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新しく兄姉になる子どもと家族のクラス「赤ちゃんがやってくる」の実施と評価

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資  料

*1シブリングクラスを創る会(Sibling Preparation Classes Group)

*2聖路加看護大学看護実践開発研究センター(Research Center for Development of Nursing Practice, St. Luke s College of Nursing) *3聖路加国際病院(St. Luke s International Hospital)

2006年5月8日受付 2006年11月27日採用

新しく兄姉になる子どもと家族のクラス

「赤ちゃんがやってくる」の実施と評価

Implementing and evaluating a new sibling

preparation class for children and parents

中 村 紋 子(Ayako NAKAMURA)

*1

片 岡 弥恵子(Yaeko KATAOKA)

*2

堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)

*2

土 屋 麻由美(Mayumi TSUCHIYA)

*2

田 中 しのぶ(Shinobu TANAKA)

*3

矢 島 千 詠(Chihiro YAJIMA)

*1 抄  録  聖路加看護大学看護実践開発研究センターで始められた兄姉になる子どもが妊娠・出産,性について 学ぶクラス「赤ちゃんがやってくる」の概要と実施状況を記述し,クラスの前後で実施されているアン ケート結果を基に評価し,今後の課題を明らかにすることを目的とした。  2004年7月から2005年12月までに11回の実施により,合計89家族の参加があった。1回平均8.1家族, 25.9名の参加があった。参加した子どもの平均年齢は3.8歳であり,3歳児の参加が最も多かった。  クラス前アンケートから,参加した理由は「新しく兄姉となる子どもが赤ちゃんを迎える準備」「妊 娠・出産の理解」「立会い出産の準備」があげられた。親自身の「子どもに性(妊娠・出産を含む)につい て説明する際の準備」「上の子との関わり方を知りたい」という理由もあった。クラス後アンケートにて, クラスでよかったことは,「赤ちゃん人形の抱っこ」「人形による出産の劇」「紙芝居による妊娠・出産の 話」と回答された。親とのディスカッションの時間もよかったこととしてあげられていた。出産後のア ンケートによると,クラスの後,子どもたちは,「赤ちゃんのことをよく話すようになった」「お母さん のお腹に対してやさしくなった」「お母さんの手伝いをよくするようになった」などの変化があった。半 数が,「自然な形で出産について理解できた」「子どもの立会いがスムーズだった」とクラスを肯定的に捉 えていた。  これまで実施してきた「赤ちゃんがやってくる」は,おおむね肯定的評価を得たが,今後の課題とし ては,有効な広報活動,マンパワーの確保,クラスの評価方法の再検討の必要性が示唆された。 キーワード:兄姉になる子どものクラス,評価,助産師,経産婦

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mented and evaluated a program with the objective to prepare siblings for the birth of another sibling in the family. A total of 89 families enrolled in the program. Classes averaged 8.1 families representing the 25.9 participants. The average age of the attending children was 3.8 years old. Eleven classes were held from July 2005 to November 2005. A questionnaire evaluation was conducted before and after the class and again after the birth of the sibling.

Evaluation before classes began revealed that the main reasons for attending the class were to: (1) prepare older siblings for a new role, (2) understand the mechanism of pregnancy and childbirth and (3) join in the child-birth. In addition, parents reported they wanted to know how to explain sex and pregnancy/childbirth to children and how to care for older siblings after the baby was born.

Evaluation after the class ended indicated that the most impressive experiences were: (1) holding the life-sized baby doll, (2) a puppet show of childbirth and (3) a picture story showing the mechanisms of pregnancy/childbirth.

Evaluation after childbirth indicated that the children had changed after the class: (1) they talked about the baby more, (2) they were gentler toward their mothers' abdomen, and (3) they wanted to help their mothers a lot. Half of the parents answered that now children could naturally understand the process of childbirth and smoothly participate in the childbirth process.

Overall we received positive responses from participants. However it is important for the next phase that we examine approaches for more effective advertisement, adequacy of manpower and effectiveness of the evaluation method of the program.

