原キャンパス先端社会研究所(社会学部棟 3 階)セミナールーム 講師:小川さやか氏(立命館大学院先端総合学術研究科 准教授) 報告題目:「研究するための狡知−フィールドワークから論文化まで」 1.1 事前読書会 初回研究会の内容に移る前に事前読書会について触れておく。研究会開催にあたり、講演内 容に関係する M. J アドラー、C. V. ドーレンの『本を読む本』(1972=1997)、P. バイヤール の『読んでいない本について堂々と語る方法』(2007=2016)、そして講師の近年の研究動向と 学界における位置を把握するための読書会を開催した。本項目では、研究会の内容に関係する 先述の 2 冊について簡単に紹介する。 1 冊目の『本を読む本』では、知的かつ積極的に読書を行うため、「初級読書(初歩の読み 書きを習得するためのもの)」「点検読書(制限時間内に一冊の本からできる限り多くの情報を 引き出すもの)」「分析読書(制限時間無く、1 冊の本を完全に自分のものとするまで徹底的に 読み解くもの)」「シントピカル読書(1 つの主題について何冊もの本を相互に関連づけて読み 込むもの。読者は明示されていない主題を自身で発見し分析することが将来的に可能とな る)」という 4 つの段階の読書技術とその要領が紹介されている。一見、研究者志望の院生が 求められるのは、対象の本を精読する分析読書であるように考えられがちであるが、報告者は 著者の主張の凡そを拾い読みする点検読書こそフィールドワークに赴く前の読書に重要な技術 ではないかと指摘している。 2 冊目の『読んでいない本について堂々と語る方法』は、未読状態を「殆ど未読」「流し読 み」「他人からの伝聞」「忘却」の 4 つの段階に分け「未読」とはどのような状態を意味するの かを考察し、また、それらの状況下で本についてコメントを求められた時、「誰」と対峙して いるかによっての対処法を紹介している。本書で特に重要視されているのは「対象を取り巻く 全体像と対象の位置関係の把握」である。では実際にこれらの本が論文化の過程にどのように 68
1.2 初回研究会での講演 本節の内容は小川さやか氏の講演報告・講演資料の内容に基づきまとめたものである。 点検読書 フィールドワーカーが陥りがちな問題として、「偶々読んだだけに過ぎない特定の先行研究 の議論を携えて、フィールドワークを実施した結果、どうしてもその議論に引きずられて、現 地で出会った興味深い事実や発見を逃してしまう可能性」と「先行研究や方法論に関する知識 を全く持たずに自分の感性(思ったよりユニークでないかもしれない)だけを頼りに現地でデ ータを収集した結果、フィールドワーク終了後に『そんな話は既に大量にある』ことに気づく 可能性」の 2 点が挙げられる。この 2 つの状態に陥らないためには、「勉強した内容を〈賢く〉 忘れ、フィールドでの発見の後に〈賢く〉思い出す」必要がある。 この〈賢く〉思い出す手法として、小川氏が提案するのが上記の点検読書である。これらの 問題にぶつかってしまうのは、偶然出会った論文や文献のみを用いて先行研究を組み立てるか らであり、年代/専門分野/研究者/理論/キーワード等を系統立てたうえで先行研究を集め れば、これらの問題を回避できる。ではどのように実践すればよいのか? 研究における点検読書は、「①キーワード検索」「②1 冊/5 分以内での点検読書」「③自身の 関心やテーマに応じた論文・書籍の分類」のプロセスで進める。 点検読書のポイントは、文献の異なる価値を見極めること、分類整理のためのキーワードを 考えることである。文献の価値は大まかに 3 段階のレベル、1)資料的価値のある論文(統計 データ・年表・調査地情報など)、2)調査手法の参考資料となりうる論文(調査手法や書き方 を参考にしたいグラフ・地図など)、3)理論的価値のある論文に分類される。 その後、収集した資料を分類するためのキーワード(論文が刊行された年/専門分野/論文 中で引用されている理論/研究者/地域/研究の切り口となるキーワード等)を考え、それぞ れのキーワードに従い PC 内にファイルを作成し整理する2)。このプロセスを経ることで、自 身の脳内と PC 上に研究マップ(自身の研究を取り巻く全体像)が作成され、自身の研究関心 の視覚化につながる3)(図 1 参照)。 さて、これらの 3 段階の文献の価値は、具体的にどのようにフィールドワークと論文化に関 わってくるのだろうか。まず、1)資料的価値のある論文は、自身の論文において直接引用あ るいは直接分析できる箇所(史実や統計データ、地図)があるものを指す。フィールドワーク ─────────────── 2)点検読書の方法は研究者のステージによって異なることを付記しておく。修士課程であれば、まず奥 付から出版年と著者名を確認し、専門分野や著名度合を判断する。