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外国民事訴訟法研究(42)

外国民事訴訟法研究会

(代表者 加 藤 哲 夫)

ドイツ倒産法制の改正動向( 3 )

松 村 和 德

棚 橋 洋 平

内 藤 裕 貴

谷 口 哲 也

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ドイツ倒産法制の改正動向( 3 )

松 村 和 德

棚 橋 洋 平

内 藤 裕 貴

谷 口 哲 也

4 .倒産開始手続の改正と債権者自治の強化 ( 1 ) 改正の趣旨  2012年倒産法改正(ESUG)においては,開始手続における債権者の影響力 の強化もまた,その目的の一つにされた。改正前の倒産法によれば,債権者 は,原則として,倒産手続の開始後に初めて,債権者委員会や債権者集会を通 して影響力を有するに過ぎなかった。すなわち,開始手続に債権者が関与する 機会は倒産法に定められていなかったのである。しかし,開始手続において直 ちに,債権者が影響力を有すべきことが,主張された。なぜなら,企業の再建 は,債権者の協力なしには不可能であるからである。実際上も,その継続に関 する経済的判断,スポンサーとの交渉,仮の倒産管財人の選任などは,倒産手 (目次) Ⅰ.研究の目的 Ⅱ.ドイツ倒産法における近時の改正動向の概要 Ⅲ.会社の再建軽減化に関する法律(ESUG)の内容と条文試訳   1 .ESUG の立法趣旨・背景   2 .倒産処理計画手続の改正    ─Debt─Equity─Swap を利用した再建スキームを中心に─ ─以上49巻 2 号─   3 .自己管理手続の改正─以上49巻 3 号─   4 .倒産開始手続の改正と債権者自治の強化   5 .ESUG の改正内容に関する比較法的考察─以上本号─ Ⅳ.消費者倒産手続及び免責手続の改正に関する内容と条文試訳 Ⅴ.コンツェルン企業倒産法制の改正に関する内容と条文試訳

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続の開始後ではなく,倒産申立後の一週間以内に行われることが多く,それら が企業の再建にとって有益であるとされているからである(1)。そして,その際 には,企業の継続との関係で開始手続において債権者の協力を得ることは重要 であること,債権者は通常債務者の再建の成功にまた重要な経済的利益を有す ること,そして,とくに債権者が債務者と同業である場合には,企業の再建に 寄与し得るその知識を利用できることが立法理由書で指摘されていた(2)。  法改正前の倒産実務においては,開始手続の中ですでに,その後の手続にと って重要な判断が行われていた。すなわち,開始手続において,いわゆる「事 前の仮の債権者委員会(vorvorläufiger Gläubigerausschuss)」を設置すること によって,上記の問題に対応していた(そのための根拠規定は存在しない)(3)。 しかし,事前の仮の債権者委員会の適法性については,学説において,長年に 亘り争われていた。この点について,1994年倒産法の立法理由書によれば,債 権者委員会は倒産手続が開始してから活動すると考えられていた(4)。しかし, 学説は,企業の継続・再建見込みの調査が開始手続において行われている現状 に鑑みて,この段階で債権者委員会を設置することを認めていた(5)。こうした 議論を踏まえ,ESUG は,事前の仮の債権者委員会の設置を明文でもって認め ることにした(倒産法21条 2 項 1 文 1 a 号,22a 条)。これによって,上記の争い に終止符が打たれ,開始手続における債権者の影響力の強化が目指されたので ある。なお,この「事前の仮の債権者委員会」は,条文上「仮の債権者委員会 (vorläufiger Gläubigerausschuss)」と表記されている(6)。

( 1 ) BT─Drucks. 17/5712, S. 24; Göb, Das Gesetz zur weiteren Erleichterung der Sanierung von Unternehmen (ESUG), NZG 2012, S. 372.

( 2 ) BT─Drucks. 17/5712, S. 24.

( 3 ) 「事前の仮の債権者委員会」の呼称は,倒産法67条 1 項により倒産手続の 開始後で,第一回債権者集会の前に暫定的に設置される債権者委員会が「仮 の債権者委員会」であり,この「仮の債権者委員会」の「前」に設置される ことに由来している(Marotzke, Das insolvenzrechtliche Eröffnungsverfahren neuer Prägung (Teil 1), DB 2012, S. 562 (Anm. 16))。

( 4 ) BT─Drucks. 12/2443, S. 131.

( 5 ) Schmid─Burgk, §67, RdNr. 2. in Kirchhof/Lwowski/Stürner (Hrsg.), Münchener Kommentar zur Insolvenzordnung, Bd. 1, 2. Aufl., München, 2007;

Andres, §67, RdNr. 2. in Andres/Leithaus, Insolvenzordnung Kommentar, 2. Aufl., München, 2011.

( 6 ) Vgl. Marotzke, aaO. (Fn. 3), S. 562 (Anm. 16). また,仮の債権者委員会の 設置が倒産法21条 2 項 1 文における処分のカタログに加えられたことから,

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 以下( 2 )では,ESUG で認められた債権者の影響力の強化について,仮の 債権者委員会との関係で,次の三つの点を中心に概説する。すなわち,(a)ど のような場合に仮の債権者委員会が設置されるのか(仮の債権者委員会の設置要 件),(b)仮の債権者委員会の設置と密接な関係を有する倒産申立てについて, どのような添付書類及び申立事項が加えられたのか,(c)仮の債権者委員会の 影響力はどのように行使されるのか(仮の債権者委員会の職務),である。 ( 2 ) 債権者の影響力の強化 1 ) 仮の債権者委員会の設置要件  仮の債権者委員会は,その設置態様に応じて,以下の三つの種類に分けられ ている(7)。  ①必要的委員会(Pflichtausschuss)(倒産法22a 条 1 項)  ② 申立委員会(Antragsausschuss) (倒産法22a 条 2 項)

 ③ 任意的委員会(Fakultativer vorläufiger Gläubigerausschuss)(倒産法21条 2 項 1 a 号)  以下では,まず,どのような場合にこれらの委員会が設置されるのか,その 設置要件につき(上記(a))概説する。  ア) 仮の債権者委員会の根拠規定  開始手続においては,倒産裁判所はまず,債務者の財産状況につき,債権者 に不利益な変更を防止するために,必要と思われる全ての仮処分命令を発令し なければならず(倒産法21条 1 項 1 文),その措置のカタログが同条 2 項に列挙 されている。その一つとして,仮の債権者委員会の設置が,新しく追加された のである。これが倒産法21条 2 項 1 文 1 a 号であり,仮の債権者委員会を設置 するための根拠規定(Grundnorm)と言われている(8)。  イ) 設置義務のある仮の債権者委員会  A) 必要的委員会  仮の債権者委員会の設置に関する条文には,倒産法21条 2 項 1 文 1 a 号のほ 倒産法21条の表題は「保全処分の命令」から「仮処分の命令」に変更されて いる。

( 7 ) Merten, Die neue Insolvenzrechtsreform 2012 (ESUG),2012, Weil im Schönbuch, S. 25, 30.