Key words: sibling preparation classes, evaluation, midwife, multipara

Ⅰ.は じ め に

 近年,少子化のもたらす社会・経済への様々な影響 を指摘される中で,核家族などの家族概念の変化や親 の過干渉,子ども同士の交流の減少によって,小さい 者へのいたわりの心が培われない恐れ,マスメディア の影響による生命尊重に対する意識の変化などが懸念 されている。加えて,虐待,性暴力,青少年犯罪など の事件が相次ぎ(法務省法務総合研究所, 2005),性行 動の早期化(日本性教育協会, 2001),人工妊娠中絶の 増加(厚生統計協会, 2005)など,性を取り巻く環境が 大きく変化している。このような状況の中,性に関す る正しい知識や「性・生の大切さ」について,できる だけ早い時期から子どもたちへ伝える教育の必要性が 認識されている。  妊娠・出産は,「性・生の大切さ」を子どもたちに伝 える機会として注目されている。出産を題材とした 幼児または児童への性教育をはじめ(筆本, 2004;桑 原, 2004),子ども立会い出産(我部山, 2004;河谷ら, 2003),上の子どもへの出産準備教育(堀内, 2005)な ど様々な助産師の取り組みが報告されている。子ども たちが自分の身体に興味を持ち,性器を含め身体に関 する正しい知識を持つこと,出産の際の両親の気持ち や愛情に気づき命の尊さを再認識することが,これら の取り組みの共通の目標となっている。「自分は大切 にされてきた」との実感,つまり自分の存在が肯定さ れることで,他者を大切にすること,思いやりの心を 育むことができると考えられる。  また欧米では,子どもが出産に参加したり,出生後 できるだけ早く兄弟姉妹のコンタクトを推奨する病院 が増えたことにより,新たに兄姉になる子どもたち へのクラス(sibling preparation classes)の必要性が高 まっている。これらのクラスは,子どもたちの家族に おける新しい役割(兄姉になること)を促すこと,コー ピングスキルを養うこと,生まれた弟妹そして自分へ の肯定的な感情を高めるために有効であることが示唆 されている(Bartlett, 1999)。日本においても欧米と同 様の傾向がみられる中,兄姉となる子どもたちの準備 クラスの需要は高いと考えられる。  聖路加看護大学看護実践開発研究センター(以下, 研究センターと示す)では,「赤ちゃんがやってくる」 という新しく兄姉になる子どもたち(主に幼児)とそ の家族を対象とした試みを2004年7月から開始した。 このクラスは,子どもたちが,妊娠の成り立ちや出産 について学び,弟妹を迎える準備ができること,自分 や他者の命の大切さを知ることを主な目的として実施 されている(片岡, 2005)。  本稿は,「赤ちゃんがやってくる」についての概要を 記述し,実施状況およびクラスの前後,出産後に実施 されているアンケートの結果を基に評価し,よりよい

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新しく兄姉になる子どもと家族のクラス「赤ちゃんがやってくる」の実施と評価 クラスを創るために今後の課題を明らかにすることを 目的とした。

