№ 77
2017.3
海外漁業協力
大連市は中国東北部の遼東半島の最南端に位置し、東側が黄海、西側が渤海と接する港湾都市であ る。総面積は 12,574㎞2(東京都の約 6 倍)で、人口は 670 万人(2010 年現在)である。気候は 温暖で自然環境も良好なため、豊かな海洋生物資源に恵まれており、中国屈指の海洋漁業生産・流通・ 加工の基地になっている。大連市内には大小多くの水産品流通販売センターがあるが、ここでは大連 駅近くの「大菜市」の魚市場を紹介しよう。 正式名称は「大連天盛海鮮産品総合批発 ( 卸売 ) 市場」と称し、1999 年に開業した魚市場である。 2013 年から再開発され、2015 年春に旧市街域で最大規模を誇る魚市場が完成した。5 階建ての建 物で営業面積は 15,000㎡にも達し、区分けされた 500 カ所の売場は、既に 300 カ所以上が稼働し、 24 時間営業(0 時~6 時は卸売、昼は小売り、夕方~深夜は卸売の仕入れ搬入)で 100 種類以上の 活魚、鮮魚、冷凍魚、加工品(乾燥品が中心)、輸入魚介類などが販売されている。今後は最上階に 飲食店街を設け、サービス内容の拡大と質の向上を図って行くこととなっている。 魚市場外観 場内売場(卸売兼小売り)の一角
世界の魚市場 中国 大連天盛水産品卸売市場 財団ニュース 第27回日中韓水産研究者協議会開催報告1 現地評価調査 パプアニューギニア 6 IWC第66回総会に出席して 12 太平洋諸島フォーラム漁業機関について19 中西部太平洋における漁業管理とWCPFC第13回年次会合(前編) 29 近海はえ縄漁業 科学オブザーバー調査 45 業務報告 ミクロネシア出張所 48 水産指導者養成(漁業管理)コースについて52 連載 キリバス共和国離島訪問記(最終回) 55 主な動き 要人往来・研修生受入59 国際会議支援等60 専門家派遣等60 海外派遣専門家61 政府ベースの漁業協力 水産無償62 専門家の派遣62 漁業交渉・国際会議62 プレスリリース62 ご案内 海外漁業協力事業のための賛助会員・寄附の募集 貸付制度について 財団アクセス・地図
目
次
公益財団法人海外漁業協力財団(以下 「財団」 という。)主催の「日中韓水産研究者協議会」(以 下「協議会」という。)の最後となる第27回の会 合が、2016年11月 8 日、 9 日の両日、東京におい て開催された。 第27回協議会の概要 開会式 主催者代表挨拶他 第 1 議題 「漁業資源の持続的利用に関する 研究の現状と今後の方向」 基調講演の部 研究発表の部 総合討論 第 2 議題 「協議会の終了について」 閉会式 3 カ国代表挨拶他 開会式 開会式には、来賓として、中国水産科学研究院 劉紅梅副院長、韓国国立水産科学院南海水産研究 所 朴性昱所長及び(国研)水産研究・教育機構 研究推進部 木村量連携・協力課長、また、協賛 として(一社)大日本水産会 小林憲常務理事他 が出席した。冒頭、主催者を代表して竹中美晴財 団理事長が挨拶を行い、引き続き小林憲常務理事 が来賓を代表し挨拶を行った。最後に各国研究者 代表団長からの挨拶と団員紹介があった。 協議会には、中国水産科学研究院資源与環境研 究センター 李継龍研究員を団長とする中国側の 研究者 7 名、韓国国立水産科学院基盤研究部 車 亨基沿近海資源科長を団長とする韓国側研究者 7 名及び水産研究・教育機構 檜山義明研究推進部 長を団長とする日本側研究者 7 名が出席した。ま た、オブザーバーとして、水産庁増殖推進部、福 井県農林水産部及び(一社)長崎県漁港漁場協会 の関係者が出席した。 本会議 本会議では、座長に時村宗春財団技術顧問が、 副座長に中国劉紅梅副院長及び韓国朴性昱研究所 長がそれぞれ選出された。 今年度の第 1 議題は「漁業資源の持続的利用に 関する研究の現状と今後の方向」であり、これに 基づき、基調講演の部では、日中韓 3 カ国の団長 より「日本のTAC管理対象種の資源評価におけ る外国漁獲量の扱いについて」、「中国沖合域にお 開会式で挨拶する竹中美晴理事長 檜山義明団長〔日本〕 李継龍団長〔中国〕 車亨基団長〔韓国〕
第27回日中韓水産研究者協議会開催報告
ける漁獲物の栄養段階構成の30年間の変化」、「韓 国海域における漁業資源管理の計画」の演題で、 それぞれ基調講演が行われた。 研究発表の部では、 3 カ国の研究者が次の 4 セッションに分かれて、14の調査研究成果を発表 した(「発表論文リスト」参照)。①資源評価の精 度向上に関する調査研究その 1 ( 3 課題)、②資 源評価の精度向上に関する調査研究その 2 ( 3 課 題)、③気候・環境の変化と資源変動に関する調 査研究( 5 課題)、④総合的な資源・漁業管理に 関する調査研究( 3 課題)。セッション毎に、関 連する質疑と討論が活発に行われ、発表内容に関 する理解を深め、課題について議論した。 基調講演及び研究発表を受けた「総合討論」で は、会場(オブザーバー)からの質問に答えた後、 座長、副座長のまとめを基に、今回のメインテー マである漁業資源の持続的利用に関する研究が重 要であり、そのために、資源評価の精度向上に関 する調査研究、気候・環境変化と資源変動に関す る調査研究及び総合的な資源・漁業管理に関する 調査研究の推進が必要であること並びにこれらの 調査研究の推進のためには、今後も研究交流及び 情報共有が不可欠であることを確認した。 第 2 議題では、事務局が「協議会は所期の目的 を果たしたことから、今回(第27回)をもって終 了する。」旨の説明及び提案が行われ、 3 カ国の 参加者の了解を得た。協議会事務局より各国の行 政及び水産研究機関並びに水産団体等の関係者、 特に 3 カ国の水産研究者に感謝の意を表した。 閉会式 閉会式において、日中韓 3 カ国の研究者代表団 団長及び座長・副座長が挨拶し、各国代表団から は、これまで27年間に亘り継続して協議会を主催 してきた財団に対して感謝の意が表された。さら に、各国代表団は、この協議会が 3 カ国の水産研 究交流促進に大きな役割を果たし、多くの成果を 挙げてきたことを高く評価すると同時に、協議会 終了後も研究交流は引き続き推進していくべきで あると述べた。 協議会終了式 2016年11月 9 日午後、第27回協議会本会議の終 了後に、同一会場において、財団主催の「日中韓 水産研究者協議会終了式」が行われた。 終了式には、水産庁 長谷成人次長、同資源管 理部国際課 海外漁業協力室田原康一室長、大日 時村宗春座長と劉紅梅、朴性昱副座長 主催者代表挨拶 竹中美晴財団理事長 来賓挨拶 長谷成人水産庁次長 研究成果発表の会場風景
本水産会 長岡英典常務理事、水産研究・教育機 構 宮原正典理事長、中国 劉紅梅副院長、在京中 華人民共和国大使館 阮湘平公使参事官、甄子健 一等書記官、韓国 朴性昱研究所長及び在京大韓 民国大使館 鄭東根参事官が来賓として出席した。 終了式では、竹中理事長が主催者を代表して挨 拶し、1990年から開催し続けてきた日中韓水産研 究者協議会は、所期の目的を達成したため終了す ることを宣言し、諸関係機関の長年に亘る支援と 協力に対し深く感謝の意を表した。続いて、長谷 水産庁次長、長岡大日本水産会常務理事、宮原水 産研究・教育機構理事長、中国劉副院長及び韓国 朴研究所長がそれぞれ挨拶し、改めて協議会の歴 史的な役割と成果を高く評価した。さらに、 3 カ 国の研究機関の代表は、今後とも海洋水産資源の 持続的な利用を目指し、 3 カ国研究者間の研究交 流と協力をより一層推進していく意思を表明した。 その後、時村技術顧問が、協議会の歴史を総括 するプレゼンテーションを行い、最後に、竹中理 事長が、協議会の成果の一つでもある「東シナ 海・黄海魚名図鑑 新版」を協議会に初参加の研 究者へ贈呈した。 式典終了後には、隣接する会場に場所を移し、 レセプションを行い、御来賓の方々、日中韓 3 カ 国研究者、オブザーバー、関係機関の参加者が懇 談した。レセプションには、加藤守元財団技術顧 問、元日本代表団の藤井徹夫(国研)国際農林水 産業研究センター水産領域長も駆けつけて下さっ た。なお、懇親会のハイライトとして、日中韓 3 カ国の団長から、協議会の功労者(周衛東特別専 門家、小林時正前技術顧問、張景子通訳)に花束 が贈呈された。 現地交流会 11月10日に中韓両国の研究者は神奈川県横浜市 の(国研)水産研究・教育機構中央水産研究所を 訪問した。同所の国際会議室において、中山一郎 所長による研究業務の概要説明を聴講した後、所 内の研究施設を視察し、質疑応答による活発な現 地研究交流を行った。その後、中韓両国の研究者 は、全ての日程を終了し、11月11日午前、羽田空 港あるいは成田空港より帰国した。 (協議会事務局) 長岡英典大水常務理事 宮原正典水研機構理事長 劉紅梅副院長〔中国〕 朴性昱所長〔韓国〕 第27回日中韓水産研究者協議会出席者一同