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かに,同法22a 条が存在する。同条 1 項において,債務者の事業規模に係る三 つの基準が列挙され,そのうち少なくとも二つが前期事業年度において満たさ れている場合には,倒産裁判所は,同法21条 2 項 1 a 号に従い,仮の債権者委 員会を,設置「しなければならない」(義務規定)。これによって設置される仮 の債権者委員会は,必要的委員会(上記①)と言われている。倒産企業の再建 が考慮される場合や,営業所や雇用先の維持が問題とされる場合が特に重要で あることから,一定規模を超える事業を有する債務者の倒産処理手続において は,早期に債権者の影響力を行使することが期待されたのである(9)。債務者の 事業規模に係る三つの基準は,次のとおりである(10)。  ① 商法典268条 3 項所定の借方欄に記載されている欠損額を控除した後の貸 借対照表総額が少なくとも4.840.000ユーロであること(倒産法22a 条 1 項 1 号)  ② 決算日前12ヶ月における売上利益が少なくとも9.680. 000ユーロであること (同 2 号)  ③労働者が年平均して少なくとも50人いること(同 3 号)  B) 申立委員会  また,倒産法22a 条 1 項に該当しない場合でも,仮の債権者委員会を設置す る必要が生じ得ることから,債務者,仮の倒産管財人または債権者の申立てに 基づき仮の債権者委員会が設置される可能性が認められた(11)。そして,中小 企業の債権者もまた,開始手続に関与することが認められた(12)。これが倒産 法22a 条 2 項である。すなわち,仮の債権者委員会の構成員として考慮された 者が指名され,その指名された者の同意書が申立書に添付されたときには,倒 産裁判所は,債務者,仮の倒産管財人または債権者の申立てに基づき,仮の債 権者委員会を,同法21条 2 項 1 a 号に従い,設置「すべき」とされている(当 為規定(Soll─Vorschrift))。倒産裁判所が,この申立てに基づく仮の債権者委員 会の設置を拒む場合には,この当為規定との関係上,その理由を付すべき,と 主張されている(13)。これによって設置される仮の債権者委員会は,申立てに ( 9 ) Vgl. BT─Drucks. 17/5712, S. 24. (10) 三つの基準は,商法典(Handelsgesetzbuch)267条 1 項 1 号ないし 3 号に 依拠して設定されている(Vgl. BT─Drucks. 17/7511, S. 33)。 (11) Göb, aaO. (Fn. 1), S. 373.

(12) Vgl. Obermüller, Der Gläubigerausschuss nach dem ESUG, ZinsO 2012, S. 20. (13) Obermüller, aaO. (Fn. 12),S. 20; Willemsen/Rechel, Kommentar zum ESUG,

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よる委員会(上記②)と呼ばれている。なお,申立人によって行われた仮の債 権者委員会の構成員に関する提案に,倒産裁判所は拘束されない(下記 2 )参 照)(14)。  C) 設置義務のある仮の債権者委員会の例外  ただし,イ)債務者の営業が停止した場合,ロ)仮の債権者委員会の設置が 予見されうる倒産財団を考慮して均衡のとれない場合,またはハ)設置に伴う 遅延により債務者の財産状況の不利益な変更が生じる場合には,仮の債権者委 員会を設置することができない(倒産法22a 条 3 項)。そのような場合には,そ の設置の意味がなくなるために,例外が定められているのである(15)。なお, 債務者が倒産申立てをした場合には,この関係で考慮される債権者を債権者一 覧表の中で明らかにすることが求められ(倒産法13条 1 項 3 文ないし 6 文),仮 の債権者委員会の設置が迅速に行われる結果,ハ)の要件との関係で「設置に 伴う遅延により債務者の財産状況の不利益な変更が生じる」おそれはないこと が,立法理由書において指摘されている(16)。  ウ) 任意的委員会  必要的委員会及び申立てによる委員会が設置されない場合にもまた,仮の債 権者委員会が設置される可能性がある。すなわち,倒産裁判所は,倒産法21条 2 項 1 文に従い,その裁量で,仮の債権者委員会を設置することが「できる」 のである。この仮の債権者委員会は,任意的委員会と言われている(上記 ③)(17)。この関係で,倒産法22a 条 4 項は,債務者または仮の倒産管財人は, 倒産裁判所の要請に基づき,仮の債権者委員会の構成員として考慮される者を 指名しなければならないことを規定する(18)。もっとも,これらの者によって 提案された者を実際にも仮の債権者委員会の構成員にしなければならないかに ついては倒産裁判所の義務は存在せず,構成員の指名はその裁量に委ねられて いる(下記 2 )参照)(19)。 Frankfurt, 2012, §22a, RdNr. 8. (14) Obermüller, aaO. (Fn. 12), S. 20. (15) BT─Drucks. 17/5712, S. 25. (16) BT─Drucks. 17/5712, S. 18, 25. (17) 実務においては,上記の必要的委員会及び申立委員会が設置されない場合 には,仮の債権者委員会が設置されることは考えられていなかった。その関 係で,この仮の債権者委員会にどのような権限が帰属するのか,問題にされ ている(Merten, aaO. (Fn. 2), S. 30f; vgl. auch Obermüller, aaO. (Fn. 12), S. 24)。 (18) Vgl. Marotzke, aaO. (Fn. 2), S. 561.

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2 ) 仮の債権者委員会の構成員  仮の債権者委員会を構成しうる者は,倒産債権者に限られる。すなわち,別 除権者,最高額の債権を有する倒産債権者,少額債権者及び労働者の代表 者(20) が,仮の債権者委員会の構成員となる(倒産法21条 2 項 1 a 号前段,同法67 条 2 項)。また,手続開始により初めて債権者となる者(21) も仮の債権者委員会 の構成員に選任することができる(倒産法21条 2 項 1 a 号後段)。この範囲内で, 倒産裁判所は,専ら仮の債権者委員会の構成員の選任権限を有する(22)。なお, 倒産法21条 2 項 1 a 号前段は,同法67条 3 項を準用していない。つまり,倒産 法67条 3 項は,「債権者委員会の構成員には,債権者でない者もまた,これを 選任することができる」と定めているが,この規定が準用されないため,仮の 債権者委員会の構成員としては,債権者のみが考慮されることになるのであ る。債権者のみを構成員とした背景には,次の考えがあった。すなわち,仮の 債権者委員会は,非常に差し迫った状況においてその判断(例えば,仮の倒産 管財人の提案)が求められることが予想され,その際には債権者が有している 知識が必要になる,と考えられたのである(23)。 3 ) 開始申立書の添付書類及びその記載事項  仮の債権者委員会の設置可能性と密接な関係を有するのが,ESUG によって (19) BT─Drucks. 17/5712, S. 25. (20) 倒産法67条 2 項は,法改正前においては,労働者(の代表者)との関係 で,「相当額の債権を有する倒産債権者として倒産手続に参加している」者 に限定していたが,ESUG は,労働者(の代表者)を仮の債権者委員会に含 めることが,特に企業の継続及び再建との関係で有意義であることを理由 に,この制限を解消した(BT─Drucks. 17/5712, S. 27)。 (21) 立 法 理 由 書 に お い て は, 年 金 保 険 団 体(Pensions─Versicherungs─ Verein),信用または担保保険者(Kredit─ bzw. Kutionsversicherer)が例と して挙げられている(BT─Drucks. 17/5712, S. 24; BT─Drucks. 17/7511, S. 33)。その他の文献においては,さらに連邦労働庁(Bundesagentur),預金 保証ファンド(Einlagensicherungsfonds)が含まれている(Merten, aaO. (Fn. 7), S. 20; Obermüller, aaO. (Fn. 12), S. 22f.)。

(22) Neubert, Das neue Insolvenzeröffnungsverfahren nach dem ESUG, GmbHR 2012, S. 442; vgl. auch Merten, aaO. (Fn. 7), S. 21; Vallender, Gesetz zur weiteren Erleichterung der Sanierung von Unternehmen (ESUG), MDR 2012, S. 62.