Ⅱ.「赤ちゃんがやってくる」の内容

1.クラスの概要  クラスの目的は,新しく兄姉になる子どもたちが, 妊娠・出産のプロセスについて学び,弟妹を迎える準 備ができると同時に,自分の存在を肯定し,性・生を 大切にする気持ちを育むこととした。さらに,第2子 以降の出産をひかえた妊婦とその家族が悩みや不安を 共有し,安心感を持つことまたは解決の糸口をつかむ ことを第二の目的とした。クラスの参加者は,これか ら兄姉になる子ども(主に幼児),母親(妊婦),父親, 祖父母等を含む家族で,1回の参加家族は10組程度に 設定した。月に1回土曜日の午前中に開催し,参加費 は1家族2,000円とした。場所は,研究センターの1室 を使用した。  企画および実施の中心となっているのは,助産師3 名(開業助産師1名,大学教員2名)ならびに看護・助 産学生数名であるが,医療施設に勤務する助産師が ボランティアとして参加しており,1回10名程度のス タッフで行った。  クラスの広報の方法は,年に1回首都圏の医療施設 に配布している研究センターの催し物案内への掲載, ポスターおよびリーフレットの配布,大学および子育 てサイトへの掲載を依頼した。さらに,このクラスの 様子が新聞( 上の子を出産に , 2005;高橋, 2005)に 掲載されたことも広報につながった。  表1に「赤ちゃんがやってくる」の概要を示した。ク ラスは,全体で1時間30分に設定し,前半の40分は子 どもたちへのクラス,後半の50分は親とのディスカッ ションの時間とした。 2.クラス運営の工夫 1 )初めて出会う子どものための優しい場づくり  クラスの会場は,子どもにとって初めて訪れる場所 であるため,できるだけ緊張を和らげるために,やさ しい配色のクッションやカーペットを敷き,音楽を流 し,子どもの目線の高さに好みのイラストやキャラク ターを飾っている。入り口から会場までは子どもが 入って行きやすいように,犬の足跡を配置した。  子どもが見知らぬ環境や不慣れな人に戸惑うので, 会場にはぬいぐるみやおもちゃなどを用意しておき, クラスが始まるまでスタッフが一緒に遊んで導入する 工夫をしている。また,室温調節に配慮し,季節に応 じた飲み物を必要時飲めるように用意した。子どもの 参加賞として提供しているお菓子は,誤飲しにくいも のや添加物・アレルギーを考慮したものを選んでいる。 2 )子どもたちの興味をひく教材  教材は,紙芝居,実物大の新生児人形,布製の胎児 人形など,子どもが興味を持って「見る・触れる」こ とができるようなものを選んでいる。新生児人形は, 子どもの参加者の人数分用意し,みんなが触れられる よう配慮する。人形に触れたがらない子どもには,無 理強いせず見守る雰囲気をつくり,いつでも触れるこ とができるよう配置しておく。教材は,はじめから全 部を見せてしまうと遊んでしまうので,プログラムの 進行に合わせて,小出しに紹介している。子どもたち にとって,直接目で見ることができない胎児を実感し てもらうために,妊娠週数に応じて塩,大豆,胎児人 形を用いて,その大きさを示している。 3 )子どもの集中力を高める工夫  子どもの集中力の持続は30∼40分程度であるので, 飽きないようにクラスがテンポよく展開するよう計画 した。クラスが始まる時には,それまで遊んでいたお もちゃを片づけ,話をする助産師の周囲へ子どもたち に集まってもらう。子どもに問いかける時は,名札を 見て名前を呼ぶようにし,できるだけすべての子ども に注意を向ける。年齢によっては,途中で集中力が途 切れてしまうことがあるが,その際はスタッフと一 緒に一旦部屋を出るなど気分転換を促し,他の子ども にも配慮する。紙芝居の始まるときに拍子木を用いる など子どもたちの注意を引くような工夫を盛り込んだ。 また,スタッフの数が参加者の子どもの数よりも多い と子どもが萎縮してしまうので事前に調整した。 3.親とのディスカッションの時間  子どもたちへのクラス終了後,親とのディスカッ ションの時間を50分設けている。その間,子どもた ちはまず親と同じ部屋で紙芝居や絵本を見て過ごし, その後慣れてきたら別室で,スタッフと紙芝居や歌, ゲーム,リズム体操などをして過ごしている。子ども と親の双方に不安がなく過ごせるよう工夫した。親と の時間では,助産師から,上の子どもとの関わり方, 子ども立会い出産,生まれてからの子どもの反応(特 に赤ちゃん返りについて)を説明し,クラス前に記入 してもらったアンケート中の「クラスに対する希望・