次に目次や章立てから本論文で扱 われているテーマを推測。最後に参照文献で扱われているテーマと方法論(専門)を確認する。博士 課程であれば、これに加えて、文献リスト・目次・章立てから、著者がどんな理論的派閥に属するの か、どんな論を使っているのか推測し、終章から論文の主張を把握する必要がある。 3)研究マップの作成を進めるなかで、専門分野やキーワードごとに整理する際、どこに分類すればよい のか不明なものが出てくるだろう。その場合は、各テーマに「不明・保留」ファイルを作成し、その なかに保存しておけばよい。また、複数の分野やテーマにわたる文献は、複製して両方のファイルに 保存しておくことが肝要である。 KG 社会学批評 第 8 号 [March 2019]
中や論文を執筆する際は都度見直し、調査中に最新のデータが手に入ったのであれば、最初か ら作らず 1)をベースに修正を行えばよい。つぎに、2)調査手法の参考になりうる論文は、 特定の調べたい事項を図表化する時や質問票を作る時に活用すればよい。論文中でどの方法論 がどのような分析や考察に活用されているかについてもメモしておくと、フィールドワークに 入った際に調査項目のアイデアの源泉になるだろう。たとえ、A の手段や方法論では調査で きない事項でも B の手段や方法論を駆使すれば調査可能だったり、別の角度で考察すること が可能となったりするかもしれない。 参考までに小川氏は自身の研究室の院生がフィールドワークに赴く前、この点検読書を実施 させている。フィールドワーク前の学生が点検読書にかける期間の目安は約 3 ヶ月程度であ り、その後は定期的に情報更新する程度でよいと述べている。この点検読書を定期的に行い情 報更新することで、自身が属する専門分野の研究動向を把握することが可能となり、次の研究 や新しい議論に取り組む際のアイデアの種にもなるので是非更新を続けてほしいとのことであ る(そして願わくば、その内容を他の院生や指導教員にも共有して、後学のために寄与してほ しい)。 論文を作成する──「論」を整理する 前節までの段階では、フィールドワークに赴く前に行う点検読書の手法を説明した。この節 ではフィールドワーク中には〈賢く〉忘れていたことを〈賢く〉思い出し、フィールドワーク 中に収集したデータを分類する作業について触れる。 調査中に得られた情報は、実際に調査して分かったこと/調査中に見聞きしたこと/調査者 自身が感じたことに分けられるが、これらのデータを「殺すべき」か「生かすべき」か振り分 けていく必要がある。調査者の思いこみや単なる主張ではないか?そのデータに根拠はあるの か?これを点検読書の成果である先行研究の理論や学説史に即して取捨選択していく。ただ し、この点検読書の成果に過度に引きずられすぎて「生かすべきデータ」を殺してはならな 図 1 研究マップ作成例 *報告資料(小川さやか氏作成)より引用。 70
フィールドで集めたデータと点検読書の成果を照らし合わせた際、フィールドで見つけた 「切り口」が点検読書の小分類(キーワード)のファイルのいくつかに関連するのではないか と感じたのであれば、試しに該当する論文や本を読んでみてほしい。なかには、著名な研究者 の議論に近い発見もあるだろう。 これは点検読書を実施した結果、調査者の脳内には知らずのうちに様々な引出しが形成され ているためだ。調査者は点検読書で流し読みした内容に関係するデータを集めてしまうが、そ のことを自身では〈賢く〉忘れているのである。しかも、その本の詳細を読んでいないので、 「切り口」は近い/同じだったとしても、調査内容は調査者独自のものとなっている。 さらによくよく自身のデータを点検してみると、件の研究者の議論と自身の発見には微妙な 違いが感じられる。その文献こそが、論文を書く際の「仮想敵」で「乗り越えるべき議論」で ある。仮想敵を発見したのであれば、その文献が振り分けられていた小分類のファイルの中身 を分析読書精読するとともに、関連する議論を徹底的に集めて点検し直す。乗り越えるべき中 間理論が明らかになったら、対象となる理論と自身の調査データを照らし合わせ、自身のオリ ジナルな点はどこかを考えてみる。ここまで到達したのであれば、その理論に至るまでのファ イルをつなぎ研究動向を整理してみる。 先述の例は、あくまで幸運にもフィールドで発見した「切り口」「関心」が点検読書のファ イルとうまく合致した場合だが、そうでない場合もあるだろう。フィールドで集めたデータか ら言える点はすでに実施した点検読書の研究で十分に議論されており乗り越えが難しいもの、 フィールドで発見した「切り口」「関心」がこれまでの点検読書のファイルとはあまり合致し ていないもの等、うまくいかなかったパターンはいくつもある。その場合、「発見した切り口」 「関心」、それ以外の「データ」の組み合わせで、再度点検読書をやり直す必要がある。