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新たに定められた開始申立書の添付書類(債権者及びその債権の一覧表)である (上記(186頁)(b))。この一覧表には,仮の債権者委員会に関する判断を可能 にするために倒産裁判所が必要とする情報が記載される(24)。その判断とは, ①仮の債権者委員会を設置しなければならないか,②仮の債権者委員会が設置 される場合には,その構成員に誰を選任すべきか,である(25)。  ア) 債権者及びその債権の一覧表の添付  まず,ESUG によって,倒産法13条 3 項に第 3 文が追加された。すなわち, 債務者の開始申立書には,債権者及びその債権の一覧表を添付しなければなら ないことが定められた(倒産法13条 1 項 3 文)。この規定は,消費者倒産手続の 申立てに関して規律する倒産法305条 1 項第 3 文と内容を同じくする。改正前 においては,倒産原因の調査に必要な情報を,情報提供義務及び協力義務(倒 産法20条)の範囲内で,債務者が倒産裁判所に提供していたが,ESUG によっ て,債権者及びその債権の一覧表との関係で,添付書類の提出が義務づけられ たのである(26)。  債権者及びその債権の一覧表が開始申立書に添付されていない場合,開始申 立ては不適法となる(27) が,補正期間が債務者に付与されると考えられてい る(28)。他方で,この一覧表が添付されているが,個々の債権者または債権が, 債務者の然るべき努力にもかかわらず欠けている場合には,開始申立ては適法 とされる(29)。  なお,債権者及びその債権の一覧表の添付は,倒産申立義務と関係を有す る。倒産法15a 条 1 項ないし 3 項は特定の者に倒産申立義務を課している。こ (24) この一覧表の記載が仮の債権者委員会の設置との関係で重要であることか ら,記載内容が正しくかつ完全であることを確保するため(BT─Drucks. 17/7511, S. 33),その旨の宣言書を一覧表に添付する義務が,債務者に課さ れている(倒産法13条 1 項 7 文)。

(25) Marotzke, aaO. (Fn. 2), S. 563; Obermüller, aaO. (Fn. 12), S. 19. (26) Merten, aaO. (Fn. 7), S. 6.

(27) Merten, aaO. (Fn. 7), S. 6f.; Vallender, aaO. (Fn. 22), S. 61 (なお,この論文 で は 第 3 文 を 第 2 文 と 表 記 す る 誤 植 が あ る); Landfermann, Das neue Unternehmenssanierungsgesetz (ESUG) (Teil 1), WM 2012, S. 824 (Anm. 26)

(28) Vallender, aaO. (Fn. 22), S. 61 (der irrtümlich von Satz 2 spricht);

Landfermann, aaO. (Fn. 27), S. 824 (Anm. 26). (29) BT─Drucks. 17/5712, S. 23.

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の義務に反して「開始申立てをしなかった者,又は適正に若しくは適時にしな かった者は,三年以下の自由刑又は罰金刑に処す」ことが同条第 4 項において 定められている。なお,この第 4 項の場合において行為者に過失が認められる 場合には,一年以下の自由刑又は罰金刑とされる(同条 5 項)。倒産法15a 条 4 項の「適正」は「債権者及びその債権の一覧表の添付」の有無によって判断さ れうることが,立法理由書の中で説明されている(30)。  イ) 債務者の事業規模に係る基準の記載  債務者は,営業を営み,その営業が停止していないときには,以下の事項を 記載しなければならない(倒産法13条 1 項 5 文)(31)。   1 ) 前期事業年度の貸借対照表総額   2 ) 前期事業年度の売上利益   3 ) 前期事業年度の労働者数の平均  これらの記載事項は,必要的委員会の設置との関係で倒産法22a 条 1 項にお いて定められた債務者の企業規模に係る基準であり,仮の債権者委員会の設置 に関する判断を倒産裁判所に可能ならしめるために必要となる(32)。  ウ) 特定の債権の記載  また,債務者が営業を継続している場合には,一覧表において特に以下の事 項を明らかにする(besonders kenntlich machen)ものとされる(倒産法13条 1 項 4 文)。

  1 ) 最高額の債権(die höchsten Forderungen)

  2 ) 最高額の被担保債権(die höchsten gesicherten Forderungen)   3 ) 税務行政官庁の債権(die Forderungen der Finanzverwaltung)

  4 )  社会保険の保険者の債権(die Forderungen der Sozialversicherungsträger)   5 ) 企業内年金に基づく債権(die Forderungen der Alterversorgung)  これらの記載事項もまた,仮の債権者委員会の設置に関する判断を倒産裁判

(30) BT─Drucks. 17/5712, S. 23.

(31) この規定(第 5 文)が義務規定であるのか,それとも当為規定に過ぎない のか,争いがある(Vgl. Landfermann, aaO. (Fn. 27), S. 824 (Anm. 27))。通 説は,義務規定と解する(Göb, aaO. (Fn. 1), S. 372; Merten, aaO. (Fn. 7), S. 9; Vallender, aaO. (Fn. 22), S. 62 (なお,この論文では,第 5 文を第 4 文と表 記する誤植がある); Landfermann, aaO. (Fn. 27), S. 824 (Anm. 27))。この義 務の不履行がある場合,開始申立ては不適法になる(Vallender, aaO. (Fn. 22), S. 62)。

(10)

所に可能させるために必要となる(33)。すなわち,上記 1 )ないし 5 )の債権を 有する者(債権者組)が仮の債権者委員会の構成員(の候補)になるのであり, 倒産裁判所は,倒産法21条 2 項 1 a 号,67条 2 項に従い,これらの債権者(債 権者組)から仮の債権者委員会の構成員を選任する(34)。これらの記載は「なさ れるべき」ものとされるが,義務ではないため(当為規定(Soll─Vorschrift)), これらの記載が欠けていても,開始申立ては不適法ではない(35)。ただし,次 に掲げる場合には,上記 1 )ないし 5 )の記載をする義務が債務者に課せられる (倒産法13条 1 項 6 文)。   1 ) 債務者が自己管理を申し立てた場合   2 ) 債務者が倒産法22a 条 1 項の基準を満たした場合   3 ) 仮の債権者委員会の設置が申し立てられた場合 4 ) 仮の債権者委員会の職務  仮の債権者委員会の職務については(上記(186頁)(c)),債権者委員会に 関する規定が準用される(倒産法21条 1 項 1 a 号,69条)(36)。すなわち,仮の債 権者委員会の構成員は,倒産法69条に依って,仮の倒産管財人をその業務執行 の際に支援し,かつ監督することになる(37)。それ以外に,仮の債権者委員会 は,ア)(仮の)倒産管財人の提案(権),及びイ)自己管理に関する職務を有 する。そこで,以下では,この二つの職務を解説する。  ア) (仮の)倒産管財人の提案に関する職務  改正前においては,倒産手続において中心的な役割を担う倒産管財人は倒産 裁判所によって暫定的に選任されたにすぎず,債権者は,その後の第一回債権 者集会において別の倒産管財人を選任する権利を認められていた(倒産法57 (33) Merten, aaO. (Fn. 7), S. 7. (34) BT─Drucks. 17/5712, S. 23. (35) Vgl. BT─Drucks. 17/7511, S. 33. (36) 倒産法158条及び160条は準用されていない。これらが仮の債権者委員会に 適用又は準用されるのか,この問題については立法時において考慮されてい なかった(Marotzke, aaO. (Fn. 3), S. 562)。 (37) 仮の債権者委員会の職務は,倒産手続の開始と同時に終了する(Merten, aaO. (Fn. 7), S. 23; Obermüller, aaO. (Fn. 12), S. 21)。その後,倒産裁判所 は,第一回債権者集会まで「暫定的に」債権者委員会を設置することができ る(倒産法67条 1 項)。この債権者委員会は,「中間的な(債権者)委員会 (Interiumsausschuss)」と言われている(Vallender, aaO. (Fn. 22), S. 62)。

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条)。しかし,この債権者の権利は時間と費用がかかることを理由に,それが 行使されることはまれであった(38)。そこで,早期に,すなわち開始手続にお いて,倒産管財人の選任に債権者が関与すべきことが強調されたのであっ た(39)。  債権者の倒産手続に対する影響力の強化を目指した ESUG によって,開始 手続において仮の債権者委員会の設置が認められ,今後は,倒産管財人の選任 前に,この仮の債権者委員会に対して,倒産管財人に関する意見表明の機会が 与えられることになった。これが倒産法56a 条である (倒産法56a 条は,同法21条 2 項 1 号によって,仮の倒産管財人の選任との関係で準用される)。仮の債権者委員 会には,倒産裁判所による倒産管財人の選任前に,倒産管財人に求められる必 要条件 (Anforderungen)(40) 及び倒産管財人となる者 (Personen des Verwalters)

