論文 内 容の 要旨
妊 娠 の 成 立 に は 、 適 切 な 胞 胚 の 発 達 と 子 宮 内 膜 の 成 熟 に よ る 胞 胚 受 容 能 の 獲 得 が 不 可 欠 で あ る 。 着 床 を 可 能 に す る 子 宮 の 胞 胚 受 容 能 の 獲 得 に は 、 子 宮 内 膜 間 質 細 胞 (ESC) の脱落 膜化 と内 膜腺の 成熟 が必 要で あ り、ESCの脱 落膜 化は 月経周 期の 分泌 期 や 妊 娠 時 に 卵 巣 ス テ ロ イ ド に よ るcAMPの上 昇、そ れに 伴う プロ テ インキ ナー ゼA (PKA) の活性 化に より 誘導さ れる 。こ の過 程 におい てESCは、線維 芽細胞 様の 形態 か ら 敷 石 状 の 脱 落 膜 細 胞 へ と 形 態 変 化 し 、 そ の 細 胞 で は 、 プ ロ ラ ク チ ン (PRL) やIGF 結 合 タ ン パ ク 質 (IGFBP) 1 の産 生が 亢進 す る。一 方、内 膜腺 では 、妊娠 に必 須と考 え ら れ て い る 白 血 病 抑 制 因 子 (LIF) の 発現 や シクロ オキ シゲ ナー ゼ (COX) 2 を介した PGE2産 生 が 、 分 泌 期 に お け る 腺 の 成 熟 に 伴 い 亢 進 す る 。 こ れ ら の 発 現 もcAMP/PKA シ グ ナ ル の 活 性 化 に よ り 誘 起 さ れ る 。PKA とは 異な る cAMP シグナル 仲介因 子と して知 られ る Exchange protein directly activated by cAMP (Epac) は、グ ア ニンヌ クレ オチ ド交 換 因子で 、低 分子 量 GTP 結合タン パク 質 の Rap1 を活性 化す る ことで シグ ナル を伝 達 する。 現在 、Epac に は 2 つの サブ タイ プ (Epac1、Epac2) が 存 在する 。以 前、申請 者 らは、ヒト 胎盤 栄 養 膜 細 胞 株 に お い て 、Epac が絨毛 性ゴナ ド トロピ ンや プロ ゲス テ ロンの 産生 と合 胞 体 化 を 促 進 す る こ と を 報 告 し て い る (Hum Reprod 25, 2229-2238, 2010)。母体 (子 宮 内 膜) 側の 胎盤 とも い うべき 脱落 膜の 形成 や 腺の成 熟に おい て、既 に cAMP/PKA シグ ナ ル が 重 要 で あ る こ と が 知 ら れ て い る が 、子 宮 内 膜 機 能 に お け る Epac を介 し た cAMP シ グ ナ ル の 役 割 は 不 明 で あ る 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、 妊 娠 の 成 立 に 向 け た 子 宮 内 膜 間 質 細 胞 の 脱 落 膜 化 と 内 膜 腺 の 成 熟 過 程 に お け る cAMP/Epac シグ ナ ルの役 割に つい て 解 析 し た 。 第 1 章 ヒト 子 宮内 膜 間質 細胞 の脱 落膜 化 に おけ るEpacの関与 氏 名 ( 本 籍 ) 草間く さ ま 和 哉か ず や( 埼 玉 県 ) 学 位 の 種 類 博 士( 薬学) 学 位 記 番 号 博第265号 学位授与の日付 平成 26 年 3 月 20 日 学位授与の要件 学位 規則第 4 条 第 1 項該当 学 位 論 文 題 目 妊 娠 成 立 に 向 け た 子 宮 内 膜 間 質 細 胞 の 脱 落 膜 化 と 腺 の 成 熟 過 程 におけ る Exchange protein directly activated by cAMP(Epac)の役割
論 文 審 査 委 員
(主 査) 教授 立川 英 一
教授 田 野 中 浩 一 教授 馬場 広子