【基調講演】
1.中国沖合域における漁獲物の栄養段階構成の30年間の変化
What Happened for the Trophic Level Structure of Chinese Marine Catches in Recent 30 Years
―― 李 継龍(Mr.LIJilong) 中国水産科学研究院漁業資源与環境研究中心 研究員 (団長)
2.韓国海域における漁業資源管理の計画
Plan for Fisheries Resources Management in Korean Waters
―― 車 亨基(Mr.CHAHyungkee) 国立水産科学院資源研究部 沿岸水産資源研究科長 (団長)
3.日本のTAC管理対象種の資源評価における外国漁獲量のあつかいについて
The problem of stock assessment of TAC managed species in Japan caused by insufficient information about catch by foreign countries
―― 檜山 義明(Mr.HIYAMAYoshiaki) (国研)水産研究・教育機構 研究推進部長(団長)
【研究発表】
第 1 セッション 資源評価の精度向上に関する調査研究- 1
1.東シナ海におけるイボダイの成長・死亡の特徴に関する研究
Growth and mortality Character of Psenopsis anomala in the East China Sea
―― 胡 芬(Ms.HUFen) 中国水産科学研究院東海水産研究所 副研究員
2.春季の済州島沿岸における魚卵・稚仔魚の分布
Distribution of the fish eggs and larvae in the coasts of Jeju, Korea in spring
―― 李 承種(Mr.LEESeungJong) 国立水産科学院済州水産研究所 研究官
3.韓国南岸海域におけるカタクチイワシ後期仔魚密度とその餌生物及び捕食者との関係
Relationships between post-larval anchovy and their prey and predator organisms in the southern waters of Korea
―― 兪 俊宅(Mr.YOOJoon-Taek) 国立水産科学院南海水産研究所 研究官
第 2 セッション 資源評価の精度向上に関する調査研究- 2
4.2016年の象山港におけるサワラ産卵群の構造の初歩的研究
The structure of spawning stock of Spanish mackerel Scomberomorus niphonius in Xiangshan Bay in 2016
―― 林 昱(Mr.LINYu) 中国水産科学研究院東海水産研究所 助理研究員
5.韓国東岸海域に生息する底魚類の群集構造
Community structure of the demersal fish inhabiting east coastal waters of Korea
―― 朴 正鎬(Mr.PARKJeong-Ho) 国立水産科学院資源研究部沿岸漁業資源研究科 研究官
6.日本海における深海性底魚の集団遺伝学 - 集団の連続性と歴史的背景 -
Population genetics of deep-sea fishes in the Sea of Japan –spatial continuity and its historical background–
―― 佐久間 啓(Mr.SAKUMAKei) (国研)水産研究・教育機構日本海区水産研究所 任期付研究員
第27回日中韓水産研究者協議会
発表論文リスト
第 3 セッション 気候・環境の変化と資源変動に関する調査研究
7.スルメイカ冬季系群のエルニーニョ及びラニーニャ現象への対応に関する研究
Response of stock variations of the winter-cohort of Japanese common squid Todarodes pacificus to the El Niño and LaNiñaevents
―― 余 為(Mr.YUWei) 上海海洋大学水産科学学院 オーバドクタ研究員
8.韓国東岸における表面水温の長期変動
Long-term variation of the surface water temperature in the east coast of Korea
―― 金 相祐(Mr.KIMSang-Woo) 国立水産科学院東海水産研究所 研究官
9.日本海北部系群のスケトウダラの生活史初期における生残率変動要因の検討
Factors affecting the survival in the early life stages of the northern Japan Sea stock of walleye pollock
Gadus chalcogrammus
―― 千村 昌之(Mr.CHIMURAMasayuki) (国研)水産研究・教育機構北海道区水産研究所 主任研究員
10.マダラの初期成長および生残率に対する飼育水温と塩分の影響
Interactive effects of incubation temperature and salinity on the early life stages of Pacific cod Gadus macrocephalus
―― 卞 暁東(Mr.BIANXiaodong) 中国水産科学研究院黄海水産研究所 副研究員
11.環境変化がマアジの加入量変動に及ぼす影響
Environmentally driven recruitment variability in jack mackerel (Trachurus japonicus).
―― 依田 真里(Ms.YODAMari) (国研)水産研究・教育機構西海区水産研究所 主任研究員
第 4 セッション 総合的な資源・漁業管理に関する調査研究
12.MSY基準から見た日本の漁業資源の状態
Status and trends of Japanese fisheries based on MSY reference points
―― 市野川 桃子(Ms.ICHINOKAWAMomoko) (国研)水産研究・教育機構中央水産研究所 主任研究員
13.渤海の遼東湾における漁業資源の増殖利用技術及びその効果の評価
Technology and effectiveness evaluation for fisheries resources enhancement in Liaodong Bay of Bohai Sea
―― 董 婧(Ms.DONGJing) 中国遼寧省海洋水産科学研究院 漁業資源研究室主任/研究員
14.日諾まき網漁業の比較
A comparison of purse seine fisheries between Japan and Norway
―― 金子 貴臣(Mr.KANEKOTakaomi) (国研)水産研究・教育機構中央水産研究所 研究員
海外漁業協力事業有識者評価委員会
-現地評価調査-
~パプアニューギニアにおける定置網漁業に関する試験調査プロジェクト~
