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広帯域誘電分光を用いた多成分系水溶液中のグルコースの定量分析

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招待論文

広帯域誘電分光を用いた多成分系水溶液中のグルコースの定量分析

中村

昌人

a)

田島

卓郎

瀬山

倫子

A Quantitative Analysis of Glucose in Multicomponent Aqueous Solution by

Broadband Dielectric Spectroscopy

Masahito NAKAMURA

†a)

, Takuro TAJIMA

, and Michiko SEYAMA

あらまし マイクロ波・ミリ波帯の複素誘電率は液体試料の配向緩和に対応しており,物質固有の誘電緩和特 性が得られる.この誘電緩和特性の変化を溶液中の成分濃度の変化と対応づけることにより成分濃度の定量分析 が可能となるため,非破壊・非侵襲センシングへの応用が期待される.本論文では,具体的なアプリケーション として血液中のグルコースの定量分析に着目し,多成分系水溶液中での精度評価を実施したのでその分析結果を 報告する.水溶液の誘電分光スペクトルはブロードなピークの重ねあわせとなっており,単一の周波数のみでの 定量分析は多成分系での測定では定量精度が低下する.そこで,本論文では広帯域な誘電分光スペクトルに多変 量解析手法の一つである PLS 回帰分析を適用することで定量精度の向上を図った.サンプル試料として血液を 模擬した蛋白質–グルコース混合水溶液を用い,標準誤差 58 mg/dL,検出限界 178 mg/dL の定量精度を得た. 人体の血糖値はおよそ 70–200 mg/dL の範囲で変化しており,本結果はマイクロ波・ミリ波を用いた非侵襲血糖 値センシングの可能性を示唆するものである. キーワード 誘電分光,誘電緩和,多変量解析,非侵襲測定,複素誘電率測定

1.

ま え が き

マイクロ波・ミリ波を用いたセンシング応用には, レーダ技術を応用した衝突防止や呼吸,心拍などのバ イタル情報センシング[1],水分の吸収が大きいという 特徴を活かした土壌や肌の水分量センシング[2]など がある.特に,後者の水分量センシングに関しては, 近年単純な水分のみに留まらず,様々なバイオセンシ ング分野への応用が検討されている.これはマイクロ 波–ミリ波帯の誘電緩和特性が含有成分によって異な るという特徴に起因している. マイクロ波・ミリ波帯の誘電緩和はMHz–GHz帯に わたる広い周波数帯で観測され,広帯域な複素誘電率 測定(誘電分光)とCole-Coleプロットによるスペク トルの評価がこれまでに行われてきている[3]∼[8].こ れまでにイオン水溶液やタンパク質水溶液,グルコー スや二糖類水溶液などが報告されており,近年の報告 日本電信電話株式会社 NTT先端集積デバイス研究所,厚木市

NTT Device Technology Laboratories, NTT Corporation, 3– 1 Morinosato-Wakamiya, Atsugi-shi, 243–0198 Japan a) E-mail: [email protected] では誘電分光スペクトルを溶質,溶媒である水,そし て水和水それぞれの配向緩和としてモデル化し,物質 の水和数の評価なども行われている[9].水や水和に関 する情報が得られるという特徴から,バイオセンシン グへの応用としては単一の細胞や細胞懸濁液分析や非 侵襲血液成分センシングなどが検討されている[10]∼ [13].我々は血液成分のセンシング,中でも非侵襲血 糖値センシングに着目している.非侵襲血糖値センシ ングは糖尿病患者の穿刺を不要にすることで心理的負 担や感染リスクの低減を図れるだけでなく,ウェアラ ブルデバイスに搭載することで糖尿病予備軍の健康管 理などの新たな利用シーンが期待できることから,赤 外光や超音波など様々な分野から研究報告が行われて いるが,未だ一般に普及するレベルでの実用には至っ ていない[14].マイクロ波–ミリ波を用いたグルコー スセンサも提案されており,その方式はアンテナや共 振器を作成し,共振周波数のシフトや半値幅の変化を 濃度に換算する手法[15]∼[17]と,測定試料の誘電分 光を行い,グルコースの濃度変化と複素誘電率変化の 検量線を作成し濃度定量を行う手法[18]とに大別する ことができる.前者は共振器の設計によりセンサの高