第 1 章では 、ヒトESCの脱落 膜化 にお けるEpacの関 与に つい て検 討 した 。増 殖期 と 分 泌 期 の ヒ ト 子 宮 内 膜 組 織 に お い て 、Epac1 とEpac2 は、間 質、腺 上皮、管腔 上皮 細 胞 に 発 現 し て い た 。 初 代 培 養ESCを 用い た 検 討に お いて 、Epac選択 的cAMPアナ ログ (CPT) の 単 独 処 置 は 脱 落 膜 マ ー カ ー (PRL、IGFBP1)と cAMPシ グ ナ ル の 活 性 化 に よ り 発 現 が 亢 進 す るFOXO1 のmRNA発現 に影 響しな かっ たが 、CPTはPKA選択的cAMP ア ナ ロ グ (Phe) ま た は 卵 巣 ス テ ロ イ ド (プ ロ ゲ ス テ ロ ン : P4, エ ス ト ラ ジ オ ー ル :
E2) の 処 置 に よ り 誘 導 さ れ るPRLやIGFBP1 のmRNA 発 現 を 相 乗 的 に 増 加 さ せ た
(Fig. 1)。Epac1、Epac2 またはRap1 の発 現 をsiRNAでノ ックダ ウ ンする と、cAMP ア ナ ロ グ や 卵 巣 ス テ ロ イ ド に よ るPRLとIGFBP1 のmRNA発現上 昇 が有意 に抑 制さ れ た 。 ま た 、Epac2 ノッ クダ ウ ン はFOXO1 mRNA発 現 も 抑 制 し た 。 さ ら にESCの 脱 落 膜 化 に 伴 う 形 態 を 調 べ た 結 果 、 卵 巣 ス テ ロ イ ド 処 置 は 、 線 維 芽 細 胞 様 の 形 態 か ら 敷 石 状 の 脱 落 膜 細 胞 様 の 形 態 へ と 変 化 さ せ 、CPT と 卵 巣 ス テ ロ イ ド の 共 処 置 は こ の 形 態 変 化 を さ ら に 促 進 さ せ た 。Epac1、 Epac2 ま た はRap1 のノッ ク ダウン は、 この 形態 変 化を阻 害し た。
ESC にお ける Rap1 の活性化 を調 べた とこ ろ 、未 分化の ESC に CPT を処置し ても Rap1 は活性 化さ れな かった が、Phe を前処 置し た ESC では CPT 処置によ り Rap1 が 活 性 化 さ れ 、 こ の 活 性 化 は Epac1 または Epac2 ノック ダウ ンに より抑 制さ れた 。 一 方 、Phe 処 置 は PKA シ グ ナ ル の 下 流 因 子 cAMP responsive element binding protein (CREB)を活性 化させ たが 、CPT はこ れに影 響し なか った 。また 、Phe によ る CREB の活性化 は Epac1、Epac2 また は Rap1 のノック ダウ ンに よ っても 影響 され な か っ た 。 そ こ で 、Epac シグナ ルに よる PRL の転写 活性 機構 を明 ら かにす るた め転 写 因 子 CCAAT/enhancer binding protein (C/EBP) βに着目して レポ ーター アッ セイ で 解 析 し た 。Phe と CPT との共処置 で上 昇す る PRL 転写活 性の 上 昇が、C/EBPβの結 合 配 列 の 変 異 で 消 失 し た 。 以 上 の 結 果 は 、 ヒ ト ESC におい て、Epac/Rap1 シグナ ル が CREB ではな く、 一部 C/EBPβを介し て PKA シグ ナル と協 調 して脱 落膜 化を 促進 す る こ と を 示 し て い る 。
第 2 章 ヒトESCの脱 落膜 化に 対す る新 規Epac2 下流因子 の 同定 と その 機能