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受付 10:00∼ 名札の配布とアンケートへの記入を依頼する。 子どもたちへのクラス(10:30∼11:10) 担当者の紹介 20分 担当者の自己紹介と助産師の仕事について説明する。 自分が生まれた時 の話 上の子が生まれた時のお母さんの気持ちは,どのようなものだったかを伝える。 生 ま れ て く る 赤 ちゃん 子どもたちが交代で実物大の赤ちゃん人形(男の子・女の子)を抱く。 コーケンベビー(高研) 赤ちゃんと自分の 体の違い ①衣服を脱がせながら観察:自分の体と赤ちゃんの体の違いに気付かせる。(髪・目・耳・鼻・口・歯・首・指・腹・足・臍) ②男の子と女の子の体の違い(性器)について説明する。 ③おしっこの穴・ウンチの穴・赤ちゃんが通ってくる穴(女の子) について説明する。 赤ちゃんが生まれ るまでのプロセス 15分 ①妊娠の成り立ち,出産について説明する。・妊娠の始まり(卵子と精子との受精)について,精子・卵子・ 受精卵のペープサートを用いる。 ②塩粒,大豆,3ヶ月・5ヶ月・6ヶ月・8ヶ月の胎児モデルで, 胎児の発育を説明する。子どもたちは,それぞれのモデルに触 れることができる。その際,胎児と胎盤・臍の緒の関係も伝える。 ③人形(妊婦と赤ちゃん)を用いての劇にて,出産の流れを伝える。 あかちゃんが生まれるよ! パネル8枚組(アーニ出版) 塩粒・大豆 いのちの不思議セット・ ペープサート(アーニ出版) 胎児モデル「ふうちゃん」 (京都科学) おかあさんとあかちゃん人 形(アーニ出版) まとめ 5分 「誰もが大事にされて育つ・みんなが大事・わたしも大事・あな たも大事」という内容を伝える。 参加賞(メダル・シール・お菓子) 親とのディスカッション(11:15∼12:00) ディスカッション 35分 ①助産師が以下の事項について説明する。 ・上の子どもとの関わり方 ・子ども立会い出産について ・生まれてからの子どもの反応(主に,赤ちゃん返り) ②アンケートの質問に答える。 ③話し合い中,随時質問を受ける。 ④参考図書リストを配布し,説明する。 *子どもは室内で,スタッフと紙芝居・ゲームをして過ごす。 参考図書リスト VTR 10分 「みんな生きている」(NHK放映) アンケート記入 5分 クラス終了後アンケートへの記入後,終了する。 写真1 胎児人形 写真2 紙芝居

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新しく兄姉になる子どもと家族のクラス「赤ちゃんがやってくる」の実施と評価 質問」やその場ででた質問に関する内容を盛り込んで いる。最後に,以前クラスに参加し家族で出産を迎え た方のVTR(NHK放映)をみて,上の子どもとの関わ り方や出産の具体的なイメージをもってもらう。

Ⅲ.アンケートの方法

 参加者のニーズや現状を把握し,よりよいクラスを 展開していくために,「赤ちゃんがやってくる」では3 回のアンケート(クラス前アンケート,クラス後アン ケート,出産後アンケート)を実施してきた。本稿は, クラスを開始した2004年7月から2005年12月の合計 11回で得たアンケートの結果を分析した。  アンケートの実施方法としては,1家族に1部をクラ ス開始前に配布し,代表者に回答してもらった。クラ ス前アンケートはクラスが始まる前に記入して手渡し にて回収した。クラス後アンケートは,クラス終了後 に記入してもらい,手渡しまたは回収箱にて回収した。 出産後のアンケートハガキは持ち帰ってもらい,出産 後に記入し投函を依頼した。  アンケートの内容を表2に示した。クラス前アンケー トは,参加理由,子どもから受けた妊娠・出産・性に 関する質問,妊娠・出産・性について子どもと話すこ とに抵抗があるか,クラスに対する希望・質問などの 質問項目が含まれている。クラス後アンケートは,ク ラスでよかったこと,もっと聞きたかったこと・やっ てほしかったこと,クラスに対する感想・意見をすべ て自由記述で回答してもらった。出産後アンケートで は,クラスの後の子どもの様子,クラスにでて役に立っ たこと,逆に困ったことを自由記述で,出産に子ども が立ち会ったかについて,「はい」「いいえ」で回答を求 めた。  分析方法としては,選択式の質問項目は記述統計量 を算出し,自由記述の項目については,複数の内容が 含まれていたので,2名の研究者(AN, YK)で類似の内 容に分類し,その内容ごとに回答した合計人数を算出 した。  倫理的配慮として,質問用紙への回答は,自由意志 によること,承諾しなかった場合も不利益を被らない ことを口頭で説明し,質問紙の回収をもって承諾とみ なした。クラス前後のアンケートは,個人を特定する 情報は含まれておらず,回答者の匿名性は守られた。 出産後アンケートは,ハガキであったため,回答者の 住所および氏名が書かれているものもあったが,デー タ入力の際に削除した。なお,写真の撮影と公表につ いては,クラス開催前に口頭にて了承を得た。

