「迷 走 す る民 主 主 義 」
土
井
泰
彦
民 主 主 義 諸 国 の 政 治 は 、 国 民 の信 任 の 基 盤 が 限 られ た もの に な り、 指 導 性 が低 下 して くる場 合 が 多 く、 この 点 で も迷 走 の傾 向 を示 して い る。 政 党 政 治 の低 迷 や 政 府 の 指 導 力 の欠 如 とい っ た点 で 、 政 治 が 国 民 の 関 心 を つ な ぎ と め られ な くな って い る の は 、 日本 だ け の 現 象 に と ど ま らな い。 ア メ リカ も ク リソ トソ大 統 領 の 不 倫 もみ 消 し疑 惑 で 大 統 領 の指 導 性 が あ らた め て 問 わ れ て い る。 イ ギ リス で は 労 働 党 政 権 を率 い る ブ レア首 相 の人 気 が例 外 的 に 高 い とは い え、 ヨー ロ ッパ で も政 治 が国 民 の 関 心 を繋 ぎ止 め るの は ど の 国 に と って も容 易 で は な い 。 日本 で は 、 国 家 権 力 の最 高 機 関 で あ る議 会 に代 表 を送 る た め の肝 心 要 の 選 挙 に対 す る関 心 の 低 下 が問 題 とな った 。1996年 の 総 選 挙 の投 票 率 は60%を 割 り込 み 、 戦 後 最 低 で あ った 。 参 議 院 議 員 選 挙 と な る と さ ら に関 心 が 薄 れ 、1995年 に は選 挙 区 の選 挙 で45%を 下 回 った 。 経 済 不 況 の 中 で の 1998年7月 の 参 院 選 で は 、景 気 対 策 や減 税 な どの 切 実 な 問 題 が争 点 とな り、 また 投 票 時 間 を 延 長 した こ と もあ って 、 投 票 率 は58%台 に達 した が 、 国 政選 挙 の低 落 傾 向 に これ で 歯 止 め が か か った か ど うか は速 断 を 下 せ な い。 他 方 、 ア メ リカ に お い て も最 も関心 を 集 め る大 統 領 選 挙 で 、1997年 の 投 票 率 は50%の 線 を僅 か な が ら に せ よ割 り込 ん で しま っ た。 投 票 所 へ 行 く意 思 が 色 々 な理 由が 重 な り削 が れ るか らで あ ろ う。 政 治 の困 難 な 状 況 に つ い て は 、 色 々 な 側 面 が取 り上 げ られ て い る。 日本 政 府 の リー ダー は 語 る べ き言 葉 を 失 い 、 顔 が見 え な い とい うの も こ の 類 で あ ろ う。 「政 府 ・自民 党 は … 」 と か 「政 府 ・与 党 は … 」 と い う出 だ しか ら始 ま る 日本 の 政 治 ニ ュー スか ら もわ か る よ うに、 内閣 が国 会 に法 案 を 提 出 した り、重 要 な政 策 を打 ち出 す と きは 与 党 の事 前承 認 を と る こ とが 慣 行 で あ る。 そ こに は な か な か 指 導 者 の 顔 は 見 え て こな い。 議 会 主 義 の母 国 と い わ れ る イ ギ リス で も、1970年 代 の 労 働 党政 権 の 時 代 に は政 府 は い わ ゆ る根 回 しに 追 わ れ て い た 。 何 か に つ けて イ ギ リス病 が 取 り沙 汰 され た 時 代 で あ る。 まず イ ソ フ レ退 治 の た め に泣 く子 も黙 る とい わ れ た 労 働 組 合 の 協 力 を取 り付 け る こ とが 最 大 の 課 題 と され た。 経 済 基 本政 策 を 国 会 で 立 法 化 す る さい に は 、 政 府 は労 働 組 合 や 産 業 界 な ど と必 ず 事 前 の調 整 を行 い、 ま た 与 党 内 の左 派 に も根 回 しを した。 この 労 働 党 政 権 の コ ソセ ンサ ス型 デ モ ク ラシ ー は 、肝 心 の 議 会 の 審 議 を な い が しろ にす る も の で 、 指 導 者 の 責 任 も水 面 下 に 隠 れ 、 民 主 主 義 の本 旨 に も と る と い う こ と で批 判 され 、2大 政 党 間 の争 点 と もな った 。 や が て 労 働 党 政 権 は大 差 で 選 挙 に破 れ る に至 った 。 ア ソ グ ロサ ク ソ ソの 政 治 哲 学 で は コ ソ セ ンサ ス型 政 治 運 営 は 不 評 で あ り、 ア メ リカ の 大 統 領 は 多 弁 で あ る。 大 統 領 は 国 の 内外 に`顔 を ア ピー ル す る こ と が仕 事 だ が 、今 日で は 、 そ の 指 導 性 に つ い て 疑 念 を抱 か れ て い る。 ニ ク ソ ソ 、 フ ォー ド、 レー ガ ソ3代 の共 和 党 大 統 領 の 補 佐 官 な ど を勤 め た 後 、第1期 ク リソ トソ政 権 の顧 問 に迎 え られ た デ ー ビ ッ ド ・ガ ー ゲ ソ氏 は 、「過 去20年 間 大 統 領 の 権 限 は間 違 い な く衰 退 して い る と思 う。 米 国 や 欧 州 、 日本 の よ うな 民主 主 義 国 家 を統 治 す る の は ます ます 難 し くな って い る」 と悲 観 的 で あ る。 この よ うな民 主 主 義 諸 国 の政 治 の指 導 性 の 低 迷 は ど こ か ら くるの か、 民 主 主 義 の将 来 は ど うな る の か 、 次 の世 紀 を前 に して 思 い め ぐ らせ て お きた い。 各 国 に 固 有 な要 因 は別 と して 、 で き る だけ共 通 と見 られ る もの を取 り上 げ て み よ う。 た だ しそ れ らは 相 互 に関 連 しあ って い る こ と も また 事 実 で あ る。 第1に 、 公 人 と い わ れ る政 治 家 の プ ライ ベ ー トな 内 面 が す べ て 白 日の下 に さ ら され 、 政 治 家 の カ リスマ 性 が 失 われ て しま った こ とで あ る。 