1. はじめに
Holtzman Inkblot Technique(HIT)は、 ロールシャッハテストの多くの長所を保ちなが らも、客観的な採点法による数的処理が可能 であることを目的として1961年にHoltzman, W.H.らのグループによって作成されたイン クブロットテストである。HITの施行法や解 釈の大部分はロールシャッハテストに準拠し ているが、以下の4点が特にロールシャッハ テストと異なっている(大木・冨田,1999)。 1)各45枚から成るForm AとForm Bの2つ の平行形式がある。平凡反応を多く生じさせ る練習用のXとYという2枚の図版を両形式 の施行前に行う。2)1枚の図版について1つ
Holtzman Inkblot Techniqueの日本における
適用のための予備的検討
大
木 桃
代*
A Preliminary Study for the Application
of the Holtzman Inkblot Technique in Japan
Momoyo
Ohki
*おおき ももよ 文教大学人間科学部人間科学科
W.H.Holtzman and his group(1961)developed the Holtzman Inkblot Technique(HIT) for psychometrical assessment. This instrument maintains the rich qualitative, projective material of the Rorschach test. Unlike the Rorschach test, HIT consists of two parallel forms. It requires subjects to give only one response per card, and 22 variables are scored for each response.
The HIT plays a very important role as a psychological test for clinical diagnosis and personality assessment, and the test should be studied further. Although there are many studies in other countries, Japanese researchers have not standardized the test in Japan yet.
The purpose of this study was to interpret the following problems for standardization of the HIT in Japan:(1)mean and standard deviation of each variables in the present study,(2)comparison between Holtzman's data(1961)and the data of the present study, (3)evaluation of validity using factor analysis among the variables.
A tester administered the HIT to 100 university students, 50 high school students, and 10 schizophrenia patients individually. The results of an inspection of the means and standard deviation by the Welch Method revealed differences on FA, C, Sh, Ax, Hs, and P(significant beyond the .05 level). The result of the factor analysis, five factors were obtained. The results of the present study indicated that the norms used to score the HIT for Japanese subjects should be different from those in the United States.
の反応が求められる。3)1枚ごとに反応のす ぐ後で、反応領域、決定因、明細化について の質疑が行われる。4)スコアリングは「反 応時間」「拒否」「反応領域」「空白」「形態性 (良形体性)」「形態性(適切性)」「色彩」「濃 淡」「運動」「病理的言語表現」「統合」「人間」 「動物」「解剖」「性的」「抽象」「不安」「敵意」 「バリア」「透視」「バランス」「平凡」の22変 数から成る。おのおのの反応に対して22の変 数をそれぞれスコアし、基本的に45枚のスコ アを変数ごとに加える(Table 1)。 HITは1枚の図版に対して1つの反応を求め るという施行法の特徴から集団法での施行や 短縮版の作成が可能であり(Herron,1963;