第 2 章では、Epac2 の新規下 流因 子を 同定 し 、この因 子の 脱落 膜化 への関 与に つい て 解 析 し た 。Epac2 ノ ックダ ウン によ り発 現 が減少 する 因子 として calreticulin (CRT) を プ ロ テ オ ー ム 解 析 に よ り 同 定 し た (Fig. 2A)。な お、CRT の発 現は Epac1 や Rap1
ノ ッ ク ダ ウ ン で は 影 響 を 受 け な か っ た 。Phe または CPT を処置 し ても CRT 発現 量は 変 化 し な か っ た 。CRT ノック ダウ ンは Phe、卵巣 ステ ロイ ドま た は CPT との共処 置 に よ る 脱 落 膜 マ ー カ ー (PRLと IGFBP1) の mRNA 発現 を抑 制し た (Fig. 2B, C)。さ ら に 、 卵 巣 ス テ ロ イ ド ま た は CPT との共 処 置によ る脱 落膜 細胞 へ の形態 変化 を CRT ノ ッ ク ダ ウ ン は 阻 害 し た 。 ま た 、Epac2 や CRT のノ ッ ク ダ ウ ン に よ り SA-β-Gal 活性と p21 発現 の 増 加 、p53 発現の 減 少を 指 標 と し た 細 胞 老 化 が 誘 起 さ れ た 。 以 上 の 結 果 は 、 ヒ ト ESC の機 能的か つ 形態 的 な 脱 落 膜 細 胞 へ の 分 化 に は Epac2 を介 した CRT 発 現 が 必 須 で あ る こ と 、ま た 、 Epac2 と CRT が ESC の老化 に関 与す るこ と を示し てい る。 第 3 章 早期 妊 娠ラ ッ トの 子宮 内に おけ るEpacの発現 と役 割 第 3 章では 、着 床周 辺 期のラ ット の妊 娠子 宮 におけ るEpac及びそ の 関連因 子の 発現 と 役 割 に つ い て 検 討 し た 。Epac1、Epac2、 Rap1 並びにCRTは妊 娠 3、5 日目で は管 腔 、 腺 上 皮 細 胞 に 局 在 し 、 着 床 後 の 妊 娠 7、 9 日目では 脱落 膜細 胞 で強い 発現 がみ ら れ た 。 着 床 遅 延 モ デ ル ラ ッ ト を 用 い た 検 討 で は 、 妊 娠 4 日 目に 卵巣 切除 (OVX) した 群 とOVX群にP4を 投 与 し た 群 と 比 べ て 、P4とE2の 投 与 に よ り 着 床 を 誘 起 し た 群 で は 、 脱 落 膜 細 胞 でEpac1、Epac2、Rap1 並びにCRTの発現が 上昇 した 。また 、OVXした非 妊 娠 ラ ッ ト にP4とE2を そ れ ぞ れ 単 独 ま た は 共 処 置 し て も 、Epac1、Epac2、Rap1 及 びCRT発現 は変化 しな かった 。この こと から 、Epac1、Epac2、Rap1 並びにCRT発現 は 卵 巣 ス テ ロ イ ド に よ る 直 接 的 な 調 節 で は な く 、 着 床 に よ り 起 こ る 脱 落 膜 化 の 際 に 上 昇 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。 さ ら に 、 偽 妊 娠 子 宮 に ゴ マ 油 を 注 入 し 、 人 為 的 に 脱 落 膜 化 を 誘 起 し た モ デ ル に お い て 、 脱 落 膜 細 胞 でEpac1、Epac2、Rap1 並 び にCRT の 発 現 が み ら れ た 。 ま た 、 妊 娠 子 宮 の 脱 落 膜 化 部 位 に お い て