(2)

感度化が可能であるが,多成分系中の測定の際にはグ ルコース以外の成分の濃度変化の影響が共振特性に包 含されうる.一方で,誘電分光を用いた手法では,前 者と比べ感度は落ち単一の周波数を用いた場合には多 成分系中での定量分析では確度が低下するが,広帯域 な誘電分光スペクトルを測定することで,多成分系に おいてスペクトルの変化を各成分濃度の変化に対応付 けることで定量精度の向上が期待できる.そこで本論 文では広帯域な誘電分光及び多変量解析を用いた多成 系水溶液中のグルコースの濃度定量性能の評価を実施 した.試料としてはアルブミン–グルコースからなる 多成分系水溶液,及び動物血清を用いた.結果として 人の血液に含まれる量と同等である100 mg/dLオー ダーでの定量分析結果を得たので報告する. 本論文の構成は下記のとおりである.2.にて多成分 系水溶液中でのグルコース検出の原理となる水溶液の 誘電緩和スペクトル及び多変量解析による濃度定量の 原理について説明する.その後,3.で試料の広帯域誘 電分光測定,4.で多変量解析を用いた濃度定量モデル の評価について議論し,5.で本論文のまとめ及び今後 の展望を述べる.

2.

水溶液の誘電緩和スペクトルと多変量

解析を用いた濃度定量

水溶液の誘電分光はこれまで主にMHz–GHz帯で行 われており,バルク水,溶質,そして溶質によって水 和した水(水和水)の配向緩和に対応する複素誘電率 の分散特性が観測される.溶質の配向緩和のピーク周 波数は溶質の半径や溶液の粘度によって異なるが,タ ンパク質ではおよそ数0.1 MHz∼数10 MHz [4], [8], 糖類では数100 MHz帯である.図1に温度300 Kの 純水及びグルコース水溶液の誘電分光スペクトルを示 す[12].なお,スペクトルの取得には3.に示す測定 系と同様のものを用いている.誘電分光では物質の複 素誘電率が測定されるが,本論文では複素誘電率の虚 部を誘電分光スペクトルとして取り扱うものとする. 純水の誘電分光スペクトルと比較し,グルコース濃度 が高くなるにつれて吸収のピークが低周波側へシフト し,またピークの値も低くなっていることが分かる. また,誘電分光スペクトルは一つのブロードなピーク の周波数特性が変化しているように見えることから, Cole-Coleプロット ε∗(ω) − ε = Δε 1 + (iωτ)(1−h) (1) 図 1 グルコース水溶液の誘電分光スペクトル [12]

Fig. 1 Dielectric spectra of aqueous solution of glu-cose [12]. を用いたスペクトルフィッティングによる評価が行わ れてきた[7].一方で,このブロードなピークは式(2) に示すようなDebye緩和の線形結合で示すことがで きるとも考えられている. ε∗(ω) − ε = Δεs 1 +iωτs + Δεh 1 +iωτh + Δεb 1 +iωτb (2) ここでΔεはDebye緩和の緩和強度,τ は緩和時間, 添え字のs,h,bはそれぞれ溶質,水和水,バルク水を 意味している.この式(2)に基づき500 MHz–10 THz までの誘電分光とカーブフィッティングによって各緩 和のパラメータの濃度依存性や水和数の評価も行われ ている[8].式(2)を用いて26330 mg/dLのグルコー ス水溶液の500 MHz–50 GHzにおける誘電分光スペ クトルに対しカーブフィッティングを行った結果を図2 に示す.カーブフィッティングを行う際には,バルク水 の緩和時間τbを温度300 Kの純水の緩和時間7.93 ps とし,また溶質の緩和時間τsを式(3)により算出した 上でフィッティングを行った[9]. τb= 4πr3η KBT (3) ここでrは溶質の流体力学的半径,ηは粘度,KBは ボルツマン定数,Tは温度である.試料の粘度の測定 には振動式粘度計(SV-10,A&D)を用いた.フィッ ティング結果から溶質による緩和は比較的小さく,水 和水及びバルク水による緩和の重ね合わせが支配的で あることが分かる.グルコースの濃度が増加した際に