Swartz & Holtzman,1963;大木,1989)、今 後の工夫次第では客観性を伴った投影法とし ての位置づけが可能であると思われる。しか し諸外国ではアメリカを中心としてHITを用 いた数多くの研究がなされてきたが、日本に おいてはその有効性は十分に認められず、発 行後40年近く経った現在でも標準化はおろか ほとんど研究もなされていない。 そこで本研究においてはHITの日本におけ る標準化のための予備的研究として、以下の 2点を目的とした。1)日本の大学生と高校生 のHIT変数の出現傾向を示し、予備的に少数 の分裂病患者のデータとの比較を行う。また Holtzman, Thorpe, Swarts, & Herron
Table1 HIT分類記号一覧(大木,1989) RT:Reaction Time 平均反応時間 R :Rejectoion 拒否(カード数) L :Location 反応領域(W,W→0;D→1;d→2) S :Space 空白(完全な反転→1;他→0) FD:Form Definiteness 形態性(良形体性・確定性:不定0→確定的4) FA:Form Appropriateness 形態性(適切性:0→2) C :Color 色彩(F→0;FC→1;CF→2;C→3) Sh:Shading 濃淡(F→0;Fc等→1;cF,c等→2) M :Movement 運動(0;静止→1;普通→2;活発−3;激しい→4) V :Pathognomic Varbalization 病理的言語表現 a)Fb:Fabulation 作話傾向反応 ( 1 ) b)FC:Fabulized Combination 作話的結合反応(2∼4) c)QR:Queer Response 奇矯な反応 (1∼3) d)IC:Incoherence 支離滅裂反応 ( 4 ) e)AL:Autistic Logic 内閉的狄倫理 (1∼4) f)CT:Contamination 混合反応 (2∼4) g)SR:Self Reference 自己言及反応 (2∼4) h)DC:Deterioration Color 荒廃色彩反応 (2∼4) i)AB:Absurd Response 不合理な反応 ( 3 ) I :Integration 統合(0,1)(機能的,集合的,位置的,構造的) H :Human 人間(なし→0;一部や(H)等→1;全体ないし明細化された顔→2) A :Animal 動物(微生物等→0;部分や分化した皮等→1;全体→2) At:Anatomy 解剖(透視なし→0;X線,骨,解剖図→1;内臓そのもの→2) Sx:Sex 性的(なし→0;社会的に性的な行動→1;露骨な性的表現→2) Ab:Abstract 抽象(なし→0;形態を伴う→1;完全に抽象的→2) Ax:Anxiety 不安(0→2) Hs:Hostility 敵意(1→16種;2→5種;3→暴力的破壊的行動を伴う敵意) Br:Barrier バリア(0,1:防衛的な覆い;膜,具,皮,その他) Pn:Penetration 透視(0,1:身体が殆ど防衛されていない,透視できる) B :Balance バランス(0,1:対称,非対称への言及) P :Popular 平凡(0,1)
(1961)のアメリカでの標準化の傾向と比較 する。2)HIT変数の因子構造を明らかにする。
2.方
法
1.被検者 東京都内の2大学の大学生100名 (男性50名、女性50名) 東京都内の7高校の高校生50名 (男性25名、女性25名) 慢性分裂病患者10名 (男性5名、女性5名) 2.手続き HIT個人法標準手続き(Holtz-man, et al.,1961;大木,1987)に従って施行 した。特にロールシャッハテストと異なる手 続きとして、まず本検査に先立ち2枚の練習 図版を施行した。また教示の際には1枚の図 版に対して1つの反応を与えることを強調し た。さらに各反応提示後すぐに、反応領域、 決定因、明細化についての質疑を行った。反 応拒否の場合、1分以内であればもう少し見 るように告げた。2分以上無言で眺めている 場合には「どうでしょう」などと促し、数回 促しても反応がない場合には反応拒否とした。 なお、被検者の半数にはForm Aを、残りの 半数にはForm Bを施行した。3.結
果
1.変数の平均値と性差 各変数の平均値と標準偏差をTable 2に示 す。大学生群と分裂病患者群間で平均値の差 を検定 (t検定またはU検定) した結果、 「色彩」「病理的言語表現」「形態性(適切性)」 「統合」「性的」「抽象」「バランス」(p<.01) 「解剖」(p<.05)において有意差が認められた。 「形態性(適切性)」と「統合」は大学生群が、 それ以外の変数は患者群の方が高かった。 2.因子構造 22変数の因子分析(主因子法、バリマック ス回転)を行い、因子負荷量.40以上の変数 を選択した結果、5因子が抽出された(Table 3)。第1因子はインクブロットの対称性に関 する因子、第2因子は知覚過程の発達や知的 水準を示す因子であった。第3因子は外的刺 激に対する知覚の方法、第4軸は思考過程の 障害、第5軸は反応時間に関する因子と命名 された。4.考