に関する意見を述べる機会が与えられている(倒産法56a 条 1 項 1 文)。そして, ある者が仮の債権者委員会の全員一致の決議によって倒産管財人として提案さ れている場合には,その者が職務を担当するのに適切でないときに限り,倒産 裁判所は倒産管財人の選任につき仮の債権者委員会とは異なる判断をすること が許される(倒産法56a 条 2 項 1 文)(41)。ただし,その判断の際には,仮の債権 者委員会により決議された倒産管財人となるための必要条件を基礎にしなけれ ばならない(倒産法56a 条 2 項 2 文)。なお,仮の債権者委員会に対する倒産管 財人に関する意見表明の機会の付与は,これによって債務者の財産状況の不利 益な変更が顧慮される場合には,見送られることになる(倒産法56a 条 1 項 2 文)。しかし,この場合でも,仮の債権者委員会は,その第一回目の委員会に おいて,全員一致の決議によって,倒産管財人に選任された者とは異なる者を 選定することができる(倒産法56a 条 3 項)。 (38) BT─Drucks. 17/5712, S. 17. (39) BT─Drucks. 17/5712, S. 17f. (40) 必要条件の例として,資質,弁護士事務所の規模,専門知識,経験等があ る(Blümle, §56a, RdNr. 2 in Braun (Hrsg.),Insolvenzordnung (InsO) Kommentar, 5. Aufl., München, 2012)。Vgl. auch Neubert, aaO. (Fn. 22), S. 442. (41) 倒産裁判所が,倒産管財人となる人物に関する仮の債権者委員会の一致し た推薦と異なる判断をした理由は,開始決定書に記載されることになる(倒 産法27条 1 項 5 号)。本条項の第 5 号は,ESUG によって追加された。これ によって,債権者集会は,この理由付けを認識し,かつ分析した上で,その 後に行われ得る倒産管財人の選任をする(倒産法57条)ことが可能になる (BT─Drucks. 17/5712, S. 25)。

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イ) 自己管理に関する職務  開始手続において債権者が自己管理に関する裁判に影響力を及ぼすべきか否 かは,倒産管財人の選任に対する影響力に関する問題と関連している(自己管 理については,本稿Ⅲ 3 (比較法学49巻 3 号)を参照のこと)。改正前においては, 自己管理についてもまた,倒産管財人の選任と同様に,債権者集会が影響力を 行使できるのは,倒産手続が開始した後であり,これでは実務上重大な影響力 を有するには遅すぎるとの指摘されたのである(42)。  そこで,ESUG は,開始手続において,自己管理命令に対する債権者の影響 力を仮の債権者委員会によって行使することを認めたのであった。すなわち, 倒産法21条 2 項 1 a 号または同法22a 条によって仮の債権者委員会が設置され ている場合には,その仮の債権者委員会に自己管理の申立てに関する決定前に 意見表明の機会が与えられたのである(倒産法270条 3 項 1 文)。その際に自己 管理の申立てが仮の債権者委員会の全員一致の決議によって支持されると,自 己管理の命令は債権者にとって不利益にならないものとみなされた(倒産法 270条 3 項 2 文)。これらによって,従前と比較して債権者の影響力が強化され たのである(43)。  また,(仮の)自己管理における(仮の)監督人の選任についても,倒産管 財人の選任に関する規定が準用される(倒産法270a 条 1 項 2 文,274条56a 条)。 すなわち,この場面においても債権者の影響力が及ぶのである(上記 4 )ア)を 参照のこと)。 ( 3 ) (仮の)倒産管財人の独立性  ESUG は,倒産処理手続の早期に債権者の影響力を及ぼすことを,その目的 の一つにしていたが,倒産管財人の独立性との関係でもまた,新たな規律を設 けている。すなわち,倒産法56条 1 項に第 3 文が追加されたのである。  改正前においては,倒産管財人の独立性については,「倒産管財人には」「債 権者及び債務者から独立した自然人を選任しなければなら…ない」(倒産法56 条 1 項 1 文)と規定されていたに過ぎなかった。ところが,ESUG によって, (42) BT─Drucks. 17/5712, S. 39. (43) BT─Drucks. 17/5712, S. 39. ただし,仮の債権者委員会が設置されない場 合には,これまでと同じく,倒産裁判所の決定に関与する機会は,債権者に 与えられていない(Willemsen/Rechel, Insolvenzrecht im Umbruch, BB 2011, S. 836)。

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この独立性は,倒産管財人に次に掲げる事由が存在しても,認められることが 明らかにされた。  (a) 債務者または債権者によって倒産管財人の提案がなされていたこと  (b)  後の倒産管財人が,開始申立ての前に,通常の方式で,債務者に,倒 産手続の経過及びその結果について助言をしたこと  これらの事実が存在しても,その倒産管財人は,債権者及び債務者から独立 していることが肯定されたのである(倒産法56条 1 項 3 文)。以下,敷衍する。  まず,(a)について説明する。改正前においては債務者または債権者の提案 は明示的に規定されていなかったが,否定されているものでもなかった。しか も,これらの者によって倒産管財人が提案されていることだけを理由に,倒産 管財人の選任を拒んだ倒産裁判所は僅かでしかなかったことが指摘された。そ こで,ESUG は,この提案が適法であり,債務者または債権者から提案されて いることを理由にして,その倒産管財人の欠格を自動的に宣言することはなく なったことを明らかにした(44)。  次に,(b)について説明する。これは,倒産手続開始前における債務者と 後の倒産管財人の接触を想定している。すなわち,債務者が倒産手続の開始を 申し立てる前に,倒産手続の進行,債務者の権限に対する倒産手続の影響及び 倒産手続による再建可能性に関する一般的な情報を得るために,債務者が後の 倒産管財人に相談して,かつその者が一般的な情報を提供した場合である(45)。 そして,このような事情があっても,それは倒産管財人の欠格事由とならない ことが,ESUG によって明らかにされたのである。 ( 4 ) その他の改正点 1 ) 開始申立書の書式(倒産法13条 3 項 3 文)  ESUG によって,倒産法13条 3 項に第 3 文が追加された。すなわち,開始申 立ての手続において,倒産裁判所が機械で処理するか,機械で処理しないかに 応じて,異なる開始申立書の書式を導入することが可能になった。この規定 は,消費者倒産手続の申立てに関して規律する倒産法305条 5 項 3 文と内容を 同じくする。 (44) BT─Drucks. 17/5712, S. 26. (45) BT─Drucks. 17/5712, S. 26.

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2 ) 倒産申立義務(倒産法15a 条)

 改正前は,倒産法15a 条 1 項及び 4 項において「倒産申立て」という用語が 用いられていたが,ESUG によって「開始申立て」に改められた。これは,倒 産法内における用語の統一のために行われた(46)。

 また,倒産法15a 条 2 項は,法人格のない会社で,かつ二層または多層構造 を有する会社組織(zwei─ oder mehrstöckige Gesellschaftskonstruktionen)の 倒産申立義務を定めている。この規定については,倒産申立義務を負う「社 員」に関して,ESUG が「社員」という用語の前に「無限責任」の語を挿入し たことによって,このような会社組織において,無限責任社員が自然人である 場合には,倒産申立義務が問題とされないことが,明らかにされた(47)。 3 ) 倒産申立義務者の直接的な予納義務(倒産法26条 4 項)  債務者の財産が倒産手続の費用を賄うのに十分ではないことが見込まれる場 合には,倒産手続の開始を求める申立ては倒産裁判所によって却下されること になる(倒産法26条 1 項 1 文)。しかし,この場合でも,手続の費用を賄える財 産が倒産財団に組み込まれる可能性が存在する。例えば,手続開始後において は,否認権が倒産管財人によって行使され,これが奏功すれば,倒産財団が回 復する場合である。そこで,倒産法の立法者は,倒産手続の費用を賄うのに十 分な金額が予納された場合には,手続開始を求める申立ては却下されないもの とした上で(倒産法26条 1 項 2 文),予納金を支払った者は,倒産法または会社 法の規定に反して違法かつ有責に倒産申立てをしなかった者(倒産申立義務者) に対して,予納金の償還を求めることができるとしていた(倒産法26条 3 項)。 しかし,費用リスク(Kostenrisikos)が伴うために,特に倒産債権者は倒産法 26条 3 項の手続をめったに利用しなかった(48)。そこで,この問題を解消する ために,倒産法26条に第 4 項が追加されたのである。すなわち,倒産法または 会社法の規定に反して違法かつ有責に倒産手続の開始を求める申立てをしなか った倒産申立義務者は,直接的に(unmittelbar)予納金を支払う義務を負う (倒産法26条 4 項 1 文)。これによって,法改正前までは予納金を支払った者に より間接的に予納金の支払義務を課せられていた倒産申立義務者は,直接の予 納金支払義務を負うことになったのである。予納金の支払いを求めることがで (46) BT─Drucks. 17/5712, S. 23. (47) BT─Drucks. 17/5712, S. 23f. (48) BT─Drucks. 17/5712, S. 25.