たと え、点検読書をやり直すことになったとしても気落ちする必要はない。以前の点検読書の成果 に別のキーワードを追加していくことで、より際立つオリジナリティを獲得することにつなが るかもしれないのだから全く問題無い。 点検読書のやり直しを行う時、真っ新な状態の点検読書と明らかに異なる点は、問い/関心 の所在が明確になっている点である。自分 の調査してきた具体的なフィールドデータ によって論文のメインとなる部分はすでに 定まっている。そこに新しいキーワードを 絡ませるかによって、新しい「切り口」を 生み出し膨らませるのである。 その時に行うべき読書方法は、大量の本 を時間制限内に読む点検読書だけでなく 「対象」や「論」での分類を相互に関連付 けて読むシントピカル読書を行なう必要が ある。 図 2 初回研究会の講師 KG 社会学批評 第 8 号 [March 2019]
これらの作業を経て、直接的に扱う中間理論のファイルできたら、直接的な研究テーマが入 っている一番小さな規模のファイルに保存された論文だけを比較する作業を行う。この際、着 目するべきは、対象/上位の理論的背景/調査・分析手法/主張点である。まず、対象となる 論文の主張点に注目し、ファイル内の各論文の関係を 5 つの分類(①並列関係:類似した結論 や主張を行なっている、②展開関係:以前の議論を発展させた主張を行っている、③相互補完 関係:お互いの不足分を補っている、④対立関係:逆の結論や主張を行っている、⑤新規の視 角の提示:新しい視角を提示しているため比較不能)で整理する必要がある。 次に「対象」「理論的背景」「調査・分析手法」に着目し、なぜそのような違いが生まれてい るのか考察したメモを作成する。この一連の作業が終了したならば、序論を書くための準備が 終わったといえる。 序論を作成する 論文を書き始める際、いきなり序論に取り掛かることはできない。自身がフィールドワーク によって得たデータ同士を組み合わせて論文の章、節ごとに論旨を作成し、そして各節ごとに 区切っていたものを抽象的なレベルでまとめあげる作業を経て結論の大半が完成した段階を踏 まえて、ようやく序論に取り掛かることができる。これまでで明らかになったことを先行研究 や冒頭で述べた問題意識に立ち返りながら序論の作成に取り掛かってほしい。 序論を始める前、どのような「つかみ」から入るべきか考えてみよう。多くの人びとが納得 できる/当然重要だと考えられる大きな問題を背景に持ってくる「社会問題系のつかみ」にす るか、点検読書で組み立てた当該分野の最も大きな理論的潮流の整理を「理論系のつかみ」と するか、それとも読者に興味深いと思わせるような事例や事実を淡々と書き出す「事例系のつ かみ」とするか、自分の研究データと相談してどれが最も効果的なつかみかを考えてみる。 次に研究史の位置づけを行う。ここでは「結論の半分」を踏まえつつ、点検読書の成果を参 照しながら関連する文献を精読する必要がある。精読を行う際、点検読書とは異なり、文献の 「理解」と文献との「対話」を行わなくてはならない。ここでいう理解とは、先行研究の主旨 を〈自分のことば〉で 500-1,000 字で正確に要約できる、または論文を読んでいない人間に 5-10 分で誤解なく説明できる程度の「論旨の理解」と、先行研究の理論的背景を踏まえて先行 研究を特定の研究史に位置付けて評価することができる程度の「研究史上の意義の理解」の両 者を意味する。この 2 つが出来ない場合は、精読が足らず「何となくしかわかっていない」も しくは「勘違い」や「思いこみ」の可能性が高い。 次に文献との対話に移る。文献との対話とは脳内で著者とコミュニケーションをとることで ある。このコミュニケーションの種類として「①精査:先行研究の分析や論理展開におかしな 点がないか判断する」「②批評:他の議論と比較しながら先行研究の主張を論理的に批評する」 「③応用:先行研究の議論や内容を自身や他の研究の事例に応用」があげられる。論文への理 解なく、「粗さがし」をするような先行研究の整理はあまり生産性がない。「なぜ論証が不十分 72