cAMP/PKAシグナ ルの 活性化 を示 唆す るCREBの強いリン 酸化 が観 察され た。さらに 、 培 養ESCに お い て 、 ラ ッ ト の 脱 落 膜 マ ー カ ー (PRLとDTPRP)のmRNA発 現 は 、 CPT 処 置 で 変 化 し な か っ た も の の 、Phe処置 で上 昇した 。Epac1、Epac2、Rap1 及びCRT の ノ ッ ク ダ ウ ン は 、 メ ド ロ キ シ プ ロ ゲ ス テ ロ ン (MPA) とcAMPアナ ログ (db-cAMP) 共 処 置 に よ るPRLとDTPRP mRNAの発 現を 有意に 抑制 した (Fig. 3)。以上 の結 果は 、 Epac1、Epac2、Rap1 並びにCRTはラッ トに おける 脱落 膜化 に関 与 してい るこ とを 示 し て い る 。
第 4 章 ヒト 子 宮内 膜 腺の 成熟 にお けるEpac2/CRTの役割
第 4 章では 、前 章ま で の脱落 膜化 過程 に加 え て、子 宮内 膜腺 の成 熟 におけ るEpac2 とCRTの役 割をヒ ト内 膜腺細 胞株(EM1) を 用いて 解析 した 。ESCと同様 、EM1 にお い て もEpac2 ノック ダ ウンはCRT発現を 減少 させた 。これ は、内膜 腺にお けるCRT発 現 がEpac2 によ り調 節 されて いる こと を示 し ている。Epac2 とCRTの腺機 能へ の関 与 を 調 べ る た め 、 着 床 関 連 因 子 で あ るLIF並び にCOX2 の発 現とPGE2の 産 生 を 調 べ た 。
LIFとCOX2 mRNAの発現及 びPGE2分 泌 はPhe処置で上 昇し 、CPT処置では 影響 しな
か っ た 。Forskolinま た は Phe処 置 に よ るLIFとCOX2 mRNAの 発 現 並 び に PGE2分 泌
の 増 加 は 、Epac2 また はCRTノッ ク ダ ウ ン に よ り 抑 制 さ れ た (Fig. 4A-C)。さ らに 、Epac2 またはCRT を ノ ッ ク ダ ウ ン し たEM1 で は 、 SA-β-Gal活 性 と p21 発 現 の 増 加 、 p53 発現 の減少 を伴 う 細胞老 化が 誘 起 さ れ た 。 以 上 の 結 果 は 、 ヒ ト 内 膜 腺 細 胞 に お け る 着 床 関 連 因 子 の 産 生 調 節 と 細 胞 老 化 にEpac2 を 介 し たCRT 発 現 が 重 要 で あ る こ と を 示 し て い る 。 総 括 本 研 究 よ り 、 増 殖 期 と 分 泌 期 の ヒ ト 子 宮 内 膜 組 織 に お い て 、 間 質 と 腺 上 皮 細 胞 に Epac が発現 してい る ことを 明ら かに した 。 ヒト ESC におい て、Epac シグナル の活 性 化 や Epac とその 下 流因子 の発 現抑 制が 機 能的か つ形 態的 な脱 落 膜化に 影響 を与 え る こ と か ら 、Epac は 脱落膜 化と 密接 に関 連 してい るこ とを 見出 し た。ま た、 着床 後 の ラ ッ ト 子 宮 の 脱 落 膜 細 胞 で Epac とその 下 流因子 の発 現が 上昇 し 、その 発現 抑制 は 脱 落 膜 化 を 阻 害 し た こ と か ら 、 脱 落 膜 の 形 成 機 構 に Epac シグナ ル は必須 であ るこ と も 示 し た 。 さ ら に 、 腺 上 皮 細 胞 に お け る 着 床 関 連 因 子 の 発 現 が Epac2 また は CRT の ノ ッ ク ダ ウ ン に よ り 抑 制 さ れ た こ と か ら 、 腺 細 胞 の 成 熟 に も Epac2 を介した CRT 発 現 が 重 要 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。さ ら に 、Epac2 や CRT のノ ックダ ウン は間 質、 腺 上 皮 細 胞 の 老 化 を 促 進 し た こ と か ら 、 こ れ ら は 妊 娠 に 向 け た ヒ ト 子 宮 内 膜 の 成 熟 機