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きる者は,仮の倒産管財人,及び債務者に対して生じた財産上の請求権を有す る者(手続開始後に倒産債権者になる者)である(倒産法26条 4 項 3 文)。倒産申 立ての不作為が違法かつ有責に基づくのかにつき争いがある場合には,倒産申 立義務者が証明責任を負う(倒産法26条 4 項 2 文)。 4 ) 仮の倒産管財人の報酬(倒産法26a 条)  倒産手続が開始されなかった場合における仮の倒産管財人の報酬及び立替金 については,改正前にはその根拠規定が欠けていた。しかし,ESUG によって この法の欠缺が解消された。すなわち,倒産裁判所は,債務者に対する仮の倒 産管財人の報酬及び償還されるべき立替金を,決定によって定めうることにな ったのである(倒産法26a 条 1 項)。倒産裁判所の報酬(及び立替金)確定決定 (Verfügungsfestsetzungsbeschluss)は,民訴法(ZPO)794条 1 項 3 号所定の 仮の執行名義となる(49)。この報酬(及び立替金)確定決定に対して,仮の倒産 管財人及び債務者は,即時抗告をすることができる(倒産法26a 条 2 項)。 5 .ESUG の改正内容に関する比較法的考察  これまで見てきたように,ESUG の主たる改正点は多岐にわたる。ここで は,主要な三つの改正点について,米国・英国の倒産法と比較することで,ド イツ倒産法改正の位置づけを明らかにしたい。  ESUG における主要な三つの改正点は,① DES の活用,②自己管理へのア クセス拡充,③債権者自治の強化である。①に関しては,倒産処理計画に株主 の権利を取り込み,DES を倒産手続内で実行可能となった。②に関しては, 自己管理命令の発令要件を緩和し,さらにシュッツシルム手続を設けたこと で,債務者に対して自己管理へのインセンティブを付与している。そして,③ に関しては,倒産開始手続において仮の債権者委員会の設置を認め,債権者の 影響力(自治)強化を図った。以下では,これらの点について,簡単ではある が,米英の代表的な再建型手続と比較してみることとする。 ( 1 ) 米英倒産法における再建手続  米国倒産法は法典としては単一のもので,その中に複数の手続が「章」とし て設けられているが,本稿との関係では,主として事業再建に用いられる第11 (49) BT─Drucks. 17/7511, S. 34.

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章手続を取り上げ,比較対象とすることとしたい。第11章手続では DIP 制度 が採用され,また,計画によって再建を目指す手続であり,ESUG の改正が目 指した制度が盛り込まれているため,比較の際に有益であろう。  英国倒産法においては,事業再建のための手続がいくつか存在している。す なわち,再建型の手続として,倒産法において,会社管理手続,会社任意整理 手続,管理レシーバーシップ手続が定められ,会社法において,会社整理計画 手続が定められている。実際には,これらの手続を組み合わせて再建を目指す こともあるとされるが,ここでは,会社任意整理手続と会社整理計画手続につ いて取り上げ,比較の対象としたい。これは,これらの手続を単独で用いれ ば,経営者はその地位にとどまって再建を目指すことができるし,また,これ らの手続は計画によって再建を目指すものであり,ESUG との比較に資すると 考えられるからである。 ( 2 ) ESUG の主要改正点との比較 1 ) DES の活用について  ア)米国  米国においては,19世紀から,事業再建のために,会社に対する債権者に対 して,会社の株式を交付するという手法が活用されてきた。これがエクイテ ィ・レシーバーシップ(50) とか,収益管理制度(51) と呼ばれるものであり,現代 においても「おなじみの手法」(52) として活用されているものである。  イ)英国(53)  英国においても DES は,裁判内外を問わず,よく利用される手法であ り(54),会社任意整理手続においても,会社整理計画手続においても,計画案 (50) 加藤哲夫「アメリカにおける鉄道更生─その変遷とひとつの帰結─」同 『企業倒産処理法制における基本的諸相』(成文堂・2007)12─15頁参照。 (51) 青山善充「会社更生の性格と構造( 1 )」法協83巻 2 号18─19頁(1966)参照。 (52) 堀内秀晃ほか『アメリカ事業再生の実務─連邦倒産法 Chapter11 とワー クアウトを中心に』(金融財政事情研究会・2011)283頁。 (53) なお,英国における DES については,松嶋隆弘「イギリス法におけるデ ット・エクイティ・スワップ(上)(下)─日本法との比較を中心に」企会 66巻11号73頁,12号82頁(2014),弥永真生「債務の株式化─ヨーロッパに おける扱いを参考にして」ジュリ1226号84頁(2002)を参照。 (54) 事業再生研究機構編『事業再生ファイナンス 米・英の現状と日本への示

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に DES の条項が盛り込まれるとされる(55)。  ウ)米英との比較  上記のように,米英ともに,DES は主要な再建手法として活用されてい る(56)。他方,ドイツでは,ESUG による改正で初めて,倒産処理計画に持分 権者を組み入れることができるようになり(会社法上の手続を履践せずに),倒 産手続だけで DES を実行できるようになった。当然,今般の改正に問題が存 在しないわけではないが,これで米英に比して遜色なく DES を活用できる素 地が整ったということができ,今後,事業再建において DES が活用されるこ とが期待される。 2 ) 自己管理へのアクセス拡充  ア)米国  米国連邦倒産法第11章手続は,原則として DIP 制度を採用している(米国連 邦倒産法第1107条(a))。すなわち,債務者(企業)は,申立て・開始決定によ って,事業経営権や管理処分権を失わず,開始決定前と同じく事業を継続する ことができる。もっとも,第11章手続においても,例外的に,管財人が選任さ れ,債務者から管理処分権が剥奪されることもあるが(米国連邦倒産法第1104条 (a)),債務者に詐欺や不誠実等が認められる非常にまれなケースであると考え られる。  イ)英国  会社任意整理手続は,取締役が整理委員を選任し,その委員から助言を受け 唆』(商事法務・2004)175頁参照。 (55) 高 木 新 二 郎「英 米 独 仏 の 早 期 迅 速 事 業 再 生 ス キ ー ム の 最 近 の 展 開」 NBL975号13─14頁(2011)参照。なお,会社整理計画手続については,中 島弘雅「イギリスの事業再生手法としての「会社整理計画」」伊藤眞先生古 稀祝賀『民事手続の現代的使命』(有斐閣・2015)965頁参照。 (56) なお,米国連邦倒産法第11章手続においては,再建計画遂行のための適切 な手段(米国連邦倒産法第1123条(a)( 5 ))が必要的記載事項とされてお り,債権者の有する債権等を対価とする,債務者等による証券の発行が例示 されている(米国連邦倒産法第1123条(a)( 5 )(J))が,あくまで例示で あって,この規定なくして DES を正当化することができない,というわけ ではないであろう。

