●クロアチアにおける投資環境について
2007年2月にクロアチア経済会議所と在クロアチア日本大使館との共催で「日本・クロアチア 貿易投資セミナー」が開催された。日本とクロアチアとの経済面でのつながりを高めるため開催 された当セミナーでは、ヴランコヴィッチ経済副相やミカッツ投資庁長官、現地日系企業をはじ め各方面からクロアチアに関する報告が行われた。今回は、そちらで得た知見について報告する。 なお、本レポート中の図および表はセミナーでの配布資料を中心に取りまとめたものである。 クロアチア地図11.クロアチアの政治および経済状況
2 クロアチアは、人口444万人(2001年)、面積は5万6,500km2(九州の約1.5倍)であり、CEFTA (Central European Free Trade Agreement:中欧自由貿易協定)の1国である。1991年にユーゴ から独立宣言を行い、1995年にはほぼクロアチア全土に施政権が樹立された。2003年2月にEU 加盟申請を行い、2005年10月よりEU加盟交渉が開始されている。EU加盟に向けて、広範な制度 改革が必要といわれており、特に裁判所の改善、登記制度の整備、行政の効率化、環境問題への 取り組み、農業改革等が重要課題となっている。 経済概況は、クロアチアは旧ユーゴ時代の経済先進地域であったが、1991年独立後に中央銀行 の設立、民営化法の制定等を行ったが、紛争およびそれに伴う難民・避難民の流入により経済は 大幅に落ち込んだ。1993年10月にインフレおよび財政赤字抑制のための経済安定化政策を実施し、 これにより1994年以降マクロ経済は比較的安定している。以下に主要な経済指標を示す。 1 出典:http://www.sitesatlas.com/Maps/Maps/521.htm 2 同項は、中東欧政治経済概況(ジェトロ・ウィーンセンター発行)も参考にしている。2002 2003 2004 2005 実質GDP成長率 (%) 5.2 4.3 3.8 4.3 GDP総額 (100万kuna) 179,390 193,067 207,082 229,031 消費者物価上昇率 (%) 1.8 1.7 2.1 3.3 失業率(期末値) (%) 22.3 19.2 18.0 17.9 輸出額 (100万ドル) 4,904 6,187 8,022 8,809 輸入額 (100万ドル) 10,722 14,209 16,587 18,547 経常収支 (100万ユーロ) ▲2,097.2 ▲1,866.2 ▲1,458 ▲1,963.6 対外債務 (100万ユーロ) 15,054.8 19,810.6 22,780.6 25,507.6 FDIインフロー(100万ドル) 1,212.9 2,132.9 1,242.8 1,328 出所:統計局、中央銀行、ウィーン国際比較経済研究所 貿易については、輸出入とも貿易が増加しているものの、貿易赤字も増加している傾向が続い ている。最大の貿易相手国は輸出入ともイタリアである。第2位は、輸出相手国ではボスニア・ ヘルツェゴヴィナ、輸入相手国ではドイツである。対外貿易については、輸出入ともEU25ヵ国 が占める割合が圧倒的に高い。 対日関係については、輸出入とも2001年と比較すると数倍に増加している。主な貿易品目は、 輸出では自動車、原動機、通信機等であり、輸入では魚介類が75%程度を占めている。以下に、 2001年からの貿易額を示す。 2001 2002 2003 2004 2005 日本の輸出 7,994 10,378 24,231 26,798 30,213 日本の輸入 28,116 56,716 64,255 65,232 58,477 収支 ▲20,122 ▲46,338 ▲40,024 ▲38,434 ▲28,264 単位:千ドル
2.クロアチアの投資環境
クロアチアの労働コストは、EU-15と比較すれば低コストであるが、中東欧の他諸国と比較 すると高い(図1参照)。しかしながら、これはあくまでもクロアチア国内平均であり、クロアチ ア国内でも地域差があるようだ。労働力の質については、総じて高いと予想され、英語を話す人 口が49%と他諸国と比較しても高い(図2参照)。電気、ガスに関するコストについても他諸国と 比較しても安い(図3,4参照)。 次に、物流面であるがEU市場への輸送が最も重要視されるであろう。クロアチアは他地域と 比較しても輸送インフラが整備されている(図5参照)。また、現在再開発中のリエカ港が完成す れば、スエズ運河経由の中東欧地域をはじめとした欧州各地域への輸送時間が大きく短縮される と予想され、非常に重要な物流拠点となるであろう(次項にリエカ港位置記載)。 また、投資環境では現地企業サプライヤーの技術レベルおよび集積度合いが重要であるが、ク ロアチアにも元来製造業があり、評価されている企業もある。ただし、詳細については調査する 必要があるだろう。今後期待される分野として製薬分野、バイオテクノロジー分野が挙げられ、 また再生可能エネルギー分野や金属分野などに投資可能性がある。 政府および地方自治体における投資支援であるが、クロアチアには15の自由貿易地域があり(図 6参照)、また企業推進地域も全国各地に存在しており、投資インフラの整備や税制優遇といった インセンティブが受けられるようになっている。クロアチアには貿易投資庁があり、地域投資環 境の経済面、法律面での情報や自由貿易地域や工業団地を通した指導、土地のデータベースの利用等を提供し、行政上手続きや各種優遇策、投資プロジェクト全般に関わる支援を行っている。 