(3)

は,溶質及び水和水の緩和強度が増加し,一方でバル ク水の緩和強度は減少する.これはグルコースの増加 により水分が排斥されたこと,バルク水の一部が水和 水となることに起因する.結果として,誘電分光スペ クトルのグルコース濃度依存性は図1のような挙動を 示す. グルコース濃度のみが変化する単成分系水溶液の場 合,グルコース濃度に応じて各デバイ緩和の緩和強度 が一意に変化するため,ある任意の周波数において濃 度と誘電分光スペクトルの検量線を作成することによ りグルコース濃度の定量分析が可能である.また,共 振器を用いた高感度化も容易である.しかし,多成分 系水溶液の場合,グルコース以外の成分の濃度が変動 した際にもバルク水の排斥や水和が生じるため,い ずれの手法でも定量精度が低下することが考えられ る.そこで我々は広帯域な誘電分光と近赤外分光など で用いられる多変量解析手法である部分的最小2乗 (Partial Least Squares: PLS)回帰分析[19]を用い ることにより定量精度の向上を図った.PLS回帰分析 は測定されたスペクトルを以下の式(4)–(6)を用いて 複数の特徴量の重ね合わせとしてモデル化する分析手 法である. X = T P+E = Σt hph+E (4) Y = U Q+F = Σuhqh+F (5) ˆ uh=bhth (6) 図 2 26330 mg/dLのグルコース水溶液のカーブフィッ ティング結果

Fig. 2 Dielectric spectrum of 26330 mg/dL glucose solution and theoretical fitting curve on the basis of Eq. (2). ここでXY はそれぞれ測定したスペクトルとスペ クトルに対応する試料の濃度の行列,TU はスコ ア,PQはローディングと呼ばれ,これらが特徴 量とその重みに対応するパラメータである.なお,thuhphqhはそれぞれベクトルTUPQの 要素である.また,EF はモデル化した際の残差 である.PLS回帰分析はスペクトル,濃度それぞれを 主成分分析によりモデル化し,式(6)のようにスコア uhを係数bnthを用いて表すことを特徴としてお り,これにより既知試料の測定誤差の影響を低減して いる. 濃度が既知の試料とその誘電分光スペクトルを用い て検量モデルを作成することで,最終的に濃度が未知 の試料の濃度を定量することが可能となる.本手法を 用いることで,多成分系水溶液中であってもグルコー スによるスペクトル変化の特徴量のみを抽出し検量モ デルを作成することで定量精度の向上が期待できる. 以上の手法を用いて多成分系水溶液中のグルコースの 定量精度の評価を行った.

3.

多成分系水溶液の誘電分光

3. 1 試料の作成及び測定手法 測定試料となる多成分系水溶液としては,血糖値 測定への応用を想定しアルブミン–グルコースの混合 溶液を作成した.試料の成分濃度は表1に示すとお りである.アルブミンは血液中に最も含まれる蛋白 質であり,その血中濃度の日内変動は少なく,およそ 3000–5000 mg/dLの範囲内で個人差による[20].一 方で血糖値は健常者の場合,およそ70–200 mg/dLの 間で食事などの影響により継時変化する[21].そのた めアルブミン濃度は血中濃度の範囲内で1000 mg/dL 刻みとし,グルコースの濃度はより細かい刻みとした. 表1に示す任意のアルブミン及びグルコース濃度とな るようにウシ血清由来アルブミン(Fraction V,MP Biomedicals),グルコース試薬(試薬特級,和光純薬) を純水に溶かすことによって混合溶液を作成した. 図3に示す誘電分光測定の実験系を用いて作成した 表 1 作成するサンプルの濃度

Table 1 Concentration of prepared albumin-glucose mixture.

(4)

図 3 誘電分光測定の模式図

Fig. 3 Measurement set up of dielectric spectroscopy.

図 4 誘電分光測定系の安定性:(a) 周波数 20 GHz にお

ける安定性 (b)周波数ごとの標準偏差

Fig. 4 Stability of the dielectric spectroscopy system: (a) stability at 20 GHz (b) standard deviation in measurement frequency range.