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ながら再建計画を策定するというものであるが(57),この手続が開始しても, 取締役は経営権を失わないとされている(58)。  また,会社整理計画手続は会社法に規定され,厳密に言えば倒産手続ではな いため,当然に経営陣がそのまま再建を進めることができる。もっとも,一部 の会社整理計画では,整理計画の認可後に,整理計画の遂行の監督のために, 計画自体に基づいて監督委員が設置されることがある(59)。  ウ)米英との比較  米英の手続を見る限り,DIP 制度の利用に特段障壁は存在していないようで あり,ドイツとは大きく法状況が異なると言ってよい(60)。  ドイツにおいては,清算型・再建型が単一の手続となっているために,そも そも再建型手続が実施されるか不透明であり,また,このために(DIP として) 計画による再建が実現できるかも不透明にならざるを得ない。したがって,ド イツでは,倒産手続に対する債務者の予測可能性が問題とならざるを得ない。  これまで見てきたように,ESUG は,債務者の予測可能性を確かなものとす るために,様々な改正をするものであるが,ドイツ倒産法の基本構造を変更す るものではない。もっとも,ESUG では,シュッツシルム手続(ドイツ倒産法 270b 条)が新設され,これにより,一定の場合には,自己管理手続と倒産処理 計画手続とが連動することとなり,債務者が倒産手続開始後の手続を一定程度 予測できるようになった。したがって,債務者の予測可能性が確保されつつあ ることとの関係で,今後,どの程度自己管理が利用されるのかについても,注 目していく必要があろう。 (57) 経済産業省経済産業政策局産業再生課編『各国の事業再生関連手続につい て─米英独仏の比較分析─』(金融財政事情研究会・2011)15頁参照。 (58) 中島弘雅「近時のイギリスにおける事業再生の枠組みについて」青山善充 先生古稀祝賀『民事手続法学の新たな地平』(有斐閣・2009)822─823,826 頁,Roy Goode, Principles of Corporate Insolvency Law (4th edn Sweet & Maxwell, London 2011) 494. (59) 以上につき,中島・前掲注(55)964頁参照。 (60) なお,英国において再建のために会社管理手続を併用する場合には,管理 人が選任され,この者が会社財産の管理処分権を有することとなるため (1986年英国倒産法 Schedule B1 60条参照),この場合には DIP 型の手続で はなくなる。

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3 ) 債権者自治の強化  ア)米国  第11章手続においては,原則として債権者委員会を設置する必要がある(米 国連邦倒産法第1102条(a)( 1 ))。第11章手続は原則として DIP 型の手続である ため,債権者委員会は,債務者の事業の監督,情報の収集,債務者との交渉等 を行う機関として重要な機能を果たしているとされる(61)。  債権者委員会は手続開始前にも設置されていることがありえ,その場合に は,一定の条件のもと,手続開始後もその債権者委員会を第11章手続における 債権者委員会として認めることができるとされる(米国連邦倒産法第1102条(b) ( 1 ))。とりわけ,手続開始前にすでに,再建計画が策定されたり,あるいは, 主要な利害関係人・スポンサー候補と交渉等がなされている,プレパッケージ 型・プレアレンジ型の再建がなされる場合には,手続開始前に債権者委員会が 設置されることの意義は大きく,これに対応して連邦倒産法も上記のような規 律を有しているものと考えられる。  イ)英国  会社任意整理手続及び会社整理計画手続において,通常,任意で債権者委員 会が設置される。そして,債権者委員会は,事業の現況・再建計画等について 債務者から情報を入手し各債権者に提供したり,債務者と交渉したり,場合に よっては再建計画を提示することもある。もっとも,債権者委員会の設置に関 する特定のルールやガイドライン等は存在しないとのことである(62)。  ウ)米英との比較  本稿で触れたように,ドイツにおいても,実際には事実上のものとして手続 開始前から債権者委員会は組織されていたものと推測されるが,ESUG によっ て,このような実務運用に法的根拠が付与された。これで,債権者は手続開始 前の段階から,名実ともに債務者に対して影響力を行使できることとなったと 言えよう。  他方,手続開始前における債権者委員会について,米英では,明文で規律が なされていないため,ドイツ倒産法がこれを明規したことは,米英の一歩先を (61) 田頭章一『企業倒産処理法の理論的課題』(有斐閣・2005)172頁参照。 (62) 以上については,和田正=松本渉「英国におけるワークアウトの実情」際 商43巻10号1466頁(2015)参照。

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【条文試訳(2012年 3 月 1 日(現在))】※斜体の条文は,ESUG による改正なし 第 2 編 倒産手続の開始/対象財産及び手続関係人 第 1 章 開始原因及び開始手続 倒産法第11条【倒産手続の適法性】 1 ) 倒産手続は,全ての自然人及び全ての法人の財産に関して開始することができ る。権利能力のない社団は,その限りで法人と同等の地位を有する。 2 ) 倒産手続は,さらに次の各号に掲げる財産に関して開始することができる。     1 . 法 人 格 の な い 会 社(合 名 会 社, 合 資 会 社, パ ー ト ナ ー シ ャ フ ト 会 社 (Partnerschaftsgesellschaft),民法上の組合,合同出資船舶会社,ヨーロ ッパ経済利益団体)の財産     2 . 第315条ないし334条の適用に従い,相続財産,継続的夫婦財産共同制の合 有財産,又は夫婦によって共同で管理された夫婦財産共同制の合有財産 3 ) 法人又は法人格のない会社の解散後においては,倒産手続の開始は,財産の分配 が行われていない限りで,許される。 倒産法第12条【公法上の法人】 1 )倒産手続は,次の各号に掲げる財産に関しては許されない。     1 .連邦又は州の財産     2 . 州の監督に服する公法上の法人で,州法がこれを定めている場合には,そ の公法上の法人の財産 2 ) 州が第 1 項第 2 号に基づきある法人の財産に関する倒産手続を不適法と宣言した ときは,この法人が支払不能又は債務超過にある場合において,この法人の労働 者は,州に対して,倒産手続が開始したのであれば,倒産欠損補充金に関する社 会法第三法典(雇用促進法)の諸規定に従い請求することができる給付,及び企 業内年金制度の改善に関する法律の諸規定に従い倒産保険の保険者に請求するこ とができる給付を求めることができる。 倒産法第13条【開始申立て】 1 ) 倒産手続は,書面による申立てに基づいてのみ,開始する。債権者及び債 務者は,申立ての権限を有する。債務者の申立書には,債権者及びその債 権の一覧表を添付しなければならない。債務者が営業を継続しているとき は,この一覧表において特に次に掲げる事項を明らかにするものとする。     1 .最高額の債権

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    2 .最高額の被担保債権     3 .税務行政官庁の債権     4 .社会保険の保険者の債権     5 .企業内年金制度に基づく債権    債務者は,この場合に,さらに,前期事業年度の貸借対照表総額,売上利 益及び労働者数の平均を記載しなければならない。  第 4 文の記載事項は,次に掲げる場合には,義務づけられる。     1 .債務者が自己管理を申し立てた場合     2 .債務者が第22a 条第 1 項の基準を満たした場合     3 .仮の債権者委員会の設置が申し立てられた場合    第 3 文による一覧表並びに第 4 文及び第 5 文による記載には,記載内容が 正しくかつ完全である旨の宣言書を添付しなければならない。 2 ) 第 1 項の申立ては,倒産手続が開始するまで,又はこの申立てが法的確定 力をもって斥けられるまで,これを取り下げることができる。 3 ) 連邦司法省は,連邦参議院の承認を得た法規命令により,債務者による申 立てについて書式を導入する権限を有する。第 1 文により書式を導入する 限りでは,債務者はこれを使用しなければならない。倒産裁判所が機械で 処理する手続及び機械で処理しない手続に関しては,異なる書式を導入す ることができる。 【改正点】 *第 1 項:第 3 文ないし第 7 文の追加 *第 3 項:第 3 文の追加 倒産法第14条【債権者による申立て】 1 ) 債権者による申立ては,債権者が倒産手続の開始に関する法律上の利益を有し, かつその債権及び開始原因を疎明した場合に,許される。この申立前の二年の期 間内に債務者の財産に関して倒産手続の開始を求める申立てが行われていた場合 には,この申立ては,債権について履行を受けたという理由だけでは,不適法と はならない。後者の場合には,債権者は,事前の申立てをなしたこともまた疎明 しなければならない。 2 ) 前項の申立てが適法である場合には,倒産裁判所は債務者を聴聞しなければなら ない。 3 ) [申立]債権者がその債権について申立後に履行を受けた場合には,その申立て が理由なしとして棄却されたときに,債務者は手続の費用を負担しなければなら