最後に、ジェトロが行ったアンケートによると、在欧日系企業の多くは今後クロアチアを含む 中欧自由貿易協定諸国の売り上げ拡大を計画している。しかしながら、中欧自由貿易協定諸国の 投資に関する情報は不足している。情報が少ないために、魅力ある投資先でありながら物理的だ けでなく心理的にも距離感を感じているようである。そのため、もっと積極的に情報発信を行う ことが非常に重要である。 844 639 638 591 448 268 243 1,157 178 163 126 3,134 0 200 400 600 800 1,000 1,200 Sloveni a Cro atia Czec h Hung ary Polan d Slov akia Rom ania Russ ia Chin a Bulg aria Ukra ine EU15 Euro/Month 図1 クロアチアと他諸国の平均賃金比較(単位:ユーロ/月) 図2 クロアチアと他諸国の英語を話す人口比率(単位:%)
Electricity prices - Industry ( in Euro per kWh), 2006 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09
Bulgaria Poland Croatia Slovenia Czech Republic
Hungary EU (25 countries)
Romania Slovakia
図3 クロアチアと他諸国における電気価格比較(2006, 単位:ユーロ/kWh)
Gas prices - Industry (in Euro per Gigajoule), 2006
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0
Bulgaria Romania Croatia Poland Slovenia Czech Republic Slovakia Hungary EU (25 countries)
図4 クロアチアと他諸国におけるガス価格比較(2006, 単位:ユーロ/GJ)
Highways - density per total surface (km/km2)
0.000 0.004 0.008 0.012 0.016 0.020 0.024 0.028
Romania Poland Slovakia Hungary Bulgaria Czech Republic
Croatia Slovenia
図5 クロアチアと他諸国の高速道路密度(単位:km/km2)
図6 クロアチアにおける自由貿易地域(15ヵ所)
3.クロアチアでの体験談(リエカ港の開発)
今回、クロアチアで実際に事業を展開している日系企業から報告があったが、今回はリエカ港 開発に携わっている鹿島建設の方より報告があったためそれについて報告する。 リエカ港は、ザグレブから南西へ約160km離れたアドリア海の都市であり、現在港湾施設の再開 発が行われている。鹿島建設はその開発工事を担当しており、それが完成すれば従来スエズ運河 から地中海を経由して北海の港湾施設から欧州各地域へ運ばれていた物流網が、アドリア海経由 で中東欧もしくは西欧諸国へ運ばれることになるため非常に重要視されているインフラ設備の1 つである。 図 リエカ港の位置およびリエカ港からの欧州地域へのアクセスリエカ港は、100年前に建設された港湾施設で非常に古い。そのため、施設も十分でなく大型船 が入港することができない。しかしながら、新埠頭が完成すればそういった問題も解消され、欧 州およびクロアチアにおける玄関口になるものと予想されている。契約金額は、約4,000万ドルで あり、工期は2006年1月から2009年5月までの40ヵ月間である。 今回、クロアチアにおける登録手続きやビザ申請の煩雑さを中心に報告された。以下に主要な コメントを箇条書きで示す。 ¾ 工事を始めてから、技術面でのトラブルがあり苦労しているが、どの現場でも予期せぬトラ ブルは経験する。 ¾ 技術面でのトラブルよりもむしろ、新会社申請および労働ビザの手続き面で非常に苦労して いる。これは、クロアチアで会社登録を行う最初の日系企業だからであろう。 ¾ クロアチアで建設事業を始めるためには、登録する必要が法律で定められている。当初、提 出すべき書類を理解するのが非常に困難であり、結局この登録を完全に済ませるのに3ヵ月 を要した。 ¾ 会社登録における全ての書類はクロアチア語に翻訳する必要があり、クロアチアの会社代表 者はクロアチア人か永住ビザ取得者に限られている。 ¾ 3ヵ月以上滞在するものに対しては労働ビザ申請が必要であるが、その取得にも非常に手間 取った。提出先である警察窓口は常に混雑しており、その窓口担当の方も提出書類について あまり明るくなく、何度も通訳を連れて訪問しなければならなかった。もちろん、その度に 現場を離れなければならず、結局数ヵ月を要してやっと登録することができた。 ¾ この登録手続きは毎年行う必要があり、提出書類を減らすといった、ビザ手続きの簡素化を 切に希望する。 ¾ クロアチアは、イタリアをはじめEU諸国に距離的にも近く、投資に関しても魅力のある国 である。また、クロアチア人は残業も厭わないような勤勉さを持ち、英語がたんのうなエン ジニアを雇用することが可能である。 ¾ そのため、各種手続きの煩雑さをできるだけ低減することが、日系企業の投資を促進させる であろう。日本大使館およびクロアチア担当省もこのような手続きの簡素化に向けて支援し てもらいたい。