C A N C E R 19 (2010)
, p.1
9-26
甲の模様を活用したシオマネキの個体識別について
伊 藤 シオマネキ Uca arcuat,αは,干潟や河口域に 生息しているスナガニ科のカニである (三 宅,1983)
. シオマネキは分布域が限られており,ま とまった個体群が維持されているのは有明海沿岸 や徳島県吉野川河口域,宮崎県本城川河口である (和田ら,1996).
一般にカニの成長や移動を調べる方法として, 標識を装着して追跡する方法や,成長について は,多数の個体を採集して大きさを測定し ,群分 析による成長解析を行う方法が知られている. ま た,生息数を調べる方法として,1 m
x1
m
のコ デラートをランダムに複数設置して,生息密度を 調べた後,面積をかけ て生息数を推定する方法が 用いられる. しかしながら,甲殻類は脱皮するた めに,外見で識別する標識装着は困難であり , ま た,個体数の少ない生息地では群分析による成長 解析や生息数の推定は困難である さらに,個体 数が少ない生息地では,可能な限りカニの生息状 況に影響を与えないような調査方法が望ましい. シオマネキの甲は暗青色で,多くの個体は中央 に網目模様があることが知られている. そこで, 甲の模様を活用して個体識別ができないのか調べ たのでその結果を紹介する.材料と 方法
2003
年から2009
年の間 ,静岡県下田市大賀茂川 の河口域において,シオマネキの調査を行 った 調査時に可能な限りカメラを用いてカニを撮影し た 撮 影 後, カニを採集して雌雄の判別を行った 後,甲qJ高を測定し ,巣穴に戻した. 調査後,観察の同時性,性と大きさの相違,雄 の大針の左右性と合わせて,甲の模様を用いて個 体識別ができるのか検討した .Madoka ITo: Individual identification of the fiddler crab Uca arcuata by the markings on出e carapace
円
結 果 と 考 察 まず,同 一 日に撮影した個体の甲の模様を比 較 してみる .2009
年9 月19
日に撮影した雄の中 で,左紺l
出lが大きい8個体の甲の模様を図1に 示した 撮影したカニの大きさは甲幅16.35 m
m-27.80 m m
であ った. 甲の模様は個体ごとに明ら かに異なっていた.2009
年7
月18
日に撮影した雌 7個体の甲の模機を図2に示した . 撮影したカニ の大きさは甲幅16.00 m m- 25
.40
m mであ った. 雄と同様に甲の模様は個体ごとに明らかに異な っ ていた . 次に , 甲の模様が同じ個体の 写真を図3- 6
に 示した. 図3
は2003
年7
月21
日から2008
年3
月23
日の聞に撮影した雌の写真である. この間の大き さは甲幅27.50 m m- 36.15 m m
で,時間の経過と ともに大きくな った. この写真の甲の模様は細か く,白と黄線で囲 った部分が特徴的でほぼ同じで あった. 図4
は2003
年7
月26
日から2008
年6
月7
日の聞に撮影した雌の写真である. この間の大き さは甲幅22.10 m m- 35.15 m m
で,時間の経過と ともに大きくな った. この写真の申の模様は白い 部分が太く ,白と黄,赤線で囲んだ部分が特徴的 でほぼ同じであった . 図5
は2003
年9
月15
日から2009
年6
月7
日の聞に撮影した雌の写真である. この聞の大きさは甲幅12
.40 m m- 35.70 m m
で, 時間の経過とともに大きくなった . この写真の模 様は白と黄,赤線で囲んだ部分が特徴的でほぼ同 じ で あ っ た 図6
は2004
年9
月20
日から2008
年7
月12
日の聞に撮影した右紺脚の大 きい雄の写真で ある. この間の大きさは甲幅26.65 m m- 34.20 m m
で,時間の経過とともに大きくなった. この写真 の模様では白と黄,赤線および水色の点線に囲ん だ部分が特徴的でほぼ同じであった. 同一 日に同じ模様を持つ個体は存在せず (図1
20
甲の模様を活用したシオマネキの個体識別に ついて図1 シオマネ キの雄の甲の模様の比較 (2 0 0 9年 9月1 9日撮影). A 甲幅2 7.80m m, B 甲幅2 5.2 0m m, C 甲幅2 0.3 0m m, 0 甲幅17 .8 0m m, E 甲幅2 7 .2 0m m, F 甲幅2 4.80 m m, G : 甲幅18 .7 0m m, H 甲幅1 6.3 5m m
伊 藤 円
図2 シオマネ キの雌の甲 の模様の比較 (2 0 0 9年 7 月1 8 日撮影). A : 甲幅2 5.40m m, B : 甲幅2 3.0 5m m,
C : 甲幅20.90m m, 0 : 甲幅 1 6.0 0m m, E : 甲幅2 4.5 0m m, F 甲幅21.70m m, G : 甲幅20.70mm.