人 間 は誰 しも表 に 出 した が らな い一 面 が あ る もの だ が 、 政 治 家 が権 力 に近 づ け ば近 づ くほ ど プ ライ ベ ー トな 生活 は 認 め られ ず 、 ま るで 衣 服 を あ らた め られ る よ うに ポ ケ ッ トは探 られ 、 裏 の裏 まで ひ っ く り返 され 、 洗 い ざ らい吟 味 され る。 錬 金 術 や 破 廉 恥 な行 為 、 税 金 逃 れ 、 ひ い て は モ ラル か ら逸 脱 しそ うな 微 妙 な行 為 な どの痕 跡 が 見 つ か れ ば 、 国 民 を統 合 させ て い く政 治 家 と して の能 力 に失 格 の烙 印 を押 され そ うに な る。 国 民 が人 工 培 養 され た 政 治 家 の 虚 像 を求 め る と き、 首 相 や 大 統 領 の よ うな指 導 者 は 仮 面 を つ け る。 レー ガ ソ大 統 領 は か っ て 米大 統 領 は映 画 俳 優 で な け れ ば つ と ま らな い とい った こ と が あ る。 指 導 力 も演 出 家 の腕 次 第 で 出来 不 出 来 が決 め られ て し ま う場 合 も あ ろ う。 ジ ャー ナ リス トの倫 理 追 求 の 動 き は しば しば 報 じ られ るが 、 な か に は 首 を か しげ た くな る もの もあ る。 例 えば 、 次 期 米 大 統 領 選 の 民 主 党 最 有 力 候 補 と 目 され る ゴ ア副 大 統 領 の 慈 善 団 体 へ の寄 付 が一 般 市 民 の平 均 を大 き く下 回 って い る と い う批 判 で あ る。 ワ シ ソ トソ・ポ ス ト紙 の コ ラ ム ニ ス トに よれ ば 、 ゴ ア と ク リソ トソ の寄 付 額 の 差 は普 通 の政 治 家 と天 性 の 政 治 家 の 差 を 指 し示 す もの だ とい う。 ゴア 副 大 統 領 は 普 通 の政 治 家 と して 片 づ け られ た 。 民 主 主 義 の社 会 とい え ど も、 自由 で あ るべ き個 人 の 判 断 や もの の考 え か た な ど に何 か と落 と し穴 が仕 掛 け られ る。 税 の 確 定 申告 に つ い て も、 政 治 家 は仮 面 を つ け る こ と に な るだ ろ う。 ジ ャー ナ リス トた ち は 、 よそ ゆ き の仮 面 や虚 艨 を剥 ぐ こ とに ます ます 熱 心 に な り、 この 悪 循 環 は 国 民 の 政 治 に 対 す る関 心 を決 定 的 に そ い で し ま う結 末 と な る。 第2は 、 政 党 政 治 か らエ ネ ル ギ ー を引 き出 して きた の は これ ま で 国益 や 国 防 問 題 で あ った が、 そ う した事 情 が 微 妙 に変 化 した こ とで あ る。 国 家 の安 全 の 基 本 方 針 に つ い て 政 党 が そ の政 策 を提 示 し うる能 力 は ま す ます 狭 め られ て き た。 民 族 国 家 の 対 立 の 進 展 した 戦 間 期 に お い て は 、政 党 の 権 力 闘 争 は 国 益 と国 防 を め ぐ る論 争 を軸 に展 開 し、 そ れ な りの 関 心 を 国 民 の 間 に 引 き起 こ した 。 日本 に お い て も、 ワ シ ソ トソ軍縮 会 議 や ロソ ドソ軍 縮 会 議 で 国 論 の 分 裂 した1920年 代 や30年 代 前 半 に は 、 大 国 間 の 海 軍 力 の 比 率 を め ぐっ て 政 治 的 緊 張 が走 った 。25歳 以 上 の男 子 の 普 通 選 挙 の 実 現 した1925年 の 総 選 挙 で は 、 そ の 投 票 率 は80%を 僅 か に超 え 、 そ れ な りに高 率 で あ っ た。 そ して敗 戦 後 、 連 合 軍 に よ る 占領 下 の1946年 の 総 選 挙 で は 、20歳 以 上 の 男 女 に よ る普 通 選 挙 が実 現 した が 、投 票 率 は72%へ と 低下 した 。 戦 後 の 冷 戦 期 に お い て も、 米 ソの対 立 、 自衛 権 や 集 団 安 全 保 障 の あ り方 を め ぐって政 治 的 緊 張 が 継 続 し、 日本 で は総 選 挙 で70%程 度 の 投 票 率 を維 持 して きた が 、 ポス ト冷 戦 期 に お い て は 、 ア ジ ア に お け る緊 張 は ゆ るみ 、 安 全 保 障 や 国 防 の あ り方 を め ぐる政 党 の配 置 図 の 色 分 け もは っ き り しな くな っ た。 国 益 の ア クセ ソ トに 限 界 が生 じ、 そ れ に伴 って 政 党 は安 全 保 障 と の 関 わ りで 独 自性 を追 求 す る こ と が極 め て む ず か し くな っ た。 権 力 闘 争 の 焦 点 が 見 え に く くな っ た の で あ る。 さ らに視 点 を 変 え て み よ う。 民 主 主 義 体 制 の 土 台 で あ る議 会 主 義 と政 党政 治 に活 力 を提 供 し続 け た もの は 、19世 紀 か ら20世 紀 に か け て は階 級 対 立 や 民族 国 家 の 対 立 で あ った とみ る こ と もで き る。 そ して そ の対 立 は揺 る ぎの な い 国 家 主 権 を 前 提 とす る もの で あ っ た。 非 常 時 に は 国家 防 衛 の 掛 け声 の 中 で 政 党 や 政 治 勢 力 は階 級 対 立 や 利 害 対 立 を 一 時 的 に棚 上 げ した り した が、 嵐 が過 ぎ去 る と政 党 は 、 そ の 政 治 的 イ デ オ ロギ ー に沿 っ て そ れ ぞ れ の 支 持 組 織 に足 を 踏 ま えて 権 力 闘争 を激 化 さ せ た 。 第2次 大 戦 後 も冷 戦 体 制 の 中 で 、 政 治 的 イ デ オ ロ ギ ー の 色 分 け に そ っ て再 編 成 され た