事業評価 財団が実施する各種事業については、外部の有 識者(評価委員)で構成される評価委員会により 毎年、事業評価を実施している。これは、財団事 業の協力効果を客観的に判断し、事業の改善を図 るために評価結果を事業の運営管理に役立てるこ と、評価結果から導き出された教訓・提言を活用 すること、更には、評価情報を広く国民に公開し て財団事業の透明性の確保と説明責任を果たすこ とにある。 評価委員会では必要に応じ、プロジェクト等を 実施した現地において評価調査を実施しており、 1998年に評価委員会が設置されて以降、合計32回、 延べ35か国において評価調査を実施してきた。調 査の結果は報告書に取りまとめられた後、プロ ジェクト等を実施する相手国政府にも提供され、 評価委員からの提言や教訓はその後の効果的な事 業の運営に供されている。 平成28年度現地評価調査 平成28年度は「パプアニューギニア独立国にお ける定置網漁業に関する試験調査プロジェクト (以下「定置網プロジェクト」という。)」を対象 に、評価委員 2 名に調査していただいた。調査の 概要は次のとおりである。 1 調査期間 2017年 1 月21日~ 1 月28日 8 日間 1 号基(メニ) 2 号基(ウォム) 3 号基(ラブミティ) パプアニューギニア地図2 調査団 有識者評価委員(五十音順) 共同団長 飯野建郎太平洋協会理事 (元在フィジー共和国日本国大使) 共同団長 松岡達郎志學館大学学長 (前鹿児島大学水産学部長) 3 調査の実施場所(定置網の設置時期) 1 号基 東セピック州ウェワク メニ村 (2013年 8 月設置) 2 号基 東セピック州ウェワク ウォム村 (2014年12月設置) 3 号基 モロベ州ラエ ラブミティ村 (2015年10月設置) 定 置 網 の 図( 出 典: 農 林 水 産 省 漁 業 セ ン サ ス http://www.maff.go. jp/j/tokei/census/gyocen_ illust2.html) 定置網プロジェクトは、パプアニューギニア国 家水産公社(NFA:National Fisheries Authority) が策定した事業計画に基づき沿岸漁業振興のため 定置網漁業の普及を目指して実施しているもので ある。財団は、パプアニューギニア政府からの要 請に基づき2013年から専門家を派遣し協力を実施 している。定置網プロジェクトの詳細は、当機関 誌71号及び76号に専門家の報告が掲載されている のでご参照いただきたい。 評価調査にあたっては、財団が定める評価要領 及び評価マニュアルに基づき、評価 5 項目(妥当 性、効率性、有効性、インパクト、持続性)につ いて調査が実施された。なお、調査期間中は、現 場で直接指導にあたっている藤井資己専門家が同 行した。 評価結果の具体的内容については評価委員から 報告書が提出され、それが公表されることとなっ ているのでここでは触れないが、評価調査の現場 の模様などについて紹介することとしたい。 プロジェクトの背景 日本とパプアニューギニアの漁業関係は2006年 5 月以降比較的良好で、現在、日本の海外まき網 漁船や遠洋はえ縄漁船が同国の200海里水域で操 業している。一方、パプアニューギニア政府は漁 村コミュニティの雇用の創出、現金収入の増大、 食料の確保を目的として沿岸漁業開発に取り組ん でおり、財団は良好な漁業関係を背景に2013年度 から定置網プロジェクトを実施している。このプ ロジェクトには、日本の製網会社も協力している が、事業実施のための必要な予算措置、管理運営 経費、定置網などの資機材調達など主要なハード 面はパプアニューギニアが担っており、財団は定 置網操業や運営に関する技術指導、人材育成、 データ収集・解析などのソフト面で支援している。 財団が協力を始めた2013年以降、これまで 3 基の 定置網が設置されている。 パプアニューギニアにおける沿岸漁業は、伝統 的な手釣りや刺し網など簡単な漁法であり、日本 式の定置網が設置されたことは初めてである。パ プアニューギニアにはコミュニティ(地域、村) の文化があり、物事を進めるにあたってはコミュ ニティの意思や決定が非常に尊重される。このた め、海上の一定エリアを占有する定置網の運営に は、コミュニティの理解と協力がなければ実施で きない。定置網プロジェクト開始当初はいくつか のトラブルもあったが、今では 3 基の定置網とも 比較的順調に運営されている。 現地評価調査 今回の調査では、 3 基の定置網操業を直接視察 することにより実施状況を調査するとともに運営
について協議するプロジェクト関係者(ステーク ホルダー)会議に出席し、漁民やコミュニティ、 州政府の代表者へ直接インタビューする方法がと られた。 そして、調査の最終日にパプアニューギニアの 水産行政を担っているNFA総裁らと面談し、政 府としての沿岸漁業開発に関する今後の方針を聴 取するとともに、評価委員からは評価調査の結果 として今後の定置網プロジェクトに対する提言が なされた。 定置網操業視察 設置された定置網は、落し網と呼ばれる形式の もので、日本の沿岸で広く使用されているもので ある。 定置網は、コミュニティの目の前の水深15~ 16mのところに設置されており、岸から船で 5 分 程度のところである。操業に従事している漁業者 は10~15名程度で、優秀な者は日本で研修を受け るなど技術レベルも向上している。定置網の設置 時期は 1 号基が2013年 8 月、 2 号基が2014年12月、 3 号基が2015年10月で一番新しい。このため、 3 号基の漁業者の技術レベルは、まだまだ発展途上 にあるようである。 調査日程の都合上、 3 号基からの調査となった。 3 号基のあるモロベ州ラエのラブミティ村では、 評価チームが到着する約 3 週間前から、財団専門 家が替え網の作成指導のため現地入りしていた。 替え網の作成には製網会社の技術者も参加し、今 回は 1 号基(メニ村)と 2 号基(ウォム村)から テクニカルフィッシャー(技術レベルの高い漁業 者)が技術指導に来ていた。専門家によれば、 1 号基の替え網を作成した際には約 2 か月を要した が、今回の 3 号基ではわずか 2 週間弱で完成した とのことで、テクニカルフィッシャーの貢献度は 高く、技術移転が順調であることが窺えた。評価 チームは、新しい網に張り替えた直後の操業を視 察することができ、この日の漁獲量は約50㎏と、 3 号基にしてはまずまずの漁獲であった。 好漁に漁業者もうれしそうで、漁場を後にする 評価チームを元気に見送ってくれた。 3 号基の操業を視察した後、空路東セピック州 3号基操業 3号基の水揚げ 操業を終えて
ウェワクまで移動し、翌日の早朝 1 号基(メニ 村)と 2 号基(ウォム村)の操業を視察した。 このうち 2 号基は、過去に約 3 トンの大漁を記 録したことがある好漁場に設置されており、評価 チームの期待は大きかった。当日は早朝から雨が 降っていたせいか、漁業者がなかなか集まらず、 操業に出るまでしばらく待たされた。 漁場に到着し、いざ網を揚げる段になっても漁 業者に元気はない。専門家は漁場に到着したとき から網の形状が少しおかしいことに気づいていた ようであり、案の定、網揚げが終わってみると、 雑魚 1 匹たりとも入っていなかった。 定置網で漁獲がゼロというのは、普通では考え られないことで、その場で専門家が漁業者に確認 したところ 1 週間前からこのような状況であった ウォム村沖で漁業者を待つ 2号基漁獲ゼロ とのこと。 3 号基(ラブミティ村)の手伝いで不在だった テクニカルフィッシャーがこの日から操業に戻っ てきていたので、専門家とともに原因を調査した。 考えられることは、速い潮の流れのため網を支え るフレームの張りが変形し、網の形状が歪んだた め魚の入り口が塞がれたのではないかとのことで あった。専門家によれば、以前、流木が引っかか り、網がぐちゃぐちゃになった時も、テクニカル フィッシャーの指示の下、漁業者だけで応急処置 をし、最後に専門家も手伝って網の張り直しをし たが、今回のようなトラブルであれば彼らだけで 十分修復可能であるとのことであった。 一方、 1 号基の漁獲量は約20㎏と、通常より少な い漁獲量であったが、これは網の汚れによるもの で、早急な網の交換により対処できるものである。 専門家と対応協議(2号基) 1号基の漁獲物
