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脳卒中患者に対する二重課題トレーニングの効果は脳機能障害の違いによる影響を受けるのか?

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 158 43 巻第 2 号 158 ∼ 159 頁(2016 年) 理学療法学 第 43 巻第 2 号. 平成 25 年度研究助成報告書. 表 1 対象者基本属性. 脳卒中患者に対する二重課題トレーニン グの効果は脳機能障害の違いによる影響 を受けるのか? 井上 優. 1)2). ,原田和宏. 1)3). ,佐藤ゆかり. 4). ,樋野稔夫. 5). 1). 吉備国際大学保健福祉研究所. 年齢(歳) 男性 / 女性(名). 67.9 ± 6.6 11 / 7. 脳梗塞 / 脳出血 / SAH(名). 10 / 7 / 1. 発症後経過期間(日). 364.5 ± 584.4. 下肢 BRS III/IV/V/VI(名). 4/5/5/4. MMSE 得点(点). 27.3 ± 2.1. FAB 得点(点). 15.1 ± 2.1. TMT part A(秒). 127.1 ± 46.0. TMT part B(秒). 201.5 ± 83.0. diff TMT(秒). 2). 74.4 ± 57.9. 倉敷平成病院リハビリテーション部. 3). 吉備国際大学保健医療福祉学部. 4). る影響の検証により,DTT を併用する運動療法の適応が明ら. 5). かとなり,介入対象者の適切な選択につながる学術的根拠が得. 岡山県立大学保健福祉学部 倉敷在宅総合ケアセンター予防通所リハビリテーション. られるものと推察される。 要旨:本研究の目的は,二重課題処理能力,転倒リスク,転倒.  そこで本研究では,脳機能障害の違いが二重課題処理能力や. 発生率に対する二重課題トレーニング(Dual-task training:. 転倒リスクの変化と転倒発生率に与える影響を検証することを. 以下,DTT)の効果に与える脳機能障害の影響を検証するこ. 目的とし,これまでに得られた知見について報告する。. とである。本研究に参加した脳卒中患者は 18 名で,DTT 実施. 方  法. 後,Dynamic gait index(以下,DGI)得点は有意に改善し,. 1.対象. 転倒リスクが軽減する傾向が示された。前頭葉機能は Frontal.  対象は,平成 25 年 7 月 1 日∼平成 27 年 3 月 31 日までの間. assessment battery,注意機能は Trail making test part A と. に医療施設に入院,もしくは通所サービスを利用した脳卒中患. part B の差分により評価し,DGI 得点変化量との関連性を相. 者とした。取込対象は自力で 10 m 以上の歩行が可能な者とし,. 関分析により検証した。その結果,両者ともに有意な相関関係. 85 歳以上の者,医師や担当療法士の診療記録において,視聴. は示さなかった。この結果は,加齢や脳の損傷により生じた脳. 覚障害,失行,失認,失語症,脳卒中以外の神経疾患や骨関節. 機能障害の程度に影響を受けず DTT の効果が得られることを. 系疾患に関する記載がある者,のいずれかの条件に該当した者. 示唆するものであり,DTT 導入に対する基礎資料として有用. は本研究の対象者から除外した。. な結果と推察された。. 2.評価内容と評価方法. キーワード:脳卒中,二重課題トレーニング,脳機能障害.  介入前の評価は,年齢,性別,病型などの基本属性に加え, Mini mental state examination(以下,MMSE) ,前頭葉簡易. はじめに. 機 能 検 査(Frontal assessment battery: 以 下,FAB) ,Berg.  近年,運動課題と同時に認知課題などを同時に負荷する,. balance scale(以下,BBS) ,Stops walking when talking test. DTT による転倒リスクの軽減効果が期待され,一般高齢者を. (以下,SWWT)を用いた。注意機能の評価は Trail making. 中心にその効果が無作為化比較試験(Randomized controlled. test part A と Trail making test part B を用い,所要時間の差. trial:以下,RCT)により検討されている. 1)2). 。一方,理学療. (以下,diff TMT)を算出した。歩行中の二重課題処理能力は. 法士が日常診療でしばしば遭遇する脳卒中患者は,これまでの. Dynamic gait index(以下,DGI)を用いて評価した。また転. 報告. 3). から一般高齢者と比べ転倒ハイリスク者と認識されて. 倒リスクの評価には BBS 得点と SWWT の結果を組み合わせ. いる。そのため我々は,脳卒中患者の転倒リスクを軽減する. た方法 4) を用いた。介入前後の評価は,入院患者では介入開. ため,脳卒中患者を対象に DTT を併用した運動療法の効果を. 始前,終了後 2 日以内に評価を実施した。通所サービス利用者. RCT により検証した。その結果,DTT を併用した群は,併用. は利用頻度を考慮し,介入開始日,終了日から直近の利用日で. していない群に比べ,歩行中の二重課題処理能力が有意に改善. ある 5 日以内に実施した。介入終了後は,転倒カレンダーに転. され,転倒リスクが軽減される可能性が示唆された 4)。このこ. 倒の有無を記載するよう依頼し,もし転倒が発生した場合は場. とは二重課題処理能力が脳卒中患者の転倒リスクに影響を与. 所や外傷の有無などの情報も併記するよう依頼し,その記載内. え,理学療法による介入可能な因子であることを示す基礎資料. 容に基づき把握した。. を提示したといえる。しかしながら,対象となった脳卒中患者. 3.介入方法. の特性を考慮すると,前頭葉機能や病巣部位の影響など脳機能.  DTT は井上らの方法に準じ,難度を操作的に定義した運動. 障害の与える影響に関する検証が,いまだ課題として残されて. 課題 7 種類と,認知課題 4 種類を組み合わせて実施した 4)。1. いた。. 回のトレーニング時間は 20 分間,総トレーニング時間は 6 時.  介入効果の有無を確認した次のステージは,介入方法の適応. 間とし,DTT 併用前から実施していた理学療法,作業療法の. を探ることにある。多彩な臨床症状を呈する脳卒中患者では,. 頻度に準じ実施した。DTT 実施中は,疲労への配慮ならびに. 適応の議論が必須である。したがって,脳機能障害の違いによ. 転倒に細心の注意を払い実施した。.