構 の 調 節 と 維 持 に 重 要 な 因 子 で あ る と 考 え ら れ る (Fig. 5)。以上 、 申 請 者 は 妊 娠 成 立 の 新 し い 分 子 機 構 と し て Epac の意 義 を明ら かに し た 。 こ れ ら 知 見 は 不 妊 症 の メ カ ニ ズ ム の 解 明 に 繋 が る 可 能 性 が あ り 、 生 殖 補 助 医 療 へ の 応 用 が 期 待 さ れ る 。 研 究 結 果 の 掲 載 誌 ①Placenta 34, 212-221 (2013) ② Endocrinology 155, 240-248 (2014)
論文 審 査の 結果 の要 旨
妊 娠 の 成 立 に は 、 適 切 な 胞 胚 の 発 達 と 子 宮 内 膜 の 成 熟 に よ る 胞 胚 受 容 能 の 獲 得 が 不 可 欠 で あ る 。 こ の 胞 胚 受 容 能 の 獲 得 に は 、 子 宮 内 膜 間 質 細 胞 (ESC) の 脱落 膜化 と内 膜 腺 の 成 熟 化 が 必 須 で あ り 、cAMP‐プ ロテ インキ ナー ゼ A(PKA)シグ ナル 伝達 経 路 が こ れ ら の 過 程 で 中 心 的 な 役 割 を 担 っ て い る 。本 研 究 で は 、も う 1 つ の cAMP シグ ナ ル 伝 達 因 子 の Exchange protein directly activated by cAMP (Epac)と Epac シ グナ ル 伝 達 系 の 下 流 因 子 の 子 宮 内 膜 間 質 細 胞 の 脱 落 膜 化 と 内 膜 腺 の 成 熟 過 程 に お け る 役 割 に つ い て 解 析 し た 。 論 文 は 4 章よ り構 成さ れ ている 。
第 1 章で は、 ヒト子 宮 内膜組 織に おけ る Epac サブタ イプ (Epac1 と Epac2)の発 現 部 位 を 明 ら か に し 、 ヒ ト ESC の脱落 膜化 におけ る Epac の関 与 につい て検 討し た。 初 代 培 養 ESC を用い た検討 にお いて 、Epac 選択 的 cAMP アナログ (CPT) の処 置が、 PKA 選択 的 cAMP アナログ (Phe) ま たは 卵巣ス テロ イド の処 置 により 誘導 され るプ ロ ラ ク チ ン(PRL)や イ ン ス リ ン 様 成 長 因 子 結 合 タ ン パ ク 質 1(IGFBP1)の 発 現 を 相 乗 的 に 増 加 さ せ た 。Epac1、Epac2 または Epac シグ ナル 伝達 因子 Rap1 の発 現を ノッ ク ダ ウ ン す る と 、 こ の PRL と IGFBP1 の 発 現 上 昇 が 抑 制 さ れ た 。 ま た 、CPT は卵巣 ス テ ロ イ ド 処 置 に よ る 脱 落 膜 細 胞 へ の 形 態 変 化 を 促 進 し 、 こ の 形 態 変 化 は Epac1、 Epac2 また は Rap1 の ノック ダウ ンに より 阻 害され た。以上 の結 果 はヒト ESC におい て 、Epac/Rap1 シグナ ルが PKA シグ ナル と 協調し て脱 落膜 化を 促 進する こと を示 し て い る 。 第 2 章で は、ESC に おける Epac2 の新規 下流因 子を 探索 し、 脱 落膜化 への 関与 に つ い て 解 析 し た 。Epac2 ノックダ ウン によ り 発現が 減少 する 因子 と して calreticulin (CRT) を 同定し た。CRT の発現 をノ ック ダ ウンす ると 脱落 膜化 誘 導刺激 によ る PRL と IGFBP1 発 現 と 形 態 的 分 化 が 抑 制 さ れ た 。 