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非日常の場での体験と学びの試行

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Academic year: 2021

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(1)68. 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. 田邉里奈 Tanabe Rina 千葉工業大学. Chiba Institute of Technology. 非日常の場での体験と学びの試行 動物園・水族館での取り組み Challenge to experience and learning in special places In case study of zoo and aquarium. 1.なぜ子どものためのデザインに取り組むのか 1.1. 施設の魅力. 日本には数多くの動物園、水族館がある。日本動物園水族館協会に加盟し. ている施設だけを見ても、動物園は91施設、水族館は60施設ある。そこで は、生きた生物を間近で見ることができ、日常生活では体験することのでき ない特別な体験が得られる。また、施設によってコンセプトがあり、出会え る生物が異なったり、見せ方が異なるため、訪れる施設によっても異なる体 験ができる。そのため、同じ施設に何度も足を運び同じ生物の成長を感じつ つ生物に出会う楽しさもあれば、異なる施設に足を運びどんな生物に出会え るのかワクワクしながら生物に出会う楽しさを味わうこともできる。 私は様々な楽しみ方ができ、普段は見られない珍しい生物に出会え、非日 常の体験ができるこれらの施設にとても魅力を感じている。. 1.2. 子どもたちの可能性. 一言に子どもと言っても、子どもと言われる年齢層は幅広い。そのため、. 年齢によってできることややりたいこと、興味を持つことなど多様である。 また、個人差もあるため、それは学年が同じであっても異なってくる。 動物園や水族館での子どもたちの様子を見ていると、大きな声をあげて感 動したことを伝えたり、発見したり、驚いたり、笑ったり、など様々な感情 をとても純粋に素直に表現している。そのような純粋な感情、驚き、発見を 恥ずかしがらずに素直に表現し、真剣に面白がることができる子どもたちが とても羨ましく、とても魅力的に感じる。. 1.3. 研究を通して実現したいこと. 動物園や水族館を訪れる子どもは多くおり、幅広い年齢層の子どもたちが. 遊びにくる。このように「遊び」にくる子どもたちが、非日常の空間で様々 な体験をして手に入れたことを、体験を通した「学び」につなげることで、 動物園や水族館での体験をより価値のあるものにできるのではないかと考え る。そこで、子どもたちの年齢に応じて、様々な体験ができる機会の提案、 発見や観察のためのきっかけづくり、観察や体験から得られたことを学びに 変える仕組み作りをして、子どもたちが主体的に楽しく学べる場を提供した いと考えている。.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. 2.これまでの取り組み 子どもたちの学びの場を提供するための取り組みとして、これまでに大き く3つのアプローチを検討してきた。1つ目は、デジタル空間の中に水中世 界を再現し、本物の生物(その生息環境)とデジタルを組み合わせた観察の 環境を提供する取り組みである。2つ目は、観察とものづくりを組み合わせ たワークショップ型の教育プログラムの検討である。3つ目は、参加した子 どもたちの気持ちを図り、プログラムの評価や改善に活用する取り組みであ る。これらのアプローチについて、ラーニングデザインプロジェクトを立ち 上げ、共同研究者の若林尚樹(札幌市立大学教授)、政倉祐子(愛知淑徳大 学准教授)とともに研究を進めている。. 2.1. 観察環境の検討. 動物園や水族館の一番の魅力は、本物の生物やその生物が生息する環境を. 間近で観察できる点にある。本物の手触りや本物の匂い、本物の大きさを間 近で見られることはとても貴重な体験である。しかしながら、安全面や固体 への負荷などの要因から、手にとって触ったりじっくり観察することが難し い場合もある。このように、現実の世界では観察が難しい事柄をデジタル上 で再現し観察することができれば、多角的に観察が可能な環境を実現するこ とができると考えた。デジタル上での観察の場合には、匂いを感じるなど五 感での体験をすることはできないが、本物の生物(その生息環境)とデジタ ルの環境を組み合わせて観察することで、相互の足りない部分を補完してよ り詳しく観察する環境を実現できると考える。 上記の考えのもとに企画制作を進めたのが、 “aqua place”“aquanaut”“aqua. surf”“aqua ship”の4つのコンテンツである。. 1)aqua place. aqua place は、VRML を基礎技術とし3次元 WWW 環境に構築した水生生. 物を観察するための環境である。3次元空間上でのモデル構築と、その空間 を利用したインターネット上でのコミュニケーションをテーマに、必要とさ れるツールや機能、およびコミュニティーの可能性について検討を行った。 3次元空間を自由に移動することのできる水槽のシミュレーション環境と、 そこでシミュレーションされた生物や環境に関する情報にインタラクティブ にアクセスすることのできる操作環境を提供することによって、仮想空間内 での体験とそこからの発見、観察を通して新しい学習の環境を実現できるこ とが期待される。また、インターネット上に展開することで、場所を限らず 多くの子どもたちが見ることが可能となる。. 図1 aqua place の画面(左:図鑑画面、右:海中画面). 69.