ステークホルダー会議 パプアニューギニアでは、万事においてコミュ ニティの理解と協力が不可欠であるということは 先に述べたとおりである。実際に操業を担う漁業 者はコミュニティから選んでいるが、漁業者だけ で定置網操業を運営しているのではなく、コミュ ニティの代表者や女性、州政府の関係者で組織さ れるステークホルダー会議によって、運営に関す る意思決定がされている。 評価委員はラブミティ村及びメニ村/ウォム村 (合同で開催)のそれぞれの会議に出席し、直接 関係者の意見を聞く機会を得た。 会議の出席者は30人~40人程度でNFAの職員 (専門家のカウンターパート)が司会進行を務め、 専門家がアドバイスする形で行われ、これまでの 操業の結果報告、生物学的データの取得状況、売 上や資産の状況報告、今後の活動計画の作成、問 題点など多岐に渡って議論された。定置網プロ ジェクト開始当初はコミュニティの長老(?)が 意見を言うと、他の人は何も言えなかったとのこ とであるが、今では、若い漁業者や女性が積極的 に意見を述べるなど、民主的に運営されているよ うであり、このプロジェクトに対する期待の高さ が窺えた。 なお、この民主的な運営方法に関しては、後日、 評価委員からNFAに対して「意思決定が民主的 に行われることは決して悪いことではないが、定 置網の運営管理という点では足かせとなることが ある。特に操業の技術的なことについては、臨機 応変に対応するためマスター漁業者を育成し(必 要であればアシスタント漁業者をつけ)、彼らに 意思決定をさせるシステム作りが重要であり、 NFAのリーダーシップに期待する。」旨の提言が あった。 それぞれのステークホルダー会議の最後に、評 価委員より財団の協力に関する質問が行われ、出 席者からは、専門家による技術移転が着実に進み 人材が育っていること、資機材の供与がタイム リーであり有効に利用されていること、引き続き 協力を実施して欲しいことなど、総じて高い評価 を聞くことができた。 なお、参考までに、地元の漁業者は英語の他、 主にピジン語を使っており、筆者はよく聞き取れ なかった、というかほとんど理解できなかったが、 評価委員はお二人とも過去にパプアニューギニア 在住経験があり、コミュニケーションに全く問題 がなかったことを付言させていただく。 国家水産公社(NFA)での報告 調査の最終日に、パプアニューギニアの水産行 政を所管しているNFAを訪問し、NFA総裁、副 総裁、技術協力担当者らと面談し意見交換すると ともに、評価委員から調査結果が報告された。 ラブミティ村ステークホルダー会議 メニ村/ウォム村ステークホルダー会議 (左:松岡委員 右:飯野委員)
NFAとの会議 (正面左から、藤井専門家、松岡委員、飯野委員) NFAは、定置網プロジェクトがコミュニティ にとって雇用の促進、現金収入の増大、食料の確 保などに貢献するものであり、パプアニューギニ アの沿岸漁業開発の重点施策の一つとして取り組 んでいることを説明し、財団の協力により人材が 育成され、定置網が定着しつつあることに謝意を 表し、今後は定置網漁業を全国に展開していきた いとの意向であった。そのためには、コミュニ ティレベルで持続的に運営されるようコストを抑 え、より少ない人数で操業できる小型の定置網の 導入も検討したいとのことで、引き続き財団の協 力を期待する旨の発言があった。 評価委員からは、これまでの定置網プロジェク トの成果を高く評価するとともに、今後持続的に 定置網が普及し沿岸漁業の発展に寄与するための 提言として、①マスター漁業者の育成、②データ 管理の重要性、③女性の活用、④定置網漁業のコ ミュニティへの貢献などについて指摘するととも に、NFAのリーダーシップを期待する旨述べた。 最後に 定置網プロジェクトはパプアニューギニア政府 が主導的に実施しているものであり、財団は定置 網の運営管理に関して主にソフト面で協力を実施 している。調査の最終日にNFAで評価委員によ る総括が行われたが、この短い現地調査の中で定 置網プロジェクトに対する提言やパプアニューギ ニアにおける定置網漁業普及へのアドバイスなど 的確に問題点及び改善点を把握し提言されたこと は、担当者として今後の財団プロジェクトを運営 していく上でも良い経験となった。また、現場で は、専門家による定置網の技術移転が着実に行わ れていること、専門家に対するコミュニティや漁 業者からの信頼が厚いことを目の当たりにするこ とができ、財団プロジェクトにおける専門家の貢 献が、結果を大きく左右するということを改めて 考えさせられた調査であった。 今回の調査を実施していただいた両評価委員に 改めて御礼を述べるとともに、現場で直接指導に あたっている藤井専門家に敬意を表したい。 評価委員から提出される評価報告書は、財団へ の提言と相手国政府への提言が記載されており、 NFAにも提供することとなっている。頂いた提 言を踏まえ、今後のプロジェクト運営に活用して いきたい。 (総務課長 坂田重登) 左から藤井専門家、松岡委員、カスNFA総裁、 飯野委員
国際捕鯨委員会
(IWC :International Whaling Committee)
第66回総会に出席して
中央ヨーロッパにあるスロベニア共和国は、ア ルプス山脈の南端に位置するとともに、国土の南 西では、アドリア海に面する美しい国である。こ のアドリア海に面した海辺のリゾート地ポルト ローシュ(スロベニア語でバラの港)で、第66回 IWC総会が開催された。 リュブリャナ空港 スロベニアの首都リュブリャナの空港には、 ヨーロッパの主要な空港からの飛行機便が数多く 発着しており、日本からも同日中に到着が可能で ある。今回はフランクフルトからアルプスを越え てリュブリャナ空港に到着。 空港からポルトローシュまでは約140㎞で、事 前に予約しておいた小型バスで、パリから来た環 境NGOやラオスの代表(こちらは持続利用派) と呉越同舟で一路ポルトローシュを目指す。雨の リュブリャナから高速道路をひた走り、ポルト ローシュに近づく頃には雨もあがり、目の前に、 アドリア海の風景が広がった。 IWCは、「鯨類資源の保存と捕鯨産業の秩序あ る発展」の実現を目的として、1948年11月に発効 し た 国 際 捕 鯨 取 締 条 約(ICRW: International Convention for the Regulation of Whaling) に 基づき設置された委員会である。 当然のことながら、初期の加盟国はほとんどが 捕鯨国で、日本が加盟した1951年の加盟国17カ国 のうち、非捕鯨国は 2 か国のみであった。当時は、 日本を含めた 8 か国が南氷洋で母船式の大規模な 捕鯨を行っていたが、徐々にその数は減少して行 く。捕鯨国の中でも鯨肉を利用しているのはわず かな国で、大部分は鯨油を取るためだけに捕鯨を 行っており、石油や植物油の台頭で鯨油の需要が 無くなるにつれて、次々と捕鯨国の数が減って行 き、非捕鯨国との勢力が変化していった。 1972年になって、IWCの方向を大きく変える 出来事が起きた。国連人間環境会議における商業 捕鯨の10年間モラトリアム決議である。IWC総 会においても、米国が同様の決議案を提出したが、 科学的に正当化されないとの科学委員会の結論に リュブリャナ ポルトローシュ スロベニア地図 (出典:Perry-Castañeda Library (University of Texas Libraries)を加工して作成)より否決された。しかし、ここから反捕鯨NGO を巻き込んだ捕鯨国攻撃が激化することとなった。 従来の捕鯨国は、非捕鯨国を経て反捕鯨国へと転 換し、環境団体は「可愛い鯨を殺すな」「鯨を救 おう」といったキャンペーンで多額の寄付を集め、 反捕鯨を主な生業とするに至った。 数が減ったとはいえ、捕鯨国も加盟国の 4 分の 1 の勢力は維持しており、科学委員会の正当な判 断もあって、その後もモラトリアム提案を否決し てきた。しかしこの頃から、反捕鯨国は捕鯨に関 係のない国々を次々にIWCに加盟させ、政府あ るいは反捕鯨NGOからの様々な圧力で自分達を 支持する国の数を増やし、1982年になりついに、 商業捕鯨モラトリアムが可決された。 その後鯨の問題が、他の海洋生物資源の利用に も影響を与えかねないと考える国々の加盟もあり、 IWC内の反捕鯨勢力は、過半数を維持している ものの、 4 分の 3 は超えられない状況が続いてい る。拘束力のある条約や付表の修正は行えないが、 拘束力のない決議案の採択は可能といった状況で、 今回の総会においても、本筋とあまり関係ないと 思われる決議案がいくつか提案、採択されている。 IWC自体も2012年の第64回以降、従来の年次 会合が 2 年に 1 度の開催となっており、IWCが 問題の解決を強く目指していないようにも感じら れる。 