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ない。 倒産法第15条【法人及び法人格のない会社における申立権】 1 ) 法人又は法人格のない会社の財産に関して倒産手続の開始を求める申立てについ ては,債権者の他に,代表機関の各構成員,法人格のない会社又は株式合資会社 の場合には無限責任を負う各社員,及び各清算人が,申立権限を有する。法人の 場合において,その業務が停止しているときは,各社員もまた申立権限を有す る。株式会社又は協同組合の場合において,その業務が停止しているときは,監 査役会の各構成員もまた,申立権限を有する。 2 ) 代表機関の構成員全員,無限責任社員全員,法人の社員全員,監査役会の構成員 全員又は清算人全員によって開始申立てが行われない場合には,開始原因が疎明 されたときに,開始申立ては,これを適法とする。法人の社員又は監査役会の構 成員による申立てに際しては,さらに業務の停止もまた,これを疎明しなければ ならない。倒産裁判所は,(申立てをしなかった)他の,代表機関の構成員,無 限責任社員,法人の社員,監査役会の構成員,又は清算人を聴聞しなければなら ない。 3 ) 法人格のない会社において自然人が無限責任社員でない場合には,第 1 項及び第 2 項は,会社の代表権限を付与された社員である組織上の代表者及び清算人につ き,これを適用する。第 1 項及び第 2 項は,法人格のない会社の社員の結合が継続 する場合には,これを準用する。 倒産法第15a 条【法人及び法人格のない会社における申立義務】 1 ) 法人が支払不能又は債務超過になった場合には,代表機関の構成員又は清 算人は,責に帰すべき遅滞なく,遅くとも支払不能又は債務超過の発生後 三週間内に,開始申立てをしなければならない。無限責任社員が自然人で ない法人格のない会社の場合には,会社の代表権限を有する社員としての 組織上の代表者又は清算人につき,同様とする。ただし,無限責任社員が 自然人である他の会社が無限責任社員に含まれる場合には,この限りでな い。 2 ) 第 1 項第 2 文所定の会社の場合に,会社の代表権限を有する社員としての 組織上の代表者が会社であり,かつ無限責任社員が自然人でない会社,又 は会社の結合が同様にして継続する会社であるとき,第 1 項を準用する。 3 ) 有限責任会社の業務が停止している場合においては全ての社員もまた,株 式会社又は協同組合(Genossenschaft)の業務が停止している場合におい ては監査役会の全ての構成員もまた,支払不能及び債務超過,又は業務の

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停止を認識していた場合には,[開始]申立ての義務を負う。 4 ) 第 1 項第 1 文に反して,さらに第 2 文又は第 2 項若しくは第 3 項との関係 で,開始申立てをしなかった者,又は適正に,若しくは適時にしなかった 者は,三年以下の自由刑又は罰金刑に処す。 5 ) 第 4 項の場合において行為者が過失により行使をした場合,一年以下の自 由刑又は罰金刑とする。 【改正点】 *第 1 項:「倒産申立て」⇒「開始申立て」 *第 2 項:「無限責任」の挿入 *第 4 項:「倒産申立て」⇒「開始申立て」 倒産法第16条【開始原因】  倒産手続の開始は,開始原因の存在を要件とする。 倒産法第17条【支払不能】 1 )一般の開始原因は,支払不能とする。 2 ) 債務者は,弁済期の到来している支払義務を履行することができない状態のと き,支払不能とする。支払不能は,原則として,債務者がその支払いを停止した ときに,これを認めることができる。 倒産法第18条【支払不能のおそれ】 1 ) 債務者が倒産手続の開始を申し立てた場合には,支払不能のおそれもまた,これ を開始原因とする。 2 ) 債務者に,現存する支払義務をその弁済期に履行することができない状態が見込 まれるときは,支払不能のおそれがあるものとする。 3 ) 法人又は法人格のない会社において代表機関の構成員全員,無限責任社員全員又 は清算人全員によって開始申立てが行われない場合には,申立人の一人又は数人 がその法人又はその法人格のない会社の代表権限を有するときに限り,第 1 項が 適用される。 倒産法第19条【債務超過】 1 )法人の場合には,債務超過もまた,これを開始原因とする。 2 ) 諸状況から事業の継続を優越する蓋然性が高い場合を除き,債務者の財産が現存 する債務を弁済することができないときは,債務超過とする。社員貸付の返還を 求める債権又は,第39条第 2 項により債権者と債務者の間で倒産手続において第

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39条第 1 項第 1 号ないし第 5 号に示された債権に対する劣後化が合意されている 貸付に経済的に相当する法律的行為に基づく債権は,第 1 文の債務との関係で考 慮しない。 3 ) 法人格のない会社において無限責任社員が自然人でない場合には,第 1 項及び第 2 項は,これを準用する。ただし,無限責任社員が自然人である別の会社が[法 人格のない会社の]無限責任社員である場合はこの限りでない。 倒産法第20条【開始手続における情報提供義務及び協力義務/免責の指摘】 1 ) 開始申立てが適法である場合には,債務者は,倒産裁判所に対して,この申立て に関する裁判に必要な情報を提供し,その他倒産裁判所の職務遂行に際して,こ れを協力しなければならない。第97条,第98条,第101条第 1 項第 1 文,第 2 文, 第 2 項は,これを準用する。 2 ) 債務者が自然人である場合には,第286条ないし第303条の規定に従い,免責を得 ることができる旨を債務者に教示しなければならない。 倒産法第21条【仮処分の命令】 1 ) 倒産裁判所は,債務者の財産状況につき,申立てに関する裁判に至るまで に債権者に不利益な変更を防止するために,必要と思われる全ての措置を 講じなければならない。この措置の命令に対しては,債務者は即時抗告を することができる。 2 )倒産裁判所は,特に次に掲げる処分をすることができる。     1 . 第 8 条第 3 項,第56条,第56a 条及び第58条ないし第66条が準用さ れる仮の倒産管財人の選任     1 a.第67条第 2 項及び第69条ないし第73条が準用される仮の債権者委 員会の設置;仮の債権者委員会の構成員には,手続開始によりはじ めて債権者となる者も選任することができる     2 . 債務者に対する一般的処分禁止命令,又は債務者の処分に際して仮 の倒産管財人の同意を得ることの命令     3 . 債務者に対する強制執行の差止命令,又は一時停止命令;ただし, 不動産執行についてはこの限りではない     4 . 暫定的な郵便制限命令;これについては第99条,第101条第 1 項第 1 文を準用する     5 . 手続が開始された場合に,第166条の対象とされる目的物又は取戻 しの請求がされうる目的物を債権者が換価し,取り立てることを許

