• 検索結果がありません。

脊髄部分損傷後の機能回復過程における大規模回路再編

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "脊髄部分損傷後の機能回復過程における大規模回路再編"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 669 ~ 670 脊髄部分損傷後の機能回復過程における大規模回路再編 頁(2015 年). 669. 合同シンポジウム 4(日本生理学会). 脊髄部分損傷後の機能回復過程における大規模回路再編* 伊 佐 正**. はじめに. 脊髄レベルでの回復機構. 脳や脊髄の損傷後の運動麻痺に対して,リハビリテーション. 機能回復が起きたサルにおいて,麻酔下で損傷側の上肢筋運. を受けることにより失われた機能の一部が回復することがしば. 動ニューロンから細胞内記録を行い,反対側の延髄錐体におい. しば観察される。その背景にある神経機構を明らかにするた. て皮質脊髄路線維を電気刺激すると,直接経路による単シナプ. め,我々の研究グループでは,ヒトに近い脳と身体の構造を有. ス性の興奮性シナプス電位(以下,EPSP)は消失していたが,. するサルを用いて脊髄を部分的に損傷した後に起きる手指の巧. 約半数の細胞で 2 ~ 3 シナプス性の EPSP が記録された 1)。こ. 緻運動の機能回復のメカニズムを解析してきた。このような動. れらの EPSP は実験中に同様な皮質脊髄路の損傷を C2 レベル. 物実験の重要な点は,機能回復にかかわる神経回路を因果律的. で加えると消失したことから,C3 – C4 髄節のニューロン,お. に証明することができることである。本稿では,このような研. そらく PN によって介在されていると考えられる。つまり,損. 究を通じて明らかになってきたこと,特に「脊髄の部分損傷に. 傷後も PN を介する経路が残存していたことが示された。. おいても,機能回復には脳の様々な回路がかかわっている」と. また,同様な側索背側部の損傷を C2 レベルで行ったサルで. いうことについての概略を解説したい。. は精密把持運動は損傷後 4 ヵ月以上経過しても回復しなかった. 脊髄部分損傷後の機能回復モデル. (図 1B3)。このような違いには,2 種類の損傷レベルの間,つ まり C3 – C4 髄節に存在するなにかが重要な意味をもつと考え. 従来,高等霊長類に備わる手指の器用さは,皮質運動野(以. られ,機能回復において PN が重要な役割を果たすことが示唆. 下,M1)が皮質脊髄路と通過して上肢運動ニューロンに直接. された。. 結合する経路に由来すると考えられてきた。一方で,M1 が運. さらに最近,我々は 2 種類のウィルスベクターを組み合わせ. 動ニューロンへ直接結合しないネコなどの動物では,皮質から. て,サルのような大型動物においても,特定の経路を選択的活. の運動指令の少なくとも一部は中部頸髄に分布する脊髄固有. 化逆的に遮断する手法を開発した。本稿では,スペースの制. ニューロン(以下,PN)によって伝播されることが知られて. 約から詳細な記述は避けるが,この方法を PN に適用すると健. いた。そして我々は近年,PN を介する経路がサルにも存在す. 常なサルの手指の精密把持運動が障害された. ることを見だしたが,それらが直接経路が発達しているサルに. PN は健常なサルにおいても手指の巧緻運動の制御に関与して. おいてどのような機能を有しているのか,ということが問題と. いることが明らかになった。さらにまだ preliminary ではある. なった。. が,PN の伝達を阻害したサルにおいて C5 レベルでの皮質脊髄. 我々は,PN から運動ニューロンへ投射する軸索が,頸髄に. 路の損傷を行うと回復が阻害された。このような結果も,PN. おいて皮質脊髄路と異なる部位を通過することを利用し,精密. が脊髄損傷後の機能回復にかかわっていることを示している。. 把持課題を訓練したサルの頸髄 C5 レベルにおいて側索背側部 1) を切断し,直接経路を遮断した(図 1A) 。するとサルは一旦. 2). 。したがって,. 大脳皮質レベルでの回復機構. 手指の精密把持運動に障害を示すが,訓練によって 1 ~ 3 ヵ. 上述のように脊髄損傷からの機能回復というと一般には脊髄. 月以内に精密把持運動が回復することが明らかになった(図. の神経回路で可塑的な変化が起きて運動が回復するものと思い. 1B2)。このことは,l-CST から運動ニューロンへの直接結合が. こみがちである。しかし,一方で脊髄損傷からの機能回復も運. 失われても,間接経路によって機能が回復することを示してい. 動学習の一種と考えられることから上位中枢の関与も検討して. る。そこで我々はこの「機能回復モデル」を用いて,脳や脊髄. みた。上記の頸髄 C5 皮質脊髄路損傷モデルのサルにおいて陽. 全体としての機能回復機構を解析することにした。. 電子断層撮影装置(以下,PET)を用いて機能回復の異なる段. *. Large-scaled Network Reorganization during Recovery from Partial Spinal Cord Injury ** 自然科学研究機構生理学研究所 教授 (〒 444–8585 愛知県岡崎市明大寺字西郷中 38) Tadashi Isa, MD: National Institute for Physiological Sciences キーワード:脊髄損傷,機能回復,霊長類. 階での脳活動を解析したところ,健常時は,反対側の M1 を中 心とする領域で活動の増加が観察されたが,回復初期(損傷後 約 1 ヵ月)では,両側の M1 の手指領域の活動の上昇が記録さ れた。一方,損傷後 3 ~ 4 ヵ月後の回復安定期では,同側 M1 の活動は消失し,かわりに反対側 M1 において活動の増加と活.