会場のホテル IWC総会と言えば、捕鯨国、特に日本が攻撃 の対象となり、代表団に赤インクが浴びせられた り、大勢の反捕鯨団体がデモを行うといったイ メージがあり、今回も相当な緊張感を持って会場 に赴いたが、会場前には数張の横断幕が無人で掲 げられているだけで、至って静かであった。総会 が始まり、ようやく人がぱらぱらと立っているが、 我々が前を通っても、声を上げるでもなく静かに 佇んでいる。先に述べたIWCの停滞状況もあっ て、新たに取り立てるような話題もないのだろう か。過激派のシーシェパードは、相変わらず日本 の調査捕鯨の妨害を宣言している。 IWCの中の反捕鯨国、特にブエノスアイレス グループと呼ばれる南米の国々が力を入れている のが「南大西洋鯨類サンクチュアリー」の設定で ある。商業捕鯨モラトリアムと共に、反捕鯨国が 頼っているのがサンクチュアリーで、モラトリア ムが将来撤回されたとしても、捕鯨を阻止するた めの手段と位置付けられている。 南大西洋サンクチュアリーの設定は、2001年に 提案されて以来毎年提案、否決が続いている。提 案国のブラジルは、今次総会での採決を目指し、 サポートスタッフを含め 7 名の代表団を送り込み、 サンクチュアリー提案の採択を求めた。100万人 の署名を集めたとか、サンクチュアリーは沿岸漁 業を守るといった説明を行ったが、結局これまで と同様に具体的な科学的根拠が示されることはな かった。自らの熱意を示すためなのか、発言の最 後に、次回のIWC総会の自国での開催を提案し た。 共同提案国のアルゼンチンが「科学委は、肯定 的に評価している。」との意見を述べたが、即座 に科学委議長から「科学委は賛成、反対いずれの 結論も出していない。」と修正された。 同様に反捕鯨国からは、「提案国を支持」「何年 も議論されていることを称賛する。」「保護のため に賛成」といった、特に必要性を補強するような 理由を含まない支持発言が行われた。
大西洋に面していない国々が、本提案に反対す るのはおかしいといった発言もあったが、大西洋 岸アフリカ諸国は、欧米人顧問がコントロールし ているガボン以外、この修正案を支持していない。 一方持続利用国からは、「何年も提案が続いて いるが、質問に対し回答をもらったことがない。」 「具体的に危機的な対象資源がある海域があれば、 考える余地はあるが、南大西洋には科学的な根拠 がない。」「南氷洋サンクチュアリーについても意 見が分かれているところに、新たな提案は問題。」 「正当性を示す、新たな証拠は示されていない。」 といった反対意見が出された。もちろん日本から も、「日本は海洋生物資源の持続的利用を標榜し ており、資源は健全であることを求めている。減 少している資源については、守る立場であるが、 資源の利用を全面的に否定するサンクチュアリー には反対する。サンクチュアリーは捕鯨を禁止す る以外の効果はない。自然の資源の利用と環境を 守ることは、相反するものではない。」との意見 を述べた。 ブラジルは各国の意見を聞いた後、明朝の採決 を提案した。 採決当日、朝一番で投票が行われることから、 各国代表は早めに会場に集まっている。太平洋島 嶼国の代表のところには、同地域の反捕鯨のリー ダーとも言える、オーストラリアとニュージーラ ンドの政府代表やNGOが入れ代わり立ち代わり 訪れ、サンクチュアリーへの支持を求めている。 太平洋の小島嶼国にとって、漁業は主要な産業で あり、海洋水産資源の持続利用は、国の産業の維 持開発のための原則である。その原則を無視する ような反捕鯨国の進め方は、彼らにとって受入れ 難いものである。 一方でオーストラリアやニュージーランドは、 同じエリアの先進国として、貿易や観光、各種の 協力を通じて深いつながりがあるのも事実である。 各種の国際会議に長年かかわっている島嶼国の代 表は、毎回これらの国から圧力をかけられる IWCの総会は、最も負担を感じる会議であると 漏らしている。 会議が始まり、事務局からの投票方法の説明の 後、国名のアルファベット順に投票が進んで行く。 実は出席国の投票権の確認が行われた時点で、ほ ぼ投票の行方は見えているのであるが、結果は、 賛成38、反対24、棄権 2 。 賛成票は、付表修正に必要な 4 分の 3 に達せず、 本修正案は否決された。 持続利用側から言えば、南大西洋サンクチュア リー提案を再び阻止したということである。 日本にも長年否決され続けている提案が存在す る。かつて日本の沿岸漁村において、ミンククジ 開場前の会場 フロアは代表団席で、手前の階段 席がオブザーバー席 会議風景 手前の青い椅子4列を含め日本の代表 団席。オブザーバーを含めれば50人を超える大デ レゲーションが出席した。
ラを対象とした捕鯨が行われていたが、商業捕鯨 モラトリアム以降、ミンククジラの捕獲が不可能 となっている。日本は、これらの沿岸小型捕鯨は、 モラトリアム下でも認められている先住民生存捕 鯨と同様、地域の歴史や社会経済と密接につなが るものとして、30年近く暫定的な捕獲枠を認める よう要求してきているが、これまで認められてい ない。この提案に反対する国から、具体的な反対 理由は示されず、とにかく(日本の)捕鯨は反対 といった論調に終始している。 今回の会合で日本は、従来のように小型捕鯨枠 を求める提案は行わず、IWCの基本的な問題を 取り上げ、議論することを提案した。現在の IWCには、日本のように海洋生物資源の持続利 用を求める国と、条約の下で本来認められるべき 捕鯨を、いかなる状況においても認めない国、と いう 2 つの異なるポジションの国が存在し、その ポジションの違いで双方が協力を拒まざるを得な い状況にある。他の機関のように、すべての当事 者にバランスのとれた結果が得られるように、こ の組織がきちんと機能するためのアプローチを考 える必要があると主張した。 持続利用側の国からは、日本と同じく現在の IWCの状況を問題視するとともに日本の提案を 支持する発言が続いた。 一方、反捕鯨の国々は、議論を求める日本の提 案を評価するとしつつ、それに続く発言は、「商 業捕鯨モラトリアムの継続を支持する。」、「商業 捕鯨、先住民生存捕鯨以外の新たなカテゴリーを 作ることは認めない。」といつもの発言を繰り返 した。 日本は、この議論を継続する必要があるとして、 次期総会までの閉会期間中に、現状を踏まえた上 で、今後のIWCの進み方に関して議論を続けた いと提案し、各国の意見を聞きながら進めること となった。 会場にいると、日本がこのような提案をしなけ ればならないほど、議論が停滞していることが感 じられた。反捕鯨国が、正面切って議論を戦わせ る場面はなく、一方的に自分の意見を述べて、最 後に「モラトリアムの継続を支持」「一切の捕殺 を認めない」といったフレーズで発言が終ると いった具合である。 反捕鯨国は、商業捕鯨モラトリアムによって一 定の成果を確保しており、現状を変えないことが まず重要なのであろう。万が一モラトリアムが終 わった時のために、サンクチュアリー設定を広げ ることも、彼らにとって必要であるかも知れない。 また、日本の科学調査は、彼らにとって忌々しい ものであるだろうが、条約で保証されたこの調査 を止めさせることは容易ではない。そのため拘束 力のない決議案を重ねることで、少しでもこの調 査の進行を遅らせるとともに、鯨を獲らせない世 論を形成しようとしているようにしか見えない。 今回の会合で、シーシェパードのテロ行為につい て意見を求められた活動船の旗国(オランダ、 オーストラリア)は、「本件は、IMO(国際海事 機関)の管轄である。」と述べただけでなく、「危 険が予測される海域には近づかなければよい。」 と、暗にシーシェパードによる妨害行動を認める ような発言までする始末である。 科学的な根拠と、条約の精神を基に鯨資源の食 糧としての持続的な利用を求める日本を始めとす る持続利用派に対し、反捕鯨側から「頭の良い鯨 を殺すのは可哀そう」といった論調はさすがに聞 かれなくなっている。しかし、そういった感情的 な根拠すらなく捕鯨を認めない現状は、以前より 悪化しているのかもしれない。 また、資源の持続利用に対して、「鯨資源の非 致死的持続利用」といった言葉が登場している。 ホエールウォッチングがこれを代表する利用にあ たるとのことであるが、何のことはない「鯨を殺 すな」を言い換えただけのことである。