政 党 は 、従 来 か らの 国家 主 権 を前 提 に 、 また米 ソ2極 体 制 の 枠 組 み に守 られ な が ら権 力闘 争 を行 っ て きた 。 しか し冷 戦 が 終 わ る と、 政 党 の権 力 闘争 を外 側 か ら防 護 す る役 割 を 果 た して きた2極 体 制 が崩 壊 した うえ 、 国 家 主 権 の壁 も隙 間 だ らけ に な り、 国益 も国 防 も権 力 闘 争 のた め の 十 分 な条 件 を備 えた 用 具 に な りに く くな って しま った 。 国 家 主権 を前 提 に した イデ オ ロギ ー対 立 の 時 代 に は 、有 権 者 は 自分 の嫌 悪 す る対 立 陣 営 の 政 党 に票 を と らせ な い た め に 、投 票 所 に足 を運 ば なけ れ ば な らな い こ と もあ った。 しか しイ デオ ロギ ー の対 立 が 埋 没 した時 代 に は 、 マ イ ナ ス の意 思 表示 の た め に投 票 所 に わ ざ わ ざ行 く動 機 が起 こ らな い。 よ ほ ど プ ラス評 価 の 意 思 表 示 の 意 思 の な い か ぎ り、棄 権 の 行 動 を と る こ と が多 い。 さ ら に最 近 で は 、世 論 調 査 が選 挙 結 果 につ いて か な り正 確 な事 前 予 測 を 行 う こと が で き る よ うに な り、 特 定 の政 党 や 候 補 の圧 倒 的 な 優 勢 が 次 々 に伝 え られ る と有 権 者 は 投 票 所 に足 を運 ぶ 強 い動 機 を 持 ち に くくな る。 ま た 自国 の経 済 運 営 の 選 択 の幅 も狭 ま り、 さ らに は 生 活 上 の危 機 感 が 薄 れ て い る と 投 票 の 動機 は積 極 的 な もの を 持 た な くな る。 国民 が 国 家 運 営 を と もにす る参 加 民 主 主 義 は 形 骸 化 して くる要 素 を か か え た 。 戦 後 の 日本 の場 合 を検 証 して み て 、 政 党 政 治 が活 力 ら しき もの を もっ た の は 、 皮 肉 な こ とに 冷 戦 下 の55年 体 制 の時 代 で あ っ た とい う こ と が い え るか も しれ な い。1カ 2分 の1政 党 制 と い わ れ た 自民 党 の万 年 与 党 と社 会 党 の万 年 野 党 の定 着 した い わ ゆ る55年 体 制 下 で は 、 少 な く と もそ こに は 政 治 体 制 を判 断 す る上 で 価 値 の問 題 が 論 じ られ 、 イ デオ ロギ ー の 対 立 と い う緊 張 感 が あ った 。 冷 戦 後 に お いて は我 が 国 の 変 則 的 な 「55年体 制 」 は1993年 に崩 壊 した 。 東 西 対 立 と イ デ オ ロギ ー 対 立 の 世 界 の 図式 は 消 え 去 り、 グ ロー バ リゼ イ シ ョソの進 む 中 で 国 境 の 壁 は低 くな り、 い わ ゆ る相 互 依 存 の 関 係 が推 し進 め られ た。 この な かで イ デ オ ロ ギ ー対 立 や 国 家 主 権 に過 度 の ア クセ ソ トをお く必 要 の生 じた 国 際 環 境 は崩 れ 去 り、 政 治 の あ り方 に も変 化 が 迫 ら れ た とい うこ とが で き る。 民 主 主 義 の低 迷 の 背 景 の 第3の 要 因 は 、 い わ ゆ る経 済 の グ ロー バ ル ・ス タ ソ ダー ドと の 関 係 で あ る。 グ ロ ー バ ル ・ス タ ソ ダ ー ドつ ま り国際 標 準 と呼 ば れ る経 済 の国 際 的 な ル ー ル が 国 家経 済 の 運 営 に 変 革 を迫 り、 一 国 の み の経 済 政 策 の 限 界 を 明 らか に した 。 この こ と も政 治 の 指 導 性 に 刃 を 突 きつ け て い る。 と くに国 際 資 金 の 自由 な 移動 は国 家 主 権 の壁 を突 き崩 した 。 ア ジ アの通 貨危 機 も この こ と を 人 々 に認 識 させ た。 一 国 の 政 治 的 ・経 済 的 ・社 会 的 不 安 定 の 指 標 で もあ る カ ソ ト リー ・リス クが 高 ま れ ば 、投 下 さ れ て い た 国 際 資 金 は潮 が 引 くよ う に引 き揚 げ られ て しま う。 そ の 国 の為 替 相 場 は 下 落 を続 け 、 企 業 の資 産 も 目減 り し、株 価 は下 が り、 失 業 者 が盗 れ る こ とに もつ な が る。 金 融 危 機 に 陥 った 国 が貿 易 を 維 持 で きる よ うに 支援 す る役 割 を担 ったIMFの よ うな 国際 機 関 も乗 出 し、 経 済 ば か りで な く政 治 の 改 革 を は か るた め の 制 度 的 手 直 しが 求 め られ る。 クー デ ターや 革命 や 騒 乱 で 政 府 の 転 覆 を は か る よ り も確 実 に基 本政 策 の 変 更 へ の圧 力 が か け られ や す い 。 そ こに は 政 府 や政 党 な どの 政 治 勢 力 が 独 自の政 策 を追 求 す る余 地 は ほ とん ど な い。 イ ソ ドネ シ ァの 経 済 危 機 へ の対 応 で は 、工MFは そ の金 融 支援 と引 き換 えに 、補 助 金 の撤 廃 を 要 求 した り、経 済 の 中 枢 を権 力者 の家 族 や 取 り巻 き で 固 め る ク ロー ニ ー(取 り巻 き)資 本 主 義 の 矛 盾 に も メ ス を 入 れ よ う と した。30年 間 もの 長 期 政 権 で 権 力 を 固 め て きた ス ハ ル ト大 統 領 の 支 配 体 制 に は 、 国 内 の 野 党 勢 力 も無 力感 を い だ い て い た の だ が 、 そ の不 動 の 体 制 を つ き くず し、 ス ハ ル ト退 陣 の 道 を つ け た の が い わ ゆ る グ ロー バ ル ・ス タ ソ ダー ドで あ る。 工MFの 金 融 支 援 の 画 一 的 な 条 件 に は ア メ リカ国 内 か ら も批判 の 声 が あ る に せ よ、 当 の イ ソ ドネ シ ア が 内政 千 渉 と して 排 除 で