全24サンプルの複素誘電率の測定を行った.ベクトル ネットワークアナライザ(N5247A, Keysight Tech-nology),電 子 校 正 モ ジュー ル (N4693A, Keysight Technology),及び同軸プローブ(85050E, Keysight Technology)を用いており,周波数範囲は500 MHz∼ 50 GHzとした.同軸プローブ法では,式(7)に基づ き測定試料の複素誘電率を算出する[22]. 図 5 (a)アルブミン濃度を 3000 mg/dL で固定 (b)グ ルコース濃度を 1000 mg/dL で固定した際のアル ブミン–グルコース混合溶液の誘電分光スペクトル Fig. 5 Measured dielectric spectra of

albumin-glucose mixture solutions: (a) when albumin concentration is fixed at 3000 mg/dL (b) when glucose concentration is fixed at 1000 mg/dL.

(ρm− ρ1)(ρ3− ρ2) (ρm− ρ2)(ρ1− ρ3) = (εm− ε1)(ε3− ε2) (εm− ε2)(ε1− ε3) (7) ここでρεはそれぞれ複素誘電率が既知の試料3種 類及び測定対象の反射係数及び複素誘電率を表す.今 回は既知試料として空気,金属(短絡),純水を用いた. また,測定試料は精度±0.5◦Cのブロックバスを用い て温調を行っている. 図4 (a)に,温度300 Kの水を10分おきに2時間の 連続測定をした際の,温度20 GHzにおける複素誘電 率の虚部の時間変化を示す.測定値の標準偏差は0.02 であった.また,連続測定時の標準偏差の周波数依存 性は図4 (b)のとおりであり,30 GHzまでは標準偏差 0.05以下,50 GHzまでは0.15以下の精度での測定が 可能な測定系となっていることが分かる. 3. 2 測 定 結 果 図5 (a)にアルブミン濃度を3000 mg/dLで固定し

(5)

た場合の試料のグルコース濃度の変化によるスペクト ル変化を,図5 (b)にグルコース濃度を1000 mg/dL で固定した場合の試料のアルブミン濃度の変化による スペクトル変化を示す.アルブミン,グルコースの分 子量はそれぞれ約68000,180 g/molであり,分子量 に大きく差があるためアルブミン濃度が変化した際の スペクトル変化の方が大きいと考えられる.これらの スペクトルを用いてPLS回帰分析による定量分析を 実施した.

4. PLS

回帰分析による定量分析モデルの

評価

4. 1 解 析 方 法 PLS回帰分析には,市販の多変量解析ソフトウェア (SIMCA 14, Umetrics)を用いた.PLSによる濃度定 量モデルを作成する前段として,下記の3種類のスペ クトルの前処理を実施した.1点目はSavitzky-Golay フィルタを用いたスペクトルのスムージングであり, これには測定器由来のノイズの影響の低減を目的とし ている.2点目は微分による前処理であり,これには DCオフセットの低減やバルク水によるスペクトル変 動の影響の低減が期待できる.3点目は解析に用いる 周波数帯域の選定である.図4 (a)に示すように,今 回用いた試料の誘電分光スペクトルではグルコース濃 度の変化によって生じるスペクトル変化は非常に小さ く,スペクトル変化よりもノイズの影響が大きい周波 数帯が含まれることにより定量精度が劣化することが 考えられる.そこで,valuable importance on PLS projection (VIP)という指標に基づき解析に用いる周 波数を選定する事により定量精度の向上を図った.周 波数ごとのVIPは式(8)で示される[23]. VIP(f) =