会場から見るポルトローシュ 会議は全体として淡々と進行し、反捕鯨の国々 に対して強い敵愾心を感じる場面はなかったが、 終わってみれば、言いようのない不快感が残った。 二言目には「商業捕鯨モラトリアムの継続を支 持」「捕鯨は認めない」といった発言をして、議 論を受入れない態度なのか。管理手法が完成して も、新たな課題を出してずるずると捕鯨再開を引 き延ばすやり方なのか。様々な不合理が、不快感 につながるのであろう。反捕鯨国には主要な漁業 国も含まれている。漁業国が海棲水産資源の持続 利用を無視して、アンバランスな資源管理を是と することが理解できない。彼らは鯨の保護、資源 の保存を主張するが、実は日本に捕鯨を行わせな いことこそが目的で、鯨の保護は単なる手段では ないのかと思えてくる。 次回2018年の第67回総会は、ブラジルのプライ ア・ド・フォルチで開催されることになった。後 から知ったことであるが、ウミガメの保護施設が あって、環境保護の聖地といった場所のようであ る。自国で開催される総会で、ブラジルは全力を 挙げて「南大西洋サンクチュアリーの設定」を目 指してくるだろう。無駄な戦いとも思えるが、持 続利用を進める立場からは、何度提出されても納 得できないものを認めることはできない。持続利 用国の結束を固めて、反捕鯨国による切り崩しに 備える必要があるだろう。 鯨肉の思い出 私の年代では、鯨は普通に食生活の中にあった。 刺身で食べるようになったのは最近のことで、当 時はステーキであったり、煮物、揚げ物であった りと加熱調理したメニューで食していた。その頃 は、子供が一人で立ち寄れる串カツ屋があり、一 番安いのが「串カツ」で、中身が鯨である。他の メニューはイカであったりイモであったり中の具 の名前が付くが、そういった店では鯨カツ=串カ ツなのである。 現在鯨肉の価格は上昇し、売っている店を探す のにも苦労する。デパートや大手スーパーからは 消えてしまったが、幸い今住んでいる地域では、 中小のスーパーを探せば、結構鯨肉が並んでいる。 価格のためか刺身売り場で小さなパックで並んで いるが、同年代の家内でも、鯨の刺身は苦手とい う。結局一人で食べることになるが、できればも う少し手ごろな価格で、大きい単位で入手できれ ば、鯨カツや竜田揚げといった誰でも食べやすい 料理に使えるのだが。 スロベニア 近年、観光地として日本でも名前が売れてきた クロアチアの隣国であるスロベニアは、クロアチ アと同じ旧ユーゴスラビアを構成していた国であ るが、時にスロバキアと間違われるほど無名であ る。そういえば、アメリカ合衆国第45代大統領夫 人は、ここスロベニアの出身である。 冒頭に書いた通り、北はアルプス、南西はアド リア海(クロアチアと比べると海岸線ははるかに 短いが)に面している。内陸部は石灰岩からなる カルスト地形が続き、多くの鍾乳洞があるほか、 温泉もあり、小さな国土の中に多様な見どころを 有している。日本でも最近名前が知られているの が「アルプスの瞳」と呼ばれるブレット湖で、湖 畔の古城や中島にある教会とアルプスを背景にし た景色が美しく、クロアチア等と組み合わせたツ アーが組まれている。 ちなみにスロベニアでは、ポルトローシュで 2
回のIWC総会が開催された他、ブレットで 2 回 (予定を含む)の科学委員会を招致している。 ピラン港 手前は比較的大きな刺し網漁船。奥の 方に小型の漁船が並んでいる。 ところで、総会が開催されたポルトローシュは、 アドリア海沿岸のリゾート地であるが、会場と なったホテルは、ポルトローシュの中心街から少 し離れた場所にあって、周辺にはホテルの施設以 外のレストランや土産物店はあまりない。ポルト ローシュ中心街や、 隣りのピラン市街 には多くのレスト ランがあって、ア ドリア海の新鮮な 海の幸を提供して いる。ポルトロー シュの港には漁船 は見当たらないが、 ピランの港には、 ヨットに混じって 小型の漁船が停泊 している。一軒見つけた魚屋にはヘダイ、ニベ、 イワシ、ボラ、ホウボウやエビが並んでおり、店 主によれば、サーモン以外はすべてここの港で揚 がったものとのことであった。レストランでは直 接船から魚を購入しているようで、港で直接漁師 から魚を買っている様子も見受けられる。スズキ やムール貝の養殖も行なわれているとのことで、 高台から生簀らしきもののブイが見える。 会議はフラストレーションの溜まるものであっ たが、会場から宿泊先に戻って見るアドリア海の 夕日や近隣の街の佇まいは心安らぐもので、また 治安の良さもあって、ポルトローシュの滞在その ものは快適であった。 宿泊したホテルからの夕暮れ スロベニアで「愛のある国スロベニア」といっ たコピーを何度か目にした。英語でSLOVENIA とすれば分かるだろうか。英文表記で国名に LOVEが含まれるのは、スロベニアだけだそうだ。 (事業部調査員 高橋 淳) ピラン市街の魚屋
国際捕鯨委員会(International Whaling Committee : IWC)第66回総会概要
開催期間:平成28年10月24日(月)~10月28日(金) 場 所:スロベニア共和国ポルトローシュ グランドホテルベルナルディン 出 席 国:IWC加盟国88か国のうち67か国 議 長:スイス ブルーノ・マイニーニ代表 決議案・附表修正案の概要と結果 ・南大西洋サンクチュアリーの設置に係る附表修 正提案(ラテンアメリカ諸国が提出) 概要:南大西洋にサンクチュアリーを設置す る提案 結果:賛成38、反対24、棄権 2 で否決 ・IWCの有効性の向上に関する決議案 (豪、NZ、米国提出) 概要:IWCの機能向上のためのワーキング グループ設置に関する決議案 結果:コンセンサスで採決 ・特別許可に基づく捕鯨のレビュープロセスの改 善(豪、NZ提出) 概要:現行のレビューに加え、総会が、新た に設置される作業部会の助言を得て、 科学調査委計画に意見を表明すること を決定する内容 結果:賛成34、反対17、棄権10で採択 ・食糧安全保障に関する決議案 (ガーナ、ギニア等が提出) 概要:途上国の栄養確保、食糧の安全保障の 必要性を確認し、IWCの議決におい ても途上国の状況を考慮することを求 める決議案 結果:コンセンサスが得られないと見込まれ、 継続協議 ・途上国支援基金の創設に関する決議案 (日本、ガーナ等が提出) 概要:議案内容: IWCの活動への参加を支援 するための基金創設に関する決議案 結果:賛成30、棄権31で採択 ・鯨と生態系サービスに関する決議案 (チリ提出) 概要:生態系サービスの中での鯨の貢献を考 慮し、研究を進める決議案 結果:賛成36、反対16、棄権 9 で採択 ・ミナマタ条約に関する決議案 (ウルグアイ、ブラジル、コロンビア提出) 概要:水銀の人為的な排出から人体を保護す る水俣条約との関連で、鯨の水銀汚染 を研究するとした決議案 結果:賛成38、反対23で採択 ・絶滅の危機に瀕するバキータに関する決議案 (米国、EU提出) 概要:混獲により生息数が危機的に減少して いるバキータ(コガシラネズミイル カ)の現状を憂い、適切な対策を求め る決議 結果:一部の国によるコンセンサスで採択 (日本を始めとする持続利用国の多く は、バキータの状況に懸念は共有し、 コンセンサスを妨げないが、IWC管 轄外の小型鯨類に関する決議案には参 加せず。) 次回総会:2018年 ブラジル プライア・ド・フォルチ 次期議長:日本の森下代表 副議長はスロベニアのビビッチ代表太平洋諸島フォーラム漁業機関について
財団専門家 藤原 俊司
私は、2013年 6 月にインド洋のセーシェルから、 太平洋諸島フォーラム漁業機関(Pacific Islands Forum Fisheries Agency: FFA)本部のあるソ ロモン諸島ガダルカナル島の首都ホニアラに赴任 してきました。1989年からここFFA本部で、こ れまで 5 名の財団専門家が、アドバイザーとして 中西部太平洋の漁場確保に貢献されてきました。 私は赴任してから 4 年近くになりますが、中西部 太平洋の漁場確保は年々難しさを増しています。 この海域はマグロが豊富ですので、マグロとその 漁業に触れながら、漁場確保の重要な情報発信機 関であるFFAについて紹介します。 FFAの設立 FFA設立の発端は、1976年の太平洋諸島フォー ラム(Pacific Islands Forum: PIF、当時はSouth