き な い側 面 の あ る こ と も事 実 で あ った。 一 国 の経 済 力 を 国 際 的 に比 べ る こ と にで き る経 済指 標 が定 期 的 に 発 表 され る こ と も、 国 際 的 視 野 か らの政 府 の勤 務 評 定 に な っ た。 そ の 指 標 とは 、 実 質 国 内 総 生 産 、 経 済 成 長 率 、 イ ソ フ レ率 、 失 業 率 、 国 際 収 支 、 為 替 レー トとい った 国 家 経 済 の体 力 診 断 で 出 され る基 本 的 な 数 字 だ が 、 そ れ らば か りで は な くな った 。 最 近 で は株 価 や 国 債 の 取 引 き価 格 、基 準 地 価 、税 率 や 直 接 税 の 比 率 、 金 融 機 関 の 不 良債 権 、 株 主 資 本 利 益 率 、 国 の 長 期 債 務 残 高 、 国民 負 担 率 、対 外 資 産 や 負 債 、 企 業 の倒 産 件 数 な ど 国民 の お かれ た実 質 的 な経 済 的環 境 を 示 す 指 標 が 国 際 的 にず らず らと並 べ られ 比 較 され る よ うに な った 。 これ に 対 応 す るか た ちで 国 民 が政 治 を ど うみ るか の 指 標 も公 表 され る。 政 府 が 有 権 者 か ら も ら う通 信 簿 の 内 容 は 、 世 論 調 査 に基 づ く内 閣 支 持 率 、 政 党 支 持 率 、 首 相 支 持 率 な ど な ど で あ る。 こ う した指 標 が世 論 の 圧 力 の 中 に組 み込 まれ 、 政 府 や 政 治 指 導 者 の 指 導 力 に制 約 を与 え 、政 治 運 営 で も身 動 き を と れ な くさせ る こ とが 多 い 。 日本 で も、 政 府 の経 済 運 営 に 関 す る勤 務 評 定 の 数 字 が こと ご と く低 い上 、 野 党 の 対 策 とて期 待 で きな い こ と か ら、 政 府 や 首 相 の支 持 率 はむ ろ ん の こ と 政 党 に 対 す る期 待 感 が 著 し く減 少 した 。 新 聞 の世 論 調 査 をみ る と、 支 持 政 党 を 持 た な い有 権 者 、 い わ ゆ る無 党 派 層 が 有 権 者 全 体 の過 半 数 を 占 め る勢 い で あ る。 第4の 民 主 主 義 め 低 迷 の背 後 に あ る要 因 と して 、 政 党 の再 編 成 の む ず か しさ が あ る。 政 党 の離 合 集 散 は 社 会 の価 値 観 の多 様 化 や世 代 の変 化 に 対 応 す るか た ち で 進 み 、 政 権 を と るた め の 政 党 の 組 み 合 わ せ は 多様 に 変 化 した。 有 権 者 の政 党 に 対 す る理 解 も容 易 で は な くな っ た。 日本 で は政 党 の部 分 的 な分 化 が 進 み 、 主 要 政 党 の 数 が今 い くつ あ る の か 、前 身 が ど の 政 党 で あ った か な ど は 、 もは や 判 断 で きな い の が普 通 で あ る。 政 権 を と るた め の政 治 は あ る程 度 わ か りやす くな け れ ば 、 有 権 者 は投 票 動 機 を もち え な い 。 ヨ ー ロ ッパ 大 陸 の多 くの 国 で 、 戦 時 中 に レ ジス タ ソ ス の役 割 を 果 た した キ リス ト教 勢 力 が 政 党 を結 成 し、 人 道 的 ・中 道 的政 策 の 促 進 役 と して 連 合 政 権 を樹 立 す る場 合 の 核 に な って きた が 、 この 事 情 も変 化 した 。政 治 勢 力 の 多 様 化 と キ リス ト教 の 影 響 力 の 限 られ て き た こ とで 、 キ リス ト教 政 党 が政 権 党 の 核 で あ りつ づ け る こ とは 不 可 能 と な っ た。 政 党 の イ デ オ ロ ギ ー の 濃 淡 に した が った ベ ク トル の よ うな配 置 図 の な か で 中 央 に位 置 した キ リス ト教 政 党 の 後 退 は 政 党 分 化 の 流 れ の 中 の1つ の 特 色 で あ る。 日本 の 公 明 党 は ヨー ロ ッパ の キ リス ト教 政 党 の よ うな役 割 を果 た す こ と はで きな か った 。 わ が 国 の 場 合 、政 党 の 歴 史 や そ の 政 治 姿 勢 は きわ め て わ か りに くい。 平 時 で あ る と は いx、 政 治 姿 勢 や 政 治 思 想 の 異 な る政 党 が 大 連 合 を組 み 、他 の 政 党 は強 力 な野 党 第1党 に なれ ず 、離 合 集 散 を繰 り返 した。 そ う した 政 治 の わ か りに くさ に加 えて 、 汚 職 の 根 絶 や 政 治 改 革 の進 ま ぬ な か で 、若 い 層 も高 学 歴 層 も政 治 的 関心 を失 っ て い る とい う状 態 が続 い て い る。 民 主 主 義 の低 迷 は 、 高 学 歴 層 が 政 治 的 関 心 を回 復 させ て い な い と こ ろ に そ の 深 刻 な問 題 点 が あ る。 第5の 要 因 と して 、 官 僚 主 義 の 問題 を 挙 げ な け れ な る ま い。 効 率 的 か つ 開 か れ た官 僚 制 度 は 民 主 主 義 の 国 に と り不 可 欠 な もの で あ る。 税 金 や年 金 、 社 会 保 障 の 合 計 が 国 民 所 得 に 占 め る割 合 つ ま り国 民 負 担 率 は 、 先 進 工 業 国 で は お しな べ て 高 い の だ か ら、 官 僚 の サ ー ビス の量 や 質 の 面 が 問 題 に さ れ るの は 当然 で あ る。 国民 負 担 率 の 最 も高 い 国 で は ス ウ ェ ー デ ソの よ うに67%を 超 え70% に近 づ こ う と して い る。 日本 で も1998年 度 に は38%を 超 え る見 込 み で あ り、 赤 字 国 債 の 比 率 まで 考 慮 に入 れ る と50%を 超 え る とい う。 この よ うに 国 民 に 高 負担 を求 め る先 進 工 業 国 の 場 合 に は 、