察
1.各変数の出現傾向の比較 1)大学生と患者群間で有意差が認められた 変数 本研究において大学生と患者群間で有意差 が認められた変数の中で、Holtzman, et al. (1961)と同様の結果が導かれた変数は「形 態性(適切性)」「病理的言語表現」「統合」 であった。特に「形態性(適切性)」と「病 理的言語表現」は現実吟味の能力と関連のあ る指標として、臨床的な診断において最も重 要な変数であるという仮説を立てており、そ の通りの結果を得られた。しかし同時に採点 者の経験も最も必要な変数であり、採点に際 しては細心の注意を要すると言える。また、 「統合」はロールシャッハテストの仮説と同 様に知的水準の高さを表わす指標と考えるこ とができよう。 またこれらの変数の中でHoltzman, et al. (1961)では有意差が認められなかった変数 は「バランス」「性的」「解剖」 であった。 「バランス」と「解剖」は、本検査の患者群 で対称性を表現するために「切り開いた」と いう表現が多く用いられたためと考えられる。 「解剖」反応はロールシャッハテストでは、a) 自分の身体に意識が固執していること(心気 症的傾向など)、b)一般的な不安の反映、c) ある種の精神障害の結果としての解剖反応の 固執、d)知的不適応の感情(劣等感の補償)、 などの解釈上の仮説が挙げられている(片口, 1982)。HITにおける「解剖」反応の解釈 が、a)に準じているならば「解剖」と「バリ ア」「透視」との間に、またb)に準じている ならば「不安」との間に、更にc)に準じてい るならば「病理的言語表現」との間に何らか の相関が認められるはずである。またある種 の「解剖」反応は性的反応の間接的・回避的 表現と考えられる場合も少なくないため、大学生(N=100) 高校生(N=50) 患者群(N=10) 変数 男性 女性 計 男性 女性 計 男性 女性 計 反応時間 22.3 22.4 22.4 29.3 27.0 28.1 20.0 23.4 21.7 (RT) ( 8.7) (10.2) ( 9.5) (13.8) (12.6) (13.3) (9.7) (11.6) (10.8) 拒否 0.7 0.5 0.6 3.0 2.2 2.6 0.6 2.6 1.6 (R) ( 2.5) ( 1.7) ( 2.2) ( 5.0) ( 4.5) ( 4.8) (0.8) (2.8) (2.3) 領域 23.5 24.4 23.9 25.4 32.1 28.7 37.4 31.4 34.4 (L) (10.2) (10.8) (10.5) (14.6) (13.9) (14.7) (18.8) (14.9) (17.2) 空白 1.3 1.1 1.2 1.1 2.0 1.5 0.6 1.0 0.8 (S) (1.0) (1.1) (1.0) (1.2) (1.6) (1.5) (0.8) (1.1) (1.0) 形態(良形体性) 74.4 72.6 73.5 73.2 77.1 75.2 74.4 67.0 70.7 (FD) (11.3) (10.5) (10.9) (15.4) (13.6) (14.7) (12.9) (13.3) (13.6) 形態(適切性) 37.5 36.8 37.2 34.1 35.6 34.9 31.0 25.4 28.2 (FA) (4.3) (4.5) (4.4) (5.0) (4.3) (4.8) (4.4) (6.4) (6.2) 色彩 9.8 11.3 10.5 9.1 15.0 12.1 15.6 27.4 21.5 (C) (7.3) (7.3) (7.4) (6.7) (10.5) (9.3) (10.8) (15.5) (14.6) 濃淡 5.7 5.3 5.5 4.8 4.0 4.4 6.2 8.8 7.5 (Sh) (3.7) (3.3) (3.5) (3.2) (3.2) (3.2) (3.4) (2.1) (3.1) 運動 27.5 29.6 28.6 18.2 26.9 22.6 38.2 13.2 25.7 (M) (11.6) (11.9) (11.8) (10.9) (15.2) (13.9) (15.2) (6.5) (17.1) 病理的言語表現 2.4 2.3 2.3 1.4 1.6 1.5 23.6 24.6 24.1 (V) (2.9) (3.4) (3.2) (2.4) (2.9) (2.6) (6.4) (15.4) (11.8) 統合 7.8 7.4 7.6 4.4 4.4 4.4 5.8 2.6 4.1 (I) (3.6) (3.6) (3.6) (3.2) (4.5) (3.9) (2.5) (1.4) (2.6) 人間 20.1 21.1 20.6 16.8 21.6 19.2 27.6 14.0 20.8 (H) (7.4) (8.6) (8.0) (9.3) (11.7) (10.5) (7.6) (8.1) (10.4) 動物 23.1 22.5 22.8 25.3 24.8 25.0 21.8 25.6 23.7 (A) (7.8) (7.6) (7.7) (8.6) (8.1) (8.3) (5.1) (9.9) (8.3) 解剖 1.9 1.6 1.7 1.1 1.2 1.2 2.0 6.0 4.0 (At) (2.1) (2.3) (2.2) (1.5) (2.0) (1.8) (3.1) (7.8) (6.3) 性的 0.1 0.1 0.1 0.2 0.1 0 . 