ま た 、Epac2 や CRT のノッ クダ ウン は 細 胞 老 化 の 指 標 で あ るSenescence-associated β-galactosidase 活性 と p21 発現 の増 加、 p53 発現 の減 少を 招い た。以上 の結 果は ヒト ESC の機 能的 かつ 形態 的な脱 落膜 細胞 へ の 分 化 に は Epac2 を介した CRT 発現が 必 須であ るこ と 、ま た、Epac2 と CRT が ESC の 老 化 に 関 与 す る こ と を 示 し て い る 。 第 3 章で は、 着床 周辺 期のラ ット の妊 娠子 宮 における Epac 関連因 子の発 現調 節と 役 割 に つ い て 検 討 し た 。Epac1、Epac2、Rap1 並びに CRT は着床 後の脱 落膜 細胞 で 強 く 発 現 し て お り 、着 床 遅 延 モ デ ル 、人 為 的 脱 落 膜 化 誘 導 モ デ ル 等 を 用 い た 検 討 か ら 、 Epac 関 連 因 子 の 発 現 が 、 卵 巣 ス テ ロ イ ド に よ る 直 接 的 な 調 節 で は な く 、 着 床 に よ り 起 こ る 脱 落 膜 化 に 伴 い 上 昇 す る こ と を 明 ら か に し た 。 さ ら に 、 培 養 ラ ッ ト ESC にお い て 、Epac1、Epac2、Rap1 及び CRT のノ ックダ ウン は脱 落膜 化 刺激に よる PRLと
脱 落 膜/栄 養膜 PRL 関連タン パク 質(DTPRP)の 発 現 を 顕 著 に 抑 制 し た 。以 上 の 結 果 は ラ ッ ト の 脱 落 膜 化 に お け る Epac1、Epac2、Rap1 並び に CRT の 重要性 を示 して い る 。 第 4 章 では 、ヒト 内膜 腺細胞 株(EM1)を用 い 、腺の 成熟 にお けるEpac2 とCRTの役 割 を 解 析 し た 。EM1 で も Epac2 の ノ ッ ク ダ ウ ン に よ り CRTの 発 現 量 が 減 少 し た 。 Epac2 また はCRTのノックダ ウン は、 着床 関 連因子 であ る白 血病 抑 制因子 (LIF) 並 び に シ ク ロ オ キ シ ゲ ナ ー ゼ 2(COX2) の 発 現 と プ ロ ス タ グ ラ ン ジ ンE2の 産 生 を 低 下
さ せ た 。さ ら に 、Epac2 またはCRTをノック ダウン したEM1 では、ESCと同 様に 細胞 老 化 が 誘 起 さ れ た 。 以 上 の 結 果 は ヒ ト 内 膜 腺 細 胞 に お け る 着 床 関 連 因 子 の 産 生 調 節 と 細 胞 老 化 にEpac2 を介 したCRT発現が重 要で あるこ とを 示し てい る 。 こ の よ う に 本 論 文 で は 、Epac1 と Epac2 を 介した シグ ナル 伝達 が ヒト及 びラ ット 子 宮 内 膜 間 質 細 胞 の 脱 落 膜 化 と 密 接 に 関 連 し て い る こ と 、 ヒ ト 内 膜 腺 上 皮 細 胞 の 成 熟 に 伴 う 着 床 関 連 因 子 の 産 生 にEpac2 を介 した CRT 発現が 重要 であ る こと 、Epac2 と CRT は 内 膜 間 質 細 胞 と 腺 上 皮 細 胞 の 老 化 に も 影 響 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。 以 上 、 本 研 究 は Epac が子宮 内膜 間質 細胞 の 脱落膜 化と 腺の 成熟 に 重要な 因子 であ る こ と を 見 出 し 、 妊 娠 成 立 機 構 に お け る Epac の生理 的役割 を初 め て明ら かに した も の で 、 博 士 ( 薬 学 ) の 学 位 に 十 分 に 値 す る と 判 断 す る 。