官 僚 の機 能 も ま た広 範 囲 に 及 んで く る。 官僚 が権 益 や組 織 の 肥 大 化 な どを は か った 場 合 は、 国 民 の 自 由 は種 々 に 制 限 され るで あ ろ う。 そ の裏 返 し と して 、政 府 や 行 政 に 監視 や 不 信 の眼 が光 る こ と に な る。 そ して 官 僚 に 対 す る不 信 の念 は 、 政 治 に対 す る不 信 感 と な って は ね か え って くる場 合 が 多 い。 官 僚 体 制 が変 わ らぬ か ぎ り、 だ れ が 政 治 の指 導 者 に な って も同 じと い う庶 民 感 情 で あ る。 日本 の場 合 に は 、 中央 官 庁 の 事 務 の ト ップ の集 ま る事 務 次 官 会 議 で 全 会 一 致 で 決 ま っ た こ とだ け が 、 閣 議 に か け られ る とい う不 文 律 が あ る。 この 点 か ら も首 相 や 政 党 の指 導 力 は ご く限 られ た もの に な り、 官 僚 の政 治 に お け る優 位 性 が 浮 か び上 が る。 日本 の 合 意 優 先 の コソ セ ソ サ ス型 の 民 主 主 義 は 、 官 僚 の コ ソセ ソサ ス型 民 主 主 義 に た ど りつ く。 日本 の 元 外 相 が ジ ョー クだ と断 っ た上 で 、 日本 の 指 導 者 は ポ リテ ィカル ・リー ダー つ ま り政 治 指 導 者 で は な く、 合 意 の で き上 が る まで 待 つ ポ リテ ィ カル ・ウ ェイ タ ー と述 べ た の は 、 日本 の政 治 や 民 主 主 義 の根 幹 を う ま く表 現 して い る。 さて 最 後 に第6の 要 因 と して 取 り上 げ た い の は 、経 済 の ボー ダ レス化 とオ ソ ラ イ ン化 した 一 般 大 衆 の存 在 との 関 係 で あ る。 ア メ リカ で は40%の 家 庭 に 少 な くと も1台 の パ ソ コソ が入 り、 全 家 庭 の25%が ネ ッ ト上 に つ な が っ た。 日本 もそ う した 時 代 に入 りつ つ あ る。 イ ソタ ー ネ ッ トの 時 代 は 国 や 地 方 の 境 界 、商 標 、 商 業 活 動 の 区 別 な ど あ らゆ る既 成 の 境 界 線 を 溶 解 させ は じめ た。 メー カー の定 め た 販 売 担 当 区 域 も消 え去 って しま う。 また ネ ッ トは価 格 競 争 や 取 引 き の うえ で の 簡 素 化 を可 能 に し、 価 格 破 壊 に つ な が った。 販 売 手 数 料 の 引 き下 げ 競 争 は至 る所 で み られ る。 外 国 の 書 籍 を高 い 値 段 を払 っ て 書 店 に注 文 しな くて も、 イ ソ ター ネ ッ トで 従 来 よ りは る か に安 く注 文 す る こ と が で き る。 一 般 大 衆 が オ ソ ライ ソ化 さ れ た の で あ る。 国 内企 業 の 多 くは広 い 視 野 や 国 際 的展 望 な く して は 競 争 か ら脱 落 し、 生 き残 れ な くな った 。 ま た 異 業種 の企 業 が接 近 し、 相 互 に提 携 しなけ れ ば生 存 を計 れ ない とい う こ と も現 実 と な って い る 。 経 済 活 動 は 、 国 家 の壁 を 資 金 面 で も業 種 間 の 提 携 の 意 味 で も、 乗 り超 え る こ と が 当 た り前 に な っ て しま っ た 。 つ ま り国 内 の 政 治 の枠 組 み を乗 り超 えて い るの で あ る。 こ う した こ と は政 治 の 分 野 に つ い て も影 響 を 与 えず に はい られ な い 。 ホ ワイ トハ ウス に も ダ ウ ニ ン グ・テ ソ に も、 永 田 町 の 首 相 官 邸 へ も我 が家 か らイ ソ ター ネ ッ トで ア クセ ス す る こ とが で き る。 自分 の 好 み の 内 外 の タ レ ソ トに も同 様 に ア ク セ ス し うる。 ま た 選 挙 の候 補 者 や政 党 も ホ ー ム ペ ー ジ を持 ち つ つ あ る。 一 国 の民 主 主 義 に関 す る情 報 が イ ソ ター ネ ッ トで つ な が り、経 済 活 動 が 国 境 な ど の あ らゆ る垣 根 を飛 び超 え、 大 衆 が オ ソ ラ イ ソで 結 ば れ る こ と は 、相 互 依 存 や 相 互 認 識 の 度 合 い を 飛 躍 的 に高 め る こ とに な るが 、 ま た 同 時 に一 国 の政 治 を傷 つ け や す くす る もの で あ ろ う。 オ ソ ラ イ ソ化 した 大 衆 や ボ ー ダ レス経 済 が 、 逆 に安 易 な比 較 を引 出 し、政 治 的 無 感 動 や 無 関 心 を生 み 出 す 可 能 性 は 否 定 で きな い 。 さ て こ こ で 将 来 を展 望 して 民 主 主 義 の 将 来 に つ い て 考 え て み よ う。 