Ⅳ.結   果

1.「赤ちゃんがやってくる」の参加状況  表3にクラスの実施年月ならびに参加人数を示した。 11回の開催で合計89家族の参加があり,1回平均8.1家 族(最小4∼最大15家族),1回平均参加人数25.9名(最 小11∼最高42名)であった。子どもは,1回平均9.3名(最 小5∼最高18名)の参加があり,平均年齢3.8歳(最低 1歳11ヶ月∼最高10歳)で,3歳が最も多く,続いて4歳, 2歳であった。母親は1回平均8.0名(最小5∼最大15名), 父親は1回平均5.9名(最小2∼最大11名)の参加があっ 表2 アンケートの内容 クラス前アンケート 1.クラスに関する情報の入手先 2.参加理由 3.これまでに子どもから受けた妊娠・出産・性に関 する質問 4.妊娠・出産・性について子どもと話すことに抵抗 があるか 5.クラスに対する希望・質問 クラス後アンケート 1.クラスでよかったこと 2.もっと聞きたかったこと・やってほしかったこと 3.クラスに対する感想・意見 出産後アンケート(はがき) 1.クラス後の子どもの様子 2.クラスにでて役にたったこと 3.クラスにでて困ったこと 4.子ども立会い出産をしたか 表3 参加状況 実施年 月 参 加 者 家族数 子ども(人数)(人数)母親 (人数)父親 (人数)その他 2004年 7月 12 13 12 11 9月 5 6 5 3 11月 11 14 11 8 2005年 1月 8 8 7 6 2月 15 18 15 9 祖母1 5月 4 5 4 2 6月 4 5 4 4 祖母1 7月 5 6 5 5 9月 6 7 6 5 11月 10 10 10 9 12月 9 10 9 5 祖母2 合計 89 102 88 67 4

