意匠に対する保護アプローチ
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(2) デザイン学研究特集号 Vol.25-2 No.98. る(規則19条⑴)。後者の非登録意匠は、出願は不要であるが、当該製品が 欧州共同体内で最初に公衆に提供された日から3年間(規則11条⑴)しか保 護されず、模倣行為に対してのみ権利行使可能な相対的排他権しか与えられ ない(規則19条⑵)。この非登録意匠制度については、著作権法的な保護と いうよりも、不正競争防止の観点から設けられたと説明されている6)。なお、 意匠も著作権によって保護されるが、保護が与えられるための条件及び保護 の範囲については各国の自由に委ねられている(指令17条) 。しかし、欧州 司法裁判所の Flos 判決では7)、各国は意匠の著作権法による保護をできる限 り排除しないとしていることから、意匠はかなり広い範囲で著作権法による 保護が受けられると考えられる8)。 意匠の保護について特許アプローチ、著作権アプローチ、意匠アプローチ について欧州で議論が活発に行われているのかと言われれば、そうした議論 は最近ではほとんど存在していないように思われる。もはや欧州では意匠に 対する意匠アプローチは当然のもの(あるいは仕方のないもの)として受け 入れられているといえよう9)。. 3.意匠特許制度に対する標準的批判への応答について 欧州法・フランス法からの検討 こうした前提に基づき、BURSTEIN 論文の意匠特許制度に対する標準的. 批判への応答について、欧州法・フランス法の観点から若干コメントしてお きたい。. 3.1. デザインとアート(美術). BURSTEIN 論文によると、デザインはアートである(又はデザインには. 少なくともアートの一部と考えるべきものがある)ことから著作権法で保護 されるべきであり特許の対象ではない、という特許意匠制度に対する標準的 批判が見られるという。これに対して BURSTEIN 論文は、強い反対の立場. を示している。そこでは、アート概念自体の曖昧さ、「デザインはアート か?」という問い自体が誤った問題設定であること、意匠にはアートと異な り創作に一定の制約があること等から、 「デザインがアートである」という 前提を基礎に置いた標準的批判は説得的ではないと論じられている。 この議論は、著作権法との関係が問題とされているため、美術の一体性理 論を採用しているフランス法の視点からコメントしておこう。フランスでは アート概念それ自体や、デザインとアートとの区別という議論は傍に置き、. 6)アネッテ・クア「欧州におけるデザイン保護法制」年 報知的財産法2016-2017(日本評論社、2016年)42頁. 以下。. 7)CJUE, 27 janvier 2011, Flos SpA contre Semeraro Casa e. Famiglia SpA(C-168/09).. 意匠(応用美術)がアートの範囲に属するということが所与のものとされて いるように思われる。その背後には、意匠がアートではないとは言い切れな い以上、意匠がアートに含まれると考えざるをえず、裁判所は意匠がアート か否かを判断することはできないという考えが存在している。その意味で、. 8)Legal review on industrial design protection in Europe,. フランスにおいては「意匠はアートである」から意匠を著作権法でも保護す. M a r k e t , I n d u s t r y, E n t re p re n e u r s h i p a n d S M E s. べきとするのではなく、「意匠はアートでないとは言い切れない」から意匠. Under the contract with the Directorate General Internal. (MARKT2014/083/D), 2016(以下単に LR. と称する),. p.95.. 9)フランスにおいて採用されている「美術の一体性理 論」は、あくまで著作物として応用美術と純粋美術を 区別してはならないという理論であることから、意匠 法との重複は結果的に生じるに過ぎない。そのため、 美術の一体性理論は意匠の保護について著作権アプ ローチを導く立場でもなければ、特許アプローチに反 対する立場でもない。. は著作権法でも保護されるという消極的な立場をとっている。もちろん、. BURSTEIN 論文による応答は、デザインはアートであるから著作権法で保. 護すべきであって意匠特許制度が不要であるという批判への応答、すなわ. ち、デザインはアートとは相違点があるから意匠特許制度は必要だ、という 応答であるから、意匠特許制度と著作権制度の両法による意匠の重複保護を 認める理由づけに対する応答ではない。しかし、BURSTEIN 論文の論旨か. 101.