第1に 、 国 民 の 高 負 担 が変 わ る状 況 に な い 以 上 、 国 民 が政 治 の 指 導 者 に 身 奇 麗 で潔 白か つ チ ャ ー ミソ グな 政 治 的 顔 を そ の 対 価 と して 求 め る状 況 に変 わ りは な か ろ う とい う こ とで あ る。 した が っ て政 治 家 や そ の指 導 者 が 分 別 以 上 の も の を 要 求 さ れ 、聖 人 君 主 の よ うな 仮 面 を つ け た り、 名 優 の よ うに 振 る舞 わ な け れ ば な ら な い こ と に も変 わ りは な い 。 そ の よ うな条 件 で は平 時 に お い て は首 相 や 大 統 領 の指 導 力 嬉 期 待 で きそ う も な い 。 権 力 闘争 の た め の政 治 家 の 組 織 で あ る政 党 に対 す る評 価 も ます ます 厳 しい も の に な ろ う。
第2に 、 官 僚 に枠 組 み の い い加 減 な裁 量 権 を持 た せ る こ とは 危 険 で あ る と は い え 、行 政 権 に裁 量 を許 さ な い とい うこ と は現 実 の 問 題 と して あ りえ な い か ら、 行 政 権 を め ぐって 政 治 家 と官 僚 の 双 方 が相 互 抑 制 して い く こ とが 必 要 で あ る。 政 治 家 に指 導 力 を期 待 で き な い場 合 は 、官 僚 優 位 の 条 件 に変 わ りは ない と い う こ とに な る。 した が って 、21世 紀 に お い て も政 治 の萎 縮 現 象 は 存 続 す る可 能 性 が 強 い 。 第3に 、 これ まで は議 会 政 治 を動 か して きた の は政 党 で あ っ た が 、 議 会 政 治 を 動 か す 要 素 に グ ロー バ ル ・ス タ ソダ ー ドが加 わ って き た とい う こ とで あ る。 有 権 者 は 政 策 を み て 一 票 を 投 ぜ よ と 教 育 され て きた が 、 そ の政 策 が世 界 的 視 野 や グ ロー バル ・ス タ ソ ダ ー ドつ ま り世 界 的 標 準 か らみ て どの よ うに判 断 され るべ きか と い う こ と も視 野 に 入 れ な け れ ば な ら な くな っ て きた 。 政 治 の 分 野 に して も、経 済 や 社 会 の分 野 に して も、 あ るい は地 域 協 力 に して も、様 々 な国 際 会 議 に 官僚 や 民 間 か らの 出席 者 が 加 わ り、調 整 作 業 が 時 と して 行 わ れ る。 国 内 の行 政 的 な 問 題 に し て も、 治 安 や環 境 、 病 気 の感 染 症 対 策 な ど種 々 の 切 実 な 問 題 で 、 国 際 的 な視 点 か らの 検 討 が加 え られ 、 政 策 決 定 に反 映 され る。 司 法 の面 か ら も国 際 的 な 問 題 が扱 わ れ る。 多 国籍 企 業 な ど は どの 国 の裁 判 所 に 提 訴 す べ きか も判 断 しな け れ ば な らな い し、 司 法 的 な 問 題 も、 国 際 的 な価 値 判 断 や 先 例 の 検 討 な く して は答 え を 引 出 す こと は で きな い 。 グ ロー バ ル ・ス タ ソ ダー ドは この よ う な実 に さ ま ざ ま な 国 際 的 な調 整 を経 て そ の姿 を具 体 的 に 現 した 。 実 は 国 家 主 権 の原 理 が そ の 用 を な さな くな った とい わ れ る よ う に な っ て か ら、 す で に何 十 年 も 経 つ 。 老 れ は 国 際 法 上 の擬 制 で あ る と い う こ と も識 者 に よ っ て指 摘 さ れ て きた が 、 グ ロー バ ル ・ ス タ ソ ダ ー ドと い う時 代 的 な表 現 に よ り、超 国 家 主 義 の 波 が20世 紀 末 に ま た 押 し寄 せ て きた 。 政 府 も政 党 も政 策 決 定 の 自律 的 な組 織 者 と して 国 民 に ア ピー ル す る こ と が む ず か しい時 代 で あ る。 21世 紀 に 入 っ て一 国 の 政 治 体 制 の あ り方 は 、 グ ロー バ ル ・ス タ ソダ ー ドとの 関 係 を問 わ れ 続 け られ そ うだ 。 わ れ わ れ は 、 国 内 の対 立 と分 化 を 一 体 化 す る政 治過 程 の な か で 、 そ れ が世 界 的 に説 明が つ く もの か ど うか を絶xず 問 わ れ る こ と に な る。 民 主 主 義 の 体 制 を と って い て も、常 に そ の 政 治 過 程 や 政 策 決 定 の あ り方 を グ ロー バ ル ・ス タ ソ ダー ドとの 関係 で 批 判 され 続 け 、 政 治 の 指 導 性 は相 変 わ らず 見 え に くい か も しれ な い 。 しか し民 主 主 義 体 制 以 外 に 寛 容 の精 神 を は ぐ くむ政 治 社 会 体 制 は い ま の と こ ろみ あ た らな い し、 自己 の軌 道 修 正 も民 主 主 義 の 体 制 が よ りす ぐれ て い る と考 え られ る。 しか し民 主 主 義体 制 も、表 面 を 繕 った だ け の政 治 で あ れ ば 理 念 と現 実 の 橋 渡 しは なか な か で き に くい。 国 民 の 高 負 担 と政 治 指 導 者 に対 す る超 人間 的 な扱 い も、 民 主 主 義 の前 途 を不 明 に して い る。 国 民 も社 会 的 な変 革 の 中 で 果 た して 自由 な表 現 が で き る か ど うか 、 問 わ れ続 け な け れ ば な ら な い 。 ラ ス キ が1930年 に 『近 代 国 家 にお け る 自 由』 で記 した よ う に、 「デ モ ク ラ シー の 中 に 住 む と い うだ け で 、 普 通 の 人 が幸 福 に な る と は考 え られ な い 」 と い う こ と を玩 味 しな け れ ば な ら な い し、 ま た 同 時 に 「デ モ ク ラ シー な く して は 自由 は あ りえ な い」 とい う こ と も忘 却 す る わ け に は い か な い。 最 後 に 、 民 主 主 義 が道 義 や 正 義 に基 づ い た平 和 を もた らす か ど うか に つ いて も考 え て お か な け れ ば な ら な い。 一 党 支 配 国 家 や 独 裁 国家 よ りは 民 主 主 義 体 制 を と る 国家 の 方 が、 戦 争 抑 止 の た め の チ ェ ッ ク機 能 が働 く とい うこ と は事 実 で あ ろ う。 法 に よ る 支 配 、 三 権 の 分 立 と相 互抑 制 、 複 数