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2.アンケートの結果  11回のクラスにて,クラス前後,出産後アンケートは, 88家族に配布した(配布率99%)。 1 )クラス前アンケート  クラス前アンケートは,87名から回収した(回収 率99%)。その内の83名がクラスに参加した理由(自 由記述)について回答した(表4)。参加理由の主体は, 子ども,親自身,家族に分類された。子どもの理由で は,「赤ちゃんを迎える準備」と回答した者が最も多く (37名),続いて「妊娠・出産の理解」(14名),「子ども 立会いの準備」(9名)であった。親自身の理由では,「子 どもに性について説明する際の準備」(7名),「上の子 との関わり方を知りたい」(6名)などがあった。家族 の理由としては,「家族みんなで赤ちゃんを迎える準 備」(4名),「親子でよい時間を過ごすため」(4名)があ げられた。  「これまで,妊娠・出産(性について含む)について 子どもから質問されたことはありますか?」という質 問に対しては86名が回答しており,そのうちの46名 (53.5%)が「はい」,40名(46.5%)が「いいえ」と回答 した。子どもからの質問内容で最も多かったのは,出 産のプロセスに関する質問で,「赤ちゃんはどこから 出てくるの?」または「赤ちゃんはどうやって生まれ るの?」であった(22名)。次に妊娠のプロセスについ ての質問で,「赤ちゃんは,どこから来るの?」また は「赤ちゃんは,どうやってきたの?」であった(15 質問もあった(12名)。さらに,「どうしてたまたまが あるの?」といった自分の性器に関する質問もあった (2名)。  「妊娠・出産について子どもと話すことに抵抗はあ りますか?」という問いについて,70名(85.4%)が「い いえ」と回答し,12名(14.6%)が「はい」と回答され,5 名が無回答であった。  クラスで特に聞きたい内容としてあげられたのは, 「どうやって赤ちゃんは生まれてくるのか」「どのよう に授かるのか」「子どもに立会い出産をさせて大丈夫 なのか」「出産後の上の子との関わり方」「赤ちゃん返 りの対応法」などがあげられていた。 2 )クラス後アンケート  クラス後アンケートには,75名から回収した(回収 率85%)。クラスで良かったことについて,子どもへ のクラスの中では「赤ちゃん人形の抱っこ」(35名)「人 形による出産の劇」(22名)「紙芝居による妊娠・胎児 の成長の話」(21名)があげられた。また,44名が「親 とのディスカッションの時間が設けられていたこと」 と回答した。クラスの実施方法について「子どもに理 解しやすい言葉での説明」(12名)「親子で一緒にクラ スを受けることができたこと」(10名)「子どもの世話 をするスタッフがいたこと」(6名)もあげられていた。  もっとやってほしかったことについては,「父親の 役割に関する話」(5名)「絵本のリストやレジュメがほ しい」(5名)「産後の生活について説明」(5名)「沐浴や オムツ替えの練習」(4名)「子どもの立会い出産に関す る事例の紹介」(4名)「人形に触れる時間を増やす」(3 名)「子どもの質問時間の設定」(3名)などがあげられ た。 3 )出産後アンケート  出産後アンケートのハガキは,35名から回収した (回収率40%)。クラス後の子どもの様子について表5 に示した。「赤ちゃんのことをよく話すようになった」 (24名)「お母さんのお腹に対して優しくなった」(23 名)「お母さんの手伝いをよくするようになった」(8 名)「赤ちゃん返りをした」(5名)「特に赤ちゃんに対し て興味を示していない」(2名)と回答された。その他 1名ずつではあるが,「自分の生まれたときのことを聞 いてくる」「赤ちゃんの人形で遊ぶようになった」「決 めたことを守るようになった」「変化はない」という回 答もあった。 表4 クラスへの参加の理由(複数回答) N=83 参 加 理 由 人数 上の子ども 赤ちゃんを迎える準備 37 妊娠・出産の理解 14 子どもの立会い出産の準備 9 正しい性の理解 6 子どもの経験のため 5 親(自身) 子どもに性について説明する際の準備 7 上の子との関わり方を知りたい 6 クラス参加時の子どもの反応を見たい 5 赤ちゃん返りの対応法の理解 3 家族 家族みんなで赤ちゃんを迎える準備親子で良い時間を過ごすため 4 4 その他 第2子を授かったため知人の勧め 3 3 他には,上の子向けのクラスがなかった 2 無回答 4

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新しく兄姉になる子どもと家族のクラス「赤ちゃんがやってくる」の実施と評価  「振り返ってみて,クラスで役に立ったことはあり ますか」という質問への回答については,「自然な形で 出産について理解できた」が13名でもっとも多かった。 「子どもの立会いがスムーズだった」と8名が回答して おり,「クラスで学んだことを実際の出産で体験し感 激したようだった」「出産のとき腰をさすってくれた り,声をかけてくれたりした」との記載もあった。また, 4名が「上手に下の子を世話することができた」と回答 した。「抱っこの仕方を練習したのでよく覚えていて, 生まれてからもよく抱っこしてくれる」「クラスに参 加し自信を持ったようだ。生後2週になったが,オム ツのチェックや片付けを率先してやってくれる」との 記述があった。また,9名が「子どもたちに説明のしか たがわかり,出産について話しやすくなった」と回答 していた。「説明に肩に力を入れることなく自然体で 話せたこと,生まれてくることを娘と楽しんで話せた ことなど参加前とはまるで違った見方ができるように なった」と記述している。  「クラスを受けた後困ったことはありますか」とい う質問への回答について,19名は「特になし」,2名は 「性器に興味を持つようになったこと」と記述されて いた。  出産に子どもは立会いましたかという質問への回答 について,24名(71.0%)が「立ち会った」,10名(29.0%) は「立ち会わなかった」と回答し,1名が無回答であっ た。