Pacific Forum)の年次総会に遡ります。PIFは、 南太平洋の独立国および自治政府で組織される地 域経済協力機構で、もともとはフランスの核実験 などに反対して結成された政治組織でした。その PIFの年次総会で、地域漁業機関、のちのFFAの 設立が合意されました。第 3 次国連海洋法会議に 連動し、200海里排他的経済水域(EEZ)の設定 や地域漁業機関設立にむけた議論も盛んな折でし た。加盟国をどのように限定するかの紆余曲折の 議論はありましたが、PIFの加盟国16カ国(オー ストラリア、クック諸島、ミクロネシア、フィ ジー、キリバス、マーシャル、ナウル、ニュー ジーランド、ニウエ、パラオ、パプアニューギニ ア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バ ヌアツ)にニュージーランド自治領のトケラウを 加えた17の国と地域(以下「加盟国」という。) 図1. 太平洋諸島フォーラム漁業機関(FFA)の加盟国・地域 (出典:国際機関 太平洋諸島センターの地図を加工して作成 ニュージーランド割愛)
をメンバーとし、1979年に設立協定が締結され、 FFA設立となりました。 FFAの加盟国・地域 FFAの加盟メンバーは、設立当初の17の加盟 国のままで、今日に至ります。豪州とニュージー ランドを除く残り15の太平洋の加盟国の名前はあ まり聞いたことがない人も多いでしょう。名前は 聞いたことがあっても、どのあたりに位置するか 不明の方も多いかと思います。図 1 に、国際機関 太平洋諸島センターのウェブサイトから、地図を 拝借してきました。おおよその国の広さを示し、 ミクロネシア、メラネシア、ポリネシアの 3 つ地 域がわかる様に色分けしてあります。FFA加盟 国以外にも、米国、フランスの海外県もこの中西 部太平洋には点在しております。 中西部太平洋の北側に位置するパラオ、ミクロ ネシア、マーシャル、キリバス、それにナウルの 5 カ国は、ミクロネシア地域に属し、南半球の西 に位置するメラネシア地域には、パプアニューギ ニア、ソロモン、バヌアツ、それにフィジーの 4 カ国が入ります。その東のポリネシア地域には、 ツバル、サモア、トンガ、ニウエ、クック諸島、 それにトケラウが入ります。 オーストラリアとニュージーランドを除く15カ 国の加盟国の陸地総面積は78.4万km2で、日本の 約 2 倍。この中から、パプアニューギニアとソロ モン諸島の面積を除く13カ国の陸地面積は 3 . 7 万km2と日本の面積の10分の 1 の広さでしかあり ません。多くの島が点在するこれら15カ国のEEZ は、太平洋の中西部を隙間なく占め、その海域面 積は1,935万km2と非常に広いことはひと目でわか るかと思います。FFA加盟国の島々は、一般的 に深い海底からにょっきりと隆起しており、大陸 棚の面積が狭いのが特徴です。カツオ・マグロが 豊富に泳ぎ回るこの広い海域のこれら資源をいか に持続的に有効利用していくのかが、これらの 国々、延いてはFFAの大きな課題といえるで しょう。 これらのカツオ・マグロ資源を持続的に利用す るために、マグロ類の地域漁業管理機関である中 西部太平洋まぐろ類委員会(Western and Central Pacific Fisheries Commission: WCPFC) が2004 年に設立されました。WCPFCの管轄水域にFFA 加盟国の水域がすっぽりと入り、FFA加盟国す べてがWCPFCに加盟し、委員会の一大勢力と なっています FFA水域のカツオ・マグロとその漁業 FFA水域のカツオ・マグロ漁業について触れ ておくことで、FFAがカツオ・マグロ資源の持 続的な利用に力を入れている理由がわかると思い ます。 赤道を挟む北緯20度から南緯20度の水域は、カ ツオ・マグロ類では、キハダマグロ、メバチマグ ロ、ビンナガ、そしてカツオが主に分布し、これ ら 4 種類は大変重要な資源です。カツオ・マグロ といっても、分類上はサバ科に属する、サバの兄 弟です。地域漁業機関では、熱帯の暖かい水域に 多く生息し、漁獲も多いキハダマグロ、メバチマ グロ、カツオは「熱帯性マグロ」と呼んでいます。 ビンナガは、少し北側や南側の熱帯水域より少し 水温の低い温帯水域に生息するため、「温帯性マ グロ」と呼ばれています。 カツオは、まるのままで見かけることがあるか も知れませんが、その他の 3 種類のマグロは、寿 司屋やスーパーで刺身用のさくを見ることはあっ ても、まるのままを見るのは稀かと思います。ま ず 4 種の大きさを比べてみました(図 2 )。この 4 種のなかで、最も大きいのはメバチマグロ、次 いでキハダマグロ、そしてビンナガ、カツオの順 となります。日本近海で漁獲の多いクロマグロは、 メバチマグロよりもっと大きく、体長は 2 mをこ え、体重は300キロ近くもあります。
メバチマグロ(Bigeye tuna)は、その名のと おり、ぱっちり眼で、魚体は大きく、ずんぐり ポッチャリしています。肉は赤く、関東以北で一 般に好まれています。大型のメバチマグロは、刺 身商材で、これを好むのは日本人のみといっても 言い過ぎではないでしょう。 キハダマグロ(Yellowfin tuna)は、ピンと 張った背鰭や尻鰭が黄色く、肉はピンク色をし、 名古屋より西の地域で好まれています。メバチマ グロに比べ、一段小型です。刺身の商材として、 また缶詰の原料として、世界的にはメバチマグロ よりも多くの需要があります。 ビンナガ(Albacore)は、メバチマグロやキ ハダマグロに比べ、ずっと小型のマグロです。胸 鰭が長いのが特徴です。多説ありますが、日本髪 を結った鬢のほつれを思わせるところから、この ような名前がついたということです。肉質は、 白っぽく、やわらかく、薄ピンク色をして、一般 的には生食では好まれていませんが、トロの部分 は寿司ネタの「ビントロ」として人気があるよう です。ビンナガは刺身や寿司ネタより、ツナ缶詰 の原料として、缶詰工場からの需要が高く、世界 の缶詰工場といわれるバンコクへも日本から輸出 されています。 カツオ(Skipjack tuna)は、もっとも小型で、 皆さんご存知のように、日本近海でも多く漁獲さ れ、我が国では、タタキで食され、またカツオ節 の原料としても大きな需要があります。世界的に は、カツオは缶詰の原料が主なもので、大量に取 引されています。 次に、カツオ・マグロの統計を見ながら、この 中西部太平洋のカツオ・マグロの重要性を見てみ ましょう。図 3 に世界の主要なカツオ・マグロ漁 業管理機関の大まかな水域を示しました。太平洋 では、FFAが属するWCPFCと全米熱帯まぐろ類 委員会(Inter-American Tropical Tuna Commission: IATTC)の 2 機関があります。インド洋では、イ ンド洋まぐろ類委員会(Indian Ocean Tuna Commission:
IOTC)、大西洋では大西洋まぐろ類保存国際委員 会(International Commission for the Conservation of Atlantic Tunas:ICCAT)がそれぞれの海域のまぐろ 管理機関となっています。この他にミナミマグロ 資源の保存管理及び最適利用を目的とするみなみ まぐろ保存委員会(Commission for the Conservation of Southern Bluefin Tuna:CCSBT)があります。
図2. 太平洋諸国での主要なカツオ・マグロ類の大 きさ比べ (出典:マグロのFAOの図と情報 Fish Base)
図3. 主要な地域マグロ管理機関
(http://www.freemap.jp/item/world/world1.htmlの 白 地 図を加工して作成)