F M



m=1 SSm M



m=1 wm(f)2· SSm (8) ここでf,F,M,wm,SSmはそれぞれ周波数,周波 数のポイント数,PLS回帰分析に用いた潜在変数の数 (PLSファクター),PLSの重み係数,m番目の潜在変 数が濃度を表現している割合を表す.このVIPは平均 値が1となっており,VIP(f) ≥ 1となる周波数が濃度 定量への寄与度が高く,選定すべき周波数帯であると 考えられる.今回の検討においては500 MHz–20 GHz が寄与度の高い周波数帯となっており,これはグル コースの溶質及び水和水のピークがこの領域に存在し ているためであると考えられる. 以上の前処理を施した誘電分光スペクトルに対し PLS回帰分析を行うことで濃度定量モデルを作成した. 試料1種類に対し一つの誘電分光スペクトルをデー タセットとして用いており,データの総数は24であ る.濃度定量モデルの評価方法としてはleave one out cross validation (LOOCV)による交差検証を実施し た.これは,あるスペクトルの濃度を推定する際には そのスペクトルを除いた測定データ群から濃度定量モ デルを作成し,作成された定量モデルから取り除いた スペクトルの濃度を推定する検証方法である.これを 全てのスペクトルに対して繰り返し行い,実際のグル コース濃度と推定されたグルコース濃度を比較し,2

乗平均平方根誤差(Root mean square error of cross validation: RMSECV)を用いて定量精度を評価し た.また,定量分析の検出限界(Limit of detection: LOD)を以下の式に基づき算出した[24]. LOD = 3Sx/y+b (9) Sx/y=



(y(i) − ypred(i))2

n − 2 (10) ここでy(i)は実際のグルコース濃度,ypred(i)は推定

したグルコース濃度,bは推定値から作成される検量 線の切片である. 4. 2 解 析 結 果 図6に多成分系水溶液中のグルコース濃度の定量 結果を示す.図6 (a)はPLS回帰分析を用いず単一 の周波数で検量線を作成し濃度定量を行った結果で あり,図6 (b)が提案手法による解析結果である.単 一周波数での解析では,推定したグルコース濃度と 実際のグルコース濃度との相関係数が最も高かった 3.5 GHzを解析周波数に用いた.図中のPLSファク ターとはPLS回帰分析に用いる主成分の数を表して おり,PLSファクター= 5のときに誤差が最小であっ た.図7にPLSファクター数とRMSECVの比較を示 す.PLSファクターが2以下の場合には精度の高いモ デル化ができず誤差が非常に大きくなっており,PLS ファクターが3を超えてからRMSECVが100 mg/dL 以下となることが分かる.また,表2には単一の周 波数を用いた場合,提案手法でスペクトルの前処理を 行わなかった場合,前処理をした上で提案手法を用い た場合のRMSECV,LODの比較を示す.PLS回帰 分析,スペクトルの前処理のいずれも精度の向上に有

(6)

図 6 (a) 3.5 GHzにおける検量線 (b)提案手法を用い た多成分系水溶液中のグルコース濃度定量結果 Fig. 6 Result of quantitative analysis of glucose by

(a) calibration curve at 3.5 GHz (b) our pro-posed method. 効であるということが分かる.提案手法を用いた場合 のRMSECV及びLODは58 mg/dL,179 mg/dLと なっており,単一の周波数を用いる手法に比べそれぞ れ79%,75%低減している.図8にPLS回帰分析で 抽出される特徴量と,図2から算出されるグルコース による誘電分光スペクトル変化の比較を示す.図8の 赤線は今回の回帰分析モデルの第2ローディングベク トルであり,これがPLS回帰により抽出されたスペ クトルの特徴量に対応する.一方で図8の青線は図2 に示す26330 mg/dLのグルコース水溶液のフィッティ ングカーブから式(11)を用いて溶質及び水和水によ る吸収のみを抽出したものであり,グルコースの濃度 変化による理想的なスペクトル変化の形状であると考 図 7 PLSファクターと RMSECV の比較

Fig. 7 Comparison between PLS factor and RMSECV.

表 2 定量分析結果の比較

Table 2 Comparison of results of quantitative anal-ysis.

図 8 第 2 ローディングベクトルとグルコースによる吸収

の比較

Fig. 8 Comparison between loading vector and ab-sorption derived from glucose.

えられる. absorption =



Δε s 1 +iωτs + Δεh 1 +iωτh



(11) これらを比較すると,二つの形状は類似しており,多 成分系水溶液中においてもグルコースによるスペクト ル変化が特徴量に反映されていると考えられる.理想 的なグルコースによる吸収がログスケールの周波数軸 において左右対称であるのに対し,ローディングベク トルで高周波数帯側の値が0に近くなっているのは,

(7)

図 9 多成分系水溶液中のアルブミンの定量分析結果 Fig. 9 Result of quantitative analysis of albumin in

multicomponent aqueous solution.