(3) 70. 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. 2)aquanaut. aquanaut は4つの海域を取り上げ、それぞれの海域に生息する生物やその. 環境を再現した3次元シミュレーションコンテンツである。共通の操作性や 情報提供の仕方を用いつつも、生息環境の違いや生息する生物の違いを見る ことができる。また、選択した生物を拡大し観察することも可能である。 3次元空間上でのシミュレーションモデルにおいて、直感的な操作や行動 の中から発見や気付きを得ることによって、利用者が体験を通して主体的に 対象と関わることのできる環境の構築を目指した。. 図2 aquanaut 画面(左上:海域選択、右上:海中画面、両下:情報画面). 3)aqua surf. aqua surf は、新江ノ島水族館の相模湾大水槽をシミュレーションしたコン. テンツである。. 図3 水族館で使用している様子. 図4 aqua surf 画面(左上:水槽外の視点、右上:水槽内の視点、両下:情報画面).

(4) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. 直感的な操作や行動の中から発見や気づきを促し、体験を通して主体的に 対象と関わる環境の構築を目的としている。コンテンツ内では通常の水槽と 同じように外から見ることができる視点と、通常の水槽では実現できない水 槽の中に潜った視点での観察を実現している。このように2つの視点を提供 することで探究心を刺激し、より詳細な観察の環境を実現した。また、水槽 内の生物を選択することでその生物を取り出し、動きのある状態で360度好 きな角度から観察することができるため、普段は見ることができない視点で 生物を観察することも可能である。 4)aqua ship. aqua ship は、新江ノ島水族館に近い江ノ島近海のエリアと相模湾沖のエリ. アの2つのエリアを再現している。水族館は1年を通して同じ状態に保たれ 展示されているが、実際の自然環境は季節によって様子が変わり、生息する 生物も異なる。そこで、2つのエリアの季節の変化や時間の変化、深さの変 化を再現し、水族館では見ることのできない海中の変化を観察できるように している。また、aqua ship の中で見つけた生物が、水族館のどの水槽で見る ことができるのかを示し、観察の動機付けも行っている。このコンテンツは 期間を設定し、新江ノ島水族館の相模湾大水槽の前に設置し、子どもたちの 使用状況等も調査した。. 図5 水族館での展示の様子. 図6 aqua ship 画面(左上:タイトル画面、右上:海中の視点、両下:情報画面). 2.2. ワークショッププログラムの検討. 子どもたちの学びの場を提供するにあたり、ワークショップ形式での教育. プログラムを検討した。基本的なワークショップの流れは「導入→レク チャー→観察→表現→振り返り」の5つのステップとしている。この5つの ステップを基本とし、実施する環境や対象の生物に合わせて組み換えをした り、省略をして実施した。 この5つのステップを評価し既存のプログラムと比較するため、現在、国内 の動物園や水族館で実施されているワークショッププログラムを調査した。調 査は、日本動物園水族館協会に加盟している施設を対象にし、Web サイトに掲. 載されている情報をもとに実施した。その結果、施設の特徴を活かした体験型 のプログラムや、飼育員の解説などを聞くスクール型のものなど、特別な場所. 71.