1 2.8 3.0 2.9 (Sx) (0.2) (0.4) (0.4) (0.6) (0.4) (0.5) (3.8) (5.1) (4.5) 抽象 0.8 0.9 0.9 0.3 1.4 0.8 1.4 7.6 4.5 (Ab) (1.8) (1.6) (1.7) (1.0) (2.1) (1.8) (2.3) (7.2) (6.2) 不安 8.0 6.4 7.2 5.3 7.5 6.4 8.4 5.8 7.1 (Ax) (4.6) (4.4) (4.6) (4.3) (4.6) (4.6) (4.5) (6.6) (5.8) 敵意 7.7 6.3 7.0 4.8 5.9 5.3 8.8 6.6 7.7 (Hs) (5.2) (4.4) (4.8) (4.3) (4.2) (4.3) (4.8) (3.1) (4.2) バリア 3.3 2.5 2.9 1.9 1.5 1.7 3.6 2.0 2.8 (Br) (2.0) (1.6) (1.9) (1.5) (1.6) (1.6) (2.4) (1.3) (2.1) 透視 3.3 3.0 3.1 2.2 2.6 2.4 5.8 4.2 5.0 (Pn) (2.3) (2.8) (2.5) (1.7) (1.6) (1.7) (5.8) (5.0) (5.5) バランス 0.8 0.3 0.5 0.3 0.5 0.4 0.4 3.4 1.9 (B) (10.) (0.7) (0.9) (0.8) (0.8) (0.3) (0.5) (3.6) (3.0) 平凡 7.6 9.0 8.3 6.4 7.4 6.9 8.4 5.4 6.9 (P) (2.0) (2.2) (2.2) (2.7) (2.2) (2.5) (2.9) (2.4) (3.1) Table 2 大学生・高校生・分裂病患者群のHIT変数の平均値と標準偏差(上段は平均値、下段は標準偏差)
「性的」反応との関連も検討できる。本研究 の因子分析の結果からは、a)とb)を支持する 可能性が示唆されたが、いずれにせよ「解剖」 は構成度の低い反応であるため、この反応の 頻度が高いことは何らかの問題であると考え られる。「性的」はロールシャッハテストで は、一般の検査状況において正常な被検者に よって与えられることは少なく、ゆえにこの 反応の出現は何らかの性的あるいはその他の 問題を反映するものとして、人格診断の上に 重要な意味を持つものである、と解釈されて いる(片口,1982)。HITにおいてもこの反 応は常識的・社会的枠組みからの逸脱を示す ものとして、診断に対する指標としての研究 が必要である。なお、これらの3つの変数に おいて本研究とHoltzman, et al.(1961)の 結果が異なった原因としては、実際に日本と アメリカにおいてこの様な差が存在するとい うより、本研究に協力してくれた分裂病患者 がわずか10名であったため、この様な反応を 多く与える被検者の影響があったと考えられ る。 さらに本研究とHoltzman, et al.(1961) において反対の結果が生じた変数は「色彩」 と「抽象」であった。「色彩」に対しては、 感情鈍磨の傾向のみられる分裂病患者より大 学生の方が情緒的にも豊かであり、色彩を多 く用いるであろうという仮説を立てていたが、 本研究では反対に患者群の方が色彩を多く利 用していた。患者群では「色彩」を主決定因 として利用している人が多く、それが「形態 性(適切性)」の低下の一因となっていたが、 大学生は明細化のために副次的に色彩を利用 していたためと思われる。また本研究に協力 してくれた患者の中には療法として絵画教室 を利用している人や芸術関係の学校を卒業し た 人 が 数 名 い た こ と も 一 因 で あ ろ う 。 Holtzman, et al.(1961)では患者群より大 学生の方が色彩を使用する傾向が見られたが、 ロールシャッハテストでも一般成人において、 日本人よりアメリカ人の方が色彩を多く使用 するという研究もあり、今後文化差という観 点からも研究を進める必要がある。「抽象」 はロールシャッハテストの仮説では知的水準 の 高 さ を示 し て お り 、 Holtzman, et al. (1961)ではこの仮説通り大学生の方が抽象 反応を多く与える傾向が認められた。しかし 本研究においては、患者群の方が抽象的では あってもレベルの低い「抽象」反応を多く示 す傾向が認められた。抽象反応の解釈には、 高知能の反映と空想への逃避という二面性を 考慮する、という研究(高橋・北村,1981) もあることからHITにおける抽象反応の解 釈に関しても今後再検討する必要があると思 われる。 