(2) 脳機能障害の違いが二重課題トレーニングの効果に与える影響. 159. 表 2 DTT 実施前後の各評価結果の比較 BBS 得点(点) SWWT 歩行継続 / 歩行停止(名) DGI 得点(点). DTT 併用前. DTT 終了後. P. 42.2 ± 5.9. 46.8 ± 4.4. <0.01. a. b. 7 / 11. 17 / 1. <0.01. 12.3 ± 3.9. 16.5 ± 4.0. <0.01a. a: t 検定,b: Pearson の χ 2 検定. 図 1 DGI 得点変化量と FAB 得点,diff TMT との相関分析結果─ spearman 順位相関係数を用いて─. 表 3 DTT 実施前後の転倒リスクの変化. 4.倫理的配慮  本研究は,研究協力機関倫理委員会の承認ならびに施設長の 承諾を得たうえで,対象者に研究の目的と内容を文章と口頭に. DTT 併用前. より説明を行い,書面によって同意を得たうえで行った。. DTT 終了後. CI. CII. CIII. CIV. P. 4. 2. 3. 9. 0.004a. 9. 1. 8. 0. 2. 結  果  DTT を終了した脳卒中患者は 18 名で,基本属性ならびに各 評価結果を表 1,表 2 に示す。本研究では,二重課題処理能力 と関連することが推測される前頭葉機能と分配性注意機能に着. a: Pearson の χ 検定 カテゴリー I(CI) カテゴリー II(CII) カテゴリー III(CIII) カテゴリー IV(CIV). (名) :BBS ≧ 45 点+歩行継続 :BBS ≧ 45 点+歩行停止 :BBS < 45 点+歩行継続 :BBS < 45 点+歩行停止. 目し,FAB 得点ならびに diff TMT 結果と DGI 得点変化量の 関連を Spearman の順位相関分析により検討した。その結果, FAB 得点 ρ = ‒ 0.418(p = 0.085),diff TMT 結果 ρ = 0.034(p. では DTT 実施により転倒発生率が抑制された可能性が示唆さ. = 0.892)と有意な相関関係を認めなかった(図 1)。次に DTT. れた。以上の結果は,脳卒中患者の転倒リスクの軽減につなが. 実施前後の転倒リスクに関する結果を表 3 に示す。DTT 実施. る介入方法として DTT を導入することに対し,学術的根拠を. 前,歩行中に話しかけられた際に歩行停止していた 11 名は,. 与えるものと推測された。. DTT 終了後,10 名が歩行中に話しかけられても歩行継続が可. 文  献. 能となり,転倒リスクが軽減した。また DTT が終了した者の うち,転倒有無を追跡し得た者は 17 名で,そのうち,終了後 3 ヵ月以内の転倒発生率は 3 名 /17 名(17.6%) ,6 ヵ月以内で は 4 名 /17 名(23.5%),年間転倒発生率は 3 名 /14 名(21.4%) であった。転倒を経験した者は,複数回の転倒ではなく 1 回の み転倒を認めた。 考  察  本研究の結果,FAB 得点や diff TMT 結果は,歩行中の二重 課題処理能力を評価する DGI 得点変化量との有意な相関を示 さなかった。この結果は脳機能障害の程度に DTT の効果は影 響を受けない可能性を示唆するものと推察された。脳卒中患者 の年間転倒発生率は 30 ∼ 55%とされており. 3). ,本研究対象者. 1)Agmon M, Belza B, et al.: A systematic review of interventions conducted in clinical or community settings to improve dual-task postural control in older adults. Clin Interv Aging. 2014; 9: 477‒492. 2)Melzer I, Oddsson L: Improving balance control and selfreported lower extremity function in community-dwelling older adults: a randomized control trial. Clin Rehabil. 2013; 27: 195‒206. 3)井 上  優, 平 上 尚 吾, 他: 脳 卒 中 患 者 の 転 倒 予 測 尺 度 の予測精度に関する文献的検討.理学療法学.2010; 37: 167‒173. 4)井 上  優, 平 上 尚 吾, 他: 脳 卒 中 患 者 の Dynamic gait index 得点に対する二重課題トレーニングを併用した運動 療法の効果検証.理学療法学.2010; 39: 418‒426..

(3)

図 1 DGI 得点変化量と FAB 得点,diff  TMT との相関分析結果─ spearman 順位相関係数を用いて─

参照

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