政 党 制 に よ る批 判 勢 力 の存 在 、 表 現 の 自由 や 人 権 の擁 護 、 学 問 や 教 育 の 自 由 な どの仕 組 み に よ る もの だ 。 しか し民 主 主 義 そ の もの は 、 国 家 を 単 位 と した 正 義 や道 義 に 立 脚 し、 国家 権 力 の バ ッ ク ボー ソ と な る基 本 法 を前 提 して い る。 民 主 主 義 の原 理 は あ くま で 国 家 の 政 治 的 仕 組 み で あ り、 そ の 仕 組 み を 国際 社 会 や 国 際 政 治 に そ の ま ま適 用 して 、 国 際 的 な 民 主 主 義 と か国 際 平 和 を 実 現 させ よ うとす る こ とは 、 国 境 の壁 が い く ら低 くな り、 国 家 主 権 の絶 対 性 が 崩 れ て もむ ず か しい。 領 土 の 広 さや 地 勢 、 国 力 、 政 治 ・経 済 ・文 化 の 発 展 の歴 史 な ど は諸 国 家 の 間 で 実 に様 々 で あ るか ら だ。 190力 国 に も達 しよ う とす る 国 々 に グ ロー バ ル ・ス タ ソ ダ ー ドを適 用 す る こと はす ぐに は 現 実 と は な ら な い。 E.H.カ ー は、 第2次 世 界 大 戦 の 口火 が き られ た 直前 の1939年7月 に脱 稿 した 『危 機 の20年 』 の な か で 、 「民 主 的 な 理 性 主 義 を 国 家 的 領 域 か ら国 際 的 領 域 へ 移 し植 え る こと は 予 想 以 上 に 困 難 を と もな っ た」 との べ 、 な ぜ 国 際 連 盟 が機 能 しな くな っ た か に つ い て 解 説 した。 この こ とは ま た 次 の 世 紀 に もま た あて は ま ろ う。 カ ー は 、 第1次 世 界 大 戦 後 の 自 由民 主 主 義 の 理 性 と平 和 の 追 求 を 「ユ ー トピ ア風 料 理 」 と記 した 。 国 際 警 察 隊 とか ヨ ー ロ ッパ 合 衆 国 、 ケ ロ ッグ ・ブ リア ソ協 定 と称 さ れ た不 戦 条 約 な どの ユ ー トピア 的 な料 理 に つ い て は 、 前 の2つ は実 現 され ず 、 不 戦 条 約 も お 題 目を 唱 え る結 果 に 終 わ って し ま っ た。 しか し今 日か ら眺 め る と、 国 際 警 察 隊 はPKO(国 連 平 和 維 持 活 動)に 、 ヨー ロ ッパ合 衆 国 はEU(欧 州 連 合)へ と形 を変 え な が ら、 か って 理 念 だ け に終 わ って しま っ た もの を 現 実 に 具 体 化 して い る。 グ ロー バ ル ・ス タ ソ ダー ド も現 実 に 合 わ せ て 長 い時 間 を か け 部 分 的 に 具 体 化 され て い くの で は な か ろ うか 。 道 義 的 な よ りど こ ろ が国 家 か ら出 発 し国家 に終 わ る こ とは 、21世 紀 に お い て も変 わ りな い と考 え る。 国境 の壁 が 低 くな りは じめ た 冷 戦 後Yrお い て も、 国 際 社 会 が道 義 の 基 盤 を 国 家 に あ る と した 重 要 な事 例 が 生 じた。 ア フ リカ の 角 と い わ れ る ソマ リアの 部 族 紛 争 に 対 して 国 連 が 介 入 を 断 念 しな け れ ば な ら な くな っ た と きで あ る。 国家 の有 効 な統 治 機 構 が部 族 の 武 装 勢 力 の 争 い で 崩 壊 して しま った場 合 に は 、 国連 は平 和 維 持 の 目的 を果 た せ な か った 。 国連 は1992年 か ら3年 ほ ど で ソマ リア に お け る人 道 的 介 入 の活 動 か ら 撤 退 した。1995年 の 安 全 保 障 理 事 会 の 声 明で は 、 国 際社 会 は 紛 争 国 に 解 決 へ の政 治 的 意 思 が 欠 け て い る と き、 国 際 紛 争 を解 決 す る努 力 を続 け る こ と は む つ か しい と して 、究 極 的責 任 が ソマ リア の 人 々 に あ る こ と を指 摘 した。 国 連 は 、 政 府 を 失 った 国(failedstate)は 国 際 社 会 の メ ソバ ー と して の 地 位 を失 って い る と 判 定 した 。 そ して 、 そ の よ うな 国 に効 果 的 な 支 援 を お くる意 思 も、 ま た介 入 の た め の 人 や 物 を お く る用 意 が な い と した 。 この こ と は主 権 国家 が統 治 機 構 と い う独 立 国 家 の要 件 を 失 い 、 そ して こ れ を新 た に 樹 立 し よ うと努 力 しな い場 合 は 、 国連 は こ う した状 態 に対 応 す る メ カニ ズ ム を もって い な い とい う こ と を 明確 に した も ので あ る。 