2)大学生と患者群間で有意差が認められな かった変数 本研究とHoltzman, et al.(1961)におい て共に、大学生群と分裂病患者群との間で有 意差が認められなかった変数は「反応時間」 「形態性(良形体性)」「動物」「空白」であっ た。「反応時間」はアメリカでは年齢と共に 増加しており、臨床的な定まった解釈がある というよりは、むしろ注意深い態度やうつ的 な抑制を反映している可能性がある。また 「形態性(良形体性)」はHoltzman, et al. Table3 因子分析(主因子法、バリマックス回 転)の結果 変 数 1 2 3 4 5 共通性 透 視 敵 意 解 剖 不 安 バ ラ ン ス .74 .61 .57 .57 .56 .47 .56 .63 .44 .47 .41 運 動 統 合 人 間 形態(適切性) .86 .62 .59 .44 .44 .81 .42 .50 .40 形態(良形体) 動 物 色 彩 .87 .57 -.49 .85 .37 .45 病理的言語 性 的 抽 象 -.83 -.66 -.60 .73 .45 .54 拒 否 反 応 時 間 .73 .60 .61 .38
(1961)でも正常人と患者群との識別はでき ておらず、「形態性(良形体性)」は臨床的な 診断においてはあまり重要な指標とは言えな いであろう。「空白」は頻度の低い反応であ るために有意差が認められなかったと思われ る。「空白」はロールシャッハテストでは、 「懐疑すなわち自己自身の考え方に対する抵 抗の反映 である」(Rapaport, Schafer, & Gill,1946)や、「多くの空白を示す被検者は、 彼自身の強さと個性に自信を持っている」 (Brussel, Hitch, & Piotrwski,1950) など の解釈があり、その診断的意義はきわめて注 目されている。HITでは両研究において重 要な指標となるような結果は認められなかっ たが、ロールシャッハテストの解釈を参考に するのであれば再度研究する価値がある。 「動物」はロールシャッハテストではステレ オタイプの指標と考えられおり、HITでも 臨床的な診断において有意な指標とは認めら れなかったため、むしろ人格査定に利用する 方がふさわしいと思われる。 本研究においては両群間に有意差が認めら れていないが、Holtzman, et al.(1961)で は差が認められた変数は「拒否」「反応領域」 「濃淡」「運動」「人間」「不安」「敵意」「バリ ア」「透視」「平凡」であった。「拒否」は本 検査における患者の病態が比較的安定してい たために両群で差が認められなかったと思わ れる。「反応領域」は「拒否」の際に反応領 域を0とスコアとすることの影響があったと 考えられる。また「濃淡」に関して本検査と 先行研究が異なった原因として、患者群は 「色彩」と同様に、主決定因として「濃淡」 を利用し、それにより「形態性(適切性)」 を低下させていたが、大学生は明細化として 「濃淡」を利用していたためと考えられる。 なお「濃淡」はロールシャッハテストにおい ては細分化して解釈されており、たとえば材 質反応に対しては「愛情欲求」(Klopfer & Kelley,1942)、「抑制や統制の働きと関係」 (Piotrowski,1957)、「 不安準備性の指 標」 (片口,1982)などとされている。また通景反 応に対して「劣等感の指標」、拡散反応に対 しては「漠然とした不安の反映」などの解釈 があるが、HITにおいてはこれらの反応は 全て1つの変数として捉えられており、細分 化 さ れ た 解 釈 は さ れ て い な い 。 ま た 、 Holtzman, et al.(1961)ではロールシャッ ハテストにおける知的水準の高さと「人間」 反応との関連の仮説通りの結果が出ているが、 本検査においてはその仮説は検証できなかっ た。この他にも「人間」反応は他人に対する 関心や感受性を反映すると解釈されており、 臨床診断だけでなく人格査定においても重要 な変数であろう。また「運動」はロールシャッ ハテストにおける M・FM・mがHITではす べて1つの変数としてスコアされるため、知 的水準と関連づけた解釈はできなかった。も し本当にHITがロールシャッハテストの解 釈に準拠して作成されたテストであるならば、 「濃淡」「運動」「人間」のような変数は臨床 的な診断においても、また人格査定において も極めて重要であると思われるので、さらに 多くのデータを収集した上で、今後この結果 が日本とアメリカとの文化差によるものであ るのか、HITの仮説に問題があるのか、年 代の差であるのか、などの検討が必要とされ る。 「不安」と「敵意」については、分裂病患 者の方が妄想や幻覚などによって不安や敵意 を示すことが多いであろう、という仮設を立 てていたが、本検査においてはその仮説は検 証できなかった。先に述べたように本研究に 協力してくれた分裂病患者は病歴が10年以上 の慢性状態であったため、すでに検査に現れ るほどの興奮状態は沈着し、感情が平板化し ていた可能性がある。またHoltzman, et al. (1961)においては大学生の方がそれらの反 応を多く与える傾向が認められたが、「不安」 や「敵意」と定義されているプロトタイプの 中で、日本人が日常考える限りにおいては理 解しがたいものもあった。日本において標準 化する際には日米間の文化的なプロトタイプ の差についての研究も必要である。