Ⅴ.考   察

1.「赤ちゃんがやってくる」の評価 1 )子どもたちの変化  参加者の受講理由として多かったのは,「赤ちゃん を迎える準備」「妊娠・出産の理解」「子ども立会い出 産の準備」であり,これらの内容は,クラスの目的と ほぼ一致していた。また,受講者にとって特に聞きた い話の内容についてもほとんどクラスに組み込まれて おり,受講者のニーズにあったクラスが行われていた と判断してよいだろう。  クラス後アンケートにてよかったこととして,「赤 ちゃん人形の抱っこ」「人形による劇」「紙芝居」があげ られたことは,子どもの興味をひく教材を用いて,子 どもたちの実感を重視した肯定的な結果として解釈で きる。特に実物大の赤ちゃん人形の抱っこは,実際の 赤ちゃんをイメージするだけではなく,自分と赤ちゃ んの体や機能の違いを探すことを通して,赤ちゃんに は世話が必要なことを理解できるように解説したこと が,子どもたちの納得につながったのではないかと推 測される。  出産後アンケートにて,クラスで役に立ったこと はという質問の回答に,「自然な形で出産について理 解できた」が多くあげられていた。回答者の7割強が, 子どもを含めて家族で出産を迎えていた。クラスの中 で「人形による出産の劇」を見ることによって,子ど もたちが出産の流れを理解し,出産における自分たち の役割を見出すことによって,陣痛時の母親の様子や 分娩の雰囲気に緊張せずに,出産を迎えることができ たのではないかと予測される。立会いはしなくても, クラス後の子どもの変化として「赤ちゃんのことをよ く話すようになった」「お母さんのお腹に対して優し くなった」という回答が多かったことから,クラスが 子どもたちの弟妹を迎える心の準備や赤ちゃんがいる 生活への適応を促していると考えられる。子どもたち にとって,弟妹が生まれるということは,自分の存在 が脅かされるなどの葛藤やストレスを生み出す場合 がある(Drlgiudice, 1986;Murphy, 1993;大月, 2002)。 弟妹の誕生を家族でともに喜び合うことができ,家族 の絆を強めること,今後の家族の発達に向けてのクラ スの貢献の可能性が示唆された。 2 )親の変化  クラス前アンケートにおけるクラス受講理由で「上 の子との関わり方を知りたい」があげられ,さらにク ラス後アンケートのよかったこととして「親とのディ スカッションの時間が設けられていたこと」と多くが 回答していたように,クラスの中で親との時間を十分 に(50分間)とり,上の子との関わり方や子どもの立 会い出産について話合うことができたことは,クラス 表5 クラス後の子どもの様子(複数回答) N=35 参 加 理 由 人数 赤ちゃんのことをよく話すようになった 24 お母さんのお腹に対して優しくなった 23 お母さんの手伝いをよくするようになった 8 赤ちゃんがえりをした 6 特に赤ちゃんに対して興味を示していない 2 自分の生まれたときのことを聞いてくる 1 赤ちゃんの人形で遊ぶようになった 1 決めたことを守るようになった 1 変化なし 1