(5) 72. 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. での特別な体験を得られるものが多くあることが分かった。しかし、あくまで 体験することが中心となっているものが多く、そこで得た気づきや発見を記録 に残したり、形に残すなどの取り組みはあまり行われていないことが分かった。 このことから、これまで私たちが検討してきた5つのステップで実施する ワークショップの特徴は、生物の観察のほかに、ものづくりによって観察し たことや気付いたことを表現することにあることが分かった。また、飼育員 のレクチャーを組み込むことで、生物の生態を知ったり、他との違いや特徴 を知るなど、じっくり観察するための動機づけもある。ものづくりの工程で は、工作をしたり絵を描いたりすることのほか、身体を動かして演じる(な りきる)ことを取り入れるなど、対象に合わせた表現方法も工夫している。 このように、体験することと、そこで得たものを表現する(ものづくり)こ とを組み合わせることで、参加した子どもたちは自身の体験を振り返り、再 確認することが可能となる。また、表現することで周りの参加者と体験を共 有し、コミュニケーションをとることも可能となる。このような仕組みを組 み込んでいることが大きな特徴となっている。 これまでに実施したワークショップは当日参加型のものと事前募集型のも のとがあり、長時間かけてじっくり実施するものは、あらかじめ対象年齢を 設定し、事前に参加者を募集した上で実施した。多くのプログラムは、子ど もが一人で参加することを条件とし、恥ずかしがらずに周りの参加者とコ ミュニケーションが取れ、素直に面白がることができる年齢を考慮して、小 学校3、4年生を対象として実施している。また、当日参加型のワーク ショップの場合には、予め対象の年齢を設定することが難しいため、事前募 集型よりも低年齢の子どもたちが参加する傾向にある。 ワークショップの際には、観察の際に使用する観察シートのデザインを検 討したり、ものづくりの際に使用するツールやキットのデザインを検討し、 子どもたちが取り組みやすいよう工夫を凝らしてきた。生物の形や特徴をリ アルに表現すると複雑な形状になってしまうが、複雑な形状の場合には制作 時に必要以上に時間を要してしまうため、生物の特徴を活かしつつも制作の 際の難易度を下げられるように工夫した。. 図7 ワークショップの様子(左:ペンギンになる方法、中:キミもヤドカリになろう、右:耳みみだれの耳).

(6) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. スタッフ用. 図8 デザインした観察シートの例. こども用. 図9 デザインしたツールやキットの例. 2.3. 気持ち温度計の検討. これまでに5つのステップを設け、複数のワークショップを実施してきた. が、それぞれのワークショップの評価とそれを活かした改善をすることが難 しかった。そこで、ワークショップ型の教育プログラムの評価をするため に、参加した子どもたちの気持ちを用いることを考え、子どもたちの気持ち を測る方法を検討した。子どもたちの気持ちや感じたことを聞き出すため に、一般的には参加した子どもたちに対し、最後にアンケート調査等を実施 している。しかしその方法では全体の漠然とした意見の収集に留まり、詳細 がつかめず具体的なプログラムの改善に活かすことができない。そこで、 ワークショップの各工程で参加者の今の気持ちを測り、時間軸に沿った形で 子どもたちの気持ちの変化を知ることで、プログラムの改善に用いることを 考えた。そのための方法として、温度計をモチーフにした「気持ち温度計」 を提案した。気持ち温度計では、その時に感じた気持ちを3項目(高揚感: わくわく、達成感:できた、難易度:難しい)で測り、マグニチュード推定 (ME)法により推定する。. 73.

(7) 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. 絵を描けた 0. むずかしかった 0. 100. わくわくした. 0. 100. 100. 観察できた. むずかしかった 0. 0. 100. 100. 0 100. 3.観察してみて. 2.絵を描いてみて. わくわくしてた. できた. むずかしかった 0. 0. 100. 100. 4.ヤドカリになってみて. 0 100. わくわくした. できた 0 100. むずかしかった 0 100. 0 100. 5.終わってみて. それぞれの場面でどんなきもちだったか 温度計に色をぬってみよう。. わくわくした. 74. 1.はじまるまえに. (例)観察してみて. 100. 100. 100. 0. 0. 0. 100. 100. 100. 0. 0. 0. 10. 0. 学年 男子/女子 0. なまえ. わくわくした. できた. むずかしかった. わくわくしている. 友達になった. むずかしそう. 図11 気持ち温度計の記入用紙の例. 3.子どもを取り巻く環境の活用 図 10 気持ち温度計のアプリケーション. これまでの活動を通し、様々なアプローチから子どもたちの学びのための 環境づくりを検討してきた。そこでは、子どもたちが感じたこと、発見した こと、気付いたことなどを通して、自らが主体的に学ぶ環境の構築を目指し てきた。現在では、通信環境やデジタル環境の発展により、子どもたちはス マートフォンやゲーム機などを通していつでも情報を取得し、また発信でき る状況にある。また、インターネットや SNS を通して簡単に世界中の人と 繋がることも可能である。それによってリアルタイムで遠隔地の様子を見た. り、VR、MR などの技術により自宅にいながら疑似体験したりなど、様々. な視点からの情報の取得、体験、知識の習得が可能になる。しかし、本物に 触れることや見ることは五感を刺激し、記憶に残り、感性が豊かな幼少期に は特に貴重な体験になると考えられる。. 幸いにも日本は、動物園や水族館が数多く存在し、恵まれた環境にある。 その施設に足を運べば世界各地の生きた生物に出会うことができる。そのよ うな施設へ遊びに行くことで非日常の体験を通して施設を有効に活用しても らいたいと考える。またそこでの遊びの中から得られた情報や体験を蓄積し て知識に変え、日常の生活の中でインターネットで調べたり、情報を発信し ていくなど、施設での体験とデジタルの環境をうまく活用して主体的に学ぶ 環境を実現してもらいたいと考える。. 4.これからの活動の見通し 本研究では、動物園や水族館などの非日常の場での体験と、子どもたちの 日常にあるメディアの良さを組み合わせ、子どもたちが主体的に学べる環境 を構築するためのきっかけ作りを今後も行っていきたいと考えている。生物 に興味を持つためのきっかけづくり、観察のための視点の提供、体験を通し た学びのための提案など、子どもたちの年齢に応じたデザインを検討してい きたい。 また、これまでの研究対象の中心は小学校3、4年生であったが、動物園 や水族館を訪れる子どもたちは低年齢化しており、未就学児の占める割合が 高くなってきている。そのため、未就学児に向けたプログラムの開発や、親.

