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フェムト秒時間分解吸収分光法によるβ-apo-8’-carotenalのcis-trans異性体の励起状態ダイナミクスの解析

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Academic year: 2021

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(1)

フェムト秒時間分解吸収分光法によるβ-apo-8’

-carotenalのcis-trans異性体の励起状態ダイナミ

クスの解析

著者

堀内 滉太

(2)

2019 年度 修士論文要旨

フェムト秒時間分解吸収分光法による

β-apo-8’-carotenal の

cis-trans 異性体の励起状態ダイナミクスの解析

関西学院大学大学院理工学研究科 環境・応用化学専攻 橋本研究室 堀内滉太 【序論】 光合成は,太陽光エネルギーを用いて,水と二酸化炭素を原料に酸素と有機物を生成する。 このように,太陽光エネルギーを化学エネルギーへ変換・蓄積することが地球上で成せるのは,光合 成のみである。光合成色素であるカロテノイドは,光合成初期過程において,クロロフィルやバクテ リオクロロフィルに励起エネルギーを伝達する 1)。この励起エネルギー伝達において,カロテノイド は可視光の領域にほとんど吸収を持たないクロロフィルやバクテリオクロロフィルの代わりに,光エ ネルギーを吸収するという重要な役割を担っている。カロテノイドは,太陽光エネルギーで最も光強 度が強い可視光領域の光エネルギーを効率よく集め,超高速かつ高効率で励起エネルギー伝達できる という重要な機能を持つ。本研究は,カロテノイドの持つ巧妙なエネルギー伝達を実現する起源を解 明することを目的としている。 カロテノイドが可視光を吸収したとき,一重項基底状態(S0状態)から光学的に許容な第二励起一 重項状態(S2状態)に電子遷移する。S2状態に遷移後,数百フェムト秒のタイムスケールで内部転換 および振動緩和を経て第一励起一重項状態(S1状態)に緩和する。その後,数ピコ秒から数十ピコ秒 のタイムスケールでS0状態に緩和する。これらの超高速緩和過程を追跡するために,フェムト秒時間 分解吸収分光法が用いられている。近年ではS2状態とS1状態との間,もしくはS1状態とS0状態との 間に新たな中間励起状態(ICT,S*など)が存在することが明らかとなってきている2)ICT 励起状態 は,カルボニル基を持つカロテノイドが極性溶媒環境中に存在するときに発現することや,カロテノ イドからクロロフィルにエネルギー移動する際,高効率なエネルギー伝達を実現する鍵を握っている ことが報告されている3)。また,S 1状態とICT 励起状態との間には相互作用が存在すると考えられて おり,これらの状態が結合したS1/ICT 状態として 表記されている3)。また,S*励起状態は,カロテ ノイドの三重項励起状態の生成に関係している ことが示唆されている。しかしながら,これら中 間励起状態の発現機構の詳細は分かっていない。 過去の研究において,カロテノイドの置換基が異 なる場合や,ポリエン骨格の共役長が異なる場合 の分光学的調査は行われているが,cis-trans 異性 体のような幾何構造の違いについての比較・調査 は限られている。よって,本研究では,ICT 励起 状態と S*励起状態を発現し,cis 異性体の生成方 法も確立されている β-apo-8’-carotenal の cis 異性 体とall-trans 異性体の励起状態について調査を行 った1, 3)

1 β-apo-8’-carotenal の化学構造: (a) all-trans, (b) 7-cis, (c) 9-cis, (d) 13-cis, (e) 15-cis, (f) 13’-cis, (g) 13,13’ -cis, (h) 9, 13’ -cis, (i) 9,13-cis.

(3)

【実験】all-trans β-apo-8’-carotenal の光異性化によって,図 1 に示す 7 種類の cis

β-apo-8’-carotenal(13’-cis,13-cis,9-cis,7-cis,9,13’-cis,9,13-cis,13,13’-cis 異性体)を得た。各異性体を n-hexane(非極性

溶媒),acetone(非プロトン性極性溶媒),methanol(プロトン性極性溶媒)に溶かし,定常状態吸収ス ペクトル測定とフェムト秒時間分解吸収分光測定を行った。フェムト秒時間分解吸収分光測定では, 励起波長を490 nm,検出波長を 436 – 720 nm とした。観測された過渡吸収スペクトルの Target 解析を 行うことで,各異性体のS1もしくはS1/ICT 状態の Species Associated Spectra (SAS)とその寿命を得た。

【結果】 図 2 は acetone と methanol 中 における,13’-cis,13,13’-cis,all-trans 異性体のSAS を示す。フェムト秒時間 分解吸収分光測定によって各異性体 を測定した結果,極性溶媒のacetone と methanol でほとんどの異性体が ICT 励起状態の特徴である過渡吸収信号 (ICT バンド)を強く示した。しかし, 13,13’-cis 異性体のみ ICT 過渡吸収信 号強度が弱かった。つまり,13,13’-cis 異性体は溶媒のプロトン性に関わら ず,ICT 励起状態が不安定であること が明らかとなった。 図 3 は異性体の S*励起状態に由来 する過渡吸収信号(S*バンド)の強度 と各mono-cis異性体の化学構造を比較 した図である。mono-cis 異性体の S*バ ンド強度が強い順にならべると,7-cis > 9-cis > 13-cis > 13’-cis 異性体という 結果となった。mono-cis 異性体の化学 構造をみると,7-cis 異性体の cis 折れ 曲がり部分が片端の-ヨノン環から最 も近く,13’-cis 異性体が一番遠い。つ まり,環構造から cis 折れ曲がり部分が近いほど,S*バンド強度が強くなるという傾向を発見した。 さらに,7-cis 異性体の S*バンド強度が,550 nm 付近に現れる S1→Sn 遷移を示す過渡吸収信号強度よ りも強く現れ,他のカロテノイドでは見られない特徴を示した。 β-apo-8’-carotenal の cis-trans 異性体の励起状態を調査した結果,前例のない新たな発見が得られた。 今後はこの励起状態の解明のため,詳しく追及していく予定である。

1) H. Hashimoto, Y. Miki, M. Kuki, T. Shimamura, H. Utsumi, Y. Koyama, J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 9216−9225. 2) H. Hashimoto, Y. Sugai, C. Uragami, A.T. Gardiner, R.J. Cogdell, J. Photochem. Photobiol., C 2015, 25, 46-70 3) E. Ragnoni, M. Di Donato, A. Iagatti, A. Lapini, R. Righini, J. Phys. Chem. B, 2015, 119, 420-432.

図2 acetone (左図)と methanol (右図) における 13’-cis,13,13’-cis,all-trans 異性体の SAS

3 mono-cis 異性体の SAS と化学構造

ICT バンド ICT バンド

図 1  β-apo-8’-carotenal の化学構造: (a) all-trans,  (b) 7-cis, (c) 9-cis, (d) 13-cis, (e) 15-cis, (f) 13’-cis,
図 2  acetone (左図)と methanol (右図)  における  13’-cis,13,13’-cis,all-trans 異性体の SAS

参照

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