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さない旨の命令,及びその目的物が債務者の企業の継続にとり重要 な意味を有する限りにおいて,その目的物を債務者の企業の継続の ために据え置くことができる旨の命令;第169条第 2 項及び第 3 項 は,これを準用する;使用によって生じた価値の損失は,債権者に 対する継続的な支払いによって,これを補償しなければならない。 補償の支払義務は,使用によって生じる価値の損失が,別除権を有 する債権者の担保を侵害する限りにおいてのみ,存続する。仮の倒 産管財人が,請求権の担保のために譲渡した債権を,債権者に代わ って取り立てたときは,第170条,第171条は,これを準用する 3 ) 他の処分では十分でない場合には,倒産裁判所は,強制的に,債務者を引 致し,かつ聴聞後に拘引することができる。債務者が自然人でない場合に は,その組織上の代表者について,[第 1 文を]準用する。拘引の命令に ついては,第98条第 3 項は,これを準用する。 【改正点】 *表題:「保全処分の命令」⇒「仮処分の命令」 *第 2 項(第 1 文第 1 号):第56a 条の挿入 *第 2 項(第 1 文):第 1 a 号の追加 倒産法第22条【仮の倒産管財人の法的地位】 1 ) 仮の倒産管財人が選任され,かつ債務者に対して一般的処分禁止が課された場合 には,債務者の財産に関する管理処分権は,仮の倒産管財人に移転する。この場 合においては,仮の倒産管財人は,次の各号に掲げる行為をしなければならない。     1 .債務者の財産の保全及び保管     2 . 債務者の財産の著しい減少を防ぐために,倒産手続の開始に関する裁判に 至るまでの,債務者が営む企業の継続;ただし,倒産裁判所が企業の閉鎖 に同意しない場合に限る     3 . 債務者の財産をもって手続の費用が支弁されるか否かの調査;倒産裁判所 は,開始原因が存在するのか否か,及び債務者の事業の継続に係る見込み がどの程度あるかについては,仮の倒産管財人に対して,鑑定人としてこ れらを調査することを追加的に委託することができる。 2 ) 債務者に対して一般的処分禁止が課されることなしに仮の倒産管財人が選任され た場合には,倒産裁判所は,この仮の倒産管財人の義務を定める。第 1 文の仮の 倒産管財人は,第 1 項第 2 文による義務[の範囲]を超えることはできない。 3 ) 仮の倒産管財人は,債務者の事業所に立ち入り,かつその場所で調査をすること ができる。債務者は,仮の倒産管財人に対して,その帳簿及び事業用書類の閲覧

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を認めなければならない。債務者は,仮の倒産管財人に対して必要な全ての情報 を提供し,かつ仮の倒産管財人の職務遂行に際してこれを協力しなければならな い;第97条,第98条,第101条第 1 項第 1 文及び第 2 文,第 2 項は,これを準用 する。 倒産法第22a 条【仮の債権者委員会の設置】 1 ) 倒産裁判所は,債務者が前期事業年度において,次の三つの基準のうち少 なくとも二つを満たしている場合,第21条第 2 項第 1 a 号により,仮の債 権者委員会を設置しなければならない。     1 . 商法典第268条第 3 項所定の借方欄に記載されている欠損額を控除 した後の貸借対照表総額が少なくとも4.840.000ユーロであること     2 . 決算日前12ヶ月における売上利益が少なくとも9.680.000ユーロであ ること     3 .年平均にして少なくとも労働者が50人いること 2 ) 倒産裁判所は,仮の債権者委員会の構成員として認められる者が考慮さ れ,指名された者の同意の宣言書が申立書に添付された場合,債務者,仮 の倒産管財人又は債権者の申立てに基づき,第21条第 2 項第 1 a 号に従 い,仮の債権者委員会を設置しなければならない。 3 ) 仮の債権者委員会は,債務者の営業が停止した場合,仮の債権者委員会の 設置が予見されうる倒産財団を考慮して均衡のとれない場合,又は,設置 に伴う遅延により債務者の財産状況の不利益な変更が生じる場合,設置す ることができない。 4 ) 債務者又は仮の倒産管財人は,倒産裁判所の要請に基づき,仮の債権者委 員会の構成員として考慮される者を指名しなければならない。 【改正点】*本条新設 倒産法第23条【処分権制限の公告】 1 ) 第21条第 2 項第 2 号に定めた処分権の制限の一つを命ずる決定及び仮の倒産管財 人を選任する決定は,これを公告しなければならない。この決定は,債務者,第 三債務者及び仮の倒産管財人に対して,これを特別に送達しなければならない。 第三債務者に対しては,この決定に従ってのみ履行の催告をすることができる。 2 ) 債務者が商業登記簿,協同組合登記簿,パートナーシャフト登記簿,又は社団登 記簿に登記されている場合には,倒産裁判所の書記課は,登記裁判所に対して,

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前項の決定の正本を送付しなければならない。 3 ) 土地登記簿,船舶登記簿,造船登記簿,航空機に関する質権登記簿における処分 制限の登記については,第32条,第33条は,これを準用する。 倒産法第24条【処分権制限の効果】 1 ) 第21条第 2 項第 2 号に定めた処分権の制限に違反する場合には,第81条及び第82 条は,これを準用する。 2 ) 債務者の財産に関する処分権限が仮の倒産管財人に移転した場合には,係属中の 訴訟の受継については,第85条第 1 項第 1 文及び第86条は,これを準用する。 倒産法第25条【保全処分の取消し】 1 ) 保全処分が取り消された場合には,処分権制限の取消しの公告については,第23 条を準用する。 2 ) 債務者の財産に関する処分権限が仮の倒産管財人に移転した場合には,仮の倒産 管財人は,その解任前に,仮の倒産管財人によって管理された財産から,生じた 費用を支払い,かつ仮の倒産管財人によって生ぜしめられた債務を履行しなけれ ばならない。継続的債務関係に基づく債務については,同様とする;ただし,仮 の倒産管財人が,仮の倒産管財人によって管理された財産との関係で反対給付を 求めた場合に限る。 倒産法第26条【財団不足による却下】 1 ) 倒産裁判所は,債務者の財産が手続の費用を賄うのに十分ではないことが 見込まれる場合,倒産手続の開始を求める申立てを却下する。十分な金額 が予納される場合,又は手続費用の支払いが第 4 a 条により猶予された場 合は,申立ての却下はなされない。この決定は,遅滞なくこれを公告しな ければならない。 2 ) 倒産裁判所は,財団不足により開始申立てが却下された債務者を,表に記 載しなければならない(債務者表)。民事訴訟法による債務者表に関する 規定は,これを準用する。ただし,その抹消期間は 5 年である。 3 ) 第 1 項第 2 文により予納金を支払った者は,倒産法又は会社法の規定に反 して違法かつ有責に倒産手続の開始を求める申立てをしなかった者に対し て,予納した金額の償還を請求することができる。その者が違法かつ有責 に行為をしたか否かにつき争いがあるときは,その者がこの点についての 証明責任を負う。 4 ) 倒産法又は会社法の規定に反して違法かつ有責に倒産手続の開始を求める

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申立てをしなかった者は,第 1 項第 2 文による予納金を支払う義務を負 う。その者が違法かつ有責に行為をしたか否かにつき争いがある場合,そ の者がこの点についての証明責任を負う。仮の倒産管財人,及び債務者に 対して生じた財産上の請求権を有する者は,予納金の支払いを求めること ができる。 【改正点】*第 4 項新設 倒産法第26a 条【仮の倒産管財人の報酬】 1 ) 倒産手続が開始しなかった場合には,倒産裁判所は,債務者に対する,仮 の倒産管財人の報酬及び償還されるべき立替金を,決定により,定めるこ とができる。この決定書は,特に,仮の倒産管財人及び債務者にこれを送 達しなければならない。 2 ) この決定に対して,仮の倒産管財人及び債務者は,即時抗告をすることが できる。民事訴訟法第567条第 2 項は,これを準用する。 【改正点】*本条新設 倒産法第27条【開始決定】 1 ) 倒産手続を開始する場合には,倒産裁判所は,倒産管財人を任命する。第 270条,第313条第 1 項の適用は,これを妨げない。 2 )開始決定には,次に掲げる事項を記載する。     1 . 商号又は氏名,生年,登記裁判所及び債務者が商業登記簿に登録さ れた登録番号,並びに,債務者の業種又は職業,及び,営業所又は 住居     2 .倒産管財人の氏名及び住所     3 .開始の日時     4 .債務者が残債務免責を求める申立てをしたか否かの表示     5 . 倒産裁判所が,管財人となる人物に関する仮の債権者委員会の一致 した提案と異なる判断をした理由;このとき,提案された者の氏名 を挙げる必要はない 3 ) 開始の時間が記載されない場合,決定がなされた日の正午を,開示の時間 とみなす。

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