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したことも,安心して話し合いに参加できた理由であ ろう。  これまでの報告(及川, 2001;浦川, 2003)では,家 庭で性についてどのように話してよいかわからない親 が多いという傾向が示されていたが,本研究の結果で は,参加者の多くが妊娠や出産そして性について子ど もと話すことに抵抗はないと回答していた。クラスに 参加した家族は,性教育に対する意識が高いと言える かもしれないが,出産後アンケートにて,子どもたち への説明の仕方がわかり,出産について話しやすく なったとあるように,クラスの内容は,その後家庭で の性教育に生かしていける可能性が期待できる。  また,現状では出産準備クラスの多くは初産婦に 対するものが多く,第2子以降の経産婦へのクラスは あまり実施されていない。経産婦は,妊娠・出産・ 子育てに関する経験および知識が豊富であるためと考 えられるが,実際には,妊娠中から育児に対する不安 や負担感を持っていることが報告されている(藤田, 2002;都筑, 2001)。第2子以降の母親が抱える育児不 安や心配事に対応するためにも,クラスの内容は役 立っていると考えられる。  もっとやってほしかったこと,という質問に関する 回答に,「沐浴やオムツ替えの練習」「父親の役割に関 する話」などがあげられており,クラスの目的と参加 者が求めている内容が異なっているところが見られた。 「沐浴やオムツ替えの練習」については,子どもの集 中力等を考えると時間内で実習を行うことは難しいが, 実習的な要素を少しずつ子どもへのクラスに取り入れ ていく工夫が必要であろう。「父親の役割に関する話」 については,父親の参加率が高いという特徴から親の 話し合いの内容に取り入れていくことを検討する。な お,「絵本のリストやレジュメがほしい」「産後の生活 について説明」については,その度対応していった。 2.今後の課題 1 )クラスの運営  2004年7月から11回開催してきたが,参加家族数は, 少ないときで4組,多いときで15組であった。これに は,クラスの広報が関係していると考えられる。初期 の頃は,子育てサイトへの掲載,新聞記事があると参 加希望者が増えるという傾向にあった。9月以降安定 した参加者数となってきているのは,徐々にクラスの 日記や子育てサイトにおける口コミ情報は,着実に情 報が広がる可能性を生み出しているようである。今後 も安定したクラスの運営のため,必要な人に情報が届 くような広報の方略を考えていかなくてはいけない。  本稿の「赤ちゃんがやってくる」は,主に幼児を対 象としたクラスであり,家族全員の参加が多いため, 実施の際にマンパワーが必要となる。これまで,ほと んどのスタッフはボランティア(無償)でまかなって いる。1回の参加費は,1家族2,000円に設定したため, 1回約20,000円の収益となる。このままでは,ボラン ティアスタッフの謝金や交通費も捻出することが困難 である。参加費を上げるまたは実施に際して補助金を 取得するなどの検討が必要である。また,必要なマン パワーを確保するために,学生の実習・研究活動の一 環としてクラスを位置付けること,医療施設との連携 体制の強化に取り組む必要がある。クラスを担当でき るスタッフの育成も課題の一つである。  クラスに参加した子どもの年齢層は,1歳11ヶ月か ら10歳までと幅広い。河合ら(2003)は3歳未満とそ れ以上では立会い分娩の前後の行動変化にほとんど 差がなかったことを報告しているが,幼児期と学童期 では,理解力および判断力が異なっているため,それ ぞれの参加者にとって,充実した内容とするためにも, 参加者の年齢をある程度分けて行うことが必要である と考えられる。 2 )クラスの評価方法  クラス前後のアンケートは,これまで参加家族に1 部を配布し,記入者を限定していなかった。これまで 実施したどの回も父親の参加率が高く,祖母の参加も みられた。父親や祖母の期待するものは何か,クラス に参加してみての感想など記入者以外の家族へのアン ケートの実施を考慮していく必要があるだろう。これ らはクラスの評価のみならず,家族で向かえる出産に 向けての貴重なデータとなると考えられる。  また,クラスにおける子どもおよび親の様子の参加 観察,参加後の子どもの様子に関する詳細な情報を得 るためのインタビューなど,現在のアンケートでは不 足する詳細なデータを今後収集および分析し,クラス の内容や方法論の適切性,さらなる工夫を見出してい く必要がある。  クラスの評価は,本来設定した目標の達成度で測定 する必要がある。クラスの目標は,参加した子どもた

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新しく兄姉になる子どもと家族のクラス「赤ちゃんがやってくる」の実施と評価 ちが妊娠や出産に関する正しい知識を持つこと,弟妹 を迎える準備ができ,自分そして弟妹の生・性を大切 にする心を養うこと,そして,妊娠中の母親の不安を 軽減することを掲げている。これらの目標の達成を評 価するための適切な指標を考案し,その効果が示す前 向き研究も視野に入れる必要がある。その評価によっ て,今後のクラスの改善点が詳細に考察される可能性 があり,クラスの効果を社会に示す手段を見出すこと ができるだろう。

Ⅵ.結   論

 「赤ちゃんがやってくる」は,1回平均8家族程度の 参加があり,安定した開催が達成されつつある。クラ スの内容は,参加理由から参加者のニーズに合致して いることがわかった。クラス後の子どもたちの反応は, おおむね肯定的であり,クラスが弟妹を迎える準備の 機会となる可能性が示唆された。今回得られた評価を 基に,よりよいクラスを目指して問題点を改善し,広 く一般に普及する必要性が考察された。 文 献

Bartlett, L., & McGrath, J.M. (1999). Children’s Responses to the Birth of a Sibling: Interventions to Assist the Family in Transition, Family Care, 4(4), 19-25.

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