ソマ リア の場 合 、 人 倫 と紛 争 解 決 の た め の ボ ー ル は 再 び 国 際 社 会 の手 か ら混 乱 を極 め る ソマ リ ア に 投 げ か え され た。 国 際 社 会 の 平 和 と安 全 と維 持 の 限 界 を 示 唆 し、理 性 主 義 の 超 え られ な い壁 を 明 らか に した と い っ て も よ い。 国 際 社 会 が 政 府 を 失 っ た 国 家 の 現 象 に 対 応 で きる よ うな新 しい 制 度 を 構 築 で き る の か ど うか 、 こ の課 題 は 次 の世 紀 に持 ち越 され た の で あ る。 今 日、 ダニ エ ル ・ ベ ル の 「国 家 は大 き な 問 題 に は余 りに小 さ く、 そ して 小 さな 問 題 に は 余 りに大 きい」 とい う指摘 や 、 ア ー サ ー ・シ ュ レ ジ ソ ジ ャー の 「民 族 国 家 は効 果 的 な 力 の 単 位 と して は衰 え るの で は な い か」 と い う国 家 の機 能 に制 約 を み る考 え か た は、 各 国 の 市 民 に 実 感 さ れ 、 共 感 され る もの で あ ろ う。 しか しそ れ に もか か わ らず 、 ソマ リアや 旧 ユ ー ゴ ス ラ ビ アの 崩 壊 時 の 悲 惨 な現 実 が歴 史 の教 訓 と
して 取 り上 げ られ る と き に は 、道 義 ・倫 理 ・人 権 と い った理 性 は 国家 に基 盤 を求 め ざ るを え な く な っ た。 民 族 が ば らば らの 領 邦 に 分 か れ 旧体 制 下 に あ った19世 紀 ドイ ツで 、 ヘ ー ゲ ル は 統 一 され るべ き ドイ ツ国 家 に理 性 や 実 質 的 自 由 の源 泉 を求 め た。 ヘ ー ゲル 国家 論 は時 代 の推 移 で博 物 館 入 り して い る が、21世 紀 には 歴 史 的 に 新 た な 意 味 合 い の 生 じて くる可 能 性 もあ ろ う。 時代 を 超 え て 理 性 は常 に 批 判 の源 泉 で あ り、民 主 主 義 に と って は理 性 主 義 は 重 大 な 意 味 を もっ て い る。 民 主 主 義 は 理 性 を 持 っ て権 力 を批 判 す る勢 力 を制 度 化 す る体 制 で な け れ ば な ら な い か らだ。 この 政 治 的 な 理 性 主 義 が国 家 の存 在 を前 提 に して い る とい う主 張 は 、政 治 家 の発 言 に もみ られ る。 サ ッチ ャ ー は 、 回顧 録 の 『ダ ウ ニ ソ グ街 の 日 々』 で 、 「私 は 国 際 法 を 強 く支 持 す る が 、 無 用 に 国 連 を 頼 る こ と を 好 ま な い 。 そ れ は 主 権 国 家 が 自 ら の た め に 行 動 す る 道 義 的 権 威(moral authority)に 欠 け て い る こ と を 意 味 す る こ と に な るか らだ 。 た とえ 自 衛 の た め で あ って も国 連 の 承 認 な しに武 力 を行 使 して は な らな い とい うよ うな こ とに なれ ば 、 イ ギ リス の利 益 だ け で な く 国 際 社 会 の 正 義 と秩 序 を ま も る こ とは む ず か しい 。 国 連 は有 益 な討 議 の 場 で あ る。 い くつ か の 間 題 に 対 して は決 定 的 に重 要 な役 割 を も つ。 しか し、 新 しい 国 際 秩 序 の 中核 で は 決 して あ りえ な い 」 との べ て い る。 これ は 合 法 的 か つ 民 主 的 な統 治 機 構 で あ る主 権 国 家 が 唯 一 の道 義 的権 威 だ とす る 最 も 明確 な 表 現 で あ る。 この 国 際 政 治 の ス タ ソ ス は ア ソ グ ロサ ク ソ ソの 政 治 哲 学 の核 心 的 な もの で あ る が、 先 進 工 業 諸 国 を 問 わ ず 発 展 途 上 国 に と って もほ ぼ 同 じこ と が い え るの で は な か ろ うか 。 つ ま り国連 は民 族 の歴 史 の 結 晶 と で も い うべ き国 家 を道 義 の 基 準 で まだ 乗 り超 え る こ とが で きな い と い うだ 。 この サ ッチ ャー の判 断 は 、1982年 アル ゼ ソチ ソが イ ギ リスの 統 治 す る フ ォー ク ラ ソ ド(マ ル ビナ ス)諸 島 を 軍 事 占領 した と き、奪 回 の た め の作 戦 を指 揮 した さ い の もの で あ る。 冷 戦 終 結 後 に は ア メ リカは イ ギ リス と 同 じよ うな事 例 に 直 面 した。 湾 岸 戦 争 の後 遺 症 で あ るイ ラ クの 大 量 破 壊 兵 器 疑 惑 で 、1997年 イ ラ クが 国 連 の査 察 を拒 否 した さ い、 ア メ リカ は 軍 事 制 裁 の 準 備 を完 了 した が 、 国連 事 務 総 長 の調 停 工 作 が 実 を結 ん だ た め 瀬 戸 際 政 策 を と りな が ら軍 事 行 動 を 見 合 わ せ た 事 件 が あ った 。 ア メ リカ の政 策 立 案 者 や知 識 層 の 多 くに と っ て は この 後 の 成 行 きは 不 十 分 な もの で あ った ろ う。 21世 紀 に お いて も、 民 主 主 義 が 国 際 社 会 の 中 に あ っ て 国 家 主 権 や 国 民 の道 義 ・自 由の 問 題 で 大 きな 試 練 に ぶ つ か り、価 値 判 断 で 苦 悩 す る深 刻 な場 面 に ぶ つ か る こ と が予 想 され る。 国 内世 論 と 国 際 世 論 の 関 係 も含 め て 大 き な 問 題 に な ろ う。21世 紀 も、 民 主 主 義 は 国際 領 域 に 適 用 さ れ る場 合 の 条 件 を試 行 錯 誤 の 中 で 求 め て い くこ とに な ろ う。