(3) 102. 特集:各国におけるデザイン保護法制. らは、意匠もアートとは異なるものと理解されることから、意匠特許制度と 著作権制度で意匠を重複的に保護することもまた適切ではないということに なりそうである。そうであるとすると、「意匠はアートでないとは言い切れ ない」という立場に対してはどのような応答が見られることになるのか。興 味深いところである。 また、意匠が物品の有用性の面からその創作に制約を受けているという点 については、フランスではそうした制約が存在したとしても著作物と考える ことの障害にはならないとされている10)。椅子は人が座れるという制約が存 在するが、その範囲で著作者の個性を発揮することは不可能ではないからで ある。. 3.2. 実体的要件. BURSTEIN 論文によると、意匠特許に新規性要件を要求することを批判. する学説に対し、意匠が美的感覚から作られるという立場は懐疑的であるこ と、新規性を求めないとパブリックドメインとなっている意匠に基づき訴訟 が提起されるリスクがあることから、こうした批判は説得的でないと論じら れている。 欧州法は、意匠アプローチを前提として、新規性の範囲を「意匠が、登録 出願日前又は主張された優先日前に、当該分野での通常の取引過程に従っ て、欧州共同体で業務を営む専門家に合理的に知られなかった場合は、開示 はされていない」としている(欧州共同体意匠規則5条)。意匠アプローチ からは不必要に厳格な新規性要件は望ましくないとして当該基準が採用され ているが11)、実際には新規性要件はかなり厳格に解されていることから、パ ブリックドメインとなっている意匠に基づいて訴訟が提起されるリスクは少 ない。欧州法から見ても BURSTEIN 論文の応答と同様の応答がなされるだ ろう。. 非自明性要件は、欧州では「独自性」要件として要求されている。欧州で は議論の対象は独自性要件の存在そのものではなく、その判断主体に集中し ており、特に独自性要件を満たすためのハードルが高いという理解はされて いないようである。その意味では、非自明性要件についても BURSTEIN 論. 文の応答と同様の応答が欧州法の立場からはなされるだろう。. 3.3. その他. その他、権利付与までの期間については、欧州共同体意匠規則では意匠が. 保護対象に該当するか、公序良俗に反するか以外の実体審査をしないことか ら、議論の前提が整わない。登録共同体意匠については、2015年の統計であ るものの、98% が10日以内に登録されている12)。コストについては欧州では. 大きな批判はなく、むしろ欧州全域に及ぶ保護としては安いと評価されてい る13)。. 4.おわりに 意匠保護へのアプローチとしては、特許アプローチ(アメリカ、日本)か 10)AIPPI Q231, 20 avril 2012, p. 6.. 11)EC Green Paper on the Legal Protection of Industrial. Designs(Ⅲ /F/5131/91, June 1991), p. 71.. 12)EUIPO, 2015 Annual Report, p. 25. 13)LR. 44頁以下。. 意匠アプローチ(欧州)かのいずれかが主要国では採用されている。本稿は 本特集号の課題に従って、こうしたアプローチの相違を浮かび上がらせるこ とを目的としているに過ぎず、どちらのアプローチが適切であるかを明らか にするものではない。いずれのアプローチをとるべきか、または、さらなる.
(4) デザイン学研究特集号 Vol.25-2 No.98. 別のアプローチを検討すべきか、という課題がデザイン保護法制の将来的な あり方の検討の際には必要となろう14)。 [附記]本研究は JSPS 科研費26282006、17H01942の助成を受けたものであり、 九州大学基金長期海外派遣支援、末延財団在外研究支援奨学金の研究成果の一部 である。. 14)もちろん両アプローチは現実的には差異はないという 評価もありえよう。. 103.
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