バルク水の吸収が20 GHzを中心に存在しており,そ の影響を排除したためであると考えられる. 以上のことから,広帯域な誘電分光とPLS回帰分析 を用いることにより多成分系においてもグルコースに よるスペクトル変化を反映させた形で定量モデルが作 成され,定量精度の向上が実現できていると考えられ る.また,図9に同様の手法を用いて多成分系水溶液中 のアルブミンの濃度を推定した結果を示す.RMSECV は83 mg/dLであり,3000–5000 mg/dL実際の値に 対し3%以内となっている.上述のとおりアルブミン の濃度変化によるスペクトルの変化はグルコースのそ れよりも大きいため,濃度定量がしやすくなっている と考えられる.誘電分光を用いることによりグルコー ス濃度だけでなくアルブミンの濃度も同時に定量する ことが可能であり,将来的には様々な血液成分を一括 で測定する技術への発展も期待できる.

5.

む す び

マイクロ波–ミリ波帯の誘電分光を用いた多成分 系中のグルコース検出技術を検討し,広帯域なスペ クトル測定とスペクトルの前処理を行い,PLS回帰 分析により定量モデルを作成することでRMSECV 58 mg/dL,LOD 178 mg/dLの定量精度を得た.糖 尿病の診断項目の一つには糖負荷試験2時間後の血糖 値が200 mg/dL以上という項目があり[21],本結果 は糖尿病患者の血糖値の常時モニタリングや健康診断 時の糖代謝のモニタリングなどを非侵襲的に実現する 可能性を示唆している.また,アルブミンの濃度は実 際には今回の検討のように大きくばらつくことはない ため,個人ごとのキャリブレーションを行うことで誤 差の低減を図ることが期待できる.グルコース濃度定 量に加えてアルブミンも誤差83 mg/dL以内で同時に 測定可能であるという結果も得られており,本結果は 血液成分センシングに限らず細胞や食品などの様々な バイオセンシング応用に対して,蛋白質と糖類の分離 分析の可能性も示唆している. 今後はより実サンプルに近い血液や組織,ファント ムなどの測定や,広帯域な誘電分光システムの小型化 やモジュール化,センサデバイスの設計等を実施する 予定である. 文 献

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[24] J.N. Miller and J.C. Miller, Statistics and Chemomet-rics for Analytical Chemistry, ed., Pearson Education Limited, Canada, 2000. (平成 29 年 8 月 29 日受付,12 月 17 日再受付, 30年 5 月 11 日公開) 中村 昌人 (正員) 2013首都大学東京大学院理工学研究科 電気電子工学専攻博士前期課程了.同年, NTT入社.現在,マイクロ波・ミリ波・テ ラヘルツ波を用いた非破壊・非侵襲測定技 術の研究に従事. 田島 卓郎 (正員) 2000東京大学・工卒.2002 同大大学院 修士課程了.同年,NTT 入社.2017 東工 大工学博士.現在,光・高周波による生体 センシング技術の研究に従事. 瀬山 倫子 1995早稲田大学・理工・応用化学卒,1997 同大大学院修士課程了,同年,NTT 入社. 以来,環境センサ,ニオイセンサ,生体セ ンサの研究開発に従事.現在,NTT 先端 集積デバイス研究所主幹研究員,グループ リーダー.

Fig. 1 Dielectric spectra of aqueous solution of glu- glu-cose [12]. を用いたスペクトルフィッティングによる評価が行わ れてきた [7] .一方で,このブロードなピークは式 (2) に示すような Debye 緩和の線形結合で示すことがで きるとも考えられている. ε ∗ (ω) − ε ∞ = Δ ε s 1 + iωτ s + Δ ε h1 + iωτ h + Δ ε b1 + iωτ b (2) ここで Δε は Debye 緩和の緩和
Fig. 2 Dielectric spectrum of 26330 mg/dL glucose solution and theoretical fitting curve on the basis of Eq
図 3 誘電分光測定の模式図
Table 2 Comparison of results of quantitative anal- anal-ysis.
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参照

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