(8) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. 子で楽しめるプログラムの開発、ツールやキットのデザイン、気持ちの測り 方など、今後さらに検討を進めていく必要があると考えている。 謝辞 研究を進めるにあたり、様々な情報の提供や施設の提供、サポートをして くださった新江ノ島水族館のみなさん、葛西臨海水族園のみなさん、すみだ 水族館のみなさん、上野動物園のみなさん、金沢動物園のみなさんに感謝の 意を表します。共同研究者として様々なアドバイスと協力をしてくださった 札幌市立大学の若林尚樹先生と愛知淑徳大学の政倉祐子先生にもお礼を述べ たいと思います。 本研究は、は JSPS 科研費(挑戦的萌芽研究 課題番号:26560098)(挑戦. 的萌芽研究 課題番号:16K12682)(基盤研究 C 課題番号:17K01049)の. 助成を受けて実施したものです。 注および参考文献. 高橋里奈,若林尚樹,渡辺大地:3次元空間を活用した情報の表現,筑波大学感性評価構造モデ ル構築特別プロジェクト研究報告集2001 感性評価5,439-443,2002. Rina Takahashi, Naoki Wakabayashi, Kaori Aoki, Daichi Watanabe: Proposal on learning program with. observation supported by simulation contents, Siggraph2006 Educators program, 2006. ,日本デザイン学会デザイン学研究作 若林尚樹,高橋里奈,渡辺大地:3D 仮想水族館“aquasurf”. 品集 Vol. 12 No. 12,64-69,2007. 高橋里奈,若林尚樹:シミュレーションコンテンツを活用した学習環境の構築,日本 e-Learning. 学会 2008年学術論文集,41-48,2008. 若林尚樹,高橋里奈:3D 展示コンテンツにおける情報体験空間の構築,日本 e-Learning 学会 . 2008年学術論文集,33-40,2008. 高橋里奈,若林尚樹:3D シミュレーション技術による体験型展示コンテンツの提案水槽と海を. つなぐ体験型シミュレーションコンテンツの提案,芸術科学会論文誌 Vol. 8,No. 2,100-107,2009. 政倉祐子,若林尚樹:子どもの印象評定による体験学習の評価,日本デザイン学会,特集号. Vol. 21-02「子どものためのデザイン02」,14-19,2014. 田邉里奈,若林尚樹,政倉祐子:擬似的な体験を通した学びのためのコンテンツ設計,日本デザ. イン学会,デザイン学研究作品集20(20),108-113,2015. 政倉祐子,若林尚樹,田邉里奈:子どもの主観評定に基づく体験学習型ワークショップの定量評. 価,日本感性工学会論文誌第15巻1号,「第17回大会」,233-244,2015. 若林尚樹,小川雄一,政倉祐子,田邉里奈,鈴木仁:体験プログラムにおける学びのための3つ. の「共有」によるアプローチ,日本デザイン学会,特集号 Vol. 24-01「子どものためのデザイン03」 , 68-73,2016. 政倉祐子,政倉祐子,若林尚樹,田邉里奈:参加者の集中度・得意度を考慮したワークショップ. の定量評価,日本デザイン学会,特集号 Vol. 24-01「子どものためのデザイン03」,46-53,2016. 田邉里奈,天野未知,宮崎寧子,西村大樹,政倉祐子,若林尚樹:観察となりきる体験を組み合. わせたワークショップの試行,日本デザイン学会,特集号 Vol. 24-01「子どものためのデザイン 03」,54-58,2016. 75.

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