限界、主張の重要性、研究史的意義に引き付けて考える必要がある。十分に理解と対話が完了 したところで、次はその先行研究の乗り越え方を考えなくてはならない。 先行研究の乗り越え方として、まず 1)先行研究の不足を指摘する(自身の研究の新規性を アピールする)という手法がある。ただし、この手法の場合は注目されてこなかった/明らか にされてこなかった理由や背景を論じる必要がある。それは方法論の問題なのかもしれない し、研究の前提が異なっているのかもしれない。その点には充分に配慮したうえで指摘するべ きだ。 次に 2)先行研究を補完・実証することを指摘するという手法があげられる。自身の結論が 先行研究の主張と同じ・類似した結果になっている場合は先行研究の議論に貢献するという形 をとればよい。ただし、「同じ主張の先行研究 A」と「それに対立する先行研究 B」が存在す る場合、まず両者の拮抗点を整理し、先行研究の主張の違いがなぜ生じているのかを「論理的 整合性」「理論的背景の違い」「対象の違い」「分析手法の違い」「イデオロギーの違い」等に着 目して考察する。そして「○○の議論は○○の意味で再検討されるべき(与する理論)」「具体 的な事例研究において検討する必要(自身の研究のほうがデータが厚い場合)」「多角的な検討 が必要(対象が違う場合)」「より大きな文脈で検討する事が必要(分析手法が違う場合)」「よ りミクロに検討することが必要(分析手法が違う場合)」などを指摘すればよい。 このほかに 2)先行研究を補完・実証することを指摘するという手法をとったときに起こり うるパターンとして、「近年の主流派(理論的潮流)と一致し、対立する研究(群)が見つか らない場合」もある。この場合は、なぜそのような理論的潮流に移行してきたか/なぜ出現し たかの背景を整理し、さらに現在の主流派の主張の重要性を指摘すればよい。次に、自身の研 究がそれらに実証的に/異なる地域で/より広い文脈で貢献するものであることを指摘すれば 先行研究を乗り越えることができる。 最後に 3)先行研究の議論を覆す/再考を迫る/部分的に批判するという乗り越え方があ る。これは自身が導きだした結論が先行研究の結論に反する場合に適応される。これも 2)と 同様に、理論的潮流の動向の整理から主流派の議論においてなにが重要であるかを書く。次 に、そのような議論に対する批判・反論・問題点を指摘する。もちろん先行研究の乗り越え方 はこれだけではない。①「そもそも」論の展開(研究の大前提を問い直す)、②「リバイバル」 論の展開、③「異分野」の導入による論の展開もあるだろう。 先行研究を最初から論理的に記述することが難しい場合は、「引用したい箇所」や関係のあ りそうな論文の長めの要旨、先行研究に対する疑問や文句などを書き出していき、それらを何 度も並び替えたり、要約したり、修正したりすることで書けることもある。まずは書き出して みることが重要だ。以上を経て序論が完成する。 以上 講演終了後は、今回の講演内容に留まらず、調査手法の有効性、インタビュー調査時の工 夫、査読者(講師)から見た査読論文のコメント等、研究活動に関するあらゆる話題が質疑応 KG 社会学批評 第 8 号 [March 2019]
答ののち全体で討論された。 今回、小川氏が講演した内容の全文を書き 出すことは紙幅の都合上叶わなかったが、フ ィールドワークのみならず、多くの学生の論 文執筆に必ず役立つ内容をお話しいただい た。今回書けなかった小川氏のフィールドデ ータを利用した論旨の組み立て方や、論文構 成のやり方についてはまた別の機会にまとめ たい。最後に、素晴らしい技法を提供してく ださった小川さやか氏には共同研究班一同、 心より御礼申し上げる。 3 次回研究会の予定 ■次回研究会概要 日程:2019 年 2 月 27 日(水)14 : 30∼18 : 30 場所:関西学院大学上ケ原キャンパス先端社会研究所(社会学部棟 3 階)セミナールーム 講師:関根康正氏(神奈川大学アジア研究センター客員研究員) 講演題目:「問題意識・フィールドワーク・論文作成:その理論と実践」 次回の研究会では関根康正氏を講師としてお招きし、川喜田二郎の「KJ 法」やフィールド ワークの実践、エスノグラフィーの記述について焦点を当てたお話をしていただく予定であ る。具体的には、(1)人類学・野外科学・フィールドワーク・アブダクション、(2)「問題意 識」発見技法としての写真観察法、(3)論文作成の実践的方法:ストリート人類学を事例に、 異常の 3 つのポイントについてご講演いただく。 【参考文献】
Mortimer J. Adler, Charles V. Doren, 1972, How to Read a Book, New York : Simon and Schuster, Inc.(=1997, 外山滋比古 槇未知子訳,『本を読む本』講談社.)
Pierre Bayard, 2007, Comment parler des livres que l’on n’a pas lus?, Paris : Les Editions de Minuit.(=2016, 大 浦康介訳,『読んでいない本について堂々と語る方法』筑摩書房, )
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科・京都大学東南アジア研究所, 2006, 『京大式フィールドワー ク入門』NTT 出版.
図 3 研究会の様子 74