(2) 670. 理学療法学 第 42 巻第 8 号 動ニューロンに接続するという経路が提唱されている。近年筆 者らも同様な実験をサルの上肢筋運動ニューロンに対して行 い,同様な結果を得ている(未発表データ)。したがって,こ のような反対側の RSN を介する経路が脱抑制されることで緊 急避難的に機能を代償するのではないかと考えられる。. 辺縁系の関与 一方,上記の PET を用いた解析において,課題遂行時に損 傷反対側の側坐核(以下,NAc)の血流が機能回復期に上昇し ていることがわかった。そこで,PET で記録された脳血流の データを用いて,NAc や関連する前帯状回皮質(ACC)や前 頭眼窩回皮質(OFC)などの辺縁系の領域と,回復の鍵になる 役割を果たす損傷反対側 M1 の間の機能的結合を解析したとこ ろ,回復過程において NAc および関連する辺縁系領域,さら に M1 の間の機能的結合が回復期において選択的に上昇するこ とが明らかになった 4)5)。これら辺縁系はモチベーションの制 御に関与するとされており,このような NAc と M1 の間の結 合の強化は,「モチベーションがリハビリテーションの効果を 促進するメカニズム」に関連するものとして注目される。しか し,解剖学的に NAc と M1 を結びつける経路は,今後の大き な問題である。 図1 A 運動野(M1)から手指筋運動ニューロン(MN)にい た る 経 路 と そ の 遮 断.C3 – C4 髄 節 の 脊 髄 固 有 ニ ュ ー ロ ン (C3 – C4PNs)と髄節内介在ニューロン(SINs)を介する経 路がある. B 手指の把持運動.1.健常児,2.C5 での皮質脊髄路損傷 後 33 日.第 2 指と第 5 指の独立制御が可能になっている,3. C2 での損傷後 106 日.独立制御は回復していない. C 回復時の回路の変化の概要.1.健常時,2.回復初期,3. 回復安定期,contra:(運動ニューロンの反対側.便宜上同側 に描いてある).ipsi:(運動ニューロンの同側.便宜上反対 側に描いてある).. ま と め 以上の結果をまとめると,図 1C2 のように,C5 レベルでの 皮質脊髄路の損傷直後は,脱抑制をかけることで損傷同側の M1 から RSN を介して運動ニューロンに至る経路を使うなど して機能回復が行われる。その後,神経回路の可塑的な変化が 起きてくると(安定期:図 1C3)損傷反対側 M1 および両側の PMv によって十分に機能回復が図られるようになり,もはや 損傷同側 M1 の活動は必要としない。一方,このような運動野 の可塑性を誘導するメタ因子として,NAc などの辺縁系が機 能しているのではないかと考えられる。. 動領域の拡大が観察された. 3). 。そしてさらに両側の運動前野腹. 側部(以下,PMv)の活動が上昇した。そこでムシモルをこれ ら大脳皮質部位に微量注入して,これらの活動増加部位の機能 回復への貢献を直接調べてみた。すると反対側 M1 は回復初期 にも安定期にも回復に重要な役割を果たしていること。同側の M1 は回復初期に選択的に関与すること。一方で PMv は回復 安定期により強く関与することが示された 3)。このように大脳 皮質の異なる部位が機能回復に関与することは,機能回復のメ カニズムを理解するうえで重要である。 同側の M1 から運動ニューロンにいたる経路については,ネ コを用いた研究で皮質出力線維が反対側の網様体脊髄路細胞 (以下,RSN)を活性化し,これらの細胞から反対側脊髄を下 行する線維が脊髄内の交叉性ニューロンに接続し,それらが運. 文 献 1) Sasaki S, Naito K, et al.: Cortico-motoneuronal system and dexterous finger movements. J Neurophysiol. 2004; 92: 3601–3603. 2) Kinoshita M, Matsui R, et al.: Genetic dissection of the circuit for hand dexterity in primates. Nature. 2012; 487: 235–238. 3) Nishimura Y, Onoe T, et al.: Time-dependent central compensatory mechanism of finger dexterity after spinal-cord injury. Science. 2007; 318: 1150–1155. 4) Nishimura Y, Onoe H, et al.: Neural substrates for the motivational regulation of recovery after spinal-cord injury. PLoS One. 2011; 6: e24854. 5) Sawada M, Kato K, et al.: Function of the nucleus accumbens in motor control during recovery after spinal cord injury. Science. 2015; 350: 98–101..

(3)

参照

関連したドキュメント

血管が空虚で拡張しているので,植皮片は着床部から

 局所々見:右膝隅部外側に栂揃頭大の腫脹があ

が作成したものである。ICDが病気や外傷を詳しく分類するものであるのに対し、ICFはそうした病 気等 の 状 態 に あ る人 の精 神機 能や 運動 機能 、歩 行や 家事 等の

・「下→上(能動)」とは、荷の位置を現在位置から上方へ移動する動作。

口腔の持つ,種々の働き ( 機能)が障害された場 合,これらの働きがより健全に機能するよう手当

評価 ○当該機器の機能が求められる際の区画の浸水深は,同じ区 画内に設置されているホウ酸水注入系設備の最も低い機能

評価 ○当該機器の機能が求められる際の区画の浸水深は,同じ区 画内に設置されているホウ酸水注入系設備の最も低い機能

○当該機器の機能が求められる際の区画の浸水深は,同じ区 画内に設置されているホウ酸水注入系設備の最も低い機能