「バリア」と「透視」においては、ロール シャッハテストでは身体像境界得点として解 釈 さ れ る 研 究 が 多 く 見 ら れ て い る 。 Cleveland & Fisher(1954)はリューマチ性 関節炎患者の行動と空想の研究を行い、個々 人が身体の表面について持っている印象や態 度がロールシャッハテストの反応内容に投影 される、という着想を得、この発見に基づい てバリアと透視という変数が開発されている。 しかしHITにおいてはロールシャッハテス トに準じた解釈以上にはまだこの変数の解釈 についての研究はほとんど行われていない。 Holtzman, et al.(1961)では大学生の方が この2つの反応を多く示す傾向が認められた が、「透視」においては正常な他の群は低得 点を示していたため、ロールシャッハテスト において検討されている他にHITにおける これらの変数の解釈を再考する必要があろう。 「平凡」反応はロールシャッハテストの解釈 に沿うならば、本来なら本検査において大学 生と分裂病患者群との間で有意差が認められ るべき変数である。やはりこの結果も文化差・ 時代差の影響と、患者群の数が少ないことが 影響したと考えられる。 2.因子構造 因子分析の結果、5因子が抽出された。 第1因子は「透視」「敵意」「解剖」「不安」 「バランス」 の5変数から成り、「敵意」 や 「不安」などの概念を伴う解剖的表現を用い て対称性を示す因子である。つまりほぼ左右 対称であるインクブロットの説明として、何 かを半分に切り開いたという反応を与えたも のであり、このような反応には同時に血や内 臓な どが 付 随し てい るこ と が多 かっ た。 Holtzman, et al.(1961)においてはこの因子 に相当する因子は検出されておらず、本検査 に限れば日本において独特なものである。 第2因子は「運動」「統合」「人間」「形態性 (適切性)」「敵意」などの因子から成り、知 覚的な発達や統合された観念活動、すなわち ロールシャッハテストで言うところの知的水 準の高さを表していると思われる。 これは Holtzman, et al.(1961)の第1因子にほぼ相 当している。 第3因子は先行研究の第2因子にほぼ相当 しており、外的刺激に対する知覚の方法を表 している。この因子は「形態性(良形体性)」 「動物」「色彩」によって定義されている。形 態がより副次的な役割を果たすほど色彩が決 定因として重要性を増すということである。 第4因子は「病理的言語表現」「性的」「抽 象」「形態性(適切性)」から成り、思考過程 の障害や現実吟味能力の欠如を示す因子であ る。Holtzman, et al.(1961)における第3因 子にほぼ相当している。 第5因子は先行研究の第5因子にほぼ相当 しており、反応時間と反応の種類を示す軸で ある。この因子は「反応時間」「拒否」によっ て定義されている。「拒否」反応を与えるた めには「反応時間」を長く必要とするという ことであろう。 なおHoltzman, et al.(1961)ではこの他に 「反応領域」と「形態性(適切性)」によって 定義される第4因子と、「空白」「解剖」「性 的」「抽象」「透視」「バランス」によって定 義される第6因子が検出されたが、第4・5・ 6因子ははっきりとした傾向が認められない として、明確な因子名は付けられていない。 以上の結果から本研究とHoltzman, et al. (1961)における因子分析でかなり共通の因子 が導かれ、HITの交差的妥当性が一部検証さ れたと言える。
5.今後の課題
本研究はHITの日本における標準化のた めの予備的研究であり、少数の被検者を対象 としてデータを収集した。今後標準化を試み るのであれば、より幅広い多数の被検者群を 対象として研究を進めるということは自明の 理である。またその際には、時代差や文化差 なども考慮し、特に「敵意」「不安」「平凡」 の3変数ではスコアリングの内容においても 日本独自の基準を設ける必要があることが本 研究の結果からも示唆されている。今まで様々なインクブロットテストが開発 されてきたが、いずれもロールシャッハテス ト以上にはなりえなかった。HIT自身の誕 生は古いが、やはり他のインクブロットテス ト同様、活用される機会は多くなかった。し かしコンピュータによる統計的な処理能力が 大幅に向上している現代こそ、むしろ投影法 を計量的に取り扱うという手法が有効に活用 できると思われる。今後より簡便な施行法や 採点法を開発することにより、HITはロー ルシャッハテストと異なる、独自の地位を築 く可能性が期待されよう。
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