CCSBTを除く 4 つの委員会管轄海域ごとの 4 種(カツオ、キハダマグロ、メバチマグロ、ビン ナガ)の合計漁獲量の割合を比較したのが図 4 で す。WCPFC管轄海域における 4 種類の合計漁獲 量がとび抜けて多いのがわかるかと思います。⇗ WCPFC海域における2011年から2015年の 4 種 類の年間平均漁獲量は約264万トンで、大西洋、 インド洋、東太平洋を含む全海域の半分以上の漁 獲量を占めています。 図 5 は、1960年から2015年までのカツオ、キハ ダマグロ、メバチマグロ、ビンナガの 4 種の漁獲 量の年変化を示しています。漁獲量が多いのはカ ツオ、そしてキハダマグロと続き、そしてメバチ マグロやビンナガと続きます。1980年代半ばより、 カツオの漁獲量が急激に増えていることが見て取 れるかと思います。このカツオの漁獲量の増加は、 後で述べるまき網という漁具を使った漁業の参入 によります。 図4. 各委員会管轄海域のマグロ類4種合計の平均漁 獲量(2011~2015年)の比較 これらの 4 種類のマグロは、手釣りや曳縄など もありますが、まき網(Purse seine)やはえ縄 (Longline)、それに一本釣り(Pole and line)が 主要な漁法となっています。図 6 でまき網、図 7 ではえ縄の操業の概略図を示しました。まき網は、 流木についたカツオや大型・小型のマグロの群れ を一気に巻き獲る漁法で、積極的にカツオ・マグ ロを漁獲していく漁法です。 1 回の操業で、通常 30トンから40トンの水揚げがあり、 1 日に 2 ~ 3 回操業します。(最高値300トンくらいの時もあ り。)まき網で漁獲された魚は、主に缶詰の原料 として取引されています。 はえ縄は、幹縄に針のついた枝縄をぶら下げ、 大型のマグロを漁獲する方法で、 1 回の操業で 3000本もの釣り針を流します。その釣り針 1 本ず つ揚げていくはえ縄で漁獲されるマグロは本当に 貴重なものです。 図5. WCPFC推計におけるマグロ類の漁獲量。 (出典:2016年12月WCPFC年次総会資料https://www.wcpfc.int/node/27769)。
図6. まき網漁法(出典:農林水産省漁業センサス) 図7. 遠洋まぐろはえ縄漁法 (出典:日本かつお・まぐろ漁業協同組合ホームページ http://www.japantuna.net/dic_02) 一本釣りは、図 8 のように、主にカツオ、小型 のキハダマグロやビンナガの群れを見つけ、活餌 をまき、散水をしながら群れを引きつけ、竿つり で一匹、一匹釣り上げる漁法です。 図8. 遠洋かつお一本釣り漁法 (出典:日本かつお・まぐろ漁業協同組合) このような漁法ごとに、カツオ・マグロがどの くらい獲れているのか見てみましょう。図 9 に 2016年12月のWCPFC年次総会資料から、1960年 から2015年の年別の漁具別の漁獲量を示しました。 はえ縄や一本釣りは古くからあります。漁獲量は そんなに多くなく、メバチマグロやビンナガが主 な漁獲対象魚種でした。1980年代半ばから、様相 は変わり、新しく参入してきたまき網による漁業 が盛んになってきました。その影響で、前に書き ましたが、カツオの漁獲量が飛躍的に伸び、効率 の良いまき網漁業が今ではカツオ・マグロ漁業の 主流となっています。この水域で漁獲量の大半は まき網漁船で漁獲され、このような傾向は大西洋、 インド洋でも同じです。 図9. WCPFC海域における漁法別の漁獲量 (出典:2016年12月WCPFC年次総会資料(https://www.wcpfc.int/node/27769))
図 4 にありますように、この中西部太平洋の水 域で、近年の 5 年間、平均して264万トンが漁獲 されています。図10はFFA加盟国のEEZ内での 漁獲量を示しています。キリバスやパプアニュー ギニア(PNG)水域は、年間平均50万トン前後 漁獲する良い漁場です。FFA加盟国のEEZ内全 体漁獲量は157万トンを越え、中西部太平洋全体 の60%弱が漁獲されるカツオ・マグロ漁業の重要 な地域であることがよく理解できるかと思います。 また、域内のEEZで漁獲される157万トンのうち 146万トン、約93%は、まき網による漁獲です。 この水域におけるまき網漁業が、いかに重要な漁 業であるかわかるかと思います。また、地域の開 発として缶詰産業にかける期待は大きいものがあ ります。 ‐ 100 200 300 400 500 600 漁獲量 (x1000t) 国名 各国のEEZ内の2011‐2015年の平均漁獲量 図10. FFA加盟国EEZ内でのマグロ類の平均漁獲量 (2011-2015年) 緑はPNA加盟国 このようにFFA加盟国の水域はカツオ・マグ ロ資源が豊富で、我が国をはじめ米国、台湾や韓 国などの遠洋漁業国がこの地域で漁業をしたいと いうことがよく理解できるかと思います。優良漁 場を有する国を加盟国にもつFFAに話を戻し、 FFAの組織や役割などを見ていきましょう。 FFAの組織・役割 FFAの本部は、ソロモン諸島のガダルカナル 島北西部の首都ホニアラにあります。ガダルカナ ル島は、太平洋戦争の激戦地であったことはご存 知かと思います。 本部は、ホニアラ市中央の高台にあり、ここか らの夜景は、10万ドルくらいのものでしょうか。 主要な建物は、本部事務所である本館(図11)と 国際会議も開催できる会議場(図12)です。この 会議場の一部は、衛星を使って漁船の動きを逐一 観察できるモニタリングセンターとなっています。 この施設には、許可なく入室できません。図13 は、昨年2016年 4 月、FFAに於いて日本・FFA 協議会が開催された折、センターを見学させても らった時のものです。大きなスクリーン内の地図 の上に船の航跡が映し出され、船の詳細な情報も 示すことができるというものです。このモニタリ ングシステムにはニュージーランド、豪州、フラ ンス、そして米国の軍が協力しており、漁船の監 視だけではない、秘密基地の臭いを感じます。 図11. FFA本部事務所 図12. FFA会議場 図13. モニタリングセンター内 (2016年4月、水産庁・業界ミッションのFFA訪問時) FFAでは、マグロ類を中心にした沖合資源の 持続的な保存と利用に関わる加盟国の社会的・経 済的な利益確保を目指し、政策面での助言や地域 の人的能力向上を目標としています。一方、資源
調査等の科学的な面と沿岸資源管理については、 太平洋共同体事務局 (Secretary of the Pacific Community: SPC)に依存しています。 ⇗ FFA本部の組織は、長官、副長官の下に漁業開 発部門、漁業管理部門、漁業運営部門、財務・庶 務部門の 4 部門がそれぞれの役目を果たしていま す(図14)。加盟国の職員80-90名が働いています。 2008年頃に赴任してきたサモアの職員は、2008 年当時は40名程度の職員数だったと言っています。 こ の10年 で 職 員 が80名 以 上 に 増 加 し た の は、 FFAという組織が年々重要な役目を果たすよう になってきている証拠と言えるでしょう。 FFAの設立協定では、FFA全体の決議機関は、 FFC(Forum Fisheries Committee)と呼ばれる 総会となっており、例年 5 月に、加盟国の持ち回 りで定例総会が開催されています。 FFAの会計年度は、 7 月から翌年 6 月となっ ています。予算規模は、平均して1700万米ドルで、 2014/2015年度については、1900万米ドル弱と予 算が突出していました(図15)。予算の一部は、 17カ国の加盟国からの分担金で賄われています。 全分担金は図16のように、2011/2012年度の150万 米ドルから、毎年約 3 %前後の増加率で増加し、 2015/2016年度では169万米ドルとなっています。 分担金の70%以上は豪州とニュージーランドが負 担し、残りの15カ国は1.2%から2.5%の負担割合 となっています。 予算のうち関係国や国際機関等からの寄付金や プロジェクト協力金は、FFA予算の中で大きな 割合を占めています。毎年1000万米ドルを越え、 年によって異なりますが、全体の予算の60%から 70%を占めています。図17は、国別の協力金の拠 出割合を示しています。FFAの盟主である豪州 とニュージーランドの合計は、60%から70%と大 きな割合を占めています。日本がそれに続き約 10%となっています。この協力金は、財団による 「プロモーションファンド」と呼ばれるもので、 これについては、私の前任者である中田雅夫専門 家が寄稿した本機関誌53号(2010年)に詳しく説 明してあります。 図14.FFA本部組織図 図15.財政年度別予算の推移