22 中の模様を活JIJしたシオマネキの個体識日I j について
図3 シオマネキの雌の甲の模様1 . A : 2003年7月21日, 甲幅27.50 m m, B : 2003年9月15日, 甲幅 29.85 m m, C : 2005年7月2 4日,甲幅3 1.90 m m, 0 : 2005年9月25日,甲幅33.50 m m, E : 2 00 6 年8 月12日, 甲 幅34.85 m m, F : 2006年10月28日, 甲 幅34.85 m m, G : 2007年9 月2 日 , 甲 幅 36.1 5 m m, H : 2008年3月2 3日,甲幅36.15m m
伊 藤 円 図4 シオマネキの雌の甲の模様2 . A : 2003年7月26日,甲幅22.10 m m, 8 : 2003年9月13日,甲幅 24.90 m m, C : 2005年10月10日,甲幅32.80 m m, 0 : 2006年6 月10日,甲幅32.80 m m, E : 2006 年8 月26日,甲幅34.35 m m, F : 2006年10月1 日, 甲 幅34.35 m m, G : 2007年9 月15日,甲幅 35.1 5 m m, H: 2008年6月7日,甲幅35.15m m
23
24 申の模様を活用したシオマネキの個体識別について
図5 シオマネキの雌の甲の模様3. A : 2003年9 月15日, 甲幅12.40 m m, B : 2004年9月20日, 甲幅 26.60 m m, C : 2005年6月12日,甲幅28.75 m m, 0 : 2006年4 月29日, 甲幅31 .1 0 m m, E : 2006 年10月28日, 甲 幅33.00 m m, F : 2007年10月7 日,甲幅34.45 m m, G : 2008年10月18日, 甲 幅 35.70 m m, H : 2009年6月7 日, 甲幅35.70m m.
伊 藤 円 図6 シオマネキ の雄 の 甲 の 模 綴 A : 2004年9 月20日, 甲幅26.65 m m, B : 2005年7月30日. 甲幅 28.80 m m, C : 2006年7月15日,甲幅31 .75 m m, 0 : 2006年10月28日, 甲幅34.20 m m, E : 2007 年6 月23日 , 甲 幅34.20 m m, F : 2007年9 月16日, 甲 幅34.20 m m, G : 2008年5 月4 日,甲幅 34.20 m m, H : 2008年7月12日,甲幅34.20m m 25
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甲の模様を活用したシオマネキの個体識別について- 2)
,同じ模様をした個体は少しずつ大き くなっ ていた( 図3 - 6 ). 調査地では生息数は30個体 未満であり ,観察の 同時性,性や大きさの相違, 雄であれば大甜脚の左右性と合わせて考えると , 閉じ模様の個体は同 一個体だと判断できる . 図3 - 6でみると ,必ずしも甲の模様は全く 同じでは なく,少しずつ変化しているが,特徴的な部分は あまり変わらないことが多く,個体識別に活用可 能と考えられた. ただし,この方法にも欠点や個体識別における 注意点がある ①個体数が多い場所では比較対象が多すぎる こ とと,すべての個体を撮影するのは困難なた め,適用するのは困難である . ② 甲幅数m m の小型個体で、は模様が不明瞭な ため個体識別はできない. ③ 甲の模椋は全く変化しないわけ で はないの で,観察する間隔はなる べく短くして ,特に 脱皮 したと思われるときには写真撮影を 確実 に行う必要がある 以上の欠点を考えると, 100 % 識別できるわけ ではないが,甲の模様を用いた識別方法は ,個体 数の少ない生息地での調査で,カニに 影響を与え ないで, 長期的に観察を続けるに は役に 立っと思 われた . 文 献 三宅貞祥, 1983. 原色日本大型甲殻類図鑑(II ). 保育社, 大阪 277 pp 和田恵次・西平守孝 ・風呂田利夫・野 島 哲 ・山西 良平 ・ 西川輝昭- 五嶋聖治 - 鈴木孝男・加藤 真 ・烏村賢正-福田 宏,1996. 日本におけ る干潟海岸とそこに生 息する底生生物の現状W W F Japan Science Report, 3:1-182